2013年07月10日
この場を借りて中小企業診断士が作った「ダメ診断(アセスメント)」を糾弾する!(2/2)
(前回の続き)
前回の記事で、私が考える標準的・理想的な診断(アセスメント)の開発の仕方を述べたが、それに照らし合わせて「独立コンサルタントの適性診断(ただし、このテストはあてになりません)」を眺めてみると、言いたいことが山ほど出てくる。最大の問題は、プロのコンサルタントに一体どのような能力やマインドセットを求めているのかが全く見えてこない点である。
この診断は、営業活動などに多額の投資をして、幅広い人脈を作り、毎日新聞や雑誌をたくさん読んで、いろんなテレビ番組を観ている人の方が得点が高くなる。だが、よく考えてほしい。毎月20誌・紙以上も新聞や雑誌を読み、様々なジャンルのテレビ番組を観ている時点で、仕事をする時間などあるのだろうか?それに加えて、営業活動に多くのリソースを割いているとなれば、いよいよコンサルティングをしている時間などないように思える。果たしてそんな人がプロコンに適しているといえるのだろうか?
得点のウェイトづけもバラバラで根拠に乏しい。例えば、Q6で「(1)営業など外部の人と折衝することが多い業務」と答えると、Q6で最高得点となる5点がもらえるが、Q7で「(1)誰にも負けない独特の技術、知識、ノウハウを持っている」と答えると、Q7で最高得点となる10点がもらえる。なぜ、Q7の(1)はQ6の(1)に比べて2倍の価値があるのだろうか?その根拠をはっきりと示すことができるだろうか?意地悪な見方をすれば、「(1)誰にも負けない独特の技術、知識、ノウハウを持っている」というのは主観的な見方であるから、「(1)営業など外部の人と折衝することが多い業務」という客観的な事実よりも劣ると考えることも可能なはずだ。
選択肢の数も設問によって異なり、また各選択肢の得点が等間隔でないものが多く、理解に苦しむ。Q8.の得点は、(1)5点、(2)4点、(3)4点、(4)2点、(5)1点、(6)△2点となっているけれども、なぜ(1)5点、(2)3点、(3)1点、(4)△1点、(5)△3点、(6)△5点と2点刻みにしないのだろうか?また、前述のQ6の得点は、(1)5点、(2)1点、(3)4点、(4)5点、(5)1点、(6)1点、(7)(得点なし)となっており、全16問のうち唯一マイナスの得点がない。しかし、なぜこの設問だけ全ての選択肢がプラスの得点なのか、その理由がどうもよく解らない。
他にも細かいところで突っ込みたいところを挙げればキリがない。
・Q1の選択肢は基本的に5歳刻みになっているのに、なぜ(3)だけ36~45歳となっているのか?しかも、(3)の得点が5点と最も高く、最高得点を獲得しやすい設問になっている。
・Q4は独立後に必要な投資額を尋ねているが、これは独立後のビジネスモデルによって千差万別のはずである。システム会社を立ち上げ、ITコンサルタントとして自社開発したシステムを販売するつもりならば、それなりに多額の資金が必要となる。だが、同じようなシステム会社でも、開発請負をメインにするならば、そこまでの資金は不要である。
・Q4は生活費のことも聞いているが、独立して間もないころは仕事がないので、その間耐えられるだけの貯蓄があるかどうかを問うているものと思われる。しかしながら、貯蓄が多ければ多いほどよいと言えるだろうか?ある程度の貯蓄はあった方がよいとはいえ、あまりに多額の貯蓄があると、それに甘えていつまでも事業に身が入らないということもありうる。私の前職の会社は、経営陣が潤沢な資金を持っていたがゆえに、赤字を垂れ流しても経営陣が補填してくれるという空気が社内に生まれ、いつまで経っても事業が軌道に乗らなかった。
・Q5は営業活動などの費用に関する設問だが、やみくもに営業にお金を費やせばよいというわけではない。重要なのは、投資に見合ったリターンが得られるかどうかである。この診断を作った診断士は、コンサルティング先の中小企業に対しては「売上高に対する販管費の比率が高すぎる」などと指摘するのに、自分自身は営業に青天井でお金を突っ込んでよいと考えているようだ。
・Q6は、「(6)役員、自営など経営全般業務」が1点と最低得点になっている。だが、自営業はともかく、企業の役員をやっている人の方が、会社のことを俯瞰的に見る視点を持っており、かつ中小企業の社長の悩みもよく解っているので、プロコンに向いているような気がする。
・Q6に「(4)社員教育などのコンサルティング」とあるが、前職の会社で教育研修とコンサルティングの両方をやっていた経験から言わせてもらえば、社員教育に求められる能力と、コンサルタントに求められる能力は別物である(もちろん共通のスキルもあるが)。社員教育の講師には、プレゼンテーション力に加えて「スピーチ力」が求められるし、グループワークを切り盛りする「ファシリテーション力」や、ワークの中身を開発する「企画力・構想力」が要求される。また、講師にもコンサルタントにも「ドキュメンテーション力」が必要だが、コンサルタントのドキュメントは「精緻な読み物」としてのレベルが要求されるのに対し、講師のドキュメントはどちらかと言うと「視覚的な理解しやすさ」が求められる。
・Q11は年賀状の枚数を尋ねているけれども、年賀状を出す習慣がなくなりつつあるこの時代に、この設問が人脈の広さを測る指標として適切かどうかはなはだ疑問である。この診断は、将来的に独立を予定している企業勤めの診断士がメインの対象となっているのだが、企業内診断士で年賀状をたくさん出すチャンスがあるのは、おそらく営業担当者に限られるだろう。しかし、いろいろな独立診断士から聞いた話によれば、はっきり言ってサラリーマン時代の人脈から仕事につながったことはほとんどないという(実際、Q10で「(2)勤務先や取引先関係を中心に幅広い人脈を持っている」は、0点と低評価になっている)。
・Q14は定期購読している新聞、雑誌の数に関するものだが、なぜ書籍は対象外とされているのだろうか?個人的には、新聞や雑誌は誰もがアクセスできるものであり、情報としての価値が低い。診断士が持つべき情報は、その人しか持っていないような情報であって、そのような情報は書籍の方が圧倒的に獲得しやすいはずだ。
・Q16で「(5)テレビはほとんど見ない」と回答すると△8点ですか・・・。他の設問は概ね最低点が△5点なのに、なぜQ16だけ最低点が△8点、つまり他の設問に比べて1.6倍という中途半端なウェイトがつけられているのだろうか?私に言わせれば、バラエティーやニュース、ドラマなどを幅広い番組を観ているということは、毎日3~4時間はテレビを観ているということであり、とても仕事がデキる人の習慣ではない。
総合結果を読むと、0点以下には「貴方は、プロコンになるべきではありません。それが、貴方自身のためであり、クライアントや意欲ある他の中小企業診断士のためでもあります」と厳しい評価が突きつけてられている。そこまで言い切る以上は、診断の中身やロジックに相当の説得力がなければならない。にもかかわらず、この体たらくである。いい加減な診断でこんな結果を下されたならば、診断を受けた人はたまったものではない。0点以下の人が中小企業診断士を断念すべきなのではなく、むしろこんな診断を作る診断士こそプロコンになるべきではない。それがクライアントや他の診断士のためである(ちなみに、私の得点は10点でした、ふざけるな!)。