プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2017年12月02日

【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)


カウンセリング

 厚生労働省が主催する「セルフ・キャリアドック導入ガイダンスセミナー」に参加してきた。以下、セミナー内容のメモ書き。

 《参考記事》
 【人材育成】能力開発はジグソーパズル、キャリア開発はレゴの組み立て
 『人材育成(DHBR2017年4月号)』―人事考課は不要かと聞かれれば「それでも必要だ」と私は答える、他
 『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他
 DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性
 『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案

 1.基調講演「セルフ・キャリアドック導入について」(慶応義塾大学名誉教授 花田光世氏)
 ・2016年4月1日に「改正職業能力開発促進法」が施行された。同法は、労働者が職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発および向上に努めることを基本理念としている。事業者は、「労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報の提供、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。ここで言う「キャリアコンサルティング」とは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 ・企業は上記の法改正に伴い、キャリアコンサルティングの内容を「セルフ・キャリアドック」という施策を通じて具体化しなければならない。セルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、またそのための企業内の仕組みのことである。

 ここで1つ注意しなければならないのは、法律ではキャリアコンサルティングを「相談に応じ、助言及び指導を行うこと」と定義しており、文字通りに読めば従来の面談型の支援が想定されるところだが、セルフ・キャリアドックではキャリアコンサルティング面談に加えて「キャリア研修」を組み合わせることが要請されているという点である。この「キャリア研修」は、法律の「相談に応じ、助言及び指導を行うこと」という文言に広く包摂されると解釈するのが適切である。キャリア研修では、従業員の仕事・人生に対する姿勢・意欲・マインド・価値観の棚卸しを行う(自己理解)とともに、現在および近い将来に、従業員が担当している、または今後担当する可能性のある仕事において、顧客や組織、上司、同僚や部下などから期待・要請されている役割を理解する(仕事理解)ことを通じて、従業員の中長期的なキャリアビジョンのデザインを支援する。

 ・最近の人事のトレンドをまとめると以下のようになる。
 ①アメリカのASTD(American Society for Training and Development)が、ATD(Association for Talent Development)へと改称した。これは、TrainingよりもDevelopmentを重視する姿勢を表している。つまり、企業が必要とするスキルの訓練から、個々人が持つ多様な力の発揮へと視点がシフトしている。

 ②GE、Google、GAPといった企業で、従来型目標管理のウェイトを抑え、自律型の個人の評価を重視する傾向が見られる。従来型の目標管理制度では、伝統的な職務分析を通じてグレーディング、レーティングを細かく設定していた。しかし、グレーディングなどを適用しやすいのは補助業務や定型業務であり、近年増加している非定型業務、判断企画業務には適用が困難である。これらの業務は同一職務同一賃金にも馴染みにくく、企業は従業員の持ち味を生かしたキャリアコンピテンシー、エンプロイヤビリティ、人間力の開発を支援するのが望ましい。これを従来のOJT(On the Job Training)に対して、OJD(On the Job Development)と呼ぶ。

 GEでは、グレーディング、レーティングを簡素化するとともに、評価を年1回の決められた期間における面談中心から、上司と部下がより頻繁に会話の機会を設ける方向へとシフトしている。日本GE株式会社人事部長である木下達夫氏は、「本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話し合いをしながら、今よりもよい自分になっていけるような仕組みにするために『目盛り』という考え方をやめようとしている」と語っている。

 個人的には、「GEが人事評価を止めた」という事実だけが独り歩きしている現状を憂慮している。面談や評価の調整が煩雑な上に、結局は公平な評価ができない人事考課制度ならいっそ廃止しようという流れに傾きつつあるのが怖い。GEの変革の本質は、部下の評価を半年~1年に1回だけの決められた時期に行うのではなく、日常業務の中で頻繁に行うことにある。したがって、これまでよりも人事評価の負荷は増える。さらに、半年~1年に1回の人事考課も残すべきだと考える。というのも、上司は部下に対して半年~1年の間に色々とフィードバックをしてきたが、結局のところ部下のよいところは何か、改善すべきところは何か、次はどんな目標を目指すべきか、日常業務を一旦離れ、じっくりと腰を据えて検討することは有効だからである。

 ③国は、2024年度末までに、キャリアコンサルタントを10万人養成する計画を示している。ちなみに、2025年は65歳完全定年制が義務化される年である。花田氏は、これは70歳までの雇用延長の始まりになると推測している。現在52歳の人は、2025年には60歳となるが、65歳完全定年制の義務化により65歳まで働くことになる。そして、彼らが65歳となる2030年には、おそらく70歳まで雇用が延長される。さらに、彼らが70歳になる2035年には、定年制が完全に廃止されるか、75歳+αまで雇用延長されると花田氏は予測している。そのため、シニアが自らのキャリアを主体的に開発することが重要である。同時に、若手・中堅の従業員も、非常に長いキャリアをデザインすることが要求される。企業には管理職が不足しており、今後は大卒非管理職がマジョリティとなる。彼らのモチベーションをいかにして上げるかも問題となる。

 私自身は、冒頭の参考記事でも書いたように、日本的な年功制の給与制度と昇進制度を今でも支持している。そして、将来の日本の人口動態を見ると、20代の若者を底辺とし、60代を頂点とする従来型のピラミッドと、40~50代のミドルを底辺とし70~80代のシニアを頂点とする新しいピラミッドが登場すると考えている。従来型の組織で昇進の見込みがなくなった社員は、新しく登場するミドル・シニア人材中心のピラミッドへと移行していく。企業は、40~50代で新しく起業する人材を支援する基金を共同で設立するとよい。また、新しいピラミッドに転職するミドル・シニア人材の当面の生活費をカバーする新しい保険制度を企業が合同で整備するのも一手である。

 ④企業に課された新たな義務のうち、「その他の援助」としては、企業が従来行ってきた各種施策を応用することが想定されている。具体的には、キャリア健診やモラルサーベイ、組織開発や職場ぐるみ訓練、OJT、360度評価やフィードバックなどである。一方、キャリアコンサルタントには、前述のキャリア研修の実施に加えて、キャリアコンサルティング面談などを通じて得られた情報を総合的に分析し、守秘義務に配慮しつつも、従業員の職業設計、能力開発にとって障害となる組織的課題を全体報告として経営陣に報告する役割が期待されている。言い換えれば、企業は従来組織的な視点から行ってきた施策を個の視点で、キャリアコンサルタントは従来個の視点から行ってきた活動を組織の視点で再編成する必要があるということである。

 私は、キャリアコンサルタントには組織的な課題を解決する以上の役割が求められるようになると考えている。冒頭の参考記事で書いた通り、今企業は内部環境アプローチによる戦略立案を必要としている。具体的には、社員の能力や価値観を十二分に活用した場合にどのような戦略があり得るのかを検討するというアプローチである。社員の能力は人事部が一応把握しているが、ややもすると効率的な処理を優先するあまり、抽象的なレベルでの把握にとどまっていることが多い。そこで、キャリアコンサルタントが社員の生の声に接することで得られるリアリティの高い情報、企業の枠組みに収まりきらない情報を丹念に拾い上げ、それらを編み込むことで新たな戦略機会を模索する。キャリアコンサルタントは戦略コンサルタントにもなるだろう。

 2.モデル企業事例発表「セルフ・キャリアドック導入の効果について」
 <サントリーホールディングス株式会社>
 (ヒューマンリソース本部キャリア開発部長兼キャリアサポート室長 斎藤誠二氏
 ヒューマンリソース本部キャリア開発部キャリアサポート室課長 光延千佳氏)
 ・創業者の「やってみなはれ」の精神を人材育成ビジョンにも反映させ、「世界で最も人材が育つ会社に」という人材育成ビジョンをイントラネットに掲載している。従業員1人1人が自らのキャリアオーナーとなるべきことを説き、1人1人の意欲こそが企業の成長エンジンであり、そのために成長の節目で企業側からの働きかけを行うことを宣言している。この人材育成ビジョンの実現に向けて、「サントリー大学」という教育研修体系を整備している。階層別研修とキャリアワークショップの2本立てである。前者は企業の環境・戦略の変化に伴って内容も変化するだろうが、後者については、やり方は変わったとしても、本質的な部分は変わらないはずである。

 ・2006年にキャリアワークショップ「プロフェッショナル」(38~49歳が対象)を試験的に開始した。その後2007年にキャリアサポート室が立ち上がり、「チャレンジ」(入社11年目)が追加された。2013年には65歳までの定年延長に伴い、「キャリアドック53」、「キャリアドック58」を新設した。この過程で、「ミドル(45~50歳G1(課長)層)」への支援が手薄であったことから、今回のセルフ・キャリアドックではこの層を対象とすることにした。ワークショップの目的は、①ミドルマネジャー自身がキャリアビジョンを描くステップを理解すること、②自部署のメンバーが多様なキャリアビジョンを描くことを支援できるよう、メンバーのキャリア開発やメンバー育成力を学ぶことの2つである。サントリーでは、年5~6回の面談が行われており、少なくとも年1回はキャリア面談を実施することとなっているが、課長層は部下のキャリア面談をどのように行えばよいのか解らないという悩みを抱えていた。そこで、目的②が追加された。

 キャリアワークショップの実施後、参加者からはメンバーとのコミュニケーションが円滑になったという声が聞かれた。部下の価値観は何なのか、中長期的にどのようなビジネスパーソンになりたいのか、という視点でメンバーと会話ができるようになった。キャリアワークショップの実施から2~3か月後に参加者のフォローアップ面談を行っているが、様々な部署でメンバーに対する自発的なキャリア開発の支援が行われていることが判明した。

 ・国内1.2万人の従業員を対象に、毎年1回モラルサーベイを実施し、時系列で結果を比較したり、全社・事業部別・子会社別に分析したりして、従業員の元気と組織の生産性の関係をウォッチしている。ただ、サーベイの結果だけを見ているわけではなく、日々の肌感覚も重視している。両者が乖離していると感じる場合には、キャリア開発部が現場に介入し、実態の解明に乗り出すことがある。また、元気がないと感じている現場は自発的にMBTIやコーチングを実施したいと申し出てくるため、キャリア開発部が実施のサポートをしている。

 ・上司の「やってみなはれ」は、部下の「見てくんなはれ」とセットである。しかし、最近は部下の「見てくんなはれ」を許容せず、全部自分でやってしまう上司が多い。そうすると、人が育つ会社にはならない。「見てくんなはれ」をもっと許容しなければならない。企業の方向性と個人のキャリアのうち、後者を少し優先させる企業がよい企業である。

 <株式会社平井料理システム>
 (代表取締役 平井利彦氏
 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任講師 宮地夕紀子氏)
 ・平井料理システムは、香川県に本社を置き、四国・中国地方に23店舗を展開する飲食店である。香川県の人口は98万人しかいないため、売上高を伸ばすためには、同じ顧客に何度も来店してもらう必要がある。ただ、同じお店では飽きられてしまうから、多業態の飲食店を展開している。売上高は約17億円である。同社は「いいオトナに、なろう。」を会社のスローガンとしている。同社の従業員のほとんどが中途採用であると同時に、協力雇用主制度に協力して犯罪歴のある人を受け入れたり、障害者を採用したりしている。一言で言えば「ヤンチャ者の集まり」である。だから、「いいオトナに、なろう。」を目標にしている。

 ・現在、マネジメント人材である店長の育成が急務となっている。女性店長が不在であり、特に女性従業員のマネジメント能力開発、キャリア形成支援、離職防止が課題である。これらの課題に取り組むために、セルフ・キャリアドックを実施した。対象は女性正社員7名(2名が現場、5名が事務)、女性パート・アルバイト10名(8名が現場、2名が事務)の計17名である。キャリアコンサルティング面談は、宮地氏にお願いした。

 ・キャリアコンサルティング面談においては、最初から「キャリア」、「成長」という言葉を使うのではなく、「今どんな仕事をしているのか?」、「いつもどんなことを考えているのか?」といった話から入っていった。すると、「子育てが終わったら長い時間働きたい、夜のシフトにも入りたい」などの意見がポツリポツリと出てくるので、そこからキャリアの話に展開させていった。相談内容には次のような傾向が見られ、それに対し宮地氏は以下のような解決策を提案した。
 -営業時間中はお客様対応が第一優先であり、教育的なやり取りは困難になっている。
 ⇒別途、営業時間外に店長・スタッフ間で振り返り・フィードバックを実施する。
 -加齢による体力の低下への不安。
 ⇒30~40代のスタッフが多いため、積極的かつ日常的な体力づくり、および健康維持・向上に向けての教育意識啓発を行う。
 -パート・アルバイトという立場ゆえ、正社員でない自分が意見を言うのははばかられる。
 ⇒多様な雇用形態の従業員を巻き込んだ各店舗/店舗横断型のプロジェクトを展開する。

 ・キャリアコンサルティング面談実施後のアンケートを見ると、多忙な業務の中でも継続的に学習し続けることの重要さに気づいた、毎日の仕事の中で自分の成長につながるチャンスの獲得に向けて頑張りたいという気持ちを持つようになった、などの声が聞かれた。また、今までは1人で悩んでそのまま退職してしまうケースが多かったが(愛媛、徳島、岡山などでは1人しかいない店舗もある)、セルフ・キャリアドック後には、「周囲に言えば解ってもらえる」という意識が従業員に芽生えた。例えば、何か困りごとがあると事務所に電話がかかってきたり、同僚の女性に連絡が入ったりする。また、女性会議も開催されている。

 ・セルフ・キャリアドックの副次効果なのかもしれないが、育児休暇を取得する男性従業員が増えた。今までに5~6人が取得している。3日~2週間程度の休暇を申請するケースが大半である。会社全体として見ても、有給休暇を取得する従業員の数が増えている。前述の通り、様々な事情を抱えた従業員が働いているため、会社の仕組みに従業員を合わせるのではなく、従業員に会社が合わせることが重要である。そのためには、従業員から声を上げてもらう必要があり、会社はそのための環境を整備しなければならない。

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