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『地銀の瀬戸際 メガバンクの憂鬱(『週刊ダイヤモンド』2014年5月31日号)』―地銀再編で地方経済の衰退が加速する?

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年06月05日

『地銀の瀬戸際 メガバンクの憂鬱(『週刊ダイヤモンド』2014年5月31日号)』―地銀再編で地方経済の衰退が加速する?


週刊 ダイヤモンド 2014年 5/31号 [雑誌]週刊 ダイヤモンド 2014年 5/31号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2014-05-26

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 昨年12月、金融庁は地銀各行の頭取に、「金融機関の将来にわたる収益構造の分析について」という1枚のペーパーを配った。縦軸に各地銀が基盤を置く地域の将来の市場規模の縮小度合いを、横軸に現状の収益性を取ったグラフに、全国の地銀105行をプロットしたものである。

 これは、通称「森ペーパー」と呼ばれる。森信親検査局長の肝いりで作られたこのペーパーは、地銀の行く末を案じ、再編を含めた生き残り策について、本気で議論していこうという金融庁の意思を雄弁に語っていた。森ペーパーの第1版には地銀名が入っておらず、「我が行はどの点なのか?」とちょっとした騒動になったらしい。その後、地銀名が入った第2版が出たようで、本号では各方面への取材ならびに各種統計に基づいて、その内容の再現が試みられている。

森ペーパー(再現版)

 ベースとなっているのは、野村證券が集計した2014年3月期の地銀・第二地銀105行の決算データである。森ペーパーでは横軸を「各行の中小企業向け貸出金利回りから、預金利回り、信用コスト率、預貸業務に関わる経費率を控除したもの」となっているが、本号では「貸出金利回り-預金利回り-信用コスト率-経費率」で代替されている(信用コスト率は信用コストが中小企業貸出からと仮定し、戻し入れ超はゼロとして算出)。同じく、森ペーパーでは縦軸を「人口動態から推計した将来の地元市場の規模(25年3月末)」としているが、本号では「各行が本店を置く都道府県の生産年齢人口の変化率(2010年⇒2025年)」で代替している。

 ダイヤモンド社の再現方法にも問題があるのかもしれないが、この図にはやや難がある。マトリクスの図というのは、全体を4象限に分けて、象限ごとに異なる対策を提案するためのものだ。ところが、再現された図を見ても、どこを境界線にして4象限に分かれるのか解りにくい。

 ぱっと見た感じでは(「生産年齢人口の変化率」マイナス20%と収益率0%が境界線だとすると)、全国の地銀105行のうち、大部分が左上の「生産年齢人口の変化率」=小、「収益性」=高に位置づけられており、「それほど問題が大きくない銀行」が多いようにも見える。逆に、右下の「生産年齢人口の変化率」=大、「収益性」=小という「深刻な問題を抱えた銀行」は意外と少ない。このデータを基に、「だから地銀は再編が必要なのだ」と主張するのは苦しいように思える。再編という結論ありきで金融庁が動いているような気がしてならない。

 地銀の主たる顧客は地元の中小企業である。そして中小企業は、地元の住民をターゲット顧客とする地域密着型と、域外へ製品・サービスを出荷する広域型に分かれる。前者の企業の方向性は、地域の住民の構成と行政による街づくりの方針によって、後者の企業の方向性は、その地域に蓄積された経営資源面の強みと行政の産業振興構想によって規定される。地域密着型と広域型のバランスは地域によって異なるし、また、同じように地域密着型が中心の地域であっても、住民構成や行政の方針によって必要とされる企業は変わってくる。

 だとすれば、まずは将来の人口予測や行政の各種方針などを基に、それぞれの地域の産業が具体的にどのようなものになるか、その全体像を明らかにすべきではないだろうか?それが明らかになれば、今度は、その産業はどんな中小企業によって支えられるのか?それらの中小企業にはどの程度の資金需要があるか?を地域別に推測できるようになる。

 ここまで考えて初めて、それぞれの地銀の適正規模が導き出せる。逆に言うと、地銀を再編すべきかどうかは、ここまで突っ込んだ分析をしなければ解らないはずだ。金融庁はそういうきめ細かい分析をすっ飛ばして、入手が容易なデータだけに基づいて、「どの地銀も苦境に陥る、だから再編だ」と騒ぎ立てているにすぎない。

 安易な地銀再編は、地域経済をより疲弊させる危険性もはらんでいる。多くの地域では、将来的に人口が減少すると予測されている(「自治体、2040年に半数消滅の恐れ 人口減で存続厳しく 」など)。前述の通り、地域ごとの傾向をつぶさに分析する必要はあるものの、共通して言えるのは、人口減に伴ってその地域には大企業が進出しづらくなり、中小企業が中心の経済となる、ということだ。しかも、中小企業の中でもさらに規模が小さい小規模企業が中心となる。当然のことながら、個々の企業の資金需要はそれほど大きくない。

 ところが、再編によって規模が大きくなった地銀は、そのような小規模企業に対する融資を、「自行の規模に見合わない」、「小規模の案件では十分な収益が上げられない」という理由で敬遠する可能性がある。すると、小規模企業に融資する金融機関がなくなり、小規模企業の経営が立ち行かなくなる。その先に待っているのは、地方のさらなる衰退に他ならない。

 そのような最悪のシナリオを回避するために必要なのは、地銀を再編して大規模化することではなく、地域の特性に合った最適なサイズに再構築することである。金融庁も森ペーパーを振りかざして半ば脅迫のように再編を迫るのではなく、もう少し冷静な頭脳を持ってほしいと思う。




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