プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年03月17日

「インドネシアビジネス勉強会」に参加してきた


インドネシアの煙害

 (※)写真はインドネシアの煙害の様子。インドネシアでは、スマトラ島やカリマンタン島での違法な野焼きや泥炭火災によって煙害が発生している。煙害の被害はインドネシアだけにとどまらず、周辺のシンガポール、マレーシア、そしてタイ南部にまで及ぶという。

 インドネシアビジネスの勉強会に参加してきたので、その内容のメモ書き。

ASEAN都市人口率
 (日本アセアンセンター「ASEAN情報マップ」より)

 (1)上記はASEAN10か国の都市人口率(都市化率)の推移である。インドネシアの都市化率は2013年の約50%から、2025年には65%に達すると予測されている。しかし、インドネシアの都市は下水道の普及率が著しく低い。ジャカルタでは5%、スラバヤでは3%と言われる。インドネシアは、東西が5,110kmと非常に長い国である。我々はつい、ジャワ島を中心にインドネシアを東西に分けてしまうが、本当の中心はスラウェシ島である。インドネシアの東側とはこのスラウェシ島以東を指す。だが、東側の人口・GDPは国全体の約2割であり、東西格差が激しい。

 (※)セミナーとは無関係な余談。上記グラフを見ると、タイが6,700万人の人口を抱え、自動車産業なども発達しているのに、都市化率が30%台と低いことに気づく。つまり、タイの人口は国土全体に分散している。しかも、都市と地方では生活様式や文化が全く異なるとされる。

 日本の視察ミッションがバンコクを訪れると、1,000円のラーメンが普通に売られている光景を目にする。そこで、「バンコクにはもう日本の飲食業が進出しているから、地方に進出しよう。日本だと、東京で900円のラーメンが地方では700円ぐらいだ。その感覚をあてはめれば、タイの地方で売るラーメンは800円ぐらいに設定すればよいだろう」と考える。しかし、これが大失敗の元である。タイの都市と地方ではニーズがまるで違う。だから、視察ミッションではバンコクだけでなく、地方も回らなければならない(この話は、日本アセアンセンターの方から何度も聞いた)。

 (2)インドネシアは自動車の生産が年間約100万台であり、年間200万台近くを生産するタイに次ぐASEANの生産拠点となっている。ところが、タイにはTier1、Tier2なども進出し、裾野産業が形成されているのに対し、インドネシアは裾野産業が十分に育っておらず、原材料・部品を輸入に頼っている。インドネシアが今後経済成長を遂げるには、裾野産業を発展させる必要があると長年指摘されていたにもかかわらず、政府はこの課題を放置してきた。その結果、GDPに占める製造業の割合は、2010年以降20%台で緩やかに減少している。

 インドネシア政府は、自動車産業の育成を最重要課題として認識しつつも、結果的に日本企業を利するだけだと消極的な立場を崩していない。確かに、インドネシア市場で日本の自動車は9割以上のシェアを占めている。ところが、インドネシアに進出する日本の自動車メーカーは、将来的にインドネシアを販売市場から生産拠点へと変えようとしている。インドネシアからの自動車の輸出が増えれば、貿易収支が大幅に改善される点をインドネシア政府は見逃している。

ASEAN1人あたりGDP インドネシアの1人あたり名目GDPは2010年が約3,000ドル、2014年が約3,500ドルで、ちょうど日本の1973年前後の経済レベルに相当する(左:日本アセアンセンター「ASEAN情報マップ」より)。

 この時期の日本のGDPに占める製造業(第2次産業)の割合を見ると、1973年までは概ね増加傾向である(下:『平成21年版 情報通信白書』より)。経済発展に伴って経済がサービス化するというのは世界の趨勢であるが、インドネシアは第2次産業の比重が下がるのが早すぎる
日本における第1~第3次産業のシェアの推移

 製造業を活性化させるには、まずは労働集約・低付加価値型の産業で外貨を稼ぎ、それを資本集約・高付加価値型産業に投資する、という順序をたどる。インドネシアの労働集約型産業は繊維である。ところが、繊維産業でインドネシアと競合するベトナムがTPPに参加し、アメリカが繊維に対する関税を撤廃したため、インドネシアの繊維産業はベトナムに対して不利になる。

 (※)またまた余談。TPPによって最も大きな恩恵を受けるのはベトナムであると言われる。世界銀行は、TPPが2030年までベトナムのGDPの成長を8~10%押し上げる可能性があると分析する。また、TPPによってベトナムのGDPは2%上昇する可能性があるという意見もある。

 ベトナムの産業のエンジンは繊維である。ベトナムの繊維産業は、GDPの15%、総輸出額の18%、そして全世界の繊維産業の4%を占める。TPPにより、アメリカに対する輸出は2014年の98億ドルから、2020年には300億ドルまで増加することが見込まれる。ただし、アメリカは関税撤廃と引き換えに、原材料となる糸をTPP加盟国から調達することを条件とした。ベトナムの糸の大半は中国からの輸入であり、このままでは関税撤廃の恩恵を受けられないという問題がある。

 (3)インドネシアは農業も問題を抱えている。1つは後継者不足の問題である。子どもが次々と都市へと出てしまい、農業の担い手がいない。親は教育費を捻出するために、家畜を売却することさえある。もう1つの問題は、農業の機械化が進んでいない点である。日本の農業がいわゆる3ちゃん農業(じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃん)でも成立したのは、農業機械が導入されたからである(融資をめぐる農協の問題はあるが)。一方、インドネシアでは、「人が余っているのだから機械化をする必要などない」ということを、一昔前まで研究者などが真面目に主張していた。

 (4)2月11日、インドネシア政府は、外資企業の出資比率を定めた投資ネガティブリストの改正を発表した(じゃかるた新聞「64業種で外資緩和 経済政策10弾 ネガティブリスト改正」2016年2月12日)。2014年以来2年ぶりの改正である。ただ、今回は「ネガティブリストを改定する」ことを発表しただけであり、具体的なネガティブリストの公表は後日となる(2014年も同様のプロセスを踏んだが、最初の発表後ネガティブリストの作成に大いに時間がかかり、リストが公表されたのは半年後だった)。今回の目玉は、外資出資比率規制が大幅に緩和されることだ。

 とはいえ、インドネシアの当局は「内規」によって動くため、公表されているルール通りに運用されるとは限らない。例えば、今回の改定により、レストラン業への外資出資比率が100%まで引き上げられる予定であるが、「資本金が1億円以上の企業に限る」といった内規が出るかもしれない(1億円以上の投資が必要なレストランなど、普通は考えられないのだが)。ネガティブリストの改定に伴い、投資調整庁(BKPM)は投資許認可のワンストップサービス化を打ち出している。しかし、これも額面通りに受け取らない方がよい。「インドネシア人を1,000人以上雇えば手続きを迅速に進める」などという内規が出回ることも十分考えられる。

 (5)インドネシアに対する中国の直接投資はここ数年増加傾向にある。大半は発電所などのインフラ関連である。直接投資の申請数も急速に伸びている。ただ、実施率を見ると、日本や韓国は50~60%であるのに対し、中国は10%を切っている。ジョコ・ウィドド大統領周辺には強力な中国ロビーがいる。大臣の家族が中国とビジネスをしているケースもある。こうしたことが、中国に高速鉄道を発注したことにもつながっているかもしれない(ちなみに、現地のインドネシア人は、そもそも高速鉄道が必要なのか?と疑問に思っているらしい。自動車で2時間で行ける距離が、高速鉄道で45分に短縮されることに対して、大したメリットを見出していない)。

 政治は中国にべったりのようだが、一般のインドネシア人は中国人のことを比較的冷静に見ている。ただし、共産主義は悪というイメージは強い。インドネシアには、1965年の9・30事件(軍事クーデターにより、インドネシア共産党が壊滅し、初代大統領スカルノは失脚した)の際に、共産主義者や中国人を何十万人も大量に虐殺したという負の歴史がある。しかし、現在同じようなことが起きる可能性は極めて低い。仮にそのような事件を起こして中国と対立すれば、インドネシアはアジアで孤立することが明らかであるためだ。

 (6)インドネシアは親日国だが、この意味を誤解している日本人が多いという。インドネシア人は確かに日本が大好きである。日本文化には憧れがある。しかし、日本企業が好きであるとは限らない。この点に注意しなければならない。最近、インドネシアに赴任する日本企業の30~40代の社員が、インドネシアの現地社員に対して上から目線で接したり、平気で日本語メールを送ったりするということで、悪い評判が立っているそうだ。現地社員に日本人の印象を聞くと、日本人しか信用しない、インドネシア人同士がまとまるのを妨害する、といった意見まで出る。

 以前、別のセミナーで海外事業責任者の方が、「日本人のやり方を現地に押しつけてはならない。日本企業はその国で事業をやらせてもらっている。その国の発展に貢献する気持ちがなければ成功しない」と語っていた。前述の中堅日本社員にはその意識が欠けているのだろう。

 (※)余談その3。ある公的機関では、海外ビジネスを検討している中小企業を支援するために専門家を配置している。その専門家の多くは大企業のOBで、メーカーで海外事業を経験した人や、商社で複数の国に駐在したことがある人などである。ところが、この専門家による相談サービスの評判がすこぶる悪い。というのも、専門家は中小企業の相談者(たいていは社長)を、まるで自分の部下を使うかのように上から目線で扱い、中小企業の事情を無視して出身企業のやり方を押しつけるのだという。私は、こういうのは高齢者に固有の悪癖だと思っていたのだが、前述のように30~40代でもその傾向が見られることを大変残念に感じた。

 (7)インドネシアには「インドネシア研修生実業家協会(IKAPEKSI)」という団体がある。「国際人材育成機関(アイム・ジャパン)」のプログラムに参加し、実習生として日本で2~3年間の研修経験を持つインドネシア人を対象として、帰国後の起業家育成を行っている。起業家の業種は、自動車部品製造、コンサルティング、飲食業、旅行会社など様々である。変わった業種としては、日本のウナギ養殖技術をインドネシアで展開する、というものもあるそうだ(なお、IKAPEKSIは、アイム・ジャパンや日本政府などからの資金援助は受けておらず、全くの独立組織である)。

 インドネシアへの進出を検討する日本の中小企業は、IKAPEKSIを利用してパートナー企業を探すことができる。また、パートナー候補のインドネシア人がどんな人なのかを知りたければ、IKAPEKSIから実習先の日本企業を教えてもらい、その企業に勤務態度などを問い合わせることも可能である。さらに、IKAPEKSIは日本政府にとってもメリットがある。今まで、日本に来た外国人技能実習生が帰国後どのようなキャリアを歩んでいるのか、十分なトレースを行っていなかった。だが、IKAPEKSIができたことで、実習生の情報が集約されるようになる。

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