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『ノーベル賞と基礎研究(『一橋ビジネスレビュー』2017年SUM.65巻1号)』―イノベーティブな知を創出し、評価する方法についてのヒント
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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年07月25日

『ノーベル賞と基礎研究(『一橋ビジネスレビュー』2017年SUM.65巻1号)』―イノベーティブな知を創出し、評価する方法についてのヒント

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一橋ビジネスレビュー 2017年SUM.65巻1号一橋ビジネスレビュー 2017年SUM.65巻1号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-06-16

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 ノーベル賞の受賞を目指して経営している企業はほとんどいないだろうし、私もノーベル賞の受賞を目指す企業の経営コンサルティングなどできるわけないのだが、本号を通じて、イノベーションや新しい知を創出するためのヒントはいくつか得られたと思う。
 第1に、科学的戦略ビジョンを有する経営リーダーを育成すること、第2に、科学技術にかかわるエコシステムおよび科学技術イノベーション政策を整備することで研究開発プロセスと成果物の市場化を促進すること、第3に、研究活動を整備し、優れた人材を海外から誘致することの重要性を説いている。
(原泰史、壁谷如洋、小泉周「ノーベル賞受賞者の特性分析から見える革新的研究の特徴」)
 この文章の「科学技術」などの文言を「イノベーション」としても、十分に意味は通じる。
 第1に、イノベーション戦略ビジョンを有する経営リーダーを育成すること、第2に、イノベーションにかかわるエコシステムおよびイノベーション政策を整備することでイノベーションプロセスと成果物の市場化を促進すること、第3に、イノベーションを整備し、優れた人材を海外から誘致することの重要性を説いている。
 先ほどの論文では、ノーベル賞を受賞した研究者が、受賞につながった主要研究を開始した年齢を分析している。その結果、興味深いことが判明した。
 主要研究を開始した年齢は、化学賞の場合は平均37.6歳、生理学・医学賞の場合は36.6歳、物理学賞の場合は37.1歳であった。(同上)
 主要研究を始める年齢は意外と遅いという印象であった。数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞するためには、20代のうちに顕著な成果を上げていなければならず、30歳を過ぎてからでは手遅れであるそうだが、ノーベル賞に関してはこれは該当しない。では、30代後半に主要研究を始めるまでに何をしているのかと言うと、
 後に受賞に至る主要研究を行うまでに、特に研究者キャリアの開始時に多様かつ複数の研究機関や職業を経験している
(赤池伸一、原泰史「日本の政策的な文脈から見るノーベル賞」)
そうだ。そういえば、『致知』でも筑波大学名誉教授の村上和雄氏が、研究活動で高い業績を上げている研究者は、若いうちに研究分野の大幅な転換を経験していることが多いと述べていたのを思い出した。これは、昨今のスペシャリスト信奉に対する1つのアンチテーゼである。

 最近は、若手社員でもゼネラリストよりもスペシャリストを志向する人が増えていると聞く。海外ではそれがもっと顕著で、職務定義書(Job Description)に書かれた職種以外の仕事はしないという人が、欧米だけでなくアジアにも広がっている。ベトナムの場合は、一時的な異動であっても、60営業日以内に限定しなければならず、3日以上前に事前通告する必要があるとわざわざ労働法に定められている。私はこういう動きを見て、若いうちから自分に適した仕事がはっきりと解っている人など果たしてどれくらいいるのだろうかとかねてから疑問に思っていた。その点、日本のジョブローテーション制度は、本人の向き・不向きを一旦棚に上げて、若いうちに色々な業務を経験させるということで、非常に優れた制度であると考える。

 冒頭の引用文の最後には、海外人材を誘致することの重要性が書かれている。ビジネス界で現在流行している言葉を使えば、ダイバーシティ・マネジメントを行うべきだということだろう。ただ、多様性を確保するために誰彼構わず海外人材をチームに入れればよいというわけでもない。メンバーが頻繁に入れ替わるチームは、メンバー間の信頼関係の構築に時間がかかり、チームに問題をもたらすリスクがある。アメリカの航空業界では、大小様々なインシデントを全てデータベース化しているが、そのデータベースによると、インシデントが起きるのは、パイロット、キャビンアテンダント、グランドスタッフ、グランドハンドリング、航空管制官などのチームメンバーが初顔合わせのケースが多いと言う。社会学者ジェームズ・マーチの研究だったと思うが、パフォーマンスが高い研究チームというのは、”時々”新しいメンバーが入るチームだそうだ。

 現在のビジネスは、チームプレーを求められることが圧倒的に多い。研究活動も同じである。オートファジーの研究でノーベル賞を受賞した大隅良典教授は、東京大学時代には1人でコツコツと研究していたが、基礎生物学研究所に移籍してからは、広いスペースと研究チームが与えられ、これが研究を新しい方向へ向かわせる契機となったそうだ(原泰史、壁谷如洋、小泉周「ノーベル賞受賞者の特性分析から見える革新的研究の特徴」より)。以上のことを総合すると、高い業績を上げるチームは、①若いうちに多様な分野を経験したミドルクラスがリーダーとなり、②時々、外部からの視点を取り込むために海外の人材を活用し(外部からの視点を取り込むという目的が達せられるのであれば、必ずしも海外人材である必要はない)、③3年程度でチームを転々とする20代のメンバーも含めてマネジメントすることが重要と言えるであろう。

 冒頭の引用文には「成果物の市場化」が大切であると書かれている。企業が外部と成果物をやり取りする具体的な方法としては産学連携が挙げられる。本号には、「スター・サイエンティスト」と企業の相互関係について分析した論文が収録されている。これによると、スターサイエンティストと企業の協業は、お互いに正の効果をもたらすと言う。
 ベンチャー企業のパフォーマンス指標として、特許、開発中のプロダクト、上市したプロダクト、の3つを取り上げた上で、それらと①スター・サイエンティスト、②全米トップ研究大学(必ずしもスター・サイエンティストが存在するとは限らない)、③ベンチャーキャピタル、とのつながりを概観した。(中略)以上より、ベンチャー企業のパフォーマンスに影響を与える最たるものとしては、スター・サイエンティストとの共著が有力であることが示唆される。
(齋藤裕美、牧兼充「スター・サイエンティストが拓く日本のイノベーション」)
 ここで考えられるのは2つの仮説である。1つはスター・サイエンティストがベンチャー企業に時間を割くようになると、研究時間とのトレードオフが起き、研究業績は下がるという可能性である。もう1つは、資金が集められるようになるなどといった理由から、むしろ、より研究業績が上がるという可能性である。結論として、後者の仮説が支持される。(同上)
 以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第48回)】Webで公開されている失敗事例通りに失敗した産学連携プロジェクト」で書いたように、私は前職のベンチャー企業において産学連携で手痛い失敗をしたので、産学連携について偉そうなことは言えない。ただ、この失敗から学んだのは、企業は企業の目的、研究者は研究者の目的を追求しているのであって、産学連携であるからと言って必ずしも共通の目的を設定する必要はないということである。以前の記事「【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)」の中でも示したように、企業は企業の、研究者は研究者のBSC(バランス・スコア・カード)の実現を目指せばよい。その上で、企業がある目標を追求すると、研究者側のある目標の達成に寄与する、あるいはその逆の関係が生まれるように協業を調整することが、産学連携を成功に導くコツであると考える。

 企業内における「成果物の市場化」で思いつくのは、ナレッジ・マネジメント・システム(KMS)の活用である。10年ぐらい前はKMSという言葉が通用したのだが、残念なことに現在googleでKMSを検索してもナレッジ・マネジメント・システムは上位に表示されず、ブームが去ってしまった感がある。ただ、KMSは依然として、社員のナレッジの標準化、高度化を進める上では重要なツールであると考える。ここでの問題は、KMSの効果をどう測定するのかということである。研究者の場合、業績評価指標として、①論文の本数(量)と②被引用回数(質)がある。ただ、この2つでは不十分であり、「厚み」という新たな指標を提唱している論文が本号にはあった。
 われわれは、論文の集積度(accumulation)を評価指標として導入しようと考えた(ここでは、指標としてam5インジケーターと呼ぶことにする)。

 論文を被引用回数によって降順に並べていき、それをプロットしてグラフにしたのが図3(※省略)だ。厚みがあるといえるのは、この面積が大きいときである。また、被引用回数が1番の論文だけが飛び抜けているのか、2番目以降の論文もそこそこの被引用回数を保っているのか、このグラフの形も重要となる。

 そこで、原点から45度のラインを引き、その交点の位置で面積を疑似的に表すという指標を設定した。つまり、被引用回数と論文数が一致する点を見つけることになる。
(小泉周、調麻佐志「大学の研究力をどのように測るか?」)
 この指標によると、50回以上引用されている論文が1本あるものの、それ以外は1回か2回しか引用されていない論文ばかりの大学よりも、どの論文も平均的に5~6回程度引用されている大学の方が厚みがあると評価されることになる。

 随分前の話だが、営業部門にKMSを導入していたある顧客企業が、営業担当者が次から次へとナレッジを登録するため、結局どのナレッジを使えばよいのか解らないという問題を抱えていたことがあった。当時の私は、KMSの中身を整理し、社員がたくさん参照・ダウンロードするナレッジだけを残して、残りはバッサリと削除してはどうかとアドバイスした。しかし、今振り返ると間違ったことを言ってしまったと反省するばかりである。その顧客企業は、規模も業種も異なる様々な顧客を相手にしていた。だから、汎用的なナレッジなど存在しない。多様なナレッジが適度な参照回数を保つようにKMSの設計を見直してはどうかと助言するべきであった。
 新入職員は、最初の3カ月間は、園生と一緒に生活することから始まる。実習時や就職時にも、ケース記録は見せてもらえないという。ケース記録とは、成育歴や病歴など園生の状況がわかるカルテのようなものであるが、川田園長(当時)は見せてくれと言っても駄目だと言って見せなかった。その理由は、ケース記録を見てしまうと、その人の障害や病気を見てしまい、その人自身がどういう人であるかを見なくなってしまうからである。障害を先に理解するのではなく、まず自分からかかわっていくことで、園生を人として見るようになる。
(露木恵美子、前田雅晴「こころみ学園/ココ・ファーム・ワイナリー 人が「働くこと」の意味を問い直す―知的障害者支援施設の挑戦」)
 研究活動でも、基本は先入観を捨てて「観察」することであろう。企業であれば、顧客を観察することからビジネスが始まる。ところが、これは我々コンサルタントも悪いのだけれども、いわゆるCRMシステムを導入したことによって、システム上の情報ばかりを頼りに顧客に接する営業担当者、サービス担当者が増えてしまったように思える。

 また、私は中小企業診断士という仕事柄、様々な企業の事業計画書を読むことが多いのだが、明らかにコンサルタントが代筆したものだと解るケースがある。それは、市場ニーズに関する記述が、公表されている統計データなどを定量的に分析したものにとどまっている場合である。では、コンサルタントに頼らずに自力で事業計画書を書いた人はもっと突っ込んだニーズ分析ができているかというと、必ずしもそうではない。単に「○○というニーズを持ったお客様が増えている」と書かれているだけで、具体的に誰が、いつ、どのような場面で、どういうことを言ったのか、言葉の隅々まですくい上げた計画書はほとんど見たことがない。

 私は、かつての日本企業は顧客をじっくりと観察するということを自然にやっていたと思っている(以前の記事「創業補助金の書面審査をして感じたこと(自治体はもっとしっかりせよ)」では、スーパーマーケットの例を出した)。ところが、アメリカからデータ重視のマーケティング手法が導入されたことで、観察力が鈍ってしまった。もちろん、CRMシステムにも利点はある。営業担当者が前任から顧客を引き継いだ時、その顧客について何も知らずに顧客の元を訪問するのはさすがに失礼である。ただ重要なのは、CRMシステムに登録されている情報を鵜呑みにしないことである。本号の井上達彦氏の言葉を借りれば、「色眼鏡を外す」べきだ。そして、観察を通じて、CRMシステムに登録されている情報を自分なりに更新していく。そこに、”その”営業担当者”ならでは”の存在価値があり、”その人らしい”仕事のやり方というものが成立する。

2017年03月31日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法

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一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 私がコンサルティングを行う場合には、BPR(Business Process Re-engineering)的な発想をすることが多い。BPRとは、元々は1990年代にマイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーが生み出したコンセプトで、日本では『リエンジニアリング革命』という書籍で紹介されている。BPRの目的は、「社内のビジネスプロセス(業務プロセス)を部門横断的に再構築(Re-engineering)して全体最適化し、顧客価値を最も効果的・効率的に実現すること」である。

 ただ、当時のアメリカ企業は、株主から短期的に業績を改善させて株価を上昇させるよう、強いプレッシャーを受けていた。経営陣は、手っ取り早くコストカットやリストラを行う手段としてBPRに飛びついた。その結果、短期的には確かに業績が回復したが、過剰なBPRによって必要な組織能力までが削がれたため、長い目で見ると再び経営不振に陥ってしまった。マイケル・ハマーは、自分の提唱したコンセプトがこのような形で利用されたことを後年になって反省している。

BPRの考え方

 繰り返しになるが、BPRの本来の目的は、全社のビジネスプロセスの最適化によって高い顧客価値を実現することにある。BPRの考え方をまとめたのが上図である。まず、自社の経営ビジョンや事業戦略をインプットとして、自社がどの方向に向かおうとしているのかを明らかにする。それを受けて、その方向を実現するためのあるべきビジネスプロセス(別の表現をすれば、社員の行動の流れ)をデザインする。その上で、ビジネスプロセスに対して人、モノ、カネ、情報といった経営資源を効果的・効率的に投入するための仕組みを構築する。

 失敗する全社改革は、ビジネスプロセスの議論をせずに、いきなり経営資源を投入するための仕組みを変えようとしていることが多い。もう随分昔の話になるが、富士通が成果主義を導入して失敗したのは典型例である。富士通として目指すべきビジネスがまだ明らかになっていないのに、成果主義という人事制度だけをいじったために、現場が混乱してしまった。また、なかなか業績が安定しないソニーも、EVA会計を導入したことがイノベーションの芽を摘んでいると言われる。EVA会計は、投資案件の将来価値をかなり正確に計算できる反面、芽が出るかどうか解らない中長期のハイリスク案件が排除されてしまうというデメリットがある。ITについて言えば、競合他社に遅れまいと流行のシステムを導入して失敗したという話は数え上げればきりがない。

 BPRで重要なのは、ビジネスプロセスのあるべき姿を最初にしっかりと固めることである。その手順を簡単に下図に示した。まず、自社の事業環境(客観的な情報)と経営ビジョン(主観的な情報)を分析し、主要な経営課題を抽出する。そして、それらの経営課題を達成するためのビジネスプロセスのあるべき姿の方向性を固める。あるべき姿の方向性は、この後の作業で具体的にビジネスプロセスをデザインする際の基軸となる極めて重要な考え方である。

 下図は自動車メーカーの例であるが、まずSWOT分析によって、「多様な顧客に対し、個々に適切に訴求」、「本社のノウハウを販社にも共有」という経営課題を導いている。また、経営ビジョンの解釈を通じて、「顧客の把握、顧客に合わせた接点」、「全社情報・ノウハウの集約化」という経営課題を抽出している。これら4つの経営課題から、あるべき姿の方向性を定義する。あるべき姿の方向性は、ビジネスプロセスの基軸となる考え方であるから、プロセス志向で記述する必要がある。下図では、①顧客理解深化と「個」客応対型セールス、②本社によるサポート強化と営業プロセス標準化、③マルチチャネルの活用、という3つの方向性を打ち出している。

あるべき姿のデザイン~作業イメージ

 あるべき姿の方向性が定まったら、それに基づいて具体的なビジネスプロセスへと落とし込んでいく。まず、縦軸にあるべき姿の方向性を、横軸にビジネスプロセスを並べる(下図では顧客の消費プロセスとなっているが、どちらでもよい)。そして、それぞれの方向性を受けて、ビジネスプロセスの各フェーズにおいて具体的にどのような業務を行うのかを記述する。例えば、「①顧客理解深化と「個」客応対型セールス」という方向性を受けて、「情報収集」フェーズでは、「個客ごとに最適化された質の高い情報の作成」という業務を行う、といった具合である。さらに細かくビジネスプロセスを定義する場合には、今度は縦軸に部門・担当者を並べて、各部門・担当者がそれぞれのビジネスプロセスのフェーズで具体的にどのような業務を行うのかを書いていく。

あるべき姿のデザイン~あるべき姿の詳細化

 以上がオーソドックスな方法であるが、最近はCSRもしくはCSVの観点から、社会的要請を反映させたあるべき姿をデザインする方法を考えなければならないと感じている。本号では、循環型経済を実現するために企業が着手すべきこととして、次のような提案がなされている。
 特に、生産プロセスは最終製品そのものと生産に使用されるすべての原料が、分別・再収集可能で、再利用されるか安全に自然に返されるよう、必ず再デザインされなければならない。
(ジョエル・ベーカー・マレン「循環型経済のためのイノベーション」)
 ビジネスのためのイノベーションが直面する最大の課題は、生物学的な投入物(※綿や羊毛のように、製品寿命が終わった際に安全に自然に返すことができる原料のこと)と技術的な投入物(※金属や石油化学製品のような原料で、生産過程で意図的に価値を持つように意図的に加工を施されたもの。安全に自然循環に返すことができない)を製品使用後に効率的に収集・分離し、これらを直線的システムではなく循環型経済システムのなかで機能するような製品と生産プロセスにデザインしていくことである。(同上)
 前述の自動車メーカーの例で言えば、安直な発想だが、4つ目のあるべき姿の方向性として、「④自動車部品や下取り車のリサイクルを推進する」が加わり、「カーライフ期」において、販売店は「部品メーカーと連携して交換部品のリサイクルを行う」、部品メーカーは「交換部品を生物学的な投入物と技術的な投入物に分解する」、「技術的な投入物が新品と同等の品質を有するよう再加工する」、「技術的な投入物を部品製造ラインに再投入する」必要が出てくるだろう。

 また、あるべき姿の方向性のインプットとして重要になるのが、以前の記事「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】」で触れた17の目標である。これらの目標のうち、自社のビジネスに関連するものを取り入れていくことも重要である。ここでポイントとなるのは、社会的要請やSDGsを自社のビジネスの制約要因ととらえないことである。社会的要請やSDGsを自社ビジネスの成長・発展につなげる視点が必要である。この辺りはまだフレームワークにまで落とし込むことができていないため、今後の私の課題である。

 ※4月は1か月間ブログをお休みとさせていただきます。5月にまたお会いしましょう!

2017年03月30日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案

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一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」で以下の図を用いてきたが、「必需品か否か?」という縦軸が非常に曖昧であるという問題意識を持っていた。必需品と言うと、普及率が高い製品・サービスを想起しがちだが、私が下図の「必需品でない」という言葉で意図していたのは、1人1台などの制約を超えて、その製品・サービスが好きな人はとことんそれを購入するということであった。この点が「必需品ではない」という言葉ではどうも上手く伝わらない。また、【象限③】の具体的企業としてマイクロソフトを入れたのも、【象限③】はイノベーションに強いアメリカの企業が多いことを示すための苦肉の策である。前述の「必需品でない」という言葉の意味からすると、MSの製品を何台も買う人はいないから、【象限③】に入れるのには無理があった。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)
 (※)世界の時価総額トップ20の企業を各象限にあてはめたもの。
製品・サービスの4分類(修正)

 そこで、上図を以下のように修正してみた。縦軸は、「人口・企業数によって需要が予測しやすいか?」である。【象限①】の日用品や食品、白物家電、【象限②】の自動車や住宅などは、人口によって需要がある程度予測できる。よほどの大食漢でもない限り1日5食も6食も食べないし、よほどの物好きでもない限り自動車を5台も6台も所有しない。以前の図では金融(保険)を【象限③】に入れていたが、生命保険を2つも3つも契約する人はいないから、【象限①】に移動させた。以前の記事でも書いた通り、【象限①】は「製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」ため、参入障壁が低く、比較的中小のプレイヤーが過当競争を繰り広げる傾向がある。近年、保険の種類は爆発的に増えており、【象限①】の特徴にも合致する。

 【象限③】から【象限①】に移動させたもう1つの例がMSである。前述のように、パソコンの需要は人口や企業数によってある程度予測がつくというのがその理由である。ただし、【象限①】では比較的中小のプレイヤーが過当競争を繰り広げるという傾向に反して、MSは未だに世界で独占的地位を占めている。MSだけは、私の頭を悩ます大いなる例外である。【象限①】の本来の特性に従えば、世界中で様々なOSが登場し、OS間の互換性を持たせるためのソフトも多数開発されるはずであるが、MSは戦略的にその道をふさぐことに成功している。

 【象限③】と【象限④】は、人口・企業数による需要予測が難しい製品・サービスである。スマートフォン、タブレットは、本体自体は人口による制約を受けるものの、スマホやタブレットのビジネスの本質はアプリにある。アプリが好きな人は次々とアプリをインストールするし、ゲームにはまった人はどんどん課金をする。スマホやタブレットのビジネスは、こうしたコアな顧客層に支えられている(この点がパソコンと異なる)。エンタメ、テレビメディア(主に娯楽関係)、映画、音楽に関しては、見たい人、聴きたい人はとことんはまり、関連製品・サービスをたくさん購入する一方で、興味のない人は全く見向きもしない。ブランド品や書籍、雑誌も同じである。証券についても、投資する人とそうでない人との間には、投資金額に雲泥の差がある。googleやfacebookを中毒のように使用する人もいれば、そういうものをほとんど使わない人もいる。

 【象限④】は、人口・企業数による需要予測が難しく、かつ、製品・サービスの欠陥が顧客・事業に与えるリスクが大きいという、最も経営が難しい象限である。以前の図ではここに軍事と航空を入れていたが、航空は人口によってある程度需要の予測がつく(飛行機が好きだからという理由で飛行機に乗りまくる人はいない)。そのため、航空は【象限②】に移動させた。代わりに、金融(預金・貸出)を【象限②】から【象限④】に移動させた。金融機関が預金と貸出によって実現する信用創造機能は、経済システムを支える根幹である。よって、ここに障害が起きると、経済全体が破綻する危険性がある。かつ、預金者は通常、持っている現金の大半を預金するし、企業は借りられる時に目一杯融資を受けようとするから、その需要は予測しづらい。

 軍事と金融(預金・貸出)は、他の業界に比べて特別な意味合いを持っている。金融(預金・貸出)は、前述の通り金融機関による信用創造機能と関連している。また、軍事は、特にアメリカにおいて顕著だが、よくも悪くもイノベーションの重要な源泉となっている。軍事上の発明が民生化されて世界中に普及した例は枚挙にいとまがない。

製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例①)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例②)

 最後の図で、【象限①】と【象限②】は機能面重視、【象限①】と【象限③】は情緒面重視と書いたが、【象限②】は情緒面を、【象限③】は機能面を全く無視しているわけではない点は誤解がないように補足しておかなければならない。本号には以下の記述があった(ようやく本号の内容に触れることができた)。特に、日本企業が強みとする【象限②】において、情緒面のウェイトを高めていくことが今後は重要となるであろう。
 日本企業のなかでも、高い国際競争力を維持している自動車産業は、このアップルと同様の特徴を持つ。日本企業がものづくりに優れているのは他の産業でも同様だが、自動車の顧客価値はカタログ仕様を超え、主観的な好みが重要である。自動車を購入する場合には、カタログだけではなく、販売店でじっくり観察し、試乗する場合が多い。
(延岡健太郎「顧客価値の暗黙化」)
 今まで私は、イノベーションを【象限③】に限り、【象限①】と【象限②】はマーケティングの世界だとしてきた。だが、これではイノベーションを狭くとらえすぎているのではないかと反省した。【象限①】や【象限②】でもイノベーションはありうる。ただし、【象限③】のイノベーションにはアメリカ企業が強いのは事実である。【象限③】は人口・企業数によって需要が規定される象限ではないため、イノベーションがヒットすれば市場は指数関数的に増加する可能性を秘めている。一方で、何がヒットするかを事前に予測することが困難であるから、イノベーターは次々とイノベーションを市場に投下しなければならない。その結果、イノベーションが小粒になる恐れがある。日本の話になるが、新規性よりも一過性の奇抜さが重視され、「なぜこんなアプリ、映画、音楽、ドラマがヒットするのか?」と首をかしげたくなるイノベーションが増えているような気がする。
 現在、加速しているように見えるイノベーションは、既存のシステムを創造的に破壊するようなものというよりも、既存のシステムの上で新しい価値を付け足せるようなイノベーションであるということが考えられる。(中略)イノベーションが加速しているといっても、手近な果実の組み合わせばかりを追求しているということを示唆している。
(清水洋「加速するイノベーションと手近な果実」)
 一方で、【象限①】や【象限②】におけるイノベーションとは、既存の製品・サービスの技術を大幅に高めたり、既存の製品・サービスに取って代わる新しい技術を生み出したり、ビジネスモデルやビジネスシステムを抜本的に再構築したりするような大がかりなものである。したがって、【象限③】のイノベーションに比べると、普及に時間がかかる。前述の論文の著者の言葉を借りれば、【象限①】や【象限②】のイノベーションに必要なのは、以下の要素となる。
 これまで経済史の研究の蓄積から、大きな経済成長をもたらすのは、ジェネラル・パーパス・テクノロジーとそれについての累積的な改良であるということが明らかになってきている。(同上)
 本号で衝撃的だったのは、一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎教授が「アントレプレナーは育成できない」と断言していることだった。
 (※これまでの自身の)経験からいって「新しい事業を起こす企業家、すなわちアントルプルヌアの育成などはできない」というのが、筆者の率直な実感である。(中略)そもそも育成なんかできないのだから、誰でも彼でも起業にチャレンジさせ、そのプロセスでアントルプルヌアに仕上げることが重要となる。
(米倉誠一郎「企業の新陳代謝とクレイジーアントルプルヌアの輩出」)
 起業家教育に携わった人物が起業家教育を否定しているのだが、個人的にはそれでも起業家教育は必要だと思う。ただし、起業家教育を通じて起業家を輩出することが目的ではない。起業家教育という既存の枠組みに収まらない型破りな起業家を生み出すのが目的である。私はこれを「教育のパラドクス」と呼んでいる。私の直観だが、教育に投資すればするほど、既存の知識体系では物事を考えない人が現れる。そして、彼らが経済や社会の成長を牽引する。実は、彼らが実際に教育を受けたか否かは問題ではない。彼らは教育を受けなくても、既存のフレームワークを打破することがある。なぜそんなことが可能なのか今の私には解らないのだが、現にビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズはMBAを受けなくても世界を変えることができた。


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