プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年06月02日

【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)


ASEAN-JAPAN Open-Innovation Forum(1)

 4月7日、"ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum"がベルサール渋谷ガーデンホールで開催された。主催は経済産業省、一般財団法人海外産業人材育成協会、日アセアン経済産業協力委員会、日本貿易振興機構(ジェトロ)。日ASEAN両地域の主要ビジネス団体による「日ASEANイノベーションネットワーク」形成に向けた協力覚書(MOC)の署名式が行われた(写真)他、日本企業とASEAN連携深化のための、オープンイノベーション促進セミナーが講演された。今さらながら、その時のセミナーの内容をまとめておく。

 まずは、ASEANなどアジア新興国で現在注目を集めているスタートアップ企業、イノベーション企業の紹介があった。新興国では、先進国が歩んできた経済発展のプロセスを順番にたどることなしに、先進国の最新の製品・サービスがいきなり市場で受け入れられることがある。これを"Leap Flog"と呼ぶ。紹介された主な企業は以下の通り。

 ①Go-Jek
 バイクタクシー配車アプリを提供するインドネシア企業。2011年にサービスを開始し、これまでに2,500万人がダウンロードしている。登録されている運転手は約24万人、決済は全体で1億件に上る。楽天やKKRなどが出資をしている。バリュエーションは約13億ドル。

 ②Grab
 「東南アジアのUber」と呼ばれるインドネシア企業。サービス開始は2012年だが、アプリのダウンロードは既に3,300万件を記録している。登録されている運転手は約35万人。インドネシアだけでなく、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムで事業を展開している。ソフトバンクやホンダなどが出資をしている。バリュエーションは3,000億円以上。

 ③Paytm
 インド最大級のE-ウォレットサービス企業である。新興国では後述するように銀行口座を持たない人が多数存在するため、代わりにE-ウォレットサービスが発達している。2016年11月にインドで高額紙幣の廃止が発表されたのを機に、急激にユーザが増加した。現在、2億人のユーザがおり、1日のトランザクションは約700万件に上る。

 ④Garena
 シンガポールに本社を置く企業で、メルカリとDeNAを合わせたようなサービスを提供している。サービス開始は2009年で、中国のテンセントなどが株主となっている。メルカリの月間流通額は約100億円だが、Garenaの月間流通額は約18億ドルである。

 ⑤Ookbee
 「ユーザー生成コンテンツのNetflix」とも言うべきタイの企業。タイの他にマレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシアで事業展開をしており、約800万人の会員がいる。サービス開始は2010年。日本のトランスコスモス、中国のテンセントなどが出資している。

 ⑥iFlix
 映像ストリーミングサービスを提供しているマレーシア企業。東南アジアの他にアフリカ、中東でもサービスを提供している。サービス開始は2015年であるが、月額利用料金が約300円という安さが受けて、利用者数は約400万人に上っている。

 ASEANでは、社会的課題を解決するためのイノベーションも生まれている。その1つとして、日本の「ドレミング株式会社」からのプレゼンテーションがあった。世界には、銀行口座を持たない成人が約20億人いるという。同社のミッションは、「貧困層に正規の金融取引を提供すること」である。同社の「リアルタイム給与計算プラットフォーム」を使用すると、退勤した瞬間にその日の給与(税金、社会保険控除後)を算出することができる。「Doreming-Pay」というアプリをインストールしていれば、銀行口座がなくても買い物ができる。加盟店が支払う決済手数料は約2%であり、日本の半分の水準に抑えられている。このようなデジタル通貨が普及すれば、現金の盗難防止、強盗被害の削減やブラックマネーの撲滅が期待できる。

 ここまでがイノベーションの話。本セミナーの主題は「オープン・イノベーション」である。オープン・イノベーションとは、自社だけでなく他社や大学、地方自治体、社会起業家など異業種、異分野が持つ技術やアイデア、サービス、ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデル、研究成果、製品開発、サービス開発、組織改革、行政改革、ソーシャルイノベーションなどにつなげるイノベーションの方法論である。オープン・イノベーションのよいところは、中小企業、スタートアップ企業、ベンチャー企業であっても、大企業と対等に研究開発やイノベーションに取り組むことができるという点である。

 日本とASEANにおけるオープン・イノベーションというものを考えた場合、想定されるのは、日本の中小企業などがASEANの大企業と協業する、ASEANの中小企業などが日本の大企業と協業するという2パターンになるであろう(日本の中小企業などが日本の大企業と協業する、ASEANの中小企業などがASEANの大企業と協業するのは、それぞれ日本、ASEANの課題である)。こういう取り組みは自然発生的に進展するのを期待することが難しい。講演者の1人が指摘していたが、政府によるバックアップが必要である。タイとの間では、JTIS(Japan Thai Innovation Support Network)という団体が、世耕経済産業大臣(当時)の立会いの下、2016年9月9日に発足した。両国のスタートアップ企業10社が参画するとともに、タイトヨタやタイの素材最大手Siam Cement Group(SCG)など両国の大手企業20社以上が名を連ねている。

 一般的にオープン・イノベーションは、主に大企業がNIH(Not Invented Here)症候群を克服し、新しい製品・サービスの開発やビジネスモデルの構築に必要な技術を広く社外に求めることで、イノベーションに要する時間を短縮することを狙いとしている。ただ、個人的にはそんなに簡単にオープン・イノベーションは成功しないように感じている。そもそも、自社に足りない技術が初めから明らかで、その技術を持つ中小企業などから技術の提供を受けるのは、従来の取引関係、主従関係と何ら変わるところがない。オープン・イノベーションが従来の関係と異なるのは、ネットワークに参加するメンバーの立場が対等であり、かつ、メンバーが当初想定していた成果とは異なる予期せぬ成果が創発される点にあると思う。

 オープン・イノベーションに参加する企業は、①自社がやりたいこと、②自社が強みとすること、③自社に足りていないことに関する情報をネットワーク上に公開する。協業の可能性としては3つ考えられる。1つ目は、ある企業がやりたいと思っていることと別の企業がやりたいと思っていることが類似しており、各々が単独で事業を行うよりも協業した方が、より革新的な戦略の下での事業化が見込める場合である。2つ目は、ある企業が強みとすることと別の企業が強みとすることを上手に掛け合わせれば、新たな事業機会が期待できる場合である。いずれも、予期せぬ成功を狙っているという点がポイントである。3つ目は、ある企業に足りていないことを別の企業が補完することで事業化に結びつける場合である。この場合であっても、単なる取引関係にとどまらず、両社が協業することで事業や技術の新たな可能性に気づくことが重要である。

 では、オープン・イノベーションに参加する企業をインターネットでつないで、上記の①~③の情報を流せば、協業が成立するだろうか?欧米の企業はインテリジェンスに長けていて、インターネットの情報やその他の公知情報から相手の素性を見抜く術を身につけている。これはおそらく、植民地時代に本国から遠く離れた植民地を本国からコントロールするために、入手可能な情報だけで植民地経営のよしあしを判断してきた歴史も影響しているのだろう。だから、P&GのConnect & Developmentのように、世界中の研究機関をインターネットでつなげば、オープン・イノベーションの実現をある程度期待することができる。

 ところが、そういう歴史を持たない日本は、相手に直接会って話をしないと、相手のことを信頼し、理解することができない。だから、前述の政府主導組織などが、積極的にリアルの「場」を設けなければならない。そしてこの点は、おそらく日本に限らず、ASEAN諸国も変わらないのではないかと思う。しかも、1回会えば話がまとまるといった簡単な話ではなく、何度か顔を合わせるうちに、前述の①~③に関する情報を徐々にオープンにしていくという関係になるに違いない。

 星野達也『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社、2015年)には、「運転手の眠気検知技術」について、技術を探している企業が技術を深掘りし、提供者も自社技術を明確に提示することですんなりと協業が実現するという話が登場する。同書の著者は株式会社ナインシグマ・ジャパンという、オープン・イノベーションの仲介役を担う企業に勤めているため、技術の探索者と提供者があらかじめ自社のニーズとシーズを明確にしておいてくれると、自社の業務が進めやすいという願いが込められているように思える。しかし、実際には、コンソーシアムなど大勢が集まる会合で短時間の会話を重ねることで、協業の道が開けるのではないかと考える。

オープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップオープン・イノベーションの教科書---社外の技術でビジネスをつくる実践ステップ
星野 達也

ダイヤモンド社 2015-02-27

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 <1回目>
 探索者「我が社は眠気を検知する技術を探しています。よろしければ、御社がどういった事業をされているか教えていただけませんか?」
 提供者「我が社は脳波を測定する技術の開発を行っています。眠気は脳波の変化でとらえることが可能です」

 <2回目>
 探索者「以前お会いした後、眠気を検知する技術について社内で調査をしてみました。おっしゃる通り、眠気を検知するには脳波を測定するのが有効であるようですね。ただ、他にも、目の動きをとらえる、皮膚電位から脈拍をとらえる、という方法があることが解りました。この2つの方法に比べて、脳波を測定する方法はどういった点で優位性がありますか?」
 提供者「脳波を測定する場合は、○○という点でメリットがあります。ただし、測定の際には○○という点に気をつけなければなりません」

 <3回目>
 探索者「前回教えていただいた話を社内で検討した結果、脳波を測定するという方法で開発を進めようという話になりました。御社は今までどのような分野で実績がありますか?」
 提供者「我が社は、子どもが学習をした際の脳波の変化をとらえる装置を開発しています。主に研究機関向けです」
 探索者「子どもの脳波を測定する技術は、眠気を測定する技術に応用することができそうですか?」
 提供者「測定する脳の部分、とらえる脳波の種類が違うため、すぐには応用することは難しいのが正直なところです。ただし、新たに○○という技術を開発すれば、実現可能かもしれません」

 <4回目>
 提供者「今回お考えの技術は、具体的に誰をターゲットとしていますか?」
 探索者「バスやトラックの運転手をターゲットとしています。彼らの事故防止に役立てばと考えています。先日、御社の製品は研究機関向けとおっしゃいましたが、そうするとかなり大がかりな装置ですよね?」
 提供者「そうです。一般ユーザ向けの製品にするためには、小型化しなければなりませんね。率直に言って、小型化は我が社ではあまり実績がありません」
 探索者「我が社は製品の小型化を強みの1つとしていますので、もしかしたらお役に立てるかもしれません。一緒にプロジェクトをすると、いいものができそうな気がします。是非一度、我が社で具体的な打ち合わせをしませんか?」
 提供者「ありがとうございます」

 上記の例はかなりまどろっこしく書いたが、要するに日本とASEANの間でオープン・イノベーションが成立するかどうかは、手間のかかるリアルのコミュニケーションを惜しまないかどうかにかかっているというのが私の見解である。この点で、オープン・イノベーションはイノベーションに要する時間を短縮するという、欧米企業が考えるメリットは減殺される。だが、日本とASEANの企業は、協業を通じて、それぞれが単独では思いもよらなかった画期的な価値に到達することができるという点に、オープン・イノベーションのメリットを見出すべきであろう。

 最後に、オープン・イノベーションのマネジメントについても触れておく。オープン・イノベーションは2社以上の協業であるから、当然のことながら共通の目標を追求することになる。ただし、共通の目標だけを追求するのであれば、合併して1つの企業になった方がマネジメントしやすい。その道をとらずに、協業というやり方を選択するからには、マネジメントに一工夫が必要である。つまり、両社が共通の目標を追求すると同時に、両社が共通の目標を追求することによって、双方に固有の目標の達成も支援されるという関係を構築することである。バランス・スコア・カード(BSC)で説明すると下図のようになる。

オープン・イノベーションにおけるBSC

 まず、協業によって達成すべき財務の目標をブレイクダウンする形で、協業におけるBSCを作成する。一方で、双方の企業は、自社に固有のBSCの体系を持っているはずである。ここで、例えば、協業のBSCにおける学習と成長の視点の目標を追求すると、A社の業務プロセスの視点の目標にプラスの影響が出る、協業のBSCにおける業務プロセスの視点の目標を追求すると、B社の顧客の視点の目標にプラスの影響が出る、などといった因果関係を描くのである。そうすれば、まさにWin-Winの関係が構築できる。本ブログで私はしばしば、日本企業は水平連携、時に異業種との連携を得意としていると書いてきたが、水平連携に成功している企業はこういったマネジメントを普段から自然に実践していると思う。

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