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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年01月09日

鈴木克明『研修設計マニュアル―人材育成のためのインストラクショナルデザイン』―研修をデザインするのがIDではなく、組織的な学習をデザインするのがID


研修設計マニュアル: 人材育成のためのインストラクショナルデザイン研修設計マニュアル: 人材育成のためのインストラクショナルデザイン
鈴木 克明

北大路書房 2015-04-19

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 「インストラクショナルデザイン(Instructional Design:ID)」に関する1冊である。インストラクショナルデザインとは、教育の場などにおいて、学習者の自由度を保ったまま高い学習効果が生じることを意図して、具体的な計画を立てることである。別の言い方をすれば、細かく区切られた学習・教育の単位である「インストラクション」を形づくる(デザインする)ということを意味する。

 ただし、本書の特徴は、研修を人材育成の最後の手段と位置づけている点にある。本書では、人材育成、知識習得、能力獲得の手段として、吉田新一郎氏の研究が紹介されている。吉田氏は、①1人でできる学びとしてシャドーイング、自己開発計画、読書など、②2人でできる学びとして相互コーチング、メンタリング、ジョブ・シェアリングなど、③チームでできる学びとしてアクション・ラーニング、アクション・リサーチなど、④組織でできる学びとして変化の担い手の養成、オフサイト・ミーティングなど22の方法を挙げている(吉田新一郎『「学び」で組織は成長する』〔光文社新書、2006年〕)。研修は、これらの手段では知識・能力の取得が難しい場合に選択される。

「学び」で組織は成長する (光文社新書)「学び」で組織は成長する (光文社新書)
吉田 新一郎

光文社 2006-01-17

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 また、TOTEモデルを用いて、既に一定の能力・知識水準に達しており、研修を受講する必要がない人は研修参加者から外すとしている点も興味深い。TOTEモデルとは、まず既に目標を達成しているかどうかをチェックし(Test)、既に目標を達成している場合には作業をしないで抜け出す(Exit)。目標が達成していないことが判明したら、その目標に向けて一定量の作業を行い(Operate)、再び目標が達成できたかどうかをチェックする(Test)というモデルである。一定のレベルに達している受講者には、他の受講者よりも難しい課題を与えるということは私も考えたことがあったが、既に目標に達している人を研対象者から外すという発想は今までなかった。

 インストラクショナルデザインと言うと、研修時間中にいかにして新しい知識を効率的に教えるかを適切に設計するというイメージがある。しかし、本書の立場は正反対であり、「教えない」研修を目指している。これも本書の大きな特徴である。現場で実際に起きている問題を取り上げ、演習やグループワークなどを通じて受講者自身に問題を解決させる。講師はあくまでも支援者、ファシリテーターとして振る舞う。基礎的な問題ができた後は応用問題を用意し、もう一度チームで討議させる。その討議結果を現場に持ち帰り、現場で実践するように促す。これが理想的な研修である。だから、本書を「教え方」の本だと思わない方がよい。

 旧ブログの記事「研修が成果につながるための職場の条件を整理してみた」で、以下の図を用いた。これは2009年に書いたかなりラフな図であるが、本書を読んで、当時の考え方はあながち間違っていなかったと自信を持つことができた。本書ではeラーニングの構成要素として、①狭義のeラーニング(知識を効率的に伝達する)、②EPSS(電子的業務遂行支援システム。高いレベルの職務パフォーマンスを可能にするための、統合された情報へのオンデマンドアクセスを可能にする)、③KMS(基礎的な文書管理、知識の創造、共有、管理、コーポレート・インテリジェンスの創成を行う)、④インフォーマル学習(勉強会、分科会などを通じた学習を行う)が挙げられている。②③は、下図の「行動」フェーズを支えるインフラとして機能する。

 このeラーニングの体系は、eラーニングに限定せず研修全般に適応可能だと思う。下図にある「評価制度」も入っていればなおよかったであろう。せっかく研修で学習したことを現場で実践しても評価されないのであれば、誰も研修内容を現場でやろうとはしないものである。

行動変容に影響を与える職場要因

 私は仕事柄様々な研修をやらせていただいたが、上図のような理想形に近い形で研修を実施できたのはわずか1事例しかない(恥ずかしい話である)。その企業では、営業担当者向けにコンサルティング営業の研修を実施したのだが、研修に先立って、あるべき営業プロセスを定義した。その上で、研修内容は、その新しい営業プロセスを体得してもらうためのものとした。講義時間は研修時間全体の約2割に抑え、残りはケーススタディを用いた演習に全てつぎ込んだ。研修の最後には事後課題を与え、別のケーススタディに取り組んでもらうことにした。フォローアップ研修では、宿題となっていたケーススタディの結果を受講者同士で共有し、今後現場でコンサルティング営業を実施するために何をすべきかというアクションプランを作成してもらった。

 それと並行して、営業部門に導入されていたSFAの仕組みも改良した。新しい営業プロセスの進捗を管理できるようにカスタマイズした。同時に、KMSには、研修のケーススタディで受講者が作成した提案書を蓄積することとした。もちろん、あくまでも研修で作成した提案書であるから、そのまま現場で使用することは難しいかもしれない。しかし、基礎的なフレームワークなどは流用できるように配慮したつもりである。加えて、評価制度も再構築した。コンサルティング営業を何件実施し、いくら受注できれば評価されるのかを明確にした。ただし、これだけでは結果の評価に偏ってしまうため、提案書の質を評価するなど、プロセス面も評価項目に加えた。

 ただし、反省点もある。まず、この研修では事前テストを実施しなかった。そのため、受講者の知識・技能レベルがどの程度なのかを事前に把握することができなかった。また、TOTEモデルに従って、既に目標をクリアしている人を研修対象から外すことができず、全員を研修対象とせざるを得なかった。さらに、事後課題の負荷が受講者と人事部にとって重すぎた。受講者には、2か月かかるハードな事後課題を与えた。忙しい営業担当者に、業務の合間を縫って2か月間も事後課題に取り組んでもらったことで、それなりの機会損失が生じたと考えられる。事後課題のフォローをお願いした人事部にも大変な思いをさせてしまった。

 コンサルティング営業のスキルは、ロバート・M・ガニェの5分類に従うと「知的技能(規則を未知の事例に適応する力。手続き知的知識)」に該当する。知的技能のレベルを測る手段としては、ケーススタディのような実践的な課題が真っ先に思いつく。しかし、本書によれば、知的技能であっても、一般的なテストでレベルの測定が可能だという。例えば、受講者にある企業情報を与えて、その企業の経営課題は何かをパワーポイントで一から作成させるのではなく、複数の選択肢の中から課題と思われるものを全て選択させる、といった具合である。事後課題は、途中と最後に講師が受講者にきめ細かくフィードバックを行ったこともあってか、高い評価をいただいた。だが、そこまでしなくても、テストを工夫すれば同程度の効果を得られたかもしれない。

 研修でどんなに頑張っても、本当の意味での学習は生まれない。真の学習が生まれるのはあくまでも現場である。研修は学習のためのきっかけ作りにすぎない。だから、人事・教育担当者は、狭い意味でのインストラクショナルデザインにこだわって研修をリッチにするのではなく、学習を現場の業務に埋め込む、さらには学習によって現場の業務が進化するように様々な仕掛けを整えることが重要である。これが広い意味でのインストラクショナルデザインであろう。

 学習を現場の業務に埋め込むという点に関して最後にもう1つだけ。本書では、コーチング研修の研修企画書やRFP、研修発注書の例が掲載されている。読み手にとって解りやすい例ということでコーチング研修が選ばれたのだろうが、コーチング研修のようなヒューマンスキル系の研修ほどインストラクショナルデザインが難しいものはない。一般的なコーチング研修では、ラポールとか傾聴スキルとかを学習する。しかし、それを現場でどう実践するのかという点でつまづく企業が少なくない。これは、コーチングがその企業の業務に埋め込まれていないからである。

 私の大雑把な理解によれば、上司がコーチングを行う場面は、①部下の進捗を管理する時、②部下から新しい提案を受ける時、③部下のトラブルに対応する時(顧客からのクレームを含む)、④人事考課の結果をフィードバックし、次期の目標を立てる時の4つだと思う。これら4つのケースにおいて、上司は具体的にどのようにしてコーチングを行うのか、組織としての一定の雛形(スクリプト)を準備しておく必要があるだろう。そして、そのスクリプトと連動した報告書などのドキュメントも用意しなければならない。このようにして、業務環境を整えておく。

 加えて、評価指標も設定する必要がある。①であれば部下の仕事のリードタイム(の短縮)、②であれば部下からの提案件数(の増加)、③であればトラブル発生件数(の減少)、④であれば部下の目標の達成率(の向上)などが考えられる。もちろん、これらの指標はコーチングだけの成果と見なすことは難しく、複合的な要因によって達成されるものであることは言うまでもない。しかし、指標がないよりはあった方がずっとましである。これらの指標を、上司自身の評価指標に組み込んでいくような人事評価制度の改革が必要である。ここまでやって初めて、人事・教育担当者は広義のインストラクショナルデザインができたと言えるのではないだろうか?


カテゴリ: 経営 コメント( 0 )
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