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『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他
『ノーベル賞と基礎研究(『一橋ビジネスレビュー』2017年SUM.65巻1号)』―イノベーティブな知を創出し、評価する方法についてのヒント
『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年11月02日

『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他


一橋ビジネスレビュー 2017年AUT.65巻2号一橋ビジネスレビュー 2017年AUT.65巻2号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-09-15

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 (1)私は医療技術や医療制度については門外漢なので、本号の特集についてあまり言及できることがないのだが、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のパートナー・アンド・マネージングディレクターである北沢真紀夫氏の「病院経営 その実態と処方箋」という論文は、個人的に共感できるところが多かった。国内の病院の約7割は赤字であり、通常であれば痛みを伴う抜本的改革をしなければならない。論文では、「(A)外来部門の黒字化(地域の各種医療機関との提携による)」、「(B)入院患者の人数・単価の適正化(実際には、単価は診療報酬制度で決まっているため、強みを有する診療部門を強化し、それを通じて収益の拡大を図ることを指している)」、「(C)病院経営のガバナンスの強化」という3つの構造的改革が挙げられている。

 ところが、病院では抜本的な改革を現場に落とし込む際に、現場から反発を食らうことがある。例えば、医療材料費の最適化のために、手術で使う糸を安価なものに変えようとしたとする。コストは安いが機能的には遜色がないものであっても、「使い慣れていないものを使うと、事故が起きるリスクが高まる。そうなった場合に、責任が取れるのか?」という反論が出て、結局は現状を維持せざるを得ない。こういう局面に、論文の著者は何度となく直面したようである。

 そこで、論文の著者は、実行しやすい施策、医療スタッフにとってリスクや痛みが少ない施策から着手することを提案している。具体的には、「①外部委託費の削減(清掃、警備、IT、高額医療機器のメンテナンス、リネン類の購入・リースなど)」、「②医薬品、医療材料の共同購入」、「③診療報酬の請求漏れの防止(救急搬送された患者に対して、救急医療管理加算を忘れるケースがある)」、「④差額ベッド代の最適化(医療保険を活用することで、差額ベッド代を支払ってよい条件のベッドに入院したいと考える人は意外と多い)」などである。BCGはおそらく、病院の経営コンサルティングを始めた頃は、抜本的な改革を提案していたのだろうと思う。だが、経営陣や現場から反対されることが多く、試行錯誤を重ねた結果、論文のような改革の手法に至ったと推測される。コンサルティングの現場で十分に揉まれた内容であるだけに、納得感がある。

 私もコンサルタントになりたての頃は、抜本的な改革を提案しようと意気込んでいたものである。高額の報酬をいただくからには、それに見合ったインパクトのある提案をしなければならないと感じていたからだ。しかし、中小企業診断士として独立し、主に中小企業をコンサルティングするようになってからは、考え方が変わった。抜本的な改革を提案しても、中小企業の経営者からは「頭では解っているが、それを実行するリソースがない」と言われるのが落ちである。

 それならば、できることから少しずつ着手するしかない。最初はリスクや痛みの少ない改善から始める。成果が出たら、少しずつリスクを伴う改善も交えていく。こうして、小さな改善を継続的に積み重ねていった結果、数年後には改善を始めた当初と比べて全く異なる経営に進化していた、という状態に持っていくのが私の理想である(以前の記事「檜垣立哉『ドゥルーズ―解けない問いを生きる』―「To-Beを描いてAs-Isとのギャップを埋める」というコンサル手法を改められないものか?」を参照)。こういう経営は、トヨタが強みとするところである。トヨタはいわゆるカイゼンを全社的に継続することで、トヨタ生産システム全体が漸次的に進化し、数年後には以前とは似ても似つかぬシステムに変貌を遂げるということを何度も経験している。

 論文で提案されている①~④の小さな改善は、中小企業にとっても示唆的である。例えば、①に関して言えば、中小企業が様々なベンダーと締結している保守契約を見直すと、コスト削減につながりやすい。知り合いの診断士から聞いた話だが、その診断士の顧客企業では、Webサイトの保守に月10万円を支払っていたそうだ。しかし、ベンダーは何のサービスも提供せず、単にWebサーバを管理していただけであった。これで10万円は高すぎるということで、その診断士がベンダーと交渉して、月額の保守料を1万円に引き下げさせた。これだけで、年間108万円のコストカットである。保守契約は包括的に締結されることが多いが、ベンダーには作業項目と作業工数、単価を明記させて、サービスの内容と価格の妥当性を判断することが重要である。

 ④を企業経営にあてはめると、安易な値引きをしない、ということではないかと思う。これは私の前職での体験だが、前職のベンチャー企業では企業研修サービスを提供していた。それぞれの研修について、一応の標準価格は設定されているものの、営業担当者は目先の受注ほしさに、自由に値引きをして販売していた。営業部門の責任者も社長も、値引きの実態を把握していなかった。私が自社のマーケティング業務を兼務するようになってから値引き率を調べたことがあるのだが、標準価格通りに販売されている案件はほとんどなく、中には8割引きで販売されているものもあった。そこで、先方に見積書を提出する時は、必ず営業部門の責任者と社長の承認を得るというルールに変えた。ただ、残念なのは、価格を適正に保っても、研修の販売量自体が圧倒的に少なく、この程度の改善では巨額の赤字を是正できなかったことである(※)。

 (※)「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」を参照。

 (2)井上達彦「ビジネスモデルを創造する発想法 〔第5回〕美しい「経験価値」を生み出す」では、アメリカのアンプクア銀行がデザインコンサルティング会社であるZibaの協力を得て、独自のポジショニングを構築した例が紹介されている。店舗のデザインや行員のサービスを決めるにあたっては、ノードストローム、リッツカールトン、スターバックス、バナナ・リパブリックなど異業種の事例を参照したという。アンプクア銀行は、「銀行は敷居が高くて入りにくい」というイメージを覆すために奇抜な店舗デザインにするといった、枝葉末節な方策に走ったわけでは決してない。まずはターゲット顧客層のペルソナを丁寧に描写し、彼らの顕在/潜在ニーズを丹念に洗い出し、彼らの期待を超えるサービスとは何かを明らかにした上で、そのサービスを実現するサービスプロセス、物理的な空間、プロセスを実行する行員に求められる能力を定義している。

 サービスデザインの手法として最近注目を集めているのが、「カスタマー・ジャーニー」と呼ばれるものである。カスタマージャーニーとは、一言で言うと「顧客が購入に至るプロセス」のことである。 顧客が製品やブランドとどのような形で接点を持ち、いかにして製品やブランドを認知し、またそれらに関心を持ち、購入意欲を喚起されて購買に至るのかという道筋を旅に例え、顧客の行動や心理を時系列的に可視化したものである。ただ、カスタマー・ジャーニーはどちらと言うと、現状のサービスを整理する目的で使われることが多いように思える。

 これに対して、望ましいサービスを定義する手法として、「サービス・ブループリント」と呼ばれるものがある。下図は、農家向けに耕運機、草刈機など、様々な農業機械の製造販売を行っている企業のアフターサービスのあり方を簡易的に示した例である。サービス・ブループリントの場合、顧客とじかに接する社員がどのような行為をするかに加えて、彼らがバックヤードに控える社員とどのように連携するかも重視する。また、サービスの品質を向上させるために、ITなどのシステムを積極的に活用することも想定している。

サービス・ブループリント

 ただ、私がこういうサービス・ブループリントをいくつか作って感じたことは、プロセス図をどんなに精緻に描いたところで、結局は左脳的な発想を抜け出せないということである。でき上がったブループリントを眺めてみると、至極当たり前のことしか書かれておらず、独創性に乏しい。別の言い方をすれば、このブループリントを見ても「ワクワクしない」。生の顧客の特徴(性別、年齢、ライフスタイル、見た目、言動、性格、考え方など)を多面的にとらえ、サービス提供者が自身の能力や価値観を下地として、顧客との相互作用の中で即興的に豊かなサービスを創造するという、サービスの右脳的、能動的な側面がそぎ落とされてしまう。こうした弱点を補うためには、プロセス図に代えて、分厚い語彙から構成される物語としての「脚本」を作成するのが効果的なのかもしれない。この辺りの新しい手法を開発することが、私にとって今後の課題である。

 (3)本号の最後には、カルビーのケーススタディが掲載されていた(浅井俊克、木村めぐみ「カルビー 経営改革のための働き方改革」)。「働き方改革」は最近のホットトピックである。ダイバーシティ経営の一環として、女性社員の活用に乗り出す企業が増えている。シニア社員についても、定年制の廃止や再雇用制度などによって70歳まで働く時代に入ったと言われるが、政府は9月に「人生100年時代構想会議」を立ち上げて、80歳まで働く社会を射程に入れている。

 戦略論の定石に従えば、まずは市場ニーズの分析から戦略、つまり誰をターゲット顧客として、どんな製品・サービスをどのような差別化要因に基づいて提供するのかという構想を導き、その戦略を実現するためにはどんな能力を持った社員がどの程度必要なのかを計算して、人事・人材育成戦略に落とし込んでいく、という手順になる(以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)。一方、働き方改革では発想が逆になる。すなわち、現在企業が抱えている社員の能力を活用すると、どのような事業が実現できるのかと考える。

 ピーター・ドラッカーは、「人に仕事を割り当てるのではなく、仕事に人を割り当てなければならない」とよく主張していた。つまり、前者のアプローチである。しかし同時に、ドラッカーは面白いことを言っている。IBMが昔不況に陥った時、トーマス・ワトソン・Jrが社員を解雇せず、社員のために仕事を創り出した点を高く評価しているのである。これは後者のアプローチに該当する。

 私は前者のアプローチには慣れているものの、後者のアプローチについてはこれといった知見をまだ持ち合わせていない。人材育成が専門であると公言しておきながら、何とも恥ずかしい話である。もちろん、前者のアプローチでも、社員の能力が発想のトリガーになっている部分はある。以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」では戦略立案の8つのプロセスを提示したが、「①事業機会の抽出と選択」においては、多角化戦略の1つとして、現有の組織能力を活用した事業を挙げている。また、「④CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定」では、クロスSWOT分析を用い、強み・弱みを抽出する際に社員の能力に注目している。つまり、社員の能力が事業のCSFに反映される形となっている。

 ただし、これらは断片的に社員の能力に注目しているにすぎない。例えば、今目の前に100人の育休明け女性社員がいて、彼女たちの能力を活用してどのような事業ができるか考えよと言われた場合、私には適当なフレームワークや方法論がまだない。それらを開発することが、私にとっては喫緊の課題である。さらに言えば、働き方改革の本質は、眠っている労働力を掘り起し、活用することにある。まだ企業には属していない女性やシニアなどの潜在的な能力を評価し、その能力を活用して新しい事業を立ち上げよ、と言われる時代が来るに違いない。こうした時代の要請に応える準備もしておかなければならないと感じる。


2017年07月25日

『ノーベル賞と基礎研究(『一橋ビジネスレビュー』2017年SUM.65巻1号)』―イノベーティブな知を創出し、評価する方法についてのヒント


一橋ビジネスレビュー 2017年SUM.65巻1号一橋ビジネスレビュー 2017年SUM.65巻1号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-06-16

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 ノーベル賞の受賞を目指して経営している企業はほとんどいないだろうし、私もノーベル賞の受賞を目指す企業の経営コンサルティングなどできるわけないのだが、本号を通じて、イノベーションや新しい知を創出するためのヒントはいくつか得られたと思う。
 第1に、科学的戦略ビジョンを有する経営リーダーを育成すること、第2に、科学技術にかかわるエコシステムおよび科学技術イノベーション政策を整備することで研究開発プロセスと成果物の市場化を促進すること、第3に、研究活動を整備し、優れた人材を海外から誘致することの重要性を説いている。
(原泰史、壁谷如洋、小泉周「ノーベル賞受賞者の特性分析から見える革新的研究の特徴」)
 この文章の「科学技術」などの文言を「イノベーション」としても、十分に意味は通じる。
 第1に、イノベーション戦略ビジョンを有する経営リーダーを育成すること、第2に、イノベーションにかかわるエコシステムおよびイノベーション政策を整備することでイノベーションプロセスと成果物の市場化を促進すること、第3に、イノベーションを整備し、優れた人材を海外から誘致することの重要性を説いている。
 先ほどの論文では、ノーベル賞を受賞した研究者が、受賞につながった主要研究を開始した年齢を分析している。その結果、興味深いことが判明した。
 主要研究を開始した年齢は、化学賞の場合は平均37.6歳、生理学・医学賞の場合は36.6歳、物理学賞の場合は37.1歳であった。(同上)
 主要研究を始める年齢は意外と遅いという印象であった。数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞するためには、20代のうちに顕著な成果を上げていなければならず、30歳を過ぎてからでは手遅れであるそうだが、ノーベル賞に関してはこれは該当しない。では、30代後半に主要研究を始めるまでに何をしているのかと言うと、
 後に受賞に至る主要研究を行うまでに、特に研究者キャリアの開始時に多様かつ複数の研究機関や職業を経験している
(赤池伸一、原泰史「日本の政策的な文脈から見るノーベル賞」)
そうだ。そういえば、『致知』でも筑波大学名誉教授の村上和雄氏が、研究活動で高い業績を上げている研究者は、若いうちに研究分野の大幅な転換を経験していることが多いと述べていたのを思い出した。これは、昨今のスペシャリスト信奉に対する1つのアンチテーゼである。

 最近は、若手社員でもゼネラリストよりもスペシャリストを志向する人が増えていると聞く。海外ではそれがもっと顕著で、職務定義書(Job Description)に書かれた職種以外の仕事はしないという人が、欧米だけでなくアジアにも広がっている。ベトナムの場合は、一時的な異動であっても、60営業日以内に限定しなければならず、3日以上前に事前通告する必要があるとわざわざ労働法に定められている。私はこういう動きを見て、若いうちから自分に適した仕事がはっきりと解っている人など果たしてどれくらいいるのだろうかとかねてから疑問に思っていた。その点、日本のジョブローテーション制度は、本人の向き・不向きを一旦棚に上げて、若いうちに色々な業務を経験させるということで、非常に優れた制度であると考える。

 冒頭の引用文の最後には、海外人材を誘致することの重要性が書かれている。ビジネス界で現在流行している言葉を使えば、ダイバーシティ・マネジメントを行うべきだということだろう。ただ、多様性を確保するために誰彼構わず海外人材をチームに入れればよいというわけでもない。メンバーが頻繁に入れ替わるチームは、メンバー間の信頼関係の構築に時間がかかり、チームに問題をもたらすリスクがある。アメリカの航空業界では、大小様々なインシデントを全てデータベース化しているが、そのデータベースによると、インシデントが起きるのは、パイロット、キャビンアテンダント、グランドスタッフ、グランドハンドリング、航空管制官などのチームメンバーが初顔合わせのケースが多いと言う。社会学者ジェームズ・マーチの研究だったと思うが、パフォーマンスが高い研究チームというのは、”時々”新しいメンバーが入るチームだそうだ。

 現在のビジネスは、チームプレーを求められることが圧倒的に多い。研究活動も同じである。オートファジーの研究でノーベル賞を受賞した大隅良典教授は、東京大学時代には1人でコツコツと研究していたが、基礎生物学研究所に移籍してからは、広いスペースと研究チームが与えられ、これが研究を新しい方向へ向かわせる契機となったそうだ(原泰史、壁谷如洋、小泉周「ノーベル賞受賞者の特性分析から見える革新的研究の特徴」より)。以上のことを総合すると、高い業績を上げるチームは、①若いうちに多様な分野を経験したミドルクラスがリーダーとなり、②時々、外部からの視点を取り込むために海外の人材を活用し(外部からの視点を取り込むという目的が達せられるのであれば、必ずしも海外人材である必要はない)、③3年程度でチームを転々とする20代のメンバーも含めてマネジメントすることが重要と言えるであろう。

 冒頭の引用文には「成果物の市場化」が大切であると書かれている。企業が外部と成果物をやり取りする具体的な方法としては産学連携が挙げられる。本号には、「スター・サイエンティスト」と企業の相互関係について分析した論文が収録されている。これによると、スターサイエンティストと企業の協業は、お互いに正の効果をもたらすと言う。
 ベンチャー企業のパフォーマンス指標として、特許、開発中のプロダクト、上市したプロダクト、の3つを取り上げた上で、それらと①スター・サイエンティスト、②全米トップ研究大学(必ずしもスター・サイエンティストが存在するとは限らない)、③ベンチャーキャピタル、とのつながりを概観した。(中略)以上より、ベンチャー企業のパフォーマンスに影響を与える最たるものとしては、スター・サイエンティストとの共著が有力であることが示唆される。
(齋藤裕美、牧兼充「スター・サイエンティストが拓く日本のイノベーション」)
 ここで考えられるのは2つの仮説である。1つはスター・サイエンティストがベンチャー企業に時間を割くようになると、研究時間とのトレードオフが起き、研究業績は下がるという可能性である。もう1つは、資金が集められるようになるなどといった理由から、むしろ、より研究業績が上がるという可能性である。結論として、後者の仮説が支持される。(同上)
 以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第48回)】Webで公開されている失敗事例通りに失敗した産学連携プロジェクト」で書いたように、私は前職のベンチャー企業において産学連携で手痛い失敗をしたので、産学連携について偉そうなことは言えない。ただ、この失敗から学んだのは、企業は企業の目的、研究者は研究者の目的を追求しているのであって、産学連携であるからと言って必ずしも共通の目的を設定する必要はないということである。以前の記事「【JETRO】ASEAN-JAPAN Open Innovation Forum(セミナーメモ書き)」の中でも示したように、企業は企業の、研究者は研究者のBSC(バランス・スコア・カード)の実現を目指せばよい。その上で、企業がある目標を追求すると、研究者側のある目標の達成に寄与する、あるいはその逆の関係が生まれるように協業を調整することが、産学連携を成功に導くコツであると考える。

 企業内における「成果物の市場化」で思いつくのは、ナレッジ・マネジメント・システム(KMS)の活用である。10年ぐらい前はKMSという言葉が通用したのだが、残念なことに現在googleでKMSを検索してもナレッジ・マネジメント・システムは上位に表示されず、ブームが去ってしまった感がある。ただ、KMSは依然として、社員のナレッジの標準化、高度化を進める上では重要なツールであると考える。ここでの問題は、KMSの効果をどう測定するのかということである。研究者の場合、業績評価指標として、①論文の本数(量)と②被引用回数(質)がある。ただ、この2つでは不十分であり、「厚み」という新たな指標を提唱している論文が本号にはあった。
 われわれは、論文の集積度(accumulation)を評価指標として導入しようと考えた(ここでは、指標としてam5インジケーターと呼ぶことにする)。

 論文を被引用回数によって降順に並べていき、それをプロットしてグラフにしたのが図3(※省略)だ。厚みがあるといえるのは、この面積が大きいときである。また、被引用回数が1番の論文だけが飛び抜けているのか、2番目以降の論文もそこそこの被引用回数を保っているのか、このグラフの形も重要となる。

 そこで、原点から45度のラインを引き、その交点の位置で面積を疑似的に表すという指標を設定した。つまり、被引用回数と論文数が一致する点を見つけることになる。
(小泉周、調麻佐志「大学の研究力をどのように測るか?」)
 この指標によると、50回以上引用されている論文が1本あるものの、それ以外は1回か2回しか引用されていない論文ばかりの大学よりも、どの論文も平均的に5~6回程度引用されている大学の方が厚みがあると評価されることになる。

 随分前の話だが、営業部門にKMSを導入していたある顧客企業が、営業担当者が次から次へとナレッジを登録するため、結局どのナレッジを使えばよいのか解らないという問題を抱えていたことがあった。当時の私は、KMSの中身を整理し、社員がたくさん参照・ダウンロードするナレッジだけを残して、残りはバッサリと削除してはどうかとアドバイスした。しかし、今振り返ると間違ったことを言ってしまったと反省するばかりである。その顧客企業は、規模も業種も異なる様々な顧客を相手にしていた。だから、汎用的なナレッジなど存在しない。多様なナレッジが適度な参照回数を保つようにKMSの設計を見直してはどうかと助言するべきであった。
 新入職員は、最初の3カ月間は、園生と一緒に生活することから始まる。実習時や就職時にも、ケース記録は見せてもらえないという。ケース記録とは、成育歴や病歴など園生の状況がわかるカルテのようなものであるが、川田園長(当時)は見せてくれと言っても駄目だと言って見せなかった。その理由は、ケース記録を見てしまうと、その人の障害や病気を見てしまい、その人自身がどういう人であるかを見なくなってしまうからである。障害を先に理解するのではなく、まず自分からかかわっていくことで、園生を人として見るようになる。
(露木恵美子、前田雅晴「こころみ学園/ココ・ファーム・ワイナリー 人が「働くこと」の意味を問い直す―知的障害者支援施設の挑戦」)
 研究活動でも、基本は先入観を捨てて「観察」することであろう。企業であれば、顧客を観察することからビジネスが始まる。ところが、これは我々コンサルタントも悪いのだけれども、いわゆるCRMシステムを導入したことによって、システム上の情報ばかりを頼りに顧客に接する営業担当者、サービス担当者が増えてしまったように思える。

 また、私は中小企業診断士という仕事柄、様々な企業の事業計画書を読むことが多いのだが、明らかにコンサルタントが代筆したものだと解るケースがある。それは、市場ニーズに関する記述が、公表されている統計データなどを定量的に分析したものにとどまっている場合である。では、コンサルタントに頼らずに自力で事業計画書を書いた人はもっと突っ込んだニーズ分析ができているかというと、必ずしもそうではない。単に「○○というニーズを持ったお客様が増えている」と書かれているだけで、具体的に誰が、いつ、どのような場面で、どういうことを言ったのか、言葉の隅々まですくい上げた計画書はほとんど見たことがない。

 私は、かつての日本企業は顧客をじっくりと観察するということを自然にやっていたと思っている(以前の記事「創業補助金の書面審査をして感じたこと(自治体はもっとしっかりせよ)」では、スーパーマーケットの例を出した)。ところが、アメリカからデータ重視のマーケティング手法が導入されたことで、観察力が鈍ってしまった。もちろん、CRMシステムにも利点はある。営業担当者が前任から顧客を引き継いだ時、その顧客について何も知らずに顧客の元を訪問するのはさすがに失礼である。ただ重要なのは、CRMシステムに登録されている情報を鵜呑みにしないことである。本号の井上達彦氏の言葉を借りれば、「色眼鏡を外す」べきだ。そして、観察を通じて、CRMシステムに登録されている情報を自分なりに更新していく。そこに、”その”営業担当者”ならでは”の存在価値があり、”その人らしい”仕事のやり方というものが成立する。


2017年03月31日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法


一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 私がコンサルティングを行う場合には、BPR(Business Process Re-engineering)的な発想をすることが多い。BPRとは、元々は1990年代にマイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーが生み出したコンセプトで、日本では『リエンジニアリング革命』という書籍で紹介されている。BPRの目的は、「社内のビジネスプロセス(業務プロセス)を部門横断的に再構築(Re-engineering)して全体最適化し、顧客価値を最も効果的・効率的に実現すること」である。

 ただ、当時のアメリカ企業は、株主から短期的に業績を改善させて株価を上昇させるよう、強いプレッシャーを受けていた。経営陣は、手っ取り早くコストカットやリストラを行う手段としてBPRに飛びついた。その結果、短期的には確かに業績が回復したが、過剰なBPRによって必要な組織能力までが削がれたため、長い目で見ると再び経営不振に陥ってしまった。マイケル・ハマーは、自分の提唱したコンセプトがこのような形で利用されたことを後年になって反省している。

BPRの考え方

 繰り返しになるが、BPRの本来の目的は、全社のビジネスプロセスの最適化によって高い顧客価値を実現することにある。BPRの考え方をまとめたのが上図である。まず、自社の経営ビジョンや事業戦略をインプットとして、自社がどの方向に向かおうとしているのかを明らかにする。それを受けて、その方向を実現するためのあるべきビジネスプロセス(別の表現をすれば、社員の行動の流れ)をデザインする。その上で、ビジネスプロセスに対して人、モノ、カネ、情報といった経営資源を効果的・効率的に投入するための仕組みを構築する。

 失敗する全社改革は、ビジネスプロセスの議論をせずに、いきなり経営資源を投入するための仕組みを変えようとしていることが多い。もう随分昔の話になるが、富士通が成果主義を導入して失敗したのは典型例である。富士通として目指すべきビジネスがまだ明らかになっていないのに、成果主義という人事制度だけをいじったために、現場が混乱してしまった。また、なかなか業績が安定しないソニーも、EVA会計を導入したことがイノベーションの芽を摘んでいると言われる。EVA会計は、投資案件の将来価値をかなり正確に計算できる反面、芽が出るかどうか解らない中長期のハイリスク案件が排除されてしまうというデメリットがある。ITについて言えば、競合他社に遅れまいと流行のシステムを導入して失敗したという話は数え上げればきりがない。

 BPRで重要なのは、ビジネスプロセスのあるべき姿を最初にしっかりと固めることである。その手順を簡単に下図に示した。まず、自社の事業環境(客観的な情報)と経営ビジョン(主観的な情報)を分析し、主要な経営課題を抽出する。そして、それらの経営課題を達成するためのビジネスプロセスのあるべき姿の方向性を固める。あるべき姿の方向性は、この後の作業で具体的にビジネスプロセスをデザインする際の基軸となる極めて重要な考え方である。

 下図は自動車メーカーの例であるが、まずSWOT分析によって、「多様な顧客に対し、個々に適切に訴求」、「本社のノウハウを販社にも共有」という経営課題を導いている。また、経営ビジョンの解釈を通じて、「顧客の把握、顧客に合わせた接点」、「全社情報・ノウハウの集約化」という経営課題を抽出している。これら4つの経営課題から、あるべき姿の方向性を定義する。あるべき姿の方向性は、ビジネスプロセスの基軸となる考え方であるから、プロセス志向で記述する必要がある。下図では、①顧客理解深化と「個」客応対型セールス、②本社によるサポート強化と営業プロセス標準化、③マルチチャネルの活用、という3つの方向性を打ち出している。

あるべき姿のデザイン~作業イメージ

 あるべき姿の方向性が定まったら、それに基づいて具体的なビジネスプロセスへと落とし込んでいく。まず、縦軸にあるべき姿の方向性を、横軸にビジネスプロセスを並べる(下図では顧客の消費プロセスとなっているが、どちらでもよい)。そして、それぞれの方向性を受けて、ビジネスプロセスの各フェーズにおいて具体的にどのような業務を行うのかを記述する。例えば、「①顧客理解深化と「個」客応対型セールス」という方向性を受けて、「情報収集」フェーズでは、「個客ごとに最適化された質の高い情報の作成」という業務を行う、といった具合である。さらに細かくビジネスプロセスを定義する場合には、今度は縦軸に部門・担当者を並べて、各部門・担当者がそれぞれのビジネスプロセスのフェーズで具体的にどのような業務を行うのかを書いていく。

あるべき姿のデザイン~あるべき姿の詳細化

 以上がオーソドックスな方法であるが、最近はCSRもしくはCSVの観点から、社会的要請を反映させたあるべき姿をデザインする方法を考えなければならないと感じている。本号では、循環型経済を実現するために企業が着手すべきこととして、次のような提案がなされている。
 特に、生産プロセスは最終製品そのものと生産に使用されるすべての原料が、分別・再収集可能で、再利用されるか安全に自然に返されるよう、必ず再デザインされなければならない。
(ジョエル・ベーカー・マレン「循環型経済のためのイノベーション」)
 ビジネスのためのイノベーションが直面する最大の課題は、生物学的な投入物(※綿や羊毛のように、製品寿命が終わった際に安全に自然に返すことができる原料のこと)と技術的な投入物(※金属や石油化学製品のような原料で、生産過程で意図的に価値を持つように意図的に加工を施されたもの。安全に自然循環に返すことができない)を製品使用後に効率的に収集・分離し、これらを直線的システムではなく循環型経済システムのなかで機能するような製品と生産プロセスにデザインしていくことである。(同上)
 前述の自動車メーカーの例で言えば、安直な発想だが、4つ目のあるべき姿の方向性として、「④自動車部品や下取り車のリサイクルを推進する」が加わり、「カーライフ期」において、販売店は「部品メーカーと連携して交換部品のリサイクルを行う」、部品メーカーは「交換部品を生物学的な投入物と技術的な投入物に分解する」、「技術的な投入物が新品と同等の品質を有するよう再加工する」、「技術的な投入物を部品製造ラインに再投入する」必要が出てくるだろう。

 また、あるべき姿の方向性のインプットとして重要になるのが、以前の記事「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】」で触れた17の目標である。これらの目標のうち、自社のビジネスに関連するものを取り入れていくことも重要である。ここでポイントとなるのは、社会的要請やSDGsを自社のビジネスの制約要因ととらえないことである。社会的要請やSDGsを自社ビジネスの成長・発展につなげる視点が必要である。この辺りはまだフレームワークにまで落とし込むことができていないため、今後の私の課題である。

 ※4月は1か月間ブログをお休みとさせていただきます。5月にまたお会いしましょう!



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