プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年11月18日

【日本アセアンセンター】2016年国連世界投資報告書:投資企業国籍・政策上の課題(セミナーメモ書き)


世界と日本の国旗

 日本アセアンセンターが開催したセミナーで、UNCTADが毎年発表している"World Investment Report(世界投資報告書)"の2016年度版の内容に関するセミナーに参加してきた。以下、例によってセミナー内容のメモ書き。

 (1)2015年の世界のFDI(直接投資)は1兆7,620億ドルで、前年比+38%となった。だが、本当に額面通りに金額が伸びているかは注意して見る必要があるという。2015年の伸びの要因は、主に以下の3つである。①先進国でM&Aが積極的に行われた。②Tax Inversion(課税逆転)が盛んに行われた。③②とも関連するが、法人税率の低い国におけるSPE(特別目的事業体:資産の流動化や証券化など特別の目的のために設立される事業体)の設立がFDI全体の15~20%を占めている。SPEは、設立されている国には経済的な利益を何ももたらさないこと、またSPEを経由して最終的にどの国に投資されているのかが解らないことに問題がある。

 (2)FDIのデータの取り方には、①Directional Principleと②Asset Liability Principleの2種類がある。例えば、日本がタイに子会社を設立し、タイの子会社が日本の親会社の一部を取得した(相互持合いにした)とする。この場合、タイの子会社が保有する日本の親会社の株式は、①に従えば日本からタイへのマイナスのFDIと見なされる。一方、②に従うと、タイから日本へのプラスのFDIとして計算される。FDIの統計を見る場合、①と②のどちらで集計されているか注意する必要がある(例えば、日本銀行の統計についてはこちらを参照)。

 (3)欧州へのFDIは、2014年の3,060億ドルから2015年は5,040億ドルへと約1.6倍、北米へのFDIは、2014年の1,650億ドルから2015年は4,290億ドルへと約2.6倍に急増している。これは、アメリカ企業がTax Inversionとして欧州を利用している結果である。まず、アメリカの株主が欧州の低法人税国に本社を設立する段階で、欧州へのFDIが発生する。次に、欧州の本社がアメリカで事業を行うためにアメリカに子会社を設立すると、アメリカへのFDIが発生する。2015年の対内FDIフロー上20カ国を見ると、アイルランド、スイスが前年よりも対内FDIを大幅に増加させている。これは、Tax Inversionの規制がかかる前の駆け込み的なFDIと考えられる。

 (4)UNCTADは、2016年の世界FDIフローは前年比マイナス10~15%と予測している。要因としては、①世界経済の脆弱性、②総需要の恒久的低調、③一部の資源輸出国の低成長、④Tax Inversionを抑制する政策、⑤多国籍企業の利益の低迷が挙げられる。ちなみに、UNCTADはどのように将来の世界FDIフローを予測しているかと言うと、まずは世界の多国籍企業約140社にアンケートを送付し、「どの国に、どのくらい投資する計画があるか?」と尋ねる。次に、各国の投資促進省庁にも同じようにアンケートを送付し、「どの国から、どのくらいの投資が見込めるか?」を回答してもらう。これらのアンケート結果のデータを、UNCTADが持つ予測モデルに投入し、直近の世界FDIフローのデータも踏まえた上で試算しているという。

 (5)世界的には、二国間協定(FTA/EPA)よりも、メガ協定が重視される傾向にある。現在、世界には約200か国が存在し、200カ国がそれぞれ二国間協定を締結すると、2万種類の協定が必要な計算になる。そのため、より効率的に経済連携を進めるために、メガ協定が選択される。FDIはそれぞれのメガ協定がカバーする域内で行われる傾向が強い

 (6)メガ協定には、投資家対国家の紛争解決に関するISDS条項が入っていることが多い。2015年のISDS案件は70件であった。しかし、この手の紛争は通常公にならないことから、実際にはもっと数が多いと思われる。従来、ISDS案件と言えば、先進国が途上国を訴えるケースが多かった(例えば、途上国政府が政変で転覆した際などに、先進国の進出企業が投資で被った損害を補償してもらう)。ところが、近年は先進国が先進国を訴えるパターンが増えている。

 日本で言うと、日揮とスペイン政府との間の再生可能エネルギー買取制度の変更をめぐる係争の事例がある。スペイン政府は、2004年から太陽光発電促進のために、電力買取制度を発電事業者に有利に改定して外資誘致に取り組んでいた。日揮はこの状況を前提に、2012年から現地企業と組んでスペイン南部のコルドバ市近郊において太陽光発電設備を稼働させていた。ところが、スペイン政府が電力の買取価格引下げなど投資家に不利な条件変更を相次いで行った。そこで日揮は、2015年6月に、エネルギー憲章条約に盛り込まれていたISDS条項に基づき、スペイン政府を相手取って、国際投資紛争解決センターに仲裁を申し立てた。

 (7)World Investment Report 2016で特徴的だったのは、多国籍企業の国籍を追求した点であった。UNCTADは多国籍企業が保有する約72万社の海外関連会社のデータを分析して、多国籍企業の「直接所有企業(Direct Ownership)」と「究極所有企業(Ultimate Ownership)」を特定した。その結果、究極所有企業が直接所有しているケースが44%、究極所有企業が直接所有企業と異なるケースが56%あった。この56%のうち、究極所有企業と直接所有企業が同じ国に存在するのは15%であり、残りの41%は究極所有企業と直接所有企業が異なるクロスボーダー型の所有形態であった。こういう企業の国籍は一体どこになるのかという問題が生じる。

 二重国籍問題はメガ協定において特に問題になる。①究極所有企業、直接所有企業がともに域内、②究極所有企業は域内だが、直接所有企業は域外、③直接所有企業は域内だが、究極所有企業は域外という3つのパターンについては、通常は国際投資協定が適用される。しかし、④究極所有企業、直接所有企業がともに域外の場合は、協定が適用されない。TPPのようなメガ協定であっても、④に該当する企業が28%も存在する(RCEPの場合は56%に上る。一方、TTIPの場合は14%にとどまる)。国籍でコントロールする政策の限界を示している。

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