プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年09月23日

【賛否両論】中小企業診断士(コンサルタント)に必要なのは「ドキュメンテーション力」か「プレゼンテーション力」か?


ドキュメンテーション

 今回は賛否両論があるであろう問題を取り上げる。私が所属する城北支部では、数年前から「城北プロコン塾」という、独立プロコンを養成するコースを運営している。城北プロコン塾では、毎回の講義・演習に加えて、それぞれの受講者が”自分の飯のタネ”になりそうなテーマを1つ設定し、1年間かけてレポートを作成する(このレポートは、受講者が将来的に自分の主催するセミナーなどで活用することを想定している)。城北支部の部長以上の役員は、受講者のレポートを評価し、トップ5を決定する(「レポート大賞」)。そして、その上位5人は、城北支部の先生が一堂に会する支部大会でプレゼンテーションのコンテストを行う(「プレゼン大会」)。

 先日、城北支部内で、この「レポート大賞」と「プレゼン大会」の位置づけ、運用方法をめぐってちょっとした議論になった。論点があちこち飛んでしまい(実は、診断士によくありがちである)、途中から私は議論について行けなくなってしまったのだが、本質的な問題は、「城北プロコン塾で養成するのはドキュメンテーション力なのか、プレゼンテーション力なのか?」ということであったと理解している。この問題は、言い換えれば、「診断士に必要なのはドキュメンテーション力なのか、プレゼンテーション力なのか?」という問題でもある。

 私は昔から一貫して、診断士に必要なのはドキュメンテーション力であるとの立場である。プレゼンテーションは、話し手の勢いや迫力、その場の雰囲気によって、何となく相手を解った気にさせられる。言葉は悪いが、口先でごまかすことができてしまう。診断士がプレゼンした改善提言に納得した中小企業の社長が、現場に戻っていざ改善に着手したとしよう。診断士の話の内容をもう一度思い出すために、プレゼンの際に渡されたドキュメントを読み返す。ところが、そのドキュメントに矛盾が含まれていたらどうであろうか?社長は困惑し、改善を断念するだろう。

 私は以前、東京協会が主催する「東京プロコン塾」に所属していたことがある。東京プロコン塾が始まって間もない頃、東京協会のある重鎮の先生が、「診断士は社長を騙くらかすぐらいの口達者になれ」と言ったのに私はひどく驚いた。私にはそんな不誠実なことはできないし、そういうプロコンを育成するのが東京プロコン塾の目的であるのならば、私の価値観とは全く相容れない。そのため、私は早い段階で東京プロコン塾を辞めることにした。

 (もう1つつけ加えると、その先生は、「飲食店の経験がない人が飲食店のコンサルティングをしたければ、数か月間でも飲食店でアルバイトをすればよい。そうすれば、飲食店の店長と対等に話ができる」とも言っていた。そんな中途半端な職務経験で店長と張り合えると考えるのは、かえって失礼である。そういう考え方を私は採ることができない。これも私が東京プロコン塾を辞めた一因である。私の経験上、ある業界でコンサルティングをする際に、その業界での業務経験は必須ではない。もちろん、業界経験があるに越したことはないが、業界経験がなくても、適切なコンサルティング技法があれば、コンサルティングは可能である)

 プレゼンテーションはごまかしがきくのに対し、ドキュメントはごまかしがきかない。内容に矛盾があれば、それを隠すことはできない。ドキュメントには非常に高い完成度が求められる。ところで、私はパワーポイントで納品することが多いが、コンサルティングの成果物としてのパワーポイントは、例えばスティーブ・ジョブズがアップルの新製品を発表する際に用いるものとは全く別物である。後者はインパクトが勝負であるのに対し、コンサルティングの成果物としてのパワーポイントは、それぞれのスライドで言いたいこと(キーメッセージ)が簡潔な文章で明確に打ち出されており、その内容をサポートする情報が図表などを用いて整然とまとめられているものである。そして、スライド間で内容に齟齬がなく、全体を通じて一本の筋が通っているものである。

 コンサルティングの成果物としてのパワーポイントは、見た目は重視されないのかと言うと、それは違う。全くの逆である。見た目も重要である。テキストボックスの大きさが揃っている、図の位置がずれていないといったことも、ドキュメントの価値を決める大きな要素である。私は様々な診断士のパワーポイントを見てきたが、見た目に無頓着な人が何と多いことか。スライドタイトルのテキストボックスの位置がページごとに違っていたり、フォントやサイズがバラバラだったりと、お粗末なスライドが多い。中小製造業は、毎日10ミクロン単位の公差で勝負をしている。その社長に、テキストボックスや図が何ミリもずれたドキュメントを出して笑い者にされたいか?

 1回ぽっきりの機会を何とか乗り切ればよいプレゼンテーションとは異なり、ドキュメントは社長が必要に応じて何度も読み返し、社長が社員に対して改善策を説明して回り、社員もまたその資料を何度も読み返すのに耐えうるレベルのものでなければならない。そのためには、ロジックを細部まで詰める必要があるし、そのロジックがすっと頭に入ってくるよう、ビジュアルにも細心の注意を払うべきである。ドキュメントは診断士の”作品”である。

 プレゼンテーション力重視派は、役所の無料窓口相談の担当者をしていたり、都や区の予算で商店街などの個店に派遣されて経営相談をやっていたりする人に多いように思える。確かに、こういう仕事ではドキュメントを作成する機会は少ないだろう。だが、はっきり言って、この手の仕事は診断士にとってほとんど儲けにならない。年金収入があるいわゆる”年金診断士”であればよいのだろうが、私のような年代の診断士にとっては全く魅力がない。それに、私の思い込みかもしれないが、企業が身銭を切らないコンサルティングは、企業側が本気にならない。本気でない企業を相手にコンサルティングをしても、コンサルティング能力は磨かれない。

 独立診断士が食えるようになるためには、1回あたりの仕事で数十万~数百万円になる案件をいくつも獲得する必要がある。この規模になると、口頭のアドバイスだけで済ますわけにはいかない。必ず、何かしらのドキュメントを成果物として残すことになる。よって、食えるプロコンになるには、ドキュメンテーション力が必須なのである。なお、売上高が数億円、数十億円あっても、当期純利益は数百万円程度しかない中小企業は非常に多い。そういう企業から、コンサルティングフィーとして数十万~数百万円をいただくわけだから、相手も必死である。必死な相手から何度もダメ出しされながらドキュメントを作成していくと、診断士としての力が磨かれる。

 しばしば、「人間は論理だけでは動くとは限らない。最後に人間を動かすのは情理だ」と言われる。この言葉を根拠に、診断士に必要なのはプレゼンテーション力だと述べる人もいる。しかし、この言葉をよく読めば、人間は論理だけで動くこともあることが解る。逆に言えば、情理だけで動くことはない。情理は論理を補完することはあっても、それ単独で相手を動かすことはできないのである。論理はドキュメンテーションによってこそ最も効果的に完結する。したがって、診断士に必要不可欠なのはプレゼンテーション力ではなく、ドキュメンテーション力の方である。

 私は、まだプロコンとしてはひよっこなので、他の診断士に仕事をお願いできるほどたくさんの案件を抱えているわけではない。だが、私が仕事を依頼する場合には、絶対に相手のドキュメンテーション力を重視すると決めている。プレゼンテーションが上手いかどうかは関係ない。むしろ、私の場合は、プレゼンテーションが上手ければ上手いほど、その人のコンサルティング能力を疑う。これは、前職のコンサルティング会社で、口だけのコンサルタントがクライアントや上司からボロカスにこき下ろされていたのを何度となく見てきたことも影響している。

 私は日頃から、どの診断士がどんなメールの文章を書くか、ワードやパワーポイントでどんな資料を作るかを注意深く見るようにしている。そして、どの診断士なら仕事を頼めそうか、それとなく当たりをつけている。ドキュメントが作れない診断士には、絶対に仕事を依頼しない

 《余談》
 ドキュメンテーション力重視派の中には、ここ数年中小企業向けの補助金が増えており、補助金の申請書類作成を支援するためにドキュメンテーション力が必要だと言う人もいる。私も本ブログで「【シリーズ】「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)」のような記事を書いてきた手前、あまり大きな声では言えないのだが、実は補助金に群がる中小企業や診断士が嫌いだ。

 補助金は、市場の失敗をカバーするための例外処理にすぎない。言ってしまえば、生活保護のようなものである。生活保護を堂々ともらおうとする人はいない(はずである)。どうしても生活に困っているので、今回だけ生活保護に頼るという人が大半だ。補助金も同じで、どうしても経営に困っているので、今回だけ補助金に頼りたいという謙虚な姿勢を持たなければならない。それなのに、補助金が出ると嬉々としてそれに飛びつく中小企業を見ると、その経営姿勢を疑う。また、補助金を受けたことを自社のHPで堂々とアピールすることも、私には全く理解できない。

 補助金を積極的に中小企業に勧める診断士にも私は一言言いたい。補助金は返さなくてもいいお金だと言って補助金をどんどん受けさせるのは、経済原理に反した行為である。企業は、株主や金融機関から調達した資金を活用して、彼らが期待する以上のリターンを上げ、彼らにリターンを支払ってなお残る利益を将来のために投資し、持続的な成長を実現するものである。「株式会社」が、近代経済を大きく発展させた最大の発明品と言われるのはこのためだ。ところが、補助金を使いすぎると、株式会社としての機能が麻痺する。当の診断士はよかれと思って補助金を勧めているのかもしれないが、実際には経済の破壊につながると知るべきである。

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