プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年09月02日

【ドラッカー書評(再)】『新しい現実』―非営利組織も利益を追求し、それを全て将来の事業に投資すべき、他


[新訳]新しい現実 政治、経済、ビジネス、社会、世界観はどう変わるか (ドラッカー選書)[新訳]新しい現実 政治、経済、ビジネス、社会、世界観はどう変わるか (ドラッカー選書)
P.F.ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2004-01-08

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 (前回の続き)

 (6)
 いずれの場合も、行なったことは、マネジメントの本に書いてあることだった。問題に目を奪われ機会を見失ってはならないことは、マネジメントの基本である。病院チェーンの成功は、この原則の実行にあった。ガールスカウトは人口構造の変化に着目した。救世軍は体系的放棄なるマネジメントの手法を実行した。教会はあらゆるマネジメントの本が説くものを実行した。すなわち、顧客になるはずでありながら顧客になっていない人たちを探した。
 アメリカには日本とは比べ物にならないほど多くの非営利組織が存在し、第3のセクターを形成している。非営利組織が一大産業となったのは、マネジメントを適用したからに他ならないとドラッカーは言う。ドラッカーが非営利組織におけるマネジメントの重要性を強調するのは、ドラッカーの仕事のうち、病院、学校、教会などに対するコンサルティングが半分ぐらいを占めていたという事情と無関係ではないだろう(非営利組織に対するコンサルティングは無償だったらしい)。

 私も最近まで誤解していたのだが、非営利組織は決して、利益を上げてはいけない、というわけではない。利益を非営利組織のメンバーなどに還元することが認められていないだけである。代わりに、利益は全て将来の事業への投資に回す必要がある。つまり、非営利組織とは、株主に配当を支払うことが禁じられている株式会社のようなものである。非営利組織とはいえ実質的にほとんど企業と同じなのだから、利益を追求しなければならない。

 私は、(一社)東京都中小企業診断士協会と、特定非営利活動法人NPOビジネスサポートという2つの非営利組織に所属している。あまり内情を書くと関係者に怒られそうだが、いずれの組織も運営には問題がある。どちらも、行政を通じて中小企業を支援するという仕事を行政から受注している。ところが、非営利組織は利益を出してはいけないという誤ったイメージのせいか、民間のコンサルティングでは考えられないような廉価で行政と契約を結ぶことが少なくない。受注した仕事は所属する診断士に割り振られるのだが、報酬から時間単価を計算すると最低賃金を大きく下回るケースもある(個人的には、そういう発注をする行政側にも問題があると思う)。

 繰り返しになるが、非営利組織も利益を追求しなければならない。民間のコンサルティングと遜色のない価格で仕事を獲得する努力をしなければならない。そして、適正な報酬を診断士に支払ってなお残る利益を、診断士の能力・知識・資質などの向上のために投資するべきである。今のままでは、食えない診断士が量産されるだけであり、なおかつ能力開発の機会も与えられない。そのため、行政に足元を見られてさらに価格を下げられるという悪循環に陥る。

 (もしこの2つの組織が、独立したばかりの診断士に対して診断士の世界の厳しさを教えることを目的としており、「こんなに苦しい状況から早く脱出したかったら、自分で営業して中小企業から直接コンサルティング案件を受注せよ」というメッセージを発しているのであれば話は別である。しかし、今のところ、両組織が診断士に向けてそう言っているようには到底見えない)

 ドラッカーは企業と非営利組織のマネジメントを同列に論じているが、利益の配分以外に、企業と非営利組織の間には決定的な違いが1つあると思う。企業の目的は永続的な成長である。そのために、マーケティングとイノベーションによって顧客を創造し続けなければならない。一方、非営利組織の中には、私が所属する2つの組織のように営利事業を行うものもあるが、社会的課題の解決を目的としているところも多い。精神疾患を抱える人の就労支援、薬物中毒者のケア、少年犯罪の未然防止、児童虐待・家庭内暴力の被害者の庇護、いじめを経験した生徒の精神的サポート、老老介護で疲弊した介護者の負担軽減などが該当する。

 これらの社会的課題は、最終的に全面的に解決されることが究極の目標である。つまり、顧客がゼロになることが望ましい。企業のマネジメントは、顧客が毎年増えていくことを前提としている。社員は毎年増加し、在籍年数が長くなればなるほど給与は上がる。しかし、顧客がある時点から減少に転じるような非営利組織には、どのようなマネジメントがふさわしいのだろうか?特に、人事制度をどのように構築するべきだろうか?この問題に直面している典型例が、公立幼稚園である。少子化の影響で子どもの数は減少している。ところが、幼稚園教諭の年齢は上がっており、公務員である彼らの給与は年々増加する。そのため、深刻な赤字に悩まされている。

 (7)
 20世紀型の大都市は、19世紀の偉大なイノベーション、すなわち人を仕事の場に運ぶ能力によって実現された。汽車、電車、自転車、自動車が人を動かした。21世紀にはこの20世紀型の大都市が、20世紀に行なわれた偉大なイノベーション、すなわち仕事を人のいる場所に運ぶ能力によって変えられる。これからは、人ではなく思考や情報が動く。
 人を仕事の場所に移動させるのが18世紀のイノベーションであるのに対し、仕事を人の場所に移動させるのが19世紀のイノベーションであり、20世紀末(~21世紀)にはそれらのイノベーションの恩恵を受けられるようになるだろうとドラッカーは予測する。確かに、IT技術の発展によって、会社に出社しなくても、パソコンさえあればどんな場所でも仕事ができるようになった。本来であれば、東京一極集中の人口構造が改善されて、地方に雇用が分散するはずであった。しかし、実際に起こっているのは、東京一極集中の加速である。

 結局、仕事は情報の流通だけでは成立しない。情報に意味を与え、知識に変換しなければならない。ドラッカーによれば、知識とは人々に行動を起こさせるものである。情報は分析的であるのに対し、知識は知覚的である。そして、以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『新しい現実』―組織の目的は単一でなくてもよいのではないか?という問題提起」でも触れたように、知覚とは全体を見ることである。全体を見るためには、どうしても人々が集まる必要がある。だから、IT技術さえ発達すれば地方への人口分散が起きるといった簡単な話ではない。

 ここがもし旧ソ連であれば、かつてクリミアのタタール人を強制的にウズベキスタンやシベリアに移住させたような荒業もできたであろう。しかし、残念ながらここは日本であり、そんな乱暴なことはできない(職員約300人の消費者庁を徳島県に移転させるだけで四苦八苦している)。だから、東京から地方に向けて、時間をかけて少しずつ人口を移動させるしかない。その方法は、以前の記事「『終わりなき「対テロ戦争」(『世界』2016年1月号)』」で書いた。

 簡単にまとめると、東京都に隣接するAという自治体が、住みやすいまちづくりに注力する。すると、東京に住み東京の企業に勤めていた人の中から、A自治体に引っ越してもよいと考える人が出てくる。そういう移転者がA自治体で増えると、増加した人口をビジネスチャンスととらえて、A自治体で起業する人も増える。こうして、さらにA自治体の人口が増加する。次に、A自治体に隣接するBという自治体が、同じように住みやすいまちづくりに注力する。すると、A自治体に住みA自治体の企業に勤めていた人の中から、B自治体に引っ越してもよいと考える人が出てくる。後の流れはA自治体の場合と同じである。

 こうして、東京都を起点として、隣接する自治体を順番にたどりながら、徐々に人口が移転していく。東京都をはじめ各自治体は、この流れを創出するための計画を策定すべきである。もっとも、以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『新しい現実』―「計画上は失敗だが、実際には成功した」という状態を目指せ、他」でも書いたように、こういう計画は往々にしてその通りにはならない。だが、想定外のルートで人口が移動するかもしれないし、移動のスピードが予想よりも早まるかもしれない。いずれにせよ、計画がなければ、予想外の成果を呼び寄せることはできない。

 私は東京都民ではないので、先月の東京都知事選には投票できなかったのだが、仮に、東京都から人口が流出することを覚悟の上で、東京都に隣接する自治体に対し、その自治体の人口が増えるような魅力あるまちづくりの構想を支援すると公約した候補者がいたならば、私はその人に一票を投じたであろう。ここ数年の都知事は、東京を世界一の都市にすることを目指してきた。しかし、そろそろ方針転換が必要なのではないかと考える。

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