プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年11月14日

『新しい産業革命―デジタルが破壊する経営論理(『一橋ビジネスレビュー』2016年AUT.第64巻2号)』―アメリカのプラットフォーム型企業が世界を席巻する日、他


一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号) [雑誌]一橋ビジネスレビュー 2016 Autumn(64巻2号) [雑誌]
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2016-09-09

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 (1)澤谷由里子、西山浩平「クラウドソーシング オンライン分散型資源を生かす価値共創マネジメント」では、クラウドソーシングの仕組みを活用してプラットフォームを構築した企業の例が紹介されている。LEGOは「LEGO CUUSOO」を立ち上げて、世界中のユーザーから製品化のアイデアを収集し、LEGO CUUSOOにおいて製品企画を行った(現在、LEGO CUUSOOはLEGO IDEASと名前を変え、LEGOの一事業として吸収されている)。イーライリリーは「イノセンティブ」というプラットフォームを用い、イーライリリーが抱える研究課題をイノセンティブ上で公開して、その課題を解決できる研究者などを世界中から募集した。

 ただ、個人的に、これはプラットフォームではなくて、単なる「外注化」ではないかと思う。LEGOは製品開発機能をLEGO CUUSOOに、イーライリリーは研究開発機能をイノセンティブに外注したということだ。通常の外注と異なるのは、外注先が世界中に散らばっているという点である。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 上図については、以前の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」や、ブログ別館の記事「『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』」などを参照していただきたい。プラットフォームは、【象限③】に多く見られるパターンである。Amazon、Google、Appleは典型的なプラットフォーム型企業だ。元々【象限③】とは、必需品ではない製品・サービスを新たに創造するイノベーションである。アメリカ企業がこれを得意とするわけだが、アメリカ企業とて、一体どんなイノベーションがヒットするのかは解らない。一部のイノベーターが世界中の顧客の心をとらえて莫大な利益を獲得する一方で、何百、何千という死体が転がっているのが【象限③】である。

 イノベーターは、イノベーションの成功確率を少しでも上げるために、次々と新しい製品・サービスを市場に投入する。他のイノベーターも同じように行動するため、市場には、ありとあらゆる製品・サービスが乱立する。すると、成功確率を上げるために次々と製品・サービスを投入したのに、それがゆえにかえって自分のイノベーションが顧客に選ばれる確率が下がるという状況が生じる。そこで、イノベーターの中には、自分が最初にお金を払ってでもいいから(それも先行投資と見なす)、世界中に自分のイノベーションを広めたいと考える人が出てくる。

 ここで、プラットフォーム型企業の登場である。プラットフォーム型企業は、自社の莫大な顧客基盤を武器として、その顧客基盤にアクセスできる権限をイノベーターに与える。その代わりに、イノベーターからは登録料などの名目でお金を徴収する。これを、通常の卸・小売のビジネスモデルと比較すると下図のようになる。卸・小売の場合は、卸・小売業者が売り手から製品を購入し、代金を支払う。卸・小売業者はマージンを乗せてその製品を顧客に販売し、代金を回収する。あくまでも、売り手はお金をもらう人、買い手はお金を払う人という構図になる。

卸・小売とプラットフォームの違い

 他方、プラットフォーム型企業は、イノベーターが自社のプラットフォームにイノベーションを登録する際に手数料を徴収する。プラットフォーム型企業は顧客にイノベーションを販売し、代金を回収する。その後、プラットフォーム型企業のマージンを抜いた残金をイノベーターに支払う。つまり、プラットフォーム型企業は、売り手と買い手の双方からお金をもらう。もちろん、卸・小売業においても、売り手から卸・小売業者に対するリベートは存在するが、過度なリベートは違法扱いされる。しかし、プラットフォーム型企業がイノベーターから徴収する手数料は合法である。

 もう1つ、図には描き切れなかったが、卸・小売業とプラットフォーム型企業には重要な違いがある。卸・小売業者は顧客のニーズを先読みして、顧客がほしがるであろう製品を仕入れる。見込みが外れれば卸・小売業者が在庫リスクを被らなければならない(もっとも、契約によっては売り手が在庫リスクを負うケースもある)。これに対して、プラットフォーム型企業は顧客のニーズを聞かなくてよい。とにかくたくさんのイノベーターに自社のプラットフォームに登録してもらい、どれかが大ヒットすれば御の字である。仮に大部分のイノベーションが失敗に終わっても、プラットフォーム型企業は登録手数料で一定の収益を上げているから問題ない。

 先ほど、Amazonはプラットフォーム型企業だと書いた。Amazonは顧客主義を自負している。なるほど、Amazonで買い物をするたびに、他の製品を勧めてくるアルゴリズムは天下一品かもしれない。しかし、私はAmazonから自分のニーズを直接聞かれたことはない。私が最近共産主義や全体主義に関する本を購入しているのは、ファシズムと神の関係を整理したいと考えているためなのだが、Amazonのアルゴリズムではそこまでは予測できない。全体主義の本を買えば、全体主義に関連する書籍しかレコメンドされず、神学関連の書籍は出てこない。

 プラットフォーム企業は【象限③】に特有の形態であった。ところが、近年は日本企業が主戦場とする【象限②】や、多くの国で雇用の受け皿となっている【象限①】にも進出しつつある。【象限②】ではIoTを活用したプラットフォームが、【象限①】ではP2Pを活用したプラットフォームが生まれている(ブログ別館の記事「『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』」を参照)。最近、AIが人間の仕事を奪うと話題になっている。しかし個人的には、アメリカのプラットフォーム型企業が、【象限②】や【象限①】の従来型企業を自社のプラットフォームに組み込み、従来型企業から利益を収奪する未来の方が恐ろしいと感じる。

 (2)
 第3世代のフィンテックは、B2CをB2F(Business to Family)へと変革させる引き金となる可能性を秘めている。先の挿話でいうならば、それまではA博士個人が自律的に購買意思決定をして済まされていた多くの商取引について、リアルタイム連結会計システムの導入によって、家族であるB博士との合意形成プロセスを経なければならなくなる蓋然性が高まったのである。これはつまり、個人的消費ではなく、家庭的消費の視点の協調を意味する。これまでは個人の好みと満足度に焦点をあわせていればよかったが、これからは家族の好みと満足度をも考慮した経営が求められる可能性がある。
(土岐大介、岡田幸彦「フィンテック 「私だけの金融サービス」時代の到来と意思決定プロセスの変革」)
 個人的には、B2CからB2Fへの転換は、フィンテックが引き金となるとは思わない。優れた営業担当者は、お金を出す人と、お金を出す意思決定を下す人が異なる場合があることをよく知っている。10年以上前の話になるが、日産は自動車の購買意思決定を分析した結果、お店に来るのは夫であるが、実際に購買意思決定をするのは妻であることを発見した。そこで、製品開発チームの女性メンバーの数を増やし、女性目線での新車開発を行ったという。

 B2CのビジネスにおいてB2Fへの転換が見られるとすれば、B2Bのビジネスにおいては、言わばB2I(Business to Industry)への転換が必要になる。従来のベンダーの営業担当者は、単に顧客企業のニーズを聞いていればよかった。だが、顧客企業が何らかの製品・サービス・ソリューションを導入するのは、顧客企業にとっての顧客に対する価値を高めるためである。優れたB2Iビジネスの営業担当者は、顧客企業のニーズをくみ取るだけでなく、顧客企業の先にいる顧客のニーズを推定し、そのニーズを満たすために顧客企業にとって必要な製品・サービス・ソリューションを提案する。そのためには、顧客企業が相手にしている市場への洞察と、顧客企業の事業に対する深い理解が欠かせない。これが本当の意味での「ソリューション営業」であろう。

 (3)『一橋ビジネスレビュー』では、5回に渡って「無印良品の経営学」という連載が掲載され、本号がその最終回であった。近年、無印良品は海外展開を積極的に行っているが、現地よりも本社の権限が強いという印象を受けた。
 松崎は海外事業の成長のため、海外事業部にあった商品供給機能を、衣服・雑貨部、生活雑貨部に移管し、各部に海外商品担当を設置するよう話していた。良品計画の社員が海外事業に関心を持ち、ダイレクトコミュニケーションを持つ必要性を、松崎はアジア・業務担当部長のときから実感していた。
 2009年2月に現地の対応を実施していた店舗設計が全社の店舗開発部に海外担当として統合された。同じく2月に、ロンドンにあった商品開発機能を日本に移管した。無印良品らしくない商品が生まれていたためと、会長となった松井は言う。
 無印良品は元々、西友のプライベートブランドとして誕生した。その西友がウォルマートと提携したことによって、ウォルマートから学ぶところも多かったようだ。
 松崎は、西友時代にウォルマートから、現地での個別フォーマットの対応ではなく、標準化された得意なフォーマットで戦う意義を学んだという。
 おそらく、現時点ではこれで問題ないのだろう。だが、無印良品は(1)で示したマトリクス図で言うと【象限①】に該当する。【象限①】は、各国・地域の生活習慣の違いがニーズに反映されるため、製品・サービスの標準化が難しい領域である。ある程度までは標準化路線で行けるものの、その先さらに成長するためにはどうしても現地化が欠かせない。そのことは、他ならぬウォルマートが示している。ウォルマートでさえ、最近は国・地域ごとの店舗の違いを許容している。

 現在の無印良品は、「無印良品らしさ」を確立することに集中しているのだと思う。「無印良品らしさ」がないままに現地化をすれば空中分解する。「無印良品らしさ」という核を守りつつも、現地のニーズに合わせた製品・サービスのカスタマイズが要求される時期が必ず訪れる。それはおそらく、5~10年後ぐらいであろう。その際に無印良品が学ぶべきは、ウォルマートではなく、現地化経営を徹底しているネスレではないかと思う(ネスレについては、ブログ別館の記事「『凄いネスレ 世界を牛耳る食の帝国/【2017年新卒就職戦線総括】今年も「超売り手市場」が継続 選考解禁前倒しも競争は激化(『週刊ダイヤモンド』2016年10月1日号)』」を参照)。

 現地化経営にはもう1つのメリットがある。それは、現地に権限が分権化されることで、現地の組織の階層が増え、キャリアパスができることである。現在の無印良品は、本社に権限が集中しているため、現地の組織構造はかなりフラットであると推測される。一方で、海外事業の急成長に伴って、多くの現地社員を抱えるようになっている。現地の無印良品に勤めていてもキャリアの先が見えていると現地社員が悟った瞬間に、現地社員が集団で離職する恐れがある。それを防ぐためにも、現地に製品開発や店舗開発などの機能を移管する。すると、現地組織のポストが増える。現地社員は、頑張って仕事をすれば新しいポストに就けると思えるようになる。

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