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【補助金の現実(5)】補助金の経済効果はどのくらいか?
【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある
【補助金の現実(3)】補助金=益金であり、法人税の課税対象となる

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年01月30日

【補助金の現実(5)】補助金の経済効果はどのくらいか?


業績アップ

 《前回までの記事》
 【補助金の現実(1)】補助金は事後精算であって、採択後すぐにお金がもらえるわけではない
 【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい
 【補助金の現実(3)】補助金=益金であり、法人税の課税対象となる
 【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある

 平成26年度補正予算で「地域商品券」が発行されるらしく、これが1998年度の「地域振興券」(小渕内閣)、2009年度の「定額給付金」(麻生内閣)を想起させるようで、各方面からは様々な声が上がっている。地域振興券は、約6,200億円を費やして、一定の条件を満たした国民に1人あたり2万円分が支給された。これに対して、定額給付金の予算は2兆円とはるかに巨額であった。支給額は原則として1人12,000円であるが、基準日において65歳以上の者および18歳以下の者については8,000円加算され、20,000円とされた。

 その後の各種調査によると、地域振興券はGDPを0.04%程度、定額給付金はGDPを0.1%程度押し上げる効果があったとされる。ただし、定額給付金では、地域振興券よりも限界消費性向(新たに増加した1単位の所得のうち消費にまわる部分の割合)が過大に見積もられているため、効果も大きめに算出されていると指摘されている。

 こうした給付金とはかなり毛色が違うが、経済産業省関連の補助金はどのくらいの経済効果があるのだろうか?経産省の補助金に詳しいある方は、「だいたい予算の3倍ぐらいの経済効果がある」とおっしゃっていた。平成24年度補正予算、平成25年度補正予算で実施されている「ものづくり補助金」に関しては、次のような記事が出ていた。
 中小企業の設備投資を促す「ものづくり補助金」が、国が予算措置した金額の約2.2倍の経済効果を生み出していることが分かった。

 事業の実施団体である全国中小企業団体中央会の調査によると、補助金交付企業が事業に要する経費の試算合計額は4978億円で、国がこの事業のために2012年度および13年度の補正予算で措置した約2400億円の2.2倍の規模となっている。

 補助金を"呼び水"として"自腹"でも追加投資に踏み切る動きが活発で、新たな事業に挑む姿を裏づけている。

 同支援策はこれまでに全国で延べ6万1000社の申請があり、約2万5000社を採択。「平均的な申請内容では採択されない」(関係者)高倍率の人気施策となっている。同支援策は過去2年、補正予算で実施された経緯がある。経済対策を盛り込む14年度補正予算案編成が検討されるなか、引き続き実施される可能性が高まってきた。
 (J-Net21「「ものづくり補助金」、2.2倍の経済効果―全国中小企業団体中央会が調査」〔2014年11月17日〕より)
 これだと、先ほどの方がおっしゃっていた3倍に届かない。補助金の経済効果について、マクロ経済の分析手法を用いて論じたレポートもいくつかあったが、いかんせん私の知識がついて行かないので(涙)、もっと簡単に考えてみることにした。

 採択企業が5,000億円を新たに支出したということは、採択企業の「取引先」は新たに5,000億円の売上高が上がったことになる。ただし、そのお金がまるまる「取引先」のものになるわけではなく、売上高が増えた分だけ、それに連動して変動費が発生する。TKCの経営指標(2009年度版)によると、黒字の製造業の変動費率(平均)は55.5%だそうだ。よって、採択企業の「取引先」は、5,000億円×55.5%=2,775億円を新たに支出したことになる。

 この2,775億円は、「取引先の取引先」の売上高となる。先ほどと同じように、売上増に伴って新たに変動費が発生し、その額は2,775億円×55.5%=1,540億円となる。この1,540億円は、さらに「取引先の取引先の取引先」の売上高となり、1,540億円×55.5%=855億円の追加支出が発生する。これを繰り返していくと、日本全体で新たに増えた支出は、

 5,000億円+5,000億円×(0.555)+5,000億円×(0.555)2+5,000億円×(0.555)3+・・・5,000億円×(0.555)n・・・

となる。つまり、初項5,000億円、公比0.555の無限等比級数の和であるから、その和は「初項/(1-公比)」で求められる。実際に計算すると、約1兆1,236億円となり、名目GDPの約0.2%に相当する。過去の地域振興券や定額給付金に比べると、投資対効果が大きかったと言えるかもしれない。もちろん、上記の5,000億円の中には、既に雇用している社員にかかる直接人件費などのように、補助金がなくても発生したであろう経費が含まれているから、約1兆1,236億円というのは過大評価になっている可能性は否定できない。

 仮に、5,000億円のうち、直接人件費など補助金がなくても発生していた経費の割合を2割と仮定すると、企業が新たに支出した経費は4,000億円となり、日本全体で増えた支出の額は、4,000億円÷(1-0.555)=8,989億円となる。これであれば、前半で紹介した、「だいたい予算の3倍ぐらいの経済効果がある」という言葉にかなり近くなる。

 ただ、別の角度から考えれば、前回の記事「【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある」で述べたように、補助金は国による投資である。よって、補助金によって採択企業の税引き前当期純利益がどれだけ増えたのか?また、それに伴い税収はいくら増えたのか?という観点で投資対効果を判断するべきだろう。もっとも、これを真面目に計算するためには、採択企業の業績を中長期に渡ってモニタリングする必要がある。どちらかと言うと短期的な視点で動く政治家は、こういう作業を嫌がるに違いない。

 仮に、国による投資=約2,400億円を法人税によって回収しようとしたら、新製品・サービスを通じてどのくらいの売上高・利益を上げる必要があるのだろうか?一般に、企業の実効税率は約40%と言われているが、中小企業の場合は様々な優遇策があり、大企業に比べて実効税率が低い。課税対象の所得が400万円以下の場合には、実効税率は約26%となる(「中小企業の実効税率って!?|蛭田昭史税理士事務所」を参照)。計算を簡単にするために、実効税率が最も低いこのケースで考えてみる。

 前述の2,400億円をこの実効税率26%で回収するためには、2,400億円÷26%=9,231億円の累積利益(ここでは便宜上、課税対象の所得=税引き前当期純利益とする)の増加が必要になる。ただし、ものづくり補助金で採択された全2万4,000社が万遍なく利益を上げられるわけではない。新製品・サービスの開発は、むしろ失敗の方が多い。経済産業省が公表している「中小企業・ベンチャー挑戦支援事業のうち実用化研究開発事業(制度)事後評価報告書」というレポートでは別の補助金の分析がなされているが、これによると事業化率は29.4%にすぎない。

 ということは、2万4,000社の約3割に相当する7,200社で、9,231億円の累積利益を上積みしなければ、投資は回収できない。ただし、ここでも先ほどと同様に波及効果を考える必要がある。すなわち、事業化に成功した企業から新たに仕事を受注した企業も利益が増え、さらにその企業から新たに仕事を受注した企業も利益が増える、という連鎖が発生する。よって、先ほどの7,200社とその取引先が上積みした利益の総計が9,231億円となればよい。

 事業化に成功した企業が新たに上積みした売上高の累積額をX億円とする。特別利益や特別損失がないと仮定すると、売上高経常利益率=売上高税引き前当期純利益である。やや古いデータになるが、中小製造業の売上高経常利益率は平均1.7%らしい(「売上高経常利益率|新・経営力向上TOKYOプロジェクト」を参照)。したがって、事業化に成功した企業が新たに獲得する利益の累積額は、0.017X億円となる。

 事業化に成功した企業は、取引先に新たな仕事を発注する。その金額は、前述した変動率の数値を使えば、X億円×55.5%である。よって、取引先が新たに得る利益の累積額は、0.017X億円×55.5%となる。さらに、その取引先から新たに仕事を受注した企業の利益の累積額は、0.017X億円×55.5%×55.5%ということになる。これを繰り返していくと、事業化に成功した企業とその取引先が新たに獲得する利益の累積額は、

 0.017X億円+0.017X億円×(0.555)+0.017X億円×(0.555)2+0.017X億円×(0.555)3・・・+0.017X億円×(0.555)n・・・

で計算される。この式は、初項0.017X億円、公比0.555の無限等比級数の和であるから、その和は「初項/(1-公比)」すなわち、0.017X億円/(1-0.555)である。この和が9,231億円に等しくなるようなXを求めると、24兆1,635億円となる。この金額が、事業化に成功した7,200社が上積みすべき累積売上高の合計である。1社あたりに換算すると、約33.5億円だ。事業化に成功した企業は、補助金で開発した製品・サービスにより約33.5億円の売上高を上げなければ、補助金という投資を法人税で回収することができない。そう考えると、結構ハードルが高い。

 ものづくり補助金の申請書には、今後5年間の事業計画を記入する欄があり、公開されている採点基準の中にも「事業を通じて補助金の金額に見合った効果が得られるかどうか?」という項目が入っている。しかし、審査員はこういう具体的な数字を踏まえて採点しているだろうか?

2015年01月26日

【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある


業績アップ

 《前回までの記事》
 【補助金の現実(1)】補助金は事後精算であって、採択後すぐにお金がもらえるわけではない
 【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい
 【補助金の現実(3)】補助金=益金であり、法人税の課税対象となる

 《2016年11月28日追記》
 この記事が比較的よく読まれているようなので、平成28年度補正ものづくり補助金(革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金)に関連する記事へのリンクを貼っておく。

 「新ものづくり補助金(平成25年度補正)」申請書の書き方(例)
 【シリーズ】「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)
 【平成28年度補正ものづくり補助金】賃上げに伴う補助上限額の増額について

 おそらく補助金について最も知られていないことの1つが、この「収益納付」である(恥ずかしながら、私も知らなかった)。簡単に言うと、補助金を受けて事業を行った結果利益が出たら、補助金の額を上限として利益の一部を国庫に返納せよ、ということである。「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に次のような規定がある。ほとんどの補助金では、この条文を根拠に、補助金ごとに定められる補助金交付規定の中で収益納付について明記している。
第7条(補助金等の交付の条件)
 ②各省各庁の長は、補助事業等の完了により当該補助事業者等に相当の収益が生ずると認められる場合においては、当該補助金等の交付の目的に反しない場合に限り、その交付した補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すべき旨の条件を附することができる。
 収益納付の趣旨に関して、補助金に詳しいある人は次のように説明していた。基本的に、利益が出る見込みの高い事業計画があるならば、金融機関から普通に融資を受ければよい。その方が、以前の記事「【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい」で述べたような複雑な会計処理を強いられることなく、自由にお金を使うことができる。

 補助金の対象となるのは、金融機関が融資したがらない、言い換えれば、リスクが高い事業である。利益の見通しが不明なために及び腰になっている中小企業の背中を後押しするのが補助金の大きな目的だ。ところが、中には補助金を悪用(?)して、利益が出ることが最初から解っている、つまり販売先がもう決まっていて利益の目途が立っているのに、補助金を受けようとする企業もある。そういう企業は利益の二重取りになり、補助金の趣旨に反するので、後から補助金を返還させたい。そのために、収益納付の規定を設けて牽制しているのだという。

 私の解釈はこれとは少し違っている。補助金とは国による一種の投資である。ただし、国は通常の投資家とは違い優しい投資家であって、ベンチャー企業が上場する時のように、投資金額が何倍~何十倍に化けることは期待していない。あくまでも、投資した金額が戻ってくればよいと考えている。それが収益納付である。残りの利益は企業の内部留保に回してもらい、将来的に設備投資などをしてくれればGDPが上がるので、国としてはその方がありがたい。

 しかしながら、補助金の対象=投資対象の事業は、前述したようにもともと事業化の見通しが不透明なものが多い。だから、失敗も多くなることが予想される。よって、補助金が全体としてリターンを得るためには、利益が出る事業にはとことん大きな利益を上げてもらう必要がある。したがって、一部の企業にとっては、収益納付は非常に重要な問題となる。

 収益納付額を算出する計算式はだいたいどの補助金でも同じだが、非常に複雑である。計算の基本方針を私なりに解釈すると、事業で得られた利益のうち、補助金が寄与した分を収益納付額としているようである。具体的に、「創業補助金」の交付規定33に従って計算してみよう。

 A.補助金交付額
 本事業にて交付を受けた補助金額。本ケースでは200万円としている。

 B.補助対象事業に係る収益額
 補助事業に係る営業損益など(売上高-売上原価-販売管理費など)の各年度の累計。本ケースでは、1年目から5年目の各年度の収益額が50万円⇒750万円へと徐々に増えていくように設定している。

 C.控除額
 補助対象経費。本ケースでは300万円としている。

 D.補助対象事業に係る支出額
 本報告の事業年度までに補助事業に係る費用として支出された全ての経費(補助事業終了後に発生した経費を含む)。本ケースでは、1年目から5年目の各年度の経費が300万円⇒700万円へと徐々に増えていくように設定している。

 E.基準納付額=(B-C)×A÷D
 (0以下の場合は0)

 F.累積納付額
 前年度までに収益納付した額の合計額。

 G.本年度納付額
 E+F≦AならばE(「基準納付額」+「前年度までの累積納付額」の合計が「補助金交付額」以下ならば、本年度の納付額は「基準納付額」)、
 E+F>AならばA-F(「基準納付額」+「前年度までの累積納付額」の合計が「補助金交付額」を上回るならば、本年度の納付額は「補助金交付額」-「前年度までの累積納付額」。これで補助金交付額の上限まで収益納付を行ったことになる)

補助金_収益納付

 上図を見ると解るように、利益が出たからといってただちに収益納付の義務が生じるわけではない。また、上図では5年目のE+F(「基準納付額」+「前年度までの累積納付額」)がA(「補助金交付決定額」)を上回るので、基準調整額を調整して納付額を決定している。3年目から5年目のG(「本年度納付額」)を合計すると、ちょうど補助金交付決定額の200万円となる。

 収益納付額を簡単にシミュレーションできるエクセルを作成したので参考までに。青字の斜体の部分を変えると、収益納付額が計算される。

 収益納付 簡易シミュレーションシート(※旧ブログサーバ、右クリックで保存)

2015年01月23日

【補助金の現実(3)】補助金=益金であり、法人税の課税対象となる


税金

 《前回までの記事》
 【補助金の現実(1)】補助金は事後精算であって、採択後すぐにお金がもらえるわけではない
 【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい

 《2016年11月28日追記》
 この記事が比較的よく読まれているようなので、平成28年度補正ものづくり補助金(革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金)に関連する記事へのリンクを貼っておく。

 「新ものづくり補助金(平成25年度補正)」申請書の書き方(例)
 【シリーズ】「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)
 【平成28年度補正ものづくり補助金】賃上げに伴う補助上限額の増額について

 補助金事務局の確定検査が終わり、無事に補助金が振り込まれても、実は補助金が100%まるまる自社のものになるとは限らない。場合によっては、補助金は税務上益金として扱われ、法人税の対象となる。「法人税法の基本通達」の「第15章 公益法人等及び人格のない社団等の収益事業課税」の「第2節 収益事業に係る所得の計算等」に、以下のような規定がある。
15-2-12 収益事業を行う公益法人等又は人格のない社団等が国、地方公共団体等から交付を受ける補助金、助成金等(資産の譲渡又は役務の提供の対価としての実質を有するものを除く。以下15-2-12において「補助金等」という。)の額の取扱いについては、次の区分に応じ、それぞれ次による。(昭56年直法2-16「八」により追加、平20年課法2-5「三十」、平23年課法2-17「三十三」により改正)

(1)固定資産の取得又は改良に充てるために交付を受ける補助金等の額は、たとえ当該固定資産が収益事業の用に供されるものである場合であっても、収益事業に係る益金の額に算入しない。

(2)収益事業に係る収入又は経費を補填するために交付を受ける補助金等の額は、収益事業に係る益金の額に算入する。
 (1)は施設補助金、(2)は経費補助金と言われる。まずは(2)経費補助金から話を始めよう。経費補助金とは、具体的には、創業や新規事業などに要した原材料費、直接人件費、外注加工費、委託費、マーケティング費、運搬費、店舗・事務所等借入費など、税務上損金として扱われる経費を補助金で賄うケースである。

 ただ、新規事業のために新たに原材料を購入したり、外注加工先を使ったり、マーケティング費用を支払ったりする場合であれば、増えた損金が後から補助金=益金で相殺されるため、法人税は発生しない。問題なのは、補助金を受ける前から恒常的に発生していたコストを補助金で賄った場合である。例えば、あるソフトウェア会社があって、収益がトントンであったとする。この会社が、新たなITサービスを既存の社員で開発するために補助金を申請したとしよう。

 この場合、会社の直接人件費は増えないので、損金も変わらない。しかし、そこに補助金が振り込まれると、補助金の分だけ益金が増えてしまい、会社の課税対象所得が跳ね上がってしまう。仮に1,000万円の補助金を受けたとすると、会社の税引き前当期純利益が0円からいきなり1,000万円になる。よって、350万円ぐらいの法人税の支払いが発生する。補助金を受けたのに、法人税の支払いのために本業が圧迫されてしまうようでは本末転倒である。

 (※1)以前の記事「「うさんくさい補助金申請書」を見極める7つの審査ポイント(その1~3)」で書いたように、直接人件費の割合が異常に高い事業計画書は、補助金の不正受給を疑われやすいので、できるだけ避けた方がよい。原材料や機械装置は買ったモノが目で見て解るのに対し、直接人件費は本当に社員が働いたかどうかを確認することが非常に難しい。よって、不正の温床になりやすいと言われている。とはいえ、上記のソフトウェア会社のように、労働集約的な企業では、どうしても直接人件費の割合が高くなってしまうのは否めない。

 (※2)直接人件費についてもう1つだけ補足。事業計画書を提出して無事に採択され、事業を進めていくうちに、当初の計画通りに行かず、変更が必要になることがある。例えば、社員が行う予定だった作業が、他の業務が忙しくなって社内でできなくなった。そこで、その作業を外注に回したいので、直接人件費を減らして、代わりに外注加工費を増やしたい、といった具合である。これを、経費区分間の流用増減と呼び、一定の手続きを踏めば変更が認められる。

 ただし、多くの補助金では、直接人件費の増額だけは禁止されている。これには理由がある。例えば、原材料費、機械装置費、直接人件費を合わせて、1,000万円の補助金を申請していたとしよう。しかし、事業を実際にやってみたら、原材料がそれほど必要ではないことが解り、機械装置も想定より安く調達できてしまった。このままだと、700万円ぐらいしか補助金が申請できない。しかし、本来1,000万円の権利を持っているのだから、このままではもったいない。

 さて、この場合、あなたが経営者ならばどう考えるだろうか?たいていの経営者は、恒常的に発生する直接人件費を300万円分増やして、満額の1,000万円をもらおうとするに違いない。週報などを無理やり作成して、あたかも補助金の対象事業に従事していたかのように見せかけるのである。だが、直接人件費は不正の温床になりやすいと書いた。こういう不正が起こりうるため、直接人件費への流用が禁止されているわけである。

 話を元に戻そう。(1)の施設補助金とは、工作機械などの固定資産の購入費を補助金で賄うケースである。この場合、購入物は固定資産に計上され、ただちに損金とならない。よって、補助金がまるまる益金となり、多額の法人税が発生してしまう。これでは何のための補助金か解らないので、税務上は圧縮記帳という方法が認められている。これは、簡単に言えば、補助金で固定資産を購入した場合、その購入価額から補助金の額を控除して購入価額とすることである。

 例えば、国から1,000万円の補助金を受け、1,500万円の備品を買ったとする。この場合の仕訳は以下の通りである。

 (借方)
  当座預金 10,000,000
  備品 15,000,000
 (貸方)
  国庫補助金受贈益 10,000,000
  当座預金 15,000,000

 このままでは、補助金1,000万円がまるまる益金となり、法人税の対象となってしまう。そこで、受贈益分については、次のような損金処理を行って、固定資産の減額を行う。

 (借方)
  固定資産圧縮損 10,000,000
 (貸方)
  備品 10,000,000

 これにより、資産には500万円の備品が計上されることになる。なお、圧縮記帳には圧縮限度額というものがあり、圧縮後は最低でも1円以上の固定資産を資産計上しなければならない。

 圧縮限度額=補助金をもって取得した固定資産の帳簿価額
   ×(返還不要の補助金の額/固定資産の取得のために要した金額)
 (これらの計算によって固定資産の帳簿価格が1円未満となる場合は、1円以上とする)

 圧縮記帳の効果は、あくまで「課税の繰り延べ」である。圧縮記帳で固定資産の価額が減った分、次年度以降の減価償却費(損金)も減ることになり、益金が増えて法人税が増加する。簡単な例で見てみよう。下図の2つのケースは、1年目に1,500万円の機械装置を購入し、5年で定額償却することを想定している。ただし、下の表では、1,000万円の補助金を受けているとする。両ケースとも、各期の減価償却費を除いた経常利益は500万円とする。

 上の表は通常の会計処理の結果である。下の表は圧縮記帳により、減価償却対象の機械装置費が500万円となる。その結果、各期の減価償却費(損金)が減少し、経常利益が増加する。5年間の累積経常利益を見ると、上の表と下の表では1,000万円の差が生じる。これは補助金の額と等しい。よって、結果的には、補助金が将来にわたって益金となっていると言える。条文では「収益事業に係る益金の額に算入しない」となっているが、あくまでも補助金を受けた年度の益金として計上しないという意味であり、実質的には将来の益金が補助金の分だけ増える。

補助金_圧縮記帳


 《2015年8月24日追記》
 「施設補助金」については、「法人税法の基本通達」に「収益事業に係る益金の額に算入しない」と規定されている。施設補助金は、圧縮記帳によって固定資産の価格を減ずるため、直接益金として計上されるわけではない。しかし、上記シミュレーションで見たように、固定資産の価格が下がった分だけ、将来に渡って減価償却費が少なくなり、補助金の額と同額の益金が発生する計算となる。したがって、施設補助金についても、事実上は益金と同等になる。





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