プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年03月23日

「メキシコビジネス勉強会」に行ってきた


メキシコ・グアナファト

 (※)写真はメキシコ・グアナファトの風景。

 《参考記事(ブログ別館)》
 星野妙子『メキシコ自動車産業のサプライチェーン―メキシコ企業の参入は可能か』
 中畑貴雄『メキシコ経済の基礎知識』
 山本純一『メキシコから世界が見える』
 久野康成公認会計士事務所、株式会社東京コンサルティングファーム『メキシコの投資・M&A・会社法・会計税務・労務』

 先日のインドネシアビジネス勉強会に続いて、メキシコビジネス勉強会にも参加してきた。以下、勉強会で話題に上ったメキシコの魅力に関するメモ書き。

 (1)メキシコは、主にPRI(制度的革命党)とPAN(国民行動党)による安定した2大政党制である(他に、民主革命党(PRD)がある)。制度的革命党は、2000年に政権を失うまで、71年に渡って与党の座に就いていた。2000年に国民行動党が政権を奪取し、2012年まで政権を維持した。その後、再び制度的革命党の政権に戻っている。両政党は外資企業に対して開放的であり、政権交代によって突然外資企業の締め出しが起きる危険性は低いと見られている。

 メキシコが外資に対してオープンなのは、メキシコの経常収支が慢性的に赤字で(2015年の経常赤字が約279億ドル)、かつ対外債務残高も2010年時点で約3,792億ドル、GDP比でマイナス36.5%となっており、外国からの資金を必要としているためだと考えられる。なお、外資政策は基本的に変わらないものの、税制などが頻繁に変更される点は他の新興国と同様である。

 (2)2015年のメキシコの人口は1億2,109万人で世界11位。人口増加率は2009年~2013年の平均で1.34%。2015年の日本の人口1億2,673万人に肉薄しており、日本を追い抜くのは時間の問題である。2014年の名目GDPは1兆2,827億ドル、1人あたり名目GDPは10,715ドル、実質GDP成長率は2.1%である。私もつい最近まで知らなかったのだが、メキシコは1人あたり名目GDPが1万ドルを超えている。これは、中国の7,571ドルを上回る。

 メキシコの経済成長を牽引した要因の1つが石油である。メキシコは過去100年に渡り石油の産油国であり輸出国であった。しかし、メキシコは石油への依存度を少しずつ下げている。メキシコの輸出に占める石油の割合は1980年には60%であったが、2000年には7%にまで下がっている(そもそも、ブログ別館の記事「中畑貴雄『メキシコ経済の基礎知識』」でも書いたが、メキシコに残されている石油はあとわずかしかないらしい)。

 代わりにメキシコの産業を支えたのが、1965年に始まった「マキラドーラ制度」である。この制度を利用すると、輸出加工型企業が製品を製造する際の原材料などを無関税で輸入することができる。この制度に加えて、メキシコの労働コストが安いこと、また消費大国であるアメリカに隣接していることから、自動車・同部品、電気・電子機器などのメーカーが多数メキシコに出現・進出した。現在では、これらの工業製品がメキシコの輸出の8割を占めている。

 ブログ別館の記事「星野妙子『メキシコ自動車産業のサプライチェーン―メキシコ企業の参入は可能か』」で、メキシコは裾野産業が脆弱であると書いた。ところが、今回のセミナーの講師によると、現在はTier1、Tier2の進出が進んでいるという。それでもまだ十分な数とは言えないから、素材・部品メーカーは今がメキシコ進出のチャンスだとおっしゃっていた。ある金型メーカーが西部のアメリカ国境沿いに位置するティファナに進出して成功しているという事例もあった(メキシコの知識が乏しい私などは、ティファナはマフィアの巣窟で危ないと思ってしまうのだが)。

 メキシコについてもう1つ興味深いのが、アメリカからの巨額の送金である。アメリカに渡った合法・非合法の移民がメキシコにもたらす金額は、メキシコが外国から受け入れる直接投資の額にほぼ等しいとされる(2014年の直接投資受入額は約251億ドル)。このお金を使って、メキシコは技術集約型の産業やサービス業を成長させた。GDPに占めるサービス業の割合は70%に上る(以上はジョージ・フリードマン『100年予測』〔早川書房、2014年〕を参考にした)。

100年予測 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)100年予測 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
ジョージ・フリードマン 櫻井 祐子

早川書房 2014-06-06

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 移民による送金についての記事を見つけたので、参考までに。
 世界銀行は11月20日、「移民と送金に関する報告書」を発表した。このなかで、移民労働者による途上国への2012年の送金額を前年比6.5%増の4060億ドル(約33兆円)へと上方修正した。途上国への送金額は今後も堅調で、増加率は13年7.9%、14年10.1%、15年10.7%と世銀は右上がりを予測している。15年の途上国への送金額は5340億ドル(約44兆円)に達する見通しだ。

 12年の送金額を国別にみると、トップはインドの700億ドル(約5兆8000億円)。以下、中国(660億ドル=約5兆4000億円)、フィリピンとメキシコ(それぞれ240億ドル=約2兆円)、ナイジェリア(210億ドル=約1兆7000億円)の順。これ以外では、エジプト、パキスタン、バングラデシュ、ベトナム、レバノンなどが目立つ。
(ganas「移民労働者による「送金額トップ5」、インド・中国・フィリピン・メキシコ・ナイジェリア」2012年11月28日)
 メキシコは周辺国とEPA/FTAを積極的に締結している。また、TPPの参加国でもある。メキシコはEU諸国をはじめ、主に中南米、カリブ諸国の45か国との間でFTAを締結している。この45か国は、全世界のGDPの7割をカバーする。ちなみに、日本がEPA/FTAを締結しているのは、2015年3月時点で15か国にとどまる。幅広くEPA/FTAを締結して、複数の自由貿易圏の網をかぶせるという手法は、新興国がよくやる戦略である。ASEANも、ASEAN域内でAFTAを発効させると同時に、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドと経済連携を進めている。

 (3)メキシコは、40歳未満の人口が全体の70%を占める。2025年においては40%未満が60%強となる見込みだが、将来的にもまだまだ豊富な労働力が期待できる。過去10年間の賃金の年平均上昇率は1.44%と低い。賃金上昇率と物価上昇率はほぼ同レベルに収まっている。ただし、メキシコは労働者が法的に非常に手厚く保護されている点には注意が必要である(ブログ別館の記事「中畑貴雄『メキシコ経済の基礎知識』」、「久野康成公認会計士事務所、株式会社東京コンサルティングファーム『メキシコの投資・M&A・会社法・会計税務・労務』」を参照)。

主要国の製造業労働コスト

 (勉強会で配布された資料に掲載されていた表と同じものを、JETRO「変化する中南米の労働・雇用環境」〔2014年1月〕より抜粋した)

 メキシコと中国の賃金を比較すると、ワーカーについてはメキシコの方が安く(TPP加盟国のチリ、ペルーよりも安い)、エンジニアについてはほぼ同等である。一方、課長クラスになるとメキシコの方が高くなる。これは、メキシコの教育水準が低く、能力の高い人材が不足しているためである。メキシコの大学進学率は34%である。これだけを見れば、それほど低い進学率には思えないものの、実はメキシコでは5歳~15歳の義務教育を卒業していない人の割合が3割に上るそうだ。したがって、かなり大きな教育格差が存在していると推測される。

 (※)余談。以前、本ブログでも書いたが、ASEAN諸国では毎年最低賃金が10%単位で上がることも珍しくない。進出計画に最低賃金の上昇リスクを織り込んでいなかったために、進出後に人件費が膨らんで苦労している日本企業もある(以前の記事「「ラオス投資セミナー」に行ってきた(日本―ラオス外交関係樹立60周年)」を参照)。そんなASEANの中でも、フィリピンだけは最低賃金の伸びも緩やかで、ストライキも少ないと聞いていた(以前の記事「「フィリピン投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)」を参照)。ただ、上表を見ると、フィリピンの過去10年間の年平均賃金上昇率が8.38%と高めであるのが少々意外であった。

 (4)メキシコ政府が行っている外資導入奨励策について。
 ①IMMEX
 従来のマキラドーラは、PITEX(Programa de Importacion Temporal para Producir Articulos de Exportacion=輸出品を製造するための一時輸入プログラム)と統合され、手続きが簡素化された。両制度の主要恩典であった一時輸入は、基本的にはそのままIMMEXによって踏襲されている。さらに、IVA(付加価値税)の還付迅速化の恩典も取り入れられた。

 ②PROSEC(産業分野別生産促進プログラム)
 PROSECを利用すれば、メキシコの製造業者は必要な部品・原材料、機械などを0%、3%、5%等の優遇関税で輸入することができる。PROSEC指定業種のリストにある完成品をメキシコにおいて製造する場合で、それを製造するにあたり必要な原材料・部品および機械・設備(含む工具類)が優遇関税の適用を受ける品目に指定されていることが前提。

 ③レグラ・オクターバ
 PROSECを補完する制度(関税免除のための特別救済措置)。PROSECの優遇関税の対象になっていない品目であっても、暫定的に関税率0~5%で輸入できることになる。

 (5)最後に、魅力ではなくリスクについて触れる。メキシコは治安が悪いというイメージが強い。特に国境沿いは、マフィアがアメリカと麻薬の密売を行っている地域が多く、リスクが高い。外務省が公表している各国の治安情報では、次のようになっている。

メキシコ治安情報
メキシコ治安情報(凡例)


 これを見ると、首都圏以外はそれほど危険ではないようだが、別のセミナーでこの地図にはからくりがあることを教えてもらった。メキシコはアカプルコをはじめ多くの観光地を抱える観光立国である。あまり治安が悪いという情報ばかりを流すと観光客が減ってしまうため、外務省がメキシコに遠慮しているのだという(この話を教えていただいたのは、警視庁OBで現在はセキュリティコンサルティング会社に勤務する方である)。自分の身は自分で守ろう。

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