プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年07月20日

DHBR2018年8月号『従業員満足は戦略である』―社員満足度を上げるには本社が現場の邪魔をしないこと


DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年08月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2018年08月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2018-07-10

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 社員満足度(ES)の向上が企業の業績アップにつながるというプアな内容だったらどうしようかと思ったが、杞憂に終わった。何年も前の私なら、ESの向上がCSの向上につながり、高業績をもたらすという言説を無批判に受け入れていたものの、現在では考え方を改めている。

 企業は顧客からお金をいただいている。しかし、お金を払う側の顧客がお金をもらう側の企業のモチベーションを上げようとは考えない。同様に、社員は企業からお金(給料)をいただいている。お金を払う側の企業がお金をもらう側の社員のモチベーションを上げる必要は原則としてない。社員のモチベーションは、社員自身の問題である。LINEのとある執行役員が言っていたが、「会社にモチベーションを上げてもらおうと考える社員は、プロとして失格」である。それでもなお、企業が社員のモチベーションに気を配っている理由を挙げるとすれば、顧客は企業が気に入らなければ他の企業に簡単にスイッチできるのに対し、企業は社員が気に入らなくても簡単に解雇できないからである。企業は、今いる社員に頑張ってもらうしかない。だから、企業は社員に気を遣い、何とかモチベーションを上げようとするわけだ。

 ここでは意図的に、モチベーションと社員満足度を使い分けている。モチベーションは「将来、仕事をやってやろうと思う気持ち」であるのに対し、社員満足度は「現状、どれだけ気持ちが充足されているか」を表す指標である。企業が将来的に業績向上を目指すのであれば、重要なのはモチベーションである。なぜなら、いくら社員満足度が高くても、必ずしもモチベーションアップにつながるとは限らず、現状に満足してしまい進歩が止まる恐れがあるからだ。

 本号の特集は、例えば都心に本社があって、地方に多くの直営店、営業所、販社、サービス拠点が分散しているような組織構造の企業を想定している。こういうタイプの企業の場合、現場の営業・サービス担当者に気持ちよく仕事をしてもらうために最も重要なことは、「本社が余計な邪魔をしない」ことである。昔、先輩のコンサルタントに教えてもらった話なのだが、ある顧客企業は「本社から販売店に対して、製品情報や販売マニュアル、キャンペーン情報、システム登録手続きに関する情報などが五月雨式に送られてくるので現場が混乱している」という問題を抱えていた。先輩は当初、本社と販売店の間を結ぶ情報システムを強化すればよいと考えた。

 だが、この顧客企業の事業を分析するにしたがって、もっと構造的な課題が見えてきた。この顧客企業は、主に3つのカテゴリーの製品を扱っていた。カテゴリーAは業界内でも非常にユニークなもので、競争力があり、顧客企業の収益源となっていた。カテゴリーBは並みの製品、カテゴリーCは激しい競争についていけなくなっていた製品であった。販売店は、A~Cの製品を全て取り扱っており、本社から全製品に関する情報を受け取っていた。

 ここで先輩は、製品カテゴリー別に販売店網を再構築することを提案した。つまり、カテゴリーAのみを扱う販売店を販売チャネルの中心に位置づける一方で、カテゴリーBを扱う販売店を一定数に抑え、カテゴリーCを扱う販売店は将来的な撤退も視野に入れて縮小するというものである。さらに、本社の役割にもメスを入れた。本社が発信する各種情報のうち、販売店でも作成可能なものは販売店に権限移譲することにした。

 もちろん、本社と販売チャネルの大規模な改革であり、本社のマネジャーや各販売店の店長の権限、さらには現場社員の役割を大きく見直す必要があったため、改革は一筋縄ではいかなかったようだ(特に、権限を剥奪される本社のマネジャーは相当抵抗したらしい)。だが、改革が無事に完了すると、本社と販売店の関係は極めてシンプルなものになった。カテゴリーAのみを扱う販売店は、本社からカテゴリーAに関する情報しか受け取らない。しかも、一部の情報作成の権限は販売店に委譲されているので、以前に比べて本社からの情報量は圧倒的に減少した。同じことは、カテゴリーBのみを扱う販売店、カテゴリーCのみを扱う販売店にも言えた。

 本社が現場社員の邪魔をせず、彼らに生き生きと働いてもらうためのポイントは3つある。

 (1)本社が作った無用な社内ルールを撤廃する。
 企業は規模が大きくなるにつれて、官僚組織的になる。官僚組織の特徴は、マックス・ウェーバーが指摘したように文書化とルールである。そのルールが顧客価値の創造につながるものであればよいのだが、中には単に社員を管理するためのもの、あるいは経営幹部のシンボルやステータスを守ることが目的になっているものもある。

 ある企業では、工場の倉庫の管理者がつけている手袋がボロボロになっていた。それを見た新米のCEOは、「なぜ手袋を変えないのか?」と聞いた。すると、「当社の規定では、手袋が完全に使えなくなるまで買い替えることができないことになっています。しかも、買い替えの申請を出してから、新しい手袋が届くまでに2週間かかります」と言われた。CEOは、このルールがあまりにもくだらないと思い、工場の倉庫に新品の手袋のストックを置いておくことができるように社内ルールを変更したそうだ(おそらく、工場に手袋のストックを置いておくようなルールを作らなかった本社は、社員が手袋を盗むことを恐れたのだろう)。

 IBMを復活させたルイス・ガースナーは、IBMに入社した当初、秘書から分厚い社内規定集を手渡されてびっくりしたそうだ。服務規定はもちろんのこと、経営幹部に提供するガムの置き方までこと細かく規定されていた。ガースナーはある時、服務規定に反するスーツを着ていた。秘書に「経営幹部らしくない服装なのでルール違反です」と指摘されたので、ガースナーが「ルールを変えるにはどうすればよいか?」と尋ねたところ、「社長が変えると言えば変えられます」との返答だった。それを聞いて、早速ガースナーは社内規定の大幅な削減に着手した。

 (2)現場の業務プロセスの基本を整備するのを支援する。
 本社のスタッフ部門の役割は、単に経営資源を管理するのではなく、顧客価値の創造と経営資源の最適配分のバランスを取りつつ、さらに自社が重視する価値観を反映させることで現場の業務プロセス整備を支援し、適切なタイミングで適切な経営資源を投入することである。

 例えば、人事部門は、事業部から言われるがままに新人を採用したり、人事評価の結果を取りまとめたり、研修を運営したり、給与を計算したりすることだけが仕事ではない。まずは、現場が実現しようとしている顧客価値を最もストレートに実現する業務プロセスを描く。次に、現場に配属されている社員の特徴を踏まえて、業務プロセスを調整する。さらに、自社のミッションに含まれる価値観(経営・業務における意思決定のよりどころとなる重要な判断基準)を随所に埋め込んで、最適な業務プロセスを現場と一緒に検討する。こうしてでき上がった業務プロセスが要求する人材要件と、現在の社員の能力・価値観との間にギャップがある場合には、社員をトレーニングしたり、他部門からの異動や外部からの採用によって人員を補ったりする。

 モノを扱う購買部門、カネを扱う経理部門、情報を扱う情報システム部門についても同様である。現場が実現を目指す顧客価値と、自社が調達する原材料・機械装置などの特性、自社の資金の状況、自社が取り扱う情報の量や質のバランスを取り、さらに自社の価値観を反映させた形で、最適な業務プロセスを現場とともに構築する。そして、必要に応じてモノ、カネ、情報をすぐさま現場に対して提供することができるようにする。

 ここで注意すべきなのは、本社が業務プロセスの構築に関与するからと言って、あまりにも細かい業務プロセスを定義してはならないということである。あくまでも基本的な業務プロセスを定めるにとどめる。プロセスまでいかず、方針レベルでも構わないと思う。詳細すぎる業務プロセスを渡された現場は、本社から過剰に介入されていると抵抗するに違いない。

 それから、本社はよかれと思って新製品・サービスやITツールを次々と現場に導入したり、各種販促活動を実施するように現場に命じたりするが、これも要注意である。先ほど紹介した事例のように、本社から五月雨式に情報が降ってくることになり、現場にとっては迷惑この上ない。さらに言うと、本社が引き起こす重大な問題は、例えば新製品・サービスを導入した際、その製品・サービスの販売・アフターサービスや売上・粗利管理、請求・債権回収プロセスについてはマニュアルを作成するものの、既存の製品・サービスのマニュアルとの整合性にあまり気を配っていないことである。本社は製品・サービスを順番に開発するが、現場はどの製品・サービスも同時に販売しなければならない。現場が複数の製品・サービスを担当した場合、複合的な業務プロセスはどのようなものになるのかを本社は現場と一緒になって考える必要がある。

 本号の論文「やみくもな製品開発が経営資源を浪費する “イノベーション中毒”を回避する3つの原則」(マルティン・モーカー、ジャンヌ・W・ロス)がこの問題を扱っている。イノベーションに取りつかれた本社が、現場のことを顧みずに、次々と新製品・サービスを投入して、現場を疲弊させてしまうという問題である。この問題を解決する方法として、同論文では、①バラエティよりも統合を重視する、②イノベーションの担当者と複雑性に対処する担当者を分けない、③イノベーションを導くビジョンに向かって全力を尽くす、という3つが挙げられている。

 言い換えれば、①互いに無関係な新製品・サービスをバラバラと投入するのではなく、既存製品・サービスと関係性の高い新製品・サービスを投入する。できれば、クロスセルが可能なものを開発する、②本社側の新製品・サービス開発担当者は、開発プロジェクトの初期段階で現場社員を巻き込み、新製品・サービスを展開する上での問題を早期に解決する、③ビジョンの焦点を絞り、ビジョンから外れた新製品・サービスを開発しないようにする、ということである。

 (3)現場が顧客に個別対応できるよう、権限委譲を進める。
 (2)と矛盾するようだが、(2)で標準的で基本的な業務プロセスを定めた後、現場社員にはそこからはみ出す個別の顧客対応を認めることも重要である。社員は、指示された仕事をそのまま行う時よりも、自分でやり方を考えて仕事をした時の方がモチベーションが上がる。日本人の場合、どちらかというと一から物事を考えるのは苦手であるから、まずは本社と一緒になって作成した業務プロセスをベースとして、そこに自分なりに手を加えていく方がやりやすいだろう。

 ここで問題になるのは、本社として現場に対しどこまで権限移譲を認めるかということである。最も簡単なのは、顧客に対する無償サービスの権限を与えることである。無償であるから、企業の財布が痛むこともない。その次は、顧客に対して有償サービスを提供することである。この場合は、現場が自由に使える一定の予算を与えなければならない。

 個別顧客のニーズに深く入り込むと、製品・サービスのカスタマイズを求められる。すると、カスタマイズに伴う原材料や加工用の機械装置を独自で調達することになる。生産ラインも変更になるだろう。ここまで来れば、予算の権限をもっと増やさなければならない。さらに、個別対応に長けた特殊能力を持つ人材を確保するための人事権も必要になる。個別の顧客に対し、個別の製品・サービスを提供し、個別の生産ラインで生産し、個別の社員を活用するということは、それらの情報を管理する独自ITの開発も欠かせないことを意味する。そして、究極的な権限移譲は、現場をターゲット顧客に密着させて、新製品・サービスの開発を任せることである。

 どこまで権限移譲させるかは、企業の戦略による。巣鴨信用金庫の行員は、高齢者の顧客に対して、無料の送迎サービスなどを提供する権限が与えられている。リッツカールトンの社員は、顧客のために2,000ドルまで自由に使える権限を持っている。完全な権限移譲ではないが、餃子の王将は、全店舗共通メニューの他に、各店舗がオリジナルのメニューを用意している。逆に、良品計画は店舗にほとんど権限移譲を行っていない。有名なMUJIGRAMは本社主導で作られたものであるし、店舗には商品開発の権限はおろか、仕入れの権限も与えられていない。良品計画の場合、海外においても、商品開発は日本本社で行うという徹底ぶりである。

 権限移譲の度合いは、提供したい顧客価値、競合他社との差別化要因、企業の価値観、社員の能力や特性、組織内のコミュニケーションの構造、企業風土など様々な戦略的要因によって決まるだろう。社員が本社から締めつけられていると感じず、逆に任されすぎて負担になっていると感じない程度の、ちょうどよいコンフォートゾーンを見つけなければならない。この意味では、確かに本号の特集タイトルにあるように、「従業員満足は戦略である」。

 最近、フレデリック・ラルー『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(英治出版、2018年)を読んだのだが、ティール(進化型)組織は、現場がほとんど完全に権限を握っており、それぞれの社員が経営者として働くことを期待されている(ティール組織では、最初に本社が権限を持っており、それを現場に委譲するというのではなく、初めから現場に権限があるという考えに立っているため、権限移譲という言葉を使わない)。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
フレデリック・ラルー 嘉村賢州

英治出版 2018-01-24

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 例えば、アメリカのモーニング・スターというトマト加工食品製造会社では、製造に携わるそれぞれのチームがどのように結成され、チーム間でどのように作業分担をし、どういうふうにして製造ラインを調整し、製造目標をどの程度に設定し、それぞれのチームの予算をいくらにするのか、といったことを完全にチーム間の話し合いに委ねている。原材料の調達はチームに任されているし、もし製造ラインの調整に伴って新しい機械装置の購入が必要になった場合は、他のチームと相談して購入を決定する。現場で起こる様々な問題の解決は、マネジャーによってではなく、チーム間の紛争処理プロセスに従って行われる。

 それぞれのチームが誰を採用し、どのようにトレーニングを行い、どのような評価・フィードバックを与え、最終的に報酬をいくらにするのかを決めるのもチームの権限である。また、社員は採用されたからと言ってすぐに仕事が与えられるわけではない。「自分はチームに対してこういう貢献ができる」ということを文書をまとめ、社内で営業をかけて、自分で仕事を取ってこなければならない。さすがに、どういうトマト加工食品を作るかまではチームで決めることができないようだが、同社では1人1人の社員がまるで経営者であるかのように振る舞っている。

 現場の権限が非常に強いので、逆に本社の規模は極めて小さい。CEOの権限も少ない。本社は「戦略を立てない」。CEOや本社は、明確な「存在目的」を掲げて企業全体をリードすることに腐心する。この点については、同書には明確に書かれていないのだが、複雑系の理論の影響を受けているものと推測される。同書に関する記事は後日改めて書く予定である。

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