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DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性
『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年12月12日

『致知』2017年12月号『遊』―「社員満足度がモチベーションを上げる」という理屈にどうも納得できない


致知2017年12月号遊 致知2017年12月号

致知出版社 2017-12


致知出版社HPで詳しく見る by G-Tools

 最近、英語の速読力を上げるために、受験生時代に慣れ親しんだ『英語長文問題精講』(中原道喜編)を読み返しているのだが(何となく、目的と手段が一貫していないような気もするのだが、汗)、その中に次のような文章があった。
 Which (* a worker or a laborer) a man is can be seen from his attitude towards his leisure. To a worker, leisure means simply the hours he needs to relax and rest in order to work efficiently. He is therefore more likely to take too little leisure than too much; workers die of heart diseases and forget their wives' birthday. To the laborer, on the other hand, leisure means freedom from compulsion, so that it is natural for him to imagine that the fewer hours he has to spend laboring, and the more hours he is free to play, the better.
英語長文問題精講 新装版英語長文問題精講 新装版
中原 道喜

旺文社 2000-01-01

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 「仕事をする人」にとっては、余暇は仕事のために充電する時間であって、短ければ短いほどよいのに対し、「労働をする人」にとっては、余暇は苦役からの解放の時間であるから、長ければ長いほどよい、といった趣旨の文章である。『致知』2017年12月号の特集は「遊」であり、この「仕事をする人」に関する記事が多かったように思う。彼らにとっては、仕事が遊びのようなものである。だから、どれだけ長い時間働いても苦痛ではない。

 「仕事」と「遊び」が二項対立の関係にあるならば、本ブログでしばしば日本流の「二項混合」の重要性を説いている私などは、「仕事をする人」のような態度を支持するのではないかと思われるかもしれない。しかし、こと「仕事」と「遊び」に関しては、私はきっちりと分けた方がよいと考える。仕事と遊びが混合すると、結局のところ遊びが仕事によって浸食されてしまう。この傾向は、ITの発達によってより加速している。せっかく長期休暇を取得したのに、旅行先に会社のPCと携帯電話を持っていかなければならず、休暇中も電話やメールに対応しているビジネスパーソンが増加していることは、早くも2000年代初頭のアメリカで指摘されていた(ジル・A・フレイザー『窒息するオフィス―仕事に強迫されるアメリカ人』〔岩波書店、2003年〕)。最近、JALが「ワーケーション」を提唱しているが、アメリカと同じような状態になるであろうことは容易に予想がつく。

窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人
ジル・A・フレイザー 森岡 孝二

岩波書店 2003-05-28

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シリコンバレー式 よい休息シリコンバレー式 よい休息
アレックス・スジョン-キム・パン 野中 香方子

日経BP社 2017-05-25

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 アレックス・スジョン-キム・パンの『シリコンバレー式 よい休息』(日経BP社、2017年)では、仕事と遊び、休暇をはっきりと分けた人物の例として、ドワイト・アイゼンハワーとウィンストン・チャーチルが紹介されている。アイゼンハワーは、1942年6月に欧州戦域連合国最高司令官に任命されると、1日に15~18時間働き、様々な問題のせいで夜中もずっと起きていることが珍しくなかった。彼はホテル暮らしをしていたが、息抜きをするための”隠れ家”を探すように側近に命じた。側近はロンドン各地を探した末に、森の中にある小ぢんまりとした目立たない家を見つけた。彼は夏と秋、暇さえあればこの隠れ家でゴルフをし、西部劇小説を読み、時にはただ田舎暮らしを楽しんだ。このような息抜きを社会学者は「分離(デタッチメント)」と呼ぶ。

 また、ただ楽しいだけでなく、幾重もの意味と個人的な重要性を持つ遊びのことを「ディープ・プレイ」と言う。チャーチルにとっては、絵を描くことがディープ・プレイであった。1915年、ガリポリの戦いに敗れ、責任を問われて海軍大臣を辞した後、彼は絵を描き始めた。彼は『娯楽としての絵画』という本で、忙しい人は十分な休息を取る必要があるが、そういう人は性格的に何かをしないではいられないものだと書いている。そして、「いつも関心を向けている領域を照らすライトのスイッチを切るだけでは不十分だ」と続ける。「興味をそそる新たな領域の明かりをともさなければならない」。幸いなことに「心の疲れた部分は、単に休むことによってではなく、他の部分を使うことによって休まり、強化され得る」とも述べている。

 ディープ・プレイとは、言わば”真面目に遊ぶ”ことである。普段使わない心の部分を使うことによって、かえって普段使っている心の部分が刺激され、創造的になることができる。アーティストはしばしば、独創的なアイデアは作品作りに真剣に向き合っている時ではなく、ふと息を抜いた瞬間に突然降りてくると証言している(私が好きなMr.Childrenの桜井和寿氏は、趣味のサッカーをしている時に、歌詞やメロディーが突然浮かぶことがあるとインタビューで答えている)。仮に仕事と遊びに二項混合が成り立つとしたら、私はこのことを指して言うだろう。

 一般に、仕事と遊びが一緒になっているような人は、満足度やモチベーションが高く、その結果高い成果につながると考えられている。ここで思い出すのが、インターナル・マーケティングの分野で取り上げられる、「社員満足度を上げると顧客満足度が上がり、企業の収益が上がる」という説である。私も昔は無批判的にこの説を信じており、旧ブログでは「「ES向上⇒CS向上⇒利益向上」の自己強化システムについての考察-『バリュー・プロフィット・チェーン』」という記事を書いてしまった。だが、この説では、社員満足度とモチベーションが混同されている。

 社員満足度は「過去に対する評価」であるのに対し、モチベーションは「これから仕事をしようとする意欲」のことであり、時間軸が異なっている。「これまでがよかったから、これからも頑張ろう」という因果関係、さらに「これからも頑張ろうという社員が実際に頑張った結果、顧客が満足する」という因果関係が成り立つならば、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上⇒顧客満足度の向上」という図式を認めてもよいだろう。

 「顧客満足度が上がると企業の収益が上がる」という部分も注意が必要である。顧客が満足してしまうと、もう次の製品・サービスを購入しないケースもあるからである。ソーシャルゲームに飽きてしまったユーザーが課金しなくなるのが解りやすい例であろう。企業の収益につなげるためには、顧客に対して「これまでの製品・サービスに満足しているから、これからも製品・サービスを購入しよう」と思わせなければならない。つまり、顧客に再購入の意欲(モチベーション)を持たせなければならない。だから、「顧客満足度が上がると企業の収益が上がる」という説は、正確には「顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」と記述するべきである。これを先ほどの図式とつなげると、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上⇒顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」となる。

 「顧客満足度の向上⇒顧客の再購入意欲の向上⇒企業の収益向上」の部分に関しては、今回の記事ではこれ以上踏み込まない(これはこれで非常に興味深いテーマであり、今後も追求していきたいと思う)。個人的には、「社員満足度の向上⇒モチベーションの向上」という関係について疑問を抱いている。社員満足度とモチベーションの関係はこんなに単純ではない。我々は、仕事に不満足でもモチベーションが上がることがあることを知っている。ライバルである同僚に負ければ「なにくそ」と思うし、上司に叱られれば「あの上司を見返してやろう」と思う。

 極端な話をすれば、「仕事内容」に関しては不満足であった方が、モチベーション向上につながりやすいのではないかというのが私の考えである。ただし、いたずらに社員を不満足に追い込めばよいというわけではない。社員を取り巻く「職場環境」については、社員を十分に満足させる必要がある。職場環境は社員個人の力ではどうにもできないから、企業が責任を持つのである。他方で、社員が自分の能力で何とかしなければならないことについては不満足を感じさせる。つまり、「会社がこれだけお膳立てをしてくれているのに、なぜ自分は仕事ができないのだろう?会社がこれだけお膳立てをしてくれているのだから、もっといい仕事ができるはずだ」と思わせることが、社員のモチベーション向上につながる。「職場環境に対する満足&仕事内容に対する不満足⇒モチベーションの向上」というのが私の仮説である。

 ここで、「職場環境に対する満足」と「仕事内容に対する不満足」を構成する代表的な要素として、私は以下を想定している。

 <職場環境に対する満足>
 ①仕事に対する裁量や権限が与えられている。
 ②仕事を進める上でのマニュアル、ツール、設備などが整っている。
 ③十分な研修、トレーニングを受けられる機会がある。
 ④必要に応じて同僚や他部門からの支援を受けられる。
 ⑤福利厚生制度が充実している。

 <仕事内容に対する不満足>
 ①仕事の量が多くて忙しい。
 ②企業が求める能力と自分の現在の能力との間にギャップがある。
 ③部下や後輩を十分に育成できない。
 ④顧客や上司から公正かつネガティブなフィードバックを受けている。
 ⑤今の仕事の先にどのようなキャリアがあるのか描けない。

 これでアンケートを作成して、モチベーションとの因果関係を調べたら、面白い結果が得られるのではないかと思う。「職場環境に対する満足/不満足」と「仕事内容に対する不満足/満足」の2軸でマトリクスを作成すると、以下の4パターンが考えられる。

社員満足度とモチベーションの関係

 「職場環境には満足しているが仕事内容には不満足である」という右上の象限が、最も健全なモチベーション向上につながる。逆に、「職場環境には不満足だが仕事内容には満足である」という左下の象限は、職場環境が未熟な中で自分だけがそれなりに仕事をこなしている状態であり、孤立や忠誠心の低下を招く。左上の「職場環境にも仕事内容にも満足している」という象限に該当する社員は、ややもすると現状肯定に流れがちであり、さしたるモチベーションもなく会社にぶら下がる恐れがある。右下の「職場環境にも仕事内容にも不満足である」という象限では、最もモチベーションが失われている。中にはこれだけ不利な状況でも一生懸命頑張るという特異な社員もいるだろうが、そう遠くない将来に燃え尽き症候群に陥るであろう。

 企業が社員のモチベーションを上げるには、職場環境を整えることを前提として、社員に仕事面で不満足を感じさせるように、以下の施策を打つことが有効である。①敢えて本人のキャパシティを超える仕事量を与える、②本人にとってチャレンジングな仕事を与える、③本人にとって扱いづらい部下や後輩を担当させる(これは決して扱いづらい社員を積極的に採用せよということではない。どんな人でも、性格や価値観が合わない人というのはいる。その人にとって相性があまりよくない部下や後輩を敢えてつけるという意味である)、④顧客や上司が厳しい評価を伝える(決して理不尽であってはならない。公正な目で見た評価でなければならない)、⑤企業が社員に示すキャリアパスに敢えて余白を残す、社員にキャリアを自分で考えさせる。

 先日の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」で、伝統的な外部環境アプローチ(以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)に対して、内部環境アプローチによるビジネスプロセスの設計方法の一端を示してみたが、上記の5つの施策も踏まえて組織やプロセスを作り込むとなおよいのではないかと思う。


2017年11月14日

DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 11 月号 [雑誌] (「出る杭」を伸ばす組織)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 11 月号 [雑誌] (「出る杭」を伸ばす組織)

ダイヤモンド社 2017-10-10

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 事業戦略から人事戦略へと落とし込む一般的なアプローチは次の通りである。

 ①自社の外部環境を分析し、自社にとって魅力的な事業機会を抽出する。
 ②その事業における市場・顧客と競合他社を分析し、自社のポジショニングを決定する。
 ③中長期的な戦略目標(売上高、利益額、利益率、市場シェアなど)を設定する。
 ④③を達成するためのCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を特定する。
 ⑤CSFを織り込んだビジネスモデル、ビジネスプロセスを設計する。
 ⑥⑤のビジネスプロセスを実現するために必要な社員の数と能力を明らかにする。
 ⑦⑥の人材要件と現状の社員の実力とのギャップを分析し、ギャップを埋めるための施策(教育、配置転換、採用など)を立案する。

 ①~⑤については、以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」をご参照いただきたい。⑥⑦がいわゆる人事戦略に相当するものである。①~⑦は、企業の外部環境を検討の出発点としているから、「外部環境アプローチ」と呼ぶことができる。ただし、このアプローチの問題点は、企業側の都合に社員を合わせているという点にある。企業と社員の方向性がぴったり重なっていれば問題ないのだが、多くの場合はそうではない。そして、両者のベクトルが異なる時、悲劇が起こる。本号では、特に、優秀で将来を有望視されたリーダーが凡庸な社員に成り下がってしまうケースが報告されている。
 企業が優秀な人材の獲得合戦を繰り広げている時代に、人によっては、有能さを認められることが呪縛になると認識するのは難しい。ところが、それは現実なのだ。リーダー志願者は、他者の期待に応えようと一生懸命に仕事に励む。すると、彼らをもともと際立たせていた資質―他者より優れ、仕事に熱心に取り組んでいると感じさせた能力―は埋もれる傾向にある。みんなと同じように振る舞うようになり、エネルギーと野心が削がれていく。職場で単に仕事をするふりを始めたり、(中略)逃げ出すきっかけを探し始めたりするかもしれない。
(ジェニファー・ペトリグリエリ、ジャンピエロ・ペトリグリエリ「『理想化』と『同一化』の葛藤を乗り越えられるか 逸材を襲う組織人の呪縛」)
 本号の特集テーマは「『出る杭』を伸ばす組織」である。言い換えれば、どうすれば社員の尖った能力を企業の戦略に活かすことができるか、ということである。冒頭の「外部環境アプローチ」に対して、社員を出発点とする戦略立案は「内部環境アプローチ」と呼ぶことができるだろう。

 私はしばしば本ブログで、下の階層の者が上の階層の者に対して、「もっとこうすればあなた(=上司)は高い成果を上げられるのではないか、企業全体がよくなるのではないか、顧客のためになるのではないか」と提案する「下剋上」(山本七平からの借用)の重要性を説いてきた。内部環境アプローチとは、言い換えれば、この下剋上が活性化された状態である。ただ、以前の記事「『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他」でも告白したように、私は外部環境アプローチに関してはいくつかのフレームワークを持っているものの、内部環境アプローチについてはこれといった方法論をまだ持ち合わせていない。人材育成が専門だと公言している者としては、誠に恥ずかしい限りである。

 そこで、大まかだが、内部環境アプローチの手順について考えてみた。

 ①社員の職歴、人生を振り返って、大切にしている価値観や習得した能力を棚卸しする。
 ②社員の価値観や能力を下地として、社員がやりたいと思っていることを構想する。
 ③社員のやりたいことを集約して、企業としての方向性を打ち出す。
 ④社員の価値観を総合して、社員が従うべき共有価値観を構築する。
 ⑤それぞれの社員の価値観や能力をどのように組み合わせれば③の方向性を実現できるのかを検討し、ビジネスプロセスを設計する。

 ①②はキャリアデザインのことである。①②は本来、社員の能力を知り尽くしているはずの人事部が行うのがふさわしい。だが、人事部は従来型の外部環境アプローチに慣れ親しんでいるため、いきなり①②を行うのは難しいかもしれない。また、社員としても、仕事の話が中心だった人事部との面談で、パーソナルな面を打ち明けるのはためらわれるかもしれない。そこで、キャリアコンサルタントという第三者の力を借りることとなる。2016年4月に「改正職業能力開発促進法」が施行され、企業は社員に対し、「キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。キャリアコンサルティングとは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 平たく言えば、企業が社員のキャリア形成を支援することが法的に要請されており、キャリアコンサルタントに大きな期待が寄せられているということである。一般的に、キャリアコンサルティングと言うと、社員が上司や人事部には直接言いづらい仕事上、あるいは私生活上の悩みを相談したり、職場で起きている問題点を指摘したりする場だと考えられている。もちろんこれはこれで重要な側面であり、キャリアコンサルタントは被面談者の話を受けて、個人情報保護の観点から個人が特定できないように情報を編集し、組織全体の課題と対応策をまとめて人事部や経営陣に報告する組織開発的な役割が求められている。加えて私は、戦略立案の内部環境アプローチという観点からは、自社の社員のキャリア性向を踏まえて、企業としてどういう方向に向かうとよいのかを積極的に提案する戦略コンサルタントのような役割が上乗せされると考える。

 キャリアコンサルティングを通じて社員個々の能力や価値観を活かすと言っても、個人がてんでバラバラに動くようでは組織としての体をなさない。そこで、④にある共有価値観を定める必要がある。これはその企業で働く社員として、最低限守らなければならないルール集のようなものである。どのくらいの数のルールを設ければよいのかは難しい問題であるが、社員に大幅な権限移譲をしているリッツカールトン(例えば、社員は上司の決裁を仰がずに、2,000ドルまでを顧客のために自由に使うことができる)では、300もの決まりが定められているそうだ(フランチェスカ・ジーノ「同調圧力が生産性を低下させる 『建設的な不調和』で企業も社員も活性化する」)。意外とルールの数は多いのだという印象を受けた。

 共有価値観に関しては、海外の軍隊の考え方が参考になる。軍隊は、戦闘現場で状況に応じて柔軟な対応が求められる。そこで、「絶対にやってはいけないこと」だけを定めて、それ以外のことは現場の自由にやらせるという考え方を取っている。これを「ネガティブリスト方式」と呼ぶ。逆に、日本の自衛隊の場合は、法律で「やってよいこと」を列挙しており、「ポジティブリスト方式」と呼ばれる(この方式は制約が多く、現場では葛藤が生じていると聞く)。共有価値観、すなわち、「我が社の社員は○○しなければならない」というルールは、裏返しに読めば、「我が社の社員は○○してはならない」というルールになる。そして、そのルールに抵触しない限りは自由に振る舞うことを社員に許可することが重要である。日本の場合、共有価値観に従っていさえすればよいと考えて、ルールの枠内に収まろうとする傾向がある。この傾向を打破しなければならない。

 ⑤は、「仕事に人を割り当てる」のではなく、「人に仕事を割り当てる」、「人に合わせて仕事をデザインする」という意味であり、従来の発想からの転換が要求される。ピーター・ドラッカーは常々、「仕事に人を割り当てる」ことの重要性を強調していたが、実は大昔にIBMが深刻な業績不振に陥った際、時の社長であったトーマス・ワトソン・Jrが、社内で手持無沙汰にしている社員のために仕事を創り出した(つまり、社員を解雇しなかった)という逸話を好んで使っていた。「人に仕事を割り当てる」ことは、やり方次第で十分に可能なのである。

 ①~⑤は大まかな段階を示したにすぎない。私の喫緊の課題は、①~⑤に資するフレームワークやツールを作成することである。さらに言えば、上記の「内部環境アプローチ」は、自分で書いておきながらこんなことを言うのもおかしな話だが、1つ重大な欠陥を抱えている。それは、既存の社員の能力や価値観にしか注目していないということである。非社員、つまり労働市場にいる潜在的な労働力(女性やシニアなど)、さらには、まだ労働市場に出てきていない潜在的な労働力(障害者など)に着目して戦略を練るにはどうすればよいか、という難題が待ち受けている。彼ら・彼女らの能力や価値観を事前に把握し、戦略に反映させることは可能なのだろうか?

 だが、これができなければ、本当の意味での「ダイバーシティ・マネジメント」は実現しないと思う。本号では、「ニューロ・ダイバースな人材」(自閉症、統合運動障害、失読症、ADHD、社会不安障害など)を活用した経営についての論文があった(ロバート・D・オースティン、ゲイリー・P・ピサノ「自閉症、ADHD・・・人材を活かす7つの施策 ニューロダイバーシティ:『脳の多様性』が競争力を生む」)。SAPやヒューレット・パッカード・エンタープライズなどは、ニューロ・ダイバースな人材の採用に積極的であるそうだ。よく知られているように、例えば自閉症の人は、コミュニケーションに多少難があるものの、アーティスティックな仕事で高いパフォーマンスを上げることができる。彼ら・彼女らの能力を活用できれば、企業の戦略に豊かな幅が生まれるに違いない。

 最後になるが、「外部環境アプローチ」と「内部環境アプローチ」は、戦略立案プロセスの両極である。実務面で本当に有益な戦略論を構築するならば、両者のアプローチを統合しなければならない。つまり、「中庸」を取らなければならない。これが私にとって最大の難問である。


2017年11月02日

『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他


一橋ビジネスレビュー 2017年AUT.65巻2号一橋ビジネスレビュー 2017年AUT.65巻2号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-09-15

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 (1)私は医療技術や医療制度については門外漢なので、本号の特集についてあまり言及できることがないのだが、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のパートナー・アンド・マネージングディレクターである北沢真紀夫氏の「病院経営 その実態と処方箋」という論文は、個人的に共感できるところが多かった。国内の病院の約7割は赤字であり、通常であれば痛みを伴う抜本的改革をしなければならない。論文では、「(A)外来部門の黒字化(地域の各種医療機関との提携による)」、「(B)入院患者の人数・単価の適正化(実際には、単価は診療報酬制度で決まっているため、強みを有する診療部門を強化し、それを通じて収益の拡大を図ることを指している)」、「(C)病院経営のガバナンスの強化」という3つの構造的改革が挙げられている。

 ところが、病院では抜本的な改革を現場に落とし込む際に、現場から反発を食らうことがある。例えば、医療材料費の最適化のために、手術で使う糸を安価なものに変えようとしたとする。コストは安いが機能的には遜色がないものであっても、「使い慣れていないものを使うと、事故が起きるリスクが高まる。そうなった場合に、責任が取れるのか?」という反論が出て、結局は現状を維持せざるを得ない。こういう局面に、論文の著者は何度となく直面したようである。

 そこで、論文の著者は、実行しやすい施策、医療スタッフにとってリスクや痛みが少ない施策から着手することを提案している。具体的には、「①外部委託費の削減(清掃、警備、IT、高額医療機器のメンテナンス、リネン類の購入・リースなど)」、「②医薬品、医療材料の共同購入」、「③診療報酬の請求漏れの防止(救急搬送された患者に対して、救急医療管理加算を忘れるケースがある)」、「④差額ベッド代の最適化(医療保険を活用することで、差額ベッド代を支払ってよい条件のベッドに入院したいと考える人は意外と多い)」などである。BCGはおそらく、病院の経営コンサルティングを始めた頃は、抜本的な改革を提案していたのだろうと思う。だが、経営陣や現場から反対されることが多く、試行錯誤を重ねた結果、論文のような改革の手法に至ったと推測される。コンサルティングの現場で十分に揉まれた内容であるだけに、納得感がある。

 私もコンサルタントになりたての頃は、抜本的な改革を提案しようと意気込んでいたものである。高額の報酬をいただくからには、それに見合ったインパクトのある提案をしなければならないと感じていたからだ。しかし、中小企業診断士として独立し、主に中小企業をコンサルティングするようになってからは、考え方が変わった。抜本的な改革を提案しても、中小企業の経営者からは「頭では解っているが、それを実行するリソースがない」と言われるのが落ちである。

 それならば、できることから少しずつ着手するしかない。最初はリスクや痛みの少ない改善から始める。成果が出たら、少しずつリスクを伴う改善も交えていく。こうして、小さな改善を継続的に積み重ねていった結果、数年後には改善を始めた当初と比べて全く異なる経営に進化していた、という状態に持っていくのが私の理想である(以前の記事「檜垣立哉『ドゥルーズ―解けない問いを生きる』―「To-Beを描いてAs-Isとのギャップを埋める」というコンサル手法を改められないものか?」を参照)。こういう経営は、トヨタが強みとするところである。トヨタはいわゆるカイゼンを全社的に継続することで、トヨタ生産システム全体が漸次的に進化し、数年後には以前とは似ても似つかぬシステムに変貌を遂げるということを何度も経験している。

 論文で提案されている①~④の小さな改善は、中小企業にとっても示唆的である。例えば、①に関して言えば、中小企業が様々なベンダーと締結している保守契約を見直すと、コスト削減につながりやすい。知り合いの診断士から聞いた話だが、その診断士の顧客企業では、Webサイトの保守に月10万円を支払っていたそうだ。しかし、ベンダーは何のサービスも提供せず、単にWebサーバを管理していただけであった。これで10万円は高すぎるということで、その診断士がベンダーと交渉して、月額の保守料を1万円に引き下げさせた。これだけで、年間108万円のコストカットである。保守契約は包括的に締結されることが多いが、ベンダーには作業項目と作業工数、単価を明記させて、サービスの内容と価格の妥当性を判断することが重要である。

 ④を企業経営にあてはめると、安易な値引きをしない、ということではないかと思う。これは私の前職での体験だが、前職のベンチャー企業では企業研修サービスを提供していた。それぞれの研修について、一応の標準価格は設定されているものの、営業担当者は目先の受注ほしさに、自由に値引きをして販売していた。営業部門の責任者も社長も、値引きの実態を把握していなかった。私が自社のマーケティング業務を兼務するようになってから値引き率を調べたことがあるのだが、標準価格通りに販売されている案件はほとんどなく、中には8割引きで販売されているものもあった。そこで、先方に見積書を提出する時は、必ず営業部門の責任者と社長の承認を得るというルールに変えた。ただ、残念なのは、価格を適正に保っても、研修の販売量自体が圧倒的に少なく、この程度の改善では巨額の赤字を是正できなかったことである(※)。

 (※)「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」を参照。

 (2)井上達彦「ビジネスモデルを創造する発想法 〔第5回〕美しい「経験価値」を生み出す」では、アメリカのアンプクア銀行がデザインコンサルティング会社であるZibaの協力を得て、独自のポジショニングを構築した例が紹介されている。店舗のデザインや行員のサービスを決めるにあたっては、ノードストローム、リッツカールトン、スターバックス、バナナ・リパブリックなど異業種の事例を参照したという。アンプクア銀行は、「銀行は敷居が高くて入りにくい」というイメージを覆すために奇抜な店舗デザインにするといった、枝葉末節な方策に走ったわけでは決してない。まずはターゲット顧客層のペルソナを丁寧に描写し、彼らの顕在/潜在ニーズを丹念に洗い出し、彼らの期待を超えるサービスとは何かを明らかにした上で、そのサービスを実現するサービスプロセス、物理的な空間、プロセスを実行する行員に求められる能力を定義している。

 サービスデザインの手法として最近注目を集めているのが、「カスタマー・ジャーニー」と呼ばれるものである。カスタマージャーニーとは、一言で言うと「顧客が購入に至るプロセス」のことである。 顧客が製品やブランドとどのような形で接点を持ち、いかにして製品やブランドを認知し、またそれらに関心を持ち、購入意欲を喚起されて購買に至るのかという道筋を旅に例え、顧客の行動や心理を時系列的に可視化したものである。ただ、カスタマー・ジャーニーはどちらと言うと、現状のサービスを整理する目的で使われることが多いように思える。

 これに対して、望ましいサービスを定義する手法として、「サービス・ブループリント」と呼ばれるものがある。下図は、農家向けに耕運機、草刈機など、様々な農業機械の製造販売を行っている企業のアフターサービスのあり方を簡易的に示した例である。サービス・ブループリントの場合、顧客とじかに接する社員がどのような行為をするかに加えて、彼らがバックヤードに控える社員とどのように連携するかも重視する。また、サービスの品質を向上させるために、ITなどのシステムを積極的に活用することも想定している。

サービス・ブループリント

 ただ、私がこういうサービス・ブループリントをいくつか作って感じたことは、プロセス図をどんなに精緻に描いたところで、結局は左脳的な発想を抜け出せないということである。でき上がったブループリントを眺めてみると、至極当たり前のことしか書かれておらず、独創性に乏しい。別の言い方をすれば、このブループリントを見ても「ワクワクしない」。生の顧客の特徴(性別、年齢、ライフスタイル、見た目、言動、性格、考え方など)を多面的にとらえ、サービス提供者が自身の能力や価値観を下地として、顧客との相互作用の中で即興的に豊かなサービスを創造するという、サービスの右脳的、能動的な側面がそぎ落とされてしまう。こうした弱点を補うためには、プロセス図に代えて、分厚い語彙から構成される物語としての「脚本」を作成するのが効果的なのかもしれない。この辺りの新しい手法を開発することが、私にとって今後の課題である。

 (3)本号の最後には、カルビーのケーススタディが掲載されていた(浅井俊克、木村めぐみ「カルビー 経営改革のための働き方改革」)。「働き方改革」は最近のホットトピックである。ダイバーシティ経営の一環として、女性社員の活用に乗り出す企業が増えている。シニア社員についても、定年制の廃止や再雇用制度などによって70歳まで働く時代に入ったと言われるが、政府は9月に「人生100年時代構想会議」を立ち上げて、80歳まで働く社会を射程に入れている。

 戦略論の定石に従えば、まずは市場ニーズの分析から戦略、つまり誰をターゲット顧客として、どんな製品・サービスをどのような差別化要因に基づいて提供するのかという構想を導き、その戦略を実現するためにはどんな能力を持った社員がどの程度必要なのかを計算して、人事・人材育成戦略に落とし込んでいく、という手順になる(以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」を参照)。一方、働き方改革では発想が逆になる。すなわち、現在企業が抱えている社員の能力を活用すると、どのような事業が実現できるのかと考える。

 ピーター・ドラッカーは、「人に仕事を割り当てるのではなく、仕事に人を割り当てなければならない」とよく主張していた。つまり、前者のアプローチである。しかし同時に、ドラッカーは面白いことを言っている。IBMが昔不況に陥った時、トーマス・ワトソン・Jrが社員を解雇せず、社員のために仕事を創り出した点を高く評価しているのである。これは後者のアプローチに該当する。

 私は前者のアプローチには慣れているものの、後者のアプローチについてはこれといった知見をまだ持ち合わせていない。人材育成が専門であると公言しておきながら、何とも恥ずかしい話である。もちろん、前者のアプローチでも、社員の能力が発想のトリガーになっている部分はある。以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」では戦略立案の8つのプロセスを提示したが、「①事業機会の抽出と選択」においては、多角化戦略の1つとして、現有の組織能力を活用した事業を挙げている。また、「④CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定」では、クロスSWOT分析を用い、強み・弱みを抽出する際に社員の能力に注目している。つまり、社員の能力が事業のCSFに反映される形となっている。

 ただし、これらは断片的に社員の能力に注目しているにすぎない。例えば、今目の前に100人の育休明け女性社員がいて、彼女たちの能力を活用してどのような事業ができるか考えよと言われた場合、私には適当なフレームワークや方法論がまだない。それらを開発することが、私にとっては喫緊の課題である。さらに言えば、働き方改革の本質は、眠っている労働力を掘り起し、活用することにある。まだ企業には属していない女性やシニアなどの潜在的な能力を評価し、その能力を活用して新しい事業を立ち上げよ、と言われる時代が来るに違いない。こうした時代の要請に応える準備もしておかなければならないと感じる。



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