プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年09月14日

『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他


月刊正論 2016年 09月号 [雑誌]月刊正論 2016年 09月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2016-08-01

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 (1)天皇陛下が生前退位のご意向をお示しになり、8月8日に約10分間のビデオメッセージで国民に向けて「おことば」を発信された。80歳という年齢を超えてもなお、日本国民統合の象徴としてご多忙な日々を過ごされていることには、ただただ頭が下がるばかりである。

 私は、この「象徴」というのは、「和」の象徴であると考える。「和」の象徴とはつまり、この世界が多様性に満ちているという事実を尊重し、特定の人物、組織、国家などに肩入れせず、広く平和な関係を構築することを意味する。報道では、天皇が日本各地で震災の被害を受けた人々を慰問される姿が映し出されることが多いが、その裏では、あらゆる国・地域の要人と毎日のように会い、またご多忙な公務の合間を縫って太平洋戦争の戦闘地を訪問し、戦没者に哀悼の意を捧げていらっしゃる。このようなご尽力があるからこそ、日本は世界から高く評価されている。

 今回の突然の「おことば」は非常に大きなインパクトを持ち、一国民として天皇のお気持ちを叶えて差し上げたいという思いに駆られる。だが、実際問題として、現行憲法や皇室典範は生前退位を想定していない。仮に生前退位を認めるならば、元号や退位後の呼称をどうするのか、住居はどこにするのか、皇室に割り当てられている予算の配分はどうするのかといった問題が生じるという報道があった。しかし、これらの問題はどちらかと言うと末端の話である。
 譲位が制度化されると、天皇の意思に反して内閣が譲位を決定したり、国政の重大な局面で天皇が譲位して内閣に圧力を掛けたりすることが可能になる。現在は皇室と内閣が対立関係にないため、想像しにくいが、何百年も先のことを考えると、そのような事態に備えておく必要はあろう。
(竹田恒泰「なぜ明治以降に「譲位」がなかったのか」)
 具体的には、時の内閣が恣意的に退位条件を定めた法律を国会で無理やり通すことが想定される。逆に、(法律で定められた退位条件を満たすことが前提だが、)国会が重要な議題を審議している最中に天皇が退位されることで、国会に無言のプレッシャーを与えることもあり得る。例えば、昨年の安保法制の審議中に天皇が退位されれば、天皇は憲法で定められた「内閣の助言と承認」を拒否したことになり、暗に安保法制に反対であることを示すことになる。

 生前退位が不可能となったのは、明治時代に大日本帝国憲法ができてからである。明治天皇までの88代中(北朝を除く)、生前退位は57の例がある。帝国憲法でも生前退位を認めるかどうかが議論になったものの、最終的には伊藤博文の以下の意見によって却下された。
 天皇が随意にその位を離れることに理はなく、また天皇の精神や身体に重患があっても摂政を置くことで百政を摂行することができ、歴史上の譲位が為政者の事情に左右されたことに鑑みると、譲位の規定は削除すべきである、と。(同上)
 天皇が政治的な道具として利用されることを避け、天皇家が万世一系として延々脈々と続くようにと考え出されたのが、「生前退位を認めない」という妙案だったと言える。

 本号は天皇の「おことば」が出される前に発行されたものであるため、「おことば」の内容は反映されていない。渡部昇一氏は、単に摂政を置けばこの問題は解決すると論じている。ところが、「おことば」の中で天皇は摂政を置くことを否定された。週刊誌的な発想に立つと、皇太子殿下との間で何か不和があるのではないかという邪推が働くところだが、「「象徴としての天皇」を体現――陛下の「完璧主義」と歩み」(読売新聞、2016年8月9日)という記事から察するに、完璧主義者の天皇は、純粋に公務をご自身の力で遂行したいと思っていらっしゃるのだろう。

 それからもう1つ、今回天皇が生前退位のご意向を示されたのは、皇后美智子様に対するご配慮が多分にあったものと推測される。天皇も2度の手術を受けるなどお身体の具合があまりよろしくないが、皇后美智子様はそれ以前から体調を崩していらっしゃることがしばしば報道されている。天皇陛下以上に、皇后美智子様がご公務に耐えられないのではないか?しかし、皇后美智子様が自らそれを公にすることはできない。そこで、天皇陛下が生前退位という手段を使うことで、皇后美智子様のことを思いやったとも考えられる。

 現在、政府は一代限りの特措法を検討しているという。日本人お得意の”その場しのぎ”的な療法である。しかし、今回と同じような事態は、現在56歳の皇太子殿下が次の天皇に即位された時にも必ず起きる。凡人の私にはいいアイデアが全く思い浮かばないのだが、ここは是非、恒久法という形で課題が発展的に解消されることを祈っている。

 (2)
 すでにオバマ政権は、北朝鮮との外交関係を断絶したのと同然である。これまで米国が名指し制裁の対象とした第三国のトップは、シリアのアサド大統領、ベラルーシのルカシェンコ大統領、リビアのカダフィ大佐、ジンバブエのムガベ大統領らである。いずれも政権転換でしか民主化が望めなかったケースだ。この列に北朝鮮が加わったのだ。
(久保田るり子「朝鮮半島薮睨み」)
 アメリカが北朝鮮への制裁を強めているというが、個人的にはアメリカは本当に北朝鮮を潰す気があるのかどうか、やや懐疑的に見ている。北朝鮮がICBM(核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル)だけでなくSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の実験にも着手したことは、以前の記事「『ジャーナリズムが生き延びるには/「核なき未来」は可能か(『世界』2016年8月号)』―権力を対等に監視するアメリカ、権力を下からマイルドに牽制する日本、他」で指摘した。アメリカはむしろ、「北朝鮮は早く軍事力を高めよ」と時間的猶予を与えているように感じる。

 北朝鮮は未だに社会主義による革命を心の底から信じており、憎き資本主義国である隣国の韓国を武力で奪い取ろうと本気で考えている。ICBMやSLBMは、北朝鮮が韓国を攻撃した際に、アメリカが横槍を入れてくるのを防ぐためのものである。しかし、北朝鮮とアメリカでは軍事力の大きさが全然違う。普通に考えれば、この状況で武力衝突が起きることはあり得ない。ところが、戦争とは普通のことが通用しない世界であり、軍事力が非対称な国の間で偶発的に発生した衝突(たいていは、軍事力が小さい方の国が仕掛けた衝突)がきっかけとなって、戦争へと発展する。朝鮮半島で言えば、北朝鮮が偶発的にアメリカを攻撃して韓国へと侵攻する。すると、アメリカは否が応でも朝鮮半島に出て行かざるを得ない。

 戦争になれば、十中八九、北朝鮮は敗れ、金正恩体制は崩壊する。その後アメリカは、敗れた北朝鮮の復興に着手する。だが、現在のアメリカ国内には、戦争続きによる厭戦ムードが漂っている。また、アメリカが戦争の事後処理にあたった国の中で、まともに民主化に成功したケースはない。イラク、シリア、リビアなど、いずれも戦争前と同等、あるいはそれ以上に混乱している。そうなると、現時点では朝鮮半島に巻き込まれたくないというのがアメリカの本音であろう。

 だから、アメリカとしては、北朝鮮が韓国と偶発的な衝突を起こさないことを願いながら、形だけは制裁を行いつつ、裏で中国が北朝鮮に援助することを期待して、北朝鮮の軍事力レベルが上がるのを待っているわけである。北朝鮮とアメリカの核の差が縮まれば、お互いに抑止力が働いて武力衝突は発生しにくくなる。北朝鮮も、身に余るほどの核兵器をどうにかしたいと考え始める。このような状態になってようやく、北朝鮮はアメリカ・韓国との交渉のテーブルに着くだろう。北朝鮮の都合で何度も中断されている6か国協議も、進展が見られるかもしれない。

 (※)北朝鮮が中途半端な軍事力のまま暴発した場合に想定されるシナリオは、松木國俊『韓国よ、「敵」を誤るな!』(ワック、2016年)に詳しく書かれている。

韓国よ、「敵」を誤るな!韓国よ、「敵」を誤るな!
松木國俊

ワック 2016-06-24

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 (3)
 自衛隊法第6章には、防衛出動をはじめとして、治安出動、海上警備行動、領空侵犯措置等々、「自衛隊の行動」が規定されている。そして第7章には、各々の行動について、自衛隊あるいは自衛官がどこまで武器使用ができるかという「権限規定」が定められている。だが、奇妙なことに「領空侵犯措置」にだけ「権限規定」がない。このことはあまり知られていないし、政治家でさえ知る人は少ない。
(織田邦男「渦中の空自OBが寄稿! 中国軍機による東シナ海危機を世に問うた理由―侵略と悲劇を呼ぶ防空法制の欠如」)
 自民党が公約した「領海警備法」はいまだ整備されていない。法整備以前の問題として、安倍政権は中国軍艦に領海侵犯されて、海上警備行動すら発令できなかったではないか。
(潮匡人「織田論文否定は官邸の失態―第二の「田母神論文」にしてはならぬ」)
 昨年の安保法制によって、「切れ目のない防衛法制」が整備されたと言われるが、実際には穴ぼこだらけのようである。領空侵犯に対する権限規定がないことにより、領空を侵犯されても自衛隊は武器を使えず、音声や機体信号による警告、信号射撃などしかできない。

 中国軍艦に対して無策だったのにも理由がある。海上警備行動(海警行動)が発令されると、海上保安庁法第20条2項が適用され(自衛隊法第93条)、武器使用権限が拡大する。ただし、同条は武器使用の対象となる「外国船舶」について、「軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であつて非商業的目的のみに使用されるものを除く」と明記している。したがって、領海を”有害航行”する中国の軍艦は適用除外であり、武器を使用できない。警告射撃も許されない。

 政府の方針は、海警行動発令後、「自衛隊が当該潜水艦に対して、海面上を航行し、かつその旗を掲げる旨要求すること及び当該潜水艦がこれに応じない場合にはわが国の領海外への退去要求を行う」こととなっている。しかし、海自の要求に応じない中国軍艦にはそれ以上対処のしようがない(潮匡人「「戦争法案反対」は戦争したい国の思う壺」〔『正論』2015年8月号〕)。

 日本の安保法制が切れ目だらけであることは、右派だけでなく左派からも指摘されている。主な点を以下にまとめておく。

 ①存立危機事態における集団的自衛権の行使、重要影響事態における後方支援(正しくは協力支援)については、事前の国会承認が必要とされた。例外は、極めて限定的な場合のみである。しかし、国家の存亡がかかる存立危機事態において、国会を開いている余裕はあるのだろうか?また、国会が閉会中の場合にはどうするのか?選挙期間と重なったらどうするのか?(潮匡人「あんなに大騒ぎしたのに、こんなにショボい安保法制」〔『正論』2015年12月号〕)

 ②現行の「周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律」は、「重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律」に改正される。だが、「乗船しての検査、確認」の対象からは「軍艦等を除く」とされている。しかも、「当該船舶の停止を求め、船長等の承諾を得て」からしか乗船検査できない。相手が停船の「求め」に応じない場合は、「これに応じるよう説得を行うこと」。「説得」に応じない場合は「説得を行うために必要な限度において、当該船舶に対し、接近、追尾、伴走及び進路前方における待機を行うこと」と定められており、警告射撃すら認められていない(潮匡人「「戦争法案反対」は戦争したい国の思う壺」〔『正論』2015年8月号〕)。

 ③個別的自衛権の範囲として、海外での自衛隊による邦人救出を現行法下でも可能とする解釈もあったが、安倍政権はその解釈を採用しなかった。そのため、安保法制下でも、例えば朝鮮半島で有事が発生した場合に、自衛隊が被害者を救出することは不可能である(西岡力「横田さん、田口さん、有本さんらは生きている!―救出へ総連解散新法を」〔『正論』2015年10月号〕)。なお、ケント・ギルバート氏は、邦人救出を阻む憲法9条は、13条の幸福追求権を侵害していると批判する(ケント・ギルバート「9条こそが憲法違反である」〔『正論』2015年12月号〕)。

 ④従来は、日本を攻撃してくる国の戦闘機に補給する後方支援国に対して、個別的自衛権の行使が可能とされてきた。ところが、今回の安保法制では、後方支援国に対して自衛権を行使できなくなった。これは、自衛隊が重要影響事態において後方支援を想定している点と関連する。後方支援する自衛隊が武力行使をしているとなれば、相手国から攻撃の対象となる。よって、後方支援する自衛隊は武力行使をしていないと言い切るしかない。その解釈を、日本が攻撃を受けている場合に置き換えると、日本を攻撃する国への後方支援国に対しては自衛権が行使できない(福山哲郎「強行「採決」―あのとき参議院で何が起こったか」〔『世界』2015年11月号〕)。

 ⑤自衛隊を出動させる場合、防衛大臣には「安全確保配慮義務」が生じる。ただし、安全配慮義務が生じるのは平時=非戦闘時のみで、有事=戦闘時には信義則上発生する場合はあるとしても、原則として安全配慮義務を負わない。ここで問題になるのは、今回の安保法制では、存立危機事態=有事においても後方支援が想定されており、その場合でも安全配慮義務を貫徹すると安倍首相が述べていることである。防衛大臣は安全配慮義務を負いながら戦闘行為を行うこととなり、法的には義務違反が頻発することが容易に予測できる(福山哲郎「強行「採決」―あのとき参議院で何が起こったか」〔『世界』2015年11月号〕)。

 ⑥政府は、集団的自衛権の行使の要件として、ニカラグア事件判決にはない「同意又は要請」を加えた。法文には明記がないが、岸田国務大臣(当時)がそのように答弁している。これにより、例えば朝鮮半島で有事が発生し、明らかに日本が存立危機事態に陥っている時にも、韓国からの「同意又は要請」がなければ、存立危機事態防衛出動ができないことになってしまう(福山哲郎「強行「採決」―あのとき参議院で何が起こったか」〔『世界』2015年11月号〕)。

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