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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2017年01月21日

【現代アメリカ企業戦略論(2)】アメリカによる啓蒙主義の修正とイノベーション


アメリカ

 前回の記事「【現代アメリカ企業戦略論(1)】前提としての啓蒙主義、全体主義、社会主義」の続き。18世紀に花開いた啓蒙主義は、ドラッカーが指摘したように後の全体主義、社会主義を生み出した。唯一絶対の神=人間の理性ととらえるこの立場の特徴を簡単におさらいすると、以下の3点に集約される。すなわち、①過去や未来という時間の流れを否定し、現在という1点に集中して革命を目指す、②1人がすなわち全体とイコールであり、共有財産制や独裁が導かれる、③神と人間が直接的に結ばれることをよしとし、間に何らかの組織(国家、政府、企業、教会、家族など)が介在することを嫌う、ということである。

 一般に、啓蒙主義はフランス革命で現実化し、フランス革命に刺激されてアメリカ独立運動が起きたと説明される。ところが、ドラッカーは、アメリカが影響を受けたのはフランス革命ではなく、イギリスの伝統的な保守主義であると『産業人の未来』の中で語っている。実際、アメリカは大陸の啓蒙主義をそのままの形では受け取らなかった。アメリカ人は、人間の理性には限界があることを認めた。つまり、唯一絶対の神=人間の理性という等式を否定したわけだ。その上で、前述した啓蒙主義の3つの特徴に修正を加えることにした。

 まず、①現在から未来への時間の流れを肯定した。アメリカ人は、未来のある時点におけるビジョンを構想し、そのビジョンを実現するための行動を起こした。ビジョンは人間の自由意志によって描かれる。この自由は、啓蒙主義の絶対的な自由が、結局は他者の自由の侵害を避けるために孤立せざるを得なかったのとは異なる。理性が不完全であるがゆえに、人間にはいかようにもビジョンを描く自由がある。アメリカ人は、自らのビジョンを生涯のうちに実現することを神と「契約」する。ただし、その契約が本当に正しいかを知っているのは神のみである。よって、神と正しく契約できなかった者、あるいはそもそも神と契約をする気がなかった者は、正しい契約を締結し、それを履行した者に劣後する。そのため、アメリカでは格差が正当化される。

 次に、②二項対立という考え方を導入した。アメリカ人はあらゆる事象を対立概念でとらえる。その源泉はイギリスの議会政治にあるとドラッカーは言う。「19世紀のイギリスの政治制度の中核は、議会主権の制限、および多数派政府の制限にあった。さらには、多数派の同意による少数派支配の制限にあった。これを可能としたものが、野党を政治に組み込む二大政党制であり、内閣であり、官僚機構だった」。よって、「官僚機構の上層部にいる者は、当然のこととして、野党のための政策案を準備することが期待された。その結果、イギリスでは、1つの問題について、同一の基本理念に立つ2つの政策案が、つねに自動的に準備されることになった」。二項対立は他者の存在を肯定する。啓蒙主義が連帯を唱えながら他者から孤立したのとは異なる。

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 そして、③神と人間の間に一定の階層構造を認めた。アメリカと言うと大統領のリーダーシップに注目が集まりがちだが、実は各州が強力な権限を持つ連邦制であり、分権化が進んでいる。この分権化は、アメリカという広大な国土を統治するための知恵である。アメリカが理想とする自由、平等、基本的人権、民主主義、資本主義などの基本的価値観を広大な領土の隅々に行き渡らせるのに、大統領1人のリーダーシップだけに頼るのでは負担があまりに重すぎるし、どうしても時間がかかる。そこで、各州に権限を与え、それぞれの州にもアメリカの理想の実現を手伝ってもらう。こうすることで、効率的な国家運営が可能となる。さらに、権限移譲された各州の利害関係者のモチベーションを向上させることができるという副次的な効果も期待できる。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 ここから現代アメリカ企業の戦略論の本題に入る。まず、「必需品か否か?」、「製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きいか?」という2軸でマトリクスを作る。すると、上図のように<象限①>~<象限④>が得られる。

 <象限①>は、必需品であり、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さいものを指す。具体的には、食品、衣料品、日用品、白物家電、飲食店、小売店、教育、ニュースメディアなどが該当する。もちろん、これらの製品・サービスにおいても高度な品質管理は重要である。しかし、仮に食品や衣料品に欠陥があったとしても、食中毒やアレルギーを起こすことはあれ、顧客を死に至らしめることは少ない。<象限①>は参入障壁が低く、比較的低コストでマネジメントできることから、コスト優位性の高い新興国が強い。一方で、各国の雇用を下支えする産業が多いため、多くの国が外資規制を導入している領域でもある。

 <象限②>は、必需品であり、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きいものを指す。具体的には、自動車、輸送機器、産業機械、住宅、建設、医療、介護、製薬、化粧品、IT(BtoBの基幹業務システム)、物流・輸送、金融(預金・貸出)などが該当する。自動車や産業機械に欠陥があれば、顧客や作業者を死に至らしめることがある。BtoBの基幹業務システムや物流に障害が起きれば、企業の業務がストップしてしまう。金融機関の預金・貸出機能にトラブルが発生すれば、経済システム全体が心肺停止状態になる。<象限②>では非常に高度な品質管理が必要となる。時には、不良ゼロというレベルまで要求される。この<象限②>に強いのは、日本企業とヨーロッパ(特にドイツ)の企業である。

 <象限③>は、必需品でなく、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さいものを指す。具体的には、高機能家電(スマホ、タブレットなど)、ブランド品、エンタメ、テレビメディア、IT(BtoCのWebサービス)、映画、音楽、書籍、雑誌、観光、金融(証券・保険)などが該当する。スマホやタブレットはしばしばフリーズするが、それによって顧客の生命が危険にさらされることはない。映画俳優の演技が多少下手くそでも、ロックバンドの演奏が多少音痴でも、顧客が不快感を味わうことはあれ、生命の危機に瀕することはない。この<象限③>に強いのがアメリカ企業である。<象限③>は必需品ではないため、企業は常に需要を創造しなければならない。これはまさしくイノベーションに他ならない。

 どんなイノベーションも最初は非必需品として出発するが、時の経過とともに必需品化することがある。すると、<象限③>から<象限①>や<象限②>(必需品化するだけでなく、品質要求も高くなる場合)に移行する。日本企業は<象限③>から<象限②>に移行してきた製品・サービスをアメリカ以上に磨くことで競争力を保ってきた。しばしば、日本企業はなぜアメリカのように<象限③>のイノベーションを起こすことができないのかと議論になる。しかし、<象限③>のイノベーションを起こせないのはヨーロッパなどの国も同じである。<象限③>に長けているのはアメリカしかいない。日本は無理に<象限③>を目指さず、従来通りアメリカの後追いをしていれば十分だと感じる(こういう日本企業の戦略を、ドラッカーは「起業家的柔道」と呼んだ)。

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 ちなみに、<象限④>は、必需品でなく、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが大きいものを指すが、この象限は必需品でないがゆえに市場規模や顧客ニーズを予測することが難しく、さらに非常に高度な品質管理が要求されるという、難易度の高い象限である。端的に言えば経営リスクが非常に高い。よって、該当する製品・サービスはほとんどない。強いて例を挙げるとすれば、航空業界と軍需産業が該当すると思われる。航空業界は、世界一経営が難しい業界だとされる。現に、アメリカでは航空会社が次々と経営破綻している。

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