プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年06月15日

『心を動かすデジタルマーケティング(DHBR2016年6月号)』―中小企業はもっと規模の成長を目指した方が色々と有利だと思う、他


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○【組織のマネジメント】企業短命化の時代 生物学に学ぶ企業生存の6原則(マーティン・リーブス、サイモン・レヴィン、上田大地)
 ビジネス界の複雑適応系の場合、リーダーは自社が3つの面で十分な多様性を維持するよう万全を期さなくてはならない。3つの面とは、「人材」「発想」そして「取り組み」だ。これは短期的には効率性の低下というコストを伴うかもしれないが、生命力を高めるには不可欠である。
 冗長性を持つ系では、同じ働きをする構成要素が複数存在する。どれか1つが失敗しても、別の構成要素がその機能を実行する。反動ショックが頻繁に発生するような、非常に動きの激しい環境において、冗長性はとりわけ重要となる。
 中小企業診断士の身でありながらこんなことを言うと、各方面から厳しいお叱りを受けるかもしれないが、私は個人的に、中小企業はもっと規模の成長を追求するべきだと思う。中小企業の決算書を見せてもらうと、毎年売上高が数億円あるのに、税引き前当期純利益がほぼゼロという決算書が非常に多い。この場合、法人税を支払いたくないからという理由で、わざと利益が出ないように操作されている。しかし、ピーター・ドラッカーが「利益は将来のコストである」と言ったように、利益を出さなければ最低限の設備更新もできない。稲盛和夫氏は、「どんな事業でも、経常利益率が10%以上なければ、それは経営とは呼べない」とさえ述べている。

 診断士という仕事柄のせいか、中小企業向けの補助金に関与する機会が増えた。補助金は、中小企業が新しい分野に挑戦するためのリスクマネーを供給するのが本来の役割である。たいていの補助金では、採択されると企業名と事業計画名が公表される。私はその事業計画名をよく眺めているのだが、明らかに単なる設備の入れ替えにすぎないものや、競合他社が既に導入済みの機械について、自社が競合他社にキャッチアップするためにその機械を導入するだけというケースが散見される。そういう企業に血税を注入するのは筋違いだと思う。

 企業は、将来の設備更新や新規設備投資に必要なコストを想定し、それをカバーする利益を出すための戦略を構想し、それを事業計画に落とし込んでPDCAサイクルを回す必要がある。これは経営者としての本当に最低限の使命である。それを放棄して、税金を払いたくないからと言って毎年の利益がほぼゼロになるように調整しているくせに、設備投資の資金がないので補助金がほしいなどと考える企業がいるとしたら、あまりにも虫がよすぎると喝を入れたい。

 将来の設備投資を見据えた利益は最低ラインであって、私はそれ以上に、中小企業はある程度規模の拡大を追求するべきだと思う。中小企業にはニッチ市場がふさわしいと主張する診断士は多いが、ニッチ市場は予期せぬ外部環境の変化によって、一瞬で吹き飛ばされるリスクがある。予期せぬ外部環境の変化とは、市場に関する法律・規制や各種標準・規格の変更、異業種からの参入、代替品の登場などである(このうち、代替品の登場が一番予測しづらく、かつ代替品が登場した時に既存企業が受けるダメージが大きい)。ニッチ市場だけで生きてきた中小企業は、こうした変化に対して無力である。だから私は、ニッチ戦略はあまりお勧めしない。

 むしろ逆に、製品・サービスの多角化を推奨する。私が本ブログでよく用いる「一神教⇔多神教」の考え方に基づけば、多神教文化の日本企業は、自社に宿る神=コア・コンピタンスが何であるかを知るために、多様な神を宿す多様な顧客と関係を構築し、異質からの学習を行う必要がある。そして、その過程で製品・サービスが多様化する。ただ、そこまで言わなくても、引用文にあるように、生き残る組織は多様性と冗長性を備えているものである。製品・サービスが多様であれば、1つの製品・サービスがダメになっても他の製品・サービスでカバーできる。ただし、多様な製品・サービスを揃えるためには、組織の規模を大きくしなければならない。

 組織規模を大きくすれば、海外事業やイノベーションにも投資しやすくなる。日本市場が成熟し、人口減少に突入しているため、代替市場として海外市場の獲得を検討している中小企業は多い。海外に打って出るためには、現地に日本人社員を送り込まなければならない。しかも、エース級の人材を投入する必要がある。ところが、規模が小さい企業では、エース級の社員を1人海外に送っただけで、国内のオペレーションがガタガタになってしまう。したがって、組織規模を大きくして、エース級の人材を何人も育成しておくことが肝要である。

 イノベーションへの投資も重要である。私が考えるイノベーションの定義は、以前の記事「戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(1)(2)」を参照していただきたいのだが、一番重要だと思うのは既存の製品・サービスに対する代替品を自ら開発することである。イノベーションは成功率が非常に低い。何十、何百とやって、やっと1件成功するかという世界である。だからと言って、自社のリソースに限りがあるという理由で、その何百ものアイデアを順番に行うようでは遅すぎる。必然的に、何件もの開発プロジェクトを同時並行で走らせることになる。それだけの体力があるのは、一定の規模がある企業に限られる。

 規模が大きい企業は、組織の階層やポジションも多くなる。実はこれも非常に重要である。マズローの有名な欲求5段階説は、最高位に自己実現を置いている。しかし、実際には、その1つ下にある承認の欲求を重視する人が世の中の大半であると言われる。つまり、我々は他人から認められたいのである。とりわけ、自我を確立するために他者の存在を必要とする日本人にとって、この点は深刻である(以前の記事「『百術は一誠に如かず(『致知』2015年9月号)』―「生命は/その中に欠如を抱き/それを他者から満たしてもらうのだ」、他」を参照)。

 日本人は肩書きによって強く動機づけされる。だから、日本企業は「部長付」とか「課長代理」という名前のポジションを作ってまでして、社員をどんどんと昇進させてきた(もちろん、部長付や課長代理の職務範囲や責任が不明確という問題はある)。社員に多くのポジションを用意できる企業とは、それなりに規模が大きく、やさしい仕事から難しい仕事まで、様々な仕事がある企業である。これが規模の小さい企業だと、仕事のバラエティが乏しく、いつまで経っても社員が昇進できない。社員のモチベーションを維持するという観点からも、小さすぎる企業は不利である。

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○10億超のビッグデータの分析で解明 買いたい気持ちを科学する(スコット・マギッズ、アラン・ゾーファス、ダニエル・リーモン)
 我々の考えでは、顧客がブランドと感情的につながるのは、そのブランドが自分の購入動機とうまく合致し、深く、そしてしばしば無意識の欲求を満たす助けになる場合である。
 昨今の企業は、製品・サービスの機能面に関する顧客の欲求を満たすだけでなく、感情面の欲求も満たす必要がある。本論文の著者は、そうした感情面の欲求を整理して、「感情誘因」を300以上特定したという。論文では、代表的な10の感情誘因が紹介されていた。

 ・注目される存在でありたい。
 ・将来に希望を持ちたい。
 ・幸福感に浸りたい。
 ・解放感を得たい。
 ・感動や興奮を味わいたい。
 ・帰属意識を持ちたい。
 ・環境を守りたい。
 ・望む通りの自分でありたい。
 ・安心感を得たい。
 ・人生で成功したい。

 感情的なつながりを重視するという意味では、従来から「顧客生涯価値(LTV)」という概念が用いられていた。過去の購買履歴などから、それぞれの顧客が生涯に渡って自社にどれぐらいの収益をもたらしてくれるのかを予想するモデルである。これを発展させて、「顧客紹介価値」なるものを提唱した論文もあった(旧ブログの記事「「金になる顧客」と「金を連れてくる顧客」」を参照)。つまり、良質な顧客を自社に紹介してくれる顧客も重要な顧客として扱うわけである。

 顧客生涯価値にしろ顧客紹介価値にしろ、新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持に力点を置いている。これは、既存顧客を維持するコストの方が、新規顧客を獲得するコストよりもはるかに低いからである(一説には約5分の1と言われる)。しかし、どんなに既存顧客との関係を重視しても、毎年一定数の既存顧客が離れていくことを止めるのは難しい。一方で、企業全体としては成長が求められるから、離反する既存顧客を上回る新規顧客を獲得する必要がある。

 本論文は、感情誘因を用いて、潜在顧客の感情誘因を特定し、自社が重視する感情誘因を持つ潜在顧客に対して効果的にマーケティングを行うことを推奨している。例えば、自社の重要顧客の感情誘因と同じ感情誘因を持つ人々が多く住むエリアを特定し、流通チャネルや店舗を整備する、感情誘因が共通する人々に向けてカスタマイズされたプロモーションを展開する、といった具合である。ただ、よく考えると、感情誘因に基づくマーケティングとは、心理的(サイコグラフィック)変数に基づくセグメンテーションのことではないかという気もする。

 私が勉強不足であるだけなのだが、心理的変数で市場をセグメンテーションし、潜在的な市場規模を求めようとしても、例えば「注目される存在でありたい」という感情誘因を持つ人がどれぐらいいるのかを直接的に知るのは容易ではない。結局、心理的変数を統計的に把握可能な別の変数に置き換えなくてはならない。「注目される存在でありたい」という感情誘因は、例えば「40代で部長職以上にある年収1,000万円以上の人」といった具合に読み替える。しかし、この読み替えを行った時点で、感情誘因の重要度はどうしても下がってしまう。

 ただし、最近はソーシャルメディアで人々が感情的なメッセージをたくさん発信しているから、それを解析すれば個々のユーザの感情誘因を特定し、それを活用できるのかもしれない(twitterやfacebookなどが外部企業に対してユーザのデータを販売してくれるかかどうかは別として。また、企業がtwitterのつぶやきから重要顧客と判断したユーザについて、住所やメールアドレスを解析し、DMを一方的に流すことの倫理的問題はないのかという点も別として)。だが、それをやるには一定のIT投資が必要となる。そういう意味でも、最初の話に戻るが、中小企業はマーケティングへのIT投資ができるくらいの規模に成長する必要があると思う。

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