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『続ける力(DHBR2017年2月号)』―経営者がやるべき100のリスト(ベンチャー企業の失敗を教訓に)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2017年02月08日

『続ける力(DHBR2017年2月号)』―経営者がやるべき100のリスト(ベンチャー企業の失敗を教訓に)


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 以前の記事「『青雲の志(『致知』2017年1月号)』―人間は利己的であるべきか、利他的であるべきか?、他」、「【現代アメリカ企業戦略論(補論)】日本とアメリカの企業戦略比較」で書いたことの繰り返しになるが、アメリカ人は将来的に実現したい大きな目的を明確に設定し、その目的と因果関係の強い少数のCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)やKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を特定して、CSFの達成度合いやKPIの数値の推移をモニタリングする。一方の日本人は、大胆で明快な目的を立てるということをそもそもしない。ただし、目標管理はしっかりとやる方で、アメリカ人よりもはるかにたくさんの目標を設定する。その1つ1つは小さいものだが、目標が束になると将来的に望ましい状態に至ると信じている。

 『致知』や『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』などで日本企業の様々な経営者のインタビュー記事を読んで感じるのは、高業績企業の経営者は「当たり前のことを1つ1つ当たり前にやる」ということを愚直に実践しているということである。本号にも、創業500年を誇る老舗の和菓子屋である虎屋の代表取締役・黒川光博氏の次の言葉がある。
 変えてほしくないのは、働いている社員の「芯」にあるものです。(中略)全力を尽くして、誠実に事に当たってほしい。そういう人が集まる会社でありたい。
(黒川光博「【インタビュー】誠実さがあってこそ事業は続く 伝統より「いま」と向き合う」)
 私は、ここ10年ほど「革新」という言葉をみずからは使っていません。「革新」と言えるほど思い切ったことは、はたしてどれくらいあるかと考えると、そうたくさんはないと思ったからです。そんな大層なことの前に、いまのお客様のために何をするのかを考え、即座に実行していく。それは必然であって革新ではないと思うからです。(同上)
 言い換えれば、目標を細分化して達成しやすくし、それらの積み重ねていけば自ずとよい成果が自らの方に引き寄せられる。目標と成果の因果関係はアメリカほど明確ではない(むしろ非常に曖昧である)が、日本の場合はそれでもよしとされる。この「目標の細分化」は、本号の特集テーマである「続ける力」=習慣化にとって非常に重要である。
 「社内で営業成績が一番になる」という報酬は大きすぎる例である。そこで、もう一度勝利条件を変更し、「大きな報酬」を「小さな報酬」に変換することが大切となる。

 たとえば「毎日、顧客の訪問件数を1件増やす」という小さな報酬で十分である。その場合、「訪問件数を1件増やすにはどうすればいいのか」という「小さな問い」が生まれやすい。「小さな問い」ができれば、好奇心に導かれて「行動」に至り、想定していた結果が得られること―求めていた「報酬」につながれば、また次の「小さな問い」が生まれる。このきっかけ→行動→報酬→きっかけというループが回ることで、継続と成長の習慣が生まれる。
(石川善樹「アスリートに学ぶ「勝利の習慣」 継続とは「小さな問い」を立てること」)
 もちろん、たくさんの小さな目標を設定することには、リスクもある。一番解りやすいのは、目標が多すぎるがゆえに、一部の目標が達成できないというリスクである。これに対して石川氏は、必ずしも完璧主義者になる必要はないとアドバイスする。「雨が降ったら運動しなくてよい」、「飲み会が入ったら勉強しなくてよい」といったように、ルールを見直すことが重要であるという。それから、目標を設定したという事実に満足してしまい、その後のアクションに結びつかないという問題もある。心理学ではこれを「偽りの希望症候群」と呼ぶそうだ。例えば、「英語を話せるようになりたい」という目標を持つと、脳がそれだけで気持ちよくなって、満足感を覚えてしまう。そういう場合には、続ける理由を発見することがポイントとなる。

 以前の記事「ケリー・マクゴニガル『スタンフォードの自分を変える教室』―経営に活かせそうな6つの気づき(その1~3)(その4~6)」でも書いたが、目標を達成すると、別の目標で手抜きをしたくなる誘惑にかられることがある。手抜き程度ならまだましなのだが、目標達成の反動で、反倫理的、反社会的な行動に手を染めることがある。簡単な例で言うと、「今日はいつもよりもたくさん顧客企業を訪問したから、道に落ちている千円札を拾って自分のものにしても構わないだろう(その千円札は、目標を達成したご褒美だ)」などと考えることである。

 こうした倫理・道徳からの逸脱を厳しく諫めているのが、「破壊的イノベーション」で知られるクレイトン・クリステンセンである。彼の「「人生のジレンマ」を克服するために プロフェッショナル人生論」という論文は、クリステンセンがハーバード・ビジネス・スクールの卒業生に贈った言葉である。この論文を読むのは実は今回で3回目なのだが、ようやくその内容が腑に落ちるようになってきた。クリステンセンは、人生における重要な3つの質問について、経営学・経済学の知見を活かしながら答えている。その3つの質問とは、①どうしたら幸せなキャリアをしっかりと歩めるか、②どうしたら伴侶や家族との関係を揺るぎない幸福の源にできるか、③犯罪者にならないためにはどうしたらよいか、というものである。

 ③に関して、クリステンセンは経済学の「限界費用」という概念を持ち出す。企業が投資の選択肢を評価する際、埋没費用や固定費は無視して、個々の投資に伴う限界費用と限界収益に基づいて意思決定する。人が悪事の誘惑にかられる際、頭の中では、「いけないことだと解っているけれども、今回1回だけなら許されるだろう」と考える。つまり、限界費用は小さいと見積もる。ところが、その道が最終的にどこに至るのか、その1回の選択から生じる総費用について思いをめぐらすことがない。これが犯罪者へと転落するパターンである。

 クリステンセンは、埋没費用の話をする際に、オックスフォード大学でバスケットボール部に所属していた時代のことを引き合いに出す。クリステンセンは敬虔なクリスチャンであり、毎週日曜日には必ず教会に通っていた。ところが、ある重要なバスケットボールの試合が日曜日と重なってしまった。しかも、クリステンセンはセンターとして先発出場することになっていた。バスケットボールの試合を取るのか、教会を取るのか?クリステンセンが出した答えは後者であった。
 しかし振り返ってみると、「この状況なら一度くらい許されるだろう」というこの誘惑に打ち勝ったことが、私の人生で最も重要な判断の1つであったことは間違いない。なぜかというと、人生は「例外が許されてもいい特別な状況」が果てしなく続くものだからである。私がその一度だけ足を踏み外していたら、その後の人生で繰り返し同じことをしていたに違いない。
 クリステンセンの選択は、社会的、道徳的な問題ではないから、この例はやや極端であるという印象は否めない(もちろん、敬虔なクリスチャンであったクリステンセンにとっては、この問題が非常に道徳的な問題だったのかもしれない)。しかし、反倫理的、反社会的な誘惑を断ち切るには、このぐらいの厳しさが必要であることを教えてくれる。一般論としては、一部の目標を達成できなくても、我々は完璧主義者ではないから悲観する必要はないだろう。だが、こと倫理や道徳に関連する問題に限っては、潔癖で完璧主義を貫かなければならない。

 ここまで、「小さな目標をたくさん積み重ねることが重要である」と書いてきた。では、その「小さな目標」とは具体的に何なのかについて、ある程度私の見解を述べておく必要があるだろう。体系的に考え出すとおそらくキリがないに違いないが、私は4年前に「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓(全50回)」という記事を書いた。この記事の内容を裏返せば、経営者がなすべきことが見えてくるだろう。以下、思いつくままに列挙してみる。

 (1)毎日、経営ビジョンの内容を自分なりに解釈する。
 (2)毎日、経営ビジョンの内容を社員に語りかける。
 (3)経営ビジョンに関する社員の解釈を経営ビジョンの内容に反映させる。
 (4)重要顧客とは定期的に会い、潜在ニーズを把握する。
 (5)最重要顧客との商談では、経営者自らがクロージングを行う。
 (6)製造現場を直接目で確認し、問題点を指摘する。
 (7)品質に関する重要な指標をモニタリングし、問題の早期解決を図る。
 (8)新製品・新規事業開発の際には、事前に十分なフィージビリティスタディを行う。
 (9)外注・パートナー頼みのビジネスモデル、事業計画を立案しない。
 (10)事業・組織規模、身の丈に合ったオフィスを選択する。
 (11)秘書、顧問、間接部門は最小限にとどめる。
 (12)お酒で失敗しないよう、お酒の量を控える。
 (13)顧客に対して、製品・サービスなどに関する情報を密に発信する。
 (14)顧客から、製品・サービスに関するフィードバックを受ける。
 (15)一般常識に従って、社会人として恥ずかしくない行動をする。
 (16)毎日、自社の行動規範の内容を社員に語りかける。
 (17)社員の行動が行動規範に則っているかチェックする。
 (18)行動規範に合致した行動は褒め、合致しない行動はすぐさま是正する。
 (19)自社が買いたいと思う製品・サービスを開発する。
 (20)事業間・製品間のシナジー目標を設定する。
 (21)事業間・製品間シナジー目標の責任者を任命する。
 (22)事業間・製品間シナジー目標をモニタリングし、問題の早期解決を図る。
 (23)野心的・非現実的すぎる事業目標を設定しない。
 (24)事業目標を達成するシナリオを社員に提示する。
 (25)競合他社を特定し、その強みやビジネスモデルを把握する。
 (26)競合他社との差別化ポイントを簡潔に示す(3つ程度)。
 (27)資金調達の目的を明確にする。
 (28)目的に合致した最適な資金調達手段を検討する。
 (29)顧客からの面倒な要望を嫌がらない。
 (30)多品種、少量、異形、不定期、低頻度に対応する。
 (31)新製品・新規事業開発の際には、投資対効果を算出する。
 (32)新製品・新規事業開発の際には、前提を変えて数パターンの投資対効果を見積もる。
 (33)新製品・新規事業開発の際には、撤退基準を設定する。
 (34)新製品・新規事業の開発にずるずると追加投資しない。
 (35)顧客のポートフォリオ管理を行い、ランク分けする。
 (36)それぞれの顧客からの期待売上を基に次年度の予算を立案する。
 (37)(23)の目標と(36)の予算とのギャップを埋める現実的な施策を立案する。
 (38)リストラ(人員削減)をする際には一発で終わらせる。
 (39)リストラによるコスト削減だけでなく、その後の売上回復シナリオも描く。
 (40)社員に企業の重要な業績指標を公開する。
 (41)業績指標や財務諸表の読み方について社員にトレーニングを行う。
 (42)製品ごとの原価と利益を見える化する。
 (43)目に見えないサービスの場合、サービスの効果を可視化する。
 (44)外注先とはコミュニケーションを密にして基本的な価値観を共有する。
 (45)外注先と価値観が対立したら、その解消に乗り出す。
 (46)製品・サービスのコアを見極め、コアだけは必ず自社で製造・提供する。
 (47)アウトソーシングした場合は、将来的に価格競争に突入することを覚悟する。
 (48)新製品を開発する際には、見込み顧客の具体的なニーズから出発する。
 (49)新製品を開発する際には、ターゲット顧客層を明確にする。
 (50)ターゲット顧客層は一定のボリュームが存在することを確認する。
 (51)見込み顧客が声に出さない潜在的なニーズを拾い上げる。
 (52)顕在ニーズと潜在ニーズを合わせて、トータルの顧客価値をデザインする。
 (53)顧客価値に見合う適切な価格を設定する(安易な安売りは悪)。
 (54)顧客を100%満足させるためには、120%の力を出し切る。
 (55)顧客から無理難題を突きつけられても、顧客の悪口は絶対に言わない。
 (56)マネジャーの役割と責任を明確にする。
 (57)マネジャーには、部下が迅速に仕事をできるよう、権限委譲する。
 (58)会議は予定時刻通りに開始する。
 (59)会議は予定時刻通りに終了する。
 (60)会議の主催者が責任を持ってアジェンダと討議用資料を準備する。
 (61)会議では参加者全員に発言させる。
 (62)会議終了時には、終了後のアクションとその責任者を特定する。
 (63)営業で失注したら、敗因分析を行う。
 (64)失注は学習の機会であり、失敗ではないという組織風土を醸成する。
 (65)標準営業プロセスを確立し、属人化を防ぐ。
 (66)営業プロセスの進捗度合いをモニタリングする指標を開発する。
 (67)自社や製品の認知度を維持・向上するためのメディアミックスを検討する。
 (68)値下げを営業担当者任せにしない。自社としての値引き率の上限を決める。
 (69)社員が多様なスキルを身につけられるようなトレーニングを実施する。
 (70)人事評価はこまめに行う。
 (71)社員を採用する際には、求める人材要件を明確に定義する。
 (72)社員の採用にはできるだけ多くの人を関与させ、直観で判断しない。
 (73)新卒採用では、基本的な性格(素直さ、責任感、コミュニケーション)を重視する。
 (74)中途採用では、前職と自社の価値観の対立をマネジメントできる人材を重視する。
 (75)相性のよさではなく、能力の補完関係を考慮してチームを結成する。
 (76)タスクフォース、委員会、分科会、分社化など、組織の細分化は極力避ける。
 (77)部門横断型組織を兼任メンバーだけにしない。必ず専任メンバーを入れる。
 (78)社員の遅刻に対して厳重に注意する。
 (79)社員には仕事の納期を守らせる。
 (80)経営者が自ら率先して雑用をする(掃除など)。
 (81)進んで雑用をする「縁の下の力持ち」的な社員を褒め称える。
 (82)経営者が自ら進んで社員に挨拶をする。
 (83)社員同士のコミュニケーションが生まれるようなオフィスレイアウトを工夫する。
 (84)社員同士のコミュニケーションが生まれるような親睦会などを実行する。
 (85)仕事を割り当てる際には、最低限要求される能力を満たしていることを確認する。
 (86)仕事を割り当てる際には、その仕事を通じてどのように成長してほしいか伝える。
 (87)社員の能力を定期的に棚卸し、強みと弱みを把握する。
 (88)自社の要求と、社員のキャリア意識を定期的に擦り合わせる。
 (89)顧客から理不尽な要求を受けたくなかったら、仕入先に理不尽な要求をしない。
 (90)自分の仕事を定期的に棚卸し、捨てるべき仕事、効率化すべき仕事を見極める。
 (91)社員に日報・週報を記録させ、仕事の生産性をチェックする。
 (92)社員に業務の効率化につながるアイデアを提案させる。
 (93)社員からの提案をどのように検討し、どんな結論になったかフィードバックする。
 (94)新しい改革に取り組ませる時には、まずは既存業務を効率化し現場の負担を減らす。
 (95)他社・大学と協業する場合には、共通の価値観を設定する。
 (96)他社・大学と協業する場合、お互いに異なる目的を追求していることを尊重する。
 (97)他社・大学と協業する場合、メリットを受けるだけでなく、相手にメリットを与える。
 (98)毎日の資金繰りを管理する。
 (99)会社としての撤退条件を定める(債務超過が3年続いたら解散するなど)。
 (100)会社全体の業績に対する最終的な責任は経営者が負う。

 この中には必ずしも「小さな目標」ではなく、考え出すとなかなか奥深い目標も含まれているのだが、まずは第1版として提示した。余裕があれば、経営者が追求すべき「小さな目標」集なるものを体系化したい。さらには、目標の達成度合いと企業の業績との関係を分析できるようなツールを開発することができれば面白いのではないかと考えている。




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