プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 門脇俊介『フッサール―心は世界にどうつながっているのか』―フレーゲとフッサールの違いを中心に
Prev:
prev 『共産主義者は眠らせない/先制攻撃を可能にする(『正論』2016年5月号)』―保守のオヤジ臭さに耐えられない若者が心配だ、他
2016年05月27日

東京都産業労働局「企業向け障害者雇用普及啓発セミナー」に参加してきた


多様性

 法政大学の坂本光司教授は、『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズで、障害者雇用に注力している企業を多数紹介している(日本理化学工業株式会社〔チョーク製造〕、株式会社大谷〔印章販売〕、ラグーナ出版〔精神障害関連の書籍出版〕、株式会社協和〔ランドセル〕、株式会社障がい者つくし厚生会〔ゴミ処分場運営管理〕など)。2018年度からは、障害者雇用率=(身体障害者および知的障害者である常用労働者の数+失業している身体障害者及び知的障害者の数)÷(常用労働者数+失業者数)の分子に精神障害者も含めることとなり、現在2.0%とされている法定雇用率が上昇すると予想される。以下、セミナー内容のメモ書き。

 (1)日本には障害者が約700万人おり、人口の約6.5%を占める。内訳は、①身体障害者=393.7万人、②知的障害者=74.1万人、③精神障害者=320.1万人である。合計すると787.9万人となり700万人を超えるのは、複数の障害を持つ人が重複してカウントされているためである。精神障害に属する発達障害とは、主に①学習障害(LD)、②注意欠陥・多動性障害(ADHD)、③自閉症スペクトラム(ASD)の3つである。文部科学省の調査によると、全国の小中学校の生徒のうち6.5%が発達障害を抱えているとされる(内訳は、LDが4.5%、ADHDが3.1%、ASDが1.1%)。この割合を日本の人口に換算すると800万人となり、先ほどの700万人を超える。

 研究によれば、大人になるにつれて、LD、ADSD、ASDは重なり合うようになることが解っている。また、かつては自閉性障害とアスペルガー障害を別物として扱っていたが、アメリカ精神医学会が公表しているDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)の第5版では、自閉症スペクトラム(ASD)に一本化されている。つまり、自閉症障害とアスペルガー障害は連続体として把握されている。ASDは別名「シリコンバレー症候群」と呼ばれるように、シリコンバレーで働く人に多い。実に4分の1がASDと推測されている。だが、NASAに至ると半数がASDとも言われる。

 (2)LDは比較的新しいタイプの障害であると、以前観たテレビ番組で紹介されていた記憶がある。人間は何万年も前から話し言葉を使っているのに対し、書き言葉を用いるようになったのはわずか数千年前のことにすぎない。そのため、脳が書き言葉に慣れておらず、LDのような障害が起きるのだという。LDはどういう症状なのか私はよく解っていなかったのだけれども、早稲田大学教育・総合科学学術院の梅永雄二教授が解りやすい説明をしてくださった。

 日本語のカタカナは、漢字由来の文字である。だが、同じ漢字圏の中国人、タイ人、ベトナム人には、カタカナを読むことが難しい。例えば、「シーツ」は「シーシ」や「ツーツ」に、「ソリ」は「ソソ」や「リリ」になってしまう。梅永教授は教え子である中国人留学生から、「カタカナに漢字で読み仮名を振ってほしい」と言われたことがあるそうだ。こういう気持ちになるのがLDである。

 LDの人は、丸ゴシック体の文字は読める。しかし、明朝体は読むのが難しい。例えば、木偏の1画目の右端が山型になっていると、それが邪魔になって読めなくなる。LDの人には、明朝体の文字が道路地図のように見えるという。我々はLDの人に対して、親切心で漢字に振りがなを振りたくなる。ところが、その振りがなが今度は草冠や竹冠などに見えて、余計に読めなくなるから注意しなければならない、というのが梅永教授の話であった。

 (3)一般的に、仕事に必要なスキルには、ハードスキルとソフトスキルがある。ハードスキルとは、業務に特化した能力や知識のことである。ソフトスキルとは、仕事以外の能力を指す。具体的には、対人関係能力(挨拶、協調性、明るい表情など)、コミュニケーション能力などである。コミュニケーション能力は、経団連が新入社員に要求する能力として1位に挙げるほど重要視される。だが、ASDはこの対人関係能力やコミュニケーション能力にこそ問題がある。しかも、訓練でどうにかなるものではなく、障害なのだから本人がどう頑張ってもできない

 この点を忘れて、ASDの人に「ちゃんと挨拶をせよ」、「周りの社員ともっとコミュニケーションを取るように」などと言うのは酷である。足を骨折している人に全速力で走れと命令するのと同じだ。だから、ASDの人を採用する場合には、事前に職務分析を行って、対人接触をさほど必要としない仕事を切り出すなど、工夫が必要である。また、音に敏感なASDの社員が作業に集中できるよう、ノイズキャンセリングヘッドフォンを用意する、自分からは話しかけられないASDの社員には周りの社員から積極的に話しかけるなど、職場環境を整えることも重要である。

 (4)先ほどのソフトスキルの中には、日常生活における能力も含まれる。発達障害の人は、普通の人と同じように日常生活を送ることができない人が多い。梅永教授の元に相談に来たある東大卒の学生は発達障害を抱えていた。彼は、大学院の試験に合格するほど優秀なのに、企業からなかなか内定がもらえずに悩んでいた。梅永教授が彼の様子を見ると、爪が伸びっぱなしであった。そこで、「爪はちゃんと切った方がいいよ」とアドバイスしたところ、「先生、東大では爪の切り方なんて教えてくれませんでしたよ」と真顔で返されたという。

 別の学生は、髪をきれいに洗うことができなかった。シャンプーは使っているようなのだが、シャンプーをつけて手で撫でるだけであった。それを繰り返すうちに、髪の上にシャンプーの層ができ上がり、古いシャンプーが臭うようになる。日常生活能力の欠如は、就労の上で障害となる。ただし、東大生の言葉を裏返せば、彼らは「やり方さえ教えてもらえればできる」ということでもある。日常生活能力に関しては、我々が当たり前のこととして無意識のうちに行っている手順・作法を1つずつ丁寧に教えれば、発達障害者でもクリアできる

 (5)梅永教授の講演に続いて、発達障害者の雇用に注力する2社の事例発表があった。1社目(A社)はメッキ加工業。メッキ加工は典型的な3Kの仕事であることに加え、社員の高齢化が進んでおり、人材の確保が課題であった。A社は戦力として発達障害者を採用している。採用にあたり、まずは自社の職務分析を行い、反復作業とそうでない作業に分けた。さらに反復作業を深掘りし、発達障害者に適した作業を絞り込んだ。こうした入念な準備の後に採用を行った。

 A社では、障害者の雇用推進者を管理部長とし、障害者が配属された部門と緊密に連携を取るようにしている。また、定期的に全社員を対象とした職場懇談会を行っており、研修・啓蒙に努めている。A社は障害者の採用にあたり、東京障害者職業センターの「ジョブコーチ支援制度(障害者が職場にスムーズに適応できるよう支援をする公的なサポート制度)」を活用した。さらに、障害者の職場定着に向けて、保護者・関係先とも連携を図っている(特別支援学校、東京都特別支援教育推進室、ハローワーク、東京しごと財団、東京障害者職業センターなど)。

 (6)2社目(B社)は、あるグループ企業の特例子会社で、親会社、東京都、多摩市が出資する第3セクター方式の「重度障がい者雇用モデル企業」である。事業内容は、農業、清掃業務、庭園管理、食堂運営、ギフトサービス事業、ショップ運営、オフィスサービス業務など多岐に渡る。知的障害者は対人関係を伴う簡単な反復作業、発達障害者は事務作業が中心である

 B社では、発達障害者が職場に定着できるよう、様々な工夫を施している。まず、作業はペアあるいは複数人体制で行うこととしている。単独作業で放っておくと、同じ作業を延々と続けてしまう恐れがあるためだ。発達障害者には、状況判断を必要とする作業をさせないようにしている。彼らはややもすると思いつきで行動することがあり、うっかりミスにつながるためである。

 発達障害者の仕事は、極力対人接触がないように設計されているものの、仕事である以上最低限の対人接触は発生する(B社の場合、ペアあるいは複数人体制を採用しているため、どうしても対人接触が生じる)。当然、相性が合う・合わないといった問題が生じるが、仕事として割り切って対応するよう本人とは話し合いを重ねている。ただし、発達障害者は、自分と相性の悪い人がいると感情的になって排除しようとする傾向がある。そのため、どうしても相容れない社員がいる場合は、ローテーションを組んで可能な限り一緒に仕事をしないように配慮している。

 B社の担当者は、我々から見ると一見非合理に見える行動が、障害に起因するものなのか、本人の特性・性格なのかを見極めるのに苦労しているとおっしゃっていた。

  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like