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【日本アセアンセンター】カンボジアの最新の政治・経済事情セミナー(セミナーメモ書き)
シンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた
「ミャンマー投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2017年05月17日

【日本アセアンセンター】カンボジアの最新の政治・経済事情セミナー(セミナーメモ書き)


カンボジア・バイヨン遺跡

 (※)写真はカンボジアのバイヨン遺跡。アンコール遺跡を形成するヒンドゥー・仏教混交の寺院跡。クメール語の発音ではバヨンの方が近い。バは「美しい」、ヨンは「塔」の意味を持つ。

 日本アセアンセンターのセミナーに参加してきたので、その内容のメモ書き。2年前に同じタイトルのセミナーに参加して、その時の内容は「「カンボジア投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)」にまとめたが、今回の記事はその内容のアップデートという位置づけ。

 ・まずはカンボジアの基礎知識について。
 【よくある質問①】カンボジアは地雷や内戦があったりして、危険な国ではないのか?
 ⇒【回答】外国人が立ち入る場所に関しては、既に地雷が撤去されている。また、カンボジア国内の地雷の被害者数は二桁まで減少している(地雷で亡くなる人より落雷で亡くなる人の方が多い)。現在、地雷を除去した新たな土地を貧困層に配分する事業を実施中である。ただ、ポル・ポト派が最後に立てこもった山岳部には、まだ何百万個の地雷が残っている。しかし、地雷を除去しても土地としての使い道がなく、お金をかけてまでやる意義があるのか疑問視されている。

 内戦に関しては、1992年にカンボジア和平が成立した。最後の武力衝突は1998年であり、その後は1998年、2003年、2008年、2013年と民主的な総選挙が行われている。国内の治安も、アジアの中では「普通」レベルである。外国人が巻き込まれる凶悪犯罪はかなり減少している。ただし、ひったくりと交通事故には要注意である。カンボジアの人口は日本の約10分の1、国内を走る自動車の数は日本の約100分の1だが、交通事故の犠牲者数は2,000人を超えている。

 【よくある質問②】カンボジアは秘境とジャングルの国ではないのか?
 ⇒【回答】世界遺産アンコールワットは観光の目玉であり、カンボジアを訪れる外国人は年間500万人にも上る。カンボジアでは観光が一大産業であり、GDPの約15%を占めている。アンコールワットの周囲にはゴルフ場や高級ホテルも多数存在する。それから、おそらく戦争映画の影響でカンボジア=ジャングルというイメージがついていると思われるが、実際のカンボジアは真っ平の国である。山岳部は限られており、プノンペンからタイやベトナムの国境線まで車で走っても、峠は1つもない。水田が地平線まで広がっており、農業国としても発展が見込まれる。カンボジアの米の生産量は年間約900万トンであり、既に日本を上回っている。

 【よくある質問③】カンボジアは貧乏な国ではないか?
 ⇒【回答】2016年の1人あたりGDPは1,228ドルであり、アジアの「普通の国」になりつつある。アジア通貨危機直後の1998年から2007年の10年間の平均経済成長率は9.4%であり、ASEANの中で最高である。また、最近5年間(2012~2016年)でも、年間平均成長率は7.2%と高水準を保っている。確かに、農村部に人口の8割が存在しており、貧困層が多いのは事実である。ただ、貧困率はこの10年で5割から2割に減少しており、農村部でも購買力が向上しつつある。味の素の使用量の伸び率と1人あたりGDPの伸び率には相関関係があることが知られており、カンボジアにおける味の素の使用量の伸び率はASEANの平均よりも上だという。

 ・カンボジアのマクロ経済の状況であるが、一言で言えば絶好調である。IMF、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)ともに、カンボジアの経済を高く評価している。カンボジア経済のエンジンである縫製品輸出、観光は好調が続いている。不動産・建設セクターもバブルが懸念されるものの(2017年に大量にビルが完成するという「2017年問題」を抱えている)、高成長を続けている。2016年の経済成長率は7.0%であり、、IMFは2017年の経済成長率を6.9%と予測している。ADBはカンボジアを「アジアの新たな虎」と呼んでいる。

 物価上昇についても問題はない。物価上昇率は2015年が1.2%、2016年が3.0%であり、2017年は2.7%と予測されている。日銀がどんなに異次元緩和を行っても物価が一向に上昇しない日本から見るとうらやましい限りである。カンボジアの経常収支は赤字であるが、輸出競争力の向上と輸出先の多様化により、縮小傾向にある。この輸出競争力の向上には、日系の労働集約型部品製造業がカンボジアに多数進出したことも大きく貢献している。

 外貨準備高も新興国としては非常に豊富である。2016年末時点で、輸入の4.5か月分にあたる63億ドルの残高がある。通常、外貨準備高は輸入の3か月分あれば十分とされる。IMFは、2017年末には74億ドル(輸入の4.8か月分)にまで増加すると予想している。カンボジアのGDPは約200億ドルであるから、実にGDPの3分の1に相当する。ちなみに、日本の外貨準備高は2015年末時点で約150兆円であり、GDP約530兆円の約28%に相当する。また、2015年の輸入は約78兆円であったから、外貨準備高は輸入の約23か月分ある(150÷(78÷12))。

 実質実効為替レートも2008年以降は安定的に推移している。とはいえ、カンボジアでは現地通貨のリエルはほとんど流通しておらず、キャッシュの8割はドルである。流通しているリエルは10~20億ドルと言われており、いざとなれば先ほど触れた外貨準備高で全額買い取ることも可能である。財政赤字も対GDP比2.6%と非常に低い。公共工事は外国からの援助がついたもののみを優先的に実行するという堅実な財政運営の結果である。IMFと世界銀行は、カンボジアの対外債務の状況を「低リスク」に分類し、当面問題ないと見ている。また、2016年7月には、世界銀行の分類で「低所得国」を卒業し、「低中所得国」に格上げされた。

 ・経済が絶好調なカンボジアであるが、リスクがあるとすれば政治が挙げられる。カンボジアでは人民党のフン・セン首相が1992年から25年にわたって長期政権を敷いている。ところが、2013年の総選挙では野党が躍進し、与党対野党=68対55という結果になった。強気になった野党は国会をボイコットした。また、同年末には縫製労働者の大規模デモが発生し、最低賃金が80ドルから100ドルに引き上げられた。年明けの2014年1月3日には、政府がデモ隊に向かって発砲し、5名が死亡するという事件が起きた。この事件を受けて、デモは全面的に禁止された。その後、与野党は約半年間の話し合いを経て、7月22日に選挙改革などを含む与野党合意に達した。2015年3月には、与野党合意に基づいて選挙法が改正された。

 しかし、与野党の「対話の文化」は短命に終わる。親中派のフン・セン首相と、アメリカが支援している野党のサム・レンシー氏の間で対立が再燃したのである。サム・レンシー氏は国外退去を余儀なくされたが、その国外退去中に、国内では野党議員への暴行事件が起き、野党副党首にスキャンダルが発覚し、さらに著名な政治評論家が殺害されるなど、きな臭い状況が続いている。また、フン・セン首相が南シナ海問題で中国寄りの姿勢を見せ、国内で強硬姿勢を見せていることに対して、欧米からは圧力がかけられている。2017年6月には地方選挙、2018年8月には総選挙があるが、その行方は未知数である。与党が勝利しても、2013年のようなデモが発生する恐れがある。また、野党が勝利すれば、政権交代をめぐって混乱が予想される。

 ・「タイプラスワン戦略」の候補国として、カンボジアはミャンマーに比べると優位である。その理由としては、カンボジアからタイへのアクセスが大幅に改善されたことが大きい。これにより、タイからカンボジアの工業団地に移ってきた日系企業も多い。一方、ミャンマーのインフラは未だに不十分であり、整備にはあと5~10年ほどかかる見込みである。カンボジアはタイとの国境沿いにあるポイペトに工業団地を建設しており、今後ますますタイとの結びつきが強くなるだろう。カンボジアの工業団地の開発を進めている「プノンペン経済特区社(Phonom Penh SEZ Co., Ltd.)」がこのたび上場し、調達した資金でポイペトに工業団地を建設する予定である。

 ・プノンペンからホーチミンまでは約230km、バンコクまでは約600kmであり、バンコク~プノンペン~ホーチミンは太平洋ベルトと同じぐらいの距離である。カンボジア自体は人口も少ない小国であるが、タイ、ベトナムを含めて3か国で国際分業ができれば、競争力の向上が期待できる。長らく課題とされてきたインフラについても、道路や港の開発は一段落ついた。現在、プノンペンとタイを結ぶ国道5号線を片側2車線にする工事を円借款で実施している。また、通信に関しては、最初から光ケーブルとワイヤレスのネットワークを集中的に構築したため、世界で見ても最安のインフラが整っている(プノンペンから日本に国際電話をかけても、1分10円程度)。

 問題は電力である。人口が少ないがゆえに、電力需要が400~500MWぐらいしかない。そのため、必然的に小規模の発電所とならざるを得ず、その分コスト高になる。カンボジアの電力需要の小ささは、福島第一原発の発電量が8,000MWであることと比べてみるとよく解る。

2015年12月23日

シンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた


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 (※写真はシンガポールの夜景)

 日本アセアンセンターが主催するシンポジウム「変わるASEAN、変わらないASEAN:2015年ASEAN経済共同体実現を捉えて」に参加してきた。2015年末には、ASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)が発足する(以前の記事「「ASEAN社会文化共同体:2015年とその後の展望セミナー」に行ってきた」を参照)。

 (1)1985年9月のプラザ合意以降、日本企業はASEANへの直接投資を増加し、ASEAN各国の輸出指向の工業化を支援してきた。1988年には「BBCスキーム」(ブランド別自動車部品保管流通計画)が始まり、さらに1996年からは「AICO」(ASEAN産業協力)が展開されている。

 BBCスキームとは、自動車産業を対象とした制度である。ASEAN域内における企業の部品相互補完流通計画がASEAN上級経済関係者会議で認可されることを条件に、自動車部品がASEAN国内で生産されたものであると認定され、さらに認定部品をASEANの他国へ輸出する際の関税が減免されるといった恩典が受けられる。BBCスキームは、三菱、トヨタ、日産など日本の自動車メーカーが主導し、部品の域内調達や生産拠点の展開・強化へとつながった。また、AICOは、BBCスキームを製造業全般に拡張した制度である。

 近年、中国・インドが高い経済成長を背景に、直接投資受け入れ先として急激に台頭している。危機感を抱くASEANは、AECを外国投資を呼び込むための基盤としたい考えである。

 (2)ASEANはAECの発足に先立ち、1993年からAFTAによって域内関税の引き下げを行ってきた。2010年1月には、先行6か国で関税が全撤廃された。新規加盟4か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)でも全品目の98.96%の関税が5%以下となった。2015年1月1日時点で、全加盟国の関税撤廃割合は95.99%となっている(新規加盟4か国は、品目の7%までは2018年1月1日まで撤廃が猶予される)。日本が諸外国と締結しているFTA/EPAでは、関税撤廃率が80~90%台にとどまることから、AFTAの水準がいかに高いかが解る。

 2015年末にAECが発足することになっているが、実は発足に伴って何かが変わるわけではない。前述の通り、先行6か国の関税は2010年1月に撤廃されている。2016年1月1日以降、関税撤廃が猶予されている新規加盟4か国の7%の品目について、段階的に関税が引き下げられる見込みである(ちなみに、ベトナムが猶予されているのは、鉄鋼、紙、医療用織布、自動車および二輪車、自動車および二輪車部品、設備機械、建設資材などである)。

 (3)AFTAは他のFTAに比べて利用率が低いと言われる。確かに、2014年のASEAN域内貿易比率は24.2%であり、EUの60.8%よりもはるかに低く、ASEAN域内貿易が不活性であるようにも映る(なお、ASEAN+3(日中韓)で見ると38.7%で、NAFTA(41.4%)とほぼ同じになる)。

 だが、例えばタイのASEAN向け輸出のうち、AFTAを利用している割合(シンガポールを除く)は、2000年には約10%だったのが、2003年には約20%、2010年には38.4%となっており、AFTAの利用率は着実に伸びている。特に、2010年のタイのインドネシア向け輸出では61.3%、フィリピン向け輸出では55.9%がAFTAを利用している。

 ただし、AFTA利用には課題もある。AFTAに限らず、FTAを利用するには各国の指定機関から「原産地証明」を取得する必要がある。その手続きが煩雑でコストがかかるため、企業が自ら証明書を作成する「自己証明制度」の導入を検討していることがある。ASEANの場合は、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)が自己証明制度を定めている。

 ASEANでは「第1認定輸出者自己証明制度」(輸入事業者全般)と「第2PP認定輸出者自己証明制度」(製造業者のみ)という2つのパイロットプロジェクトが実施されている。当初、2015年末に双方を比較して優れた方を選択する予定だったが、一部の国が参加していないこと、十分な実施事例が収集できていないことなどから、全面実施は2016年以降に先延ばしとなった。

 (4)2015年10月にTPPが大筋合意に至ったことを受けて、ASEAN諸国もTPP参加を検討し始めている。インドネシアのジョコ大統領は、10月下旬にTPP参加を表明した。タイは、今後2年間でTPPに参加するか否かを判断することを発表した。フィリピンもTPPへの参加意欲を持っている。ただし、フィリピンがTPPに参加する場合には、サービスの自由化を実現するために、外資上限などを定めた憲法を改正する必要がある。アキノ大統領の任期は2016年6月までであり、憲法改正は絶望的である。また、次期大統領が憲法を改正するかどうかも不透明な状況だ。

 フィリピンは同様の理由で、ASEANのサービス貿易自由化、外資出資比率緩和を定めたAFAS(ASEAN Framework Agreement on Services)にも合意できていない。AFASは、金融、航空輸送、農水鉱製造関連サービスを除く128のサブセクターについて、2015年までに外資容認比率を70%まで引き上げることを目指している。だが、これにもからくりがある。タイとベトナムは、ともに現時点で81のサブセクターを自由化している。ところが、ベトナムは62のサブセクター全体で自由化を実現しているのに対し、タイはサブセクター全体の自由化が12にとどまり、残りは一部しか自由化していない

 (5)ASEANではシンガポール、マレーシアを筆頭に多国籍企業が生まれており、日本企業もそれらの企業への投資を進めている。従来は現地企業に出資してその国の市場を攻めるのが主流であったが、昨今は出資した現地企業を拠点として第三国に進出する動きが見られる。
 -三井物産・・・マレーシアのIHH Healthcare(12か国に39病院を展開。社員数2万5,000人超。上場している病院経営会社の中では時価総額世界2位。1位はアメリカ企業だが国内病院のみが対象であるため、グローバル規模の病院経営会社としては世界1位)に約900億円を出資、アジア地域を中心に病院経営を拡大。
 -サンヨー食品・・・シンガポールのOlam International(世界有数の農産物商社。65か国に事業拠点。社員数2万3,000人)と合弁会社を新設、アフリカ市場開拓を強化。
 -三菱商事・・・シンガポールのOlam Internationalの発行済株式20%を取得(出資額1,300億円)。タイのIchitan Group(飲料大手)と合弁会社を新設、インドネシア市場に進出。
 -伊藤忠商事・・・タイの最大財閥Charoen Pokphand(CP)Groupと資本・業務提携。中国を中心にアジア全域で競争力強化を狙う。

 (6)ASEAN域内の経済的結びつきが強まるにつれて、人の移動も活発になっている。人の移動が増えているのは、
 -インドネシア⇒マレーシア、タイ
 -マレーシア⇒シンガポール
 -ラオス⇒タイ
 -カンボジア⇒タイ
 -ミャンマー⇒マレーシア、タイ
である。インドネシア、ラオス、カンボジア、ミャンマーは送出国、タイは受入国、マレーシアは受入国であると同時に送出国である、という構図が浮かび上がってくる。タイが周辺3か国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)から正式な手続きに従って受け入れた労働者の数は約25万人であるが、実際にはその10倍以上の約280万人の労働者がタイに流れ込んでいると推計される。

 送出国と受入国は対立が続いている。送出国は、国内の雇用不足の解消や、海外送金による国際収支の改善を期待する。一方で、受入国は、低賃金労働者の流入による国内労働市場の逼迫、不法労働者・不法滞在者の増加による社会的不安に頭を悩ませている。

 2007年には「移民労働者の権利の保護と促進に関するASEAN宣言」が採択され、2009年には同宣言がASEAN社会文化共同体(ASSC)のブループリントに明記された。しかし、2007年宣言には法的拘束力がない。送出国であるインドネシア、フィリピンは法的拘束力を求めているのに対し、受入国であるシンガポール、マレーシアが難色を示している。

2015年09月09日

「ミャンマー投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)


ミャンマー国旗

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 日本アセアンセンターの「ミャンマー投資セミナー」に参加した。内容に関する簡単なメモ書き。

 ミャンマー投資委員会(MIC)事務局長の話で印象的だったのが、「日本の農業がミャンマーに進出することを期待する」という言葉だった。日本では農業に外資を入れることなど考えられず、ミャンマーのグローバル志向の強さをうかがわせた。一方で、農業にまで外資を入れなければならないほど、国内産業がまだ成熟していないと見ることもできる。ASEANの中で中所得国の仲間入りをしたタイは、どんな外資でも歓迎していた従来の投資奨励策を改め、高付加価値産業を重点的に誘致しようとしている。タイとミャンマーは全く対照的である。

 (1)ミャンマーのインフラについて
 (a)ミャンマーの最大電力供給量は約1,500MW(2013年)。総電力需要は約2,000MW(2013年)であるため、約500MWの需給ギャップを補うべく計画停電を行わなければならない(ちなみに、日本の最大電力供給量は約22万MW、総電力需要は約18.6万MW)。世帯電化率は約3割、送配電ロス率は約25%と、ASEANの中で最低水準である。

 既存の電源設備の状況を見ると、合計設備容量は3,896.05MWであり、内訳は水力発電所2,780MW、ガス火力発電所996.05MW、石炭火力発電所120MWとなっている。ただし、水力発電出力の大半は中国向け、国産ガスの大半がタイや中国向けであるため、十分な出力を国内需要に振り向けることができていない状態である。

 (b)ミャンマーの上水道接続率(配管で給水を受けている割合)は約8%、うち都市部は19%、地方は3%と著しく低い。ヤンゴンの水道普及率は35%である。中央商業地域は9割をYCDC(Yangon City Development Committee)の水道に依存しているが、その周辺地域は井戸など他の水源を利用している。ヤンゴン市の日平均配水量は52万立方メートル/日であるのに対し、収入水量(日平均使用量)は18万立方メートル/日にすぎず、無収水率は推定65%と非常に高い。なお、水源の約9割が表流水利用にもかかわらず、その3分の2が水処理を行っていない。また、塩素消毒もほとんど実施されていない。

 (c)通信セクターは、情報通信・技術省ミャンマー郵電公社(MPT)が固定電話、携帯電話、インターネットサービスを独占してきた。インフラの整備は遅延しており、2012年時点で固定電話普及率0.99%(加入者数60.9万人)、携帯電話普及率8.90%(加入者数544万人)、インターネット普及率1.07%と、いずれも低い水準にとどまっている。

 2013年に可決された新通信法以降、ミャンマー政府は新規の外資系通信オペレーター2社(ノルウェーとカタール)を入札で決定した。MPTも新規参入企業と競争していくため、外資系オペレーターの中からパートナーを募り、2014年7月16日にKDDI・住友商事と事業協力や利益分配などを規定した契約"Joint Operation Agreement(JOA)"を締結した(ただし、JOAは合弁会社ではなく、MPTは引き続き政府機関となる)。

 (d)ベトナム―カンボジア―タイ―ミャンマーを結ぶ「南部経済回廊」は、ミャンマーにとって非常に重要である。ミャンマーの主要貿易国タイとの輸出入は、ミャンマー側の陸路が整備されていなかったことから、長らく海上輸送に依存してきた。タイからの輸入の75%、タイへの輸出の56%が海上輸送である。しかし、ヤンゴンからマレー半島を迂回してアユタヤに至るルートは約4,000kmあり、21日間も要していた。これが、陸路では3.3日と大幅に短縮される。今後道路の整備が進めば、1.9日に短縮されると推計されている。

 (2)株式会社ニチレイフレッシュのミャンマー事業
 (a)水産物は、加工形態・キャパシティが限定される船上で漁獲される天然の素材が多いのに対し、末端のニーズは年を追うごとに分散化しており(切り身加工に始まり、生食用の寿司ネタ加工まで幅広い)、委託加工なしでは成り立たない状況にあるという。ミャンマーでは、水産物の委託加工は国内の水産業を保護するという観点から許可されていなかったが、工場稼働率を上げたい生産者(工場)の強い要望を背景に、2012年より事前登録制で正式に認可された。

 (b)ミャンマーの漁獲量は年々増加しており、現在は約500万トンと、日本とほぼ同じである。内訳は、天然が約400万トン、養殖が約100万トンである。世界的に見ると、天然は頭打ちで養殖が伸びる傾向にあるが、ミャンマーの場合は逆に天然の方が大きく伸びている。ニチレイフレッシュにとっては、天然のピンクエビが獲れることがミャンマーの大きな魅力となっているらしい。

 (c)ニチレイフレッシュは、1990年代半ばよりミャンマーでエビの調達を開始した。当時はどこで漁獲された原料であっても、一度ヤンゴンにある原料市場に集めてから、委託先の工場に搬入していた。しかし、漁獲から加工までに長時間がかかり、またエビの鮮度を保つための氷も十分に確保できないことから、輸送の途中で鮮度が落ちてしまうという問題に悩まされた。そのため、現在はできるだけ漁獲エリアに近い工場で加工することにしている。

 戦略を立てる時は、ややもすると「どんな顧客に、どのような製品を、どのように競合他社と差別化して提供するか?」という出発点のコンセプトを練るだけで満足してしまうことがある。しかし、「どの原材料をどこから調達するのか?どこで加工するのか?原材料・(半)製品をどうやって運ぶのか?」という具体的なオペレーションにも思いをめぐらし、適切に機能するビジネスモデルを設計・構築することも、戦略立案者の重要な役目であると改めて感じた。

 (d)委託加工で期待できる工場収入の数字が公開されていた。以下は、300人規模の水産加工場で、「切り身フィレ加工(加熱を含む加工)」と「寿司用スライス加工(生のまま加工)」を行った場合である。工場トータルの年間売上高は約17億円となる。仮に、同じ工場が10あれば、全体で約170億円になる。ミャンマーの経済特区(SEZ)に対する日本企業の投資累積額が約1億8,600万ドルであるから、それに匹敵する数字となる。

 商品 切り身 寿司ネタ
 加工 フィレ加工 スライス加工
 加工数量(1日あたり)  22トン/日 7.5トン/日
 加工賃(トンあたり) 1,000ドル/トン 3,500ドル/トン
 稼働日数(年) 300日/年 300日/年
 加工賃収入(年) 6.6百万ドル/年(7.92億円/年)  7.875百万ドル/年(9.45億円) 
 (※)1ドル=120円で計算。

 (3)双日ロジスティクス株式会社のミャンマービジネス
 (a)ミャンマーの小売は電力不足により常温食品が中心であり、依然として「ゼー」と呼ばれる伝統市場や道端の路上店を通じて行われる。これらが全体流通量の9割を占めていると言われる。一方、国内には2ケタ規模の店舗数を持つ小売業が少ない。このような状況下で、近年急速に近代的な小売業態を展開しているのが、ミャンマーの小売・流通最大手City Martグループである。双日と双日ロジスティクスは、City Martグループ傘下の食品・生活消費財卸売会社Premium Distributionとの共同出資により、Premium Sojitz Logisticsを設立している。

 (b)双日ロジスティクスは、ミャンマー国内のコールドチェーンだけでなく、大メコン圏のクロスボーダー物流も手がけている。セミナーでは、タイ―ミャンマールートに関する説明があった。

タイ―ミャンマークロスボーダー物流

 《プランA:ミャワディ・ルート》
 最も道路が整備されており、通関もスムーズである。ただし、少数民族との軍事衝突により、国境が封鎖されることがある。ミャンマー国内のティンガニーノ―コーカレイ間の山越えルートは、偶数日と奇数日で進行方向が入れ替わる1車線であったため、逆算でバンコクを出発する必要があった。所要時間は約3時間。混雑や車両故障があると、1日待機しなければならないこともあった。だが、2015年7月1日に2車線のバイパスが完成し、所要時間は40分に減少した。

 《プランB:タチレク・ルート》
 もともとは、タイとミャンマーを抜けて中国の昆明に抜ける南北経済回廊の一部である。タイとミャンマーの中小規模の貿易ルートであることから、生活資材をはじめ、中古車なども往来がある。ただ、中国に行くにはラオスルートの方が利便性がよく、ミャンマールートはもっぱらタイからミャンマーへの輸出に使われている。距離が長い分、トラック運賃が高いのがデメリットである。

 《プランC:ティキ・ルート》
 将来的には有力なルートだが、現在は道路が未整備であり、河川の橋も不通となっている。

 《プランD:メーホーンソーン・ルート》
 道路は整備されているものの、通関の担当者が手続きに慣れていないのが難点である。通関を通るのに5日かかると言われる。




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