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【2018年反省会(11)】コンパクトシティとしての岐阜市の問題を少しだけ洗い出してみる
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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。ほとんど書評ブログ。双極性障害Ⅱ型を抱えながら頑張っています。

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2019年02月10日

【2018年反省会(11)】コンパクトシティとしての岐阜市の問題を少しだけ洗い出してみる


市街地

 (※)本記事を作成するにあたり、「iQra-Channel」を大いに参考にした。

 岐阜市は2017年3月31日に「岐阜市立地適正化計画」というコンパクトシティ化計画を策定・公表している。2018年7月15日に施行された改正都市再生特別措置法(別名「コンパクトシティ法」)により、自治体は住民が「住むべき場所」と「そうでない場所」を明確に分けることができるようになった。そのための計画を「立地適正化計画」と呼ぶ。岐阜市は改正法に先立って、1年以上前に立地適正化計画を策定している。

 コンパクトシティの中核をなすコンセプトに「居住誘導区域」がある。居住誘導区域は「住民の集まる立地のよい住むべき地域」として指定され、自治体が人口減少社会の中で「人口密度を維持する(人口を減らさない)と宣言する地域」である。全体的に人口減少が進む一方で、特定区域のインフラや生活サービスを確保し、居住を誘導することにより、人口密度を維持または増加させる。国土交通省国土審議会「資料4「国土の長期展望」中間とりまとめ(案)≪図表≫」(p36)によると、人口密度が高いほど行政コストが安くなる。さらに、人口が維持されれば不動産価格も下落せず、自治体の重要な税収である固定資産税収入も確保できる。

 居住誘導区域は、鉄道駅から半径1kmおよび幹線バス路線沿線から500mの徒歩圏が望ましい。居住誘導区域は、現状の「市街化区域」をベースに設定される。市街化区域とは、都市計画法(第7条以下)に基づき指定される、都市計画区域における区域区分の一つで、「既に市街地を形成している区域や、概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」と定義される。ただし、市街化区域内であっても、災害危険区域(急傾斜地崩壊危険区域)、土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域、工業専用地域、工業地域は除外される。

 ちなみに、市街化区域と対をなすのが「市街化調整区域」で、都市計画法では「市街化を抑制すべき区域」と定義される。市街化調整区域では、原則として開発行為は行わず、都市施設の整備も行われない。つまり、新たに建築物を建てたり、増築したりすることを極力抑えなければならない。とはいえ、一定規模までの農林水産業施設や、公的な施設、および公的機関による土地区画整理事業などによる整備は可能である。既存建築物を除いては、全般的に農林水産業などのための田園地帯とすることが企図されている。

岐阜市の居住誘導区域

 (※)岐阜市立地適正化計画「第4章 誘導区域及び誘導施設」(p28)より。鉄道・幹線バス路線に沿って青色に網掛けされた地域が居住誘導区域である。

 居住誘導区域はさらに、「まちなか居住促進区域」と「居住促進区域」に分かれる。先ほどの青色に網掛けされた地域のうち、鉄道・幹線バス路線の主要駅を中心とした区域で、赤の網掛けがまちなか居住促進区域、青の網掛けが居住促進区域である。さらに、まちなか居住促進区域の中には「都心拠点」(赤の点線で囲まれた区域)が、居住促進区域の中には「地域生活拠点」(青の点線で囲まれた区域)がある。都心拠点とは、市域各所からの公共交通アクセスに優れ、市民に高次都市機能を提供する拠点である。また、地域生活拠点は、地域の中心として、日常的な生活サービス機能を提供する拠点を指す。

岐阜市_目指すべき都市構造

 (※)岐阜市立地適正化計画「第4章 誘導区域及び誘導施設」(p24)より。

 居住誘導区域の中には、「都市機能誘導区域」がある。生活サービスの効率的な提供が図られるよう、役所、学校、商業施設、医療・福祉施設、保育施設などを集約させたエリアである。地図を見る限り、概ねまちなか居住促進区域と居住促進区域に対応している。

岐阜市の都市機能誘導区域

 (※)岐阜市立地適正化計画「第4章 誘導区域及び誘導施設」(p30)より。

 できるだけ都市機能誘導区域に住民を集めるため、居住誘導区域の区域外において一定の開発行為などを行う時には、市町村長への届出義務が生じる。届出をしないと罰則が課せられる(都市再生特別措置法第88条第1、2項)。法律を知らずに区域外の土地・建物を購入した人が不測の損害を被る恐れがあるので、届出義務に関する規定については、不動産売買契約の前に重要事項説明書に記載し、購入者に対して説明する必要がある。

居住誘導区域外における開発行為等の事前届出義務

 (※)iQra-Channel「岐阜市の立地適正化(コンパクトシティ)計画・居住誘導区域は?」(2018年10月23日)より。

都市機能誘導施設と届出の対象となる区域

 (※)岐阜市HP「岐阜市立地適正化計画に係る届出制度について」より。

誘導施設候補一覧

 (※)岐阜市立地適正化計画「第4章 誘導区域及び誘導施設」(p45)より。

 私はJR岐阜駅の周辺しか観察していないので、ここからはJR岐阜駅近辺を中心に話を進める。まず、都市機能誘導区域の設定に疑問を感じる。JR岐阜駅の北側が「①都心」、南側が「③加納」と分かれており、①都心がまちなか居住促進区域に、③加納が居住促進区域に相当する。都市機能誘導区域を含む居住誘導区域は、鉄道駅から半径1kmおよび幹線バス路線沿線から500mの徒歩圏が望ましいとすると、岐阜市で最大のJR岐阜駅を中心に都市機能誘導区域を設定しなければおかしいと感じる。行政側は住所によって管理したいだろうが、住民にとっては住所はほとんど無関係で、駅に近いかどうかが重要である。

 ただし、これは岐阜市だけで起こる問題ではない。私はプロフィール欄に書いている通り、東京都の城北エリアを中心に活動している。1つ例を挙げると、JR埼京線の板橋駅は、板橋区、豊島区、北区の境目あたりに存在する。近隣の住民はこの3区のどこに住んでいようが、板橋駅の近くに住んでいるならば、やはり駅近くの店舗や施設を利用したいと考えるものだ。行政関連の施設は3区がバラバラに設置しても仕方がないものの、商業施設に関しては3区合同で計画を作ってほしい。まして、現在は分かれている東西の改札口が今年の2月24日から統合されるため、なおさら駅周辺の利便性向上を考慮してもらいたい。

 話を岐阜市に戻そう。①都心の区域には岐阜市役所とメディアコスモス(図書館を含む複合文化施設)が含まれる。これらの施設はJR岐阜駅から2kmほど離れている。都市機能誘導区域の定義に合わせるために、無理やり区域を拡張したように思える。また、①都心には、前回の記事で触れた繊維問屋街や、今やすっかり寂れてしまった柳ケ瀬商店街(1966年、まだ商店街が栄えていた頃に、美川憲一が「柳ケ瀬ブルース」という曲を出した)がある。これらの商店街を何とかもう一度活性化させたいという行政側の意図が透けて見える。

 日本のコンパクトシティが主に高齢社会に対応するためのものであるならば、極論すると、主要鉄道駅や幹線バス路線の主要駅を中心とした都市機能誘導区域では高齢者中心のコミュニティを形成し、それ以外の地域では自動車が使える若者や子育て世帯中心のコミュニティを形成するのが理想となる。よって、都市機能誘導区域には、高齢者が頻繁に利用する施設や店舗を集約する。ただし、都市機能誘導区域は高齢者が集中している上に多種多様な店舗や施設が必要となるため、大型の施設などは作ることができない点に注意しなければならない。その上で、前掲の「誘導施設候補一覧」の表を1つずつ見ていきたいと思う。

 <医療施設>
 病院はたくさんの数を作ることができないし、一定規模の敷地が必要なため、都市機能誘導区域内に設けることは困難であると考える。今後、地域医療連携をより一層推進すれば、住民が日常的に頻繁に利用するのは診療所となり、病院の利用頻度は相対的に低くなる。仮に、都市機能誘導区域内へ病院を誘致すると、それほど病状が重くない高齢者までが病院に集合してしまい、医療資源を高度な医療サービスに注入できなくなる。よって、病院は都市機能誘導区域外に設置し、都市機能誘導区域と路線バスで結ぶのを基本とするべきであろう。

 これに対して、診療所と調剤薬局は地域密着型であるから、様々な診療科を都市機能誘導区域内に集積させる。厚生労働省「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)」では、各都道府県の医療機関を検索することが可能である。ただし、市区町村内の医療機関を検索することはできても、自宅や駅から近い医療機関を検索するのは難しい。私が少しだけ見た限りでは、大阪府の医療情報ネットは、特定の駅や住所を起点として、そこから半径500m以内、1km以内、2km以内の医療機関を調べることができるようになっている。

 そもそも、医療機能情報提供制度がどの程度利用されているのかは不明である。既に、医療機関情報とその口コミを閲覧できる民間のサイトが多数存在する。ただし、これらのサイトも、ある場所を起点とし、そこから近い医療機関を検索できるようにはなっていない。個人的には、各市区町村の担当者がGoogleアカウントを保有し、Googleマイビジネスの機能を利用して市区町村内の医療機関をGoogleマップへ一括登録すればよいのにと思う。Googleマップで口コミを書き込まれるのを嫌う医療機関はリクエストの承認を嫌うだろうが、それ以外の医療機関が承認すれば、Googleマップの使い勝手はかなり向上する。

 <行政施設>
 市役所と支所の関係は、病院と診療所の関係に似ている。住民、特に高齢者が頻繁に利用する機能・行政サービスは支所に集約して各地の都市機能誘導区域に設置し、それほど利用頻度が高くない機能・行政サービスを市役所に残して都市機能誘導区域外に置く。また、今後の高齢化の進展を踏まえると、市役所の直接的な機能ではないが、年金事務所やハローワークに対する高齢住民のニーズが高まると予想される。よって、年金事務所とハローワークはできるだけ各地の都市機能誘導区域に設けるのが望ましいと考える。

 コミュニティセンターは、子育て世帯による利用が中心ではないかと思う。高齢者を都市機能誘導区域に、それ以外の住民は居住誘導区域に誘導するというコンパクトシティの基本的考え方に従うと、コミュニティセンターは都市機能誘導区域外に設置した方がよい。ただし、将来的に高齢者が増加すれば、生涯学習などに対するニーズも増える。とはいえ、生涯学習などに参加できる高齢者は比較的健康的な人が多いに違いない。このような高齢者は、コミュニティセンターが都市機能誘導区域から多少離れていても、バスなどで通うだろう。

 <福祉施設>
 ここで言う福祉施設とは介護施設を指している。しかし、そもそも表で列挙されている施設が全てではない。私は介護分野に詳しくはないのだが、豊島区「在宅医療・介護事業者情報検索システム」によれば、次のような事業所が存在している。

 【介護サービスの入口】
 居宅介護支援事業所(ケアプランの作成)、地域包括支援センター(予防プラン作成)

 【在宅介護】
 訪問介護事業所、訪問看護事業所、訪問入浴事業所、訪問リハビリテーション事業所、デイサービス事業所、デイケア事業所

 【短期入所施設(ショートステイ)】
 短期入所生活介護事業所、短期入所療養介護事業所

 【自宅以外で介護を受けながら生活する】
 特定施設入居者生活介護事業者(介護サービス付有料老人ホームなど)

 【施設入所】
 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設

 【地域密着型】
 夜間対応型訪問介護事業所、認知症対応型通所介護事業所、小規模多機能型居宅介護事業所、認知症対応型共同生活介護事業所、定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所、地域密着型通所介護事業所

 介護事業所の中には、1つの事業所で複数の機能を合わせ持つものもある。さらに、公益社団法人全国老人福祉施設協議会のHPによると、老人福祉法第5条の3に老人福祉施設として、老人デイサービスセンター、老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、老人福祉センター、老人介護支援センターが定義されている。

 LIFULL介護「【違いを表で確認】老人ホーム・介護施設の種類、それぞれの特徴」では、民間の施設も紹介されている。

 【主に要介護状態の方を対象とした施設】
 介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、グループホーム

 【主に自立状態の方を対象とした施設】
 サービス付き高齢者住宅(サ高住)、健康型有料老人ホーム、高齢者専用賃貸住宅、高齢者向け優良賃貸住宅、シニア向け分譲マンション

 今後高齢者が増加し、介護ニーズなどが多様化すると、介護事業所や各種施設の新設・再編が行われる可能性がある。ただ、基本的な考え方として、鉄道・幹線バス路線の主要駅から、在宅、通所、居住の順に設置されることになるだろう。本来の定義に従えば、鉄道駅(1km)および幹線バス路線沿線(500m)の徒歩圏が都市機能誘導区域であるから、それほど面積は広くない。都市機能誘導区域内は在宅、通所関連の施設でいっぱいになり、例えば特別養護老人ホームなどは都市機能誘導区域外に設置されるかもしれない。これらの施設を建設すると、前述の開発・建設等行為に該当し、届出義務が発生する。許可や認可ではないから手続きは煩雑ではないだろうが、簡単には建設できない点に留意しなければならない。

 JR岐阜駅の近くに、「ジョイフル岐阜駅」という複合施設が今年の3月にオープンする。特別養護老人ホーム、介護サービス付有料老人ホーム、ショートステイホーム、サービス付き高齢者住宅、一般共同賃貸住宅、地域交流センターなどが含まれる。先ほど述べた基本的な考え方によると、要介護度がバラバラの高齢者を主要駅近辺に集めるのはあまり適切ではないと感じる。高齢者の要介護度が上がるほど、施設側の運営費用は重くなる。ジョイフル岐阜駅は一等地にあるから、特別養護老人ホームやショートステイホームのように介護保険で収入がほぼ決まる施設は、賃料の高さにも苦しむだろう。要介護度が高い高齢者を対象とした公的施設は、駅からやや離れた土地代の安いエリアを中心とするべきではないかと考える。

 <子育て支援施設>
 これも前掲の表に書かれているものが全てではない。児童福祉施設は児童福祉法で規定されており、助産施設(第36条)、乳児院(第37条)、母子生活支援施設(第38条)、保育所(第39条)、認定子ども園(第39条の2)、児童厚生施設(児童館など、第40条)、児童養護施設(第41条)、障害児入所施設(第42条)、自動発達支援センター(第43条)、児童心理治療施設(第43条の2)、児童自立支援施設(第44条)、児童家庭支援センター(第44条の2)がある。また、児童福祉に関する機関として、港区での建設が話題になった児童相談所もある。

 コンパクトシティの概念に従えば、子育て世帯の住居は都市機能誘導区域外の居住誘導区域が中心となる。とはいえ、岐阜市のような完全なる自動車社会では、自動車でどこにでも行けるため、子育て世帯が特定地域に集合するインセンティブが低い。また、高齢者が都市機能誘導区域に移動すると、子育て世帯が受けられる支援が減少する。子育て世帯が市内に点在し、共働き世帯が増え、高齢者を含むコミュニティの力が弱くなり、さらに離婚率の上昇で母子家庭が増加すれば、公的資源への期待が高まる。コンパクトシティが目指す行政コストの減少とは逆に、子育てに関してはむしろ行政コストが増す見込みが高い。

 <教育文化施設>
 学校は今さら移動させることがほぼ不可能である。地区によって通う学校が決まる公立小中学校に関しては、移動による生徒(とその家族)への影響が大きすぎる。それ以外の学校にしても、移設期間中は生徒や学生に混乱をもたらす。大規模な中央図書館は利用頻度が低いから、都市機能誘導区域内に持ってくる必要はない。前出のメディアコスモスは、岐阜市の定義では都市機能誘導区域内にあるが、JR岐阜駅から約2km離れている。私はこのぐらいの距離感でよいと思う。また、広大な敷地を要する博物館・美術館も、市内に2~3あれば十分である。他方、住民が気軽に利用できる図書館の分館は、都市機能誘導区域内に設ける。

 <商業施設>
 商業施設については、大規模小売店舗立地法と商店街を意識しているため、上表のような区分になっている。しかし、これはあくまでも行政側の目線であって、住民が意識するのは、近隣エリアで生活に必要な商品やサービスが揃うかどうかである。生活の基本中の基本は衣食住である。衣に関しては、アパレルショップ、アクセサリーショップ、クリーニング店などがほしい。食に関しては、スーパー、飲食店、カフェ、惣菜店などがほしい。住に関しては、不動産会社、リフォーム店、水回り修理店、家事代行サービス店、家電販売店、家具販売店、日用雑貨店などがほしい。もちろん、コンビニやドラッグストアも必要である。その他生活に必要なサービス業としては、美容室・理髪店、マッサージ店、それから携帯電話ショップなどがある。

 上記の店舗のうち、マッサージ店のように必ず対面でなければサービスを提供できない業態を除けば、大半の商品はインターネットで購入することが可能である。だから、都市機能誘導区域内に中途半端な広さの店舗を増やすよりも、区域外に大型店舗を作って、そこから自宅まで配達してもらった方が効率的かもしれない。岐阜市立地適正化計画「第6章 数値目標の設定と進行管理」を読むと、目標達成年度は2035年に設定されている。現在の50歳前後の人たちがちょうど高齢者の仲間入りをする年である。彼らならば、今の高齢者と違って、インターネットを自由に使いこなしているだろう。なお、区域外の大型店舗には、郊外に住む子育て世帯が自動車で来店してもよい。もちろん、子育て世帯がネット通販を使ってもよい。

 見落とされているのが、日常生活のことを色々と相談できる士業である。高齢者が増えると相続の問題も増えるため、弁護士や税理士ヘのニーズが高まる。また、上表で全く触れられていないが、生活する上であると望ましいのが娯楽施設である。地方都市の中心的な娯楽と言えばパチンコである。よくも悪くも、パチンコは今後も残るだろう。それ以外に、高齢者向けに進化した娯楽施設が現れるに違いない。現に、カラオケ店やゲームセンターは高齢者が集まる場となっている。前述の博物館や美術館は市内にいくつも作ることができないものの、ミニシアターや劇場などはビジネスとして成り立つならばあってもよい。高齢者向けのネットカフェなどもできるかもしれない。さらに、お金を使わない娯楽施設として、公園の存在も重要である。

 <金融施設>
 前回の記事で書いたように、もう少し銀行のATMは増やしてほしい。公的年金があてにならない時代になると、資産運用に対する高齢者の関心が高まる。銀行でも投資信託は扱っており、ネットでも株式の運用や投資信託・iDeCoの購入ができるとはいえ、最も資産運用のノウハウが高い従来型の証券会社の店舗を頼りにする高齢者は依然として多いのではないかと考える。また、ここでも1つ見落とされているのが保険である。これからは高齢者をターゲットとした保険がどっと増える。「ほけんの窓口」の高齢者向けバージョンが必要となるだろう。

 ここからはさらに切実な問題に触れたいと思う。そもそも、子育ての間は居住誘導区域をはじめとする郊外に住み、高齢者になったら都市機能誘導区域に移り住むことが現実的に可能かという問題である。不動産NAVI「コンパクトシティとは?富山・青森の事例からわかる失敗と成功例とメリットデメリット」(2017年1月31日)では青森市の失敗要因が述べられている。青森市は、アウターに住む高齢者に持ち家を売却してもらい、その資金でミッドやインナーの住宅購入を促す構想を練っていた。しかし、アウターの不動産価格は安いため、売却資金では不動産価格が高いインナーの住宅を買うことができず、高齢者の移住が進まなかった。

 以前の記事「『終わりなき「対テロ戦争」(『世界』2016年1月号)』」では、都道府県の枠を超えて、大都市への人口集中を解決するための簡単な試案を示してみた。ただ、この記事で大都市からの移動を想定しているのは、主に結婚前の若者である。結婚して子どもができると、保育園や幼稚園、学校の立地に制約されて、転居のハードルが上がる。そしてそのまま高齢者となれば、住み慣れた街を離れることにかなりの心理的抵抗を感じる。仮に住居を移すとしても、青森市の事例のように新たに住居を購入することは難しく、賃貸物件に入ることになるだろう。ところが、高齢者を受け入れてくる賃貸物件はまだまだ少ないのが現状である。

 もう1つ仮の話をすれば、もし高齢者が都市機能誘導区域に移住したとして、前述の介護施設や商業施設が増加した場合に、誰がその仕事をするのかという問題も生じる。一定規模の製造業、金融機関、情報通信業などでは、階層の多いピラミッド型の組織が見られ、年功制によって加齢に伴う賃金上昇がまだ期待できる。一方、介護施設や商業施設に勤めると、出発点の給与が低い上に、ピラミッドの階層が少なく、あまり賃金上昇を見込めない(岐阜で介護職に就いている私の友人は、20年近く介護の仕事をしているのに、現在の給与は大卒初任給程度までしか上がっていないと話していた)。さらに、これらの施設は多くの非正規職員によって支えられている。若者がこうした仕事に就いた場合、将来の人生設計を立てるのは難しい。

 以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」で、典型的なピラミッド組織から外れた40代のミドルは新たなピラミッド組織に転職し、さらにそのピラミッド組織から外れた60代のシニアは再び別のピラミッド組織に転職する時代になるという私見を述べた。ただし、現実問題として、新たなピラミッド組織はどの産業で生まれるのかについてまでは考察していなかった。

 十分な解ではないものの、都市機能誘導区域内の介護施設や商業施設の仕事を60代以上のシニアが中心となったピラミッド組織が担うという手が考えられる。給与は大幅に下がるだろうし、ピラミッドの階層が少ないため、昇給もあまり望めない。前掲の記事で私が想定していたような、80歳、90歳まで昇給の恩恵を受けながら仕事を続けることは無理があるかもしれない。しかし、少なくとも警備や清掃の仕事で日銭を稼ぐよりは仕事が安定するに違いない。また、顧客である高齢者のニーズは、同じ高齢者の方が理解しやすいという利点もある。

 仮に都市機能誘導区域へ高齢者を移すとしても、区域内の住民が全て高齢者になるわけではない。元々その区域に住んでいた若者や子育て世帯はそのまま残るだろうし、移住してきた高齢者と一緒に、その子ども夫婦も介護のために引っ越してくるかもしれない。また、前述のような都市機能、特に商業施設が充実してくると街の魅力が上がるので、各地から若者が集まって来る可能性もある。JR岐阜駅は岐阜市で最も大きな駅であるから、その可能性が一層高いだろう。岐阜市の2035年における65歳以上の人口割合は33.0%と推計されているが、都市機能誘導区域の高齢者が増加したとしても、区域内の高齢化率はせいぜい40%強にしかならないような気がする。残りの多くは65歳未満の生産年齢人口である。

 冒頭で述べたように、コンパクトシティが職住近接を目指すならば、彼らが就労できる場が存在しなければならない。高齢者と一緒に移り住んできた子ども夫婦は、自家用車で元の職場に通い続けるかもしれない。一方、それ以外の若者に対しては、可能な限り正社員として長期間働くことができる企業が必要である。私が理想とする年功序列制を採用し、社員が将来の昇給を期待して人生設計を立てられるような重層型のピラミッド組織が望ましい。最も実現可能性が高いのは伝統的な製造業であるが、街中に後から工場を建設すると、近隣住民から騒音や臭いなどへの苦情が出やすい。そのため、製造業以外でこのようなピラミッド構造を実現できる産業を、都市機能誘導区域内またはその近辺に開発することが求められる。

 最後に元も子もない話を1つする。実は、電気自動車と自動運転が普及すると、わざわざコンパクトシティにする必要はないのではないかという話である。高齢者が電気自動車を保有することが難しければ、カーシェアリングサービスを充実させればよい。岐阜市を含む地方都市が現在の行政コストをどのように計算し、コンパクトシティの実現に必要な追加費用と、反対に長期的に削減される行政コストをどうやって見積もっているのかは解らない。高齢者を行政の意向で都市機能誘導区域に移住させるという共産主義的な手法を取るよりも、電気自動車の購入に補助金を出した方が、実は行政コストを節約できるかもしれない。


2019年02月09日

【2018年反省会(10)】コンパクトシティとしての岐阜市を少しだけ観察した


岐阜城

 (※)写真は金華山の頂上にある岐阜城。かつては稲葉山城と称し、戦国時代には斎藤道三の居城でもあった。織田信長が斎藤道三の子・龍興から奪取した稲葉山城の縄張りを破却して、新たに造営したものが岐阜城である。

 実家に戻っても仕事の当ては全くなかった。東京でもそうしていたように、中小企業診断士の人脈を作っていけば徐々に仕事を得ることは可能だと思っていた。ところが、私が転籍した岐阜県中小企業診断士協会は所属会員数が約70名しかいない。岐阜県の面積は全国第7位なのにこの人数である。転籍前の城北支部に500人近く所属していたのとは雲泥の差であった。だから、初めから岐阜だけで仕事をすることは厳しいと感じていた。名古屋まで出れば企業数も中小企業診断士の数も増えるため、名古屋まで視野に入れて自分のビジネスを設計する算段であった。実際、実家に戻る前に、名古屋の中小企業診断士を紹介してもらっていた。

 私は、2012年の夏にも長期入院をし、その後一から中小企業診断士の人脈を構築して、顧客企業を開拓したことがある。この時は体調が回復し、ビジネスが安定するまで1年ぐらいかかった。今回は、以前の記事で触れた就労継続支援事業A型などで月数万円の収入を得ながらビジネスの準備をしようと決めた。そして、1年後にビジネスを本格化させ、同時にその時までにできた貯金で市内のどこかに引っ越す計画であった。

 だが、私を悩ませたのは、ガチガチの「実家ルール」であった。7月に実家で静養していた時にはそれほど苦痛だと感じなかったのだが、9月末には精神的に最悪な状態で戻ってきたため、このルールが非常に息苦しかった。私は朝に入浴またはシャワーを浴びる習慣がついている。その習慣に従って朝シャワーを浴びようとしたところ、母親から「朝パートに行く前に洗濯機を回すから、7時10分までに洗濯物をカゴに入れてくれ」と注文を受けた。時間指定が細かいことに驚いたものの、母親の出勤時間から逆算すればその時間になるのだろうと理解した。

 仕方ないので、夜シャワーを浴びることにした。問題は時間である。実家では、母親の就寝時間が10時近くで最も遅かった。その時間から逆算して、母親、父親、弟の入浴時間がほぼ正確に決まっていた。6時頃に夕食が終わると、弟は早くも湯船にお湯を張り始めた。私は3人の入浴スケジュールに割り込む形になるため、父親の次に10分程度しかシャワーを浴びることができなかった。その後母親が入浴し、最後にバスルームを丹念に掃除していた。

 仮に私が母親の次に入浴すれば、あるいは朝シャワーを浴びれば、私がバスルームを掃除することになる。しかし、元来掃除が苦手で、病気になってからはなお一層掃除をしなくなった私がバスルームを掃除することを想像したら、それだけで苦痛であった。それに、母親の性格からして、私の掃除が甘ければほぼ間違いなく注意される。東京で暮らしていた時は、妻に散々せっつかれてようやく年に2~回バスルームを掃除する程度であった。しかも、それほど家事にうるさくない妻から、私の洗い方が雑だと指摘されていた。戻ったばかりの頃は実家の予定に従うことができたとしても、私のようなフリーランスが仕事の準備を進めていけば、帰りの時間もバラバラになっていく。中小企業の関係者や中小企業診断士との飲み会で帰りが遅くなることもある。私の不規則性に実家の規則性をあてはめられるとかなり厳しい。

 7月に実家で静養していた時は、真夜中のあまりの暑さで夜中2時頃に目が覚めて、その後にシャワーを浴びていた。この時は、私がいるのがせいぜい1か月程度であるから、母親は何も言わなかったのかもしれない。ところが、今回はこれから長く一緒に暮らすかもしれないため、実家ルールを厳格に適用しようとしたのだろう。食事に関しても同様である。私は、11時半に昼食を、5時半に夕食を摂るという実家のスケジュールに従う必要があった。食事を用意してくれるのはありがたいものの、仮に私の食事の時間が後ろにずれたら、私が洗い物をすることになる。ここでも、私の掃除嫌いと母親の几帳面さが衝突する恐れがあった。

 実家に戻る前には、例の過眠傾向が再び現れていた。実家に戻った後も、8時過ぎに約10分シャワーを浴びた後にはすぐに寝てしまい、翌日7時半頃に起きていた。まずは生活のリズムを立て直さなければならないと考えた私は、9時頃に外出して近所のカフェで読書やブログの執筆をして、11時半前には一旦実家に戻り、1時頃に再び外出して5時過ぎに戻るというパターンを繰り返した。以前の記事「久繁哲之介『地域再生の罠』―コンパクトシティ先駆け(?)の岐阜市の実態を岐阜市出身の私が補足」を書いた後に、私の認識違いを指摘されたことを思い出し、わずかな時間ではあるが岐阜市の中心であるJR岐阜駅の近辺を観察してみた。

 最初に感じたのは、飲食店の多さであった。JR岐阜駅には「ASTY岐阜」が入っており、その東に「ハートフルスクエアーG」が、西に「アクティブG」がある。ASTY岐阜にはマツモトキヨシや成城石井、三省堂書店などがあり、ハートフルスクエアーGは丸々行政施設だからよいものの、アクティブGがとにかく飲食店だらけで驚いた。さらに、JR岐阜駅から徒歩5分ぐらいのところに位置する名鉄岐阜駅の周辺には、やたらと居酒屋が並んでいた。岐阜市は元々アパレルの町であり、JR岐阜駅の北西には繊維問屋街がある(父親もアパレル企業に勤めていた)。もっとも、アパレル業界は海外勢に押されて壊滅状態になったため、繊維問屋街も今ではシャッター街と化している。現状に危機感を覚えた行政が再開発を徐々に進めているのか、ところどころに新しい店舗の集積地ができている。だが、それもほとんど全てが飲食店であった。

 「出店戦略情報局」というサイトで、鉄道各駅の周辺の昼間人口と飲食店数を調べることができる。JR岐阜駅から半径1km内の昼間人口は43,597人、飲食店は337店である。飲食店1店舗あたりの昼間人口は約129人となる。これを東京のいくつかの駅と比較してみよう。

 <池袋駅から半径1km内
 昼間人口176,751人、飲食店839店⇒飲食店1店舗あたりの昼間人口約211人。
 <渋谷駅から半径1km内
 昼間人口233,720人、飲食店1,150店⇒飲食店1店舗あたりの昼間人口約203人。
 <新宿駅から半径1km内
 昼間人口395,869人、飲食店1,656店⇒飲食店1店舗あたりの昼間人口約239人。
 <大手町駅から半径1km内
 昼間人口437,755人、飲食店1,317店⇒飲食店1店舗あたりの昼間人口約332人。

 コンビニで食事を購入する人もいるが、仮にJR岐阜駅の周辺のコンビニがゼロであり、渋谷駅から半径1km内の飲食店+コンビニ1店舗あたりの昼間人口がJR岐阜駅と同水準であるとしよう。この場合、渋谷駅周辺のコンビニ数は、176,751人÷129人/店-839店=約531店舗必要な計算となる。実際には、渋谷にこんなに多数のコンビニは存在しない。

 他方、JR岐阜駅周辺にももちろんコンビニはある。ただ、なぜかファミリーマートばかりであった。私がちょっと散策しただけで、少なくとも4店舗発見した。逆に、セブンイレブンとローソンがない。駅からかなり離れたところに1店舗ずつあるのを見つけた程度である。やや古い記事になるが、HUFFPOST「コンビニの出店戦略を地図にしてみたら・・・」(2014年1月17日)によると、ドミナント戦略を採用しているのはセブンイレブンだけではない。セブンイレブンは関東で、ローソンは関西でドミナント戦略を展開している。ファミリーマートは全国に点在し、サークルKは中部地方に集中している。ファミリーマートがサークルKサンクスを吸収したため、中部地方ではファミリーマートが主流になり、JR岐阜駅周辺でも店舗が増えたのかもしれない。

 私は最小限の荷物で実家に戻ってきたため、洋服と靴を買おうとした。しかし、レディースアパレルのお店は前述のアクティブGなどにあるのに対し、メンズアパレルのお店が見つからなかった。全国展開しているアパレル企業でJR岐阜駅から近いところとなると、駅から西に徒歩で1.3km離れた「オーキッドパーク」というショッピングセンターの中にあるユニクロと、同じく西に徒歩で3.3km離れたところにあるABCマート岐阜市橋店ぐらいしか思いつかなかった。自転車を持っていなかった私は、わざわざ歩いて行くのを面倒くさがり、結局はネットで購入した。

 洋服は購入頻度が低いので大した問題ではなかったのだが、一番困ったのは銀行のATMである。三菱UFJ銀行の口座を持っていた私は、JR岐阜駅から北に500mほど離れたATMまで歩いて行かなければならなかった。しかも、JR岐阜駅の北側にはバスターミナルがあり、さらにその北を大通りが横切っている関係で、高架橋を渡る必要がある。この高架橋がどういう設計思想で作られたのか不思議なくらい複雑で、真っすぐ歩いて北に行けない。「日本全国銀行・ATMマップ」によると、岐阜駅周辺(半径800m圏内)には銀行・ATMが28店舗ある。主だったところでは、三菱UFJ銀行が2店舗、三井住友銀行とみずほ銀行が1店舗ずつ、ゆうちょ銀行が3店舗、岐阜信用金庫が5店舗、十六銀行が7店舗、大垣共立銀行が5店舗である。

 確かに、岐阜市では市内に本店がある十六銀行が強い。また、大垣共立銀行はCRMに注力しており、ATMにスロットゲームを取り入れたり、行員によるユニット「OKB45」で宣伝活動をしたりと、型破りなマーケティングをしていることでも有名だ。ただ、メガバンク4店舗に対し、地銀・信用金庫が17店舗ある。安直な考え方だが、岐阜駅から半径800m圏内で地銀・信用金庫の口座を持っている人が、メガバンクの口座を持っている人の4倍以上もいるのか疑問であった。特に、三菱UFJ銀行は東京銀行、三菱銀行、三和銀行、東海銀行が合併してできた銀行で、東海銀行はその名の通り東海地方に強い銀行(本社:愛知県名古屋市)である。だから、三菱UFJ銀行の口座を持っている人はそれなりに存在するのではないかと推測する。

 岐阜市はコンパクトシティの実現を目指し、「岐阜市立地適正化計画」を策定している。コンパクトシティとは、ヨーロッパにおいて1990年代から提言された考え方である。自動車社会の発展により都市が無秩序に広がり、住宅や工場が無計画なままに建設された結果、近郊農地や山林の侵食に伴う土地利用の混乱、地価の高騰、交通の渋滞、環境の悪化などの諸問題が山積した。そのため、中心都市部に生活に必要な諸機能を集約し、職住近接を実現することで自動車への依存度を下げ、郊外の農地や緑地を保全することを目的としているのがコンパクトシティである。コンパクトシティはさらに、商店街の活性化や地域社会(コミュニティ)の復活をもたらし、相乗的な経済交流につながると考えられている。

 日本の場合、鉄道網の整備が十分でない地方都市(※)においては、改正大規模小売店舗法(2000年6月1日廃止)と自動車社会の進展が相まって郊外に巨大ショッピングセンターが造られ、幹線道路沿線には全国チェーンを中心としてロードサイド型店舗やファミリーレストラン、ファーストフード店などが出店するようになった。また、公共施設や大病院も広い敷地を求めて郊外に移転した。その結果、際限のない郊外化や市街地の希薄化が道路・上下水道などの公共投資の効率を悪化させ、行政が膨大な維持費を負担しなければならなくなった。また、無秩序な郊外開発は持続可能性、自然保護、環境保護の点からも問題視されている。

 ここまではヨーロッパの事情とほぼ同じである。日本では高齢化の問題があり、移動手段のない高齢者など交通弱者を支援するという視点が加わる。そのため、とりわけ高齢化率が高い(あるいは将来的に高くなる)地方都市で、コンパクトシティ化が推進されている。次回は岐阜市のコンパクトシティ計画(岐阜市立地適正化計画)について私見を述べてみたい。

 (※)「自治体サイト・データ検索」によると、面積203.6 km²の岐阜市にある鉄道の駅は15である。これに対して、面積326.4 km²の名古屋市にある鉄道の駅は190である。


2019年02月02日

【2018年反省会(9)】アルバイトや派遣の求人に40社以上応募して2社しか受からなった


履歴書

 障害者雇用に特化した転職エージェントやハローワークの担当者の話に従えば、週5日フルタイムでアルバイトができるようになってから障害者雇用の求人を探す必要があった。だが、この年は入院と自宅静養を1か月ずつしており、またフリーランスとして様々な仕事を引き受けながら各所を転々とするスタイルに慣れ切っていたため、いきなりかつての正社員時代のように、一企業にフルタイムで勤めることが可能なのか自信がなかった。そこで、まずは週3日のアルバイトから始めて、徐々に週5日へと増やすことを目指した。

 問題は何のアルバイトをするかであった。まず、接客やコールセンターの仕事は真っ先に候補から外れた。私は日常生活の些細なことでイライラする。昔の記事を読み返すと、もう何年も前からそのイライラを回避しようと試みているのに、未だに成功していないことに気づく。電車で大声で話す人、イヤホンから音漏れがしている人、スマホのスクリーンショットをパシャパシャと撮る人、足を組んで座る人、泣いている赤ちゃんをいつまでも泣き止ませようとしない人、他人が降りる前に乗り込もうとする人、ホームを歩くのが遅い人、カフェで電話や会議をする人(どちらも営業秘密がダダ漏れだと思う)、飲食店で店員にため口で注文する人、コンビニやスーパーでスマホの音楽を聴きながらレジの店員とやり取りする人、街中でマイクつきイヤホンで通話する人(私には大きな独り言にしか聞こえない)など、私にとってこの世界は地雷が多い。

 普通の人も大なり小なりこうした地雷を持っているだろうが、地雷を踏んだ時にどう感じるのかまでは私には想像できない。私の場合は、「腹が立つなぁ」では収まりがつかず、「てめぇぶっ殺すぞこの野郎」と心の中でリフレインする。歩くのが遅い人は後ろから蹴飛ばしてやろうかと思うこともある(私のような人間が自動車を運転したら、ほぼ間違いなくあおり運転をするだろう)。一人で勝手にカッとなって、その後しばらく頭痛に悩まされる。こんな具合なので、失礼な顧客や変なクレームが来たら、易刺激性が顔を出して一発でクビになるに違いない。私が曲がりなりにも経営コンサルティングの仕事を続けることができたのは、無茶苦茶な顧客に当たる可能性がBtoCビジネスに比べるとはるかに低いからである。

 私は車の運転ができないし、前述のようにそもそも車を運転してはいけない人間である。また、長年のデスクワークの影響で腰痛があり、製造ラインや軽作業といった体力勝負の仕事もできない。医療・保育・介護関連の資格を取っていないため、これらの仕事も不可能である。私が持っていたシステムエンジニアやWebデザインのスキルはもう古すぎて使い物にならない。営業もそれほど得意ではない。そうすると、残るのは一般事務になる。デスクワークが長い私にできるのはこれぐらいしかない。それに、将来的に人事・総務の障害者雇用を目指すのであれば、一般事務のアルバイト経験が最も役に立つのではないかとも考えた。

 私は一応人事分野のコンサルティングが専門であると宣言しているものの、メインターゲットは正社員であり、恥ずかしながら非正規雇用の実情をほとんど把握していなかった。だから、今回自分が非正規雇用に応募する立場になって初めて解ったことが多々ある。

 私が探していたのは、時給1,200円程度、1日8時間、週3日から始められる仕事であった。ひとえに一般事務と言っても、その内容は様々である。求人サイトやアプリを見ながら、明らかに女性を対象としていることが解るものは外し、自分が得意とするExcelやPowerpointのスキルが求められている仕事を選んで応募したつもりである。ところが、応募しても応募しても、ほとんど書類選考を通過することができなかった。アプリの中には、氏名、性別、生年月日、メールアドレスだけで簡単に応募できるものもある。その基本情報を送っただけで不採用通知が届いた時には驚いた。どう考えても性別か年齢だけではじかれていた。

 やっと面接にこぎつけたある企業の担当者からは、「時給1,200円の仕事なんてはっきり言って雑用レベルだから、塾講師や家庭教師をやった方がいいのではないか?」と言われたこともある。現在時給1,200円で仕事をしている方々には、この担当者に代わってお詫びする。塾講師や家庭教師は、見かけ上の時給は高いものの、授業時間以外にもやらなければならない仕事がたくさんあり、実際の時給はかなり低いことを私は大学生時代に経験していた(大学生時代の塾講師の仕事については、後の記事で触れる機会があると思う)。

 時給1,200円前後の一般事務は人気が高く、求人が出ていても実は既に採用者が決まっていることも多いらしい。そのために、後出しの私の書類が選考を通過しなかったケースもあるだろう(もちろん、落ちた要因は他にもたくさん考えられる)。ただ、中には奇妙な企業もあった。一般事務を5人募集していた企業で、「そんなに難しくない仕事」なのに、時給1,500円と書かれていた。この条件ならば一瞬で枠が埋まるだろうと思いつつ、ダメもとで応募した。すると、面接まで進むことができた。面接では、「そんなに難しくない仕事」の適性を見るためと言われて、なぜか難易度の高いIQテストを受けた。結果は不採用であった。不思議なのは、私が応募したのは8月なのに、7月にも5人募集しており、9月にもまた5人募集していたことだった。

 派遣会社も利用した。厳密に言うと、いつの間にか派遣会社を利用していた。きっかけは、アルバイトの求人サイトで「単純データ入力で時給1,500円」という求人を発見したことである。Webで応募した後、面接の案内が来たのでその企業に出向いたところ、1枚のシートを渡された。職歴を簡単に記入し、保有スキルの一覧のうち該当するものにチェックを入れていくというものだった。この時初めて、アルバイトの募集ではなく派遣会社への登録だと気づいた。

 シートへの記入が終わると、担当者がやって来て、「この求人はもう募集が終了している」と告げられた。代わりに、時給がほぼ同じで難易度がやや高い事務の仕事を紹介された。私はまだ同じ事務の仕事を紹介してもらったからよかったものの、たまたま私の隣で同じく事務を希望していた大学生と思しき人は、やはり同じように「この求人はもう募集が終了している」と告げられた後、全く毛色が違うコールセンターの仕事を紹介されたようであった。

 冷静に考えれば、単純データの入力だけで時給が1,500円というのは高い。100ぐらいの業務を覚えなければならないコンビニ定員のアルバイトが最低賃金ギリギリであるのに比べて、話が美味しすぎる。早く仕事を見つけなければと焦っていた私は、その時紹介された別の仕事をやりたいと希望して、派遣先会社の担当者との「顔合わせ」に臨んだ(建前上、派遣先会社は派遣元会社が連れてきた候補者を「面接」してはならない)。顔合わせの際に、派遣先会社の担当者が希望していた勤務条件と、派遣元会社の営業担当者が認識していた派遣先会社の希望条件にミスマッチがあったこともあり、私は不採用になった。

 その後、同じ求人サイトで、同じ派遣会社が出している同じようなデータ入力事務の求人にいくつか応募してみた。しかし、派遣会社からは「その求人はもう募集が終了している」としか返ってこなかった。たくさん応募したら1つぐらい当たるだろうと一気に応募したところ、連絡が途絶えた。今振り返ると、この手の”美味しい”求人は、派遣会社が登録者を集めるための「カラ求人」だったのではないかと思う。不動産業界に「おとり物件」があるのと同じである。おとり物件の存在は知っていたのに、カラ求人を見抜けなかった当時の私は愚かである。

 求人サイトで、契約形態が「アルバイト・パート」に分類された「軽作業、シール貼り、仕分け、配送、簡単データ入力、イベント」などの仕事で、「勤務地多数」と書かれているものは、グレーである可能性が高いと感じる。求人を出している企業のHPを調べると、事業内容が「人材サービス業」となっていたり、「人材をお探しの企業様へ」といったコーナーがあったりする。もはや実質的に派遣会社である。派遣事業の許可・届出がある企業を検索できる厚生労働省のサイトで社名がヒットすればまだましだが、ヒットしなければかなり危ない。

 中には、顧客企業から工場などの業務を請け負っており、請負業務を担当するアルバイトを募集しているのだと主張する企業もあるだろう。だが、例えば採用したアルバイトが1人で工場に勤務し、顧客企業からの指揮命令に従って仕事をしていれば、偽装派遣にあたり違法である。働いている本人は、アルバイトであろうと派遣社員であろうとあまり変わりはないと感じるかもしれない。しかし、仕事の形態自体は社会的にはアウトである。

 大手の派遣会社にも4社ほど登録した。どの派遣会社も、Web上でかなり細かく保有スキルを登録できるようになっていた。ところが、その後担当者との面談があるところもあれば、ないところもあった。はっきり言って、Web登録の情報などいくらでも偽装できる。アルバイトでも、履歴書の内容を鵜吞みにせずに、面接で応募者の過去の経験を詳しく聞いて、自社の業務にフィットするかを確かめる。企業が派遣会社を利用する理由の1つは、こうした面接の手間を省くためである(それもあって、前述の通り派遣先企業は面接を行うことができない)。

 だとすれば、派遣会社が面談を通じて応募者の職務経験を把握しながらWeb登録情報の裏づけを取り、適切な人材を見極めなければならないはずだ。一般に、派遣社員の時給はアルバイトよりも高いのだから、派遣会社はなおさら慎重に見極めを行う必要がある。その過程をすっ飛ばして、いきなり登録者を派遣先会社に紹介する派遣元会社のビジネスモデルは、大手であればなおさら一体どうなっているのかと不思議であった。

 企業が派遣会社を利用する理由はいくつかある。事実上、面接を代行してもらうのも1つである。とりわけ、いきなり1人欠員が出た場合に、いちいち自社で求人広告を出して複数人を面接するよりも、派遣会社から1人紹介してもらった方がはるかに速い。また、派遣先会社は社会保険料を負担する必要もないし、社会保険に関する細々とした業務も省略できる。ただし、派遣会社がしばしばうたい文句にしている「即戦力を活用できる」という点については、個人的には疑問である。もちろん、専門スキルを持っていて、高い時給で働いている派遣社員もいるのは間違いない。一方で、「未経験歓迎」の求人も腐るほど出ている。

 大前提として、派遣社員には3年ルールというものがあり、基本的に派遣先会社の同じ部署で3年を超えて継続勤務することができない。専門スキルが必要なのに、トレーニングは派遣会社に肩代わりしてもらうことが可能で、正社員よりも安い給料で済み、3年以内で人員が入れ替わっても問題ないという、あまりにも都合のよい仕事が一般企業にどれほどあるかを考えれば、派遣社員=即戦力という派遣会社の主張はかなり無理があるように見える。

 私が派遣会社を使って実感したのは、企業が派遣会社を利用する最大の理由の1つは、能力以外の人材要件を細かく指定できるからではないかということである。アルバイトの場合は、求人広告で募集者の年齢や性別を限定することはまず不可能である。一方、企業は派遣会社に対して自由にオーダーを出すことができる。女性がほしい、25歳前後がいい、極言すれば美人にしてくれと注文してもよい。登録者と面談をしない派遣会社でも、Web登録の際に顔写真つきの本人確認書類を要求するから、登録者が美人かどうかはある程度把握している。少なくとも、保有スキルが本物か否かを確認するよりは容易である。そのことを知っている企業は、アルバイトよりお金がかかるとしても、派遣会社を使いたがるのではないかと推測する。

 派遣会社については、単なる恨み節を書いているかのようになってしまった。結局、アルバイトと派遣会社の求人に40社以上応募したのに、面接や顔合わせまで進めたのがわずか6社、そのうち採用通知をいただいたのはたったの2社であった。ある求人サイトには、アルバイトに採用される人は平均で3社に応募していると書かれていた。私は平均をはるかに下回っていた。最初は簡単に見つかるだろうと高を括っていたのだが、あまりにも不採用が続いたのでひどく落ち込んだ。せっかく7月に元気になったのに、9月の頭には完全に抑うつ状態がぶり返していた。ようやく9月に入ってから採用通知をいただいた2社のうち、条件がよい方を選んだ。

 実は、私が選んだ企業の業界は、私が今まで仕事をしてきた中で、絶対に働かない方がよいと決めていた業界であった。その業界で働いた時期に、どの企業も現場社員の熱意と馬力だけで動いており、全く経営ができていないと感じたからだ。しかし、その時はやっと仕事が見つかったという安堵感でいっぱいになっていて、昔のことをすっかり忘れていた。

 私が就いたのは、時給1,200円、1日8時間、週3日の一般事務の仕事であった。本当は心身ともにボロボロで、とても仕事ができる状態ではなかった。抑うつ状態になってもめったに泣かない私が、9月に入ってからは毎晩のように泣いていた。それでも、この仕事をしなければ障害者雇用にたどり着けないと思い、無理をして出勤した。案の定、最初の1週間で限界に達して辞めた。本当は、辞める1か月以上前に退職を申し出なければならないところを、たった3日の勤務で投げ出してしまった。だから、この会社には本当に迷惑をかけたと思う。

 以前の記事で、私はフリーランスの仕事のやり方に慣れてしまったせいか、病気の影響なのかは定かではないが、こまめに休憩を取りながら仕事や場所を切り変えないと集中力が持たないと書いた。それなのに、いきなり1日8時間オフィスにこもってずっと事務の仕事をするのは、端から無理があった。さらに冒頭で、私には日常生活における地雷が多いことにも触れた。私にとっての地雷とは、端的に言えば「音」である。私が採用されたのは大企業で、ワンフロアに100人以上の社員がおり、四六時中騒がしかった。その環境も耐えがたかった。

 ただ、少しだけ言い訳をさせてほしい。私が採用された企業も、わずか3日で、やはり現場の熱意と馬力によって成り立っていると解った。事務フローが未整理で、非常に効率が悪かった。1つ例を挙げると、顧客から届く手書きの書類をPDF化してサーバに保存するという仕事があった。コピー機でスキャンすれば終わりなのに、先輩社員からは、「そのままスキャンすると色が薄くなるため、まずは何回か濃くコピーして、その紙をスキャンしてほしい」と言われた。さらに、「手書きの文字が用紙いっぱいに書かれていると、PDF化した時に端が切れることがあるので、その場合は縮小コピーをしたものをスキャンするように」とも指示を受けた。

 顧客から届く書類はいつも10枚ほどあるから、それをいちいちこの方法でPDF化しなければならない。一顧客の書類をスキャンするだけで2時間かかることもあった。もっと性能のいいコピー機を導入すればいいのにと感じた。それに、PDF化すると端が切れるならば、顧客に書類のフォーマットを渡す前に枠を書いて、「この枠内に記述してください」とお願いすれば済むのではないかとも思った。3日間勤務しただけで、業務改善ポイントが15個ほど見つかった。

 せっかくの仕事を1週間で辞めてしまった時点で、自分の職業人生は詰んだと感じた。この年はまともに収入があったのが2月までであり、資金もほとんど底をついていた。岐阜の実家にいる父親からは「もう帰って来い」と言われ、その言葉に乗ることにした。9月中旬のことであった。そこから急いで賃貸の家を引き払った。約半月で大半の家財道具を処分した。2,000冊ほどあった書籍は、付箋や書き込みだらけで売ることができず、資源回収に回した。子どもの頃から集めていた大好きなMr.ChildrenのCDやDVDなども全て売却した。ローソンとHTBオンラインでしか流通していない水曜どうでしょうのDVDも一緒に買い取ってもらったのだが、入金時の明細をはっきりと見ていないため、値段がついたのかは不明である。

 4月に豊島区に引っ越してきた時は、私の荷物が段ボール箱で60箱以上あったのに、今回の荷物は段ボール箱で5箱に収まった。入れたのは最低限の衣類、ドラッカーや中国古典などどうしても手元に残しておきたい100冊弱の書籍、昔からつけていたメモ帳や日記、パソコンその他の貴重品ぐらいである。段ボール箱は宅急便で実家に送った。

 中小企業診断士の多くは、各都道府県に設置されている協会に属している。東京協会だけは所属人数が多いため、協会内がエリアに応じてさらに6支部に分かれている。私は東京協会の城北支部に所属し、役職も持っていた。また、城北支部とは別に、城北支部の中小企業診断士が多数参加している3団体にも加入していた。城北支部を退部し(岐阜協会に異動)、3団体からも脱退した。城北支部内の私の役職に関しては、任期途中で別の方に交代するという異例の措置を取ってもらった。東京で私が持っていたほとんど全てを手放した。本当に喪失感が大きかった。心に穴が開くというのはこういうことなのだと理解した。

 関係者の皆様には今生の別れのような挨拶文を送った。色々な方から、岐阜での新しい人生を応援するといった励ましの言葉をいただいた。中部地方の中小企業診断士を紹介してくださった人もいた。約半月の賃貸契約を残して足早に東京を後にしたのは9月末のことであった。ここからさらなる苦境が待ち受けているとは、下りの新幹線の中で知る由もなかった。





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