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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。ほとんど書評ブログ。たまにモノローグ。

 中長期的な研究分野は、
 ①日本の精神、歴史、伝統、文化に根差した戦略論を構築すること。
 ②高齢社会における新しいマネジメント(特に人材マネジメント)のあり方を確立すること。
 ③20世紀の日本企業の経営に大きな影響を与えたピーター・ドラッカーの著書を、21世紀という新しい時代の文脈の中で再解釈すること。
 ④日本人の精神の養分となっている中国古典を読み解き、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと。
 ⑤激動の多元的な国際社会の中で、日本のあるべき政治的ポジショニングを模索すること。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)


2018年06月15日

比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた


給与明細と電卓

 成果主義が浸透するにしたがって、給与も従来の職能給中心から業績給中心へとシフトしているようである。だが、「個人の業績」を特定するのは容易ではない。短期的には業績につながらないが、中長期的には業績アップが見込まれるというポテンシャルをどう評価するのか?個人の業績にはつながっていないが、同僚や他部門に対して大きな貢献をした社員をどのように評価するのか?マネジャーの業績とはそのマネジャーが率いる部門の業績だが、どこまでがマネジャーの貢献分で、どこからが部下の頑張りによるかをどうやって線引きするのか?イノベーションを推進するために失敗に寛容な組織文化を醸成するとすれば、イノベーションに失敗した人にも業績給を支給するべきだが、その場合の業績とは何か?など、様々な問題がある。

 私は何度かこれらの問題に取り組んだものの、満足な答えが得られたことがない。業績を厳密に定義しようとすればするほど、賃金制度は複雑になり、社員の理解が得られなくなる。そこで、仮にも人事コンサルタントである自分がこんなことを言うと波紋を呼びそうだが、業績給による賃金制度を作ることは諦めることにした。ブログ別館の記事「経団連事業サービス人事賃金センター『本気の「脱年功」人事賃金制度―職務給・役割給・職能給の再構築』―人事制度は論理的に設計すればするほど社員の納得感が下がる」でも書いたように、人事制度で重要なのは「論理性」ではなく「解りやすさ」であると思う。

 《参考記事(いずれも旧ブログ)》
 『人事と出世の方程式』―功ある者には禄を、徳ある者には地位を
 『バリュー・プロフィット・チェーン』―「顧客生涯価値」と「社員生涯価値」のまとめ(1)(2)
 「人材の柔軟な配置変更」の実現に向けてクリアすべき課題―『イノベーションの新時代』
 マネジャー(管理職)の評価方法に関する素案
 「イノベーションに失敗した人」の評価方法に関する素案

 最も解りやすい賃金制度は、やはり日本企業の伝統である「年功制」である。年齢という誰にとっても明白な基準で給与が決定されるからだ。さらに、その給与は社員の生活を十分に保障するものでなければならない。以前の記事「【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察」でも書いたように、企業は自社に対して、経営資源の1つである人材を供給する家庭に「下問」し、家庭の目標である「生計の維持」を達成できるよう支援することを経営上のルールとする必要がある。そして、一般的に、生計費(生活費)は社員の加齢とともに増加するから、年功制に基づく賃金制度では、給与は年齢とともに上昇し続ける。

 近年、高齢社員の人件費を抑えるために、賃金カーブが途中から右下がりになる給与体系を導入している企業が増えている。しかし、長くその企業に勤めると途中から給与が下がることが解っている企業で、ずっと働こうと思う社員が果たしてどれくらいいるのか疑問である。さらに、給与が下がった高齢社員のモチベーションも心配である。彼らのモチベーションが下がれば、周囲の社員の士気にも影響する。モチベーションは伝染するものであるからだ。私は、自ら社内にがん細胞を植えつけて、それを増殖させるような施策を取る企業の心理が理解できない。

 出光興産の創業者である出光佐三は、「年功制」、「生活給」の支持者であった。
 出光には労働切り売りの思想はないんです。しかし従業員の生活は保障し、安定させなければならない。どうやっているかというと、結婚すればまず家を与え、妻手当を支給するし、子供ができれば子供手当を与える。だから、同じ大学を出た者でも、結婚すれば実質的に給料が6割ぐらいふえることになっております。これはどういうことかと言えば、独身時代でもそんなにゆとりのある生活はさせておらない、そこで結婚すれば女房の食い扶持もいるし、社交的交際もふえるので、いままでの給料であればみじめな生活をしなければならない。これは親として見るに耐えないということなんですよ。
 お前は年をとったから駄目だ、若い者のほうがよいというような、肉体的働きばかり見ていてはいけない。そういう目に見える労働だけではなくて、それ以外に人間の尊厳と苦難の経験から出た判断力というものがある。これは年とった人にあるんです。そういう年とった人を敬うところから和の力も出てくるし、年とった人を大切にすればお互いが仲よくなる。年寄りを馬鹿にすることは対立闘争になりますよ。(中略)私は人間のあり方を尊重することから年功序列をとっているということです。
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 ここからは、私が考える「非常にシンプルな賃金制度」の試案を示してみたいと思う。なお、本来であれば、賃金制度はその企業の戦略とリンクさせるべきものであるところを、今回は賃金制度のみを切り出して取り上げているので、若干数字遊びのようになっている点はご容赦いただきたい。こういう柔らかいアイデアを公開すると、「お前は本当に人事分野のコンサルタントなのか?」と言われそうだが、敢えてそのリスクを承知の上で書くこととする。

①基本給テーブル

 大学卒業後に入社し、65歳で定年を迎えるケースとした。基本給は年功制かつ生活給の性質を持つものであるから、その決め方は極めて単純である。つまり、「年齢×10,000円」とすればよい(上図のオレンジ網掛けの部分)。究極までシンプルにすれば、賃金制度はこれが全てである。だが、さすがにこれでOKとする企業はほとんどないから、社員の能力によって若干の差をつけることとする。出光佐三も前掲の著書の中で、多少は能率給を考慮すると述べている。

 社員の能力評価も、賃金制度と同様に簡素化する。以前の記事「グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論」で示した、①構想力、②問題解決力、③組織を動かす力、④コミュニケーション力という、どの企業でも共通して求められる4つの能力に、「業界特有の知識」を加えた5つの能力・知識について、定期的に5段階で総合評価を行う。その結果、例えば30歳の場合、評価が「3」の時の給与=30歳×10,000円=300,000円を基準とし、評価が1上がるごとに2,500円給与が上がり、評価が1下がるごとに2,500円給与が下がるようにしてある。評価結果による給与の増減幅は他の年齢でも同じである。

企業に共通して求められる4つの能力

 多くの日本企業には依然として職能資格制度が残っているので、能力・知識の評価結果を職能資格制度と連動させる。下表では職能をLevel1からLevel9まで設けている。Level1・2が一般社員に、Level3・4が係長に、Level5・6が課長に、Level7・8が部長に、Level9が取締役に対応する。ある職能から上位の職能に昇進するためには、その職能に昇格して以降、直近5年間の能力・知識評価結果の合計が15点以上である必要がある。よって、上位の職能には最速3年で昇格できる(「最短昇格年齢」の列を参照)。一方、毎年の評価が「3」の場合、昇格に5年かかる計算になる(「標準昇格年齢」の列を参照)。各職能の職能給も、下表のように設定する。

②職能と昇格・職能給・役職手当・降格・再昇格条件

 実は、毎年の能力・知識の評価結果や職能給では、ほとんど給与に差が出ない。これでは最近の社員はモチベーションが上がらないという企業のために、「役職手当で差をつける」という方法をとった。上表の役職手当は、「早い年齢で昇進した方が金額が大きくなる」かつ「毎年、年齢に応じて少しずつ手当が増える」ように設計されている。例えば、係長の役職手当は、「10,000円×√(39歳(※Level4に昇格する標準年齢+1歳)-係長になった時の年齢①)+(年齢-係長になった時の年齢②)×2,500円」で計算される(「係長になった時の年齢①」は、後に述べる降格によって39歳以上で係長になった場合には38歳と見なす。「係長になった時の年齢②」は、文字通り係長になった時の実年齢である)。この計算式だけやや複雑なのだが、ポイントは「早い年齢で昇進した方が金額が大きくなる」かつ「毎年、年齢に応じて少しずつ手当が増える」ことである。これを実現できる方法で、もっと簡単なやり方があれば是非ご教示いただきたい。

 各職能を最速の3年で昇格していく人と、標準の5年で昇格していく人を比較したのが下の表とグラフである。課長を例にとると、最速のケースでは35歳で課長になる。この場合の役職手当は、「30,000円×√(49歳-35歳)+(39歳-39歳)×2,500円=112,249円」である。これに基本給355,000円(最速昇格の場合、評価は「5」なので、基準となる「3」の時の基本給350,000円より5,000円高い)と、職能Level5の職能給20,000円が加わり、合計は487,249円となる。一方、標準のケースでは43歳で課長になる。この場合の役職手当は、「30,000円×√(49歳-43歳)+(43歳-43歳)×2,500円=73,484円」である。これに基本給430,000円(標準昇格の場合、評価は「3」である)と、職能Level5の職能給20,000円が加わり、合計は523,484円となる。

③最速昇格・昇進と標準昇格・昇進

⑥賃金カーブ

 係長には最速で29歳、標準で33歳、課長には最速で35歳、標準で43歳、部長には最速で41歳、標準で53歳の時に昇進する。これを踏まえて、最速で昇進する場合と標準で昇進する場合の賃金カーブをグラフ化したものが上図である。最速で昇進する場合には、標準で昇進する場合とほぼ同額の給与を若いうちに獲得することが可能である。

 リクルート・マネジメント・ソリューションズの「RMS Research'09昇進・昇格実態調査」によると、降格運用を行っているという企業は、ほぼ3社に1社(部長30.4%、課長33.5%)となっている。これは2009年の調査結果とやや古いため、現在ではその割合がもっと上がっていると思われる。そこで、私の試案でも降格人事を考慮することにした。係長以上では、「昇進して以降、直近2年の評価ポイント合計が3以下」の場合、下の役職に降格する。ただし、敗者復活の道も用意されており、「降格して以降、直近2年の評価ポイント合計が8以上」であれば、元の役職に復帰できる。これを具体的に示したのが下の表とグラフである。

④降格を経験するケース

⑦賃金カーブ(降格がある場合)

 上段の表は、標準のペースで昇格・昇進し、53歳で部長になった人が、53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、55歳で課長に降格したケースである。ただし、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、57歳で部長に再昇進する。57歳以降は再び標準的な評価「3」に戻る。53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ったことで、54歳、55歳の基本給は、標準的な評価「3」の場合よりも5,000円低くなる。一方、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を取ったことで、56歳、57歳の基本給は、標準的な評価「3」の場合よりも5,000円高くなる。57歳以降は再び標準的な評価「3」に戻ることで、58歳以降の基本給は標準的な金額となる。

 課長に降格した55歳の役職手当は、本来は「30,000円×√(49歳(※Level6に昇格する標準年齢+1歳)-課長になった時の年齢①)+(年齢-課長になった時の年齢②)×2,500円」だが、「課長になった時の年齢①」については、降格によって49歳以上で課長になった場合には48歳と見なすので、「30,000×√(49-48)+(55歳-55歳)×2,500円=30,000円」となる。ここで、職能と役職は分離している点に注意を要する。53歳で部長になった時の職能はLevel7だが、55歳で課長に降格しても職能はLevel7のままである。よって、Level7にいた53歳から57歳までの5年間の評価の合計は、1+1+5+5+3=15となり、58歳でLevel8に昇格することができる。

 下段の表では、標準のペースで昇格・昇進し、33歳で係長になった人が、33歳、34歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、35歳で一般社員に降格している。ただし、35歳、36歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、37歳で係長に再昇進する。その後、標準のペースで昇格・昇進し、43歳で課長になるが、43歳、44歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、45歳で係長に降格している。ただし、45歳、46歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、47歳で課長に再昇進する。その後、標準のペースで昇格・昇進し、53歳で部長になるが、53歳、54歳と2年連続で評価「1」を取ってしまい、55歳で課長に降格している。ただし、55歳、56歳と2年連続で評価「5」を獲得したことで、57歳で部長に再昇進する。幾度もの降格にもめげない社員を想定している。

 標準のペースで昇格・昇進した人(青色)、上段の表の人(赤色)、下段の表の人(緑色)の賃金カーブをグラフ化したのが上図である。降格により一時的に給与は下がるとはいえ、本人が頑張れば、降格回数に関わらず挽回が可能であることを示している(部長になってから降格した社員は、標準のペースで昇格・昇進した社員よりも給与が低いが、もし挽回可能な賃金制度にするならば、今回の試案では対象外とした役員報酬で調整すればよいと考える)。

 これもまた古い調査データになるが、厚生労働省「平成21年賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によると、慣行による運用を含め47.7%の企業が役職定年制を導入している。そこで、試案では、60歳で役職定年になるケースも想定してみた。言うまでもなく、役職定年によって役職手当がなくなる分だけ給与が下がる。しかし、社員の生活費を十分にカバーできるように基本給を設定することで、社員に生活の安心感を与えることができる。

⑤役職定年があるケース

⑧賃金カーブ(役職定年がある場合)

 最後に1つだけ厳しいことを書いておく。私は年功制の支持者であるが、終身雇用は支持していない。もちろん、終身雇用が実現できればそれに越したことはないものの、以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」で書いたように、終身雇用を実現しようとすると、企業は大変なスピードで業績を拡大しなければならない。高度成長期でもほとんど実現不可能な成長率を、現代の成熟社会においても期待するのは無謀である。冒頭で、家庭の生計維持の支援をマネジメント上のルールとすべきだと書いたが、終身雇用の保障までルールとするのは企業にとってあまりに酷である。

 私は、現行の解雇基準を緩和して、一定の社員を放出することを容認するべきだと考える。具体的には、職能の各レベルの標準昇格年齢に至ってもなお昇格の要件を満たさない社員を放出する。また、39歳になっても係長のポストがない社員、49歳になっても課長のポストがない社員、59歳になっても部長のポストがない社員も放出する。彼らには、その企業で十分に活躍する場がなかったということである。ただし、企業は単に彼らの首を切るだけでは不十分である。企業は、彼らに十分な機会を与えることができなかった代わりに、彼らが他の企業へ転職したり、起業したりするのをサポートする。例えば、転職活動の間の生活費を一定期間保障する、起業のための資金の一部を提供する、などの方法が考えられる。こうすることで、家庭の生計維持の支援というマネジメント上のルールを可能な限りギリギリまで遵守するよう努める。

 (※1)賞与の決め方については別の機会にトライしたいと思う。
 (※2)今回の記事で使用した表やグラフが含まれるExcelファイルをDropboxにアップしました。ご自由にお使いください。>>>20180615_chingin-nenkousei.xlsx


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