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『正論』2018年10月号『三選の意義/日本の領土』―3選した安倍総裁があと2年で取り組むべき7つの課題(1)
竹田恒泰『日本人はなぜ日本のことを知らないのか』―よくも悪くも「何となく、何とかしてしまう」のが日本人

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年09月24日

『正論』2018年10月号『三選の意義/日本の領土』―3選した安倍総裁があと2年で取り組むべき7つの課題(1)


月刊正論 2018年 10月号 [雑誌]月刊正論 2018年 10月号 [雑誌]
正論編集部

日本工業新聞社 2018-09-01

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 9月20日、自民党総裁選は実施され、安倍晋三首相が石破茂・元幹事長を破って連続3選を決めた。任期は2021年9月までの3年間である。今回の総裁選が過去の総裁選と異なるのは、安倍首相の4選は絶対にないということである。つまり、安倍政権はどうあがいても2021年9月までしか続かず、期限つきの内閣となる。しかも、アメリカ大統領が2期目の最後の方になるとレームダック状態になるように、安倍政権も最後はレームダック化が避けられないと思う。とりわけ、2020年夏の東京オリンピック・パラリンピック後は反動で景気が落ち込むことが目に見ているだけに、2021年9月までの残り1年ほどで有効な手を打とうというインセンティブは働かないだろう。だとすると、安倍政権にとって勝負となるのは2019年、2020年の2年となる。安倍政権がこの2年間で解決するべき優先課題を7つ示したいと思う。

 (1)憲法改正
 憲法改正は自民党の党是であり、安倍首相の悲願である。私は以前の記事「『世界』2018年1月号『民主政治の混迷と「安倍改憲」/性暴力と日本社会』―「安保法制は海外での武力行使を可能にする」はミスリード、他」や「『致知』2018年2月号『活機応変』―小国は国内を長期にわたって分裂させてはならない。特に日本の場合は。」で9条の試案を示してきた。

 だが、国民投票にかける新憲法案は解りやすいものでなければならない。100ページの冊子を国民に配らなければ説明ができないような案では、到底国民には受け入れられない。だから、安倍首相は9条3項加憲案を思いついたのだろう。安倍首相は、内心ではもっと優れた案を持っていたはずである。それに、はっきり言って、加憲案は日本の憲法学界の悪しき伝統である神学的論争を加速させる恐れがある。それでも加憲案に着地したのは、改正憲法案をシンプルにし、かつ国家を命がけで守っているのに憲法学者の8割から違憲だと言われて人権侵害を受けている自衛隊の尊厳を一刻も早く守るための現実策であろう。理想を追いかけすぎずに、時にリアリストになることができるのが、第2次安倍政権の大きな特徴である。

 問題は、改憲のスケジュールである。来年は5月に新天皇の即位を控えており、これだけで日程がかなり詰まっている。さらに、4月には統一選挙、6~7月にかけては参議院議員選挙が行われる。加えて、ネックとなるのが、10月に消費税10%への増税が控えていることである。過去に消費増税を実施した政権は、皆悲惨な末路をたどっている。盤石な政権基盤を持っていた竹下登は長期政権になると期待されていたのに、消費税を導入すると内閣支持率が下落し、そこにリクルート事件が重なって、わずか1年半で退陣した。橋本龍太郎は1997年4月に消費税を3%から5%に引き上げたが、翌1998年7月の参議院選挙で大敗を喫し、退陣を余儀なくされた。菅直人は2010年6月、参議院議員選挙の直前になって消費税を10%に引き上げると宣言し、案の定選挙で敗北した(菅直人の場合は、消費税だけが敗北の要因ではないと思うが)。

 いくら現在の野党が弱体化していると言っても、来年の参議院選挙で自民党が苦杯をなめるのは間違いない。改憲勢力3分の2を失うのは確実だろう。だとすると、それまでに改憲の国民投票を実施したいところである。問題は、国民はある政治家のことを個別の政策ごとに評価しないということである。本号で橋下徹氏が述べていたが、国民は政治家の性格を総合的に評価する(橋下徹「安倍さん、さあ憲法改正でしょ」)。国民は、「この人のこの政策は評価できるが、あの政策は評価できない」とは考えない。「あの人が言うことなら全て信用しよう。あの人が言うことなら全て信用しない」と考えるのである。よって、近い将来に消費増税という負債を国民に突きつけようとしている安倍晋三という政治家を、国民は信頼しない可能性がある。その時点で、安倍首相の改憲構想は頓挫する。だから、本当ならば、改憲は今年中にやっておくべきであった。それなのに、低レベルのモリカケ問題で1年間を空費してしまった。このツケは大きい。

 (2)皇位継承問題
 来年の新天皇即位と合わせて検討したいのが、皇位継承問題である。秋篠宮家に若宮がお生まれになったことで、皇位継承問題は棚上げ状態になっているが、1世代分時間稼ぎをしただけで問題の本質的な解決にはなっていない。民主党政権は一時期、女性天皇や女系天皇の議論をするべきだと言っていた。しかし、女性天皇と女系天皇は全くの別物である。

 今、天皇Aと皇后の間に、男の子と女の子がいらっしゃったとする。次の天皇の第一候補は男の子であるが、女の子が天皇になったとしよう。この天皇は天皇Aの血統に属する女性天皇であり、過去8方10代の例がある。次に、この女性天皇が一般の男性と結婚して男の子を授かり、この男の子が天皇になったとしよう。この場合、この男の子は天皇Aの血統には属さず、女性天皇の血統に属する天皇となる。よって、女系天皇と呼ばれる。皇室にあまり関心のない人だと、天皇家が途絶えないならば女系天皇でもいいではないかと言うかもしれない。だが、日本とは何かという議論を突き詰めていくと、究極的には「万世一系の男系の天皇が継承してきた国家」であり、これ以外にないのである。アメリカが建国の理念である自由と平等、中国が共産党を失えば国家を失うのと同様に、日本がこれを失えば国家を失うに等しい。

 では、なぜ男系にこだわるのか?これについては、竹田恒泰氏が別の号でこんな解説をしていた。男系天皇を維持するには外部から女性を、女系天皇を維持するためには外部から男性を招き入れる必要がある。ところが、男性の場合は、どんな危険な思想を持った人物が入ってくるか解らない。もちろん、皇室側でも慎重に身体検査はするものの、本人がそれを隠し通すことに成功してしまったら皇室としてはアウトである。その点、女性はそのような危険な思想に染まる危険性が低いので、男系天皇を選択しているというわけである。ここで一部のフェミニストは、男系天皇の考え方は、女性が自分で物事を判断する力がないという前提に立っているとヒステリックになるだろう。しかし、実際には逆である。女性の方が事理弁識においては男性よりもはるかに理性的であるととらえられているのである。

 本号で竹田氏は、一定数の男性後続を確保するために、旧宮家を活用する方法を提案している(竹田恒泰「旧宮家復活なくして日本の存続なし」)。旧宮家とは、終戦後に占領軍の圧力によって廃止された11の宮家を指す。旧宮家の男子は、終戦までは皇位継承資格を保持する皇族であった。現在でも、旧宮家には歴代天皇の男系の血筋を受け継ぐ者が多数いる。彼らを活用しない手はない。旧宮家を活用する方法とは、具体的に2つある。1つは、旧皇族一族から若干名を皇族に復帰させる方法である。もう1つは、現存の宮家が旧皇族一族から養子を取って宮家を存続させる方法である。現行の皇室典範では、皇族は養子を取ることができないため、皇室典範を改正する。同時に、旧皇族一族を復帰させる案については特別立法で進める。新天皇が即位するというタイミングだからこそ、前向きに検討したい課題である。

 (3)経済
 安倍首相は8月12日、山口県下関市で行われた長州「正論」懇話会5周年記念会で講演を行った(安倍晋三「憲法改正案 提出宣言 新聞が報じきれなかったその”全て”」)。その中で、「人口が減少するなかで、名目GDPは11.8%成長し、58兆円増加し、過去最高を記録しました」と述べている。具体的な期間が述べられていないが、2012年の名目GDPが495兆円、2018年の名目GDPが556兆円(予測、プラス61兆円)であるから、この期間、つまり自身の在任期間中のことを指していると思われる。だが、果たして安倍首相の在任期間中に、日本国内で何か新たな産業が生まれ、新たな消費が刺激されたであろうか?

 周知の通り、日本のGDPの6割を占める個人消費は、アベノミクスによって賃金が上昇しているにもかかわらず、一向に日本銀行のインフレ目標を達成することができていない。ついに、日銀は目標を引っ込めてしまった。これは消費増税の影響が大きい。

 だとすると、GDPを押し上げているのは個人消費以外ということになる。まず考えられるのが、企業による設備投資の増加である。2012年第4四半期には約72兆円であったが、2018年第2四半期には約91兆円と、約19兆円増加している。これは、国内の需要が拡大したからというよりも、異次元金融緩和によって円安になったため、海外生産が国内に回帰したと見るのが自然である。次に考えられるのは、その異次元金融緩和によって作り出された円安・株高、さらに近年の外国人観光客増による経常収支の増加である。2012年の経常収支は約6兆円であったのに対し、2018年の経常収支は約19兆円(予測)と、約13兆円増である。そして、GDPの増分を分析する上で見過ごせないのが、2016年から研究開発費がGDPに算入されるようになった点だ。これにより、約15兆円の研究開発費がGDPに加わった。単純にこの3つを足すだけで約47兆円の増加となり、名目GDPの増加分の大部分を説明することができてしまう。

 内需を拡大するには、イノベーションを起こさなければならない。だが、行政がイノベーションを主導すると、たいていロクなことにならない。行政は決められた事柄を決められた手順で実行し、絶対に成功させるのが仕事である。しかし、イノベーションは無秩序、実験、試行錯誤、失敗こそが本質であり、行政とは対極に位置する。よって、行政にイノベーションを任せることはできない。さらに日本の場合、行政が既存の大企業を集めてコンソーシアムを結成することが多いが、行政特有の「公正さ」を確保するという名目のために企業間の利害調整に時間が取られ、肝心の顧客や市場の方を見ていないという事態が往々にして起こる。

 私は、行政は口は出さずに金だけ出している方が無害だと考える。ただし、お金を出す先をもっとよく考えなければならない。安倍政権になってから空前の補助金バブルが到来し、中小企業向けの補助金が大幅に拡充された。その中でも最大規模なのが、安倍首相が演説の中でも言及しているものづくり補助金であり、平成24年度補正予算から平成29年度補正予算まで、6年間で約6,000億円、延べ8万6千社の中小企業に対して補助金が交付された。だが、ものづくり補助金の交付要領や公募要領を読めば解るのだが、この補助金は中小企業の新製品・サービス開発を支援するものであり、したがって波及効果が小さく、短期的なカンフル剤にすぎない。

 凡庸な結論になってしまうけれども、行政がお金を出すのであれば、大きな波及効果が見込まれる分野にお金を出すべきである。特定の製品・サービスに特化した企業よりも、様々な製品・サービスに転用可能な技術を研究する応用研究、さらには産業横断的に拡張可能な技術を研究する基礎研究に投資をしてほしい。経済産業省「日本の研究開発費総額の推移」によると、研究者1人あたりの研究費は、日本はアメリカやドイツに大きく差をつけられている上に、OECD平均を下回っている。また、主要国の研究開発費の政府負担割合を見ると、多くの国が2~3割台であるのに対し、日本は1割台にとどまる。

 もちろん、どの研究が将来的に大きな波及効果を実現できるかを事前に見極めることなど、ほとんど誰にもできない。日本の行政は無謬性へのこだわりが人一倍強いので、よく解らない分野への投資を控えるに違いない。しかし、どれがものになるか解らないからこそ、幅広く投資する姿勢が重要であると考える。ある研究によると、1,000億円の予算があった場合、10のプロジェクトに100億円ずつ投資するよりも、1,000のプロジェクトに1億円ずつ投資した方が、ノーベル賞を輩出する確率が上がるという。安倍首相の任期中に基礎・応用研究への投資が実を結ぶことは考えにくいが、投資の仕方を変えることは可能なはずである。

 せっかくイノベーションによって新しい産業が生まれても、それを購入する顧客がいなければ意味がない。つまり、国民の所得が上がらなければ意味がない。安倍首相は経済界に対して毎年賃上げを要求している。演説の中では、中小企業にも賃上げが波及していると述べている部分もあった。しかし、国民の消費は、消費増税の影響もあって伸び悩んでいる。国民は、賃上げは安倍首相が政権に就いている間の暫定策であり、政権が変わればまた賃金が減少するのではないかとおびえている。だから、思い切った消費に踏み切ることができない。

 私は、アメリカ経営を無条件に礼賛して、成果主義や雇用の柔軟化などを政権に提言してきた経団連の意見など蹴り飛ばして、日本経営のよさであった年功制を復活させるように企業に強く迫るべきだと考える。以前の記事「【戦略的思考】企業の目的、戦略立案プロセス、遵守すべきルールについての一考察」でも書いたように、企業の第一目的は顧客の創造であるが、その目的を達成するためにいくつかのルールを守らなければならない。社員が加齢とともに増加する生活費を賄えるだけの給与を支払うこともルールの1つである。ルールを無視して、顧客の創造という目的だけ達成するのは、スポーツでルール違反を犯して1位を狙うようなものである。それらのルールを守りながら、顧客を創造し、かつ将来の投資に回すための利益を残すようなビジネスの仕組みを構想することが経営陣の仕事である。利益が減るからという理由で、生活費の高い中高年社員の給与をカットするなどというのは、経営IQの低さを露呈している。

 (続く)

2013年01月17日

竹田恒泰『日本人はなぜ日本のことを知らないのか』―よくも悪くも「何となく、何とかしてしまう」のが日本人


日本人はなぜ日本のことを知らないのか (PHP新書)日本人はなぜ日本のことを知らないのか (PHP新書)
竹田 恒泰

PHP研究所 2011-09-16

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 グローバル化が進むにつれて、日本企業と海外企業の経営スタイルの違いが明らかになることが多くなった。その1つに、社員のキャリア開発が挙げられる。日本企業は中長期雇用を前提に、OJTを中心に長い時間をかけて社員を育てる。しかし、雇用契約が短期でなされ、その中でパフォーマンスを上げることを求める海外企業では、まず事業の方針や戦略を見える化し、3年、5年というスパンで社員それぞれの目標、やるべきことを決定する。その上で、Off-JTやマニュアルに重きを置いた育成を行うケースが多い。こうしたトレーニングに慣れている外国人からしてみれば、日本的人材育成は「3年後、自分がどのように成長して、何を任されているのかがわからない」ということになり、日本人管理職に対する不信感につながりやすい(※1)。

 ただ私はここで、敢えて前向きな見方をしてみたい。つまり、外国人は不確実性が高い環境に置かれると、自分がどこに向かうのかを明確に教えてもらわなければ不安で動けないのに対し、日本人は同じような環境でも、「何となく、何とかしてしまう」ような気がする。

 「何となく、何とかしてしまう」国民性によって行われる経営は、自ずと暗黙知に頼った経営になる。事態が上手くいっているとしても、どういう方法が功を奏しているのか、なぜその方法が有効なのかをはっきりと説明することが難しい。例えば、日本が世界に誇る経営手法の1つに「トヨタ経営方式」があるが、トヨタ経営方式は様々な経営手法とトヨタという企業の文化の複合体であり、トヨタ経営方式を的確に表現できる人は、トヨタの中にもいないと言われる。それでも何となく、何とかなってしまうのが日本企業なのである。

 だから、アメリカから最新の経営手法が入ってくると、実は日本企業で既に行われていたことにヒントを得たもの、あるいは日本企業の実践の焼き直しであることも少なくない。品質管理の分野ではこういう現象がよく見られる。例えば、「ベンチマーキング」という、業界内外のベスト・プラクティスを調査し、自社との違いを分析・学習する経営改善手法は、GEの元CEOであるジャック・ウェルチが採用したことで日本でも有名になった。GEの社員が他の企業を訪れると、「あのGEの社員が我が社に頭を下げてやってきた」と話題になったという。しかし、このベンチマーキングは、本来は日本で開発された品質改善ツールがアメリカに紹介されたものにすぎない。

 また、マイケル・ハマーが1993年に提唱した「リエンジニアリング」も、元をたどれば日本企業の業務・管理プロセスや製品開発システムの特質を手法化したという側面が強い。そのため、「リエンジニアリング」というタイトルがついた本を何冊も買い込んで勉強した複数のメーカーの企業人は、皆一様に「過いてあることは当たり前のことで、うちの会社でいつもやっているようなことが書いてある」という感想を持ったという(※2)。

 こうした、「何となく、何とかしてしまう」国民性の起源は一体どこにあるのだろうか?竹田恒泰『日本人はなぜ日本のことを知らないのか』を読むと、それは日本という国家の形成過程そのものに見出すことができるように思える。日本では紀元後3世紀に入ると、前方後円墳が急激に全国の広範囲にわたって作られるようになった。前方後円墳を作れるのは、一部の権力者に限られる。この事実をもって、大和朝廷による日本国家の統一とみなすことができるという。ただ、ユニークなのはその統一プロセスである。
 その時代(筆者注:大和朝廷が成立したと見られる3世紀後期から4世紀初頭)は古墳時代前期に該当し、考古学の成果によると、大規模な戦争の形跡は観察されないことから、日本列島は平和で安定した時代だったことが分かっている。また、日本列島は古墳時代を通じて、一定の方向性をもって文化的な発展を続けていて、文化的な断裂も観察されないため、王朝交代などを想定することもできない。ということは、日本では戦争のほとんどない平和で安定した時代に、統一王権が成立したことを意味する。

 ところが、世界史の常識によれば、統一国家が成立するためには、それなりの戦争を経るものである。たとえば秦の始皇帝、英国のウィリアム征服王、中国の毛沢東などの建国の英雄たちは、いずれも大規模な戦争に勝利を収めて統一国家を樹立した。アメリカも然りである。では、我が国はなぜ戦争のない時代に統一王権が成立したのか、これは日本史上の大きな謎の1つではなかろうか。

 それが可能だったのは、武力で一方的に併合するのではなく、あくまでも話し合いで、すなわち「ことむけ」により国々をまとめようとしたからだろう。天皇の下に各地の豪族が束ねられた連合政権として勢力を拡大させたことが窺える。そして、見事に大きな戦争を経ずに統一を果たしたのである。
 乱暴な表現だが、何と曖昧な国づくりだろうか!?大和朝廷は、諸外国のように血みどろの戦闘を一切行わず、「話し合い」という何とも柔らかい手段で諸国を抱きかかえていったのである。そして、その話し合いの内容は、わずかに『古事記』や『日本書紀』で知ることができるにすぎない(詳細に記されているのは、有名な「出雲の国譲り」ぐらいである)。

 では、この「何となく、何とかしてしまう」国民性のメリットとデメリットは何だろうか?メリットは、複雑な環境に置かれても、自分が当事者であれば知恵を振り絞ってその場を乗り切る強い底力を持っているということだろう。それが如実に表れたのが、東日本大震災の時に、途中のコンビニなどで略奪行為をせず、秩序正しく帰宅する人々の姿である。

 逆にデメリットは、当事者から外れてしまうと、権威主義にもたれかかって簡単に思考を放棄しやすいということだ。同じく東日本大震災の際には、原発の安全性の神話を国民がいかに安易に信じ込んでいたかを教えられることとなった。政治家や専門家に任せておけば、何となく大丈夫だと思い込んでしまう。これを機に国民は反省するのかと思いきや、昨年末の衆院総選挙では原発政策を進めてきた自民党にNoを突きつけるどころか、原発がある小選挙区では自民党の圧勝という結果になっているのである(※3)。

 日本は今後、成長社会から成熟社会へと移行し、先進国が経験したことのない少子高齢社会へと突入する。日本が解決しなければならない課題は山積みである。しかし、個人的には今回も、情勢が逼迫すれば、日本人は「何となく、何とかしてしまう」のではないかと淡い期待を抱いている。ただ、その淡い期待をもっと確信に近づけるために、またもっと前もって課題に備えるためには、私たち1人1人が成熟社会、少子高齢社会の当事者であることを認識する何か強いきっかけが必要だろう。そして、解決策を暗黙知にとどめるのではなく、形式知にまとめ上げなければならない。その上で、日本と同じく少子高齢社会へと突入する中国や韓国に対して、日本の形式知を提供できるようにすること、それが「課題先進国」としての日本の使命になると思う。


 (※1)リクルートワークス研究所『Works No.111 201X年、隣の席は外国人』(2012年4月~5月号)
 (※2)高橋伸夫『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ』(日経BP社、2004年)

虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ
高橋 伸夫

日経BP社 2004-01

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 (※3)原発がある小選挙区の当選者は以下の通り。自民党の14勝2敗である。

 北海道泊(4区):中村裕之(自民)
 青森県東通(2区):江渡聡徳(自民)
 青森県大間(2区):  〃
 宮城県女川(5区)安住淳(民主)
 福島県浪江・小高(1区、5区):亀岡偉民(自民)、坂本剛二(自民)
 福島県第一(5区):坂本剛二(自民)
 福島県第二(5区):  〃
 茨城県東海(4区):梶山弘志(自民)
 茨城県東海第二(4区):  〃
 新潟県柏崎刈羽(2区):細田健一(自民)
 静岡県浜岡(3区):宮沢博行(自民)
 石川県志賀(3区):北村茂男(自民)
 福井県敦賀(3区):高木毅(自民)
 福井県美浜(3区):  〃
 福井県大飯(3区):  〃
 福井県もんじゅ(3区):  〃
 福井県ふげん(3区):  〃
 島根県島根(1区):細田博之(自民)
 山口県上関(2区):岸信夫(自民)
 愛媛県伊方(4区):山本公一(自民)
 佐賀県玄海(3区):保利耕輔(自民)
 鹿児島県川内(3区):野間健(国民)




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