プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年01月11日

DHBR2018年1月号『テクノロジーは戦略をどう変えるか』―伝統的な戦略立案プロセスを現代的な要請に従って修正する素案(議論の頭出し程度)


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 01 月号 [雑誌] (テクノロジーは戦略をどう変えるか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 01 月号 [雑誌] (テクノロジーは戦略をどう変えるか)

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 「テクノロジーは戦略をどう変えるか」というタイトルの特集であるが、取り上げられているのはAR(拡張現実)/VR(仮想現実)、AI(人工知能)、ドローンといったITが中心である。今や経営においてITは欠かせないツールとなったが、ITはあくまでもツールであって目的ではない。この点を勘違いしている経営者や情報システム部門が時々いる。「最新の製品、サービス、パッケージ、システムが登場したから自社にも導入しよう」、「競合他社があの製品、サービス、パッケージ、システムを導入したから我が社も追従しよう」といった具合に意思決定をしてしまう。

 私はビジネスをデザインする際に以下の図を用いることがある。出発点となるのは、自社の経営ビジョンや戦略である。経営ビジョンは経営陣の主観的要素であるのに対し、戦略は外部・内部環境の分析から導かれる客観的要素である。主観的要素と客観的要素をバランスよく考慮した上で、その経営ビジョンや戦略を実現するためのビジネスプロセス(業務プロセス)をデザインする。ただし、この時点ではまだ組織構造や人員配置を考えない。経営ビジョンや戦略が目指している顧客価値を最も効果的・効率的に実現できるビジネスプロセスとは何かとゼロベースで問う。それが明確になった後に、業務の類似性・専門性を踏まえて組織構造を設計し、社員の人数・能力を踏まえてそれぞれの社員に担当させる業務を決定する。

ビジネスのデザイン

 ビジネスプロセスと組織構造、社員の職務範囲を決めた後は、そのビジネスプロセスにヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を投入するための仕組みを構築する。ヒトであれば人事制度、モノであれば購買の仕組み、カネであれば予算配分制度、情報であればITがその仕組みに相当する。ここで初めてITが登場するのであって、意思決定の冒頭でいきなりITの話が出てくるのはおかしい。これは他の仕組みにも言える。欧米で流行っているからという理由で、その仕組みの目的や適用条件、成功要件などをよく考えずに自社に移植するのは誤りである。古い例で言えば、富士通が成果主義で失敗したのは、ビジネスプロセスを定義せずに人事制度だけを先に変えようとしたからである。また、ソニーはEVA(経済的付加価値)に基づく予算配分制度を導入したが、短期的な利益ばかりが追求され、イノベーションが阻害されてしまったと言われる。

 以上が、最もオーソドックスなビジネスデザインの方法である。お解りのように、ITは、「我が社の経営ビジョンや戦略を基礎とするビジネスプロセスを最も効果的・効率的に実現できるITとは何か?」という観点に立って導入を検討しなければならない。単に、その時々の流行を追いかけ回しているだけでは全く不十分である。本号にはコマツの代表取締役社長兼CEOである大橋徹二氏のインタビュー記事が掲載されていたが、次の言葉がこのことをよく表している。
 社会的課題(※建設業界における極度の人手不足に起因する、生産性向上の必要性のこと)は何かを見極め、それを解決するためにどうしたらいいか、そのために必要な技術は何かと、逆算しながら技術を考えることではないでしょうか。進化する技術を、いまのビジネスとどう関係付けるかという既存事業ありきの視点で見ていると、そこでフィルターがかかって情報が入ってこなくなります。(中略)

 これだけ短期間でスマコン(※「スマートコンストラクション」の略。コマツが提供する、ドローンなどを活用した建築土木業向けの総合的ソリューションの名称)が4000以上の現場に導入されたのは、ニーズから逆算して技術を考えていったからだと思います。
(大橋徹二「社会的ニーズを満たすための技術経営 経営者ならば、技術の目利きであれ」)
 私は前職でコンサルティング会社にいたが、こういう話をすると、「ITありきで考えてはならないというのは解る。だが、世の中にはITが戦略を変えてしまうケースもある」と、あるマネジャーが言っていたのを思い出す。確かに、戦略がITと密接不可分になっているケースは存在する。Microsoft、Google、Apple、Amazon、Facebook、VISAなどはその代表例であろう。彼らは世界のイノベーションを牽引する巨大な存在である。どうして日本からはGoogleやAppleが生まれないのかが真剣に議論されることもある。ただ、私に言わせれば、ITによって戦略を変えるイノベーションはアメリカから”しか”生まれていない。だから、日本はそれほど深刻になる必要はない。前述のオーソドックスな方法でITを利活用すれば十分であると思う。ちなみに、ITで戦略を変えてしまうアメリカ人イノベーターの頭の中がどうなっているのかは、私にはまだよく解らない。

 さて、先ほどの引用文で、コマツは「社会的課題」に着目しているとあった。社会的課題の解決と経済的価値の創造を両立させる戦略は、マイケル・ポーターがCSV(Creating Shared Value:共通価値創造)と呼ぶものである。ここで私はさらに論を進めて、「実現する価値が経済価値にとどまるか、社会的価値も含むか?」という軸と、「価値創造の方法が経済的方法にとどまるか、社会的方法も含むか?」という軸でマトリクスを作ってみたいと思う。多くの企業は、「経済的価値を、経済的方法で創造」している。だが、これからの時代で中長期的に高く評価される企業とは、「社会的価値も含む価値を、社会的方法も含む方法で実現する企業」ではないかと思う。例えば、途上国の貧困層向けのリーズナブルな衣料品を、社会的弱者を雇用しダイバーシティを実現しながら製造・販売するといったケースがこれに該当する。

 以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」で戦略立案の外部環境アプローチを、「DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)」で内部環境アプローチを紹介した。どちらのアプローチであれ、社会的価値を創造するためには、抽出した事業機会を以下の「社会的ニーズのテスト」にかけなければならない。具体的には、新しく生み出そうとしている製品・サービスが、

 ①顧客の健康をサポートするものであるか?
 ②顧客の生活の衛生面を保つものであるか?
 ③顧客の安全・安心な生活の実現に資するものであるか?
 ④顧客が貧困から脱却するのを助けるものであるか?
 ⑤顧客の自尊心を支えるものであるか?
 ⑥顧客が他者との人間的な絆を構築するのに役立つか?
 ⑦顧客の人間的・精神的成長を支援するか?
 ⑧顧客に有意義な時間の使い方を提供するものであるか?
 ⑨人的資源・地球資源の節約に貢献するものであるか?
 ⑩顧客の人生を社会的規範・道徳的価値観と合致せしめるものであるか?

などと問う必要がある。もちろん、これら全てを満たすことは難しい。だが、できるだけ多くの項目に該当する社会的ニーズに企業は取り組まなければならない。これは、経済的ニーズが快楽、利便性、効率、利益に焦点を当てているのとは対照的である。最近、鳥貴族などに女子高生が早い時間から集まって夕食を取っているらしい。経済的価値という観点から見れば、居酒屋の空き時間を埋め、回転率を上げてくれるから合格である。しかし、社会的価値という観点から見ると、女子高生は家族との絆を犠牲にしているし、また、1回の夕食に(バイトで稼いだお金ならともかく、)親のお金で1,000円も2,000円も使うのはお金に関する正しい価値観を損なっているから、失格である。また、私はスマートフォンも社会的ニーズには合致しないと考える。というのも、スマホでゲームに熱中する人々はたいてい、浪費した時間を後から後悔するからである。

 社会的ニーズのテストを経た後は、その社会的ニーズを社会的な方法で実現するビジネスを設計しなければならない。以前の記事「【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見」では、ビジネスプロセスのあるべき姿を描くにあたって、基軸となる考え方をあるべき姿の方向性として定めるべきだと書いた。ここに、社会的な方法に関する方向性も加えていく。1つのヒントとなるのが「SDGs(Sutainable Development Goals)」である。以前の記事「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】」でも書いたが、SDGsとは国連が地球規模の社会的課題について17の目標と169のサブ目標を設定し、2030年までに解決を目指すというものである。17の目標は、下図の通りである。企業はこの中から、自社で取り組めそうな課題を選択し、あるべき姿の方向性に反映させるとよいだろう。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

 伝統的な戦略立案アプローチでは、ビジネスプロセスを定義した後、それを遂行するための人材要件を定め、その要件を満たす社員を充当する。ただ、このやり方の場合、社員を企業の都合に合わせて算術的に扱い、機械の部品のように酷使するする恐れがある。社会的な方法でビジネスを実現することには、社員に自尊心を持たせることも含まれる。社員が企業で働くことにやりがい、生きがいを感じるようでなければならない。端的に言えば、社員のモチベーションを上げなければならない。私は、社員のモチベーションについては社員本人が第一義的には責任を持つべきだと随分と厳しいことも書いてきたが(例えば以前の記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」を参照)、企業が社員の日々の活動時間の約半分を占めているという事実を踏まえれば、企業は社員の人生を実りあるものにする特別の配慮を払う必要があるだろう。

 ただし、社員のモチベーションを上げることは、社員を甘やかしたり、社員におもねったりすることではない。むしろ、社員に対しては厳しい現実を突きつけることになる。以前の記事「ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」」では、社員のモチベーションを上げるための要件として、①顧客からのフィードバックがあること、②一定の裁量を与えられていること、③複数の能力を使わなければならないこと、④能力のストレッチが要求されること、⑤周囲の社員との協業が必要であること、という5つを挙げた。別の記事「『致知』2017年12月号『遊』―「社員満足度がモチベーションを上げる」という理屈にどうも納得できない」ではさらに論を進めて、社員が自分の力ではどうしようもできない職場環境については社員を満足させる必要があるが、社員の力が及ぶ範囲においては逆に不満足を感じさせるべきだと書いた。

 具体的には、職場環境に関しては、①本人に裁量や権限を与える、②仕事を進める上でのマニュアル、ツール、設備などを整える、③十分な研修、トレーニングの機会を与える、④必要に応じて同僚や他部門からの支援を受けられるようにする、⑤福利厚生制度を充実させる、といった措置を講ずる一方で、仕事内容については、①仕事の量を多くして忙しくさせる、②企業が求める能力と自分の現在の能力との間にギャップを感じさせる、③難しい部下や後輩の育成を任せる、④顧客や上司から公正かつネガティブなフィードバックを与える、⑤今の仕事の先にどのようなキャリアがあるのか描くことを難しくさせる、といった状況を作るべきだと書いた。これらの要件を満たすように組織を設計し、それぞれの社員の業務内容、権限・責任の範囲を具体化し、人事制度などの仕組みを構築していくことが、人的資源の社会的活用につながると考える。

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