プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2016年12月07日

『人を育てる(『致知』2016年12月号)』―部下からの「下剋上」を引き出すには①大枠の提示と②権限移譲、他


致知2016年12月号人を育てる 致知2016年12月号

致知出版社 2016-12


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 (1)
 私は外国に行ってよかったのは、期限つきで成果を出すということを学べたことです。「次の試合でこうしてくれ」っていうオファーをいただいて行くから、必ず結果を出さなければいけないんです。
(井村雅代「本気で向き合えば可能性は開ける」)
製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 (※上図の説明については以前の記事「森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他」や、ブログ別館の記事「『プラットフォームの覇者は誰か(DHBR2016年10月号)』」などを参照)

 スポーツというものは左上の象限に属すると考える。左上の象限はアメリカのイノベーターが強いわけだが、リーダーは「これこそ世界が欲している画期的な新製品・サービスである」とイノベーションを構想し、それを世界中に普及(布教)させることを唯一絶対の神と契約する。契約には期限があり、リーダーはそこから逆算して今何をすべきかをバックキャスティングする。つまり、時間が未来⇒現在という向きで流れていく。引用文の井村雅代氏は、リオ五輪で日本代表ヘッドコーチを務め、デュエット、団体ともに銅メダルをもたらした方である。井村氏が海外で学んだのは、「○○年後に勝つ」という目標から逆算してトレーニングを設計することであっただろう。

 目標から逆算して考えるのは当然ではないかと思われるかもしれないが、日本人は未来⇒現在という向きで物事を考えるのが得意ではない。逆に、現在⇒未来という流れで時間をとらえる。別の言い方をすると、未来に明確な目標を設定せず、現状を常に改善し続けることを是とする。改善を継続した結果、将来的に現在とは似ても似つかぬ姿に成長するかもしれないが、成長後の姿をあらかじめデザインすることはできない。未来は現在と異なるかもしれないと信じるしかない。日本には「○○道」という名前のスポーツが多い。この「道」が意味するのはこのことである。

 剣道には、初段から8段まであり、それぞれの段位の資格は「全日本剣道連盟」によって定義されている。だが、段位が上がれば上がるほど、定義は曖昧になっていく。解っているのは、高い段位になるほど、技術だけではなく総合的な人間力が要求されること、それから、高い段位に上がるためには、より長期の鍛錬が必要だということだけである。資格の定義が何を意味するかは、どれだけ時間をかけてもよいから、現在⇒未来へと修行を積み重ねて”悟る”しかない。
 だから私はチームで泳いでいる時も「あなたがダメ」って言うんですよ。「犯人はあなた」って。だって個人の集まりが集団ですから、個人の欠点をなくしてスキルを上げないと、集団がいいものにならないじゃないですか。(同上)
 失敗の責任を個人に帰着させるのも欧米流のやり方だ。欧米社会は元々狩猟社会である。獲物が獲れるかどうかは、個人の力量に依存する。しかも、獲物が獲れなければ死を覚悟しなければならない。そこで、欧米人は失敗するとその原因を徹底的に分析し、原因を個人に求める。その上で、二度と同じ失敗を繰り返さないように、別の言い方をすれば、失敗の原因たる個人が二度と足を引っ張らないようにするために、全く新しいやり方をデザインし直す。

 先ほど、リーダーはイノベーションに関して神と契約を結ぶと書いたが、その契約が本当に正しいかどうかは、実は神にしか解らない。だから、失敗に終わるイノベーションもたくさんある。その際、欧米人は、失敗の原因を徹底分析して、その失敗を回避するプランを練り、もう一度新たなイノベーションで神と再契約を結ぶ。「今度は○○という製品・サービスを、△△年後までに世界中に普及させる」と約束する。ここにおいても、時間は未来⇒現在へと流れている。

 これに対して、日本社会は農耕社会である。農作物の出来・不出来は自然に大きく左右される。別の言い方をすれば、人間の力ではどうしようもない要因が大きく影響する。だから、仮に失敗に終わる、つまり農作物が不作に終わると、「天候が悪かったせいだ」といった具合に、外的要因に責任を転嫁させる。欧米人のように個人のせいにすることはない。そして、日本の場合は現在⇒未来へと連続的に時間が流れるから、失敗が起きるとまずは現在の状態に戻そうとする。その上で、未来へと続く改善の道を再び歩み始める(東日本大震災が起きた後、日本にできた役所の名前は「復興」庁であった。復興とは元通りに戻すことを意味する。仮に欧米人が震災に遭ったならば、「創造」庁という役所を作るであろう)。

 (2)
 川島:家庭では既に抑制が難しくなったという意味では、僕はこれからスマホを規制の対象にすべきだとさえ考えています。それはもうアルコールやタバコのレベルではなく、麻薬と同じ扱いでいいのではないかという危機感を抱いているわけです。
(川島隆太、齋藤孝「素読のすすめ」)
 川島隆太氏によると、スマートフォンでSNSをやっている子どもの脳は抑制された状態、より解りやすい言葉で言えば眠った状態になるという。また、スマホの研究ではないが、楽しそうにゲームをやっている子どもと、嫌々ながら簡単な計算問題をやらされている子どもの脳を比べると、実は後者の方が脳がよく働いていることが解ったという。こういうことを踏まえて、スマホでゲームやSNSばかりをやる子どもの将来を憂い、引用文のようにスマホの規制を提案している。

 私は子どものことはよく解らないが、スマホが普及してから明らかに大人のモラルが低下したと感じる。特に、中高年のモラル低下が著しい。公共の場でマナーモードに設定せず、堂々と着信音を鳴らす人がいる。飲食店でバシャバシャと料理の写真を撮る人がいる。カフェや電車の中で長時間電話をする人がいる。そういう音が周囲の人にとって不快であることに思いをめぐらすことができていない。とりわけ、カフェや電車で電話をする人が、口を覆うようにして話しているのを見ると、非常に腹立たしく感じる。口を覆うということは、電話することに後ろめたさを感じている証拠であり、その後ろめたさがありながらなお通話を続ける神経が私には信じられない。

 スマホが普及してからノマド的な働き方ができるようになり、仕事の効率性が上がったと言われる。しかし、私はむしろ、スマホが組織の生産性や凝集性を下げているのではないかという仮説を持っている。よく、カフェで部下と長々と通話をしていると思われる上司風の人がいるが、そんなにコミュニケーションを密にとってやらなければならない仕事であれば、オフィスで部下のそばにいてあげるべきだと思う。また、別の見方をすれば、部下から頻繁に電話がかかって来る、もしくは部下に頻繁に電話をしているのは、上司が部下に下した命令が曖昧であることが原因とも言える。つまり、仕事の振り方、部下マネジメントが下手くそなのである。

 《2016年12月10日追記》
 『正論』2017年1月号より、西部邁氏の文章を引用。
 こうした「文化なき文明」(オズヴァルト・シュペングラーの『西洋の没落』の趣旨)としての「文明の冬期」にあっては、シュペングラーによればメソポタミア文明の昔からずっと、「新技術への熱狂」と「新興宗教の昂揚」が進む。それどころか宗教感覚の弱い我が国で現に進んでいるのは「新技術が新宗教と化す」ということである。たとえば、10人のうち9人が「スマホ」を使っての「ゲーム遊び」とやらに店内でも車内でも広場でも街路でも無心に耽っている。それは「世界で生きている」のではなく「世界を玩具にしている」(ヨハン・ホイジンガ)光景にほかならない。
(西部邁「ファシスタたらんとした者(14)」)
正論2017年1月号正論2017年1月号

日本工業新聞社 2016-12-01

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 (3)
 1つは、「何でも自分で考える習慣をつける」ということです。父親は何でもさせてみるタイプで、私からの提案や相談に反対することは基本的にありませんでした。ただし、それを実現するための具体的な方法や資金調達も全部自分で考えなければなりません。
(金子和斗志「人間には無限の可能性と無限の成長がある」)
 トップダウン型のリーダーシップが好まれる欧米では、部下が上司に何かを提案することは考えにくい。部下の方がよいアイデアを持っているならば、上司の存在意義がなくなると思われるからだ。他方、日本の場合は、ボトムアップ型のリーダーシップが重視される。本号にも、引用文以外に部下からの改善提案を尊重しているという記事が2本あった。本ブログでは、部下からの提案のことを、山本七平の言葉を借りて「下剋上」と呼んでいる(詳細は以前の記事「山本七平『帝王学―「貞観政要」の読み方』―階層社会における「下剋上」と「下問」」、「山本七平『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条』―日本組織の強みが弱みに転ずる時(1/2)」を参照)。

 ただ、上司が部下の下剋上を機能させるには、「さあ、何でもいいからアイデアを出してごらん」と言うだけでは不十分である。こういう上司に限って、いざアイデアを出すと、あれがダメ、これができていないなどと色々と文句をつけてくる。部下は「『何でもいい』と言ったではないか」と、上司に対して不満を抱くことだろう。そして、二度とアイデアを提案することはないに違いない。日本人の悪い癖として我々は自覚しておく必要があるが、日本人は目に見えないもののよしあしを判断することが非常に苦手である。逆に、目に見えるようになると欠点や改善点が解るようになる。この特性が、先ほどのような身勝手な上司を生み出す。

 上司が部下の下剋上を引き出すには、最低限の大枠を示す必要がある。「我々の組織はこういう方向に向かっている」、「我々の組織は最低限こういう行動規範、倫理基準で動かなければならない」―このように一定の可視化を行い、部下と認識レベルを合わせた段階からスタートさせなければならない。こういう制約は、部下の自由な発想を縛るのではないかという心配の声もあるだろう。しかし、一定の制約があった方が、かえって思考の自由度が上がることが心理学などの研究から解っている。コンサルタントが様々なフレームワークを用いるのも、単に情報をきれいに整理するためではなく、そこから柔軟な発想を導き出すためである。

 上司が部下の下剋上を引き出す上でもう1つ重要なことは、十分な権限移譲をすることである。部下がアイデアを実行するには、引用文にある通り、経営資源が必要である。経営資源とはヒト、モノ、カネ、情報であるが、特に重要なのはヒト、カネ、情報の3つである(モノはカネがあれば買える)。アイデアを実行するのに数百万円かかるのに、社長が1万円単位で細かく決裁をするような組織では、そのアイデアはいつまでも日の目を見ないだろう。アイデアの実現に他のメンバーの協力が必要なのに、アイデアの発案者が人材を柔軟に動かすことができなければ、そのアイデアは出発すらできない。新しい情報に基づいてアイデアを実行したいのに、社内情報システムの権限設定でロックがかかっていたら、推測で動くという危険を冒す他にない。

 上司は、部下が使える資金の範囲を広くしなければならない。また、部下が新しいアイデアのためにメンバーを引き抜いても元の業務に問題が生じないよう、他のメンバーを多能工化しておかなければならない。あるいは、抜けた穴に新しい人材を投入してもすぐに業務が回るように、業務を形式知化、標準化しておく必要がある。また、情報漏洩リスクを考慮しなければならないが、組織内の重要な情報は基本的に組織の末端までオープンにする姿勢も大切である。

 《補足》
 情報共有について、チームラボ株式会社の取り組みが示唆的である。
 プロジェクトメンバーやチーム同士のコミュニケーションでは、チャットを多用している。使用するツールは自由だが、インタラクティブ性と検索性を重視したソフトが使われることが多い。当然、個人情報やクライアントの機密情報へのアクセスは厳密なセキュリティを設けているものの、作品をつくるうえで重要となるプログラムなどの情報は基本的に全社員にオープンにしている。実際には、本当に必要な情報は一握りだろう。ただ、いつでもアクセスできる環境にあるということが大事だと思っている(※太字下線は筆者)。
(堺大輔「究極のフラット型組織で、究極の実力主義 チームラボのチームの秘密」〔『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年12月号〕)
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2016年 12 月号 [雑誌] (チームの力 多様なメンバーの強さを引き出す)

ダイヤモンド社 2016-11-10

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