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アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール『ビジネスモデルジェネレーション』―モデル図から文章を起こしてロジックを検証しよう

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年05月28日

アレックス・オスターワルダー、イヴ・ピニュール『ビジネスモデルジェネレーション』―モデル図から文章を起こしてロジックを検証しよう


ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書
アレックス・オスターワルダー イヴ・ピニュール 小山 龍介

翔泳社 2012-02-10

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 昨年流行った本を約1年遅れで読んでみた。ビジネスモデルを(1)顧客セグメント(CS)、(2)顧客への提供価値(VP)、(3)チャネル(CH)、(4)顧客とのリレーション(CR)、(5)カギとなるアクティビティ(KA)、(6)カギとなるリソース(KR)、(7)パートナー(KP)、(8)収益の流れ(R$)、(9)コスト構造(C$)という9つの要素でデザインする方法が紹介されている。例えば、Apple(iPod/iTunes)のビジネスモデルは以下のようになる。

Apple(iPod/iTunes)のビジネスモデル

 実際のワークでは、著者が「ビジネスモデル・キャンバス」と呼ぶフレームワークに、ポストイットでアイデアを次々と貼りつけながら新しいビジネスモデルを構想するのだが、「図は論理的飛躍に陥りやすい」という点に注意する必要があると思う。ポストイットをたくさん貼ってフレームワークを埋めつくすと、何となく論理的整合性が取れたような気分になってしまうのだ。

 しかし、完成したキャンバスをよく見てみると、例えば「顧客への提供価値」と「カギとなるアクティビティ」や、「顧客とのリレーション」と「カギとなるリソース」などの間に論理的な不整合が生じる、言い換えれば「そのアクティビティでは、想定している提供価値を実現できない」、「そのリソースでは、想定している顧客リレーションが十分に構築できない」などといった事態に陥ってしまう、ということは十分に考えられる。

 こういう欠陥を避けるためには、フレームワーク上で完成させたビジネスモデルを、文章で書き起こしてみるのが有効であろう。文章はつじつまが合わないとすぐに行き詰まる。筆が進まない、書いた文章を読んでもどこかしっくりこない場合は、ビジネスモデルのロジックが不完全であることを示すサインとなる。一例だが、文章のテンプレートを用意してみた。空欄にビジネスモデルの9つの構成要素を入れて、自然な文章になるかどうかチェックするとよい。

 「わが社は(   1   )というターゲット顧客に対し、(   3   )というチャネルを通じて、(   2   )という価値を提供する。(   3   )というチャネルにおいては、顧客と(   4   )という関係を構築する。

 (   2   )という提供価値を実現する上でカギとなるアクティビティは(   5   )であり、このアクティビティには(   6   )というリソースを投入する。また、(   3   )というチャネルを構築する上でカギとなるアクティビティは(   5   )であり、このアクティビティには(   6   )というリソースを投入する。さらに、顧客と(   4   )という関係を結ぶ上でカギとなるアクティビティは(   5   )であり、このアクティビティには(   6   )というリソースを投入する。(   7   )というパートナーは、カギとなるアクティビティやリソースのうち、(   5   )(   6   )を補完する役割を果たす。

 顧客からは、(   8   )という形で製品・サービスの対価を得る。(   8   )は、(   3   )というチャネルを構築・維持するために必要な(   9   )というコスト、(   4   )という顧客リレーションを構築・維持するために必要な(   9   )というコスト、(   5   )のようなカギとなるアクティビティを実行するために必要な(   9   )というコスト、(   6   )のようなカギとなるリソースの調達に必要な(   9   )というコスト、(   7   )というパートナーへの支払に必要な(   9   )というコストをカバーするのに十分である」

 ただし、この文章は定性的・主観的な情報ばかりで、ビジネスモデルが対象としている市場が本当に高いポテンシャルを有するのかを示す情報に欠けている。より説得力のある文章にするためには、第1パラグラフの文章を次のようにするとよいだろう。

 「わが社は(   1   )というターゲット顧客に対し、(   3   )というチャネルを通じて、(   2   )という価値を提供する。(   3   )というチャネルにおいては、顧客と(   4   )という関係を構築する。近年、市場では(      )というニーズの変化(もしくは新しいニーズの出現)が見られ、(      )という理由で将来的に成長が期待できる。その市場規模は(      )億円程度と推計される。わが社はこの市場で(      )%のシェアを目指す」

 ニーズ・ドリブンではなく、新しい技術が新しい市場を生み出すシーズ・ドリブンのビジネスモデルの場合は、次のような文章にする。

 「わが社は(   1   )というターゲット顧客に対し、(   3   )というチャネルを通じて、(   2   )という価値を提供する。(   3   )というチャネルにおいては、顧客と(   4   )という関係を構築する。近年、(      )という新しい技術が登場しており、この技術は消費者の生活を(      )のように変える可能性がある。仮に消費者の生活が(      )のように変わるとすれば、(      )という新しいニーズが生まれ、(      )億円程度の市場が創出されると推計される。わが社はこの市場で(      )%のシェアを目指す」

 友人とこの本について話をしていたら、「このフレームワークは、『競争優位性をどう確保するか?』という視点が抜けている」という意見をもらった。ビジネスモデルの競争優位性を示すには、文章の中に競合他社との比較を入れるとよいだろう。例えば、第1パラグラフの文章を次のようにすることで、ポジショニングの違いを示すことができる。

 「わが社は(   1   )というターゲット顧客に対し、(   3   )というチャネルを通じて、(   2   )という価値を提供する。(   3   )というチャネルにおいては、顧客と(   4   )という関係を構築する。これに対して、競合他社は(   1'   )というターゲット顧客に対し、(   3'   )というチャネルを通じて、(   2'   )という価値を提供している。(   3'   )というチャネルにおいては、顧客と(   4'   )という関係を構築している。よって、競合他社とわが社は差別化が図れている」

 しかし、今の時代にポジショニングだけで完全に差別化を図るのは非常に困難である。たいていは、同じようなターゲット顧客に、同じようなチャネルを通じて、同じような価値を提供し、同じような顧客リレーションを構築している。そこで、もう1つの差別化の方法としては、カギとなるアクティビティやリソースの違いを強調する、という方法が考えられる。具体的には、第2パラグラフの文章を次のように変える。

 「(   2   )という提供価値を実現する上でカギとなるアクティビティは(   5   )であり、このアクティビティには(   6   )というリソースを投入する。また、(   3   )というチャネルを構築する上でカギとなるアクティビティは(   5   )であり、このアクティビティには(   6   )というリソースを投入する。さらに、顧客と(   4   )という関係を結ぶ上でカギとなるアクティビティは(   5   )であり、このアクティビティには(   6   )というリソースを投入する。わが社と競合他社の(   5   )(   6   )を比較すると、わが社の(   5   )または(   6   )は、(      )という点において競合他社に勝る」

 このような文章チェックを通じて、ビジネスモデルを魅力的なストーリーへと仕立て上げていく。そして、一橋大学大学院の楠木建教授が『ストーリーとしての競争戦略―優れた競争戦略の条件』(東洋経済新報、2010年)の中で述べたように、 ストーリの論理的整合性が高く、ストーリーが骨太であるほど、ストーリー自体が競争優位性を持つようになるのである。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
楠木 建

東洋経済新報社 2010-04-23

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