プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 飯田隆『クリプキ―ことばは意味をもてるか』―「まずは神と人間の完全性を想定し、そこから徐々に離れる」という思考法(1/2)
Prev:
prev 「非正規雇用労働者のキャリアアップを考える~人事戦略としての正社員転換と人材育成」に参加してきた
2016年02月15日

千野境子『日本はASEANとどう付き合うか―米中攻防時代の新戦略』―日本はASEANの「ちゃんぽん戦略」に学ぶことができる


日本はASEANとどう付き合うか: 米中攻防時代の新戦略日本はASEANとどう付き合うか: 米中攻防時代の新戦略
千野 境子

草思社 2015-09-17

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟する10カ国が域内の貿易自由化や市場統合などを通じて成長加速を目指す広域経済連携の枠組み「ASEAN経済共同体(AEC)」が31日、発足する。域内人口は欧州連合(EU)を上回る計6億2000万人で、域内総生産が2兆5000億ドル(約300兆円)に達する巨大な経済圏が本格始動する。
(日本経済新聞「ASEAN経済共同体、31日発足 域内総生産300兆円」2015年12月30日)
 2015年12月31日、ASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)が発足した。引用文にある通り、人口6億人超のASEANを単一市場・単一生産地と見なして、人・モノ・カネ・サービスの自由化を目指すものである。そういう意味では、広域FTA/EPAのようなものと考えてよいだろう。ただ、AECが発足したと言っても、10か国の首脳による発足式のようなイベントがあったわけではなく、実にひっそりとした船出であった。

 実際のところ、ASEANはAECの発足に先立ち、1993年からAFTAによって域内関税の引き下げを行ってきた。2010年1月には、先行6か国で関税が全撤廃された。新規加盟4か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)でも全品目の98.96%の関税が5%以下となった。2015年1月1日時点で、全加盟国の関税撤廃割合は95.99%である。日本が諸外国と締結するFTA/EPAでは、関税撤廃率が80~90%台にすぎないことから、AFTAの水準がいかに高いかが解る。

 新規加盟4か国は、品目の7%までは2018年1月1日まで撤廃が猶予される。AEC発足後の2016年1月1日以降、新規加盟4か国の7%の品目について、段階的に関税が引き下げられる見込みである(例えば、ベトナムが猶予されているのは、鉄鋼、紙、医療用織布、自動車および二輪車、自動車および二輪車部品、設備機械、建設資材などである)。だから、AECが発足したからと言って、ASEAN諸国の関税が劇的に下がるわけではない。

 それよりも、AECが力を入れていたのは、人・カネ・サービスの自由化であった。ところが、人に関しては、熟練労働者の移動の自由化でさえ、技術者に限定されている。また、金融機関の相互進出や小売・サービス業への外資出資規制の緩和については、ほとんど話が進んでいない。金融機関はその国の経済を動かす重要なインフラである。ASEANでは未だに個人商店レベルの小売・サービス業が多く、雇用を下支えしている。つまり、金融機関や小売・サービス業に外資が参入すれば、その国の経済・雇用を脅かす危険性があり、各国とも簡単には容認できないのである(日本でさえ、長らく外資参入が厳しく規制されていたことを思い出す必要がある)。

 元々AECは、2003年の時点で、2020年までに設立することで合意されていた。2006年には、AECの実現を5年前倒しすることが決まった。本来は、2015年1月1日にAECが発足するはずだったのだが、前述のように人・カネ・サービスの自由化が思うように進まず、AECの発足が危ぶまれる状況であった。とはいえ、一度「2015年に設立する」と宣言してしまった手前、それを延期するわけにはいかないから、苦肉の策で2015年12月31日に設立することにしたと聞いている。

 冒頭の引用文にあるように、ASEANは人口が6億人超で、EUの5億人を上回る。ASEANとEUは地理的範囲も似ている。ASEANは東西約5,300km、南北約4,600kmの範囲に10か国が存在する。一方のEUは、東西約4,500㎞、南北約5,300kmの範囲に28か国が存在する。だが、経済規模を比較すると、EUの名目GDPは18兆ドルを超えるのに対し、ASEANは2兆5,000億ドルと日本よりも小さい。ASEANは小国同士が手を取り合って何とか大国に対抗できるようにと形成されたのだが、連携してもなお小国にとどまるという事実は動かせないようだ。

 ただ、ASEANはその点を非常によく自覚していると思う。小国の戦略については、以前の記事「ジョセフ・S・ナイ『アメリカの世紀は終わらない』―二項対立から二項混合へすり寄る米中?」などでも書いたが、世界レベルで対立する大国を眺めながら、どちらか一方に深く取り入るのではなく、双方のいいところ取りをちゃんぽんにしてのらりくらりと振る舞うことである。対立する大国とその間に挟まれた小国の関係は、ちょうど親子に例えられる。子どもは、両親のどちらか一方のみを味方するわけにはいかない。そんなことをすれば、家族関係が崩壊してしまう。父親と母親の双方から血を受け継いでいる以上、どちらとの関係も重視する必要がある。

 (父親と母親の関係は、対立する大国の関係といくらか似ている部分がある。いくら結婚しているとはいえ、所詮は他人同士が結びついたにすぎない夫婦の間では、価値観の相違をめぐってしばしば対立が起きる。とはいえ、お互いに相手を完膚なきまでに叩きのめそうとは考えない。仮にそれが起きた時は、夫婦関係の完全な終了を意味する。だから、対立しつつも、裏では相手をケアすることも忘れないのである。大国が表向きは激しく対立しながら、裏では相手に賭けてリスクヘッジしている可能性については、以前の記事「『安保法制、次は核と憲法だ!/「南京」と堕ちたユネスコ・国連/家族の復権(『正論』2015年12月号)』」で書いた)。

 ベトナムとフィリピンは、南シナ海において中国と領有権争いの真っ只中にある。フィリピンは、2014年にアメリカ軍の再駐留を認めた。そして驚くべきことに、ベトナムはかつてアメリカとベトナム戦争を戦ったにもかかわらず、アメリカとの合同軍事演習を実現させている。フィリピンとベトナムがアメリカに接近したかと思いきや、中国が主導するAIIBには両国とも参加を決定している(ASEANは10か国ともAIIBに参加した)。両国とも国内のインフラ整備が課題であり、そのための資金をAIIBに期待しているものと思われる。

 マレーシアも、南沙諸島の領有権を守るためにアメリカとの協力を進めている。だが。ASEANの中で最初に中国を国家として承認した国は、実はマレーシアである。インドネシアは領有権問題で直接の利害を持たないが、ASEAN諸国が対中戦略で空中分解しそうになった時、ASEANとしての声明をまとめてASEANの面子を守ったという過去がある。だからと言って中国と対決姿勢を強めているわけではなく、高速鉄道は中国に発注した。発注手続きが不透明だと批判されても、あくまでもインドネシアは実利を優先した。

 ASEANは米中対立の狭間にありながら、対立を何となく鎮める方向へと持っていく何かを持っているようである(それが具体的にどういうメカニズムなのかよく解らないので、こんな曖昧な書き方しかできないが)。対立をしないという精神は、ASEANの発足当初からの理念である。
 ASEANがインドネシアとマレーシアの「対決政策(コンフロンタシ)」が終わった結果、生まれたこと、従ってそれは東南アジア諸国同士が二度と仲たがいしない、つまり衝突しないための仕掛けでもあること、そのことが大事であるのは東南アジア諸国が二度といかなる外国の支配も受けないためであること、さらに、ASEANは東南アジアだけでなく、アジア太平洋の繁栄と平和のために必要不可欠なものであることなどである。
 最近のASEANは、アメリカと中国だけでなく、アメリカとロシアの対立も引き込もうとしている。
 このようにASEANは悪く言えばタコ足的に、よく言えば重層的に、地域と国際情勢の変遷のなかで、機構を作り上げてきた。最初に明白な規範やゴールを設定して事を進めるEU(欧州連合)とASEAN方式の違いがよく分かる。アメリカが東アジアかと言えば、地理的概念では怪しい。しかし今やどこもそんなことは言わない。東アジアはアメリカを必要としているし、アメリカも東アジアを必要としている。アメリカが入ればロシアも黙っていない。それが21世紀のアジア太平洋の国際環境である。
 本書のタイトルは「日本はASEANとどう付き合うか」であるが、日本がASEANと上手につき合う方法は、ASEANの「ちゃんぽん戦略」を真似ることではないかと思う。日本は経済的には大国であるかもしれない。しかし、地政学的に見れば東アジアの辺境の小国である。また、今後人口が減少すれば、経済的にも小国になるかもしれない。そもそも、日本が2000年以上の歴史の中で、世界の大国になったことなど一度もないと思う。たまたま20世紀の間だけ経済が順調だったので、大国になったように錯覚してしまった。21世紀の日本は、定位置に戻るだけだと言える。

 ちゃんぽん戦略は、看板だけを見て性急に善悪を判断しない。この国は資本主義だから味方する、あの国は共産主義だから敵視する、と単純にはとらえない。どちらの国にも、自国にとって役に立ちそうな政治・経済・社会制度があると考えて、対立する双方から上手に学習する。そして、学習したパーツを自国の文化・歴史的文脈に照らし合わせて解釈し、自国にフィットした形へと変容させ、他のパーツと組み合わせる。でき上がった制度は、資本主義的とも言えないし、共産主義的とも言えないような、奇妙なものになる。だが、自国にとってはそれが最適なのだ。

 安直な発想だが、日本は明治時代にこういうちゃんぽん戦略ができていたように思える。では、現代の日本はそれができなくなってしまったのかと言えば、必ずしもそうではなさそうだ。本書を読むと、第2次世界大戦後の賠償問題について、当時の首相・岸信介がインドネシアと交渉した際には、ちゃんぽん戦略が発揮されていた。
 賠償協定と経済協力協定が調印された直後の1958年2月、スマトラ島で一部軍人を含む反政府戦力の反乱が起き、インドネシア共和国革命政府(PRRI)が樹立宣言をする。この時、親共産党に次第に傾いていくスカルノに懸念を深めていたアメリカは、イギリスとともに反政府勢力に肩入れし、スカルノ体制を外から揺さぶった。

 一方、日本はアメリカに追随せず、大使館などからの情報を基にスカルノ体制支持を打ち出した。日本は反乱軍の実態がかなり杜撰なもので、インドネシアの統一と安定はスカルノに委ねるしかないと見極めていた。インドネシアの混乱は共産党の思う壺だからである。(中略)

 岸外交の柱が「自由主義諸国との協調」、とりわけアメリカと歩調を合わせることであったのは確かだが、このように岸は東南アジア外交における基軸と考えるインドネシアでは自主外交を展開した。
 政権が親米か反米か、資本主義的か共産主義的かを表面的に判断して、親米的なら徹底的に支援し、反米的なら徹底的に叩くのがアメリカのやり方である。これは他の大国にも共通しており、かなり極端な戦略だ(現在の中東情勢を見ていると、アメリカやロシアのやり方は全く変わっていないと感じる)。一方、日本の岸は、アメリカのように自由主義を教条的に押し通すのではなく、インドネシアとの交渉を結実させるために、左傾化していたスカルノ政権を敢えて支持した。これが岸のちゃんぽん戦略である。昨年は、安保法制の議論を通じて、悪い意味で岸の名前が思い起こされた年であったが、岸の外交からは重要な示唆が得られると思う。


 《2016年2月22日追記》
 本ブログでは何度か、二項対立的に振る舞う大国に挟まれた小国は二項混合的な発想をすべきだとか、上記のようにちゃんぽん戦略を採用すべきだと書いてきた(ベトナムについては、ブログ別館の記事「福森哲也『ベトナムのことがマンガで3時間でわかる本―中国の隣にチャンスがある!』」を参照)。だが、書いた張本人がその具体像を的確にとらえられずにいる(苦笑)。

 経済に関しては、対立する大国の双方と貿易量を増やすことで、両国との関係を深化させることができる。近年増えているFTAやEPAは、第2次世界大戦前の経済同盟と類似しており、経済のブロック化を進めるリスクがあると言われる。ところが、経済同盟は排他的であったのに対し、FTA/EPAは世界中で網の目のように張りめぐらされており、特定の国が著しく不利益を受けることが少ない。そもそも、現代の関税は、20世紀前半に比べるとはるかに下がっている。

 問題は軍事関係だが、通常は一方の大国と軍事同盟を結べば、対立するもう一方の大国と軍事同盟を結ぶことは不可能である。日本が米中と同時に同盟を結ぶなど考えられない。最近、韓国は韓中同盟を模索しているようで、仮にそれが成立した場合、韓国は韓米同盟を破棄するのか、何らかの形で併存させるのかは興味深い(おそらく、韓米同盟を破棄するのだろう)。

 では、軍事関係におけるちゃんぽん戦略とは一体何なのか?日本を例に取れば、今のところ考えられるのは、日米同盟は維持する一方で、中国を含む形で安全保障の対話を促進することぐらいである(防衛省・自衛隊「より安定した安全保障環境の構築のために、防衛庁・自衛隊に期待すること」を参照)。憲法9条こそ最高なのだという教育を受けて育った私の頭は完全な軍事音痴なので、それ以上議論を前に進めることができない・・・。


 《2016年4月28日追記》
 上記のように、軍事戦略におけるちゃんぽんのことを上手く考えられずにいたのだが、日高義樹『戦わない軍事大国アメリカ』(PHP研究所、2016年)を読んでいたら、アメリカの傘がなくなった場合の選択肢の1つとして、次のようなことが書かれていた。
 二番目の選択は、ロシアの軍門に下ることである。つまり、ロシアの原子力攻撃潜水艦や核兵器の基地を日本国内に認めることによって日本の安全を図る。(中略)

 日本がロシアの核の傘に入るという選択はきわめて非現実的である。日本が独立したとき以来のアメリカの基本政策に違反するもので、アメリカに真っ向から挑戦することである。だがアメリカが、ニューヨークやワシントンを核攻撃されることを懸念して日本に核の傘を供与するのをやめるのであれば、日本は対応策として、これまでまったく無視してきたこの戦略を考えなくてはならなくなる。
戦わない軍事大国アメリカ戦わない軍事大国アメリカ
日高 義樹

PHP研究所 2016-01-21

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 《2016年5月5日追記》
 東京大学講師の三浦瑠麗氏は、『正論』2016年6月号の中で、今後の日本のポジションについて予想している。これが小国の取り得る現実的な選択肢なのだろうと思う。
 この国について言うと、ひょっとしたらかなり小規模な国に落ち着く可能性が高いと思うようになりました。そうすると、大国からは無体な要求をされたときには、それを呑まざるを得ないというコストはあるのだけれど、ただ、魅力的な市場があったり先端的な文化があったり、「この国は結構居心地いいよね」と思わせる存在になっていくんだろうと。それが国民の選択ならばあり得るんだろうと思っています。
(潮匡人、三浦瑠麗「【徹底討論】トランプ旋風という超大国の退潮現象 日本に残された道は核武装しかないのか」)
正論2016年6月号正論2016年6月号

日本工業新聞社 2016-04-28

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 《2016年10月13日追記》
 佐藤考一『ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題』(勁草書房、2003年)によると、ASEAN諸国は域外で西側諸国との合同軍事演習を行っているが、今後は中国との演習も視野に入れなければならないと書かれている。これが実現すれば、軍事面でのちゃんぽん戦略が1つ完成したことになるだろう。
 むしろ、これらの(ASEAN)諸国にとって、今後の課題は域内ではベトナム等のインドシナ諸国やミャンマーを、また域外ではスプラトリー諸島の主権問題で緊張関係にある中国を、相互の信頼感と軍事透明性を高めるための合同軍事演習の輪に引き込むことであろう。
ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題ASEANレジーム―ASEANにおける会議外交の発展と課題
佐藤 考一

勁草書房 2003-03

Amazonで詳しく見る by G-Tools


  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like