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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年10月24日

DHBR2017年10月号『グローバル戦略の再構築』―日本の中小製造業がこれから海外進出する際の5つのポイント


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 10 月号 [雑誌] (グローバル戦略の再構築)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 10 月号 [雑誌] (グローバル戦略の再構築)

ダイヤモンド社 2017-09-08

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 本号にはホンダの八郷隆弘代表取締役兼CEOのインタビュー記事が掲載されていた(八郷隆弘「需要地生産の理念と収益性を両立させるホンダの要諦 ローカルで愛され、グローバルで儲ける」)。ホンダは、創業者である本田宗一郎の「需要のあるところで生産する」というモットーに従って、世界6極体制(日本、中国、アジア・オセアニア、ヨーロッパ、北米、南米)を構築してきた。つまり、中国の自動車は中国で、ヨーロッパの自動車はヨーロッパで生産するという体制である。ところが、昨今は世界経済が不安定になり、各地域の需要変動が大きくなりつつあるため、例えばアジア・オセアニアで生産した自動車を南米に持っていくなど、生産能力をグローバル規模で調整し、融通し合うことを検討しているという。ただ、これは海外進出の歴史が長い大企業だからこそ直面している課題であり、また解決可能な課題であると言えよう。

 私は一応中小企業診断士なので、これから海外に進出することを検討している中小企業、特に中小製造業に向けて、今回の記事を書いてみたいと思う。製造業に注目しているのには理由がある。本号にも書かれている通り、製造業はサービス業と違い、規模の経済によって生産性を大きく向上させることができる。しばしば言われるように、昨今の深刻な経済格差を解消するには、生産性向上がカギを握っている。また、製造業には雇用の乗数効果がある。製造業の雇用を1創造すると、サービス業の雇用が1.6創造されるという。「自動車組立工場を作ると隣にウォルマートが来る。だが、ウォルマートができても自動車組立工場は来ない」という言葉もある(アイリーン・ユアン・サン「産業革命の次なる舞台 ”世界の工場”は中国からアフリカへ」より)。

 私は決してサービス業を軽視しているつもりはない。しかし、製造業は様々な機能、職能、技術の複雑な集合体であり、その経営には高度な知識とノウハウが必要とされる。よって、製造業に強い国こそが世界で高い競争力を持つと思っている。アメリカやドイツが第4次産業革命、インダストリー4.0を掲げているのは至極真っ当なことだと思う。製造業が凋落したからと言って、金融業にシフトしたイギリスがますます落ち目になってしまったのとは対照的である。最近の日本では、スマートフォンのゲームアプリで何百億円もの売上高を上げたとか、Youtuberが1億円を稼いだといったことばかりが話題になるが、私が見たい未来はそういう未来ではない。

 今回の記事では、これから海外進出する中小製造業が注意すべきポイントを5つ挙げる。1つ目は、海外市場で売れる「最終製品」を開発することである。日本の中小製造業は、最終製品を組み立てる大企業の下請として、各種部品を製造しているところが多い。しかし、大企業の工場は今や海外に移転してしまった。さらに、大企業はコスト削減のために現地のサプライヤーと新たな関係を構築している。日本に残された中小製造業が、後からその関係に割って入ることは難しい。そこで、今まで部品製造で培ってきた技術を活用して、海外市場向けの最終製品を作る。これは、アンゾフの成長ベクトルで言うところの「多角化戦略(新しい製品を新しい顧客に提供する)」に該当し、最もリスクが高いが、中小製造業が生き残るにはこれしかない。

 日本企業は、顧客に直接会い、顧客の声に耳を傾け、ニーズを丁寧に拾い上げて製品に反映させる能力に長けていると思う。アメリカ企業が大量のデータを駆使して統計的に顧客のニーズを分析したがるのとは対照的である。本号でも、海外、特に新興国では「プッシュ型戦略(企業が売りたい製品を顧客に売る戦略)」ではなく「プル型戦略(顧客を企業側に引きつける戦略)」が有効とされている。具体的には、①顧客が直接表明する怒り、いらだち、不安、苦痛を理解する、②顧客が代替品で何とかやりくりしている問題に着目する、③顧客が法律を歪曲して対応している問題に注目する、といった手法が挙げられている(クレイトン・クリステンセン他「潜在的なニーズをいかにつかむか 市場創造型イノベーション:アフリカを開拓する新手法」より)。

 中小製造業が、日本で製造していた部品と同じ部品を海外で安く製造するのではなく、全く異なる最終製品を海外で製造するのにはメリットがある。ある中小企業は、取引先の親会社からの要請に基づいて、コストダウンのために国内工場の一部を海外に移転させた。海外では何とかコスト削減に成功したが、その後親会社はとんでもないことを要求してきた。「海外でこれだけ安く作れるのだから、御社が国内で我々の日本本社に納めている部品についても、同じ価格で納品してほしい」。親会社が海外でその中小企業の海外子会社から購入している部品と、親会社が日本でその中小企業の日本工場から購入している部品は同じなのだから、親会社の要望は解らなくもない。ただ、中小企業にとっては、とても対応できる問題ではない。もしも国内と海外で別々の製品を製造していれば、こういうリスクは回避することができる。

 本号にはアフリカに関する論文がいくつか所収されていた。アフリカのリスクは、①賄賂・汚職が蔓延している、②インフラが未整備である、③能力を持った人材が欠如している、④(BOP理論で増加が予想されていた)中間層が育っていない、といったことが挙げられる。ただし、これらは程度の差はあれ、アジアの新興国にも該当することである。特に①~③の問題に対処するために、できるだけ自前主義をとるという方策がある。これが2つ目のポイントである。

 前掲のクレイトン・クリステンセン他論文では、ナイジェリアで「インドミー」というインスタント麺の製造・販売を行うドゥフィル・プリマ・フーズ(インドネシアのトララム・グループ傘下の企業)の事例が紹介されている。新興国では、原材料の横流しや、仕入先への賄賂などが頻発する。同社はこうした不正を防ぐために、外部のパートナーに頼らず、自社で原材料から製造することにした。また、ナイジェリアはインフラが未整備で工場の稼働に支障をきたしていたため、同社は電力・水道事業にも着手した。さらに、製品を納品するために、自前のトラックを活用したサプライチェーンを構築し、流通倉庫や小売店も設けた。加えて、ナイジェリアの学校を好成績で卒業した人材を採用し、自前の研修を通じて電気工学、機械工学、ファイナンスなどを教えている。

 ただ、日本で部品製造に特化し、業界のバリューチェーンの一部を占めるにすぎなかった中小製造業が、海外でいきなりバリューチェーンの全部を構築するのはハードルが高い。どうしても現地企業をパートナーとして活用せざるを得ない。そこで、川上や川下のプレイヤーに対して、強いパワーを発揮することが重要となる。原材料メーカーには、高いレベルの品質マネジメントシステムを導入してもらう。そして、定期的に工場の内部監査を行い、5Sが徹底されているかといった基本事項から始まり、高品質と低コストを両立させる製造ラインが整備されているかを直接目で見て確認する。販売店・代理店に対しては、厳しい与信管理を行い、きめ細かく業績管理をする。そして、必要に応じて契約内容やインセンティブを見直す。さらに、川上・川下の両プレイヤーに対して共通することだが、現地パートナーの人材育成に積極的に力を貸すことである。

 日本で新規事業を立ち上げる際には、顧客の生の声を吸い上げると同時に、各種機関が公表している統計データや、市場調査会社から得られる情報に基づいて、緻密な事業戦略を構想することが可能である。ところが、海外の場合は、信頼できる客観的なデータが入手できないことが多い。したがって、厳密なフィージビリティ・スタディは困難である。だから、最後は経営者の直観に頼る部分が大きくなる。ただ、1つだけ明確に決めておくべきことがある。それは「撤退基準」である。撤退基準をはっきりさせておくことが3つ目のポイントである。例えば、「進出後○○年後の累積赤字が△△円になったら撤退する」といった具合である。海外進出で失敗する企業を見ていると、撤退基準を設定しておらず、ずるずると赤字を垂れ流しているのに、「いつか事態は好転するだろう」と楽観視して、結局膨大な負債を抱えてしまう、というケースが少なくない。

 日本の新規事業がそうであるように、海外の新規事業も最初の数年間はほぼ間違いなく赤字になる。日本本社は、海外事業が軌道に乗るまでは、その赤字を補填しなければならない。補填可能な金額が撤退基準であると言えるだろう。海外事業の赤字を補填するためには、日本本社の利益を上積みする必要がある。逆説的なことだが、日本の市場が飽和状態であるから海外に進出するのに、海外事業を成功させるには日本の事業を拡大させなければならないのである。ただし、1つ朗報がある。『通商白書2012』によると、海外での売上高が増加している企業のうち、約5割が国内の売上高も増加しており、海外での売上高が減少している企業のうち、約6割が国内の売上高も減少している。つまり、海外売上高と国内売上高はトレードオフの関係というより、同じ方向に動く傾向が高いことが解っている。

 化学薬品商社である「江守グループホールディングス」は、福井市で100年以上続く名門商社であったが、2015年4月に民事再生法を適用した。同社は2000年代に入ってから中国に進出し、中国事業を積極的に拡大していた。中国事業の売上高は、日本事業の売上高をはるかに上回るまでに成長した。ところが、実は中国子会社では架空売上の計上など粉飾決算が日常的に行われており、実態は大幅な赤字であった。中国事業の実際の累積赤字が発覚すると、その額があまりにも大きすぎたため、日本本社でカバーすることができず、最後は倒産してしまった。これは、中国子会社のガバナンスが機能不全に陥っていたことと、撤退基準が明確でなかったことが重なって引き起こされた悲劇であると言えるだろう。

 4つ目のポイントは、一度ある国に進出したら、中長期的にその国にコミットメントするべきだということである。コスト削減を目的に進出する日本の大企業は、現地の賃金が上がると、すぐにもっと労賃の安い国に工場を移す傾向がある。大企業には余剰資源と体力があるから、それも可能である。しかし、中小企業にとっては、工場を頻繁に移動させることは難しい。一度その国に進出したら、10年、20年はその国でビジネスをする腹積もりでいなければならない。

 アジアの新興国では、政治家の人気取り政策によって、最低賃金が毎年10%以上上がるということも珍しくない。それに耐えられない大企業はすぐに他の国に移ってしまう。だが、これは見方を変えると、最低賃金が上がる分だけ、その国の人々の生活水準が上がるということでもある。今、この記事では、中小製造業が現地で売れる最終製品を製造・販売することをテーマとしている。現地の生活水準が上がったら、今度はより高付加価値製品にシフトしていく。今、新興国で何が売れるのか解らないわけだから、将来的にどんな高付加価値製品が売れるようになるのかを予測することは不可能に近い。しかし、新興国に進出する以上は、長い目で見た時に高付加価値製品にシフトすることも視野に入れておくことが肝要である。

 最後のポイントは、4つ目のポイントとも関連するが、進出先の国の発展に貢献するのだという意気込みを持って進出しなければならないということである。本号には、新興国で電気バイク、電気三輪車を製造・販売するテラモーターズの代表取締役社長である徳重徹氏の記事があった(徳重徹「テラモーターズは失敗から学ぶ 新興国で勝ち残る5つの鉄則」)。これによると、新興国企業のリーダーは非常に愛国心が強いという。そして、社会的意義の高い事業を行おうとしている。日本の中小製造業は彼らと競争することになる。国内市場が頭打ちだから、何となく海外の方が稼げそうだからといった生半可な気持ちで進出すると手痛い目に遭う。

 ただ個人的には、「採点審査に困る創業補助金の事業計画書(その6~10)」でも書いたように、事業の社会的価値を強調しすぎるのもいかがなものかと感じる。大言壮語でビジョンを語られると、かえって胡散臭さを感じてしまう。進出先の国の”全国民”を豊かにするといった類のビジョンは、私はかえって邪魔だと思う。それよりも、経営者が直接観察して発見した、先進国なら当然存在する製品・サービスが欠けているために困っている人たちを助けたいという”リアルな”思い、経営者が雇用したローカル社員に少しでも高い給与を払って彼らの生活レベルを上げたいという”リアルな”思いの方がはるかに重要である。そして、以前の記事「『致知』2017年10月号『自反尽己』―上の人間が下の人間に対してどれだけ「ありがとう」と言えるか?、他」でも書いたように、「この国で事業をさせていただいている」という謙虚な姿勢を忘れないことである。

 新興国は国策として外国からの投資を呼び込んでいる。よって、新興国に進出する中小製造業は、政府や行政と良好な関係を構築することが必要になる。『コークの味は国ごとに違うべきか』の著者であるパンカジュ・ゲマワットは、本号の論文で、現在各国で問題になっている収入格差を解消するために、政府は保護主義ではなく、セーフティーネットの整備、最低賃金の引き上げ、税制改革、職業訓練などを施すべきであり、企業がこれらの政策の支持を表明すれば大きなメッセージになると述べている(パンカジュ・ゲマワット「多国籍企業は混乱の中でどこに向かうべきか トランプ時代のグローバル戦略」より)。

 ただ、これはどちらかというと大企業向けの提言であり、中小製造業が実施するには困難が伴う。中小製造業は身の丈に合った形で政府の政策に協力し、社会的責任を果たせばよい。例えば、繰り返しになるが、最低賃金すれすれの賃金ではなく、社員にとって魅力的な賃金を支払うこと、また、社員に対して十分なトレーニングを実施し、能力の向上に貢献することなどである。これらの取り組み1つ1つは小さなものかもしれないが、日本の多くの中小製造業が新興国に進出するようになれば、確実にその国の発展に貢献する。


2017年08月26日

【海外】タイビジネス最新情報―銅とアルミには気をつけよう


タイ国旗

 タイの最新情報について、様々な人から聞いた話のまとめ。

 ・タイの失業率はここ数年ずっと1%を切っており、最新のデータでも0.7%である。しかし、バンコクを歩いていると日中からブラブラしている男性をたくさん見かけるので、とても失業率が0.7%とは思えない。日本の内閣府が、タイの失業率がなぜ低いのか調査したものの、原因は不明であった。タイ政府の数字を当てにしない方がよい。肌感覚だと、失業率は3%ぐらいである。タイは失業率が低く採用が難しいと言われているが、実際にはそれほど採用では苦労しない。

 ・タイの実質GDP成長率は3.2%、物価上昇率は0.2%であり、経済の成長が鈍化している。ところが、賃金に関しては、物価上昇率が5%だった2008年に賃金を5%上げる企業が多かったため、その流れで現在でも賃金上昇率は5%にしなければならないという雰囲気がある。

 ・タイでは北部の農村部に支持基盤があるタクシン派と、都市部、軍隊、中間層を支持基盤とする反タクシン派が対立しており、しばしばクーデターが起きるので、危険な国というイメージが強い。しかし、実際には無血クーデターであり、政治は混乱していても経済は普通に回っている。前国王であるラーマ9世(プーミポン国王)は、タクシン派と反タクシン派の代表者を呼びつけて双方をなだめる役割を担っていたことから、国民からも高く支持されていた。

 ところが、現在のラーマ10世(ワチラロンコーン国王)は、国民の評判がすこぶるよくない。まず、国民の前に出て話をしている映像が存在しない(タイの映画では、冒頭に国王の動画を入れるのが普通であるが、ラーマ10世の場合は静止画しかない)。身体には刺青を入れており、ドイツにいる愛人のところへ足繁く通っている。「国民が選挙をすると汚職する人ばかり選ばれるから、選挙はやらない方がよい」とfacebookで発言し、慌てて政府が火消しに走ったこともあった。それでも、タイには不敬罪がある関係で、国民は国王のことを悪く言うことができない。

 ・タイでは、少子高齢化と大学進学率の上昇により、建設・工場における肉体労働者や飲食サービス業のスタッフが不足している。不足分は、周辺国のミャンマー、カンボジア、ラオスからの出稼ぎ労働者が担っている。ただ、タイ人はプライドが高く、周辺国の人々を見下す傾向があり、工場では周辺国の人と仲良くできない。不足しているのは肉体労働者やサービス労働者だけはない。大卒のエンジニアや日本語通訳も不足している。大卒のエンジニアは英語が話せる人、日本語通訳は日本語検定1級に合格している人のニーズが高い。日本語検定1級に合格している通訳は、月給6万バーツ(約18万円)でも採用ニーズがある。しかし、現実的には1級合格者が少ないため、3級合格者を採用して訓練する企業もある。

 ・日本は資金調達がしやすい国であるが、タイでは資金調達が非常に難しい。審査が厳しい上に担保主義が根づいている。また、日本の信用保証協会に相当する機関がない。「1,000万バーツ貸してほしい」と金融機関に言うと、「1,000万バーツを現金で用意せよ」と要求されるのがタイである。こうした事態を改善するために、2016年に「事業担保法」が成立したものの、金融機関の対応に変化は見られない。「法律は立派でも機能しない、運用できない」ことがタイではしばしば起こるが、事業担保法はその典型である。タイでは、業歴5年以上の企業が6割であり、業歴が浅い企業は生き残ることが難しい(日本の場合、『中小企業白書』によると、業歴5年以上の企業の生存率は82%である)。結局、信用力のある財閥にお金が集まり、信用のない中小企業にはお金が回ってこないというのが現状である。

 ・タイ企業のほとんどは同族企業である。日本には「3代目が企業を潰す」という言葉があるのに対し、タイでは3代目がどんどん企業を発展させている。これは、タイには相続税、固定資産税がないからである。厳密には、相続税については2016年2月から開始されているのだが機能していない(建前上、1億バーツ以上の相続に対して10%の相続税)。また、固定資産税に関しても2017年8月から施行されることになっていたが、翌年に先延ばしされた。

 ・日本企業は、タイのローカル企業といきなり新規取引をして、債権回収不能に陥るケースが多い。新規取引をする際には、相手企業の信用調査が必須である。タイでは、商務省が全ての企業の決算書を保有しており、多少テクニックは必要であるが、通訳を連れていけば決算書を閲覧することができる。また、概要レベルであれば、商務省のHPで見ることが可能である。

 これ以外に、タイの信用調査で気をつけるべき点は以下の2点である。まず、①華人系の企業の場合、子どもの間で企業を分けることがある。よって、単体の企業ではなく、グループ全体を調査した方がよい。次に、②裏に軍隊、警察、政治家、公務員がいないかを確認する。法人登記簿を取得すると、株主、役員の情報を取得することができる。株主や役員に軍隊、警察、政治家、公務員がいる場合は要注意である(なお、政治家だけは役員になることができない)。

 ・タイ子会社の不正に関して一番多い相談は、「購買担当者が仕入先からキックバックをもらっているかもしれない」というものである。最近は、購買担当者にATMカードを渡すという手口が増えている。タイでは、日本と異なり、通帳には振込人名が印字されないから悪用されやすい。しかし、実際にキックバックが行われていることを立証しようとすると、①キックバックを行っている場面の写真、②キックバックを行った時の音声、③渡した人と受け取った人の供述が必要であり、立証はまず不可能である。企業にできることと言えば、「最近、キックバックが行われているらしい」という噂を社内に流して、購買担当者を自主退職に追い込むことぐらいである。

 ・製造業では、価値のある製品、油、原材料(銅、アルミ、貴金属)、市中で転売が利く完成品(家電、タイヤ、アフターマーケット製品)が横領されやすい。99%は内部の組織犯である。まずマネジャーがヘッドとなり、アシスタントがコーディネーター役となって、各種書類の操作や関係者の調整を行う。運送業者・廃棄物処理業者を持ち出し役、警備員を見逃し役とし、あとはキャッシュ化する役の人を決めておけば、横領は発覚しにくい。また、原材料を注文したのに工場に入ってこないこともある。この場合は、購買担当者、検収担当者、運送業者が結託している。

 ・家電のように金や銀を使う場合は倉庫管理が必須である。それでも、金庫ごと盗まれることがある。そのため、倉庫をさらに柵で囲うなど、二重、三重の管理が必要である。地金でないプラチナも在庫から消えることがある。地金でないプラチナは換金しにくいから盗まれないと思ったら大間違いである。在庫管理の甘さを放置しておくと、さらなる不正につながる恐れがある。

 ・ワーカーをたくさん抱える企業では、賭博、麻薬、闇くじ、金貸し、社内売買に注意が必要である。企業に対する直接的な損害はないが、社内の不正行為を放置することになる。また、これらの行為にはお金がかかるため、横領や窃盗につながりやすい。これらの行為が工場で蔓延するのは、ワーカーという顧客が多いこと、顧客の顔が見えやすいこと、工場には警察が入ってこないこと、市中より高い価格で売れること、などが挙げられる。なお、金貸しとは、社員から集めたお金を原資とし、金利10%程度で社員に貸す互助会のようなものである。ある月はAさんが親になって社員に貸す、翌月はBさんが親になって社員に貸す・・・というのを繰り返す。問題なく返済が行われている間はよいが、途中でしくじる社員が出てくるとトラブルに発展する。

 ・タイの工場では「ヤーバー」と呼ばれる麻薬が蔓延していることがある。ヤーバーを砕いてアルミの上に乗せ、下から火であぶって煙をかぐ。ヤーバーの体内残留時間はそれほど長くなく、仕事が終わると抜けてしまうので、終業後のチェックでは見抜くことが難しい。ただし、ヤーバーを吸うのはたいていトイレの中であり、ワーカーは使用済みのアルミをトイレの窓の桟に残していることがある。もし、トイレの窓の桟からアルミが見つかったら、麻薬使用の可能性を疑った方がよい(ある企業では、大雨が降ってトイレの管が破裂し、中から大量のアルミが出てきたことがあった。ワーカーが使用済みのアルミをトイレに流していたのである)。

 ・タイ子会社のローカル化は重要な課題であるが、①往々にしてトップになったタイ人がグループ全体の利益よりもタイ子会社の利益を優先し、重要な情報を本社に報告しないというケースがある。この場合の打開策としては、親会社側から積極的にコミュニケーションを図ることに尽きる。また、②トップになったタイ人が好き勝手にしないよう、モニタリングの仕組みを作ることも重要である。ある企業では、トップが勝手に個室を作って個室に鍵をかけ、PCには社内規定に定められていないのに勝手にパスワードを設定していたことがあった。

 ・タイでは日系企業が増加しているとはいえ、現地に派遣される駐在員が皆優秀とは限らない。肌感覚では、駐在員のレベルはここ10年で落ちている。日本本社は、もっと赴任前研修に力を入れて、コミュニケーションの取り方や倫理観、正義感について教育をするべきである。タイ子会社で不正が起きるかどうかは、駐在員のレベルにかかっている。なお、不正防止のために「目安箱」を設けるケースが見られるが、これはあまりお勧めできない。まず、タイ人社員にとっては、書いたところを同僚に見られると仲間外れにされる恐れがあるので、二の足を踏んでしまう。また、タイ語を日本語に翻訳する段階で誰が書いたか解ってしまい、匿名性が担保されない。目安箱よりも、適切な内部通報システムを導入する方が効果的である。

 ・タイも賄賂が多い社会である。身近な例で言えば、新車を購入して仮ナンバーを普通のナンバーに変更する際に、警察に賄賂を渡す必要がある(実際には、ディーラーが賄賂の分をかぶっている)。ドイツ企業は賄賂に関する立ち回りが上手い。具体的に言えば、簿外金庫を作っている。経費の水増しやキックバックなどによって裏金を作り、これを賄賂の原資としている。


2017年08月23日

【海外】インドネシアビジネス最新情報―パンチャシラの精神で統一に向かうインドネシア


インドネシア国旗

 インドネシアの最新情報について、様々な人から聞いた話のまとめ。

 ・インドネシアには「パンチャシラ」という建国5原則があり、憲法より上に位置づけられている。5原則とは、①唯一神の信仰、②公正で文化的な人道主義、③インドネシアの統一、④合議制と代議制における英知に導かれた民主主義、⑤全インドネシア国民に対する社会的公正、である。なお、①唯一神の信仰とは、同じイスラーム圏であるマレーシアのようにイスラームを国教としているわけではなく、国民は誰しもどれか1つの宗教を持つべきであるとの意味である。2017年より、6月1日がパンチャシラの日に制定された。近年、パンチャシラの精神が薄れてきているとの危惧から、パンチャシラの精神をもう一度強化しようというものである。

 ・インドネシアを理解するキーワードとして、上記の①パンチャシラ(Pancasila)の他に、②多様性の中の統一(Bhineka Tunggal Ika)、③ムシャワラ(Musyawarah、話し合いの意)、④ムファカット(Mufakat、全会一致の意)がある。これらの言葉はインドネシアの会社法、労働法など様々な法律に登場する。例えば、会社法においては、株主総会の決議は、全会一致の精神が望ましくムシャワラによって採択されるべきだと規定されている。全会一致ができなかった場合には、過半数の決議が有効となる。また、労働法においても、会社と労働組合が締結する労働協約に関しては、ムシャワラで合意に達するべきだと定められている。

 ・インドネシアは過去石油の輸出国であったが、現在は石油の純輸入国に転じている。また、中国経済の減速の影響もあって、インドネシアの輸出額は2012年以降減少傾向にある。そのため、政府は鉱物の輸入を制限するなどの策を打った。にもかかわらず、2013~2015年の貿易収支は赤字であり、これがGDP成長率の鈍化に影響を与えている。2016年のインフレ率は3.02%、GDP成長率は5.0%であるが、肌感覚ではデフレ、マイナス成長のように感じられる。ユドヨノ政権が絶頂だった2011年は、GDP成長率が6.5%であり、7%も夢ではないと言われていたが、今やその目標は遠のいてしまっている。

 ・インドネシアの二輪車市場、四輪車市場における日本企業のシェアはそれぞれ99%、95%であり、圧倒的に日本企業が強い。ただ、二輪車の年間販売台数はユドヨノ政権が絶頂だった2011年に800万台を超えて以降減少傾向にあり、2016年には590万台にまで落ち込んでいる。四輪車の年間販売台数は2012年に初めて100万台を超えた。インドネシアの1人あたりGDPは3,570ドル(2016年)であるが、一般に1人あたりGDPが3,500ドルを超えると二輪車から四輪車への移行が進むと言われている。ところが、2013年以降の四輪車の販売台数は横ばいであり、政府が目標とする150万台の達成にはまだまだ時間がかかりそうである。

 ・外資企業の投資要件は、最低資本金額25億ルピア(約2,000万円)、資産規模100億ルピア(約8,000万円)とされている。インドネシアは、外資企業の中でも大企業を誘致したいと考えている。インドネシアの外国投資政策は、景気が悪くなると外資比率が上がり、景気がよくなると外資比率が下がるという解りやすい特徴がある。ただし、最後の砦と言われているのが小売業であり、よほどインドネシアの経済が悪化しない限り、外資には開放されないだろうと言われる。

 ・インドネシアでは毎年約220万人の新規労働者が労働市場に参入してくる。これをカバーするためにはGDP成長率が6%以上必要とされるものの、2013年以降GDP成長率は6%を下回っている。ということは、失業率が悪化しているはずだが、失業率は2013年以降ずっと5%台で推移している。ただし、この統計にはからくりがあって、政府は週に働いた時間が1時間未満の者を失業者と定義している。これを、週に働いた時間が35時間未満の者を失業者と定義して統計を取り直すと、2010年以降の失業率はずっと35%前後という高い水準になる。

 ・インドネシアのフォーマルセクターの構成は次の通りである。税務番号取得者は2,750万人(21%)、そのうち納税者は1,020万人(8%)、社会保険加入者は3,860万人(30%)、労働組合加入者は170万人(1%)、35時間以上就労している者は8,700万人(66%)である。逆に言えば、税務番号を持たないインフォーマルセクターが70%以上存在する。ただし、政府は貧困さえなければインフォーマルセクターを容認する考えを示している。政府が恐れているのは、インフォーマルセクターの貧困化にオイル価格の上昇が重なって、政府への批判が高まることである。

 ・インドネシア労働法の第46条は、人事に関する業務に外国人が就くことを禁じている。これは労働法の最大の欠点である。政令では、階級、役職、勤続年数、学歴、能力などに応じた賃金テーブルの作成が義務づけられているが、外国人はこの作業を実施できない。また、社長、取締役であっても、外国人が人事関連の業務を行うことはできないと認識されている。人材育成は企業にとって重要な課題であるにもかかわらず、インドネシア人に任せるしかないという問題がある。とはいえ、インドネシア人に人材育成の能力が十分にあるとは必ずしも言えない。

 ・インドネシアの最低賃金は、2000年以降地域別、事業分野別に定められてきたものの、近年は特に複雑化しており、地域、事業分野ごとの整合性をとるのが困難になっている。そこで、2016年に方針転換し、原則として賃金上昇率をインフレ率+経済成長率(2017年の場合、3.07+5.18=8.25%)で定めることとした。しかし、この足し算にどのような意味があるのかは不明である。また、これはあくまでも原則であり、実際には地域、事業分野ごとに労働組合と交渉しなければならない。本来、最低賃金は1月1日に発表しなければならないのに、ブカシ市内では3月に、カラワン県では6月に発表がずれ込んだというケースもある。

 ・一般ワーカーの月給を見ると、ASEAN新興国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)の賃金が急上昇しているため、インドネシアの賃金も未だに競争力がある。労働集約型である縫製業もまだまだインドネシアでは盛んである。製造マネジャー、営業マネジャーの月給を見ると、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンでは、2011年に比べて2016年の方が月給が下がっている(フィリピンの営業マネジャーのみ例外)。一方、カンボジア、ラオス、ミャンマーでは、製造マネジャー、営業マネジャーの人材不足によって賃金が高騰しており、月給ベースでは先の5か国とあまり変わらない状況になっている。

 ・インドネシアでは、物品を輸入した段階で前払い法人税が発生する。期末に法人税額が確定した結果、予納額を下回った場合、日本であれば喜んで還付請求をするところだが、インドネシアの場合は還付請求をすると必ず税務調査を受けることになる。この税務調査が非常に厳しく、例えばインドネシア子会社が日本の親会社に支払っているロイヤリティーが利益移転だとして否認される(※1)、為替差損が利益の過小評価だと見なされる(ルピアは弱い通貨なのでこのリスクが高い)、機械装置の減価償却期間が8年から16年に変更される(※2)、旅費交通費や接待交際費などが否認される、といったケースが報告されている。

 (※1)ロイヤリティーは、概ね3%を超えると否認される傾向がある。通常、ロイヤルティーは付加価値額に対してかかるものだが、インドネシアの税務局は売上高をベースに見ている。よって、売上高の3%を超えるロイヤリティーは否認される可能性が高い。最近は、パテントの裏づけがあっても否認されるケースが増えている。
 (※2)日本の減価償却は数百種類存在するのに対し、インドネシアにはグループ1からグループ4までの4種類しかなく、多くの場合はグループ3の16年が適用される。

 確定額が予納額を上回った場合は、確定額と予納額の差額を納めれば終わりというわけではない。翌年は、前年の確定額と予納額の差額の12分の1を毎月前納しなければならない。結果的に、前年の法人税と同じ額を前払いすることになる。確定した法人税額が予納額を下回れば、還付申請はできるが税務調査を受けなければならない。したがって、インドネシアではいかにして毎年利益を確保し続けるかが非常に重要な課題となる。

 ・過去のスハルト政権は非常に国民思いであり、石油の輸出と対外債務で政府の財源を賄おうとした。ところが、スハルト政権が倒れた後、ルピアが暴落したため、国の作り方が間違っていたという反省が生まれた。政府にとってきれいな収入とは税収しかないということで、現在のインドネシアの国家歳入の85%以上は税収が占めている。ここにきて、ジョコ大統領がシンガポールを意識して、法人税率を現行の25%からシンガポール並みの17%に引き下げる方針を打ち出している。ということは、今後ますます税務調査が厳しくなる可能性がある。

 ・労務問題に関しては、労使間で日頃から密にコミュニケーションが取れている企業ではさほど問題は生じない。ソニーのインドネシア子会社は、現地社員から「牛乳を1本つけてほしい」という要望を受けたが、本社はこれを否認した上、インドネシアでのビジネスを諦めてしまった。もっと労使間で意思疎通が取れていれば、こんな事態にはならなかったであろう。労使間の関係が良好な企業では、労働組合が結成されることは少ない。万が一、労働組合、しかも上部組織とつながりのある労働組合が結成された場合には、会社と労働組合に労働局を交えて、いかにしてストライキを回避するか議論する必要がある。労使問題が起きた場合、経営者側が悪いケースが7割である。悪い社員を育ててしまった企業側の責任であると思った方がよい。



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