このカテゴリの記事
海外派遣前研修 『グローバル・マネジメント』(研修メモ書き)
「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】
ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』(セミナーメモ書き)

お問い合わせ
お問い合わせ
アンケート
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

最新記事

Top > 海外ビジネス アーカイブ
2017年03月24日

海外派遣前研修 『グローバル・マネジメント』(研修メモ書き)

このエントリーをはてなブックマークに追加
外国人との会議

 とある機関で「海外派遣前研修『グローバル・マネジメント』」を受けてきた。私自身は海外に赴任する予定はないのだが、最近はコンサルティングで海外ビジネスの案件に関与する機会が増えてきたため、勉強のために受講した。結果から言うと、今回の研修はいまいちだった(だから、研修機関名は伏せてある)。そのいまいちな内容を何とか膨らまして今回の記事を書いているので、中身が薄くなっている点はご容赦いただきたい。

 私が所属している東京都中小企業診断士協会には、「国際部」という部署がある。国際部は年に数回、交流会を企画しており、海外経験のある診断士が多数参加しているそうだ。ただ、交流会に参加した私の知り合いの診断士によると、この交流会はすこぶる評判が悪い。というのも、言わば飲み会であるにもかかわらず、年配の診断士が次々と登場しては、「私が○○年代に△△という国にいた時の話”では”、・・・」という話を延々と続けるのだという。海外情勢は常に変化しているから、はっきり言って昔話を自慢されても迷惑なだけである。知り合いの診断士は、こうした年配診断士のことを、山形県・出羽山地の神に例えて「ではの神」と揶揄していた。今回私が受講した研修の講師も、これに近いものがあった。「ではの神」とはこういう人かと実感した。

 (1)日本企業の海外子会社は、現地スタッフから高く評価されている点もあるものの、批判も多い。真っ先に挙げられる批判が、「日本人は自分の考えをはっきりと言わない」というものである。それゆえ、意思決定は曖昧になりがちであり、この点が現地スタッフの不満の種となっている。日本人は、普段はあまり積極的にしゃべらないのだが、現地スタッフの部下が何か提案を持っていくと、部下の話を途中で遮って、「これではだめだ。ここはもっとこうするべきだ」と話し出す。これも、現地スタッフにとってはストレスの原因である。

 現地スタッフが日本人上司の指示に従って資料を作成し上司のところに持って行くと、「私が指示したのはこういうことではない。こういうことだ」といった具合に、今まで聞いたことのない要望を出してくる。さらに、資料の細かいところまでこだわって修正を命令してくる。これもまた、現地スタッフには奇異に映る。そのくせ、上司の無茶な要望に従って仕事を完成させても、上司から「ありがとう」とも言われず、「この資料のこの点がよかった」などとフィードバックを受けることもない。逆に、アウトプットの質が上司の期待水準を下回っていようものなら、現地スタッフは皆の目の前で日本人上司に怒鳴りつけられる。現地スタッフにとっては非常につらいものがある。

 なぜこんなことが起きてしまうのか?私は、日本人上司が日本で顧客の立場にある時に取引先に対して取る態度を、海外赴任した際に今度は自分の部下に対して取ってしまうのではないかと考えている。母親から虐待を受けて育った子どもは、成長して自分が母親となり子どもを持つと、同じように虐待をする傾向が高いのと同じ理屈である。

 私はIT業界とコンサルティング業界に身を置いていたが、どちらも最終的な成果物が目に見えにくい業界である。だから、営業をかけても、顧客企業の担当者は初期段階では何を必要としているのか自分で解っていないことがほとんどである。こちらから、色々な角度から仮説ベースでソリューションを提示すると、初めてコミュニケーションが開始される。しかし、商談の中で仕様をしっかりと決めて、後はその通りに粛々と作業を進めればよいというケースなど皆無に等しい。仕様は、契約後も極めて流動的に変化するのが常である。

 有名な話だが、IT業界では、基幹業務システムの開発のように大規模案件になると、開発は進んでいるのに見積金額が固まらず、プロジェクトの最終段階になってようやく見積金額が決まるものである。しかし、見積が固まったことは、仕様が固まったことを意味しない。システム開発もコンサルティングも、プロジェクトの終盤になってシステムの画面や最終報告書の形がある程度形になると、顧客企業はそれをトリガーとして別のアイデアを思いつくのか、「いや、我が社がほしいのはこんなものではない」とちゃぶ台返しをしてくる。顧客企業の期待水準とあまりにかけ離れている場合は顧客企業が怒り出し、「これでは御社にフィーを支払えない」といった話に発展することもある。こういう話は、どの業界でも見られるのではないかと思う。

 日本では「お客様は神様」である。そして、日本企業は神様であるお客様に鍛えられて競争力を高めてきた。神様は多くを語らないから、企業側が神様の意図を察するしかない。神様が発する言葉以外に、五感を通じて入ってくる情報を頼りに、神様の真意を汲み取る。だから、日本企業は、P&Gの”Livin' it”プログラムのような、消費者や販売チャネルの行動をつぶさに観察するエスノグラフィックなマーケティングを行う前から、観察を重視した顧客ニーズの把握に努めてきた。日本企業の方法は、顧客に共感しすぎないという点も大きなポイントである。顧客ニーズを深く知るためには、顧客と同じ体験をすることが有効であるように思える。ところが、あまりに共感しすぎると、顧客のことをかえって誤解するリスクがあることが報告されている(以前の記事「『組織の本音(DHBR2016年7月号)』―イノベーションにおける二項対立、他」を参照)。

 顧客からああでもない、こうでもないと言われ、時には厳しいクレームに耐えながら、日本企業は自社の製品・サービスの品質や価値を高めてきた。そして悲しいかな、これだけ一生懸命製品・サービスを作って提供しているのに、顧客から本当に真心のこもったお礼を言われることは非常に少ないのである。私の経験で言うと、通り一遍のお礼を言ってくれる顧客の割合が約3割、「いやぁ、御社のこの製品・サービスはこの点が本当によかったですよ!おかげでこんなに助かりました」と心の底から感謝してくれる顧客は1割にも満たないという感触である。

 日本人が日本にいる時に、自社内であれ私生活であれ、顧客の立場で上記のように振る舞う癖がつくと、海外赴任しても、上司である自分は社内顧客、現地スタッフは自分のニーズに応えるべき社内取引先だと見なして、前述の悪癖が露呈する。こういう悪癖を矯正する方法は、ありていに言えば教育ということになるのだろうが、残念ながら海外に赴任してしまった日本人に教育は通用しない。だから、海外赴任した日本人が、日常生活の中で、顧客としての言動を改めるしかない。具体的には、自分が何をほしがっているのか事前によく考え、それを明確に相手企業に伝える、大した理由もないのに自分の考えをコロコロと変えない、製品・サービスを提供してもらったこと、誠実に対応してもらったことに対してお礼を言う、製品・サービスや顧客応対のどの点がよかったのかを企業にフィードバックする、といったことを実践するべきであろう。

 (2)(1)で日本人はあまり褒めず、相手の欠点に対して怒ることの方が多いと書いた。アメリカでの駐在経験が長い講師によれば、海外では「まず褒めること」が重要なのだという。だが、この点は、特にアメリカ企業において、部下が上司からクビにされるのを恐れて、上司に意見を言いたがらない点と矛盾する。仮に、部下が上司に何を言っても褒められるのであれば、自分がクビになることを心配する必要はない。部下がおかしなこと、上司の考えに反することを言うとクビになるかもしれないと考えるから、上司に意見を言わないのである。

 コーチングは、「上司が絶対で部下は上司に意見してはいけない」というアメリカ的慣行への反省として生まれたものであると私は思う。アメリカの常識に従えば、上司の命令は絶対であり、上司が部下に質問をして部下の考えを引き出すなどというのは考えられない。しかし、そういうマネジメントでは限界があると感じたから、コーチングがアメリカで生まれたに違いない。

 日本の場合、(1)のような横柄な上司はいるし、とりわけ大企業では部下に命令だけを出していれば仕事をしたと感じる人もいることは事実である。しかし、以前の記事「山本七平『帝王学―「貞観政要」の読み方』―階層社会における「下剋上」と「下問」」などでも書いたように、上司は部下に対して命令するだけでなく、部下が成果を上げるために上司として支援できることはないかと「下問」することがよしとされる。だから、コーチングという言葉が輸入される前から、コーチングを実践していたマネジャーは決して少なくないのではないかと思う。

 もう1つ、アメリカから輸入されたマネジメント手法で私が不思議に思うのは「メンタリング制度」である。今回の研修講師も言っていたが、アメリカ企業では命令一元化の原則が徹底されている。1人の社員が2人以上の上司から命令などを受けることは許されない。ある部下に対して、直接の上司でもない他部門や他チームのマネジャーが、「もっとこうするといいよ」とアドバイスすることは、直属の上司のメンツをつぶすことになる。だが、部下が成長する上で、直属の上司との縦の関係だけでなく、他のマネジャーなどとの斜めの関係も重要であるという研究成果があったことが、メンタリング制度というものを生んだと考えられる。

 日本の場合、コミュニケーション経路が複雑であるから、直属の上司以外にも、普段から色々なマネジャーが何かと面倒を見てくれた。メンタリングという言葉がなくても、メンタリングが実施されていたわけだ。ところが、成果主義が導入されたことで、とにかく自部門の成果を追求しなければならなくなり、組織がタコツボ化した。そこで、組織内のコミュニケーションを活性化する目的で、アメリカのメンタリング制度に注目が集まっているというのが私の見立てである。

2017年02月20日

「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】

このエントリーをはてなブックマークに追加
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

 城北支部青年部(一応、私が部長を務めております)で、「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援」という勉強会を開催した。ある大手企業のCSR部門に勤める若手診断士の先生からの持ち込み企画で実現したものである。「SDGs(Sutainable Development Goals:持続可能な開発目標)」とは、国連が2015年9月25日に全会一致で採択したもので、地球規模の社会的課題について17の目標と169のターゲット(サブ目標)を設定し、2030年までに解決を目指すというものである。17の目標は、上記の図にある通りである。

 国連が民間セクターに社会的課題の解決への貢献を要求するようになったのは1999年のことである(やや語弊があるかもしれないが、国連が自ら社会的課題の解決をすることを諦めた年であるとも言える)。1999年には「国連グローバル・コンパクト」が策定され、「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防止」の4分野において、「人権擁護の支持と尊重」、「組合結成と団体交渉の実効化」、「環境問題の予防的アプローチ」、「強要・賄賂等の腐敗防止の取り組み」など10の原則が掲げられた。その後、2000年に入ると「ミレニアム開発目標」が設定され、「極度の貧困と飢餓の撲滅」、「普遍的初等教育の達成」、「ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」などが2015年までに解決すべき課題とされた。SDGsはミレニアム開発目標の内容を継承したものである。

 グローバル・コンパクトに関しては、賛同する企業、大学、NPOなどが署名する必要があったが、SDGsは企業などが17の目標から好きなものを選択して自由に取り組んでよいことになっている。だから、冒頭の図も国連が著作権フリーでどんどん配布している。国連は、世界でどの程度の組織がSDGsに取り組んでいるのか正確に把握していない。この敷居の低さが、SDGsの一種の”ウリ”である。ただし、国連は17の目標と169のターゲット(ターゲットの中には数値的目標が設定されているものが多い)の達成度合いについて、定期的にモニタリングしている。

 この企画を持ち込んだ先生の勤務先の企業では、自社の全事業について、17の目標とどのように関わっていくのかを総点検したそうだ。例えば、「4.質の高い教育をみんなに」に関しては、提供するソリューションの中に教育関連のものを増やす、「15.緑の豊かさも守ろう」に関しては、先生の勤務先企業が紙を大量に使用する業種であったことから、紙の原料に責任を持つ、などといったことが合意された。ただし、「14.海の豊かさを守ろう」だけはどうしても自社事業との接点を発見できなかった。そのため、CSR報告書では14だけ触れていない。このように、必ずしも全ての目標をカバーする必要はなく、できることから始めればよいというのがSDGsの特徴である。

 企業がSDGsをマネジメント・システムに取り込んでいくには、例えば環境経営の規格であるISO14000のように、一定の標準化が必要なのではないか?という声が参加者から上がった。現在、CSRのマネジメント規格としてISO26000というものがある。ISO26000は国際標準を示したが、実は認証制度を採用していない。結局、CSRのような活動は認証に馴染まないというのがその理由のようである。同様に、サプライチェーンのCSRに関する規格としてISO20400があるものの、これもISO26000同様、国際標準にとどまり、認証の仕組みを持たない。こういう背景から、SDGsを世界的な標準に落とし込むのは困難であろうというのが先生の見解であった。

 SDGsの認知度はまだまだ低い。SDGsを日本に普及させるために、国としては何をすべきか?という点にも話が及んだ。勉強会のメンバーの間では、SDGsの価値観がどちらかというとリベラル寄りであるから、現在の自民党政権では推進が難しく、むしろ民進党との親和性が高いだろうという見解に至った。自民党は経済成長に躍起になっており、社会的課題には見向きもしていないようである。しかし、実は、SDGsは経済成長を実現する1つのツールとして有効であることに気づくべきだとの意見が出た。また、行政レベルでも、経済産業省のコミットメントがもっと必要だという指摘もあった。現在、SDGsを紹介しているのは外務省のHPであり、経済産業省のHPではSDGsについて一言も触れられていない。これが縦割り行政の弊害というものだろうか?

 一方で、SDGsは、国連が全会一致で採択したとはいえ、西洋のリベラルな価値観の押しつけになるのではないかと危惧する声もあった。地球温暖化のように、それが悪化すれば人類に被害が及ぶことが明らかな課題については、世界的な合意も形成しやすいだろう(その地球温暖化でさえ、アメリカが懐疑的な姿勢を示しているが)。しかし、例えば貧困の問題1つを取って見ても、169のターゲットの最初に「2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困をあらゆる場所で終わらせる」とあるが、1日1.25ドル未満で生活すること=貧困と見なすことが適切かどうかは議論が分かれるところである。

 勉強会のメンバーの中に、ハイチで仕事をしたことがある先生がいた。ハイチでは1日1ドル程度で生活する人が多いが、彼らは別に食べ物に困っているわけでもなく、幸せそうに生活しているとのことだった。貧困かどうかは、絶対的な基準ではなく、その国の歴史的・文化的・社会的背景などによって決まる。ところで、17の目標と169のターゲットをよく読むと、歴史、文化、観光遺産といった項目は一切入っていない。これらの項目を入れると、各国固有の価値観の問題が絡んできて世界的な合意形成ができないから、用意周到に外されたのではないかと思われる。

 中小企業がSDGsを取り入れるためにはどうすればよいか?というのが今回の勉強会のメインテーマである。SDGsは自社ができることから取り組めばよいと書いたが、逆に言えば、「自社ができそうもないことには簡単に手を出すな」ということになる。ピーター・ドラッカーは半世紀以上も前から社会的責任について言及していたが、必ず「自社と無関係な活動にまで取り組むのは、むしろ無責任である」と警告するのを忘れていなかった。

 もう1つ重要なのは、「自社が利益を上げた時だけその剰余金でSDGsに取り組むという態度は望ましくない」ということである。フィランソロピー(寄付金)であればそれでよいかもしれない。しかし、SDGsは日本中、いや世界中で社会的ニーズを抱えた多数の人々を巻き込むものである。利益が出なかったからと言って活動を打ち切ると、社会的ニーズを抱えた人々は途端に窮地に陥る。また、自社とともに社会的ニーズの充足に取り組んできたパートナーにも迷惑がかかる。SDGsは自社の事業やサービスの一環として取り組む必要がある。事業やサービスに深くSDGsを組み込めば、一時的に利益が出なかったからと言ってSDGsの取り組みを止めることはできなくなる。そして理想は、経済成長と社会的ニーズの充足を両立させることである。

 中小企業がSDGsに取り組むイメージをつかむために、「日本理化学工業」を題材とした簡単なディスカッションを行った。同社は、坂本光司教授の『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの最初に登場する企業である。ダストレス・チョークの生産をメインとしており、何よりも特筆すべきなのは、社員約80名のうち、約60名が知的障害者であるという点である。これだけでも、SDGsのうち「8.働きがいも経済成長も」や「10.人や国の不平等をなくそう」などに取り組む先進的な企業であるが、さらにSDGsに取り組むにはどうすればよいかというお題で議論を試みた(同社の事業環境を十分に理解せず、机上のみで議論したことをご容赦いただきたい)。

 あるグループは、同社が知的障害者でも製造ラインで作業ができるように独自の作業標準化を行っている点に注目した。こうした作業標準化のノウハウを新興国・途上国の中小企業に輸出し、製造ライン立ち上げのコンサルティングを行うことを提案した。これは、SDGsの中で言えば「8.働きがいも経済成長も」や「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」と関連する。また、新興国・途上国で雇用が創出されれば、「1.貧困をなくそう」という目標にも貢献する。

 別のグループでは、国内のチョーク市場が縮小傾向にあることを踏まえ、海外でチョークの需要を創造するために、新興国・途上国で学校の増設・運営に携わることを提案した。これは、SDGsの中で言うと「4.質の高い教育をみんなに」、「5.ジェンダー平等を実現しよう」、「10.人や国の不平等をなくそう」と関連する。さらに、学校で給食を出せば「2.飢餓をゼロに」にもつながる。教育水準が上がるとより賃金の高い仕事に就ける可能性が高まるので、「1.貧困をなくそう」にも貢献するであろう。ただし、同社は学校をマネジメントするノウハウは有していないだろうから、パートナーを探す必要がある(「17.パートナーシップで目標を達成しよう」と関連)。

 「充足するニーズが経済的ニーズか社会的ニーズか?」、「ニーズを充足する手段が経済的か社会的か?」という2軸でマトリクスを作ると、企業を4つのタイプに分けることができる。最も数が多いのは、「経済的ニーズを経済的な手段で充足する」というタイプである。ここから企業のCSRの度合いを高めていくには、「経済的ニーズを社会的な手段で充足する」もしくは「社会的ニーズを経済的な手段で充足する」に移行していくことになる。

 「ニーズを経済的な手段で充足する」とは、製品・サービスを製造・販売するために必要な資源(ヒト、モノ、カネ、情報、知識)を、より安く、より早く調達することである。さらに、これらの資源について、よりよいものをよこせと注文をつけることである。端的に言えば、QCDを短期的に追求することだ。経済性を求める企業がQCDにこだわるのは当然である。ところが、あまりに近視眼的な調達を行うと、資源が再生産されるスピードを資源を消費するスピードが上回ってしまい、中長期的には資源の調達が不可能になる。そこで、資源の消費と再生産のスピードのバランスを取る必要がある。これが「ニーズを社会的な手段で充足する」の意味するところである。

 「経済的ニーズを社会的な手段で充足する」というタイプの代表例としては、ダノンとグラミン銀行の提携が挙げられる。ダノンは、グラミン銀行のマイクロファイナンスの仕組みを活用して、新興国・途上国でヨーグルトを販売した。具体的には、マイクロファイナンスによって、現地の乳牛飼育者の経営を支援し、ヨーグルトの戸別訪問販売員を育成した。こうして、とかく新興国・途上国で課題となりがちな、原材料の安定供給と販売チャネルの開拓をクリアすることができた。さらに、ヨーグルトの生産を現地化することで、雇用の創出にも貢献した。

 「経済的ニーズ」とは、先進国に住む我々が一般的に「あれがほしい」と思う時のニーズのことである。これに対して「社会的ニーズ」とは、先進国の一般人のレベルから見て、人間らしく生活するのに十分なニーズが満たされていない人たちが求める根源的なニーズのことであり、衣食住、健康、医療、教育に関連するものが多い。「社会的ニーズを経済的な手段で充足する」タイプの代表例としては、住友化学の「オリセットネット」がある。オリセットネットとは、マラリア対策の蚊帳である。アフリカではマラリアを治療する十分な医薬品を得ることができない。そこで、マラリアを媒介する蚊をいかに排除するかが課題となる。オリセットネットは、網に蚊よけの薬品が練りこんであり、家に取りつけるだけで十分である。そして、医薬品よりはるかに安価である。

 最も進んだCSRとは、「社会的ニーズを社会的手段で充足する」というタイプである。もちろん、経済的な成長を犠牲にして社会性を優先しているわけではなく、企業としての利益も確保する。この時、マイケル・ポーターが言うCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)も達成される。今後、このような事例が増えてくるに違いない。
 【城北支部青年部のご紹介】
 東京都中小企業診断士協会 城北支部には「青年部」があります。主に支部入会後間もない先生(概ね5年以下)を対象に、2か月に1回のペースで勉強会や懇親会を行っています。「支部に入ったものの何をすればよいか解らない」という声をよく聞きますが、まずは青年部の活動を覗いていただければと思います。ここで人脈作りをして、支部内の各部に入部するもよし、研究会や各区会に入るもよし、「城北プロコン塾」に入塾するもよし、青年部をきっかけとして支部内での活動領域を是非広げてください。

 青年部では、他の勉強会や研究会と異なり、若手診断士にとって興味のありそうなテーマや、今回のように若手診断士からの持ち込み企画で勉強会を実施しているのが特徴です。ご興味のある方は、城北支部メーリングリストで配信される青年部のお知らせをご参照いただくか、本ブログのお問い合わせフォームよりご連絡ください。


2016年12月26日

ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』(セミナーメモ書き)

このエントリーをはてなブックマークに追加
バンコク・カオサンロード

 (※)バックパッカーの聖地、タイのカオサンロード。

 日本アセアンセンター主催のセミナー「ASEAN新著の著者が語る『検証:ASEAN経済共同体の創設―サービス、金融、運輸・交通』」に参加してきた。以下、セミナー内容のメモ書き。

ASEAN経済共同体の創設と日本ASEAN経済共同体の創設と日本
石川 幸一 清水 一史 助川 成也

文眞堂 2016-11-20

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 《Ⅰ.サービス》
 (1)まず、サービス貿易には4形態があることを押さえておく必要がある。
 <第1モード>
 【国境を越える取引】
 いずれかの加盟国の領域から他の加盟国の領域へのサービス提供。
 《例》A大学(日本)がB大学(タイ)に対してオンライン授業を実施し、B大学の学生がタイでそのオンライン授業を受講する。

 <第2モード>
 【海外における消費】
 いずれかの加盟国の領域内におけるサービスの提供であって、他の加盟国のサービス消費者に対して行われるもの。
 《例》A大学(日本)にB大学(タイ)の学生が訪問し、A大学の講義に参加する。

 <第3モード>
 【業務上の拠点を通じてのサービス提供】
 いずれかの加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって、他の加盟国の領域内の業務上の拠点を通じて行われるもの。
 《例》A大学(日本)がタイにA大学分校を設立し、タイの学生に対して講義を実施する。

 <第4モード>
 【自然人の移動によるサービス提供】
 いずれかの加盟国のサービス提供者によるサービスの提供であって、他の加盟国の領域内の加盟国の自然人の存在を通じて行われるもの。
 《例》A大学(日本)がB大学(タイ)に教師を派遣し、B大学で講義を実施する。

 各モードに関する規制緩和は以下の通り。
 ①第1モード、第2モードについては制限を撤廃。ただし、善意に基づく規制理由(公共の安全など)は例外とする。
 ②第3モード(外国(ASEAN)からの資本参加の容認)については次の通り。
 a)4優先サービス分野については、2008年までに51%以上、2010年までに70%の外資参加を容認。b)物流サービス分野については、2008年までに49%、2010年までに51%、2013年までに70%の外資参加を容認。c)その他のサービス分野については、2008年までに49%、2010年までに51%、2015年までに70%の外資参加を容認。その他の第3モード市場への参入制限を2015年までに段階的に撤廃。

 (2)第3モードの外資出資比率緩和スケジュールは、次のように進行した。
 <第7パッケージ(目標終了期限=2008年経済相会議)>
 優先統合分野(29)は51%、ロジスティクス分野(9)は49%、その他サービス(27)は49%(つまり、外資がマジョリティを獲得できるのは優先統合分野のみ)。

 <第8パッケージ(目標終了期限=2012年経済相会議)>
 優先統合分野(29)は70%、ロジスティクス分野(9)は51%、その他サービス(42)は51%(第3モードの全ての分野において、外資のマジョリティ獲得が可能となった)。

 <第9パッケージ(目標終了期限=2013年経済相会議)>
 ロジスティクス分野(9)は70%、その他サービス(66)は51%(ロジスティクス分野の外資出資比率の上限が70%まで引き上げられた。また、その他サービスの対象分野が増加した)。

 <第10パッケージ(目標終了期限=2015年経済相会議)>
 その他サービス(90)は70%(その他サービスの対象分野が増加し、かつ外資出資比率の上限が70%まで引き上げられた)。

 (3)ASEAN各国の第9パッケージの履行状況だが、自由化対象業種のうち、当該業種全てにおいて自由化が進んでいる業種の割合が約半数に及ぶ(=自由化が進んでいる)のはインドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムである。一方、自由化が当該事業の一部にとどまる業種の割合が高い(=自由化が遅れている)のはタイ、フィリピンである。

 サービス種類別に第3モードの自由化の状況を見ると、比較的自由化が進んでいるのは、実務、通信、建設および関連エンジニアリング、流通、教育、環境、金融、観光・旅行サービスである。一方、健康関連・社会事業、娯楽・文化・スポーツ、運送サービスは自由化が遅れている。

 (4)ASEANのみに出資比率が緩和されている事業がある。例えば、インドネシアでは、「森林地域内でのエコツーリズム施設、活動、サービス事業の形態によるネイチャーツーリズム事業」について、外資の出資比率上限を51%としているが、ASEAN企業に限っては出資比率の上限を70%まで引き上げている。ただし、ASEAN企業の定義は明確になっていない。ASEANの法に基づく、ASEANで実質的にオペレーションをしている、ASEANで5年以上事業を継続しているなどの条件が想定されるが、最終的には各国政府の判断に委ねられると考えられる。

 《Ⅱ.金融》
 (5)ASEANの金融統合の中心分野としては、以下の3つが挙げられる。
 <①金融サービスの自由化>
 銀行、証券、保険など金融機関がASEAN域内での活動を自由にすることを目指す。具体的には「ASEAN銀行統合枠組(ABIF)」により、平等なアクセス、待遇、環境を確保する。ABIFに基づく「適格ASEAN銀行」の認定を進める。また、「ASEAN保険統合枠組(AIIF)」は保険業界の自由化を目指しており、消費者の選択肢の増加に資する。

 <②資本取引の自由化>
 域内各国間での規制緩和による経常取引、海外直接投資、証券投資などの資金フローの自由化を目指す。具体的な取り組みとしては「資本取引自由度ヒートマップ」の作成が挙げられる。証券投資および他項目の流入・流出資本フローや対内および対外の直接投資などの指標に基づいて、各国の目標達成度合いをモニタリングするツールである。

 <③資本市場の発展>
 ASEANの様々な資本市場間でのクロスボーダーの協力実現を目的とする。金融機関に関する監視の能力を含む能力開発とインフラ整備に主眼が置かれており、相互認証、ルール・規制の調和を目指している。具体的な取り組みとしては、「ACMF(ASEAN Capital Market Forum)」が挙げられる。③については、マレーシア、タイ、シンガポールの3か国が先行して進めている項目が多く、①②に比べると具体的な成果が多い。

 (6)(5)の取り組みに対して、外部機関は概ね肯定的な評価をしている。ERIA(東アジア・ASEAN研究センター)は、域内金融の安定化と2020年までの銀行セクターの多国間の自由化はゆっくりだが着実に進展していると述べている。しかし、ASEAN各国の金融市場の発展段階、経済構造、優先度は多様であり、金融・資本分野統合の前提条件を整えるのはチャレンジングであるとも指摘している(2014年)。また、IMFは、「物事をゆっくり、着実に進める」という「ASEAN WAY」にも理解を示しており、一連の取り組みはASEANの経済成長、1人あたりの所得増に寄与していると評価している(2015年)。

 (7)ASEANの今後の課題としては大きく2つある。1つ目は、「資本取引自由度ヒートマップ」の精緻化である。ASEAN各国が自己評価した結果によると、ラオス、ミャンマーを除き自由化が相応に進捗している印象を受ける。ところが、この結果は、ERIAやIMFの評価と差がある。ASEAN各国の自己評価に頼っていることが影響していると考えられる。ASEAN共通の評価基準を明示し、客観的なスコアリングを行う必要がある。

 2つ目の課題は、域内国通貨間の為替レートの安定化である。各国の独立した金融政策の維持を前提とする場合、域内通貨間の為替レートのより柔軟な変動を許容しなければならない。ここで、ASEAN各国の現状の経済発展段階の違いを踏まえると、現時点でEUのような共通通貨を想定するのは困難である。しかし、域内通貨間の為替レートの安定に向けた取り組みの整理・検討が将来的には必ず必要となる(必ずしも共通通貨である必要はない)。

 《Ⅲ.運輸・交通》
 (8)AEC2025ブループリントでは、交通・運輸に関して連結性を実現するとある。「物理的連結性」(=ハード。陸上、海上、航空運輸。内陸水運、島嶼間リンク、インターモーダル輸送)は比較的進んでいるが、「制度的連結性」(=ソフト。交通、運輸の円滑化。物品貿易の自由化。国境手続きの円滑化)はやや遅れている。ASEANの交通プロジェクトは、越境交通に注力しているという特徴がある。他方、日本からの支援は都市交通の整備を主眼としている。しかし、越境交通の需要はまだ比較的小さく、長距離鉄道はBtoBでほとんど使われていないことから、整備が長期間に渡って停滞している。

 (9)陸上交通のフラッグシッププロジェクトは、①ASEANハイウェイ(AHW)の完成と②シンガポール―昆明鉄道(SKRL)主線の建設と支線の建設完了の2つである。①に関しては、ミャンマーにミッシングリンクが存在しており(=ミャンマーに悪路が多い)、その解消が課題となっている。②に関しては、既存の鉄道をどのようにアップグレードするかが1990年代から続く課題である。ASEAN各国は、GMS越境交通協定(CBTA)には2007年に加盟しているが、交通円滑化協定(AFAFGIT・AFAMT・AFAFIST)の批准は進んでいない

 (10)海上交通の主なテーマは、①ASEAN海運単一市場(ASSM)と②RoRo船の優先航行ルートの実現である。ただし、①は難航しており、AEC2015ブループリント、AEC2025ブループリントともに記載がない。一方、RoRo船は短距離輸送に向いており、需要も高いことから、整備が進んでいる。航空交通は例外的に進捗している領域であり、航空協定(MAFLAPS、MAAS)は全てのASEAN加盟国が批准している。いわゆる「9つの自由」のうち、5つまでが実現している。


  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like