プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年07月11日

『組織の本音(DHBR2016年7月号)』―「明確なビジョンを掲げ、短期間で成果を出す」というアメリカ流の経営には飽きた


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年7月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年7月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2016-06-10

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○LIXIL経営の5年間から変革を語る 日本企業は変われるか(藤森義明)
 コンフォートゾーンを破れるのは、大きなビジョンとそれに基づく極端なストレッチ目標でしかありません。中途半端なストレッチ目標では、コンフォートゾーンは破れません。
 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2015年12月号で、LIXILグループ執行役員副社長・八木洋介氏の「日本企業は「継続性のマネジメント」から脱却せよ 守りの人事から攻めの人事へ」という記事を読んだ。八木氏は、LIXILの代表取締役である藤森義明氏と同じく、ゼネラル・エレクトロニクス(GE)出身である。GE流の経営を徹底的に叩き込まれた八木氏は、日本の終身雇用や年功序列が合理性を欠いていると厳しく批判していた。

 その頃の私は、終身雇用には確かに賛同しかねるものの、日本で最も(いや、おそらく世界でも最も)公平な人事評価制度は年功序列ではないかと考えるようになっていた。そのため、LIXILの経営方針と私の考えとは相容れないと感じた(以前の記事「『戦略人事(DHBR2015年12月号)』―アメリカ流人材マネジメントを日本流に修正する試案」を参照)。

ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 12 月号 [雑誌]ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2015年 12 月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-11-10

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 LIXILのここ5年の経営を簡単にまとめると次の通りである。藤森氏を中心とする経営陣が強力なリーダーシップを発揮して、明確なビジョンを設定する。それも、ちょっとやそっとの努力では達成できないような高いハードルを課す。そのビジョンについて来ることができる人材は残すが、それ以外の社員には退場してもらう。急速な成長を実現するために、M&Aを積極的に行う。また、旧来の組織風土を壊すために、外部から経営人材を招聘する。そして、3~5年という短期スパンで結果を目指す。そして実際、経営陣は(いくつかの失敗はあったとはいえ、)総じて大きな結果を出すことができた。このインタビュー記事はそう言っているかのようであった。

 20代の頃の私であれば、こういう経営を絶賛しただろう。だが、最近の私は、アメリカ流の経営手法に辟易しつつある。もっと過激な表現をすれば、そういう経営手法は底が浅いと感じるようになった。2014年8月に、「私の仕事を支える10の価値観(これだけは譲れないというルール)」という記事を書き、1つ目の価値観として「努力に惚れるのではなく、成果が出る努力をする。成果が出なければ努力を諦める」というものを挙げたのだが、この時は成果を出すまでの期間として3年程度を想定していた。しかし、この価値観はどうやら修正が必要である。

 3年で出せる成果というのは、大したものではない。この道でやって行けるかもしれないという目途が立つ程度の成果でしかない。10年ぐらい続けると、ようやく1人前になれる。しかし、ただの1人前では他にも1任前の競争相手がたくさんいるから負けてしまう。だから、競争を勝ち抜く、あるいは独自のポジションを築くためには、1人前になった後も並々ならぬ努力を続けて、一流、もしくは超一流を目指さなければならない(以前の記事「新入社員が「即戦力」とか「3年でプロ」とか「自己実現」とか言ってはいけない」を参照)。

 手前味噌で恐縮だが、私はブログを書き始めて今年で12年目になる。最初の頃は、今振り返ると見るも無残な記事を書いていた。それなりの長文が書けるようになったと初めて手ごたえを感じたのは、ブログを始めてから約3年半後に「功ある者には禄を、徳ある者には地位を-『人事と出世の方程式』」という記事を書いた時である。この記事は約4,000字と、当時の私にとってはかなり長文であった。この記事を書き終わった後、長文の記事はどういうふうに構成を練り、どのように筆を進めればよいのか、何となくコツが解ったような気がしたのを今でも覚えている。

 その後は、アメリカ流の経営学に毒された記事を書き続けていた。しかし、2012年頃に自分の姿勢に疑問を感じ、もっと日本の価値観を反映させた自分なりの経営学を打ち立てる必要があるのではないかと考えるようになった。そこで、旧ブログは2012年いっぱいで終了とし、現在のブログを新たに立ち上げた。現在のブログでは、以前は書かなかったような歴史、政治、哲学などの記事を意図的に増やすようにしている。もちろん、私はこれらの分野の門外漢なので、とんちんかんなことを書いて、裏で笑われているかもしれない。それでも、ここ2年ぐらい、ようやくオリジナリティのある記事が書けるようになったと感じる。ここに至るまで、実に10年かかった。

 LIXILの話に戻そう。藤森氏は、アメリカ流の経営手法で、3~5年スパンで成果を出すことにこだわった。しかし、短期間で出した結果は、崩れるのも早いのではないかと思う。日本には「築城3年、落城3日」という言葉がある。これは、何事も成果を出すには長い時間がかかるが、ちょっと油断すれば、その成果はいとも簡単にフイになるという意味で用いられる。だが、見方を変えると、「3年程度で出した成果は、3日で崩れるほどもろい」というふうにも解釈できる。

 LIXILは住生活に関する製品・サービスを提供する企業である。住生活というのは、人々の文化と密接に結びついている。では、日本人の文化の本質とは一体何なのか?その文化に適合した住生活とはいかなるものなのか?また、将来的に日本が迎える少子高齢社会を見据えた場合に、住生活はどのような方向に変化するのが望ましいのか?その新しい住生活を支える製品・サービスはいかなるものであるべきか?デザイン、原料の選定や加工プロセスには、日本人らしい価値観をどのように反映させるのか?営業担当者は、日本人の価値観に裏打ちされた製品・サービスの”重み”をどのようにして顧客に訴求していくのか?

 これらの問いに1つ1つ答え、その答えを現場の隅々にまで丁寧に織り込み、1人1人のマインドに組み込んでいく。それに際して、LIXILは自社社員の特質や価値観をどのように認識しているのか?社員はLIXILに何を期待しているか?LIXILが社員に対する新しい期待を伝えた場合、社員の価値観と齟齬をきたさないか?その齟齬はどのように乗り越えていくのか?逆に、社員の価値観や能力を活用する形で、新しい製品・サービスをデザインすることはできないか?組織が人間から学ぶべきことはないか?このような”人間に関する問い”と向き合う必要がある。

 企業は、その企業単体で完結する単純なシステムではない。外注先や仕入れ先、販売代理店などを含む複合的な有機システムである。そして、システムを構成するそれぞれの企業にも、同じように社員がいる。したがって、上記のようなダイアローグ(対話)は、これらの企業にも拡張する必要がある。LIXILは、外部のシステム構成企業の性質や企業風土をどのようにとらえているか?彼らと対話を行った場合、どのような反応が予想されるか?彼らとのやり取りを建設的な方向に活かすためにはどうすればよいか?このように、問いは次から次へととめどなく生じるものである。変革の成果を3年程度で出してハイおしまい、というわけにはいかない。

 《2017年4月12日追記》
 『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号の特別対談「イノベーションこそが国を豊かにする!」(野中郁次郎、米倉誠一郎)より引用。
 野中:暗黙知を他の人と共有し合いながら新しい知を作ってイノベーションを起こすためには、文脈を読み取り、複雑な関係性のなかから本質をつかむ構想力が必要です。新製品開発ひとつをとっても、消費者の置かれた環境や、その背後にある時代の変化を捉えることのできる大きな視野を持ち、そもそも、そういう商品を開発することが社会的によいことなのか、という価値判断もしなければならない。そこには哲学や歴史や文学といったリベラルアーツが欠かせません。
一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 LIXILは国内市場は成長が見込めない(もしくは、上記の問いに答えられない?)という理由で、海外市場での成長を目指し、積極的なM&Aを行った。海外で事業を拡大するにしても、同じような問いの海外版に直面する。日本人の文化を深掘りするだけでも大変なのに、諸外国の文化を1か国ずつ考察するとなれば、おそらく気の遠くなるような時間が必要となる。仮にそういう手間をすっ飛ばして、海外事業を単に業績をかさ上げする手段として扱うならば、LIXILは数年後に業績が芳しくない海外事業のいくつかを簡単に手放すと容易に想像できる。

 今回のインタビュー記事を読むと、藤森氏は5年間でそれなりの成果を残したことになっている。繰り返しになるが、藤森氏の経営はアメリカ流である。アメリカ流の経営の評価は、株式市場が決める。ところが、LIXILの株価を見ると、直近では日経平均より44%も低いとコラムに書かれていた。アベノミクスで大企業の株価が軒並み上昇した中でこの結果になっていることは、アメリカの尺度で評価すればとても成功とは言えないだろう。それなのに、このコラムは、藤森氏の「変革マインドの植えつけ」は、学術的な観点から見ても意味があった、などと書いている。

 藤森氏は5年間の心残りとして、「自分の後継者を内部から登用できなかったこと」と語っている。実は、GEの経営の神髄は、経営トップを長期的に内部育成する点にある。事実、歴代のCEOは全員内部昇格である。GEでは社員が30代の頃から、将来有望と思われる人材に目をつけ、長期的な育成計画を立てる。小さな事業のマネジャーからスタートし、徐々に大きな事業の責任を負わせる。こうして、10年、20年がかりで経営者を育成するのがGEだ。しかし、藤森氏の5年間の経営にはこれがなかった。LIXILはそう遠くない将来に、「財を残すは下、業を残すは中、人を残すは上」という後藤新平の有名な言葉の重みを知ることになるかもしれない。

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○【インタビュー】アニメーション業界の常識に挑む 創造の熱量は仕組みから生まれるか(塩田周三)
 藤森氏が5年間の成果を強調しているのに比べると、ポリゴン・ピクチュアズの代表取締役社長である塩田周三氏が自社の問題を正直に告白していることには好感が持てる。ポリゴン・ピクチュアズは、アニメーション制作というクリエイティブな職場に、製造業の効率化手法を持ち込むなど、ユニークな経営を行っている。また、『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』などで、テレビ界のアカデミー賞として知られる「デイタイム・エミー賞」を受賞していることでも知られる。
 熱量が失われてはモノづくりはできません。それは絶対に失ってはいけないものです。ただ、組織がここまでの規模になると、熱量だけで何でも乗り越えられる段階でもありません。そこは本当に悩んでいます。
 でも、いまは皆、東洋のピクサーになってはいけないと思っています。自分たちがなりたいものを、みずから創造しなければならないステージがやってきたのです。そう考えると、夢として語れるものがなくなった現状を変えることが現在の課題です。
製品・サービスの4分類(修正)

 またしてもこの図を使うことをお許しいただきたい(詳細については、以前の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」などを参照。何度も言うが、この図は未完成である)。

 各象限では、組織構造に大きな違いが見られる。日本企業が得意とする右下の象限では、年功序列的な組織が一般的である。社員は1つの企業に長く務める傾向がある。これは、同じ分野の製品・サービスであっても、顧客のニーズには相当な幅があり、難易度が低いものから高いものまで大きな差があることに起因する。自動車には大衆車から高級車まで幅がある。BtoBのIT業界では、簡単な業務システムから企業横断型の複雑な基幹システムまで幅がある。医療業界では、治療が優しい疾病から高度な技術を要する疾病まで幅がある。社員は、長い時間をかけて自らの能力を少しずつ磨いていく。よって、自ずと年功序列的で多重階層の組織になる。

 これに対して、左下の象限は、顧客ニーズにそれほど大きな差がない。もちろん、高級な食品や高機能な家電を求める顧客層は一定数存在するが、食品や家電の価値のばらつきは、企業情報システムの機能のばらつきほどではない(日本の家電メーカーは、家電に独自機能を追加して付加価値を高めていると反論するかもしれないが、果たしてその機能はどこまで顧客に受け入れられているだろうか?)。よって、能力を習得するのにそれほど時間がかからず、比較的フラットな組織となる。飲食業に代表されるように、非正規雇用者を多数使用する。正社員になっても、出世のポストは少ない。この点が、この業界で離職率が高い一因となっている。

 従来、左下の象限は、主に若年層が担ってきた。だが、旧ブログの記事「高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』(2)(3)」で書いたように、将来の日本の人口ピラミッドを見ると、若年層から中高年層を中心とする高いピラミッドと、中高年を中心とする低いピラミッドの2つが出現すると予想される。前者は主に右下の象限を担う。だが、右下の象限の企業も、終身雇用は約束できない。そのため、一部の中高年は終身雇用から漏れる。彼らにあと20年程度雇用を提供するには、左下の象限が適している。なぜなら、一定の年齢に達している彼らには、さほど多くの出世の道を用意する必要がないからだ。20年後、飲食店の店員のほとんどは中高年に置き換わっているだろう。

 左上の象限は、アメリカが強い。いわゆるイノベーションはこの象限に相当する。どんなイノベーションも、最初は左上からスタートする(まれに右上という超難易度のイノベーションも存在するが、ここでは触れない)。イノベーションの中には、その後必需品となって左下や右下の象限に下りてくるものがある。個人用PCは左下に下りてきたイノベーションであり、自動車は右下に下りてきたイノベーションの一例である。だが、特に音楽や映画、ゲーム、個人向けのWebサービスに多いのだが、ビッグバン的に全世界でヒットした後、一気に市場が縮小する、というタイプも非常に多い。音楽や映画を何本もヒットさせた人を、我々は一体何人知っているだろうか?大半は一発屋であり、さらには一発屋にすらなれない多数の死者が背後には転がっている。

 この象限の特徴として、必需品ではないため、普及率が読めないという点が挙げられる。一方で、顧客の中には熱狂的なファンもいて、その作品を購入するためにはお金を惜しまない人もいる。AKB48のCDを1人で何十枚も買う心理も、スマホのゲームアプリでレアキャラを手に入れるためにガチャを回しまくる心理も私は全く理解できないのだが、こういう人がいるがゆえに、市場規模を予測するのは極めて困難である。だから、爆発的にヒットすれば、イノベーターは青天井の収入を得ることができる。しかし、全くヒットしなければ収入はゼロである。ゼロサム、いやゼロと無限大の両極端に分かれるのが左上の象限である。

 左上の象限は、経営リスクが非常に高い。だから、正社員として雇用することがためらわれる。代わりに、アーティストや俳優、クリエイターたちを個人事業主として扱い、プロジェクトのたびに必要なメンバーを集め、プロジェクトが終わればチームを解散する。こうすれば、企業側としては、プロジェクトが成功した時の収入を最大化できるとともに、失敗時の支出を最小限に抑えられる(一方、個人事業主側に目を向けると、最近は俳優が自らを労働者と見なして労働組合を作ろうとする動きがある。以前の記事「『テレビに未来はあるか(『世界』2016年5月号)』―バラエティと報道を一緒にやっている時点で真実の伝達は無理だと思う、他」を参照)。

 左上の象限で一発当てたいと考えるイノベーターは、お金を払ってでも自分のイノベーションを世界中に広めたいと考えるようになる。そうしたイノベーターのニーズをくみ取ったのが、プラットフォーム企業である。iTunes Store、Google Music、Hulu、Amazonの電子書籍プラットフォームなどがその例である。これらのプラットフォームは、ゲームアプリ開発者、ミュージシャン、映画制作関係者、作家たちからお金を取る。通常のビジネスの感覚で言えば、Appleにとってアプリ開発者は仕入先であるから、Appleがアプリ開発者にお金を支払うべきである。アプリ開発者がAppleにお金を払うのはリベートである。リベートは、左下や右下の象限では厳しく取り締まられることがある。ところが、プラットフォーム企業が徴収するリベートは合法である。

 話が随分と脱線してしまったが、左上の象限に位置するポリゴン・ピクチュアズは、あまり製造業のようにマネジメントしない方がよいのかもしれない。ブログ別館の記事「『夷険一節(『致知』2016年4月号)』」でも書いたが、左上の象限で成功する企業を見ていると、3つの特徴があるように思える。それはつまり、①作り手の思いを強く反映させる、②顧客に敢えて不自由を経験させる、③顧客から見ればどうでもいいところに強くこだわる、という3つである。これらは採算や収益とは無関係の要素である。左上の象限は、結果を重視した瞬間に死ぬ。

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