プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年08月12日

『中国の尖閣暴挙!日本よ覚悟はあるか(『正論』2016年8月号)』―沖縄県民は米軍基地を追い出したら中国が基地を作ることを理解しているのか?


正論2016年8月号正論2016年8月号

日本工業新聞社 2016-07-01

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 野田政権が2012年に尖閣諸島を国有化して以来、中国はその報復として、海警局などの公船を頻繁に尖閣諸島の領海に侵入させてきた(念のため補足すると、外国船舶は沿岸国の平和・秩序・安全を害さないことを条件として、沿岸国に事前に通告をすることなく沿岸国の領海を通航することが国際法上認められている。これを「無害通航権」と呼ぶ)。尖閣周辺を中国の公船が自由に行き来するその状態は、もはや常態化したと言ってよいだろう。

 軍艦については、当初は遠方で活動するのみであった。ところが、徐々にその活動範囲を尖閣諸島の近くにまで広げてきた上に、その数も増やしてきた。とはいえ、それでも中国は、尖閣諸島の沿岸から12海里の領海と、その外側12海里に隣接する接続水域に軍艦を入れることは避けてきた(竹田恒泰「君は日本を誇れるか 第27回 間合いを詰めてくる中国を挫く方法」)。

 だが、6月9日未明、初めて中国海軍のフリゲート艦が尖閣諸島の接続水域に入った。6月15日未明には中国海軍情報収集艦が鹿児島県口永良部島沖の領海に侵入し、さらに同日午後2時過ぎ、「海警」3隻が尖閣周辺領海に侵入した。また、16日午後3時には同じ情報収集艦が沖縄県北大東島の接続水域を航行した(本間誠「〔一筆啓誅 NHK殿 特別版 第61回〕日中友好条約があるから・・・「軍艦は絶対に来ない」と発言していたNHK解説委員へ」)。

 中国公船による尖閣近海の領海侵入累積数は、2012年から今年3月までで152日、延べ470隻に及んでいるが、軍艦は一度も侵入したことがなかった。公船の侵入も準軍事力による我が国主権への挑戦であることには違いないが、軍事力そのものである軍艦とは自ずと意味が変わってくる(香田洋二「沖縄全域、鹿児島沖島嶼部もターゲット 孤立化に怯えるも・・・南西諸島の侵略を諦めない」)。中国はこうして少しずつ間合いを詰めてくる。これを「サラミ戦法」と呼ぶそうだ。こんな非常事態の最中でも、事件に関するメディアの反応は悪かった。というのも、メディアは連日舛添要一前東京都知事の資金問題を取り上げていたからである。

 さすがに、沖縄県はさぞ慌てたに違いない。尖閣諸島を含む石垣市の中山義隆市長は報道陣に「非常に危機感を持っている。政府には事態をエスカレートさせないよう、今後とも毅然とした態度を取ってほしい」と語った。さらに、市議会で市長は、「南沙諸島における中国の活動には非常に懸念している。21世紀に自国の領土を拡大しようという国があること自体が非常に危険だ。尖閣でも同じように、力での現状変更を仕掛けてきているという認識を持っている」と批判した。石垣市議会は中国に対し、「東シナ海の安全保障上の均衡を、武力を背景に変更を迫る行為であり、尖閣諸島強奪に向けた動き」とする抗議決議を全会一致で可決した。

 ところが、驚くべきことに、沖縄本土やその他の沖縄地域では、相変わらず「反基地キャンペーン」が展開されていたのである。5月には嘉手納基地に勤務する元米海兵隊員で軍属の男が、ウォーキング中だった沖縄県うるま市の女性会社員を殺害するという事件が発生し、これが反基地ムードをさらに煽ることになった。さらに、沖縄県では6月5日に沖縄県議選が実施され、翁長雄志知事を支える与党が「オール沖縄」を掲げて基地の県外移転を訴えて勝利した。中国軍艦の侵入はその直後に起きたのだが、反基地運動には全く影響せず、19日には大規模な反基地集会が開かれた(仲新城誠「〔対中最前線 国境の島からの報告 特別版 第37回〕中国軍艦もどこ吹く風 米軍属殺人事件の政治利用に狂奔する翁長知事とメディア」)。

 ここからはいきなり話題が変わって稚拙な見解を披露することをお許しいただきたい。日本人は元々、自分の目で観察した事柄に基づいて意思決定することを重視する。製造業では昔から「三現主義(現場、現物、現実)」が大切にされている。マーケティングにおいては、顧客の消費行動をじっくりと観察し、顧客の声に耳を傾け、顧客の繊細なニーズを丁寧に製品・サービスに織り込んでいく(ただし、あまり顧客に共感しすぎると弊害が生じることは、以前の記事「『組織の本音(DHBR2016年7月号)』―イノベーションにおける二項対立、他」を参照)。

 逆に、現場を見ずに意思決定をすると、取り返しのつかない過ちを犯す。以前の記事「山本七平『一下級将校の見た帝国陸軍』―日本型組織の悪しき面が露呈した帝国陸軍」で書いたように、日本陸軍がその典型である。陸軍のトップは現場を無視して過去の成功体験にしがみつく。業を煮やした参謀が、これもまた現場を十分に観察することなく、指揮命令系統を無視して現場に命令を出す(山本はこれを「私物命令」と呼んだ)。現場は命令と実態が食い違っていることを知りながら、実態を命令の方に合わせる(山本は、陸軍の中で「員数(=物資や人の数)を計画に合わせよ」という言葉がよく使われたと述べている)。こうして陸軍は硬直状態に陥った。

 逆に、アメリカ人は、現場を見なくとも、入手した情報のみに基づいて適切な意思決定をする能力に長けている。アメリカ企業はITに莫大な投資をして顧客の情報を多面的に取得し、それらを統計的に解析して様々な指標を計算する。経営者は社長室の椅子に座って指標の推移を眺めながら、必要な決断を下す。デルの社長室にはありとあらゆる経営指標がリアルタイムで表示され、社長はそれを見ながら意思決定を行うので、まるで飛行機のコックピットに座っているようだという話を聞いたことがある。日米のこの差は、事業のグローバル展開のスピードに影響を与える。日本企業は現場を見なければ進出するかどうかを決められないため、どうしてもスピードが遅い。他方、アメリカ企業は情報さえあれば決断してしまうので、一気に多国展開できる。

 アメリカでは、企業だけでなく、政府もインテリジェンスに莫大な投資をしている。各国の政府、公的機関、企業その他各種団体、個人に関する公開情報(※)はくまなく調査する。加えて、アメリカは絶対にその事実を認めないが、各国の通信を全て傍受しているとも言われる(日本にはエシュロンと呼ばれる通信傍受施設がどこかにあるとされる)。こうした情報が外交・軍事にフル活用される。インテリジェンスを重視するのは、イギリスの伝統を引き継いでいるためだ。つまり、イギリスなどが行った植民地支配の名残である。本国から遠く離れた植民地をコントロールするために、現場をわざわざ見なくても、情報だけで意思決定ができる仕組みを構築したのである。

 (※)インテリジェンスと言うと、私などは極秘にスパイを放って、非公式に重要人物に接触し、非公開情報をかき集めるというイメージを持っていた。ところが、実はインテリジェンスの9割以上は公開情報に基づくと佐藤優氏が語っていた(池上彰、佐藤優『新・戦争論―僕らのインテリジェンスの磨き方』〔文藝春秋、2014年〕)。スパイのイメージが強いロシアで外交官を務めた佐藤氏がそのように言うのだから、おそらくアメリカでもほとんど同じではないだろうか?

 さらに言うと、アメリカ人は全く情報がなくても、イノベーションを起こせる。詳細は以前の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」などをご参照いただきたいが、市場調査で情報が得られない場合は、イノベーターが自分を最初の顧客に見立て、自らが心の底からほしいと思う製品・サービスを形にする。そして、「自分がほしいものは世界中の人もほしいに違いない」というロジックで、全世界への普及を図る。イノベーターはそれを自分の使命と位置づけ、神と契約を交わす。唯一絶対の神との契約であるから、その内容は絶対であり不変である(以前の記事「『しなやかな交渉術(DHBR2016年5月号)』―「固定型」のアメリカ、「成長型」の日本、他」を参照)。

 アメリカ企業は、イノベーションを全世界に普及させる段階でインテリジェンスを活用する。つまり、各国でイノベーションが受け入れられている割合はどのくらいか?各国で普及度合いに差があるのはなぜか?イノベーションの普及が阻害されている要因は何か?その阻害要因を取り除くにはどうすればよいか?これらの問いに答えるために、各国の事業環境に関する情報を幅広く収集する。決して、イノベーションを顧客のニーズごとにカスタマイズするのが主たる目的ではない。イノベーションの中身は唯一絶対の神と契約で決めたわけだから、変えることができない。

 日米の違いは、ビジネスパートナーの探し方にも表れる。販売代理店をやりたいと考えるアメリカ企業は、世界中の商材をインターネットで検索し、その企業の情報を収集する。そして、お目当ての企業が出展している展示会を見つけ出してそれに参加し、ブースに赴いて「御社の製品が気に入った。ぜひ取引がしたい」といきなり持ち掛ける。日本の展示会は、決裁権限のない担当者レベルの人が興味本位で集まるようなものだから、このような光景はまず見られない。情報に基づいて物事を決めるアメリカ人ならではの行動である。

 逆に、日本人は信頼ベースでパートナーを探す。誰かに仕事を依頼しようと検討している人は、まずは自分の知り合いの中から候補を探す。私の仕事である中小企業診断士の世界は、まさにこういう風に動いている。最近は、会員数の増加に伴って、誰がどういう分野に強くて、どのような実績を持っているのかデータベース化したいという声がたびたび挙がる。しかし、データベースで情報を見ただけではその人となりが解らず、結局は自分が普段からよく知っている人に仕事を依頼してしまう。そのため、データベース化の話はいつの間にか立ち消えになる。仮に適任の知り合いがいなかった場合、次は知り合いの知り合いに接触するのが普通である。

 日本人は、現在という時間を重視し、現実を観察して少しずつ改善していく。逆に、アメリカ人は将来を重視し、明確な(固定的な、不変の)ビジョンを掲げて神と契約を結び、インテリジェンスを活用して現実をビジョンの方に近づけていく。日本人の発想は柔軟であり、アメリカ人の発想は固定的である。だが、最近は、アメリカ人的な日本人が増えたと感じる。アメリカ人の固定的な発想が日本人に適用されるとどうなるか?日本人には現在という時間しかないのだから、現在に固定されて身動きが取れなくなる。そう考えると、護憲派が頑なに現行憲法にこだわるのもうなづける。護憲派は、アメリカが主導した憲法を支持しているのだから、硬直的になるのも当然だ。

 そうならないためには、現場を大切にするという基本精神に立ち返ることである。だが、中国の脅威を最も感じているはずの沖縄県民が、教条的に反基地、反米を掲げているのは非常に不可解である。暴力団が町中をうろついているのに、警察に向かってこの町から出ていけと言っているようなものである。沖縄から米軍基地がなくなったらどうなるか?間違いなく、中国は沖縄を狙ってくる。南沙諸島の埋め立て島がハーグの常設仲裁裁判所に否定されようとも、中国には全く関係ない。沖縄を奪い取った中国は、米軍の跡地に基地を作る。いかほどの規模の基地を作るのか、それによって住民の生活はどれほど脅かされるのか、これはちょっと想像がつかない。ただ、そういうリスクがあるのは確実である。このことを沖縄県民は理解しているのだろうか?


 《2016年9月24日追記》
 『正論』2016年10月号より2つの寄稿文を引用。
 矢野:もう一つ、日本人が勘違いしていることなんですが、白旗を上げれば戦争しなくて済むのかといえば、違うんです。嫌でも中国側に立って次の戦争をしなければならなくなります。もし中国が日本列島を押さえたら、第一線に出そうとするのは日本軍ですよ。自衛隊を再編して、自分たちの先鋒として最前線に出して捨て駒にして、次に自分の本土軍が出てくる。支配した国の軍隊をまずすり減らして、次の段階で自分が出てくるというのはどこの国だって考えることです。
(用田和仁、矢野一樹、本村久郎「中国に尖閣を奪われない方法・・・南西諸島はこう守れ」)
 地元では反対派住民が「石垣島の自衛隊配備を止める会」という組織を作り、配備阻止に向けた署名活動などを進めている。沖縄メディアは反対一色だ。しかし極言すれば、現在の国際情勢では「石垣市に自衛隊を配置するか、石垣市の行政区域である尖閣諸島に人民解放軍の基地ができるか」の二者択一ではないかと思う。侵略的な中国が隣国である限り、八重山が軍事基地と無縁な平和な島々であり続けることは不可能だ。
(仲新城誠「「南シナ海」化が進む尖閣 大漁船団の次は・・・」)
月刊正論 2016年 10月号 [雑誌]月刊正論 2016年 10月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2016-09-01

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