プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年03月03日

『顧客は何にお金を払うのか(DHBR2017年3月号)』―USJ、Supership(nanapi)、ユニリーバの戦略比較


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 03 月号 [雑誌] (顧客は何にお金を払うのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 03 月号 [雑誌] (顧客は何にお金を払うのか)

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製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

 (※)上図の説明については、以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」を参照。

 今回の記事では、DHBR2017年3月号の企業事例を用いて、上図を補足したいと思う。まず、左上の【象限③】はいわゆるイノベーションであり、アメリカ企業が得意とするところである。イノベーションは顧客のニーズを先取りするものであるから、伝統的な市場調査は役に立たない。代わりに、イノベーター自身を最初の顧客に見立て、「自分ならこういう製品・サービスがほしい」と構想する。そして、「自分がこれだけ心の底からほしがっているのだから、きっと世界中の人も同じようにこれをほしがるはずだ」と考えて、イノベーションを世界中に普及させることを決意する。
 正直なところ、ユーザーのニーズはよくわからないですし、わかっている人はほとんどいないというのが私の認識です。成功した人は「わかっていた」と言いますが、それは後付けにすぎないと思います。そもそも、人間のニーズはそれほど簡単に把握できるものではありません。せいぜい自分のニーズを把握するのが関の山で、自分のニーズに合うものをつくること以外はできないと考えています。
(古川健介「【インタビュー】曖昧さと複雑さがサービスのカギ 人の好みはいまも昔も変わらない」)
 nanapiの創業者として知られる古川健介氏のインタビュー記事より引用した。nanapiのようなBtoC向けのインターネットサービスは、上図の【象限③】に該当すると考える。

 宗教的な表現を使えば、アメリカは唯一絶対の神を信奉する国である。人間はこの世でなすべきことを神と「契約」するという考え方が根底にある。イノベーターは、自分が考案したイノベーターを世界中に普及(布教)させることを神と契約する。ただし、神と結ばれた契約の全てが正しいわけではない。どの契約が正しいか、つまり、どのイノベーションが全世界に普及するかを知っているのは神だけである。人間に解ることと言えば、あるイノベーションが全世界に普及した段階で、あのイノベーターは神と正しい契約を結んだのだということだけである。大半の契約は失敗に終わる。よって、アメリカではごく少数の勝者と多数の敗者が生まれる。

 どのイノベーションがヒットするか解らないのであれば、イノベーターは、次から次へと新しいイノベーションを市場に投入して、イノベーションの成功確率を少しでも上げようとする。すると、中には「自分がお金を支払ってもよいから、自分のイノベーションを全世界に広めたい」と考えるイノベーターが現れる。こうしたイノベーターを束ねるのがプラットフォーム型企業である。

 代表例は、AppStoreやGoogle Playである。AppleやGoogleは、アプリのユーザーだけでなく開発者からもお金を取る。伝統的な商慣習に従えば、AppleやGoogleから見たアプリ開発者は製品・サービスの仕入先であり、AppleやGoogleが彼らに対してお金を支払わなければならない。彼らからお金をもらうことはリベートにあたり、場合によっては法律に抵触する。だが、AppleやGoogleは堂々とアプリ開発者からお金を取っている。他には、芸能事務所もプラットフォーム型企業に該当する。芸能事務所はテレビ局からお金をもらうと同時に、「何としても売れたい」と考えるタレントからもレッスン代などと称してお金を取る(吉本興業のNSCが解りやすい)。
 「こんなものをつくってみましたけどどうですか」と提示した瞬間、ユーザーはそれが自分のニーズにマッチしたものかどうか判断します。「こんなものがほしかったんだよ」と思えば興味を持つ。つまりユーザーの動きがあったものはニーズがあって、動きがないものはニーズがない。それだけです。こちらとしてはいろいろなものを出していくしかありません。(同上)
 最後の一文がイノベーターのニーズであり、プラットフォーム型企業はそこに目をつける。

 【象限③】は必需品ではないから、イノベーターは顧客に対して、必要性を超えた経験価値を訴求しなければならない。経験価値とは極めて主観的なものである。より簡単に言えば、そのイノベーションを使うと楽しい、面白い、ワクワクする、感動する、癒される、気持ちいい、安心する、などと顧客に思わせる必要がある。【象限③】のイノベーションは情緒面が重視され、本来はデータとの相性が悪い。ところが、最近のアメリカ企業は、この象限にデータ分析を持ち込もうとしている(以前の記事「『未来を予測する技術(DHBR2017年1月号)』―予測が困難なのにデータ重視のアメリカ、予測が容易なのにデータ軽視の日本、他」を参照)。

 例えば、映画がヒットするかどうかは、脚本の中身やキャスティングなどではなく、映画のタイトルにどんな文言を盛り込むかで決まる、といったモデルを統計学的に構築する。また、イノベーターが世界中にイノベーションを普及する段階では、国や地域ごとにイノベーションの受け入れ度合いが異なるのが普通である。この場合、日本企業ならば、顧客セグメントごとのニーズの違いに応じて製品・サービスをカスタマイズするだろう。しかし、アメリカ企業の場合は、どうすれば多様なセグメントが単一のイノベーションを受け入れるか、セグメント別に作戦を練るためにデータを活用する。これはちょうど、アメリカが自由、平等、人権、資本主義、民主主義といった普遍的価値観を全世界に広めるために、各国の情報を徹底的に集めて分析するのと似ている。

 【象限③】に該当するUSJは、「数学マーケティング」を導入している。USJはここ数年、段階的に何度も値上げを行っているが、値上げの根拠を数学的に算出しているという。
 ①消費者にとってのブランド価値(X)に対し、値上げにより総売上げがプラスとなる上げ幅(Y)を求める。
 ②ブランド価値(Y)(※Xの誤りではないかと考える)を向上させるドライバー(変数A、B、C、Dなど)を特定する。
 ③これらをもとに値上げにより最大集客リスク(Z)を求める。

 この中で、Y(※Xの誤りではないかと考える)に影響を与えるドライバー、A、B、C、Dを規定するのは、戦略家として実務家としての主観から生まれることになり、これらはマーケターとしての豊かな経験と深いノウハウに基づいてのものである。これを客観的に戦略化していくのが、言わば数学マーケティングである。
(森岡毅、今西聖貴「なぜ値上げをしても来場者が増えるのか USJで実践した数学マーケティング」)
 ただ、USJは日本企業であるから、【象限③】のアメリカ企業的な発想と、【象限②】に強い日本企業の発想のハイブリッド型経営を行っていると感じる。仮にアメリカ企業がUSJを経営していれば、その企業は「我々の考えるエンターテイメントとはこういうものだ」という理想像を顧客に押しつけたに違いない。ところが、USJはそうしなかった。USJはまず、「映画の専門店」から「世界最高のセレクトショップ」というコンセプトに転換した。次に、統計学を用いて顧客セグメントを分類し、購買金額の”伸び代”を特定した。そして、顧客セグメント別に、その伸び代を埋めるために、どのようなカスタマイズサービスを提供すべきかを検討した。

 ファミリー層に対しては、ファミリーエリア「ユニバーサル・ワンダーランド」を作った。最大の集客月である10月には、ゾンビがパークを埋め尽くす「ハロウィン・ホラー・ナイト」を開催した。また、アニメのワンピースなどとのタイアップを進め、アニメファンを取り込んだ。さらに、スリルを求める若者が意外と多いことに気づき、2013年にはジェットコースターを逆向きに走らせる「バックドロップ」を導入した。アメリカのディズニーランドも分析的経営に力を入れているらしいが、USJほど細かくカスタマイズされたサービスを提供しているのか、私にはやや疑問である。

 《参考》森岡毅、今西聖貴『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(角川書店、2016年)

確率思考の戦略論  USJでも実証された数学マーケティングの力確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力
森岡 毅 今西 聖貴

KADOKAWA/角川書店 2016-06-02

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 【象限③】が情緒面を重視するのに対し、【象限②】は機能面を重視する。自動車であれば燃費が、産業機械であれば加工精度が、BtoBのITシステムであれば信頼性が重視される。機能は数字で表しやすく、顧客のニーズも把握しやすい。よって、分析的なマーケティングの手法が現在でも十分に通用する領域である。他方、【象限①】は、機能面も情緒面も重視されるというやや複雑な領域である。我々はのどの渇きを潤すためにジュースを飲むが、同時においしさも求めている。そして、おいしさとは主観的なものであり、人によってバラバラである。【象限①】は、必需品であるがゆえに市場全体の規模は予想しやすいものの、顧客の好みが多様であるため、数多くの企業が参入し、様々な製品・サービスを供給する。

 【象限①】は参入障壁がそれほど高くない。しかし、国や地域によって生活習慣や嗜好、価値観や文化が異なることから、他の象限に比べるとグローバル規模で事業を展開する巨大企業が生まれにくい。世界の時価総額ランキング・トップ20の企業を各象限にマッピングした冒頭の図でも、【象限①】に該当する企業が少ないことが解る。【象限①】は、各国(特に新興国)において雇用の受け皿となっている業種が多いことから、外資規制が導入されていることも影響している。【象限①】の中心を占めているのは、地場の中小企業である。

 顧客ニーズの機能面を充足するには分析的マーケティングが、情緒面を充足するには主観や直観が重要になる。しかし、中小企業には分析的マーケティングに投資するほどの余裕はない。とはいえ、敢えて肯定的に考えれば、主観や直観だけでもある程度は事業をやっていけるとも言える。だから、【象限①】には中小企業が多くなる。

 世界の時価総額ランキング・トップ20の企業の中で、【象限①】に該当するグローバル企業はネスレ、ウォルマート、P&Gである。ネスレは経営の現地化を進めており、各国の市場にフィットした製品を開発している。P&Gは分析的マーケティングに強いことで有名だが、各国の市場をデータで解析すると同時に、社員が小売店や消費者のニーズを直接体験することに多大な時間を投資しており、ネスレと同様に製品を各国の事情に合わせている。機能面と情緒面の両方を重視する企業の中から、例外的にグローバル企業が生まれると言えるだろう(なお、ウォルマートは全世界共通のオペレーションで成長したが、近年はローカリゼーションを進めている)。

 本号では、ユニリーバの事例が紹介されている。ユニリーバは【象限①】に該当する企業である。事例を読むと、ネスレやP&Gの取り組みと共通点が多いことに気づく。
 CFOのグレイム・ピトケスリーはアナリストに向けて、世界中の現地市場に経営資源を移転するという、大規模な新規施策を発表した。文化の独自性やライフスタイルに合ったブランドや製品を、消費者が求めるようになっており、その結果、特に新興国市場において現地企業が急成長し、競争力を高めている、という。
(フランク・ファンデンドリースト、スタン・スタヌナサン、キース・ウィード「新たな競争優位の源泉 インサイトエンジン:データから顧客を知る力」)
 CMI(※消費者・市場インサイト部門)は、自社製品が暮らしの中で果たす役割や顧客ニーズに関する知見を得るために、顧客と接するよう全社員に奨励し、役立つツールも提供している。

 一例として、ピープルボイスという施策によって、アジアの工員、グローバルブランドチームの一員、さらにはCEOに至るまで、社内のあらゆる人材が、「持続可能性」「買い物客の経験」などのテーマを掲げたイベントで、顧客とじかに意見を交わす機会を得る。あるいはDiscuss IOという新興企業が開発した「いつでも使える」プラットフォームを利用して、あらゆる地域の消費者とバーチャル会議を開く方法もある。(同上)
 今回の記事で、【象限①】と【象限③】は情緒面を、【象限①】と【象限②】は機能面を重視すると書いたが、それを図示すると以下のようになる。

製品・サービスの4分類(修正)


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