プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年06月10日

「中国・インドネシア・タイ」のビジネスリスクについて(セミナーより)


中華人民共和国

 (※)中国の国旗。5つの星のうち、一番大きい星は中国共産党を、残りの4つは労働者、農民、小資産階級、愛国的資本家を意味しているそうだ。

 1日で中国、インドネシア、タイの3か国のビジネスリスクに関するセミナーに参加してきた(お腹いっぱい)。以下セミナー内容のメモ書き(本当はベトナムのセミナーにも参加したので4か国なのだが、長くなりすぎるので今回の記事からは省略)。

 【1.中国】
 (1)中国人による不正の事例は枚挙にいとまがないが、中国に派遣された日本人の総経理(=社長)が不正に手を染めていることがあるので要注意である。

 ・中国子会社A社は、中国人社員に対して会社のお金を貸し付けており、日本人総経理もそれを承認していた。本来、中国の法律では、このような金融行為は禁じられている。A社は、現金を「その他未収金」に振り替えることで、貸付を可能にしていた。中国では金利がまだ高いため、現金をそのまま銀行に預けていれば、利息収入が得られる。ところが、社員に貸付をすることで、利息収入の機会が失われる。したがって、日本人総経理の行為は背任行為である。

 ・中国子会社B社は、日本人総経理が承知の上で、簿外取引を行っていた。具体的には、発票(日本の領収書に相当。後述)を不要とする企業と現金で取引を行い、裏金を蓄えていた。簿外現金は、別会社の担当者に対する裏リベートに回された。簿外取引による売上未計上は脱税行為であり、税務調査による罰金や滞納金を追徴される可能性がある。また、B社に不満を持つ社員が密告したり、B社を脅迫したりするというリスクが生じる。

 ・中国子会社C社の日本人総経理は、経理に詳しくなかったこともあり、あらゆる支出を会社の経費で落としてした。その中には、ゴルフ会員権、ヨットクラブ会員権などがあり、個人的に購入したネックレスなども含まれていた。さらに、発票のない経費も計上していた。経理担当者は、日本人総経理の言いなりであった。C社のように発票の扱いが甘い企業は、偽の発票をつかまされる危険性がある。発票のない経費や偽の発票は、税務署による処罰の対象となる

 (2)発票(ファーピャオ)とは、中国における製品の売買、サービスの提供・受け取りなどの経営活動に関する証明書であり、経費の認定や増値税(日本の消費税に相当)の申告時に必須とされる。日本の領収書に相当するが、日本の領収書はプリンタで打ち出したものでも手書きでも何でもよいのに対し、発票は専用ソフトウェアが作成したデータを、政府指定のプリンタで印刷しなければならない。専用ソフトウェアはネットワークでつながっており、税務局は中国全土で行われているあらゆる取引を把握している

 日本のマイナンバー制度導入で、今までのように所得を過少申告することができなくなることに戦々恐々としている人がいるみたいだが、中国の発票制度は日本とは比べ物にならないほど厳しいと感じた。中国では、発票がなければ損金として認められない。ただし、この制度を逆手にとり、損金を膨らませたい経営者心理につけ込んで、偽物の発票を販売するあくどい業者がいるようだ。税務局は、発票が正規のものかを確認できるサイトを用意している(例えば、上海市の場合は、https://www.tax.sh.gov.cn/wsbs/WSBSptFpCx_loginsNewl.jsp)。

 (3)日本では、株式会社における取締役などの役員を除き、公務員や、みなし公務員が関与する贈収賄のみが処罰の対象となっている。一方、中国では、民間企業や社員間の贈収賄についても処罰の対象となる(反不正当競争法8条)。簿外で相手企業または個人にリベートを贈ること、相手企業または個人からリベートを受け取ることは贈収賄に該当する。値引きや仲介人に対する手数料については、必ず事実通りに記帳しなければならない。贈賄の立件基準は20万元、収賄の立件基準は5千元とされているが、これ以下でも立件されることがある。習近平政権が反腐敗運動に力を入れていることもあり、贈収賄には気をつけた方がよい。

 (4)中国セミナーでは、AOSリーガルテック株式会社による「フォレンジック調査」のソリューションについても紹介があった。フォレンジックとは、本来は法医学、科学捜査の意味である。現在では、事件関係者のPCなどに残されたデータを復元・解析して、事件の真相究明に役立てる手法を指す。同社は、Nuixという、オーストラリア企業の正規パートナーである。

 Nuixは、パナマ文書を解析したことで知られる(WEDGE INFINITY「パナマ文書をリークした不正調査ツール 国家間での情報戦争でも活用」〔2016年4月21日〕を参照)。また、東芝の粉飾決算事件でも、メール魔と呼ばれた田中久雄社長(当時)の復元にNuixが用いられた。デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社などが行った第三者委員会の報告書には、データの復元・解析にNuixを採用したことが書かれている(東芝「第三者委員会調査報告書<要約版>」〔2015年7月20日〕を参照)。

 【2.インドネシア】
 (1)日本の場合、株式譲渡は一般的に取締役会の決議事項であるが、インドネシアの場合は社員などへの通知、債権者保護手続き、および公告も必要となる。株式譲渡によって親会社が変わる場合、社員には新しい親会社の下で働くのを断る権利があるとされるためだ。また、親会社が変わると、債務の返済能力にも影響が出るとの考えから、債権者保護手続きも要求される。また、スキームによっては、取締役会による株式譲渡の計画や、コミサリス会の承認も求められる。コミサリスとは、日本の監査役のような存在である。ただし、日本の監査役よりも権限が大きく、例えば取締役に重大な違反がある場合は、取締役に代わって任務を遂行できる。

 (2)1994年には、いわゆる「外資15年ルール」というものができた。これは、外資100%の企業は、設立15年を経過した時点で、株式の一部をインドネシア企業またはインドネシア人に譲渡しなければならないという、外資企業からするととんでもないルールであった。苦肉の策として、一旦インドネシア企業/人に株式を譲渡した後、すぐに買い戻すという方法が考えられたが、インドネシア政府は長らく通達によってこれを禁じていた。ただし、あまりに外資企業からの反発が強かったため、通達は2013年に廃止された。なお、2013年の新会社法施行以降に投資承認を受けた企業は、外資15年ルールの適用対象外である

 (3)インドネシアでは、海外からの借り入れを行う際には、借入先の格付けを取得する義務がある。つまり、日本企業のインドネシア子会社が、日本の銀行から借り入れをする場合、その銀行の格付けが必要となる。これも外資企業からの批判が多いものの、今のところルールは維持されている。ただし、親会社からの借り入れに関しては、格付けは不要という例外がある

 (4)インドネシアセミナーの講師は弁護士だったのだが、インドネシア(とベトナム)では、現地の地方裁判所で訴訟をしない方がよいとのことだった。インドネシアでは、裁判官も汚職に手を染めている。最高裁判所の長官が汚職で逮捕されるような国である。裁判が終わった後、裁判官から原告の携帯にショートメールが入り(それだけでも大問題なのだが)、"How much is it?"と尋ねてきた、という話もあるらしい。インドネシアでビジネスローに強い弁護士事務所は、汚職に巻き込まれたくないため、裁判を引き受けてくれない傾向がある。そのため、インドネシア企業と取引する場合には、仲裁地としてシンガポールなどを選択するとよい

 【3.タイ】
 (1)タイでは、製造業は100%外資による参入が可能であるのに対し、サービス業は49%に制限されている。ただ、法律上、サービス業の明確な定義はない。実務では、サービス業は非常に広くとらえられており、機械装置の設置、修理、保全、アフターサービス、リース、賃貸は全てサービス業とされる。49%だと過半数が握れないと思われるだろうが、実はここに1つからくりがある。外国人事業法が定める49%とは、株式の数のことであり、議決権の数ではない

 例えば、日本企業が株式数の49%を、タイ企業が株式数の51%を保有するタイの現地子会社があったとする。ここで、日本側の株式を「1株2議決権」、タイ側の株式を「1株1議決権」(または、日本側の株式を「1株1議決権」、タイ側の株式を「2株1議決権(1株0.5議決権)」)とすれば、日本企業は議決権ベースで過半数を握ることができる。この抜け穴は実際に結構使われており、今のところ摘発事例もないという。ただし、タイ政府は外国人事業法を改正する方向で動いているようだ(2015年に改正予定だったが、外資企業の反対で延期された)。

 (2)これはタイに限った話ではないが、現地パートナー企業と合弁会社を設立する場合、「解除できない」、「別れられない」契約を結ぶのは最悪である。赤字が何年続いたら合弁を解消するなどの基準を契約で明確にするべきだ。その際、競業避止条項や秘密保持条項も盛り込んでおく。また、解消時の株式の売却/取得価格の決定方法にも触れる必要がある。日本人はよく、契約書の条文で紛争が解決できなかった場合は「両者協議の上決定する」などと書いてしまう。しかし、これでは「協議しても決まらなかった場合」にどうすべきかが解らない

 なお、日本では出資比率が3分の2以上であれば、株主総会の特別決議を単独で実施できるが、タイ、インドネシア、インド、ベトナムでは、3分の2以上ではなく4分の3以上が要件となっている。この点にも注意されたい(以前の記事「『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』(経済産業省)の補足」を参照)。

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