このカテゴリの記事
ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(1)

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>@tomohikoyato谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士

Top > 申請書 アーカイブ
2018年01月01日

ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(1)


事業アイデア

 ※下記記事に加筆した平成30年度補正予算バージョン
 平成30年度補正ものづくり補助金申請書の書き方例(※注意点つき)(1)(2)
 ※余談(支援する気があるんだかないんだか・・・)
 平成30年度補正ものづくり補助金をめぐる7つの論点+3の論点
 ※補助金を初めて受ける企業に読んでいただきたい記事
 【シリーズ】補助金の現実
 【第1回】補助金は事後精算であって、採択後すぐにお金がもらえるわけではない
 【第2回】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい
 【第3回】補助金=益金であり、法人税の課税対象となる
 【第4回】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある
 【第5回】補助金の経済効果はどのくらいか?
 ※以前まとめた「ものづくり補助金申請書の書き方」
 「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)(平成26年度補正予算「ものづくり・商業・サービス革新事業」)(1)(2)(3)(4)(5)
 「平成27年度補正ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金)」申請書の書き方(細かい注意点)
 【平成28年度補正ものづくり補助金】賃上げに伴う補助上限額の増額について
 昨年12月に、経済産業省・中小企業庁は2017年度補正予算で、中小企業・小規模事業者を対象とした「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業(ものづくり補助金)」で1,000億円の予算を計上することを発表した。補助上限は原則として1,000万円とし、3年ぶりに1万社支援(2016年度補正での採択数は6,157件)を復活させる方針だ。公募は2018年2月に始まる予定である。過去の傾向からすると、公募は1か月ほどで締め切られる可能性が高いため、申請を検討している中小企業は今から準備を始めておいた方がよい。

 これまでも上記のように申請書の書き方に関する記事を何本か書いてきたが、これは申請書は基本的には中小企業が独力で作成してほしいという一介の中小企業診断士の願いからである。中小企業を支援するコンサルタント会社の中には成功報酬として採択金額の数十パーセントを取ったり、認定支援機関の中にはA4で1枚の確認書を書くだけで数十万円を請求したりするケースがあるらしく、中小企業庁が問題視している。中小企業の経営者は、こういう悪徳支援業者に引っかからないようにしていただきたいものである。

 なお、平成26年度補正予算ものづくり補助金の申請書の書き方の記事は、全体で5回もある割に、実際の申請書のフォーマットに沿った記述になっていなかった。その反省を踏まえ、今回は申請書のフォームを意識した記述例を紹介したい。ただし、今日はまだ公募前であり、正式な申請書が公表されていないため、便宜的に平成27年度補正予算ものづくり補助金の申請書に従った(毎年、フォーマットはほとんど変わっていないから、今回も昨年度とほぼ同じだと思う)。また、枠内の「審査項目」も、昨年度の公募要領からの引用である。記述例の作成にあたっては、高橋透『技術マーケティング戦略』(中央経済社、2016年)に記載されている架空の事例を私が編集した。これからお見せするサンプルは1万字程度だが、採択事業者から話を聞くと、A4で15ページ前後の申請書を作成しているところが大半である。

技術マーケティング戦略技術マーケティング戦略
高橋 透

中央経済社 2016-09-22


Amazonで詳しく見る by G-Tools

 【事業計画名】
 導電性繊維技術を利用した、ウェアラブル装置に代わるセンシング繊維の開発

 その1:革新的な試作品開発・生産プロセスの改善の具体的な取組内容
 ◆当社の概要
 当社は1950年に創業した繊維企業である。創業当時から蓄積してきた紡績・織布/編成・染色加工・縫製における独自の技術を活かし、コットンやウール、麻など天然繊維をベースにした高機能・高感度の繊維製品を製造・販売している。近年は導電性繊維(※)フィルム、炭素繊維を開発し、多様な要素技術を有するのが強みである。また、産官学でのオープンイノベーションにも積極的に取り組んでおり、他からの技術支援を受けられる体制が整っている。

 (※)導電性繊維=通常、繊維を形成する高分子化合物は絶縁体であるが、特に導電性を持たせた繊維を導電性繊維と言う。近年、石油化学工場における静電気による火災の防止、医薬品工業,精密電子工業におけるほこりの付着や放電の防止のために、優れた制電性を有する被服材料が要求されている。現在開発されている導電性繊維には,①合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させたもの、②ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、③有機物繊維の表面を金属で被覆したもの、④有機物繊維の表面を導電性物質を含む樹脂で被覆したもの、などがある(「世界大百科事典 第2版」より)。

 ○主な取扱製品
 ①一般・カジュアル衣料品=シワ形状コントロール素材で、ビジネスカジュアルからヴィンテージまで幅広いファッションに対応できるテキスタイル素材。
 ②ユニフォーム関連=防炎性の優れたアクリル系繊維プロテックスと、製造段階でできた落綿を含むコットンを混紡。防炎機能とエコロジーを兼ね備えたテキスタイル素材。
 ③一般衣料品・生活雑貨・インテリアホームテキスタイル=糸の内部に空隙を持つ、軽くて膨らみ感のあるソフトな風合い、優れた吸水性を持つ特殊紡績糸素材。
 ④抗菌・抗ウイルス機能繊維=繊維上のウイルスの数を減少させ、細菌、真菌などの増殖を抑制。高機能と高い安全性、洗濯耐久性を実現。
 【POINT】審査員は公募企業のことを知らないことが大半であるため、最初に簡単に会社の概要を説明するとよい。特に、強みに触れるとベター。
 ◆開発の背景
 当社を取り巻く事業環境をPEST分析した結果、図1のようになった。

 ○図1:PEST分析の結果
PEST分析の結果

 ○図2:成人の週1回以上運動・スポーツを行う者の割合の推移
成人の週1回以上運動・スポーツを行う者の割合の推移

 我が国は高齢化の進行に伴って社会保障費が毎年1兆円ずつ増加する見込みであり、社会保障費の抑制が喫緊の課題になっている。そのためには、国民が健康を維持することが重要である。幸い、健康に対する意識の高まりとともにスポーツ人口(特に女性)は中長期的に見ると増加傾向にあり(図2)、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催もスポーツ関連需要の拡大を後押ししている。文部科学省も「できるかぎり早期に、成人の週1回以上のスポーツ実施率が3人に2人(65%程度)、週3回以上のスポーツ実施率が3人に1人(30%程度)となることを目標」とする「スポーツ基本計画」を掲げている。

 ところで、近年の注目すべき技術としてセンシング技術が挙げられる。ウェアラブル端末に代表されるように、体内の各種データを随時取得してモニタリングしたいというニーズが消費者の間で高まっている。そこで、当社は強みである導電性繊維とセンシング技術を組み合わせて、健康意識の高いスポーツ愛好者をターゲットに、ウェアラブル端末よりも多様なデータを取得することが可能な、センシング繊維を開発することとした。
 【POINT】開発する製品・サービスをいきなり説明するのではなく、開発の背景にも触れるとよい。その際、客観的な分析結果があると説得力が増す。なお、この後の記述にも共通することだが、図表は別添資料とせず、本文に入れ込むべきである。審査員の中には、別添資料を読まない人がいるためである。
 ◆開発する製品
 今回開発するのは、図3のようなセンシング繊維である。ウェアラブル端末で取得可能な心拍数、体温に加えて、センシング繊維では心電波形、加速度も取得できる。当社が製造したセンシング繊維を活用して、顧客であるスポーツウェアメーカーはアンダーウェアを製作する。アンダーウェアを購入した最終消費者はまず、モニタリング・解析用のアプリケーションをスマートフォンにインストールし、会員登録する。次に、アンダーウェアに記載されているQRコードを読み取り、会員情報と紐づける。最終消費者が複数のアンダーウェアを購入・使用する場合でも、同一IDの下に身体情報を蓄積・管理することが可能である。アンダーウェアが取得した情報は、Bluetoothを通じてスマートフォンのアプリケーションに転送される(図4。なお、アプリケーションはスポーツウェアメーカーがスマートフォンアプリ開発会社に開発委託することを想定している)。

 ○図3:センシング繊維の概要
センシング繊維

 ○図4:センシング繊維活用アンダーウェアからスマートフォンへのデータ転送イメージ
ウェアラブル端末からスマートフォンへの転送

 (※適当な画像がなかったため、こちらから拝借した。本当は、アンダーウェアとスマートフォンの連携の図を記載する)
 【POINT】審査員は、必ずしも応募企業の技術に詳しいとは限らない(むしろ詳しくないと考えた方がよい)。審査員に製品・サービスのイメージが湧くよう、ビジュアルを多用して表現するのが望ましい。

 審査項目の「【技術面】①新製品・新技術・新サービス(既存技術の転用や隠れた価値の発掘(設計・デザイン・アイディアの活用等を含む))の革新的な開発となっているか」とも関連。
 ◆技術的な課題と解決策
 センシング繊維を開発するにあたっての技術的な課題と解決策は以下の通りである。課題の達成度合いは下記の指標にて判断する。
 【要素技術開発】
 ①導電性繊維・フィルムの導電性アップ⇒素材、組合せの見直しによる効率アップ(目標効率=○○%アップ)。
 ②発電繊維による発電量の確保⇒ナノファイバーを利用し、摩擦発電と圧電効果による発電のハイブリッド構造により実現(目標発電量=○○μA)。
 ③電気回路の設置⇒印刷方式の回路を生地にプリントする方式を採用(目標品質=○○)。

 【設計技術開発】
 ①生地の伸縮性、肌との密着度、データ精度と着心地のバランス⇒既存スポーツ向け繊維に発電用の炭素繊維を織り込むことで伸縮性を確保しつつ、圧着による皮膚接触圧を確保、デー測定の安定を図る(目標データ精度=医療用との相関r=0.7)。
 ②洗濯耐久性⇒特に課題となる、回路やセンサ部分を繊維、印刷加工にすること、フィルムコーティングすることで洗濯耐久性を確保(目標品質=○○)。

 【生産技術開発】
 ①発電、二次電池用炭素繊維の生産方法⇒溶融紡糸生産方式を用い、カーボンナノファイバー化することにより実現(目標生産量=○○)。
 ②生産キャパシティ、フレキシブルな生産⇒新規生産設備の導入(協力メーカーとの一部共同開発)(目標生産量=○○)。
 【POINT】技術的な課題は3~5個程度記述する。上記の例では文章でしか記述していないが(私が繊維業界に詳しくないため)、この部分も図面やポンチ絵などを用いてビジュアルで訴求したい。技術的な課題と解決策は審査の重要ポイントであるから、ここだけで最低でも2ページは記述がほしいところである。

 審査項目の「【技術面】②サービス・試作品等の開発における課題が明確になっているとともに、補助事業の目標に対する達成度の考え方を明確に設定しているか、③課題の解決方法が明確かつ妥当であり、優位性が見込まれるか」とも関連。
 ◆開発体制およびスケジュール
 開発体制および開発スケジュールは図5・6の通りである。回路の生地プリントについては、長年の協力企業である○○紡績株式会社からの支援を受ける。また、発電繊維に関する技術については、○○大学○○研究室と共同で研究を進める。

 ○図5:開発体制
開発体制

 ○図6:開発スケジュール
開発スケジュール

 <各タスクの説明>
 【要素技術開発】
 ①導電性繊維・フィルムの導電性アップ=森(フィルム技術)が中心となり、山口(炭素繊維技術)の支援を受けながら、○○シミュレーション方式、△△シミュレーション方式を用いて、素材u、v、wなど7種類の素材の中から最適な組み合わせを特定する。
 ②発電繊維による発電量の確保=・・・。
 ③電気回路の設置=・・・。

 【設計技術開発】
 ①生地の伸縮性、肌との密着度、データ精度と着心地のバランス=・・・。
 ②洗濯耐久性=・・・。

 【生産技術開発】
 ①発電、二次電池用炭素繊維の生産方法=・・・。
 ②生産キャパシティ、フレキシブルな生産=・・・。

 【試作品の生産・品質検証】=・・・。
 【POINT】開発体制を図で表し、責任者と担当者を明確にする。連携している協力会社や大学などがあればそれも記載する。自社に足りないリソースは外部から調達できる目途が立っていることを審査員にアピールすることができる。開発スケジュールはガントチャートで表した上で、それぞれのタスクの詳細(誰が、何を、どのように行うのか)を説明する。補助事業期間中に補助事業が完了するように留意する(補助事業期間は、年度によって1年を超える場合もあれば半年程度しかない場合もあるため、公募要領で確認すること)。

 審査項目の「【技術面】④補助事業実施のための体制及び技術的能力が備わっているか」、「【事業化面】①事業実施のための体制(人材、事務処理能力等)や最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか」とも関連。
 (「ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(2)」へ続く)




  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like