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『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法
『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案
『構造転換の全社戦略(『一橋ビジネスレビュー』2016年WIN.64巻3号)』―家電業界は繊維業界に学んで構造転換できるか?、他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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2017年03月31日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法

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一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 私がコンサルティングを行う場合には、BPR(Business Process Re-engineering)的な発想をすることが多い。BPRとは、元々は1990年代にマイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーが生み出したコンセプトで、日本では『リエンジニアリング革命』という書籍で紹介されている。BPRの目的は、「社内のビジネスプロセス(業務プロセス)を部門横断的に再構築(Re-engineering)して全体最適化し、顧客価値を最も効果的・効率的に実現すること」である。

 ただ、当時のアメリカ企業は、株主から短期的に業績を改善させて株価を上昇させるよう、強いプレッシャーを受けていた。経営陣は、手っ取り早くコストカットやリストラを行う手段としてBPRに飛びついた。その結果、短期的には確かに業績が回復したが、過剰なBPRによって必要な組織能力までが削がれたため、長い目で見ると再び経営不振に陥ってしまった。マイケル・ハマーは、自分の提唱したコンセプトがこのような形で利用されたことを後年になって反省している。

BPRの考え方

 繰り返しになるが、BPRの本来の目的は、全社のビジネスプロセスの最適化によって高い顧客価値を実現することにある。BPRの考え方をまとめたのが上図である。まず、自社の経営ビジョンや事業戦略をインプットとして、自社がどの方向に向かおうとしているのかを明らかにする。それを受けて、その方向を実現するためのあるべきビジネスプロセス(別の表現をすれば、社員の行動の流れ)をデザインする。その上で、ビジネスプロセスに対して人、モノ、カネ、情報といった経営資源を効果的・効率的に投入するための仕組みを構築する。

 失敗する全社改革は、ビジネスプロセスの議論をせずに、いきなり経営資源を投入するための仕組みを変えようとしていることが多い。もう随分昔の話になるが、富士通が成果主義を導入して失敗したのは典型例である。富士通として目指すべきビジネスがまだ明らかになっていないのに、成果主義という人事制度だけをいじったために、現場が混乱してしまった。また、なかなか業績が安定しないソニーも、EVA会計を導入したことがイノベーションの芽を摘んでいると言われる。EVA会計は、投資案件の将来価値をかなり正確に計算できる反面、芽が出るかどうか解らない中長期のハイリスク案件が排除されてしまうというデメリットがある。ITについて言えば、競合他社に遅れまいと流行のシステムを導入して失敗したという話は数え上げればきりがない。

 BPRで重要なのは、ビジネスプロセスのあるべき姿を最初にしっかりと固めることである。その手順を簡単に下図に示した。まず、自社の事業環境(客観的な情報)と経営ビジョン(主観的な情報)を分析し、主要な経営課題を抽出する。そして、それらの経営課題を達成するためのビジネスプロセスのあるべき姿の方向性を固める。あるべき姿の方向性は、この後の作業で具体的にビジネスプロセスをデザインする際の基軸となる極めて重要な考え方である。

 下図は自動車メーカーの例であるが、まずSWOT分析によって、「多様な顧客に対し、個々に適切に訴求」、「本社のノウハウを販社にも共有」という経営課題を導いている。また、経営ビジョンの解釈を通じて、「顧客の把握、顧客に合わせた接点」、「全社情報・ノウハウの集約化」という経営課題を抽出している。これら4つの経営課題から、あるべき姿の方向性を定義する。あるべき姿の方向性は、ビジネスプロセスの基軸となる考え方であるから、プロセス志向で記述する必要がある。下図では、①顧客理解深化と「個」客応対型セールス、②本社によるサポート強化と営業プロセス標準化、③マルチチャネルの活用、という3つの方向性を打ち出している。

あるべき姿のデザイン~作業イメージ

 あるべき姿の方向性が定まったら、それに基づいて具体的なビジネスプロセスへと落とし込んでいく。まず、縦軸にあるべき姿の方向性を、横軸にビジネスプロセスを並べる(下図では顧客の消費プロセスとなっているが、どちらでもよい)。そして、それぞれの方向性を受けて、ビジネスプロセスの各フェーズにおいて具体的にどのような業務を行うのかを記述する。例えば、「①顧客理解深化と「個」客応対型セールス」という方向性を受けて、「情報収集」フェーズでは、「個客ごとに最適化された質の高い情報の作成」という業務を行う、といった具合である。さらに細かくビジネスプロセスを定義する場合には、今度は縦軸に部門・担当者を並べて、各部門・担当者がそれぞれのビジネスプロセスのフェーズで具体的にどのような業務を行うのかを書いていく。

あるべき姿のデザイン~あるべき姿の詳細化

 以上がオーソドックスな方法であるが、最近はCSRもしくはCSVの観点から、社会的要請を反映させたあるべき姿をデザインする方法を考えなければならないと感じている。本号では、循環型経済を実現するために企業が着手すべきこととして、次のような提案がなされている。
 特に、生産プロセスは最終製品そのものと生産に使用されるすべての原料が、分別・再収集可能で、再利用されるか安全に自然に返されるよう、必ず再デザインされなければならない。
(ジョエル・ベーカー・マレン「循環型経済のためのイノベーション」)
 ビジネスのためのイノベーションが直面する最大の課題は、生物学的な投入物(※綿や羊毛のように、製品寿命が終わった際に安全に自然に返すことができる原料のこと)と技術的な投入物(※金属や石油化学製品のような原料で、生産過程で意図的に価値を持つように意図的に加工を施されたもの。安全に自然循環に返すことができない)を製品使用後に効率的に収集・分離し、これらを直線的システムではなく循環型経済システムのなかで機能するような製品と生産プロセスにデザインしていくことである。(同上)
 前述の自動車メーカーの例で言えば、安直な発想だが、4つ目のあるべき姿の方向性として、「④自動車部品や下取り車のリサイクルを推進する」が加わり、「カーライフ期」において、販売店は「部品メーカーと連携して交換部品のリサイクルを行う」、部品メーカーは「交換部品を生物学的な投入物と技術的な投入物に分解する」、「技術的な投入物が新品と同等の品質を有するよう再加工する」、「技術的な投入物を部品製造ラインに再投入する」必要が出てくるだろう。

 また、あるべき姿の方向性のインプットとして重要になるのが、以前の記事「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】」で触れた17の目標である。これらの目標のうち、自社のビジネスに関連するものを取り入れていくことも重要である。ここでポイントとなるのは、社会的要請やSDGsを自社のビジネスの制約要因ととらえないことである。社会的要請やSDGsを自社ビジネスの成長・発展につなげる視点が必要である。この辺りはまだフレームワークにまで落とし込むことができていないため、今後の私の課題である。

 ※4月は1か月間ブログをお休みとさせていただきます。5月にまたお会いしましょう!

2017年03月30日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案

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一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」で以下の図を用いてきたが、「必需品か否か?」という縦軸が非常に曖昧であるという問題意識を持っていた。必需品と言うと、普及率が高い製品・サービスを想起しがちだが、私が下図の「必需品でない」という言葉で意図していたのは、1人1台などの制約を超えて、その製品・サービスが好きな人はとことんそれを購入するということであった。この点が「必需品ではない」という言葉ではどうも上手く伝わらない。また、【象限③】の具体的企業としてマイクロソフトを入れたのも、【象限③】はイノベーションに強いアメリカの企業が多いことを示すための苦肉の策である。前述の「必需品でない」という言葉の意味からすると、MSの製品を何台も買う人はいないから、【象限③】に入れるのには無理があった。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)
 (※)世界の時価総額トップ20の企業を各象限にあてはめたもの。
製品・サービスの4分類(修正)

 そこで、上図を以下のように修正してみた。縦軸は、「人口・企業数によって需要が予測しやすいか?」である。【象限①】の日用品や食品、白物家電、【象限②】の自動車や住宅などは、人口によって需要がある程度予測できる。よほどの大食漢でもない限り1日5食も6食も食べないし、よほどの物好きでもない限り自動車を5台も6台も所有しない。以前の図では金融(保険)を【象限③】に入れていたが、生命保険を2つも3つも契約する人はいないから、【象限①】に移動させた。以前の記事でも書いた通り、【象限①】は「製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」ため、参入障壁が低く、比較的中小のプレイヤーが過当競争を繰り広げる傾向がある。近年、保険の種類は爆発的に増えており、【象限①】の特徴にも合致する。

 【象限③】から【象限①】に移動させたもう1つの例がMSである。前述のように、パソコンの需要は人口や企業数によってある程度予測がつくというのがその理由である。ただし、【象限①】では比較的中小のプレイヤーが過当競争を繰り広げるという傾向に反して、MSは未だに世界で独占的地位を占めている。MSだけは、私の頭を悩ます大いなる例外である。【象限①】の本来の特性に従えば、世界中で様々なOSが登場し、OS間の互換性を持たせるためのソフトも多数開発されるはずであるが、MSは戦略的にその道をふさぐことに成功している。

 【象限③】と【象限④】は、人口・企業数による需要予測が難しい製品・サービスである。スマートフォン、タブレットは、本体自体は人口による制約を受けるものの、スマホやタブレットのビジネスの本質はアプリにある。アプリが好きな人は次々とアプリをインストールするし、ゲームにはまった人はどんどん課金をする。スマホやタブレットのビジネスは、こうしたコアな顧客層に支えられている(この点がパソコンと異なる)。エンタメ、テレビメディア(主に娯楽関係)、映画、音楽に関しては、見たい人、聴きたい人はとことんはまり、関連製品・サービスをたくさん購入する一方で、興味のない人は全く見向きもしない。ブランド品や書籍、雑誌も同じである。証券についても、投資する人とそうでない人との間には、投資金額に雲泥の差がある。googleやfacebookを中毒のように使用する人もいれば、そういうものをほとんど使わない人もいる。

 【象限④】は、人口・企業数による需要予測が難しく、かつ、製品・サービスの欠陥が顧客・事業に与えるリスクが大きいという、最も経営が難しい象限である。以前の図ではここに軍事と航空を入れていたが、航空は人口によってある程度需要の予測がつく(飛行機が好きだからという理由で飛行機に乗りまくる人はいない)。そのため、航空は【象限②】に移動させた。代わりに、金融(預金・貸出)を【象限②】から【象限④】に移動させた。金融機関が預金と貸出によって実現する信用創造機能は、経済システムを支える根幹である。よって、ここに障害が起きると、経済全体が破綻する危険性がある。かつ、預金者は通常、持っている現金の大半を預金するし、企業は借りられる時に目一杯融資を受けようとするから、その需要は予測しづらい。

 軍事と金融(預金・貸出)は、他の業界に比べて特別な意味合いを持っている。金融(預金・貸出)は、前述の通り金融機関による信用創造機能と関連している。また、軍事は、特にアメリカにおいて顕著だが、よくも悪くもイノベーションの重要な源泉となっている。軍事上の発明が民生化されて世界中に普及した例は枚挙にいとまがない。

製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例①)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例②)

 最後の図で、【象限①】と【象限②】は機能面重視、【象限①】と【象限③】は情緒面重視と書いたが、【象限②】は情緒面を、【象限③】は機能面を全く無視しているわけではない点は誤解がないように補足しておかなければならない。本号には以下の記述があった(ようやく本号の内容に触れることができた)。特に、日本企業が強みとする【象限②】において、情緒面のウェイトを高めていくことが今後は重要となるであろう。
 日本企業のなかでも、高い国際競争力を維持している自動車産業は、このアップルと同様の特徴を持つ。日本企業がものづくりに優れているのは他の産業でも同様だが、自動車の顧客価値はカタログ仕様を超え、主観的な好みが重要である。自動車を購入する場合には、カタログだけではなく、販売店でじっくり観察し、試乗する場合が多い。
(延岡健太郎「顧客価値の暗黙化」)
 今まで私は、イノベーションを【象限③】に限り、【象限①】と【象限②】はマーケティングの世界だとしてきた。だが、これではイノベーションを狭くとらえすぎているのではないかと反省した。【象限①】や【象限②】でもイノベーションはありうる。ただし、【象限③】のイノベーションにはアメリカ企業が強いのは事実である。【象限③】は人口・企業数によって需要が規定される象限ではないため、イノベーションがヒットすれば市場は指数関数的に増加する可能性を秘めている。一方で、何がヒットするかを事前に予測することが困難であるから、イノベーターは次々とイノベーションを市場に投下しなければならない。その結果、イノベーションが小粒になる恐れがある。日本の話になるが、新規性よりも一過性の奇抜さが重視され、「なぜこんなアプリ、映画、音楽、ドラマがヒットするのか?」と首をかしげたくなるイノベーションが増えているような気がする。
 現在、加速しているように見えるイノベーションは、既存のシステムを創造的に破壊するようなものというよりも、既存のシステムの上で新しい価値を付け足せるようなイノベーションであるということが考えられる。(中略)イノベーションが加速しているといっても、手近な果実の組み合わせばかりを追求しているということを示唆している。
(清水洋「加速するイノベーションと手近な果実」)
 一方で、【象限①】や【象限②】におけるイノベーションとは、既存の製品・サービスの技術を大幅に高めたり、既存の製品・サービスに取って代わる新しい技術を生み出したり、ビジネスモデルやビジネスシステムを抜本的に再構築したりするような大がかりなものである。したがって、【象限③】のイノベーションに比べると、普及に時間がかかる。前述の論文の著者の言葉を借りれば、【象限①】や【象限②】のイノベーションに必要なのは、以下の要素となる。
 これまで経済史の研究の蓄積から、大きな経済成長をもたらすのは、ジェネラル・パーパス・テクノロジーとそれについての累積的な改良であるということが明らかになってきている。(同上)
 本号で衝撃的だったのは、一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎教授が「アントレプレナーは育成できない」と断言していることだった。
 (※これまでの自身の)経験からいって「新しい事業を起こす企業家、すなわちアントルプルヌアの育成などはできない」というのが、筆者の率直な実感である。(中略)そもそも育成なんかできないのだから、誰でも彼でも起業にチャレンジさせ、そのプロセスでアントルプルヌアに仕上げることが重要となる。
(米倉誠一郎「企業の新陳代謝とクレイジーアントルプルヌアの輩出」)
 起業家教育に携わった人物が起業家教育を否定しているのだが、個人的にはそれでも起業家教育は必要だと思う。ただし、起業家教育を通じて起業家を輩出することが目的ではない。起業家教育という既存の枠組みに収まらない型破りな起業家を生み出すのが目的である。私はこれを「教育のパラドクス」と呼んでいる。私の直観だが、教育に投資すればするほど、既存の知識体系では物事を考えない人が現れる。そして、彼らが経済や社会の成長を牽引する。実は、彼らが実際に教育を受けたか否かは問題ではない。彼らは教育を受けなくても、既存のフレームワークを打破することがある。なぜそんなことが可能なのか今の私には解らないのだが、現にビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズはMBAを受けなくても世界を変えることができた。

2017年01月29日

『構造転換の全社戦略(『一橋ビジネスレビュー』2016年WIN.64巻3号)』―家電業界は繊維業界に学んで構造転換できるか?、他

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一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2016-12-09

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 (1)
 事業立地が重要なのは、その初期選択が収益ポテンシャル、すなわち利益率の上限値を規定するからである。だとすると、われわれは事業立地の優劣を事前に論じるすべを手に入れなければならないし、優劣が固定的なのか否かも知る必要がある。
(三品和広「事業立地の戦略論―最新形」)
 この論文で言う「事業立地」とは、企業が工場や店舗を構える物理的な立地のことではない。そうではなく、企業が戦うべき業界・市場・フィールドのことを指している。事業立地が収益性を規定するという考え方は、マイケル・ポーターと共通する。ポーターは、市場構造(Structure)が企業行動(Conduct)を規定し、企業行動が成果(Performance)を決定するというSCPモデルに基づき、様々な業界を分析した。その結果、業界によって収益性に大きな差があることを発見した。その差を生み出している要因をまとめたものが、有名な「ファイブ・フォーシズ・モデル」である。

 収益性が高い魅力的な業界にいるならば問題ない。問題は、自社が収益性の低い業界にいると解った時である。この場合、まずは、5つの力(①競合他社との競争関係、②供給者の力、③買い手の力、④新規参入の脅威、⑤代替品の脅威)を弱める施策を打つことで、収益性を改善することができる。だが、ポーターはそれよりももっと簡単な処方箋を用意した。すなわち、コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中(ニッチ)戦略という3つの基本戦略のうち、どれか1つを選択すればよいというわけである。このシンプルさが世界的に受けた。

 ポーターは、様々な業界について、横軸に売上規模、縦軸に利益率をとって各企業をプロットした結果、「売上高も利益率も大きい企業群」と「売上高は小さいが利益率が大きい企業群」という魅力的な企業群に挟まれるような形で、「売上高はそこそこあるのに収益性が低い企業群」が見られることを突き止めた。さらに分析を進めると、「売上高も利益率も大きい企業群」はコスト・リーダーシップ戦略か差別化戦略を、「売上高は小さいが利益率が大きい企業群」は集中戦略を採用していることが解った。一方で、基本戦略のうち複数を追求しようとする欲張りな企業は「売上高はそこそこあるのに収益性が低い」という状態に陥ると指摘した。
 残念なことにポーターは、せっかくフレームワークを作りながら捨て置いて、その先のポジション取りに突き進んでしまった。事業立地を所与としたまま、そこで何ができるのかを考えに行ったのである。そのため、5つの力が強すぎて利益の出ない事業立地に取り残されてしまった企業がどうすればよいのかについては、何も書いていないに等しい。(同上)
 三品氏は上記のように指摘するが、私はポーターは一応前述のような方策を用意してくれていると思う。そもそも、最初から収益性が高い魅力的な業界にいるのであれば、どんなポジショニングを取っても関係がないわけであって、多くの企業は収益性がそれほど高くない業界にいるからこそ、ファイブ・フォーシズ・モデルや3つの基本戦略が意味を持つ。

 三品氏からすれば、わざわざ収益性の低い業界で戦う戦略を論じるよりも、もっと高収益で魅力的な業界にシフトした方がよいということなのだろうが、本論文では具体的にどうすれば事業立地を変えられるのかまでは触れられていないと感じた。確かに、高収益企業の大半は、現在の主力企業が祖業と異なることが定量的に示されているものの、これらの企業がどのようにして祖業からの脱却を図ったのかという点になると、トップ・マネジメントの長期間に渡る強力なリーダーシップによる、といったありがちな主張にとどまってしまう。

 戦略論には、大きく分けると外部環境アプローチと内部環境アプローチがあり、三品氏やポーターは外部環境アプローチに所属する。三品氏は論文の中で、内部環境アプローチに対して、次のような手厳しい批判を浴びせている。
 リソース学派は、事後の説明として魅力的であるが、事前の処方となると無力である。どうしてA社がB社より優れたリソースを有すると判断できるのかと問われて、A社がB社に対して優位に立つからと答えるしかないとしたら、これはトートロジーに終わってしまう。それなのに、リソースの優劣を測定してみせた研究は皆無に近いのである。(同上)
 ただし、面白いことに、本号の別の論文には次のような記述がある。
 もちろん、「基本戦略」や「ファイブフォース分析」そのものが悪いわけではありません。しかし、こうしたフレームワークやコンセプトこそが戦略の中核だと思ってしまった瞬間、企業のなかでは「コンテンツ」つまり「数字」「分析」「効率」が幅を利かせ、目に見えるもの、数値化できるものこそがすべてであると勘違いされます。(中略)

 戦略の実行こそプロセスが大切です。立派な戦略を(本社が、あるいはコンサルタントが)作ったから、あとは現場が実行するだけ、ということはまずなく、それがどのようにしたら現場に浸透・共有されるのか、あるいは、すでにこれまでやってきた戦略と乖離がある場合は(環境が変われば当然なのですが)、どのようにしてその乖離を埋め、組織を動かしていくか。こうした問題は、「正しいアウトプット」とはまた別次元の話です。そもそも「正しいかどうか」も、実行してみない限りわからないことが多いのです。
(清水勝彦「良い失敗とコミュニケーション―今、私たちが本当に考えなくてはならない戦略へのアプローチ」)
 著者の言葉を借りれば、戦略論にはコンテンツ重視派とプロセス重視派がある。コンテンツ重視派は外部環境アプローチに、プロセス重視派は内部環境アプローチに対応していると言ってよい。外部環境やコンテンツが戦略や収益性を規定するというのは、あまりにも決定論的すぎて、大半の企業にとって救いがない。総合的に見れば収益性が芳しくないけれども、企業の努力次第で、つまり内部環境を適切に充実させることで競合他社よりも高い収益を達成できるという戦略論の方に、個人的には賭けてみたい。やや話が逸れるが、倒産した企業の原因を分析した研究によると、外部環境が4割、内部環境が6割だという。もちろん外部環境は重要だが、企業を存続させるためにはそれ以上に内部環境を重視しなければならないことを示唆している。

 (2)
 欧州勢は半導体、テレビ、通信機器などの事業を売却、もしくはスピンアウトし、一方で医療機器、重電機器、照明関連の会社を買収して、業界再編によって欧州市場を集約した。この結果、収益性は大きく改善し、一度売り上げ規模は小さくなったが成長を遂げている。
(佐藤文昭「抜本的構造転換の企業戦略―大手電機メーカーの栄枯盛衰から学ぶ」)
 三菱電機も日立製作所も国内では成功組と言われる。ともに社会インフラ、産業機器、自動車関連などをコア事業にしている。これら事業は品質、信頼性、安全、安心に加え、長期安定供給することが求められる。(同上)
 (1)で事業立地の変更について触れたが、現在、日本の産業界の中で事業立地の変更の必要性に最も迫られているのは家電業界であると言えるだろう。(1)では、基本的に収益性が低い業界でも、内部環境を充実させることで高収益事業になりうる可能性を示した。そのことと矛盾するようだが、例外的に家電業界は日本企業にとってもはや適切な事業立地とは言えない。

 私が本ブログで頻繁に用いている下図によると、家電業界は<象限①>の「必需品だが、製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」に該当する。こう書くと、「家電製品も欠陥があれば消費者の生命を脅かす」と反論する人もいるだろう。しかし、私に言わせれば、家電製品が消費者の生命を脅かすのは、メーカーが過剰な機能を製品に詰め込んで製品を複雑にしたためである。消費者が本当に必要とする機能に集中すれば、リスクは低減する。この象限は、新興国がコスト優位性を武器に強みを発揮するか、先進国内の雇用の受け皿として機能する(飲食・小売店が典型である)。日本企業がいつまでも拘泥すべき象限ではない(この点で、私も多少は決定論的な外部環境アプローチの影響を受けていることを認める)。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 (※上図については「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」を参照)

 家電業界が事業立地を変更するにあたって参考にすべきは、かつて日本が世界で圧倒的に優位性を保っていたが、その後急速に新興国に取って代わられた繊維業界であると思う。その意味で、本号に東洋紡のケーススタディ(藤原雅俊、青島矢一「東洋紡―抜本的企業改革の推進」)が掲載されているのは、何か編集者側の意図を感じる。

 東洋紡は1990年代後半から事業改革に着手し、全社の売上高に占める繊維事業の割合を徐々に減少させながら、非繊維事業の割合を増加させてきた。結果的に、1990年代に5,000億円を超えていた売上高は、2015年には約3,500億円へと縮小したものの、営業利益率は大幅に改善している。ここでポイントとなるのは、東洋紡が繊維事業の縮小、具体的には工場の閉鎖・売却を10年単位の長いスパンで実施していることである。欧米企業であれば、不採算工場をスパッと切ることもできただろう。しかし、日本の場合、1つの工場を閉鎖するだけでも、工場が立地する自治体との調整や労働組合との交渉、工場に勤務する社員の次の仕事の探索など、手間のかかるプロセスを1つ1つ踏まなければならない。

 シャープや東芝がかつてのように巨大な企業規模を保つことはもはや難しいだろう。ただし、東洋紡のように粘り強く構造転換を行えば、優良な高収益率企業に生まれ変わるかもしれない。それにはおそらく10年以上の時間がかかると思われる。(1)で述べた、プロセス重視の戦略を息切れすることなく続けられるかどうかが成否を握るに違いない。家電メーカーの再生は、長い目でウォッチし続ける必要がありそうである。

 (3)以前の記事「【現代アメリカ企業戦略論(4)】全体主義に回帰するアメリカ?」で、アメリカのU理論やマインドフルネスと、日本の知識創造理論の違いについて触れた。両者は、「個人の意識が全体の意識へと昇華されていく」という表面的な部分では共通する。
 このプロセスは、現象学の「相互主観性(intersubjectivity)」の概念で裏づけられる。相互主観性とは、複数の主観がそれぞれの独自性を維持したまま、共同で築き上げる「われわれ(we)」の「共同主観」すなわち「共観」である。つまり、相互に他者の主観と全人格的に向き合い、受け入れ合い、共感し合う時に成立する、自己を超える「われわれ」の主観である。
(野中郁次郎「知的機動力を練磨する―暗黙知、相互主観性、自律分散リーダーシップ」)
 しかし、U理論やマインドフルネスにおいては、「宇宙」という絶対性(物理学者デイビッド・ボームの言葉を借りれば「内蔵秩序」)と個人が同化し、1がすなわち全体と等しくなって全体主義へと傾倒していく恐れがある。これに対して、知識創造理論は「共通善」を追求するとあるものの、そこで得られた解は他の全ての人々に通用するものではない。
 それは個別具体の文脈で「ちょうど(just right)」の解を見つける能力であり、個別と普遍、細部と大局を往還しつつ、熟慮に基づく合理性とその場の即興性を両立させる能力である。「行為のただ中の熟慮(contemplation in action)」を行い、「文脈に即した判断」と「適時・絶妙なバランス」を同時に実現し、矛盾や対立を総合する弁証法の知である。(同上)
 知識創造理論においては、組織の成員が個人と集団、部分と全体、現在と未来、感覚と論理、暗黙知と形式知、身体と心、行動と思考の間を高速で何度も行き来しながら「ちょうど」の解を導出すると私は考える。その解は個別文脈においてのみ意味を持つものである。さらに言えば、個別文脈は絶えず変化するから、両軸の間の高速振り子運動を常に続けることによって、最善の解を更新していかなければならない。よって、全体主義に陥ることは絶対にない。


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