プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年08月08日

『人事再生(『一橋ビジネスレビュー』2016年SUM.64巻1号)』―LIXILと巣鴨信用金庫について


一橋ビジネスレビュー 2016年SUM.64巻1号: 特集 人事再生一橋ビジネスレビュー 2016年SUM.64巻1号: 特集 人事再生
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2016-06-10

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 (前回の続き)

○人事の差別化こそが、リーダーを育て、世界で勝つ組織を作り出す(八木洋介)
 LIXILグループ執行役副社長の八木洋介氏のインタビュー記事。LIXILは『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』に2度登場しているのだが、どうも私の価値観とは相容れないようであると、以前の記事「『戦略人事(DHBR2015年12月号)』―アメリカ流人材マネジメントを日本流に修正する試案」、「『組織の本音(DHBR2016年7月号)』―「明確なビジョンを掲げ、短期間で成果を出す」というアメリカ流の経営には飽きた」で書いた。

 本記事で八木氏は「人事の仕事は社長を育てることだ」と明言している。しかし、LIXILのここ5年間の改革で、結局社長は育たなかった。GEからプロ経営者として雇われた代表取締役社長・藤森義明氏は、DHBRのインタビューの中で、それが「最大の心残り」と述べていた。藤森氏の後を継いで社長になるのは、MonotaRO(モノタロウ。兵庫県尼崎市に本社を置く事業者向け工業用間接資材の通信販売会社)を立ち上げ上場させた瀬戸欣哉氏である。ところで、八木氏も藤森氏と同じく、GEの出身である。そして、藤森氏と八木氏のインタビューはほぼ同時期に行われている。その2人の間に温度差があることが図らずも露呈してしまった形である。

 『週刊ダイヤモンド』は、今回の社長交代劇について厳しいことを書いている。
 6月15日の株主総会での承認を経て、LIXILグループの社長の瀬戸欣哉氏(55歳)が就任した。この7月1日以降は、新経営体制に移行する。役員待遇の幹部を114人から53人に減らすなどの”大なた”は、前任者の藤森義明氏(64歳)が推進してきた路線の全否定である。すなわち、急進的な海外M&Aによって肥大したメタボリックな体質にメスを入れるものだ。(中略)

 今回、新経営体制への移行に当たって、興味深い点は、瀬戸社長が「実績を重視した企業文化の醸成を促すため」との理屈を持ち出したところである。まず、執行役員の数を減らして風通しを良くする。次に、藤森氏が最後まで手を付けられなかった”国内流通の近代化”に踏み込む。相対的な売り上げ規模が大きいことから隠然たる力を持つが、今もアナログの世界だ。実は、LIXILの潮田洋一郎オーナーが米国仕込みのプロ経営者である藤森氏に期待していたのは、国内流通の改革だったのだ。

 これで、藤森氏の面目は丸つぶれだが、過去の話である。世間の耳目は、ITベンチャー出身の”虎ノ門旋風児”の手腕に集まることだろう。
週刊ダイヤモンド 2016年 6/25 号 [雑誌] (創価学会と共産党)週刊ダイヤモンド 2016年 6/25 号 [雑誌] (創価学会と共産党)

ダイヤモンド社 2016-06-20

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○創発的ビジネスモデルのイノベーション 巣鴨信用金庫の事例(伊東嘉浩)
 ヘンリー・ミンツバーグは、経営トップや一部の経営企画スタッフが密室にこもって緻密な分析を行い、事前に詳細な計画を立案するような戦略よりも、経営トップから現場層まであらゆる人々が日々仕事をする中で次々と触れる新しい情報が、企業の風土や社員の価値観などの文脈で解釈・咀嚼され、徐々に戦略が形成されていくことを重視した。これを「創発的戦略」と呼ぶ。要するに、「走りながら戦略を考える」ということである。本論文は、創発性を戦略だけではなくビジネスモデルにまで拡張したものであり、巣鴨信用金庫の事例が検討されている。

 巣鴨信用金庫はおもてなしに力を入れており、「ホスピタリティ」を登録商標としている
 たとえば、年金をお客様の家に届けに行く、お客様が足を痛めているのにテラーが気づいたら、レッグウォーマーを買って家に届ける、ある酒店の店主が亡くなり融資が滞って他行が返金を迫っても、金庫は商売を続けられるように継続対応していく、といった顧客満足向上の行動を実践している(以下略)
 金融業界では1980年代に自由化が進み競争の激化が予想された。金庫も、新しい戦略を検討しようと何名かのメンバーを招集した。ところが、具体的なミッションや計画はなく、白紙状態だったという。ある日、メンバーの一人が窓から外を見ていると、向かいのとげぬき地蔵尊には大勢の人通りがあることに気づいた。彼らをこちら側の金庫に誘導できないか?そこから生まれたのが「おもてなし処」という休憩スペースの案である。だが、おもてなし処はすぐには実現しなかった。「それは面白そうだね」という、上層部にありがちな反応だけで終わってしまった。

 事態が急変したのは、3年ほど経ったある日のことである。突然、おもてなし処のアイデアが役員会で議題に上がり、承認されたのだ。ただし、単に金庫のスペースを開放するだけでは物足りない。そこで、おもてなし処で定期預金に申し込めるようにした。通帳の名前は、その名も「お地蔵さん通帳」。さらに、参拝の帰りにおもてなし処に立ち寄ると、参拝の証としてスタンプがもらえる。スタンプが24個集まると、金庫オリジナルのお地蔵さん貯金箱が贈呈される。

 これが、金庫のホスピタリティの原点である。金庫はそれ以来、様々なホスピタリティあふれるサービスを開発した。しかも、その多くはトップが主導したのではなく、創発的に構築されている。ところで、行員が引用文にあるようなホスピタリティに注力すればするほど、コストがかさむ。そこで金庫は、バックオフィスの業務を大幅に効率化する大規模なシステムを導入した。システムによって節約されたお金を、行員のホスピタリティの原資としている。以上が、本論文における分析内容である。ただ、私はこの事例について、3つの疑問を抱いた。

 ①当初、金庫のトップは現場社員に対してほとんど何の指示も出さなかった。トップはアイデアが上がってくるのを待っているだけで、しかも上がってきたアイデアに対して、「それは面白そうだね」と返すだけであった。旧ブログの記事「上司が無能でも部下が育つというパラドクスをどう考えるか?」という記事を書いた。上司が何もしない人だと、部下は自分たちで何とかしなければならないと危機感を覚えて奮闘するから、能力が大きく伸びる。しかし、彼らが今度は上司になると、なまじ能力が高いだけに、部下に任せずに自分で全てやってしまう。こうして、部下が育たなくなる、といったことを書いた(例として、幕末の毛利敬親を挙げたら、「毛利敬親は無能じゃねぇよ」というコメントを受けたので、彼についてはもう少し詳しく調べたいと思っている)。

 ローソン代表取締役社長・玉塚元一氏は、組織には強烈なトップダウンと強烈なボトムアップが必要だと言う。創発的なビジネスモデルの形成にも同じことが必要ではないかと考える。トップは「自由に考えてくれ」と野放しにせず、「この領域で新規事業をデザインしてくれ」、「我が社の能力を一段と引き上げる事業を検討してくれ」、「我が社の組織風土に合った(もしくは組織風土にとってチャレンジングな)事業を構想してくれ」などと、一定の枠を与える必要がある。

 逆説的だが、人間はフリーハンドで作業を任されるよりも、ある程度の制約があった方が創造性を発揮することができる。経営学やコンサルティングでフレームワークが重宝されるのはそのためである。そして、部下から上がってきたアイデアについて、経営陣と現場社員は、「それは本当に我が社らしい事業と言えるのか?」、「本当に我が社でなければできないのか?」と侃々諤々の議論を展開する。そこに創発性の要素があるのではないかと考える。

 ②おもてなし処は、お地蔵さん通帳につなげるというビジネスの流れがあった。一方、引用文で書いたようなホスピタリティは、ビジネスには直結しない。足を痛めているお客様にレッグウォーマーを買って家に届けても、お客様の預金額が増えるわけではない。おもてなし処のアイデアは、「たくさんの人々を1か所に集めれば、そのうちの数%は金庫の商品を購入してくれる」という経済的な法則で動いている。一方、レッグウォーマーなどの例の裏にあるのは、「たとえ短期的にコストが発生するとしても、お客様のためになることをたくさんやり続ければ、いつか見返りがあるかもしれない」という淡い期待だけである。言い換えれば、ギブ・アンド・テイクである。いや、ギブ・アンド・ギブ・アンド・ギブ・アンド・・・・・テイクかもしれない。

 この両者には大きなギャップがある。行員に求められるマインドも、組織に必要な風土も、ビジネスモデルも大きく異なる。それも、相当な断絶がある。金庫はいかにしてこのギャップを飛び越えたのか?その辺りの分析がほしかったところである。

 ③本論文のテーマは「創発的ビジネスモデル」である。金融機関は預金者からお金を集め、それを融資する。金融機関は、借り手が支払う利息と、預金者に支払う利息の差で利益を出す。これが金融機関のビジネスモデルである。つまり、金融機関のビジネスモデルを構成する重要なプレイヤーには、預金者と借り手の2種類が存在する。ところが、本論文では預金者側しか分析されていない。金融機関の創発的ビジネスモデルと言うからには、融資の側にも着目し、そこでいかなる創発性が発揮されたのかを考察しなければ、片手落ちなのではないかと感じる。

 確かに、ホスピタリティによって増えるコストを賄うために、バックヤード業務を効率化するシステムを導入したとある。しかし、その程度のことはどの金融機関でも(さらに言えばどの企業でも)やっているわけで、巣鴨信用金庫が特段優れているとは思わない。システム以外に戦略ドライバーはないのか?つまり、収益性に大きく影響する金庫固有の取り組みや仕組みはないのか?そのドライバーは、ビジネスモデルの他の要素にどのような影響を与えて利益を生み出しているのか?ここまで踏み込まないと、ビジネスモデルを分析した論文としてはインパクトが弱い。

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