プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年02月13日

「非正規雇用労働者のキャリアアップを考える~人事戦略としての正社員転換と人材育成」に参加してきた


ウェイター

 みずほ情報総合研究所が主催する「非正規雇用労働者のキャリアアップを考える~人事戦略としての正社員転換と人材育成」(平成27年度厚生労働省委託事業シンポジウム)に参加してきた。以下、シンポジウム内容のメモ書き。

 (1)厚生労働省は2013年から「キャリアアップ助成金」という制度を実施している。今年で4年目になるが、2月10日からは助成額が拡充されるという。

 こういう助成金があると、お金ほしさに申請をしたがる企業をたまに見かけるが、正規雇用転換をしたり賃金テーブルを改定したりすれば、将来の人件費負担が大きくなり、その額は必ず助成額を上回る。助成金は、経費増を最初だけ軽減してくれるにすぎない。だから、正規雇用転換や賃金テーブル改定を何のために行うのか、事前によく検討する必要がある。すなわち、企業として今後どのような事業を行うのか?その事業を推進するにはどのような能力を持った社員を何名必要とするのか?彼らの能力・業務に見合う給与はいくらなのか?彼らにその給与を支払っても事業として十分な収益を上げられるか?といったことをはっきりさせなければならない。

コース条件助成額(カッコ内は中小企業以外の額)
1.正規雇用等転換コース 有期契約労働者等を
 ・正規雇用等に転換
 または
 ・直接雇用した場合。

 ①有期⇒正規:1人あたり60万円(45万円)
 ②有期⇒無期:1人あたり30万円(22.5万円)
 ③無期⇒正規:1人あたり30万円(22.5万円)
 ※派遣労働者を正規雇用で直接雇用する場合、1人あたり30万円加算。
 ※母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、若年雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合、いずれも1人あたり①10万円加算、②③5万円加算。

2.多様な正社員コース 有期契約労働者等を
 ・多様な正社員に転換または直接雇用等した場合。
 正規雇用労働者を
 ・短時間正社員に転換または短時間正社員を新たに雇い入れた場合。

 ①有期⇒多様な正社員(勤務地・職務限定、短時間正社員):1人あたり40万円(30万円)
 ②無期⇒多様な正社員:1人あたり10万円(7.5万円)
 ③多様な正社員⇒正規:1人あたり20万円(15万円)
 ④正規⇒短時間正社員、短時間正社員の新規雇入れ:1人あたり20万円(15万円)
 ※派遣労働者を多様な正社員で直接雇用する場合、1人あたり15万円加算。
 ※母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、若年雇用促進法に基づく認定事業主が35歳未満の者を転換等した場合、いずれも1人あたり①~③5万円加算、④10万円加算。
 ※①②は、勤務地・職務限定正社員制度を新たに規定した場合、1事業所あたり10万円(7.5万円)加算。

3.人材育成コース 有期契約労働者等に
 ・一般職業訓練(Off-JT)
 ・有期実習型訓練 (「ジョブ・カード」を活用したOff-JT+OJT)
 ・中長期的キャリア形成訓練 (専門的・実践的な教育訓練、Off-JT)
 ・育児休業中訓練(Off-JT)
 を行った場合。

 ①Off-JT《1人あたり》
 賃金助成:1時間あたり800円(500円)
 経費助成:一般職業訓練、有期実習型訓練、育児休業中訓練の場合、最大30万円(20万円)(※育児休業中訓練は訓練経費助成のみ)
 中長期的キャリア形成訓練、有期実習型訓練後に正規雇用等に転換された場合、最大50万円(30万円)(※実費を限度)
 ②OJT《1人あたり》
 実施助成:1時間あたり800円(700円)

4.処遇改善コース 全てまたは一部の有期契約労働者等の基本給の賃金テーブルを改定し、2%以上増額させた場合。 ①全ての賃金テーブル改定:1人あたり3万円(2万円)
 ②雇用形態別、職種別等の賃金テーブル改定:1人あたり1.5万円(1万円)
 ※「職務評価」の手法の活用により実施した場合、1事業所あたり20万円(15万円)加算。

5.健康管理コース
 有期契約労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、4人以上実施した場合。

 1事業あたり40万円(30万円)
6.短時間労働者の週所定労働時間延長コース
 有期契約労働者等の週所定労働時間を25時間未満から30時間以上に延長した場合。

 1人あたり10万円(7.5万円)

 (2)シンポジウムでは、株式会社吉野家の藤城幹郎氏(SSC本部、人事部長)より、吉野家における取り組み事例の紹介があった。吉野家には創業当初から、アルバイトを正社員に登用する文化があるそうだ。ちなみに、現在の河村泰貴社長、安部修二前社長はともにアルバイト出身である。毎年、全店舗の店長をランキング化すると、上位10位はだいたいアルバイト店長が占めていた。アルバイト店長の方が正社員の店長より評価が高いのであれば、いっそアルバイト店長を正社員にすべきだということになり、2007年からアルバイトの正社員登用を制度化した。

 中には正社員になると責任が増すのではないかと思い、正社員となることを拒否するアルバイト店長もいた。だが、人事部は1人1人と面談して、今の仕事ぶりで十分であることを伝え、その上年収は1.5倍になると説得した。結果的に、家庭の事情で数名が辞退したのみであり、アルバイト店長の166名が正社員となった。現在は、一般のアルバイト(吉野家では「キャスト社員」と呼ぶ)も正社員になる道が開かれている。正社員の80%はアルバイト出身である。

 吉野家の正社員には、グローバル社員(転勤がある一般的な正社員)、エリア社員(地域限定社員)の2タイプがある。吉野家はエリア社員を重視している。エリア社員が店長を務める店舗には、店長の家族や親戚、友人が来店するため顧客が増加しやすい。また、「彼らから見られている」という意識が、店舗のQCS(品質、サービス、清潔さ)の向上につながる。このように、吉野家は地域密着型の経営を掲げつつあるが、反面、新たな課題も生じている。例えば、ある地域の店長が別の地域に異動となった場合、処遇をどうするのか?といった具合だ。

 吉野家がアルバイトの正社員登用を制度化するにあたり、まずは入念な職務分析を行ってアルバイトをいくつかのランクに分け(配布資料によると9ランクと思われる)、ランク別に求められるスキルを明文化した。店長はランク表を参考に、それぞれのアルバイトの教育計画を策定する。アルバイトはランクが上がると時給も上がる。また、店長にはアルバイトのランクアップ人数の目標が与えられており、アルバイトの成果が店長の評価と連動するようになっている。

 (3)2014年時点で、雇用者の数(役員を除く)は5,240万人、うち非正規社員は1,962万人(37.4%)である。非正規社員は給与も低い上、正社員になる道が非常に狭く、不安定な生活を強いられていると言われる。厚生労働省「望ましい働き方ビジョン」の中では、正規社員/非正規社員という区分が、企業内の「身分」のように存在していると表現されている。

 個人的には、非正規社員はある程度必要だと考える。学生が職業経験を積む機会として、また、結婚や出産を機に一度退職した女性が職場に復帰するためのステップとして非正規社員を選択することには意味がある。また、全ての人が必ずしも正社員として働くことを望んでいるわけでもない。非正規社員が悪だとして、全ての企業に正社員雇用を義務づけようものなら、企業は雇用に及び腰になり、おそらくヨーロッパのように若年者の失業率が跳ね上がるに違いない。

 問題は、非正規社員から正社員になる道が狭く、年齢が上がるにつれてその道が厳しくなっていることである。その背景には、日本的な年功序列の慣行がある。つまり、社員は年齢とともに徐々に能力を身につけていく企業固有のレールに乗っている。そのレールに、非正規社員が途中から入ったとしても、同年代の正社員との能力差が大きく、同程度の給与を支払うことができない。だから、非正規社員は敬遠されるし、同じ理由でブランクのある人も嫌がられる。

 だが私は、年功序列が最も納得感・公平感のある人事制度だとも考えている(以前の記事「坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―給与・採用に関する2つの提言案(後半)」、「『戦略人事(DHBR2015年12月号)』―アメリカ流人材マネジメントを日本流に修正する試案」を参照)。だから、年功序列を前提として非正規社員の正社員登用を考えてみたい。そのためには、発想を転換する必要がある。つまり、能力は数年程度の差で大きく差がつくものではなく、本人が人一倍努力すれば数年分の遅れは取り戻せる、と考えることである。

 最近の企業はしばしば、「3年で一人前」を超えて、「3年でプロフェッショナル」になることを社員に要求する。しかし、3年でプロとなるのはどう考えても無理だ。仮に3年でプロになれるとすれば、それは非常に簡単な仕事であり、早晩新興国企業に取って代わられるだろう(以前の記事「新入社員が「即戦力」とか「3年でプロ」とか「自己実現」とか言ってはいけない」を参照)。先進国である日本企業は、やはり何年もかけてじっくりと能力を熟成させるような仕事をするべきだ。

 1年で向上する能力はわずかにすぎない。だからこそ、仮に非正規社員が中途で正社員として入社しても、挽回するチャンスがあると信じる。ただし、「入社後3年間で一定のレベルに達しなかったら雇用契約を解消する」などの条件をつけて、本人が周囲よりもハードな努力をするよう動機づける必要はある。このことは、既存の正社員との不公平感を緩和することにもつながる(この話に関連させて、年功序列の下での給与は、成果に対する報酬ではなく、年齢に応じた生活費としての性質を強めるべきだと私は考えるのだが、これに関してはまた別の機会に譲る)。

 (4)最後にもう1つ。最近は「同一労働同一賃金の原則」という言葉がよく使われるようになった(欧米では「同一”価値”労働同一賃金の原則」と表現するのが正確である)。ちょっと前までは、安倍総理は「『同一労働同一賃金の原則』は大切な原則であるが、日本の労働環境を踏まえると難しい」と答弁していた。ところが、今年の施政方針演説では、同一労働同一賃金の原則に踏み込んだ発言もあり、時代の変化をうかがわせたとパネリストは指摘していた。

 最近の例で言うと、昨年5月、日本郵便の契約社員が正社員と同じ仕事を担当しながら、年末年始勤務手当、住居手当などの手当てが支払われなかったのは、労働契約法第20条に反するとして提訴した事案がある。同条は、有期契約労働者(契約社員)と無期契約労働者(正社員)との間で不合理な労働条件を定めることを禁じている。

 ただ私は、この原則は画一的には適用できないと思う。仕事が限定的な非正規社員に対し、正社員は将来的にもっと難しい仕事へとシフトしたり、入社当初に予定されていなかった業務(必ずしも本人が希望しない業務)を担当したり、転勤・出向・海外駐在など労働条件が大幅に変更になったりするのが普通である。そのようなことがあっても、正社員は非正規社員よりも長く働いてくれることが期待できる。こうした企業側の期待に呼応する形で、正社員に対しては高い賃金を支払っていると解釈できる(もちろん、最近は非正規社員に対して、正社員と同様に何でもかんでもやらせるくせに、非正規社員のままにしている企業があるわけだが)。

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