プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年07月23日

村井直志『Excelによる不正発見法 CAATで粉飾・横領はこう見抜く』―CAATで解る不正の糸口の例


 日本の中堅・中小企業が海外進出する場合、中には日本本社よりも海外子会社の方が大きくなるケースもあるが、大半は日本本社よりも小規模の拠点になる。そこに派遣される日本人駐在員は、現地で営業もしなければならないし、製造現場の面倒も見なければならない。人事や総務もやらなければならない。加えて、日本本社からはあれやこれやと資料や情報をよこせと要求される。下手をすると、日本人駐在員の方が日本本社の社長よりも大変なぐらいである。こんな激務に耐えられる日本人はそうそういないから、次第に現場はローカル社員任せになり、日本本社への報告も滞りがちになる。すると、現場では不正が発生し始める。現場任せにしている日本人駐在員はその不正に気づかない。当然のことながら、日本本社が不正を知ることはない。

 これはある企業から聞いた話であるが、その企業では、日本で知り合った通訳に現地子会社の社長を任せることにしたそうだ。ところが、日本本社と現地子会社とのやり取りは、その社長しか行えない状況にしてしまい、日本語ができるローカル社員を辞めさせて情報を統制するようになった。数年前から赤字が続いていたため、コンサルティング会社に外部監査を依頼した結果、様々な不正を行っていることが判明した。具体的には、現地企業の管理部長と共犯で、売上の過小申告、旅費代の不正取得、原材料の不正流用、身内の会社を通した原材料の仕入れ、身内の会社の不良債権の無断引き受け、工場の無許可設置、固定資産の無許可処分、従業員貸付などを行っており、約数億円の損害が発生していた。

 そこで、日本企業は、現地子会社の社長を新たに派遣し、管理部長もクビにすることにした。だが、この管理部長が相当悪い人で、クビになる直前に、ローカル社員や取引先に対し、「今度来る社長は社員に給料を支払わないと言っている」、「仕入先に代金を支払わないと言っている」とウソの情報をばらまいた。混乱した現場では、新しい社長を逃すまいと、社員が社長を工場内に軟禁し、さらに工場の入口には債権回収を心配した仕入先担当者が駆けつけるという事態になった。新しい社長は管理部長の嫌がらせに耐えられずに辞職し、管理部長をクビにした後に新たに派遣された2人目の社長の下で、ようやく事態が落ち着いたという。

 日本本社としては、海外子会社が不正に手を染めないようにするために、経営状況を定期的に(できればリアルタイムで)把握したいものである。そのためのソリューションとして、TKCグループから「OBMonitor」というソフトウェアを紹介してもらった。基本的な機能は、海外子会社に導入されている会計パッケージで使用されている勘定科目と、日本本社に導入されている会計パッケージで使用されている勘定科目をあらかじめ紐づけておき、海外子会社の会計システムから抽出した仕訳データをクラウドを通じてOBMonitorに取り込むと、自動的に日本語の貸借対照表、損益計算書に翻訳してくれるというものである。

 これだけでも、海外子会社の財務状況を素早く把握するのに役立つが、OBMonitorにはCAAT(Computer Assisted Audit Techniques、コンピュータ利用監査技法)を用いた内部統制機能がついている。OBMonitorには、以下の12の機能が搭載されている。

No 機能 説明
1 仕訳の重複チェック 会社別勘定科目、部門、取引金額および現地取引先名が重複している仕訳を確認。領収書の二重利用の発見などに役立つ。
2 前月・当月取消仕訳の抽出 当月内での取消仕訳や、月をまたいだ取消仕訳を確認。押込販売や架空売上などの確認に役立つ。
3 最大取引金額の相対評価 勘定科目ごと、現地取引先ごとに最大取引金額を抽出し、その次に大きい取引金額との比較(次点比)、および前年同期における最大取引金額との比較を行う。桁数の入力ミスや異常価格取引の発見に役立つ。
4 最小取引金額の相対評価 勘定科目ごと、現地取引先ごとに最小取引金額を抽出し、その次に小さい取引金額との比較(次点比)、および前年同期における最小取引金額との比較を行う。桁数の入力ミスや異常価格取引の発見に役立つ。
5 科目組合せ別取引の確認 前年に存在しない科目の組合せや、前年には存在したが当年には存在しない科目の組合せを確認。勘定科目の入力ミスの発見などに役立つ。また、取引件数の前年比較により、決算整理仕訳のモレ・ダブりなども確認できる。
6 新規科目、部門、現地取引先 指定期間内の仕訳から自動追加された会社別勘定科目、部門および現地取引先を確認。
7 現地取引先ランキング 取引金額での現地取引先のランキングにより、特定の仕入先に依存していないかなどを確認。なお損益計算書科目の取引に限定。
8 売掛金残高の確認 売掛金残高、未回収額、および未回収月数を取引先ごとに確認。入金が滞っている得意先の確認や、売掛金回収のラッピングへの対応としても活用できる。
9 売掛金取引の確認 売掛金の発生額、入金額の差異、および最新入金日などを現地取引先ごとに確認。入金が滞っている取引先の確認などが可能。
10 生産性分析単位数量の確認 従業員数などの生産性分析単位の数量について、各月の推移を確認。
11 生産性分析 売上数量当たりの売上高や、1人あたりの人件費などから異常取引を発見。
12 ベンフォード分析 取引金額の先頭数字の発生率について、ベンフォードの法則(自然的に発生する数値の法則)と比較。人為的に作成されたデータや反復継続的な取引が多い場合は、大きく乖離する。

Excelによる不正発見法 CAATで粉飾・横領はこう見抜くExcelによる不正発見法 CAATで粉飾・横領はこう見抜く
村井 直志

中央経済社 2015-01-28

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 OBMonitorのCAATは基本的に仕訳データのみを使っているが、上記の村井直志『Excelによる不正発見法 CAATで粉飾・横領はこう見抜く』(中央経済社、2015年)によると、本来のCAATというのは、仕訳データ以外にも様々なデータを活用することで、より多角的な分析ができるようである。CAATの大原則として、以下のようなデータには気をつける必要がある。

 ○入力金額が異常に多い。
 ○入力金額の最大値があり得ない数値になっている。
 ○入力件数が異常に多い。
 ○平均入力金額が突出している。
 ○入力者コードがadminや空白になっている。
 ○摘要に「不明」、「削除」、「隠蔽」などのコメントがある。
 ○仕訳をしてはならない人が仕訳をしている。
 ○通常、相手科目として使われることのない勘定科目が使われている。
 ○通常関わることのない勘定科目に、特定の人が関わっている。
 ○通常の営業日以外に取引がされている。
 ○通常はあまり使われない高い権限があるユーザIDで入力されている。
 ○通常の口座ではない口座からの振込、口座への振り込みがある。

 CAATを行うためには、仕訳データ以外にも以下のデータを用意する必要がある。

 ○システムログイン、入力ログデータ
 ○倉庫入退室ログデータ
 ○取引先マスタ
 ○販売単価マスタ
 ○社員マスタ
 ○受注テーブル
 ○発注テーブル
 ○在庫テーブル
 ○出荷テーブル
 ○売上テーブル
 ○入金テーブル
 ○受取手形テーブル
 ○支払手形テーブル

 仕訳データとこれらのデータをExcelで分析することで、以下のような不正の糸口を発見することができる(本書には様々なケースが紹介されているが、今回の記事では私が理解できたものだけを整理しておく)。ただ、著者も警告しているように、CAATで解るのはあくまでも「グレー」なデータにすぎない。CAATを通じて「何かおかしい」という懐疑心を持つことが重要であり、おかしいと思うことは臆することなく相手企業の担当者に質問するべきである。本書によれば、懐疑心(skepticism)はギリシア語の探究的(skeptikos)という言葉に由来し、探究的(inquiring)の語源は、尋ねる(to inquire)にあるという。また、監査(audit)の語源は、聞く(audio)である。

 ・出荷データと売上データを突合し、その金額がイコールでない(売上高の方が少ない)場合、売上の一部が着服されている可能性がある。

 ・仕訳データ、受注・出荷データなどの飛番に注目する。飛番がある場合、不正に関与した者が隠蔽のためにデータを削除した可能性がある。

 ・同じ得意先が複数の部署と取引している場合、ある部署が他部門の取引先(しかも、他部門でもあまり使われていない取引先)を使って架空売上を計上している可能性がある。

 ・販売単価をマスタデータと突合した結果、販売単価が高すぎる場合は架空売上、安すぎる場合は横領の可能性がある。

 ・売上高と販売管理費など、相関関係にある項目を特定し、近似曲線を描く。近似曲線から大きく外れる項目がある場合、不正が行われている可能性がある。
 ①売上高と運送費・・・売上高は増えているのに運送費が増えていない場合は、未出荷売上高、架空売上の存在が疑われる。
 ②在庫金額と倉庫保管料・・・倉庫保管料が増えていないのに在庫金額が増えている場合は、架空在庫の可能性がある。
 ③種類別の固定資産残高と減価償却費・・・固定資産残高が減っているのに減価償却費が計上されていない場合は、償却計算ストップによる粉飾の可能性がある。

 ・売上高の相対誤差(=(実績値-予測値)÷実績値)を算出し、期末にプラス、期首にマイナスとなる場合は、期末に押し込み販売をして期首に取り消している可能性がある。

 ・販売先と仕入先が同じ業者の場合、循環取引の疑いがある。ただし、実際の循環取引の手口はもっと巧妙であるため、以下の点に注目する。
 ①通常想定される販売額以上の売上債権残高が残置している口座を対象に、与信を見る。
 ②売上債権残高が次第に増える傾向にある口座を見る。
 ③中でも、最近の債権は回収済みだが、過去の債権が残置している口座に注目する。

 ・期末日直近に多額・高粗利の売上が計上されている場合、架空売上の可能性がある。

 ・入金回収条件から逸脱した入金は、ラッピングが行われている可能性がある。

 ・協賛月の売上が急伸し、他の月の売上が低迷している場合は、押し込み販売を行い多額の協賛金を支払った後で、営業担当者がバックマージンを受け取っている可能性がある。

 ・在庫については、①急に多額の取引が増える、②通常は使うことがない物品の受払取引がある、③通常あるべき取引時点と比較して明らかに異常な時点での取引がある場合、原価を少なくし、利益を水増しするための架空在庫の疑いがある。

 ・高額の在庫ばかり実数不足となる場合は、横領されている可能性がある。

 ・特定の仕入先ばかりに発注している場合は、癒着の可能性がある。

 ・発注から入庫までのリードタイムが短い場合は、仕入先に便宜を図った可能性がある。

 ・受注から出荷までのリードタイムが長い場合は、架空売上の可能性がある。

 ・高頻度の返品・値引きが発生している場合、仕入先との癒着の可能性がある(仕入先の架空売上計上に協力している可能性がある)。

 ・本支店勘定を相手とする在庫取引は、使途不明金の隠蔽の可能性がある。

 ・監査日前後1週間程度で少量の在庫受払取引がある場合、監査に合わせて棚卸資産のデータが改ざんされた可能性がある。

 ・外注加工先に原材料を有償支給する時は、仕入のマイナスとして処理しなければならないが、通常の売上計上をしている場合は、押し込み販売や循環取引につながる可能性がある。

 ・4月1日の資金移動に着目し、カイティングによる預金不足の隠蔽の可能性を探る。

 ・受取手形については、得意先マスタに名前があるか、支払手形については、仕入先マスタに名前があるかを確認する。

 ・期日が超長期となっている受取手形は、融通手形の可能性がある。

 ・通常の取引先金融機関とは異なる金融機関が支払場所として指定されている手形は、融通手形の可能性がある。

 ・手形期日が連続する手形はジャンプ手形であり、相手先が経営破綻する可能性がある。

 ・受取手形の期日が安定しない場合、資金繰りの変化を伴うため要注意である。

 ・現金⇒売掛金払い⇒支払手形払いというように決済方法が変化した場合、相手先の資金繰りに問題が生じている可能性があり、要注意である。

 ・支払手形の支払いが早すぎる場合は、上長承認がないまま相手先に資金を融通するなど越権行為を行った可能性がある。また、1か月間に2回以上の消込を行った場合も、相手先に資金融通しており、さらに相手先から裏金を収受している可能性がある。

 ・逆に、受取手形について、1か月の間に複数回の支払いを受けた場合は、取引先に何らかの弱みを握られている可能性がある。

 ・架空社員に注意する。①源泉徴収されるべき報酬があるのに源泉徴収されていない人、②昇給すべき時に昇給のない人、③退職金をもらえるはずなのにもらっていない人がいる場合、その人は架空社員である可能性がある。

 ・消せるボールペンは、60度以上で文字が消え(るように見え)、マイナス10度以下で消した(ように見える)文字が復活する。不正が施されていないかどうか確認するために、証憑類を冷凍庫に入れるなどの対策が必要である。

 ・購買担当者が身内の企業ばかりから購入していないかどうか確認する。仕入先マスタの担当者情報と、社員マスタの情報を突合すれば判明する。

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