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【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察
『致知』2018年5月号『利他に生きる』―「ただ一心に聴く」ことの難しさ
平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。コンサルティングなどの仕事の実際の中身は守秘義務の関係で書くのが難しいため、書評が中心となっている点は何卒ご容赦あれ。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2018年05月22日

【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察


アイデア

 《参考記事》
 (a)【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)
 (b)【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見
 (c)DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)
 (d)DHBR2018年1月号『テクノロジーは戦略をどう変えるか』―伝統的な戦略立案プロセスを現代的な要請に従って修正する素案(議論の頭出し程度)
 (e)DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他

 今回の記事は、上記の参考記事の内容をまとめ直したものである。企業の目的は何かと問われれば、私はピーター・ドラッカーの「顧客の創造」という説を真っ先に支持する。ここで言う顧客の創造とは、顧客の人数を量的に増加させることと、顧客に対する提供価値(顧客価値)を質的に増大させることの両方を含む。アメリカ人であれば、企業の目的は株主価値を増大させることだと即答するだろう。しかし、私はこの考え方を採用しない。なぜならば、株主価値の増大が目的であればその手段は何でもよいことになり、極端なことを言うと株主から預かった資金を全て投資に回して大きなリターンを得ることでも正当化されてしまう。仮に、全ての企業がこのような行動を取ったら、経済が回らなくなるのは目に見えている。

 企業の目的は顧客、社員、取引先、株主、金融機関、教育・研究機関、地域社会などステークホルダーの利益を最適化することだという立場もある。昨今、欧米から株主至上主義が流れ込んできても、日本企業にはこうした考え方が根強い。多様なステークホルダーのバランスを取ろうというわけだ。ただ、この場合、例えば顧客の利益を犠牲にして社員や取引先など他のステークホルダーの利益を調整することが正当化されてしまう。私はこうしたやり方にも与しない。

 企業にしかできないことは、経済を機能させるために顧客を創造することである。だから、企業の目的は顧客の創造という1点に尽きる。しかしながら、企業には様々なステークホルダーが関わっているのも事実であり、彼らは彼らなりの目的を持ち、存続を願っている。その点に配慮することが、企業が遵守しなければならないルールである。つまり、企業は、ステークホルダーを存続させるという要請から発生するルールを守りながら、顧客の創造という目的を達成しなければならない。例えて言うならば、100m走の目的は「他のランナーよりも速く走ること」という1点であり、スターティングブロックを使うこと、ラインの内側を走ることなどは絶対に破ってはならないルールであるのと同じである。これは、ステークホルダー間の利害を調整することとは全く異なる。

 以下、戦略立案プロセスを概観しながら、企業が守るべきルールを整理してみたい。

 ①事業機会の抽出
 外部環境アプローチに従う場合は、参考記事(a)で示したように、アンゾフの成長ベクトルを拡張したフレームワークを活用して事業機会を網羅的に洗い出す。内部環境アプローチに従う場合には、マクロの視点とミクロの視点の2つがある。マクロの視点に立つ場合は、資源ベース理論を活用して自社のコア・コンピタンスを特定し、それを活用し得る事業機会を考案する。ミクロの視点に立つ場合は、参考記事(c)で示したように、社員に対するキャリアコンサルティングの結果を活用して、社員の「『価値観―できること(能力)―やりたいこと』セット」を摘出する。

 ②事業機会の評価
 ①で抽出した事業機会のうち、どの事業機会に取り組むかを決定する。外部環境アプローチで用いられるPEST分析と、内部環境アプローチで用いられるVRIOフレームワークを用いる(ただし、参考記事(b)で書いたように、PEST分析はS(Society)を省略してPET分析としてもよい)。外部環境アプローチで抽出した事業機会についてはVRIOフレームワークによる分析を、内部環境アプローチで抽出した事業機会についてはPE(S)T分析を特に重点的に行う。

 ③競合他社の特定とその戦略の変化の予測
 ②で事業機会を絞り込んだら、競合他社を特定する必要がある。競合他社には、ⅰ)全く同じカテゴリに属する製品・サービスを提供する企業(例:ビールならばビール会社)、ⅱ)類似の製品・サービスを提供する企業(例:ビールならばチューハイ、カクテル、日本酒、焼酎、ワインなどの会社)、ⅲ)顧客が同じニーズを満たすことのできる別の製品・サービスを提供する企業(例:ビールを飲むのがストレス発散のためであれば、ストレス発散のためのカラオケ、レジャー施設、スポーツクラブなどが競合他社にあたる)の3種類がある。この3種類のカテゴリについて主要な競合他社を数社ずつピックアップした上で、その競合他社を取り巻く環境変化を分析し、競合他社がどのように戦略やポジショニングを変更してくるかを予測する。

 ④差別化要因・ポジショニングの決定
 ③の予測に基づいて、自社は②で選択した事業機会において、競合他社とどのような点で差別化を図るのか、どのようなポジショニングを取るのかを決定する。競合他社の戦略も変化する点はしばしば見落とされるので注意が必要である。現在の競合他社のポジショニングを参考に自社のポジショニングを決定した場合、競合他社が環境変化に伴って将来的にポジショニングを変更したら、自社のポジショニングが無効になってしまう。

 ⑤戦略的目標の決定
 ②で市場規模を、③で競合他社の数を把握しているので、その数値を基に、④のポジショニングに従って戦略を実行した場合の目標売上高、利益、市場シェアといった目標を設定する。

 ⑥CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)の特定
 ①の分析で外部環境・内部環境に関する情報はある程度収集できているが、参考記事(b)で書いたように、改めてクロスSWOT分析を用いてその情報を整理し直す。クロスSWOT分析は、「機会×強み」、「機会×弱み」、「脅威×強み」、「脅威×弱み」といった具合にクロスで見ることが重要であり、この4つの視点から、新しい事業を成功させるための要因(CSF)を導き出す。

 ⑦ビジネスモデルのデザイン
 ビジネスモデルとは利益創出の図式であるが、ヒト・モノ・カネ・情報・知識といった経営資源がどのように流通するのかも図式化した方がよい。一時期「ビジネスモデルキャンパス」が流行ったものの、要素間の関係が不透明で、ビジネスが筋の通った物語になっているかを検証できないという弱点がある。やはり、自社をはじめとする各プレイヤーと、プレイヤー間の関係を丁寧に図に落とし込んでいくのがよい。その際、モノを供給する取引先を描くことはもちろんのこと、ヒトを供給する家族、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関も描くのが望ましい。描かれたビジネスモデルは、⑥で特定したCSFが達成されていなければならない。

 ⑧ビジネスプロセスのデザイン
 ビジネスモデルは新しい事業に関与するあらゆるプレイヤーを描き込んだ全体像であるが、今度は自社の具体的なビジネスプロセス(業務プロセス)を設計する。ここでも、⑥で特定したCSFを達成することができるビジネスプロセスをデザインする必要がある。まずは、マイケル・ポーターの「バリューチェーン」のフレームワークを使って、各部門の大まかな機能を列記する。次に、それぞれの部門の機能を具体的な業務プロセスへと落とし込んでいく。

 ⑨目指すべき企業文化の定義
 参考記事(e)で述べたように、新しい戦略の実行には、企業文化の変化を伴うものである。ただし、企業文化は組織や社員に深く根を下ろしており、一気に変えることは大きな困難を伴う。企業文化は漸次的に変化させるしかない。まず、⑦のビジネスモデルや⑧のビジネスプロセスを実現することができる企業文化とは何かと問う。次に、現在の自社の企業文化を分析する。両者のギャップが小さい場合には、簡単な行動変容プログラムを策定すれば十分であろう。しかし、両者のギャップが大きい場合には、せっかくの戦略も実行段階で頓挫する恐れがある。その場合には、⑦のビジネスモデルや⑧のビジネスプロセスを実現するプロセスに段階(フェーズ)を設け、徐々に企業文化を変革するように配慮する必要がある。

 ⑩課題解決のための戦略的打ち手の導出
 ⑦のビジネスモデルを実現するための課題、⑧のビジネスプロセスを実現するための課題、⑨の企業文化を実現するための課題を整理し、これらの課題を解決するための戦略的打ち手を定義する。課題は、例えば単に「営業力の強化」と抽象的に掲げるのではなく、「既存顧客の購買履歴を活用するITの構築」といった具合に具体化する必要がある。課題を掘り下げるコツは、ビジネスモデルやビジネスプロセスに経営資源を投入する際の「仕組み」に着目することである。ヒト・知識であれば組織編成や人事・教育制度、モノであれば調達制度や物流の仕組み、カネであれば資金調達の仕組みや予算配分の制度、情報であればITの切り口から検討する。

 ⑪戦略的打ち手の優先順位づけ
 ⑩で出てきた複数の戦略的打ち手に優先順位をつけるには、「投資対効果の大小」と「導入の難易度の高低」という2軸でマトリクスを作り、それぞれの打ち手をマッピングするとよい。投資対効果が大きく、導入の難易度も低い打ち手があれば最優先で取りかかるべきだ。逆に、投資対効果は小さいのに導入の難易度が高い打ち手は思い切って捨てる。多くの打ち手は、「投資対効果が大きいが導入の難易度も高い」ものであるか、「投資対効果が小さく導入の難易度も低い」ものである。優先すべきは前者であるが、前者は効果が出るまでに時間がかかり、変革の取り組みが途中で息切れすることがある。そこで、後者の打ち手を適切に織り交ぜることで、早期に変革の効果を演出することがある。後者のような打ち手をクイックウィンと呼ぶ。

 ⑫実行スケジュールの策定とプロジェクトチームの結成
 戦略的打ち手に優先順位がついたら、その優先順位に基づいて実行スケジュールを作成する。同時に、新しい戦略の実現に向けたプロジェクトチームを結成し、誰がどの打ち手に責任を持つのか、誰がその責任者の下で実務的な作業を担うのかを決定する。

 ⑬将来の損益計算書、貸借対照表の試算
 ⑪でそれぞれの戦略的打ち手の投資対効果を試算し、⑫で実行スケジュールを策定しているので、これらの情報を踏まえて、将来(向こう5年程度)の損益計算書、貸借対照表を作成する。その際、新しい戦略を実行しなかった場合(既存事業をそのまま続けた場合)の損益計算書と貸借対照表も作る。両者を見比べて、新しい戦略を実施した方が累積利益が大きくなることをチェックする(稀に、新しい戦略を実行すると、初期投資がかさむ関係で、既存事業をそのまま経営した方が累積利益が大きくなるということがあるため要注意である)。また、⑤で設定した戦略的目標(売上高、利益、市場シェアなど)が達成できることも合わせて確認する。

 ⑭競合他社のアクションに対するリアクション
 新しい戦略を実行すると競合他社もそれに反応して新しい戦略を仕掛けてくる。競合他社の反応が③で想定した範囲内に収まっていれば問題ないが、想定と大きく異なる場合には、④のポジショニングをやり直す必要がある。さらに、競合他社が思いのほか強力で、とても勝ち目がない場合には、①に戻って事業機会の抽出からやり直さなければならないかもしれない。

 ⑮新入社員の入社に伴う組織学習
 新しい戦略の実行に伴って、新入社員(新卒・中途)が入社してくる。彼らは自社の価値観と一致し、自社が要求する能力を身につけていることが前提で入社してくるが、自社の価値観からははみ出る価値観や意外な能力を持っている可能性がある。よって、①に戻ってミクロ視点での内部環境アプローチにより、再び事業機会の探索を始めなければならない。

 ここからが企業が従うべきルールの話。従来の企業は、「経済的なニーズ」を「経済的な方法」で充足していれば十分であった。ところが、企業の社会的責任が強調されるに従って、「経済的なニーズ」を「社会的な方法」で充足しなければならないという流れになった。近年は、マイケル・ポーターがCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)というコンセプトを提唱しており、企業は「社会的なニーズ」の充足を事業化する方法を模索する必要性に迫られている。つまり、21世紀の理想の企業とは、「社会的なニーズ」を「社会的な方法」で充足する企業である。

 よって、まずは②で特定した事業機会が、私が「社会的ニーズのテスト」と呼ぶものに合格するかを問わなければならない。具体的には、新しく生み出そうとしている製品・サービスが、

 (1)顧客の健康をサポートするものであるか?
 (2)顧客の生活の衛生面を保つものであるか?
 (3)顧客の安全・安心な生活の実現に資するものであるか?
 (4)顧客が貧困から脱却するのを助けるものであるか?
 (5)顧客の自尊心を支えるものであるか?
 (6)顧客が他者との人間的な絆を構築するのに役立つか?
 (7)顧客の人間的・精神的成長を支援するか?
 (8)顧客に有意義な時間の使い方を提供するものであるか?
 (9)人的資源・地球資源の節約に貢献するものであるか?
 (10)顧客の人生を社会的規範・道徳的価値観と合致せしめるものであるか?

などと問う必要がある。もちろん、これら全てを満たすことは難しい。だが、できるだけ多くの項目に該当する社会的ニーズに企業は取り組む必要がある(参考記事(d))。

 社会的ニーズのテストを経た後は、その社会的ニーズを社会的な方法で実現するビジネスを設計する。⑦でビジネスモデルを、⑧でビジネスプロセスを設計する際、単に⑥で特定したCSFを反映させるだけでなく、社会的要請も汲み取る必要がある。1つのヒントとなるのが「SDGs(Sutainable Development Goals)」である。SDGsとは国連が地球規模の社会的課題について17の目標と169のサブ目標を設定し、2030年までに解決を目指すというものである。17の目標は、下図の通りである。企業はこの中から、自社で取り組めそうな課題を選択し、ビジネスモデルやビジネスプロセスに反映させる(参考記事(d))。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

 ⑧のビジネスプロセスの設計においては、社員のモチベーションにも配慮する必要がある。本来、社員は企業からお金をもらう立場であり、企業にモチベーションを上げてもらうのはおかしな話である。企業に対してお金を払う顧客が企業のモチベーションを上げようとはしないことを考えれば自明である。ただし、顧客はその企業が気にくわなければ別の企業に乗り換えれば済むが、企業の場合は社員に問題があっても簡単に首を挿げ替えることができない。今いる社員に頑張ってもらうしかない。ここから、社員のモチベーションに配慮すべき理由が生まれる。

 とはいえ、社員のモチベーションを上げることは、社員を甘やかしたり、社員におもねったりすることではない。社員が自分の力ではどうしようもできない職場環境については社員を満足させる必要があるが、社員の力が及ぶ範囲においては逆に不満足を感じさせた方が、かえって社員のモチベーションが上がるのではないかというのが私の考えである。ここから、職場環境と仕事の内容について次のようなルールが導かれる。

 <職場環境>
 (1)本人に裁量や権限を与える。
 (2)仕事を進める上でのマニュアル、ツール、設備などを整える。
 (3)十分な研修、トレーニングの機会を与える。
 (4)必要に応じて同僚や他部門からの支援を受けられるようにする。
 (5)福利厚生制度を充実させる。

 <仕事の内容>
 (1)仕事の量を多くして忙しくさせる。
 (2)企業が求める能力と自分の現在の能力との間にギャップを感じさせる。
 (3)難しい部下や後輩の育成を任せる。
 (4)顧客や上司から公正かつネガティブなフィードバックを与える。
 (5)今の仕事の先にどのようなキャリアがあるのか描くことを難しくさせる。

 ⑤に戻るが、⑤で設定した戦略的目標は企業の人員数の増加をカバーできるものになっているかも点検しなければならない。普通に考えれば、3~5年後には昇進によって管理職が増加し、新入社員も入ってくるため、企業の人員数や人件費は増える。彼らに対して十分な仕事やポスト、給与を支払うことができる戦略的目標になっているかどうかを確かめる必要がある。もちろん、以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」でも書いたように、全員を昇進させ、無制限に新入社員を受け入れることは現実的に不可能であることは私も重々承知している。

 私は年功制は支持するが終身雇用は支持していない。企業は一定のルールに従って、一部の社員を退職させなければならない。以前は子会社が退職する社員の受け皿になっていたのだが、連結決算で子会社の業績が親会社の業績にも影響するようになると、子会社を単なる余剰人員の受け皿として使うことが難しくなった。そこで私は、一定の年齢に達した一部の社員を退職させる代わりに、彼らが起業や転職をする際の資金を提供する仕組みを作ってはどうかと考えている。具体的には、業界の各企業が資金を出し合って基金を組成するイメージである。もちろん、企業が解雇権を濫用することがあってはならない。今後は、企業の合理的な成長スピードを設定し、それでもなお仕事やポストをあてがうことができない社員は、公正な手続きの下に退職してもらうことになるだろう(この点だけは企業にとって有利なルールである)。

 ⑬の損益計算書、貸借対照表の作成まで終わったら、新事業の全体を総チェックする。

20180523_企業の目的と遵守すべきルール

 これからのビジネスは、1社単独で全てをまかなうことが難しくなり、他社(異業種の他社や時に競合他社)と水平連携する局面が増える。また、企業が社会的ニーズを充足するためにNPOとも水平連携する機会も出てくるだろう。他社やNPOも自社と同様に、「顧客の創造(量的・質的)」を目的としている。自社は他社やNPOから必要な時に必要な協力を仰ぐだけでなく、他社やNPOの事業にも貢献し、Win-Winの関係を構築しなければならない。具体的には、「他社/NPOの顧客増に貢献すること(顧客の量的創造)」、「他社/NPOの顧客価値の増大に貢献すること(顧客の質的創造)」というルールが課されることになる。

 自社にヒトを供給する家族、モノを供給する取引先、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関に関しても、企業はルールを課される。家族の目的は、家族構成員の健康を保つことと家計を維持することである。よって、企業は家族の目的達成を支援するために、「社員の健康に配慮すること」、「生計を維持できるだけの給与を支払うこと」というルールに従う必要がある。取引先の目的は、顧客の創造である。取引先の顧客とは自社のことである。よって、取引先の目的達成を支援するために、「取引先との取引量を増やすこと(量的創造)」、「取引先の顧客価値(=自社にとっての価値)向上を支援すること(質的創造)」というルールに従う必要がある。親会社が下請会社の品質向上・人材育成を支援するのは一例である。

 株主・金融機関の目的は、投資に見合ったリターンを得ることと、社会的に責任ある投資家となることである。よって、企業は株主・金融機関の目的達成を支援するために、「資本コストを上回るリターンを上げること」、「経営資源の調達から顧客価値の創造に至るプロセスを透明・公正に保つこと」というルールに従う必要がある。最後に、教育・研究機関の目的は、有益な知を社会に提供することと、有益な人材を社会に輩出することである。よって、企業は教育・研究機関の目的達成を支援するために、「企業の知をフィードバックすること」、「教育・人材育成の取り組みを支援すること」というルールに従う必要がある。これらのルールは、産学連携をしている企業にとってはとりわけ重要な意味合いを持つ。

 上図のように、ヒトを供給する家族、モノを供給する取引先、カネを供給する株主・金融機関、知識を供給する教育・研究機関を自社よりも1つ下のレイヤーに位置づけている(欧米ならば株主を自社よりも上のレイヤーに位置づけるだろうが、私は株主は他の経営資源を供給するプレイヤーと同列に扱うべきだと考える)。自社はこれらのプレイヤーの上に位置するのだから、彼らに対して自由に要求すればよいように思える。しかし私は敢えて、下位に位置するプレイヤーの目的達成を支援することをルール化している。これを山本七平の言葉を借りて「下問」と呼んでいる。「あなた方の目的を達成するために我が社が支援すべきことは何か?」と問うことである。結局のところ、下位のプレイヤーの目的(アウトプット)=自社のインプットであり、下位のプレイヤーの目的達成を支援することは、自社にとってメリットとなって跳ね返ってくるのである。


2018年04月20日

『致知』2018年5月号『利他に生きる』―「ただ一心に聴く」ことの難しさ


致知2018年5月号利他に生きる 致知2018年5月号

致知出版社 2018-04


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 コンサルティングの現場では、顧客企業内の様々な関係者にヒアリングを行うことが多いのだが、私はどうもこのヒアリングが一向に上達しないので、悩みの1つになっている。『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2017年2月号に収録されている論文「人間特性に基づいて科学的に嘘に対処する 誰もが正直者になれる交渉術」(レスリー・K・ジョン)では、相手から本音を引き出すポイントが5つ紹介されていた。

ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 11 月号 [雑誌] (「出る杭」を伸ばす組織)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 11 月号 [雑誌] (「出る杭」を伸ばす組織)

ダイヤモンド社 2017-10-10

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 ①返報しようという気持ちを促す
 人間には、誰かから情報を入手した見返りに、自分も情報を与えるという傾向が強い。相手がデリケートな情報を打ち明けたら、こちらも同じく包み隠さずに対応しようとするのが本能である。よって、まず自分の方から戦略上重要なことに関する情報をつまびらかにするとよい。

 ②適切な質問をする
 多くの交渉者は、自分が劣勢に立つ恐れのあるデリケートな情報をがっちりガードする。関連する事実を自発的に提供せず、「不作為の嘘」をつく。これを回避するには、楽観的な仮説に基づく質問(例えば、「装置は正常に動いていますよね?」)ではなく、悲観的な想定に基づく質問(例えば、「もうすぐ新しい装置に取り換える必要がありますよね?」)をするとよい。

 ③はぐらかしに要注意
 抜け目のない交渉人は、単刀直入な質問をかわすことが多い。実際に尋ねられたことではなく、「これを聞いてくれたらよかったのに」と思うことに答える。ここで、肝心の質問を思い出すように促せば、はぐらかしを見破ることができる。例えば、相手の回答を聞きながら、自分がした質問を手元で確認するという方法がある。したがって、質問のリストを作成し、相手の回答をメモするスペースを残した用紙を持って交渉に臨むとよい。答えが返ってくるたびに時間を取って、実際に自分の求めている情報が得られたかどうかを検討する。

 ④機密保持に安住しない
 プライバシーと機密情報の保持に努めようとすると、実際には相手は疑いを抱き始めて口を閉ざし、情報の共有が減る原因になりかねないことが米国学術研究会議の調査で明らかになっている。相手が率直に話してくれる可能性が高いのは、機密保持の保証を避けるか、少なくとも最低限に抑えて、何気なくその話題を持ち出した場合である。当然ながら、耳にした機密情報は守らなければならない。ただし、尋ねられない限りはそれを公言する必要もない。

 ⑤情報を漏らさせる
 ある実験では、自己の行動をズバリと尋ねられたグループに比べ、自己の行動を間接的に尋ねられたグループの方が、悪い行動を取ったことを暗に認める可能性が約1.5倍高かったという。他人に知られると都合の悪い行動に関しては、はっきり打ち明けるのではなく、うっかり漏らす可能性の方が高い。交渉の場では、間接的な問いかけによって情報を収集できるかもしれない。例えば、相手に2種類の提案をして、どちらか一方を選んでもらうという方法がある。

 随分昔に旧ブログで「インタビューはボクシングに似たり-『コンサルタントの「質問力」』」という記事を書いたが、コンサルタントは事前に立てた仮説を検証するためにヒアリングを行う。そのためにロジックツリーなどを使い、知りたいことを網羅的に洗い出した上でヒアリングに臨む。ヒアリングによって仮説とは異なる事実が明らかになった場合には、仮説の方を修正する。ただ、これまでの実務を振り返ってみると、ヒアリングを受けて仮説を修正するケースは稀で、ほとんどの場合は仮説を裏書きするためだけにヒアリングを行っていたように思える。

 前職のベンチャー企業(教育研修&組織・人事コンサルティングサービスの企業)にいた時、「自発的にキャリア開発を行っており、モチベーションが高い社員」に共通して見られる行動特性を調査するというプロジェクトがあった。プロジェクトの成果物は、顧客企業のイントラネットに掲載されることになっていた。私の上司は、その行動特性に関する仮説をあらかじめ立てて、顧客企業の社員にヒアリングを行った。ところが、ある社員が、その仮説とは全く別の行動特性を示すことが明らかになった。ヒアリングの議事録を作成した私は、その社員の回答をそのまま記録したが、上司は「これは仮説と異なるから仮説に沿うように修正せよ」と命じてきた。私は、「対象者が一言も口にしていないことを議事録に残すことはできない。まして、イントラネットに掲載するのは無理だ」と言って、上司と喧嘩になったことがある。

 若い時は血気盛んだった私も、年齢を重ねると現実的になってしまった。まず、ヒアリングで検証したい仮説を列挙する。次に、ヒアリングの時間が1時間だとすると、質問できることは最大で10個ぐらいだと考えて、仮説の中で特に優先順位が高いものをピックアップする。その後、ヒアリングの相手に関する情報を集める。その上で、「こういう相手ならこの質問に対してこう答えるだろう」といった具合に、1時間の想定問答を頭の中でシミュレーションする。ヒアリングでは、できるだけシミュレーション通りに問答を進める。仮説から外れる情報については、一応メモを取るものの、後で「見なかったことにしている」。私もコンサルタントとしてはまだまだ未熟である。

 もっと相手の話を「聴く」ということに集中しないといけない。今月号の『致知』には、河合隼雄に学んだ臨床心理士・皆藤章氏のインタビュー記事が掲載されていた。
 皆藤:話を聴いている、というと「聴けばいいんですか」「誰にでもできることですね」と思う人がいらっしゃるでしょうけど、私が意識しているのは命懸けで話を聴くということです。先ほども少し触れましたが1人の人の声に50分間、ひたすら耳を傾けます。「ああしたらいい、こうしたらいい」という話は一切しません。週1回の話が長い人になると20年以上続くこともあります。
(鈴木秀子、皆藤章「人々の命に寄り添い続けて」)
 命懸けで聴くと言っても、具体的にどうすればよいか、想像力の乏しい私にはイメージが湧かない。そう思って過去の『致知』を読み返していたところ、2017年5月号にヒントがあった。
 横田:私の師匠で、円覚寺の先代管長である足立大進老師は、新しい若い住職が寺に入った時に必ずこう言っていました。和尚たる者、言葉は3つだけでいいんだと。1つは誰かが訪ねてきたら、ただ「ああ、そう」「ああ、そう」と話を聞きなさい。とことん話を聞いて、それが嬉しい話だったら、最後に「よかったね」。辛い話だったら「困ったね、大変だったね」。この「ああ、そう」「よかったね」「困ったね、大変だったね」の3つだけでいい。それ以外のことは言うなと。
(横田南嶺、相田一人「相田みつをの残した言葉」)
致知2017年5月号その時どう動く 致知2017年5月号

致知出版社 2017-05


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 「聴く」ことに徹すると言うと、相手にあれこれとたくさん質問をしなければいけないように感じてしまう。以前に「【城北支部青年部】元Hondaの企画屋がやってきたコミュニケーション(勉強会報告)」という記事の中で、「(『内的傾聴』の反対である)『集中的傾聴』をしていると、質問が勝手に浮かんでくる」などと書いたが、実は質問が自然に湧き出てくるようになるまでには相当な訓練が必要である。たくさんの「聴く」を体感しなければ、その境地に至ることはできない。だが、「ああ、そう」、「よかったね」、「困ったね、大変だったね」の3つだけであれば実践できそうである。まずは、この3つの言葉を使い分けることに集中して、聴く訓練を重ねてみたいと思う。

 おそらく、コンサルタントが時間節約のために、ヒアリングをしながらメモを取るのもよくないのだろう。メモを取る時は、何を書くべきかを考えることになり、肝心の「聴く」ということに集中できない。だから、ヒアリング中はメモを取るのを止めてみようかと思う。前述の3つの言葉(「聴く」訓練を重ねたら、これらに加えて、『集中的傾聴』によって自然と浮かんでくる質問)を使って、相手の話を最大限に引き出すように努力する。それをボイスレコーダーに記録して、後からじっくりと書き起こす。ボイスレコーダーを出すと相手が委縮する場合があるが、何かの証拠のために使うわけではなく、聴き手である自分が聴くことに集中するためであること、また相手の話の聴き洩らしがないようにすることが目的であることを説明して、相手の理解を得るようにする。

 ただ、こういう形でヒアリングをする場合、怖いのが「沈黙」である。沈黙が続くと、相手との信頼関係が壊れてしまうのではないかと感じる。そして、沈黙を埋めるために余計な質問をしてしまう。時にその質問が、相手の答えを誘導することになる。この点に関して、私の大好きな『水曜どうでしょう』のディレクターである嬉野雅道氏が面白いことを言っていた。嬉野Dは最近、「嬉野珈琲店」なるものを運営している。コラム、エッセイ、旅日記などがメインだが、嬉野Dがこだわりのコーヒーを淹れながらファンと一緒に読書をするといったイベントも開催している。嬉野Dは、「1杯のコーヒーを媒介としてコミュニケーションが成立する。もし沈黙が続いた場合でも、1杯のコーヒーがあれば、お互いにそれを口にして、再びコミュニケーションに戻ってくることができる」と語っていた。私も、ヒアリングの際にはコーヒーやお茶を持ち込んでみることにしよう。

 命懸けで聴くことは、最終的には「祈り」につながるという。
 鈴木:私には祈ることの意味を感じた1つの出来事があります。40歳前後でしょうか、1人の男性が人生に行き詰って、医者の紹介で私のところにお見えになったことがあります。その人は船に乗って世界を回っているのですが、時々家に帰ると、幼い我が子が母親に虐待されていた。子供たちは体中アザだらけの状態で「お父さんのところに行きたい」と訴えるというんです。

 だけど、子供たちを船に連れていくことはできません。両方の親も亡くなっていて子供たちを預けることもできない。私と男性が向き合って、長い沈黙が続いた後、男性はふっと顔を上げて「いま決心がつきました。子供たちを施設に預けます。妻も病院で治療を受けられるよう手配を整えます」と言いました。(中略)

 それで、彼が立ち上がって帰ろうとする時、私は「何もしてあげられませんが、あなたのためにずっと祈り続けます。お子さんのためにも奥さんのためにも祈り続けます」と言ったんです。そうしたら彼は「自分のために祈ってくれる人がこの世に1人でもいれば、生き抜くことができます」と言って突然、わーっと大声を上げて泣き出し、椅子に座りこみ、かなり長いこと涙を出し続けていました。この彼との出会いは、祈りを大切に生きてきた私に大きな励ましの力を与えてくれました。
(鈴木秀子、皆藤章「人々の命に寄り添い続けて」)
 コンサルタントも困っている顧客企業とその社員を助けるのが仕事である。だから、彼らの懐に深く入り込み、心の奥底の声に耳を傾け、「彼らにとってよい結果となりますように」と祈る―これが理想のヒアリングというものではないだろうか?顧客企業のため、顧客中心・顧客志向と言いながら、結局のところ自分の仮説にとって都合のよい情報だけを恣意的に取捨選択するような独善的なヒアリングとはそろそろおさらばしなければならない。


2018年04月13日

平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵


これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視
平井 謙一

生産性出版 1998-03

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 副題に「絶対評価・業績成果の重視」とある割には、本書の大半は「職能資格制度」の解説になっている。まず、職能等級基準書の例が示され、それをそれぞれの職種に展開した職能等級基準説明書の例が数多く掲載されている(営業、生産、サービス、企画、事務など)。

 人事考課は成績、情意、能力の3本柱で構成され、それぞれの評価基準が示されると同時に、等級が下位の場合は情意が、中位の場合は能力が重視され、上位になると成績の割合が高くなることが示されている。情意項目の例としては、規律性、積極性、協調性、責任性の4つが、能力項目の例としては、知識(・技能)力、判断力、企画力、折衝力、指導力の5つが一般的だとされているが、なぜこれらの項目で十分であると言えるのかは本書では触れられていなかった(必要な能力の導出をフレームワークを用いて試みた例として、以前の記事「グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論」を参照)。

 業績成果を重視するためには目標管理(MBO)制度を導入しなければならないが、MBOが登場するのはようやくp201になってからである。しかも、本書では「従来の職能資格制度を修正して目標管理制度を導入する(同時に、職能給から年俸制へと移行する)」と書かれているのに、職能資格制度における人事考課と目標管理をどのように融合させるのかについては論じられておらず、両者が併存したままになっている。

 本書では、年功制について次のように述べられている箇所がある。
 年功序列制度は、チームワークの優劣が組織の業績を左右する企業であれば、現在でも有用である。(中略)ある企業では、現在でも、年功序列型の人事制度を固守し、成功している。この場合、賃金処遇ではほとんど差がつかないが、仕事の内容で光の当たる部分と、やや光の当たりにくい、地味な部分があるだけなのである。この職場の雰囲気は、足の引っ張り合いがなく、チームワークは良い。また、ノウハウを共有できる特徴がある。
 欧米企業も最近はチームワークの重要性を認識するようになっている。ということは、むやみやたらと業績主義や成果主義に走るのではなく、むしろ年功制の方が有効なのではないかとさえ思えてくる。ちなみに私は、業績給・成果給においては、どんな計算をしても企業の業績を個人の業績に還元することができず不平不満が残るため、不平等をもたらすかもしれないが最も簡便な人事制度として年功制を支持していることは本ブログでも何度か書いた。

 また、副題にある「絶対評価」をめぐっては、次のような記述がある。
 これからの人事評価の正しいあり方として、第1に、第1次評価、第2次評価は絶対評価を行なう。第2に、調整段階または最終段階で必要に応じ相対評価を行なう。調整段階、最終段階でも、賃金原資や定員枠に余裕のある限り、絶対評価を尊重する姿勢を堅持する。これを原則とするのが好ましい。
 ただ、残念ながら現在の多くの日本企業では、賃金原資はともかく、定員枠には余裕がない。よって、調整段階や最終段階では相対評価となるだろう。いや、以前の記事「元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま」に従えば、相対評価ではなく「相対考課」が正しい。

○図1
企業の人員構成の変化

 現在の日本企業に定員枠がないことを、図1を使って説明したいと思う。図1はかなり荒っぽいモデルであることをあらかじめご了承いただきたい。図1は、社長が3人の部下を引き連れて創業するケースを想定している(便宜的に、社長を係長の枠に入れている)。上司:部下の割合は1:3とし、今後も原則としてはこの比率を保持する。この企業は労働集約型企業であるとして、社長の売上高は2,000万円、部下である一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計4人で売上高5,000万円となる。10年後には、3人の部下は昇進し、それぞれ3人ずつ新しい部下を持つ(便宜的に、社長を課長の枠に、社長の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は3,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計13人で売上高1億5,000万円となる。

 さらに20年後には、社長の部下と一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が27人入ってくる(便宜的に社長を部長の枠に、社長の部下を課長の枠に、社長の部下の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は4,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり3,000万円、社長の部下の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計40人で売上高5億8,000万円となる。

 30年後には、社長の部下、社長の部下の部下、一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が81人入ってくる。社長の部下は部長、社長の部下の部下は課長、一般社員は係長となる。社長の売上高は5,000万円、部長の売上高は1人あたり4,000万円、課長の売上高は1人あたり3,000万円、係長の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計121人で売上高17億9,000万円となる。

 ここまでは、入社した社員が皆昇進することができるので問題ない。問題はここからである。40年後に、9人の課長を部長に、27人の係長を部長に、81人の一般社員を係長に昇進させ、81×3=243人の一般社員を入社させたとしよう。1人あたり売上高は、社長が5,000万円、部長が4,000万円、課長が3,000万円、係長が2,000万円、一般社員が1,000万円であるから、合計360人で売上高52億7,000万円となる。30年後の売上高が17億9,000万円であることを踏まえると、10年で売上高を約3倍にしなければならない。売上高は、創業直後5,000万円⇒10年後:1億5,000万円⇒20年後:5億8,000万円⇒30年後:17億9,000万円と推移しており、だいたい10年間で3倍になっている。売上高を10年間で3倍にするためには、毎年約12%の成長が必要となる。創業後30年ほどは高成長が続くから、このぐらいの成長率でも問題ないだろう。しかしながら、創業後40年ともなれば、成長率が落ちてくるのが普通である。

 もはや全員を昇進させることはできない。だが、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えたい。そこで、今まで上司:部下=1:3となっていたのを、1:4にする。すると、40年後には部長4人、課長16人、係長64人、一般社員256人となる。合計341人で売上高は45億3,000万円である。これは、30年後の売上高17億9,000万円の約2.5倍である。50年後も同様である。16人の課長を部長に、64人の係長を部長に、256人の一般社員を係長に昇進させることはできない。代わりに、上司:部下=1:4となっていたのを、1:5にする。すると、50年後には部長5人、課長25人、係長125人、一般社員625人となる。合計781人で売上高は97億5,000万円である。

 以降同様に、60年後は上司:部下=1:6とし、部長6人、課長36人、係長216人、一般社員1,296人とする。合計1,555人で売上高は186億5,000万円である。70年後は上司:部下=1:7とし、部長7人、課長49人、係長343人、一般社員2,401人とする。合計2,801人で売上高は326億7,000万円である。80年後は上司:部下=1:8とし、部長8人、課長64人、係長512人、一般社員4,096人とする。合計4,681人で売上高は534億9,000万円である。90年後は上司:部下=1:9とし、部長9人、課長81人、係長729人、一般社員6,561人とする。合計7,381人で売上高は830億3,000万円である。100年後は上司:部下=1:10とし、部長10人、課長100人、係長1,000人、一般社員10,000人とする。合計11,111人で売上高は1,234億5,000万円である。

 この間、売上高の伸び率は、
 ・40年後:45億3,000万円⇒50年後:97億5,000万円(約2.2倍)
 ・50年後:97億5,000万円⇒60年後:186億5,000万円(約1.9倍)
 ・60年後:186億5,000万円⇒70年後:326億7,000万円(約1.8倍)
 ・70年後:326億7,000万円⇒80年後:534億9,000万円(約1.6倍)
 ・80年後:534億9,000万円⇒90年後:830億3,000万円(約1.6倍)
 ・90年後:830億3,000万円⇒100年後:1,234億5,000万円(約1.5倍)
と、徐々に伸び率が鈍化していく。それでも、仮に10年間で売上高を1.5倍にしようとすれば、毎年4%の成長が求められる。10年間で売上高2倍なら、毎年7~8%の成長が必要である。

 110年後以降であるが、一般的にスパン・オブ・コントロール(管理の範囲)は部下10人と言われているから、これ以上1人の上司に対する部下の数を増やすことは困難になると思われる。よって、組織は100年後と同じ人員構成を維持しようとすることになるだろう。

 注目してほしいのは、矢印で示した「昇進率」である。前述の通り、創業から30年後までは全員を昇進させることができた。ところが、40年後以降はポストが不足する。そして、図1をご覧の通り、上の階層に行くほど、そして創業からの年数が経過するほど、昇進率が下がる。

 日本企業の多くは戦後の高度経済成長期に設立されたと推測され、図1の40年後~50年後がちょうど20世紀末にあたる。この時期には、各企業は子会社を作って余剰人員を転籍させることができた。連結決算についてもそれほどうるさくなかったから、小さな子会社を乱立させていた時期である。ところが、2001年に連結決算が本格的に施行されると、その手が使えなくなる。図1の60年後~70年後がまさに2000年代~2010年代を表している。連結決算が適用されるので、下手に赤字子会社を作るわけにはいかない。子会社を作って新規事業に算入するならば、本業の規模に見合ったものにしなければならない。図1でお解りのように、この時期には日本企業はそれなりの規模になっていたため、新規事業の種探しも困難を極めるようになった。

 バブル期は図1で言うと40年後に該当する。この時期に入社した社員が10年後に係長に昇進する割合は49%にすぎない。10年後に係長に昇進しても、さらにその10年後に課長に昇進する割合は29%であるから、課長に昇進する割合は49%×29%=約14%である。『7割は課長にさえなれません』というのは決して誇張ではない(旧ブログの記事「日本型雇用制度は半世紀持ったんだから十分だろ-『7割は課長にさえなれません』(補足)」を参照)。

 私は前述の通り年功制を支持する一方で、終身雇用については支持していない。図1でも明らかな通り、全員にポストを用意することは不可能である。かといって、既存社員の雇用を守るために若者を排除するのは愚策である。若者が雇用不安に陥ると、社会全体が動揺することは、フランスやドイツを見れば明らかである。よって、企業は若者を積極的に採用する反面、一定の年齢に達した社員のうち、一定の割合を外部に転出させなければならない。転出した社員は自ら起業するか、転出した社員が興した企業に転職することになる。

 現在、バブル期に入社したミドル社員がポストをふさいでいることが多くの企業で問題になっているようだが、私は遅かれ早かれ、解雇の要件が緩和されると思う。代わりに、産業界は、円滑な起業・転職を推し進めるために、助成金を給付する基金を共同で構成したり、起業・転職希望者を対象とした能力開発を行う組織をサポートしたりする必要が出てくるだろう。

○図2<年齢5階級別人口(平成42年)>
年齢5階級別人口(平成42年)

 以前の記事「『未来をつくるU-40経営者(DHBR2016年11月号)』―U-40の起業家は歳が近くて悔しくなるので、Over50の起業について考えてみた」では図②のようなグラフを用いた(初出は旧ブログの記事「高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』(2)(3)」)。平成42年とは12年後の2030年のことであるが、この頃には、20代を底辺とし、70代ぐらいを頂点とする従来型の組織と、40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織が出現すると書いた。仮に21世紀に入ってから企業がミドル社員の転出・起業を既に促していたとすると、30年後の2030年には図2のような2つのタイプのピラミッド組織が併存しているに違いない。

○図3
人口ピラミッド

 さらに時間が進んで2040年になるとどうであろうか?40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織も創業40年を迎え、全員が昇進できなくなる。ということは、この新しい組織においてもまた、一定の年齢に達した社員の一定割合が転出を促される。その転出は、40代後半で入社して10~15年後ぐらいから始まると仮定すると、今度は50代後半を底辺とし、80歳近くを頂点とする第3の組織も誕生すると予想れる(図3左側)。その結果、60~64歳の約7割、65~69歳の約4割、70~74歳の約2割、75~79歳の約1割が働き続けることになる。2065年になると、図3の右側のように変化する。60~64歳の約8割、65~69歳の約5割、70~74歳の約3割、75~79歳の約2割が働き続けると推測される。



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