プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年05月04日

『視座を高める(『致知』2016年5月号)』―日本は中国がイノベーション大国になることをアシストし、彼らから学べるか?


致知2016年5月号視座を高める 致知2016年5月号

致知出版社 2016-05


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 以前の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」などで用いた下図についての補足(ブログ本館、ブログ別館のあちこちで言い訳をしているが(苦笑)、まだこの図は未完成である)。

製品・サービスの4分類(修正)

 以下、映画監督の紀里谷和明氏の記事より引用(紀里谷和明「何がしたいのか、どうありたいのか。自らの思いに忠実に生きる」)。
 ある時、僕は映画をつくろうと思った。失敗するかもしれない、このやり方は間違っているかもしれない、だからやめておこうかと躊躇することもあります。でも、どうせならやりたいことをやったほうがいいなと僕は思う。
 僕は、人間というのは完璧な存在としてこの世に生まれてくると思っている。
 先日の記事「『しなやかな交渉術(DHBR2016年5月号)』―「固定型」のアメリカ、「成長型」の日本、他」でも書いたが、「人間は生まれながらにして完璧な存在である」という考え方は「固定型」の考え方であり、アメリカ人に特徴的なものである。アメリカ人は、上図の左上の象限に該当するイノベーションを起こすのが得意だ。必需品ではないが、面白い、楽しい、心地よいといった、人々の感情を揺り動かす画期的な新製品・サービスを創出して、世界市場を席巻する。

 こうしたイノベーションを起こすリーダーは、自分は一体何がほしいのか?という本能に従う。というのも、まだ市場に存在しない製品・サービスを作ろうとしているのだから、一般的な市場調査で顧客の声を聞くことが不可能だからだ。リーダーは、自分自身を最初の顧客に見立てて、自分を完璧に満足させる製品・サービスを開発する。そして、その製品・サービスを世界中に広めることを、彼らが信仰する唯一絶対の神と約束する。これが「契約」である。

 世界中を相手にすると言っても、リーダーは製品・サービスを各国のニーズに合わせてカスタマイズしようとは考えない。世界中のシェアを獲得するにはスピーディーに事業展開をする必要があり、カスタマイズしている暇がないというのも1つの理由である。しかし、最大の理由は、リーダーは、自分のニーズは世界中の人のニーズに等しいと信じているからである。『新約聖書』のマタイ福音書には、「己の欲する所を人に施せ」と書かれている。

 人間は生まれながらにして完璧な存在であるというのは、神がそれぞれの人間の使命をあらかじめ設定し、その使命を達成するのに必要な能力や知識を事前に与えていることを意味する。神がその人に与えた使命と、その人が世界中に広めたいと意図するイノベーションが合致すれば、神と正しい契約を結んだことになる。あとは、契約を誠実に履行し、神から与えられた能力や知識を思う存分に発揮すれば、大きな成功を手に入れることができる。

 しかし、神との契約が本当に正しいかどうかは、実のところ神にしか解らない。間違った契約を結んでしまった人は、自分の間違いに気づくことなく、神からのせっかくの知識や能力を十分に活用できずに、失敗した人生を送る。そして、残念ながら、間違った契約を結んでしまう人の方が圧倒的に多い。だから、アメリカはイノベーションが多産多死する社会であるし、成功したイノベーターと失敗したその他大勢の人の間に大きな経済格差が生じる。
 やっぱり「オール自前主義」でやることによって、力も入るし、魂も入るし、本物になるんです。全社一丸となってやれば、必ず結果が出ることを実感しました。
(重永忠「半径1メートルの人から幸せにする」)
 ハーブ・アロマテラピー業界のリーディングカンパニーである生活の木代表取締役CEO・重永忠氏のインタビュー記事からの引用。同社は、最初はハーブの卸売からスタートしたものの、品質のコントロールが難しいなどの理由で、後に小売店の直営に切り替えた。また、ハーブガーデンを設立して自社生産も行うなど、徐々に自前主義へシフトしていったことが書かれていた。

 (人によって見解は分かれるかもしれないが、)ハーブは上図で言えば左上の象限に該当する。左上の象限のビジネスの特徴として、自前主義が挙げられる。というのも、今まで誰も作ったことがない製品やサービスを作ろうとしているのだから、部品の調達先や技術の協力先を探すのはなかなか困難である。だから、イノベーションの大部分は自社で製造するしかない。

 一方、販売に関して言うと、世界中の人が欲しがるような画期的な製品・サービスであれば、是非それを売りたいという販売店が群がってくる。イノベーターは彼らと販売代理店契約を結ぶ。その際、競合他社の製品・サービスは扱わないという条項を契約書に入れ、排他的なチャネル網を構築する。こうしてイノベーターは、世界中に販売店を持つことで、低コストでスピーディーに製品・販売を展開する。例えば、コカ・コーラは、原液を製造するメーカーに特化している。原液からコーラを製造し、販売するのは、各国に存在するボトラーという地場企業である。

 ただし、最近は例外的なイノベーションも増えていると感じる。通常のイノベーションは、従来よりも難しい技術に支えられている。ところが、破壊的イノベーションのように、それほど難易度が高くない既存の技術を組み合わせることでイノベーションを起こすこともできる。アップルはその代表例であろう。アップルは、日本のメーカーをはじめとする世界規模の調達網を有する。

 しかしながら、イノベーターはサプライヤーを奴隷のように扱い、極限まで搾取する傾向があるので要注意だ。自前主義ならぬ、自己都合主義である。以前の記事「日本とアメリカの戦略比較試論(前半)」の補足で書いた通り、左上の象限のイノベーションの多くは、寿命が非常に短い。現在、日本企業はアップルの製品に多くの部品が採用されていると喜んでいる。だが、アップルのイノベーションが寿命を迎えたら、アップルにポイ捨てされることを覚悟しなければならない。

 日本企業は、右下の象限に強い。自動車、建設、企業向けITサービスなどが該当する。これらの製品・サービスは、非常に高い品質が要求され、複雑な構造となっている。そのため、1社で全てを開発・製造することが難しく、垂直的な協業体制が敷かれる。自動車業界の系列はその最たる例であるし、建設やIT業界で見られる多重下請構造は、よくも悪くも垂直協業の実態の表れである。また、左上の象限のイノベーションが世界中のニーズを単一ととらえるのに対し、右下の象限では、顧客のニーズは実に多種多様であるとされる。だから、販売もまた1社で行うことは非現実的であり、顧客のニーズに精通した各地の販売チャネルと連携するのが普通である。

 近年は、「日本企業はこれから何で食っていくのか?」が議論の的となっている。アメリカのように左上の象限に進出してイノベーションを起こすべきだと主張する人もいる。しかし、私は今まで通り右下の象限にとどまるべきだと考える。左上と右下では、求められる能力が違いすぎる。左上の象限のイノベーションは、非必需品であるがゆえに寿命が短いものも多いが、中には必需品となって左下や右下の象限に降りてくるものがある。日本企業は右下の象限に移行したものを見極めて、お得意のカイゼンにより、本家のアメリカを凌駕する品質を実現すればよい。
 落合:だから日本人というのは、天才がやったことを、天才以上によくするんですよ。コツコツ努力を積み重ねてね。
(落合務、片岡護「職の喜びを求め続けて」)
 結局、これが日本の強みなのである(落合氏は、イタリアの料理店で腕を磨いた日本人が日本でイタリア料理店を開き、そのクオリティに惚れたイタリア人が今度は日本に勉強に来ていると述べていた)。ただ、今のところ左上の象限にいるのはアメリカだけであり、アメリカがもたらす果実だけでは日本企業は食っていけない気もする。そこで、大いなる批判を受けることを承知で書くが、中国が早く左上の象限に行けるよう後押しすることが必要なのかもしれない。

 今年、シャープが鴻海に売却されることが決まった。鴻海は中国共産党とのつながりが指摘されている。鴻海が中国本土に工場を建設する際に、共産党の力を借りたためだ。だから、シャープの技術はほぼ間違いなく、中国にダダ漏れとなる。日本(と欧米)の家電メーカーは、今後5年間で壊滅的なダメージを受けるに違いない。だが、日本企業のアシスト(?)によって中国企業が家電事業を大きく伸ばせば、左上の象限に挑戦する中国企業が現れるかもしれない。

 米英より前は、中国が発明大国であった。4大発明=火薬、羅針盤、製紙法、印刷技術の他に、灌漑の仕組み、インク、磁器、あぶみ、手押し車、ドリル、運河の水門、縦帆船、船尾舵、外輪船、定量的地図作成法、免疫技法、新星の天文観測、地震計、音響効果なども中国が発明した。日本は中国がイノベーションで先行することを認める。そして、中国のイノベーションのうち、右下の象限に降りてくるものを極めることで生き延びる。このシナリオは楽観的すぎるだろうか?(日本が中国の後追いになることを屈辱的に思う人がいるかもしれない。しかし、日本はそもそも中国から漢字を学ばなければ、書き言葉さえ残せなかったではないか?)


 《2016年9月3日追記》
 アダム・グラント、シェリル・サンドバーグ『ORIGINALS―誰もが「人と違うこと」ができる時代』(三笠書房、2016年)の中で、マーケティングの研究者であるピーター・ゴールダーとジェラルド・テリスの研究が紹介されていた。彼らは、ある製品を最初に開発・発売した「先発企業」と、先発企業が市場を形成したのを見届けてから参入した「後発企業」を比較した。すると、先発企業の失敗率は47%であったのに対し、後発企業はわずか8%であることが判明した。先発企業は後発企業より何と6倍も失敗率が高いのである。

 成功して莫大な利益を獲得する一握りの先発企業は非常に魅力的である。だが、そういうのはアメリカや中国に任せて、日本は後発企業として後から巻き返しをすれば十分ではないだろうか?いや、日本人の特性からして、そういうことしかできないのではないだろうか?


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