プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 山本七平『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条』―日本組織の強みが弱みに転ずる時(1/2)
Prev:
prev 【城北支部国際部セミナー】「ここがポイント!日本人が気づいていない外国人旅行者へのおもてなし」~インバウンド需要に対応する現場経営者からのメッセージ~
2016年11月02日

中小企業向けの補助金・助成金を検討されている皆様へ(リスクを覚悟しましょう)


お金

 安倍政権になってから補正予算などによって中小企業向けの補助金・助成金(以下、単に補助金とする)が増加しており、これらの制度の利用を検討している企業も多いと思う。個人的には、補助金はリスクマネーであると考えている。すなわち、優れたアイデア・技術を持ちながら、外部環境の急激な変化によって一時的に経営難に陥り、金融機関の通常の審査では融資を受けることが難しい企業に対して、資金を供給するのが補助金である。言い換えれば、市場の失敗をカバーする役割を持つ。苦境に陥っている中小企業の救済が目的であるから、本来的には迅速に補助金を支払い、中小企業の創意工夫によって補助金を自由に使わせるのが筋である。

 ところが、実際にはそのようになっておらず、補助金がかえって経営の足かせになる場合があるので、注意が必要だ。まず、補助金は交付を受けるまでに時間がかかる(「交付を受ける」とは補助金がもらえることではない。多くの補助金は、使用した経費の事後精算であり、「交付を受ける」とは、事後精算時に最大いくらまで補助金をもらうことができるのか、その権利を付与されたものととらえるべきである)。金融機関から融資を受ける場合には、事業計画を提示してから通常は1~2か月で資金が振り込まれる。だが、補助金の場合はそうはいかない。

 例えば、近年の補助金の目玉の1つである「ものづくり補助金」を例にとると、2~3月に公募が始まり、5月に締切となる。その後審査が行われ、6月末ぐらいに採択結果が公表される。採択されたからと言ってすぐに事業を開始することはできない。公募の次に交付申請というもう一段階別の審査を受ける必要があり、最終的に交付決定が下りるのは7月末ぐらいになる。交付決定を受けると、ようやく事業を開始することができる。そうすると、2月に事業計画を作成しても、7月末までの約5か月間、事業計画が塩漬け状態になることを意味する。早く事業を開始して経営難から脱したい企業としては、これは非常にリスキーである。

 補助金は事後精算であると書いたが、補助金をもらうためには、購入物に関連する各種伝票類を漏れなく揃える必要がある。その事務処理が非常に大変である。この点については、以前の記事「【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい」でも書いた。通常の取引であれば、見積書や注文書を何度かやり取りしているうちに、見積書の日付が注文書の日付より新しくなることがある。税務署はこの点を全く問題視しないのだが、補助金ではNGとなる。見積書の日付は注文書の日付より古い日付でなければならず、もしそうなっていなければ見積書を取り直すか、注文書を再作成する必要がある。

 日付の矛盾だけでなく、金額の矛盾にもうるさい。細かい原材料を何種類も一度に購入した場合などに起こるのだが、消費税の計算がメーカーと中小企業によって若干異なる場合がある。請求書の金額と実際に支払った金額が1円違っていたりする。これも、税務署ならば全く気にしないが、補助金ではその1円の違いを説明させられる。「消費税計算の四捨五入の考え方の違いで1円異なっており、メーカーもその差異について了承している」という文書を作成しなければならない。あまりに事務処理が大変なので、「事務処理用に社員をもう1人雇わなければならない」と悲鳴を上げる中小企業もあるくらいだ。事務処理のために、本来業務が圧迫されるリスクがある。

 金融機関からの融資の場合、申請した資金使途に反していなければ、借りたお金を自由に使うことができる。これに対して、補助金の場合は資金使途などに関して細かいルールがたくさん定められている。そのルールを無理やり中小企業に適用すると、組織がおかしくなる危険性がある。ものづくり補助金に関しては、以下のような話を聞いたことがある。

 ものづくり補助金では、外注加工費を補助対象経費総額の2分の1以下にしなければならないというルールがある。ある中小企業は外注先を使って新しいソフトウェアを開発しようとしたが、普通に計算すると外注加工費が経費総額の2分の1を超えてしまう。そこで、一時的に外注先からその企業に社員を出向させたという形にして、直接人件費として処理した。また、別のある企業はソフトウェアの内製を検討していた。平成27年度補正予算のものづくり補助金からは直接人件費が補助対象経費から外れたため、このままでは補助金が受けられない。そこで、社員を辞めさせて個人事業主にし、その社員に発注することで、補助金のスキームに乗せたという。こういうケースで最も不幸なのは、企業側の都合で出向させられたり、退職させられたりした社員である。

 安倍政権になってから、日本の開業率をアメリカ・イギリス並みの10%に引き上げるという目標が掲げられており、創業支援にも力が入っている。創業希望者を支援する企業・団体向けの「創業支援事業者補助金」という制度がある。補助金を受けた支援事業者は、創業希望者に対して窓口相談業務を提供したり、創業・経営に必要な知識を学ぶセミナーを開催したりする。

 この補助金では、支援事業者の直接人件費も補助対象になっているのだが、要件として、「新たに採用した社員の人件費」を補助対象とすると定められている。創業支援事業者補助金は、地方自治体が定めた3~5年の「創業支援事業計画」と連動した補助金であり、毎年公募が行われる。すると、継続的に補助金を受けたいと考える支援事業者は、毎年新たな社員を採用しなければならない。おそらく、創業は雇用を生み出すものだから、支援事業者も同じように雇用を生み出すべきだという考え方が背景にあるのだろう。しかし、この事業のために毎年新たに社員を採用するのも大変である。そこで、ある団体では、1年だけ社員と雇用契約を結び、翌年は別の社員とまた1年だけ雇用契約を結ぶ、ということを繰り返していると聞く。

 私は以前、公益財団法人東京しごと財団が実施する「高齢者職域拡大モデル事業」という補助金の申請支援をしたことがある。これは、高齢者を活用した新たなビジネスモデルに対して補助金が出るというものである。私が支援させていただいたのは、主に高齢者向けの健康関連製品を販売する企業であった。高齢者のニーズをよく解っているのは高齢者自身であるから、高齢者を販売員とする新しい販売モデルを構想した。具体的には、販路開拓のために、地方にある代理店に向けて新たな教育プログラムを整備することとした。ところが、補助金の要件が「都内で雇用すること」となっている。そこで、地方の代理店で販売員を採用し、補助金を受ける間は東京の本社に出向させ、教育が完了したら元の代理店に帰任するというモデルを描いた。

 しかし、入社後いきなり出向させられることを条件に入社を決める社員などいないし(ましてそれが高齢者となればなおさら難しい)、本社側も出向者受け入れ期間中の家賃などを負担しきれないということで、結局は申請を見送った。企業側の担当者は当初、「この補助金が自社にぴったりだ」と熱が入っていたのだが、かなり無理をして補助金のスキームに当てはめようとしていたため、申請を断念してよかったと私は思っている。

 以上のような話があるため、現行の補助金制度は、リスクマネーの迅速な供給という本来の役割を果たしていないと感じる。補助金に頼ると、事業がなかなか開始できない⇒事務処理に時間がかかり本業に集中できない⇒業績が回復しない⇒再び補助金に頼るという、魔のループに陥る恐れがある。だから、私が中小企業を支援させていただく際には、私の方から積極的に補助金を勧めることはない。やはり王道は、金融機関から融資を受けることである。一時的な経営難により通常の審査では融資を受けることが難しいのであれば、金融機関の心証をひっくり返せるような納得性の高い事業計画を練り上げることに時間をかける。補助金の事務処理やルール遵守(ルールのすり抜け?)に振り回されるより、そちらに頭と時間を使うべきだと思う。

 《余談》
 以前の記事「「開業率アップ」を掲げながら創業補助金には及び腰になった中小企業庁」で、補助金の適正規模について触れ、直観的に「1%」という数字を使った。創業補助金であれば、毎年の創業者数の1%、ものづくり補助金であれば、その年に新製品開発をする中小製造業の1%といった具合だ。この「1%」にもっともらしい説明をつけるとすれば、次のようになる。

 前述の通り、補助金の本来の役割は市場の失敗をカバーすることである。個人の世界において、市場の失敗をカバーする役割を持つのは生活保護である。生活保護の受給率は約1.7%である。ただし、生活保護の場合は、本来生活保護を受ける資格があるにもかかわらず、何らかの事情で生活保護を受けていない人がいる。日本の場合は特にその数が多いと言われる。そこで、本来生活保護を受ける資格がある人のうち、実際に生活保護を受けている人の割合のことを捕捉率と呼ぶ。日本の場合、捕捉率は15.3~18%である。この数字を基に、生活保護を受ける資格がある人の割合を計算すると、約26~31%となる。

 生活保護の場合は、憲法25条で生存権が保障されており、生まれたからには生きる権利があるから、保護対象が広くなるのは当然である。一方、企業の場合は、ゴーイングコンサーンという言葉はあるものの、企業が永続的に存続する権利はない。仮に市場が失敗したとしても、市場から退出しなければならないケースもある(その代わり、やり直しがきく)。そこで、本当にカバーすべき市場の失敗を、生活保護よりも相当辛く見積もって1%としたわけである。

 中小企業向けの補助金を生活保護と同列で論ずることには異論もあるに違いない。だが、生活保護を受けている人は、そのことを堂々と宣言せず、どこか後ろめたさを感じているのと同様に、補助金を受けている中小企業も、同じような後ろめたさを感じている部分があるのではないかと思う。ある企業は、補助金を使って開発した製品のパンフレットに、経済産業省の補助金を受けたことを記載することで、経済産業省の”お墨つき”をもらったとアピールしたがっていた。しかし、「経済産業省 ○○補助”金”事業」と書くのは嫌だという。そこで、「経済産業省 ○○補助事業」と書くことにした、という話を聞いたことがある。

  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like