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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年12月02日

【森・濱田松本法律事務所】インド合弁パートナー間の紛争/合弁契約上の権利行使―合弁当事者間の仲裁事例を踏まえて(セミナーメモ書き)


株価

 ドコモ・タタ紛争についての解説。2009年、株式会社NTTドコモはTata Sons Limited(タタ)より、Tata Teleservices Limited(TTL)の株式約2,523億円を取得した。その際、ドコモ、タタ、およびTTLの間の株主間協定において、ドコモは次のようなプット・オプション(売る権利)を設定していた。それは、「TTLが2014年3月期の会計年度において、所定の業績指標を達成できなかった場合は、ドコモはその保有するTTL株式を、取得価格の50%または公正価格のいずれか高い方でタタに売却できる」というオプションであった(※)。

 TTLは2014年3月期の会計年度において、所定の業績指標を達成できなかった。そのため、ドコモは2014年7月に、保有していたプット・オプションを行使した。業績不振に陥っていたTTLの株価は低迷していたことから、公正価格よりも取得価格の50%の方が高いとドコモは判断した。ところが、タタは取得価格の50%に相当する金額をドコモに支払わなかった。そこで、ドコモは2015年1月に入り、タタを相手方とする仲裁をロンドン仲裁裁判所(London Court of International Arbitration)に申し立てた。

 2015年2月、インド準備銀行(RBI)は、タタがドコモ保有のTTL株式を取得価格の50%にて取得することは外資規制に反すると判断した。インドには、株式の譲渡価格規制(Pricing Guideline)が存在する。具体的には、
 ・インド居住者から非居住者に株式を売却する際は基準価格”以上”
 ・インド非居住者から居住者に株式を売却する際は基準価格”以下”
でなければならない、というものである。つまり、インド居住者に有利な規制となっている。これ以外にも、インドには、インドから国外に資金が流出するのを防ぐような規制がいくつかある(ブログ別館の記事「小山洋平『インド企業法務 実践の手引』」を参照)。TTLは非上場企業であるから、非上場企業の基準価格がいくらになるのかが争点となるわけが、インドでは「Chartered Accountant(インドの公認会計士)またはSEBI Registered Merchant Bankerが国際的に受け入れられた算定方法により算定した公正な株式評価額であると証明する価格」とされている。

 2016年6月、ロンドン国際仲裁裁判所は、タタに株主間協定上の義務の不履行があったとのドコモの主張を認め、タタに対しドコモの保有するTTL全株式と引き換えに、ドコモの請求額全額にあたる約1,172百万ドル(約1,300億円)の損害賠償を命じた。これでドコモも一安心かと思いきや、翌月に入ってRBIはロンドン国際仲裁裁判所の決定に基づくタタによる支払いを認めないとの判断を下した。そこでドコモは同月、仲裁決定の執行をインドのデリー高等裁判所およびイギリスのLondon Commercial Courtに申し立てた。

 ドコモが最初にロンドン仲裁裁判所に仲裁を求めたのは、インドの裁判は非常に時間がかかるためである。1審で3~5年かかるのは当たり前で、最高裁まで行くと平気で15年ぐらいかかる。これでは話にならないため、通常は日本で裁判を起こすという選択肢が浮上する。ところが、インドの場合は、相互主義を採用している地域である旨を政府通達で宣言した国の裁判所の判決に限り、インド国内で判決を執行することを認めている。インドが相互主義を認めているのは、イギリス、カナダ、バングラデシュなどであり、実は日本とアメリカが入っていない。そのため、ドコモは日本で裁判を起こせず、ロンドン国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てたというわけだ。

 では、外国で得られた仲裁裁判の執行は担保されるのかが次の問題となるが、商業的な法律関係に起因する紛争に関する、ニューヨーク条約またはジュネーブ条約の締結国における仲裁判断は、インド国内で執行することが認められている。ただし、外国で得られた仲裁判断であっても、インドの公序良俗に反すると認められるものについては、執行されない(この点は相互主義が認められた外国の裁判所で得られた判決に関しても同様である。外国の裁判所で得られた判決であっても、インドの公序良俗に反すると認められるものについては、執行されない)。この点で恣意性が入る余地があり、タタ・ドコモ問題においても、ドコモが保有するTTL株式を取得価格の50%でタタに売却することが公序良俗に反するかどうかが争点となる。

 ドコモ・タタ紛争を防ぐ方法としては、3つ考えられる。1つ目は、タタから対価の支払いを受ける企業をインド非居住者であるドコモにするのではなく、ドコモがインド国内に保有する別企業にするというものである。つまり、インド国内で取引を完結させるということだ。2つ目は逆に、インド国外で取引を完結させるというパターンである。具体的には、タタがインド国外に保有する企業から、ドコモに対して対価を支払うようにする。そして3つ目は、株式の売却という形ではなく、損害賠償という形で解決するという方法である。

 (※)そもそもRBIは、非居住者である投資家に対して、イグジットの方法とリターンを保証するプット・オプションは、株式などの証券に対して負債と類似した性質を付与するものであり、FDIポリシーに適合した出資としての適格性を欠き、むしろECB規制(External Commercial Borrowing:対外商業借入)に従うという見解を示していた。そのため、エクイティ出資を行う非居住者がプット・オプションを保有することについては疑義が残っていた。

 ところが、2014年1月のRBI通達により、一定の条件の下にインド非居住者がプット・オプションを取得することが認められた。
 ①非居住者に一定のリターンを保証する合意は禁止する。
 ②非居住者は権利取得日から1年間は権利を保有する必要がある(ロックイン期間)。
 ③非居住者が権利行使をして会社の株式を売却する場合、売却価格の上限規制がある。非上場株式の場合、前述の基準価格と同じである(Chartered Accountant(インドの公認会計士)またはSEBI Registered Merchant Bankerが国際的に受け入れられた算定方法により算定した公正な株式評価額であると証明する価格)。

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