プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年06月08日

『死の商人国家になりたいか(『世界』2016年6月号)』―変わらない大国と変わり続ける小国、他


世界 2016年 06 月号 [雑誌]世界 2016年 06 月号 [雑誌]

岩波書店 2016-05-07

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 (1)「死の商人国家になりたいか」という特集タイトルには、2014年4月1日に安倍内閣が「防衛装備移転三原則」を閣議決定したことを受けて、「日本が世界で人々を殺すことによって儲けるようになってもよいのか?」という批判の意味が込められている。本号では安倍内閣の閣議決定が様々な記事でやり玉に挙がっていたが、実は1967年に佐藤栄作が打ち出した「武器輸出三原則」を最初に改定したのは、民主党の野田内閣である。

 2011年12月17日、野田内閣は①平和貢献・国際協力に伴う案件は、防衛装備(=武器)の海外移転を可能とする、②目的外使用・第三国移転がないことが担保されるなど厳格な管理を前提とする(目的外使用・第三国移転を行う場合は日本の事前同意を義務づける)、③安全保障面で協力関係にある国で、共同開発・生産が我が国の安全保障に資する場合はそれを推進する、という新方針を発表した(小野塚知二「武器輸出とアベノミクスの破綻」)。

 そもそも、武器輸出三原則の緩和を本気で検討し始めたのは、民主党の方である。鳩山内閣時代には、防衛計画の大綱に武器輸出三原則の改定検討を盛り込むとの発言があった(実際には社民党の反発で見送られた)。改革の流れは菅内閣の時期に一時頓挫したが、野田内閣になって武器輸出三原則の改定が実現したというわけである。この流れをほとんど無視して、安倍内閣ばかりを批判するのはバランスを欠くのではないかという気がした。

 憲法9条に固執する左派は日本の平和主義を誇りに思い、世界中から武器がなくなれば戦争は起きないと本気で信じている。しかし、こういう発想は、以前の記事「『共産主義者は眠らせない/先制攻撃を可能にする(『正論』2016年5月号)』―保守のオヤジ臭さに耐えられない若者が心配だ、他」で書いたように、世界中の他の人々が同じように考えてくれることが前提である(この点で思想的ファシズムなのだが、戦争=暴力を伴わないという点で、穏健的なファシズムとでも呼ぼうか)。1人でも「私には武器が必要だ」と信じた時点でシステムは破綻する。

 左派も、国家には固有の権利として自衛権があることにまで反対する人はさほど多くない(自衛隊を日本からなくせと頑なに主張する一部の左派を除く)。各国は、自衛の範囲で武器を有する。だが、世界各国が自衛のための最小限の武力しか持たず、相手国を攻撃する意図を持たないならば、そもそも自衛権など不要である。実は、自衛権という名目で一定の武力の保有を認めた瞬間、自衛の範囲を超えた武力を持とうとする国が現れることを覚悟しなければならない。

 ある国に自衛以上の武力があるのではないかという不信感が生じた時点で、周囲の国は自衛能力を高める。それらの国の動きに不信を抱く別の国もまた、自衛能力を高める。だが、どこまでの武力が自衛用で、どこからの武力が攻撃用なのかを識別することは難しい。各国の間では、武力拡大競争が加速する。このまま軍拡競争を続けると戦争になるという危機感が各国間で共有されれば、交渉によって相互の信頼を修復し、軍縮に至る。しかし、その交渉に失敗すれば、やはり戦争は起きる。逆説的だが、自衛権を認める限り、戦争は不可避である。

 日本とドイツは、敗戦後一切の軍備と兵器産業が禁止されただけでなく、民間航空も含む一切の航空機の開発・製造も禁止された。しかし、冷戦や朝鮮戦争によって、アメリカの前進基地としての機能を強化され、米軍兵器の製造・修理を担うこととなり、両国で再軍備が進められて冷戦体制に組み込まれていった(小野塚知二「武器輸出とアベノミクスの破綻」)。この一例からも解るように、一部の国から完全に武力を取り除いたところで、世界の戦争は防止できない。

 《2016年8月13日追記》
 創価学会の池田大作氏は、イギリスの歴史学者アーノルド・トインビーとの対談の中で次のように語っている(対談の様子は『二十一世紀への対話(中)』に収録)。『世界』2016年9月号からの孫引きになってしまう点をお許しいただきたいが、以下に引用する。
 問題は、あらゆる国が他国からの侵略を前提として自衛権を主張し、武力を強化しており、その結果として、現実の国際社会に人類の生存を脅かす戦争の危険が充満していることです。しかし、この国際社会に存在する戦力に対応して”自衛”できるだけの戦力をもとうとすれば、それはますます強大なものにならざるをえません。それゆえ、武力による自衛の方向は、すでに行き詰まっているといえましょう。
世界 2016年 09 月号 [雑誌]世界 2016年 09 月号 [雑誌]

岩波書店 2016-08-08

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 (2)本ブログで何度も書いてきたことだが、大国はわざと二項対立の状況を作り出し、その双方に賭けることで、どちらが勝っても利益が得られるようにしている。伝統的に、ヨーロッパの大国は二項対立の双方に堂々と賭ける傾向がある。イギリスのロスチャイルド家が日露戦争の時にロシアと日本の両方に投資していたことは、以前の記事「『安保法制、次は核と憲法だ!/「南京」と堕ちたユネスコ・国連/家族の復権(『正論』2015年12月号)』」で書いた。イギリスは第1次世界大戦後に中東で「三枚舌外交」を展開し、アラブ世界の対立を煽った。

 イギリスはアメリカの最重要同盟国である。にもかかわらず、中国がAIIBの設立を発表した際、アメリカを怒らせると解っていながら、設立メンバーに名を連ねた。イギリスの動きに呼応するように、ドイツなどのいわゆる旧西側諸国もAIIBに加わった(ドイツも近年は中国に急接近している)。イギリスは何とも老獪な外交を展開するものだ。もう1つのかつての大国・フランスは、兵器の輸出大国である。輸出先の1位はアラブ首長国であるが、2位は何と中国だ。1989年の天安門事件以降、EUは対中国武器禁輸措置を続けていたのに、フランスはその規制をすり抜けていたという(谷口長世「国際テロの巣窟の街で眺めた素顔の軍産複合体」)。

 ヨーロッパに比べると、アメリカは堂々と二項対立の双方に賭けるようなことは少ないいように思える。とはいえ、対立する一方に過度に肩入れすることで、アメリカに反発する勢力を生み出し、それが助長するのを放置して、結果的に二項対立状態になるように仕向けることに関しては天才的かもしれない。イランを支援してホメイニを生み出し、イラクを支援してフセインを生み出し、アルカーイダを支援してビンラディンを生み出し、さらにはISを生み出した(以前の記事「マイケル・ピルズベリー『China 2049』―アメリカはわざと敵を作る天才かもしれない」を参照)。

 だが最近、崎谷博征『医療ビジネスの闇―”病気産生”による経済支配の実態』(学研パブリッシング、2012年)を読んでいて衝撃だったのは、アメリカのロックフェラー家がナチス・ドイツに対して資金援助していたという事実である。かつてドイツには、IGファーベンという、ドイツ化学製薬関連企業のカルテルが存在した。ナチス政権が誕生すると、爆薬や合成ガソリンを100%製造する工場となった。さらには、強制収容所で新薬を用いた人体実験を行った。強制収容所では毒ガスが用いられたという話をよく聞くが、この毒ガスの特許はIGファーベンのものだった。

医療ビジネスの闇―“病気産生”による経済支配の実態医療ビジネスの闇―“病気産生”による経済支配の実態
崎谷 博征

学研パブリッシング 2012-03

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 そして、このIGファーベンに多額の資金援助を行っていたのが、ロックフェラー財閥であった。ロックフェラー財閥は、ロスチャイルド財閥のモルガングループの協力を得て、IGファーベンの最大の資金供給者となった。さらに、IGファーベンとロックフェラー財閥傘下のスタンダード・オイルは、お互いの株式を持ち合っていた。ロックフェラー財閥にしてみれば、第2次世界大戦でアメリカとドイツのどちらが勝とうとも、必ず儲かるようになっていたわけだ。

 《2016年10月13日追記》
 もう1つ、アメリカの狡猾な戦略を、佐藤優『国家と神とマルクス―「自由主義的保守主義者」かく語りき』(角川文庫、2008年)より引用しておく。日露戦争時のアメリカの動きである。
 とくにそれが顕著に現れたのがポーツマス会議をめぐるアメリカの不誠実な対応です。日本人はポーツマス会議において、アメリカは日本のために仲介の労を取ってくれた、と言うが、もう1つの出来事を忘れていると大川(周明)は指摘します。

 ポーツマス会議と同時期にアメリカの鉄道王ハリマンが日本に来て、当時の政権を騙して南満州鉄道を買い取るという契約を締結した。これに対して小村寿太郎(外務大臣)が日本に帰ってきてカンカンになって怒った。(中略)小村寿太郎の剣幕に驚いた桂太郎はハリマンとの合意を反故にします。しかし、それでもアメリカは執拗に満州の鉄道利権を確保しようとします。それにより、世界を一周する交通網をアメリカの手に握ろうとしたからです。
国家と神とマルクス  「自由主義的保守主義者」かく語りき (角川文庫)国家と神とマルクス 「自由主義的保守主義者」かく語りき (角川文庫)
佐藤 優

角川グループパブリッシング 2008-11-22

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 これが、大国の思考パターンである。日本は、諸外国が積極的に武器輸出をしているから、それに倣って武器を輸出しようなどと考えると、とんでもない過ちを犯す。小国である日本に、大国の真似は簡単にはできない。本ブログで何度も書いてきたことの繰り返しになるが、小国の戦略的ポジショニングは、大国の力を過信して、二項対立の一方にどっぷりと入り込むことではない。そういう選択肢をとった国は、最終的には悲惨な運命をたどっていることは、中東を見ればよく解る。中東各国は、欧米の二項対立に翻弄され、彼らの思うツボとなっている。アジアでも、近年は韓国と北朝鮮の対立が深刻で、武力衝突の可能性が高まっている。

 小国の戦略は、大国双方からの相反する強烈なアプローチを上手くいなしながら、「二項混合」状態を作り出すことである。別の言い方をすれば、どちらの見方をしているのか、本音を諸外国に見せないことである。例えばオーストラリアは、日米と軍事協力を強化する一方で、年間100隻以上の軍艦が往来するダーウィン空港を中国企業に99年間貸し出す契約を結んだ(望月衣塑子「国策化する武器輸出」)。中国に機密が流出するリスクがある契約を結んだオーストラリアの本音はよく解らないと本号には書かれていたが、小国としてはそれでよいのである。そして日本は、オーストラリアのこの決断の意味を分析し、自国の戦略に活用しなければならない。

 戦後ずっとアメリカにベッタリだった日本の戦略は、そろそろ限界に来ていると感じる。中国が南沙諸島の軍事施設を既成事実化して批判を浴びているが、国際法は既成事実に対して極めて弱い。このことは、アメリカのイラク戦争やロシアのクリミア編入に対して国際法が無力だったことによく表れている。中国の行動が脅威なのは、シーレーンが中国に抑えられる可能性があるためである。だが、残念ながら中国の行動は既成事実として認められる可能性が高い。それならば、中国の暴走を止めるにどうすればよいか?ではなく、中国が日本にシーレーンを使わせてくれるためにはどうすればよいか?という発想で対中戦略を練る必要があるだろう。

 あとは、多元外交を展開することである。北朝鮮が危ないからという理由で中国に近づき、中国が危ないからという理由でロシアに近づく。逆に、ロシアが危ないからという理由で中国に近づく。こういう、全体としては論理的整合性がとりにくく、よく言えば複眼的な、悪く言えば場当たり的な外交で、日本の本音を隠す。本号では、「大国は好き勝手に(政策・立場を)変えられる。小国の唯一の力は変わらないことだ」というベルギーのマルテンス元首相の言葉が紹介されている(谷口長世「国際テロの巣窟の街で眺めた素顔の軍産複合体」)。だが、変わらないのは二項対立的発想を貫く大国の方であって、小国こそ態度を頻繁に変えなければならないと考える。

 (3)景気対策には、大別すると2パターンがある。1つは需要を刺激するタイプであり、1930年代後半のアメリカの後期ニューディール政策、同時期のフランス人民戦線政府の経済・社会政策、戦後欧米や日本の高度成長期に採用された。もう1つは投資を刺激するタイプで、1920年~30年代のイタリア・ファシスト政権、同記事のソ連(2度の5か年計画)、1930年代中盤以降のナチス・ドイツが挙げられる(小野塚知二「武器輸出とアベノミクスの破綻」)。

 アベノミクスは両者をミックスしたものとなるはずであった。まず、日本銀行の異次元緩和政策により円安を演出し、株高を誘導する。株主はキャピタルゲインを得ることができる。同時に、市中に流出した資金が企業の設備投資に向かい、供給が増加する。国民は株で儲かっているから、消費も伸びる。これが安倍内閣のシナリオであった。この手法は何も安倍内閣のオリジナルではなく、ドル基軸国であるアメリカが自国の景気をかなりの程度まで自由に操るために長年採ってきた戦略である(ブログ旧館の記事「アメリカ金融帝国主義が本当なら経営学は何のためにあるのか?―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』」を参照)。

 だが、日本とアメリカでは決定的な違いがある。アメリカの株式保有比率を見ると、個人投資家が保有比率が約4割で最も多い。次が、個人投資家の間接的な株式所有とも言える投資信託で、約2割である。外国人投資家の保有比率は1割強にすぎない(アダム・スミス2世の経済解説「アメリカ株価上昇の原因 バブルか否か?」〔2013年3月16日〕を参照)。日本の場合は、外国人投資家の割合が3割を超える一方、個人投資家の割合は2割弱にとどまる(日本取引所グループ「2014年度株式分布状況調査の調査結果について」〔2015年8月13日〕より)。

 つまり、アメリカの株価が上がればアメリカ人は儲かるが、日本の株価が上がっても日本人は恩恵を受けることができない。儲かるのは外国人ばかりである。アベノミクスが海外では高評価を受けるのは、このような背景がある(それでも、最近はだんだんとメッキがはがれてきた)。日本人の消費は増えないのに、異次元緩和の影響で設備投資は増えて供給量が増す。需要が増えないまま供給だけ増えるのだから、インフレに向かうはずなどない。

 一般の方々には馴染みのない話で恐縮だが、政府はここ数年、中小企業向けに「ものづくり補助金」を出している。平成24年度の補正予算から始まって既に4年目であり、毎年1,000億円程度の予算がついている。最初の頃は新製品の試作開発を支援するのが目的であったが、平成27年度の補正予算で実施されているものづくり補助金は設備投資に対する補助金であると明言されている(原則として補助上限1,000万円。事業内容によっては上限3,000万円)。

 中小企業庁「平成26年度版中小企業白書」によると、中小企業の設備投資額は年間約10兆円である。よって、ものづくり補助金はその約1%を賄う計算となる。私は、市場の失敗をカバーする補助金の額は、市場規模全体の1%にとどめるべきだと”感覚的に”思っている(論理的根拠がなくて申し訳ない。以前の記事「「開業率アップ」を掲げながら創業補助金には及び腰になった中小企業庁」を参照)。ものづくり補助金だけを見ればその規模は適正だが、設備投資に関しては他にも数え切れないほどの補助金が国、都道府県、市区町村レベルで存在し、トータルで見ると大盤振る舞いである。しかし、前述の通り、今は需要が伸びていない。この状況で設備投資を増やすと、さらに供給過多になるだけでなく、将来の設備投資を先食いする危険性がある。

 私の知り合いの中小企業診断士の中には、都市銀行に勤務している方もいる。都市銀行はいよいよ、企業に融資することも止めたという。なぜなら、マイナス金利のせいで、銀行がお金を払ってお金を貸さないといけないからだ。融資の源泉となる預金に対しては、いくらマイナス利息だからと言っても、利息をつけないわけにはいかない。すると、銀行は預金者にも企業にもお金を払うことになる。これでは、銀行のビジネスモデルが成り立たない。需要サイドも供給サイドもお金の流れが止まる。人間で言えば、動脈と静脈の流れが同時に止まるようなものである。

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