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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京から実家のある岐阜市にUターンした中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。ほとんど書評ブログ。たまにモノローグ。双極性障害Ⅱ型を公表しながら仕事をしているのは、「双極性障害(精神障害)の人=仕事ができない、そのくせ扱いが難しい」という世間の印象を覆したいため。

 中長期的な研究分野は、
 ①日本の精神、歴史、伝統、文化に根差した戦略論を構築すること。
 ②高齢社会における新しいマネジメント(特に人材マネジメント)のあり方を確立すること。
 ③20世紀の日本企業の経営に大きな影響を与えたピーター・ドラッカーの著書を、21世紀という新しい時代の文脈の中で再解釈すること。
 ④日本人の精神の養分となっている中国古典を読み解き、21世紀の日本人が生きるための指針を導くこと。
 ⑤激動の多元的な国際社会の中で、日本のあるべき政治的ポジショニングを模索すること。

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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2018年02月07日

【城北支部青年部】元Hondaの企画屋がやってきたコミュニケーション(勉強会報告)


コミュニケーション

 城北支部青年部では、2か月に1度のペースで勉強会や懇親会などのイベントを開催しています。「中小企業診断士を取得し、城北支部に入ったが、何をしてよいか解らない」という方は、まずは青年部イベントへのご参加をお勧めします。青年部は「40歳以下または登録5年以下の診断士の先生」を対象とした活動を行っています。ただこれは建前でして、実際には「気持ちが若ければ誰でもOK」です。青年部のイベントで支部活動への参加のきっかけを作り、人脈を広げて、その後の診断士活動につなげていただければと思います(僭越ながら、私が青年部長を務めております)。
 1月の青年部勉強会では、ホンダで経営企画を担当していた熊谷一宏先生をお招きして、コミュニケーションに関する講義・ワークショップを行った。ホンダは世界を日本、中国、アジア/オセアニア、欧州、北米、南米という6つの地域に分ける「グローバル6極体制」を敷いているが、熊谷先生は日本本部で経営企画を行っていた方である。

 【1.《ワークショップ》内的傾聴と集中的傾聴】
 このワークショップは私も体験したことがあり、また、私自身研修やセミナーにおいて講師の立場で実施したこともあるので、私の経験で話をさせていただきたい。コーチングの普及に伴って、傾聴という言葉が使われる機会が増えているが、傾聴には「内的傾聴」と「集中的傾聴」の2種類がある。内的傾聴というのは、簡単に言えば自分自身のことを考えながら相手の話を聞くことであり、反対に集中的傾聴とは、相手に最大限の関心を寄せて相手の話を聞くことである。

 ここで、こんなワークショップをやっていただきたい。2人1組になり(Aさん・Bさんとする)、「最近楽しかったこと」を3分間で相手に話す。まずはAさんがBさんに対して話をする。その際、Bさんはまずは「内的傾聴」モードでAさんの話を聞く。具体的には、

 ・真剣に聞く(自分に自問自答し、評価とアドバイスを考える)。
 ・相槌を打たない。表情を変えない。
 ・目線を合わせない。
 ・真剣に考えられるよう、腕と脚を組む。
 (・途中で相手に質問をしてもよい)

死んだ魚の眼というルールに従ってAさんの話を聞く。ワークショップであるから、大げさにやるのがポイントである。端的に言えば、Bさんは「死んだ魚のような眼」でAさんの話を聞く。イメージで言うと右図のような感じである(この絵は熊谷先生に教えていただいた)。3分経ったら攻守交代し、今度はBさんがAさんに対して「最近楽しかったこと」を3分間で話す。Aさんは「内的傾聴」モードでBさんの話を聞く。

 お互いの話が終わったら、今度は再びAさんがBさんに対して3分間で同じ話をする。ただし、今度はBさんは「集中的傾聴」モードで聞く。具体的には、

 ・真剣に聴く(相手のために聴く。感想・アドバイスを考えない)
 ・相槌は10倍(バリエーションとトーン)。
 ・表情は笑顔。
 ・相手の目をしっかりと見る。
 ・前のめりになって聴く。
 (・途中で相手に質問をしてもよい)

というルールに従ってAさんの話を聞く。ここでもポイントは、ワークショップであるから大げさにやることである。決して、恥ずかしがってはならない。3分経ったら、次はBさんがAさんに対して3分間で同じ話をする。Aさんは「集中的傾聴」モードでBさんの話を聞く。

 このワークショップをすると、相手が「内的傾聴」モードで聞いている時は、話し手は3分間話がもたないことがほとんどである。また、「話しながらどう感じたか?」と質問すると、「苦痛だった」、「本当に聞いてもらえているのか解らなかった」という回答が返ってくる。逆に、相手が「積極的モード」で話をしている時は、話し手にとって3分間が短く感じられる。話したいことが次から次へと出てくる(もちろん、同じ話を2回しているわけだから、1回目よりも2回目の方が話しやすいわけだが)。「話しながらどう感じたか?」と質問すると、「楽しかった」、「自分に興味を持ってくれているように感じた」といった感想が聞かれる。

 ここでもう1つ、「『内的傾聴』と『集中的傾聴』の2つのモードで相手の話を聞いた時、相手の話の内容をよく覚えているのはどちらか?」と聞くと、受講者はほぼ100%「集中的傾聴」モードの時と答える。先ほどのルールを振り返ってもらいたいのだが、「内的傾聴」モードでは「自分に自問自答し、評価とアドバイスを考える」、「集中的傾聴」モードでは「相手のために聴く。感想・アドバイスを考えない」とある。相手の話に対して評価やアドバイスを考えながら話を聞くと、相手の話が頭に残らないのに対し、頭の中を空っぽにして相手の話を聞くと、かえって相手の話がよく覚えられる。私もワークショップで体験したが、「集中的傾聴」モードの時は、頭の中は空っぽなのに自然と質問が湧いてきて、相手の話がよく理解できるという不思議な現象が起きる。

 ここでさらに受講者に対して、「普段の業務では、自分は『内的傾聴』と『積極的傾聴』のどちらのモードに近いか?」と質問すると、大半の人は「内的傾聴」モードに近いと答える。これには様々な理由があるだろうが、日本人は一般に同質性が高いと思われているため、相手の言いたいことは聞かなくても解ると考えてしまうことが一因ではないかと思う(本当は日本人は決して同質性が高いわけではないのだが、これについては後述する)。だから、上司は部下が報告に来ても、パソコンを操作する手を止めず、不機嫌そうな顔でパソコンの画面をのぞき込み、ろくに相槌や質問もせず、部下の話が一通り終わると「解った」と言って部下を帰してしまう。

 ただ、興味深いのは、主に日本国内で仕事をしている人に対してこの質問をすると、「『内的傾聴』モードに近い」という回答が返ってくるのに対し、海外事業に携わっている人にこの質問をすると、「『積極的傾聴』に近い」と回答する人が結構いるということである(講師としては「『内的傾聴』モードに近い」という回答を期待しているため、ここで研修のシナリオが狂って戸惑ってしまう)。海外事業で外国人を相手にコミュニケーションをする時には、相手がどんな価値観を持っていて何を考えているのかが全く解らないから、頭の中を白紙状態にして相手の話を聞くという習慣が自然と身についているのではないかと考えられる。

 【2.《ワークショップ》褒める】
 2つ目のワークショップについては、今回の勉強会で実践した内容を書く。2つ目は、「ひたすら相手を褒めちぎる」というものである。同じように2人1組となって、まずはAさんがBさんのよいところ(外見、性格、考え方など何でもよい)を1分間でひたすら褒めまくる。それが終わったら、今度はBさんがAさんのよいところを1分間でひたすら褒めまくる。1分という非常に短い時間であるにもかかわらず、日本人は普段から相手を褒めることに慣れてないため、このワークショップは難しかった。私も恥ずかしながら1分間話がもたなかった。ただ、世の中には褒め上手の人もいる。勉強会の参加者の1人が、「石田純一さんはどんな女性でもよいところを10個褒めることができるらしい」という話をして、「だから女性にモテるわけだ」と全員で妙に納得してしまった。

 褒められて悪い気分になる人はいない。アメリカには、選手のことをひたすら褒めまくることで選手のモチベーションを上げるコーチも多いと聞く。特に、能力の高いスーパースター集団を率いる監督やコーチは、トレーナーというよりもモチベーターとしての役割を果たす。ただ、日本人の場合は、あまり褒められすぎると、「この人は自分に媚を売っているのではないか?」と疑心暗鬼になる傾向があるように思える。

 アメリカ人と日本人のこの違いは、遺伝子の違いである程度説明できると考える。遺伝子の中には、ストレス耐性を決定する「セロトニントランスポーター遺伝子」というものがある。セロトニンは、その量が十分ならば安心感を覚え、不足するとうつ病の原因となる。この遺伝子には、不安を感じやすい心配性のS型と、大らかで楽観的なL型がある。遺伝子は両親から半分ずつ受け継ぐため、S/S型、L/L型、その中間となるS/L型のどれかになる。アメリカ人の場合、楽観的なL/L型が30%を超えるのに対し、日本人のそれはわずか1.7%しか存在せず、この値は世界最低である。裏を返せば、日本人の約98%は心配性のS型を持っており、根がネガティブなのである(『週刊ダイヤモンド』2017年4月15日号より)。

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 根がポジティブな人は褒められて育つ。逆に、根がネガティブな人は叱られて育つと私は思う。野村克也氏は「無視⇒賞賛⇒非難」の3段階で選手を育成することを持論としていた。まず、入団したてで箸にも棒にも掛からぬ選手は無視する。その選手が少し実力をつけると褒める。さらにその選手が成長してレギュラークラスになると、今度は逆に徹底的に非難する。野村氏の非難は時に人格否定を含む過激なものであったようだが、それでも「野村チルドレン」という言葉があるように、野村氏に育成してもらい、今でも野村氏を慕う選手や元選手は非常に多い。

 京セラの創業者・稲盛和夫氏も、部下の経営幹部をボロクソに批判するらしい。ただ、それでも自分について来てくれる部下に対して、「なぜ自分について来るのか?」と尋ねたところ、「稲盛さんの部屋を出る時、最後に必ず稲盛さんが『ありがとう』と言ってくれるからだ」と言われたそうだ。日本人の場合は、「9叱って1褒める」ぐらいがちょうどいいのではないかと感じる。だから、私も以前の記事「『致知』2017年12月号『遊』―「社員満足度がモチベーションを上げる」という理屈にどうも納得できない」で、社員に不満足を覚えさせてモチベーションを高めるための1つの方法として、「上司や顧客からの厳しいフィードバックを与える」というものを書いた。

 【3.ホンダの「ワイガヤ」について】
 ホンダのコミュニケーションと言うと「ワイガヤ」が有名である。ワイガヤは「わいわいがやがや」の略である。何かのテーマについて他の人と議論をし、新しいアイデアを得たい時には、「ちょっとワイガヤしようよ」と周囲の人に呼びかける。呼びかけられた側もそれを決して断らず、ワイガヤに応じることがホンダの企業文化として染みついている。

 ワイガヤには3つのルールがある。それは、①共通の目的(A00)、②異質な人々、③コミュニケーションである。A00とはホンダ独自の言葉であり、別の言葉で表すならば「コンセプト」である。議論が迷走、暴走した時には、「この議論のA00は一体何なのか?」という問いが発せられる。この点で、A00とはコミュニケーションの原点と呼んでもよいかもしれない。ホンダはコンセプトの議論に過剰なまでの時間をかける。例えば、NSXのコンセプトは「Original Must Be Done(ホンダにしかできないことを)」であるが、「オリジナルとは何か?」を徹底的に議論する。N-BOXのコンセプト「日本の家族のしあわせのために」に至っては、「家族とは何か?」、「しあわせとは何か?」ということを愚直なまでに真面目に議論する。

 近年、企業組織は1つのジレンマに直面している。企業には共通の目的が必要であり、社員は共通の価値観を持たなければならないというのが伝統的な見解である。一方で、最近はダイバーシティ・マネジメントの重要性も高まっており、社員の多様性を尊重することも強調されている。組織が共通の目的・価値観を持ちながら、個々の社員は多様であらねばならないというのは大きな矛盾である。だが、この矛盾を乗り越えるヒントがホンダのワイガヤにあると思う。

 ホンダは、まずA00=コンセプトという形で共通の形式知を掲げる。次に、その形式知を解釈する。と言っても、明文化されたコンセプトの文言を要素還元主義的に分解していくのではない。その形式知に接触した人が、各々の物の見方、考え方に従って解釈を行う。解釈は1人で行うよりも、複数人で行う方が望ましい。日本人は同一性が高いようでありながら、実は考えていることは結構バラバラである。だからこそ、日本の意思決定では「稟議」、「根回し」なるものが重要な意味を持つ。仮に日本人が皆同じ考えを持っているならば、稟議も根回しも不要である。稟議や根回しが必要であることは、日本人の考え方が多様性に富んでいることを示唆している。

 こうして、コンセプトをめぐり深い議論を重ねることで、その背後に重層的な意味=暗黙知が蓄積されていく。暗黙知は、時に重複、冗長、矛盾、対立を含む。しかし、形式知という枠組みの中において、それらが共存することを敢えて許す。ただし、あまりにも深刻な葛藤が生じた時には、我々が立脚している形式知とは何だったかと問い、原点に立ち戻る。ホンダはこれを繰り返している。つまり、形式知と暗黙知との間を頻繁に往復し、統一性と多様性を調和させている。

 私は本ブログでよく「二項混合」という言葉を使うが、ホンダのワイガヤは形式知と暗黙知の二項混合である。私は語彙が貧弱なので、この二項混合を未だに上手に説明できないのだが、野中郁次郎氏は、「二項動態」という言葉を使って、私の言いたいことを代弁してくれている。
 二項が実は1つでありながら、その両極あるいは両面を構成していて、それらをつないでいる幅のある中間(中庸あるいはメソ)では2極の性質を持ちながら(白と黒の2極の間のグレーのグラデーションのように)連続的に変化しており、二項は中庸の部分でダイナミックに相互作用しながら、状況変化にあわせて時々刻々ダイナミックにバランス(動的均衡)を維持している。
(野中郁次郎、梅本勝博「アメリカ海兵隊の知的機動力 組織的知識創造論から二項動態論へ」〔『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号〕
一橋ビジネスレビュー 2017年AUT.65巻2号一橋ビジネスレビュー 2017年AUT.65巻2号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-09-15

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 このように見てくると、ホンダという組織はコミュニケーションの負荷が非常に高い組織であると言えそうである。一橋大学では「組織の<重さ>」という研究も行われており、<重い>組織、つまりコミュニケーションの経路が煩雑で、コミュニケーション負荷が過剰な組織はパフォーマンスが低いという結果が出ている。だが、ホンダの例を見ると、<重い>組織=パフォーマンスの低い組織という単純な図式は成立しないように感じる。

 コミュニケーションには「早い―遅い」、「重い―軽い」という2軸があると私は考える。「早い―遅い」は情報の伝達速度を、「重い―軽い」は情報の密度・質感を表している。早くても軽い組織は、コミュニケーションが効率的になされているが、その内容は表面的なものにとどまる。遅くて軽い組織は、情報伝達が鈍い上にコミュニケーションが浅いため最悪である。早くて重い組織が最も効果的・効率的なコミュニケーションを行っていることになるが、そのような組織はなかなか存在しない。最も理想的かつ現実的なのは、実は遅くて重い組織ではないかと思う。これはちょうど、野球において、投手の球が速くても軽ければ簡単に打者に打ち返されてしまうのに対し、遅くても重ければ打者を抑えることができるのと似ている。


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