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【海外】タイビジネス最新情報―銅とアルミには気をつけよう
【海外】インドネシアビジネス最新情報―パンチャシラの精神で統一に向かうインドネシア
エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』―アジア人の部下を日本方式で叱ってはならない

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年08月26日

【海外】タイビジネス最新情報―銅とアルミには気をつけよう


タイ国旗

 タイの最新情報について、様々な人から聞いた話のまとめ。

 ・タイの失業率はここ数年ずっと1%を切っており、最新のデータでも0.7%である。しかし、バンコクを歩いていると日中からブラブラしている男性をたくさん見かけるので、とても失業率が0.7%とは思えない。日本の内閣府が、タイの失業率がなぜ低いのか調査したものの、原因は不明であった。タイ政府の数字を当てにしない方がよい。肌感覚だと、失業率は3%ぐらいである。タイは失業率が低く採用が難しいと言われているが、実際にはそれほど採用では苦労しない。

 ・タイの実質GDP成長率は3.2%、物価上昇率は0.2%であり、経済の成長が鈍化している。ところが、賃金に関しては、物価上昇率が5%だった2008年に賃金を5%上げる企業が多かったため、その流れで現在でも賃金上昇率は5%にしなければならないという雰囲気がある。

 ・タイでは北部の農村部に支持基盤があるタクシン派と、都市部、軍隊、中間層を支持基盤とする反タクシン派が対立しており、しばしばクーデターが起きるので、危険な国というイメージが強い。しかし、実際には無血クーデターであり、政治は混乱していても経済は普通に回っている。前国王であるラーマ9世(プーミポン国王)は、タクシン派と反タクシン派の代表者を呼びつけて双方をなだめる役割を担っていたことから、国民からも高く支持されていた。

 ところが、現在のラーマ10世(ワチラロンコーン国王)は、国民の評判がすこぶるよくない。まず、国民の前に出て話をしている映像が存在しない(タイの映画では、冒頭に国王の動画を入れるのが普通であるが、ラーマ10世の場合は静止画しかない)。身体には刺青を入れており、ドイツにいる愛人のところへ足繁く通っている。「国民が選挙をすると汚職する人ばかり選ばれるから、選挙はやらない方がよい」とfacebookで発言し、慌てて政府が火消しに走ったこともあった。それでも、タイには不敬罪がある関係で、国民は国王のことを悪く言うことができない。

 ・タイでは、少子高齢化と大学進学率の上昇により、建設・工場における肉体労働者や飲食サービス業のスタッフが不足している。不足分は、周辺国のミャンマー、カンボジア、ラオスからの出稼ぎ労働者が担っている。ただ、タイ人はプライドが高く、周辺国の人々を見下す傾向があり、工場では周辺国の人と仲良くできない。不足しているのは肉体労働者やサービス労働者だけはない。大卒のエンジニアや日本語通訳も不足している。大卒のエンジニアは英語が話せる人、日本語通訳は日本語検定1級に合格している人のニーズが高い。日本語検定1級に合格している通訳は、月給6万バーツ(約18万円)でも採用ニーズがある。しかし、現実的には1級合格者が少ないため、3級合格者を採用して訓練する企業もある。

 ・日本は資金調達がしやすい国であるが、タイでは資金調達が非常に難しい。審査が厳しい上に担保主義が根づいている。また、日本の信用保証協会に相当する機関がない。「1,000万バーツ貸してほしい」と金融機関に言うと、「1,000万バーツを現金で用意せよ」と要求されるのがタイである。こうした事態を改善するために、2016年に「事業担保法」が成立したものの、金融機関の対応に変化は見られない。「法律は立派でも機能しない、運用できない」ことがタイではしばしば起こるが、事業担保法はその典型である。タイでは、業歴5年以上の企業が6割であり、業歴が浅い企業は生き残ることが難しい(日本の場合、『中小企業白書』によると、業歴5年以上の企業の生存率は82%である)。結局、信用力のある財閥にお金が集まり、信用のない中小企業にはお金が回ってこないというのが現状である。

 ・タイ企業のほとんどは同族企業である。日本には「3代目が企業を潰す」という言葉があるのに対し、タイでは3代目がどんどん企業を発展させている。これは、タイには相続税、固定資産税がないからである。厳密には、相続税については2016年2月から開始されているのだが機能していない(建前上、1億バーツ以上の相続に対して10%の相続税)。また、固定資産税に関しても2017年8月から施行されることになっていたが、翌年に先延ばしされた。

 ・日本企業は、タイのローカル企業といきなり新規取引をして、債権回収不能に陥るケースが多い。新規取引をする際には、相手企業の信用調査が必須である。タイでは、商務省が全ての企業の決算書を保有しており、多少テクニックは必要であるが、通訳を連れていけば決算書を閲覧することができる。また、概要レベルであれば、商務省のHPで見ることが可能である。

 これ以外に、タイの信用調査で気をつけるべき点は以下の2点である。まず、①華人系の企業の場合、子どもの間で企業を分けることがある。よって、単体の企業ではなく、グループ全体を調査した方がよい。次に、②裏に軍隊、警察、政治家、公務員がいないかを確認する。法人登記簿を取得すると、株主、役員の情報を取得することができる。株主や役員に軍隊、警察、政治家、公務員がいる場合は要注意である(なお、政治家だけは役員になることができない)。

 ・タイ子会社の不正に関して一番多い相談は、「購買担当者が仕入先からキックバックをもらっているかもしれない」というものである。最近は、購買担当者にATMカードを渡すという手口が増えている。タイでは、日本と異なり、通帳には振込人名が印字されないから悪用されやすい。しかし、実際にキックバックが行われていることを立証しようとすると、①キックバックを行っている場面の写真、②キックバックを行った時の音声、③渡した人と受け取った人の供述が必要であり、立証はまず不可能である。企業にできることと言えば、「最近、キックバックが行われているらしい」という噂を社内に流して、購買担当者を自主退職に追い込むことぐらいである。

 ・製造業では、価値のある製品、油、原材料(銅、アルミ、貴金属)、市中で転売が利く完成品(家電、タイヤ、アフターマーケット製品)が横領されやすい。99%は内部の組織犯である。まずマネジャーがヘッドとなり、アシスタントがコーディネーター役となって、各種書類の操作や関係者の調整を行う。運送業者・廃棄物処理業者を持ち出し役、警備員を見逃し役とし、あとはキャッシュ化する役の人を決めておけば、横領は発覚しにくい。また、原材料を注文したのに工場に入ってこないこともある。この場合は、購買担当者、検収担当者、運送業者が結託している。

 ・家電のように金や銀を使う場合は倉庫管理が必須である。それでも、金庫ごと盗まれることがある。そのため、倉庫をさらに柵で囲うなど、二重、三重の管理が必要である。地金でないプラチナも在庫から消えることがある。地金でないプラチナは換金しにくいから盗まれないと思ったら大間違いである。在庫管理の甘さを放置しておくと、さらなる不正につながる恐れがある。

 ・ワーカーをたくさん抱える企業では、賭博、麻薬、闇くじ、金貸し、社内売買に注意が必要である。企業に対する直接的な損害はないが、社内の不正行為を放置することになる。また、これらの行為にはお金がかかるため、横領や窃盗につながりやすい。これらの行為が工場で蔓延するのは、ワーカーという顧客が多いこと、顧客の顔が見えやすいこと、工場には警察が入ってこないこと、市中より高い価格で売れること、などが挙げられる。なお、金貸しとは、社員から集めたお金を原資とし、金利10%程度で社員に貸す互助会のようなものである。ある月はAさんが親になって社員に貸す、翌月はBさんが親になって社員に貸す・・・というのを繰り返す。問題なく返済が行われている間はよいが、途中でしくじる社員が出てくるとトラブルに発展する。

 ・タイの工場では「ヤーバー」と呼ばれる麻薬が蔓延していることがある。ヤーバーを砕いてアルミの上に乗せ、下から火であぶって煙をかぐ。ヤーバーの体内残留時間はそれほど長くなく、仕事が終わると抜けてしまうので、終業後のチェックでは見抜くことが難しい。ただし、ヤーバーを吸うのはたいていトイレの中であり、ワーカーは使用済みのアルミをトイレの窓の桟に残していることがある。もし、トイレの窓の桟からアルミが見つかったら、麻薬使用の可能性を疑った方がよい(ある企業では、大雨が降ってトイレの管が破裂し、中から大量のアルミが出てきたことがあった。ワーカーが使用済みのアルミをトイレに流していたのである)。

 ・タイ子会社のローカル化は重要な課題であるが、①往々にしてトップになったタイ人がグループ全体の利益よりもタイ子会社の利益を優先し、重要な情報を本社に報告しないというケースがある。この場合の打開策としては、親会社側から積極的にコミュニケーションを図ることに尽きる。また、②トップになったタイ人が好き勝手にしないよう、モニタリングの仕組みを作ることも重要である。ある企業では、トップが勝手に個室を作って個室に鍵をかけ、PCには社内規定に定められていないのに勝手にパスワードを設定していたことがあった。

 ・タイでは日系企業が増加しているとはいえ、現地に派遣される駐在員が皆優秀とは限らない。肌感覚では、駐在員のレベルはここ10年で落ちている。日本本社は、もっと赴任前研修に力を入れて、コミュニケーションの取り方や倫理観、正義感について教育をするべきである。タイ子会社で不正が起きるかどうかは、駐在員のレベルにかかっている。なお、不正防止のために「目安箱」を設けるケースが見られるが、これはあまりお勧めできない。まず、タイ人社員にとっては、書いたところを同僚に見られると仲間外れにされる恐れがあるので、二の足を踏んでしまう。また、タイ語を日本語に翻訳する段階で誰が書いたか解ってしまい、匿名性が担保されない。目安箱よりも、適切な内部通報システムを導入する方が効果的である。

 ・タイも賄賂が多い社会である。身近な例で言えば、新車を購入して仮ナンバーを普通のナンバーに変更する際に、警察に賄賂を渡す必要がある(実際には、ディーラーが賄賂の分をかぶっている)。ドイツ企業は賄賂に関する立ち回りが上手い。具体的に言えば、簿外金庫を作っている。経費の水増しやキックバックなどによって裏金を作り、これを賄賂の原資としている。


2017年08月23日

【海外】インドネシアビジネス最新情報―パンチャシラの精神で統一に向かうインドネシア


インドネシア国旗

 インドネシアの最新情報について、様々な人から聞いた話のまとめ。

 ・インドネシアには「パンチャシラ」という建国5原則があり、憲法より上に位置づけられている。5原則とは、①唯一神の信仰、②公正で文化的な人道主義、③インドネシアの統一、④合議制と代議制における英知に導かれた民主主義、⑤全インドネシア国民に対する社会的公正、である。なお、①唯一神の信仰とは、同じイスラーム圏であるマレーシアのようにイスラームを国教としているわけではなく、国民は誰しもどれか1つの宗教を持つべきであるとの意味である。2017年より、6月1日がパンチャシラの日に制定された。近年、パンチャシラの精神が薄れてきているとの危惧から、パンチャシラの精神をもう一度強化しようというものである。

 ・インドネシアを理解するキーワードとして、上記の①パンチャシラ(Pancasila)の他に、②多様性の中の統一(Bhineka Tunggal Ika)、③ムシャワラ(Musyawarah、話し合いの意)、④ムファカット(Mufakat、全会一致の意)がある。これらの言葉はインドネシアの会社法、労働法など様々な法律に登場する。例えば、会社法においては、株主総会の決議は、全会一致の精神が望ましくムシャワラによって採択されるべきだと規定されている。全会一致ができなかった場合には、過半数の決議が有効となる。また、労働法においても、会社と労働組合が締結する労働協約に関しては、ムシャワラで合意に達するべきだと定められている。

 ・インドネシアは過去石油の輸出国であったが、現在は石油の純輸入国に転じている。また、中国経済の減速の影響もあって、インドネシアの輸出額は2012年以降減少傾向にある。そのため、政府は鉱物の輸入を制限するなどの策を打った。にもかかわらず、2013~2015年の貿易収支は赤字であり、これがGDP成長率の鈍化に影響を与えている。2016年のインフレ率は3.02%、GDP成長率は5.0%であるが、肌感覚ではデフレ、マイナス成長のように感じられる。ユドヨノ政権が絶頂だった2011年は、GDP成長率が6.5%であり、7%も夢ではないと言われていたが、今やその目標は遠のいてしまっている。

 ・インドネシアの二輪車市場、四輪車市場における日本企業のシェアはそれぞれ99%、95%であり、圧倒的に日本企業が強い。ただ、二輪車の年間販売台数はユドヨノ政権が絶頂だった2011年に800万台を超えて以降減少傾向にあり、2016年には590万台にまで落ち込んでいる。四輪車の年間販売台数は2012年に初めて100万台を超えた。インドネシアの1人あたりGDPは3,570ドル(2016年)であるが、一般に1人あたりGDPが3,500ドルを超えると二輪車から四輪車への移行が進むと言われている。ところが、2013年以降の四輪車の販売台数は横ばいであり、政府が目標とする150万台の達成にはまだまだ時間がかかりそうである。

 ・外資企業の投資要件は、最低資本金額25億ルピア(約2,000万円)、資産規模100億ルピア(約8,000万円)とされている。インドネシアは、外資企業の中でも大企業を誘致したいと考えている。インドネシアの外国投資政策は、景気が悪くなると外資比率が上がり、景気がよくなると外資比率が下がるという解りやすい特徴がある。ただし、最後の砦と言われているのが小売業であり、よほどインドネシアの経済が悪化しない限り、外資には開放されないだろうと言われる。

 ・インドネシアでは毎年約220万人の新規労働者が労働市場に参入してくる。これをカバーするためにはGDP成長率が6%以上必要とされるものの、2013年以降GDP成長率は6%を下回っている。ということは、失業率が悪化しているはずだが、失業率は2013年以降ずっと5%台で推移している。ただし、この統計にはからくりがあって、政府は週に働いた時間が1時間未満の者を失業者と定義している。これを、週に働いた時間が35時間未満の者を失業者と定義して統計を取り直すと、2010年以降の失業率はずっと35%前後という高い水準になる。

 ・インドネシアのフォーマルセクターの構成は次の通りである。税務番号取得者は2,750万人(21%)、そのうち納税者は1,020万人(8%)、社会保険加入者は3,860万人(30%)、労働組合加入者は170万人(1%)、35時間以上就労している者は8,700万人(66%)である。逆に言えば、税務番号を持たないインフォーマルセクターが70%以上存在する。ただし、政府は貧困さえなければインフォーマルセクターを容認する考えを示している。政府が恐れているのは、インフォーマルセクターの貧困化にオイル価格の上昇が重なって、政府への批判が高まることである。

 ・インドネシア労働法の第46条は、人事に関する業務に外国人が就くことを禁じている。これは労働法の最大の欠点である。政令では、階級、役職、勤続年数、学歴、能力などに応じた賃金テーブルの作成が義務づけられているが、外国人はこの作業を実施できない。また、社長、取締役であっても、外国人が人事関連の業務を行うことはできないと認識されている。人材育成は企業にとって重要な課題であるにもかかわらず、インドネシア人に任せるしかないという問題がある。とはいえ、インドネシア人に人材育成の能力が十分にあるとは必ずしも言えない。

 ・インドネシアの最低賃金は、2000年以降地域別、事業分野別に定められてきたものの、近年は特に複雑化しており、地域、事業分野ごとの整合性をとるのが困難になっている。そこで、2016年に方針転換し、原則として賃金上昇率をインフレ率+経済成長率(2017年の場合、3.07+5.18=8.25%)で定めることとした。しかし、この足し算にどのような意味があるのかは不明である。また、これはあくまでも原則であり、実際には地域、事業分野ごとに労働組合と交渉しなければならない。本来、最低賃金は1月1日に発表しなければならないのに、ブカシ市内では3月に、カラワン県では6月に発表がずれ込んだというケースもある。

 ・一般ワーカーの月給を見ると、ASEAN新興国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)の賃金が急上昇しているため、インドネシアの賃金も未だに競争力がある。労働集約型である縫製業もまだまだインドネシアでは盛んである。製造マネジャー、営業マネジャーの月給を見ると、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンでは、2011年に比べて2016年の方が月給が下がっている(フィリピンの営業マネジャーのみ例外)。一方、カンボジア、ラオス、ミャンマーでは、製造マネジャー、営業マネジャーの人材不足によって賃金が高騰しており、月給ベースでは先の5か国とあまり変わらない状況になっている。

 ・インドネシアでは、物品を輸入した段階で前払い法人税が発生する。期末に法人税額が確定した結果、予納額を下回った場合、日本であれば喜んで還付請求をするところだが、インドネシアの場合は還付請求をすると必ず税務調査を受けることになる。この税務調査が非常に厳しく、例えばインドネシア子会社が日本の親会社に支払っているロイヤリティーが利益移転だとして否認される(※1)、為替差損が利益の過小評価だと見なされる(ルピアは弱い通貨なのでこのリスクが高い)、機械装置の減価償却期間が8年から16年に変更される(※2)、旅費交通費や接待交際費などが否認される、といったケースが報告されている。

 (※1)ロイヤリティーは、概ね3%を超えると否認される傾向がある。通常、ロイヤルティーは付加価値額に対してかかるものだが、インドネシアの税務局は売上高をベースに見ている。よって、売上高の3%を超えるロイヤリティーは否認される可能性が高い。最近は、パテントの裏づけがあっても否認されるケースが増えている。
 (※2)日本の減価償却は数百種類存在するのに対し、インドネシアにはグループ1からグループ4までの4種類しかなく、多くの場合はグループ3の16年が適用される。

 確定額が予納額を上回った場合は、確定額と予納額の差額を納めれば終わりというわけではない。翌年は、前年の確定額と予納額の差額の12分の1を毎月前納しなければならない。結果的に、前年の法人税と同じ額を前払いすることになる。確定した法人税額が予納額を下回れば、還付申請はできるが税務調査を受けなければならない。したがって、インドネシアではいかにして毎年利益を確保し続けるかが非常に重要な課題となる。

 ・過去のスハルト政権は非常に国民思いであり、石油の輸出と対外債務で政府の財源を賄おうとした。ところが、スハルト政権が倒れた後、ルピアが暴落したため、国の作り方が間違っていたという反省が生まれた。政府にとってきれいな収入とは税収しかないということで、現在のインドネシアの国家歳入の85%以上は税収が占めている。ここにきて、ジョコ大統領がシンガポールを意識して、法人税率を現行の25%からシンガポール並みの17%に引き下げる方針を打ち出している。ということは、今後ますます税務調査が厳しくなる可能性がある。

 ・労務問題に関しては、労使間で日頃から密にコミュニケーションが取れている企業ではさほど問題は生じない。ソニーのインドネシア子会社は、現地社員から「牛乳を1本つけてほしい」という要望を受けたが、本社はこれを否認した上、インドネシアでのビジネスを諦めてしまった。もっと労使間で意思疎通が取れていれば、こんな事態にはならなかったであろう。労使間の関係が良好な企業では、労働組合が結成されることは少ない。万が一、労働組合、しかも上部組織とつながりのある労働組合が結成された場合には、会社と労働組合に労働局を交えて、いかにしてストライキを回避するか議論する必要がある。労使問題が起きた場合、経営者側が悪いケースが7割である。悪い社員を育ててしまった企業側の責任であると思った方がよい。


2017年08月04日

エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』―アジア人の部下を日本方式で叱ってはならない


異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養
エリン・メイヤー 田岡恵

英治出版 2015-08-22

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 以前、ブログ別館の記事「エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』」で取り上げたが、改めて本ブログでも紹介したいと思う。

  《参考記事》
 (メモ書き)人間の根源的な価値観に関する整理(1)―『異文化トレーニング』(2)
 人間の根源的な価値観とマネジメントの関係をまとめてみた―『異文化トレーニング』(以上は旧ブログ)
 トロンペナールス&ターナーによる「文化の基礎次元」の補足

 各国の文化の特徴を研究したものとしては、上記の参考記事でも挙げたように、トロンペナールス&ターナー、クラックホルン&ストロッドベック、ヘールト・ホフステードなどが有名である。本書は「カルチャーマップ」という形で、文化に関する新しい視点を提供してくれる。

カルチャーマップ

 カルチャーマップでは、各国の文化を8つの視点で分析する。①コミュニケーションは、「ローコンテクスト」か「ハイコンテクスト」かという軸でとらえられる。コンテクストとは「文脈」という意味で、ローコンテクストとは、文脈を共有していないことを表す。別の言い方をすると、価値観、規範、文化、経験などを共有していないということである。一般に、西洋はローコンテクストの文化である。多様な価値観を持つ人々が集まる地域であるから、何でもかんでも言葉で表現しないとコミュニケーションが成立しない。これに対して、ハイコンテクストとは、文脈を共有している、つまり価値観、規範、文化、経験などを共有していることを指す。日本は典型的なハイコンテクストの国であり、いわゆる阿吽の呼吸で意味が通じてしまう。

 ②評価は、「直接的なネガティブ・フィードバック」か「間接的なネガティブ・フィードバック」かという軸でとらえられる。面白いのは、ローコンテクストの西洋の国々は否定的な評価を直接的に伝えるかというと、必ずしもそうではないという点である。西洋の中でも、アメリカやイギリスは、否定的な評価を間接的に伝える傾向がある。言葉の上ではそれほど怒っていないようでも、心の中でははらわたが煮えくり返るような思いをしていることがある。これを知らない他の西洋の国々の人々は、アメリカ人やイギリス人の言葉を額面通りに受け止めてしまい、彼らの本音をつかみ損ねる。例えば、イギリス人が「もう少し考えてみてください」と言う時、心の底では「悪いアイデアです。やめてください」と思っている。ところが、これをオランダ人が聞くと、「いいアイデアなんだな。もう少し掘り下げてみよう」と受け止めてしまう。

 ③説得は、「原理優先」か「応用優先」かという軸でとらえられる。原理優先とは、演繹的な思考と言い換えることができる。原理優先の国の人々は、「まず、一般的な原理としては○○である。この原理を今回のケースに当てはめると○○となる。したがって、結論は○○である」というロジックの組み立て方をする。結論が最後に出てくるため、応用優先の国の人からすると非常にまどろっこしく聞こえる。その応用優先の国では、結論が最初に述べられる。「今回の結論は○○である。なぜならば、A、B、Cという事実があるからである」というのが彼らの論理構成である。

 ④リードは、「平等主義」か「階層主義」かという軸でとらえられる。平等主義の国では、フラットな組織が好まれる。これに対して、階層主義の国では、ヒエラルキー型の組織が採用される。⑤決断は、「合意重視」か「トップダウン式」かという軸でとらえられる。通常、平等主義の国では合意重視、階層主義の国ではトップダウン式になるのだが、いくつかの例外がある。例えば、ドイツや日本は階層主義の国であるのに、意思決定は合意重視で行われる。一方、アメリカは平等主義の国であるのに、意思決定はトップダウン式で行われる。

 ⑥信頼は、「タスクベース」か「関係ベース」かという軸でとらえられる。タスクベースとは、仕事上の人間関係を通じて信頼を醸成することである。逆に言えば、仕事上の関係が全てであるという非常にドライな関係である。他方、「関係ベース」の国においては、仕事上の関係だけではなく、プライベートでの関係も重視される。会社での人間関係がプライベートにも介入してくるような、非常にウェットな関係である。⑦見解の相違は、「対立型」か「対立回避型」かという軸でとらえられる。意見が異なる時に、敢えて対立を扇動するのが対立型である。私はドイツ人と一緒に働いたことがある何人かの人から話を聞いたことがあるが、皆一様に「ドイツ人はずけずけ物を言うし、頑固で絶対に自分の意見を曲げない」と言っていた。対立回避型はその名の通り、対立をできるだけ避けようとするタイプであり、日本人はまさにこれにあたる。

 ⑧スケジューリングは、「直線的な時間」か「柔軟な時間」かという軸でとらえられる。直線的な時間とは、別の言い方をすれば時間厳守である。一方、柔軟な時間とは、乱暴な言い方をすると時間にルーズということである。例えば、今ある人と商談をしているとしよう。30分後には別の商談があり、そろそろ移動しないと時間に間に合わなないとする。この場合、日本のように時間を直線的にとらえる国の人々は、次のアポに間に合うよう、今の商談を何とか上手く切り上げようとするだろう。だが、時間を柔軟にとらえる国の人々(中東に多い)は、次の商談の時間を気にしない。今目の前にいる人との関係が重要であり、話が終わるまでは絶対に席を立たない。仮に商談が長引いて次の商談に遅れても、悪びれる様子はないし、相手も遅刻を咎めない。

 上記のカルチャーマップを見ると、フランスとドイツ、日本と中国は比較的近い文化であるように思える。ところが、両国の間には大きな違いがいくつかある。フランスとドイツに関しては、ドイツよりフランスの方がハイコンテクスト寄りであり、意思決定がトップダウン式であり、人間関係がウェットであり、時間に対する意識が柔軟である。日本と中国に関して言うと、中国の意思決定がトップダウン式であるのに対し、日本の意思決定は合意重視であるという決定的な違いがある。また、時間に対する意識も、中国は柔軟であるが、日本人は時間厳守の意識が強い。西洋人だから、東洋人だから皆同じだと一括りに考えるのは、ミスコミュニケーションの元となる。

 同じアジアでも、日本と他のアジアの国で決定的に違うのが、「部下の叱り方」ではないかと思う。先ほどのカルチャーマップを見ると、②評価のところで、日本は「間接的なネガティブ・フィードバック」に寄っていることが解る。この点については少し補足が必要であろう。つまり、日本人が否定的な評価を間接的に伝えるのは、会議などの場に限られるということである。日本人は、会議では波風を立てたくないと考えるため、反対意見をあまりはっきりと言わない(⑦見解の相違とも関連)。ところが、部下と1対1になると、突然高圧的な態度に出ることがある。「お前、ちっとも仕事ができていないじゃないか!」、「このバカヤロー!」など、他の社員が見ている前で、特定の部下を名指しして大声で怒鳴ることがある。

 この日本式の部下指導を、他のアジアの国に持ち込むと危険である。特に、中国、フィリピン、タイ、インドネシアでは気をつけた方がよい。これらの国の人々は面子やプライドを非常に重視する。そのため、人前で叱られると面子やプライドを傷つけられたと感じる。部下はその場で会社を辞めてしまうかもしれない。会社を辞められるだけならまだましな方で、最悪の場合、その社員の家族や親族から復讐(物理的な攻撃)を受けることがある。こういう国々の人に対して否定的な評価を伝えるコツとして、本書では5つのポイントが挙げられている。

 ①グループの前でフィードバックしない。
 ②メッセージをぼかす。
 ③フィードバックをゆっくりと、長い時間をかけて行い、徐々に浸透するようにする。
 ④好ましくないメッセージをぼかすために、一緒に食事などをしながら話す。
 ⑤よいことを言い、悪いことは言わない。

 最後の「⑤よいことを言い、悪いことは言わない」とは、次のようにフィードバックすることである。例えば、部下に3つのドキュメント作成を依頼し、2つのドキュメントはよくできていたが、残りの1つのドキュメントの出来がひどかったとする。この場合、日本人なら「お前、この最後のドキュメントは何だ!?全然できていないじゃないか!」と怒り出すところだが、アジアにおいては出来がよかった2つのドキュメントに着目しなければならない。そして、「最初の2つのドキュメントはよくできていたよ」とだけ言う。すると、部下は「最後のドキュメントについては何も言ってくれなかったから、ひょっとしたら上司の期待水準を満たしていなかったのではないだろうか?」と思ってくれるかもしれない。その可能性に賭けるしかないのである。

 部下に対して否定的な評価を伝えなければならないのが人事考課面談である。こんな状況を考えてみよう。皆さんは、ある情報システム会社のインドネシア支社で部長を務めているとする。部下であるプロジェクトマネジャーに対して、人事評価の結果を伝える面談を行うことになった。事前に手元に用意した紙には次のように書かれている。

 <よかった点>
 (ⅰ)顧客企業の中でシステム導入に反対していたA課長を粘り強く説得したこと。
 <悪かった点>
 (ⅱ)自社で開発できない機能まで安易に引き受けて、部長である自分に承諾を取らないまま外注先を使った結果、プロジェクトのコストがかさんだこと。
 (ⅲ)前任の部長がプログラムの品質管理に厳しかったためか、必要以上に細かいプログラムテストにこだわりすぎて、バグが一向に減らなかったこと。
 (ⅳ)マネジャーなのに部下の仕事を手伝いすぎている。そのせいで、顧客とシステムの仕様を擦り合わせたり、プロジェクトの進捗を報告したりする時間が十分に確保できていない。
 ⇒総合評価はA(よい)~E(悪い)の5段階のうち、「D」。

 (※私がIT業界出身で、コンサルティングでもIT業界のクライアントが多いため、すぐに作成できるケースがIT業界のものになってしまう点はご容赦いただきたい)

 部下が日本人であれば、上記で書かれている内容をそのまま伝えるだろう。よかった点はよかったと言い、悪かった点は悪かったとはっきり言ってあげるのが部下のためと考えられている。しかし、相手がアジア人(このケースではインドネシア人)の場合は一工夫必要である。ネガティブなことをそのまま伝えると、相手のプライドを傷つける恐れがある。よって、ネガティブな事実の中からできるだけポジティブな要素を見出し、それを伝えるように努めなければならない。

 例えば、(ⅱ)の「自社で開発できない機能まで安易に引き受けて・・・」という箇所は、肯定的にとらえれば「顧客のニーズをきめ細かく吸い上げて対応した」ということになる。よって、まずはその点を強調する。その上で、「顧客のニーズに追加対応する際には、自社で本当にできるのか、コストはどのくらいかかるのかをもう少し慎重に検討した方がよい」と、やんわり改善点を伝える。(ⅲ)に関しては、「前任の部長のやり方に引きずられなくてもいい。君がいいと思う方法でやってみなさい」と言うのも1つの手であろう。(ⅳ)にある「マネジャーなのに部下の仕事を手伝いすぎている」という箇所は、肯定的にとらえれば「マネジャーとして部下の支援を十分に行っている」ということになる。それを強調した上で、「部下を支援する時間と同じくらいの時間を、顧客とのコミュニケーションにも費やしてほしい」と提案する。

 ただし、これだけ肯定的な点を見出して部下にフィードバックしても、総合評価の「D」は変更できない。上記のようにできるだけ肯定的にフィードバックした結果、部下から「なぜ自分はDなのですか?」と聞かれたら、こう答えるとよい。「今期は他のプロジェクトマネジャーが君以上にすごく頑張ったから、相対評価でDなんだ」。おそらく、これでは部下は十分に納得しないかもしれない。また、上司の側も、本当はプロジェクトマネジャーとしてもっとこうしてほしいと思うところがたくさんあるだろう。その場合は、前述した「否定的な評価を伝えるコツ」の「④好ましくないメッセージをぼかすために、一緒に食事などをしながら話す」に従うとよい。部下を何度か食事に誘い、食事をしながらプロジェクトマネジャーのあるべき姿を何回かに分けてゆっくりと伝えていく。

 アジアで事業展開をしている企業から話を聞くと、どの企業も人事労務管理で非常に苦労されている。現地の法制度や行政とのやり取りの仕方が日本とは全く異なるのも理由の1つであろうが、日本式の部下指導・部下育成のやり方がアジアでは通用しないという点が非常に大きいのではないかと思われる。決めつけはよくないが、アジアの人々は必ずしも日本人と同等の能力を持っている人ばかりとは限らない。彼らに対して、日本人は、恐らく自分が昔日本国内で上司からされたように、厳しく指導をしたくなる。だが、アジアではそれを我慢して、可能な限り部下のプラスの面を見出し、部下が自然と育っていくのをじっくりと見守る懐の深さが求められる(ただし、不正は別問題である。不正に対しては毅然とした態度をとらなければならない)。



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