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【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)
「社員の失敗に対して寛容になる」とはこういうことかと改めて思い知らされた一件
「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年08月21日

【戦略的思考】事業機会の抽出方法(「アンゾフの成長ベクトル」を拡張して)


戦略オプション

 以前の記事「戦略を立案する7つの視点(アンゾフの成長ベクトルを拡張して)(1)(2)」の焼き直し記事。敢えて図を使わなくても7つの戦略を説明できると思い、書き直すことにした。企業は持続的に成長を続けるために、常に新しい戦略機会(ビジネスオポチュニティ)を模索しなければならない。戦略機会を抽出するためのフレームワークとしてよく知られているのが、ロシアの経営学者イゴール・アンゾフが考案した「成長ベクトル」である。

 アンゾフの成長ベクトルでは、横軸に「顧客(既存―新規)」、縦軸に「製品・サービス(既存―新規)」という2軸を取り、マトリクス図を作成する。左下の象限は、既存の顧客に対して既存の製品・サービスを販売するものであり、「①リピート購入戦略(アンゾフの言葉では「市場浸透戦略」)」と呼ぶ。右下の象限は、新規の顧客に対して既存の製品・サービスを販売するものであり、「②市場シェア拡大戦略(同「新市場開拓戦略」)」と呼ぶ。左上の象限は、既存の顧客に対して新規の製品・サービスを販売するものであり、「③ウォレットシェア拡大戦略(同「新製品開発戦略」)」と呼ぶ。ウォレットシェアとは、顧客の財布に占める自社のシェアという意味である。最後に、右上の象限は、新規の顧客に対して新規の製品・サービスを販売するものであり、「④多角化戦略」と呼ぶ(アンゾフの用語でも同じ)。

アンゾフの成長ベクトル

 ①リピート購入戦略と②市場シェア拡大戦略は、既存事業の強化である。事業機会を抽出する場合、既存事業も候補の1つであることを忘れてはならない。①リピート購入戦略においては、製品・サービスの改善、技術改良、リピート購入を促すプロモーションなどが展開される。②市場シェア拡大戦略においては、差別化要因の強化、魅力的な価格の提示など、競合他社からの乗り換えを促すプロモーションが実施される。

 ③ウォレットシェア拡大戦略と④多角化戦略は、新規事業にあたる。③ウォレットシェア拡大戦略には2つの方法がある。1つ目は、既存の製品・サービスと類似カテゴリの製品・サービスを開発するというものである。例えば、清酒メーカーであれば、ワインや焼酎の製造・販売への進出が思いつく。2つ目は、顧客が既存の製品・サービスを消費するプロセスの前後を押さえる、つまり、顧客が既存の製品・サービスと一緒に消費する製品・サービスを開発するというものである。清酒メーカーの場合、清酒と一緒に消費される惣菜や酒のつまみを開発する、あるいは清酒が消費される飲食店を経営するという選択肢がある。自動車メーカーの場合、アフターマーケット市場への進出は、顧客の消費プロセスの「後ろ」を押さえることになる。さらに、自動車の出発点と到着点に該当する住宅と商業施設、観光施設の開発に乗り出すのも一手である。

 ④多角化戦略には、大きく分けて、外部環境アプローチと内部環境アプローチの2つがある。外部環境アプローチはさらに3つに分かれており、ⅰ)成長市場に着目する、ⅱ)労働力が不足している業界に注目する、ⅲ)海外で流行しているものを日本に輸入する、という視点がある。ⅰ)に従えば、医療・介護業界に進出するというオプションが出てくるし、ⅱ)に従えば、建設業界や飲食チェーン業界に進出するというオプションが導かれる。

 一方の内部環境アプローチも同じく3つに分かれており、ⅳ)経営理念から導かれる領域、ⅴ)自社の強みを活かせる領域、ⅵ)経営陣がやりたいと思っている領域、という切り口がある。例えば、バイオ研究に力を入れている清酒メーカーは、化粧品分野に進出することがある。また、人間の鋭敏な味覚は、最新の分析機器でも検出できない何億分の1レベルの微量物質を感知する能力を持つため、清酒メーカーは分析機器の精度を超えたレベルの酒質設計を行っている。このノウハウを活かして、分析測定機器の開発・販売に乗り出すという手も考えられる。

アンゾフの成長ベクトル(拡張版)

 ただ、個人的には、この4つだけでは事業機会としては不十分だと思う。そこで、「⑤新市場開拓戦略」、「⑥代替品開発戦略」、「⑦完全なるイノベーション戦略」という3つを加えた。⑤新市場開拓戦略では、既存の製品・サービスを非顧客に販売することを目的とする。考え方としては、まず、既存顧客と反対の属性を持っている人々に販売するという方法がある。例えば、男性向けだったものを女性向けに、若者向けだったものを高齢者向けに、BtoC向けだったものをBtoB向けに提供するということである。アメリカは、軍需品を民生に転換することを得意としている。

 女性向けだったものを男性向けに販売している例として、生理用ナプキンが挙げられる。男性は痔に悩んでいる人が多い。そこで、出血を抑えるために生理用ナプキンを使用している人がいるという。また、長時間座って運転をしなければならない物流業界のドライバーは、お尻が座席との摩擦で痛くなるのを防ぐために生理用ナプキンを使っているらしい。さらに、医療現場では、お尻を手術した患者に対し、出血や膿を吸収する目的で生理用ナプキンを用いている。

 ⑤新市場開拓戦略の2つ目の考え方として、既存の製品・サービスを意外な方法で使用している人々に着目するというものがある。例えば清酒の場合、調味料の代わりとして清酒を使用する人がいる。もちろん、既に料理酒は存在するが、お米をふっくらと炊き上げたり、お餅をふっくらと焼き上げたりするために清酒を使っている人がいるらしい。こういうニーズに着目すると、既存の料理酒とはまた違った調味料が生まれるかもしれない。また、清酒を入浴剤代わりに使っている人もいる。ここから、清酒の成分を含んだ入浴剤の分野に進出するということも考えられる。

 ⑤新市場開拓戦略の3つ目の考え方は、既存の製品・サービスを海外に展開するというものである。しかも、単に海外展開するのではなく、まだその製品・サービスが一般的になっていない国・地域に持っていくことで先行者利益を狙うというものである。⑤新市場開拓戦略は、非顧客に着目することで、市場のパイそのものを拡大することを目指している。

 ⑥代替品開発戦略は、文字通り既存の製品・サービスを脅かす代替品を、先手を打って開発する戦略である。1つ目として、技術的に非連続的なイノベーションが挙げられる。自動車業界で言えば、燃料電池自動車(FCV)がこれに該当する。FCVが完成すると、既存のガソリン車とは全く異なる部品構成やビジネスモデルが必要となり、業界構造が一変する。既存の市場や業界を丸ごと吹き飛ばすほどの威力を持つ非連続的なイノベーションは、代替品である。

 2つ目は、クレイトン・クリステンセンが提唱した「破壊的イノベーション」である。再び自動車業界に目を向けると、電気自動車(EV)は破壊的イノベーションになり得る可能性があると言われている。破壊的イノベーションとは、既存の製品・サービスに比べると技術的には”劣る”が、コストパフォーマンスが高いため、顧客の期待水準を大幅に上回ってしまった既存の製品・サービスに顧客が見切りをつけて、市場の大多数が破壊的イノベーションに流れ込むというものである。破壊的イノベーションも、既存の製品・サービスを駆逐するから、やはり代替品である。

 3つ目は、顧客のニーズを別の手段で満たす製品・サービスの開発である。顧客はその製品・サービスそのものがほしいのではなく、その製品・サービスによって何かを実現することを欲している。マーケティングの格言に「顧客が欲しているのはドリルではない。ドリルの穴だ」というものがある。もし、ドリルよりも効率的に穴を開けられる製品が登場したら、ドリルにとって脅威的な代替品となるだろう。清酒の場合、清酒を飲むのはストレスを発散するためである。よって、「ストレス発散ドリンク」のようなものを開発すると、清酒にとっての代替品となる。また、自動車の場合、顧客が欲しているのは「移動すること」である。よって、バスやタクシー、鉄道、飛行機は自動車にとっての代替品となる。「ワープ技術」が完成したら、自動車にとって相当の脅威になるだろうが、物理学ではワープ技術は不可能という結論に達しているらしい。空間を歪めて近道を作るのに、宇宙に存在する全エネルギー以上のエネルギーが必要だというのがその理由である。

 私が思うに、代替品には意外と十分な注意が払われていない。代替品が現れると、既存の製品・サービスの市場は一瞬で消える。そのぐらい過激な存在である。だから、代替品が現れてからどうしようかと慌てふためくのではなく、普段から自社の製品・サービスにとっての代替品とは何かを熟考し、対策を打っておく必要がある。代替品開発戦略を考えるには、次のような問いを発するとよい。「今、我が社を潰すとしたら、どんな製品・サービスを開発すればよいか?」

 最後が「⑦完全なるイノベーション戦略」である。技術的に全く新しい製品・サービスを開発したり、今まで存在していなかった市場ニーズを掘り起こしたりする。ただ、これはほとんど発明に近い領域であるため、私もどういう論点で検討をすればよいかアイデアがない。1つだけ例を挙げるとすれば、清酒メーカーの場合、「酔っぱらうが判断能力は落ちない日本酒」なるものを発明すると、飲食業界は大喜びするかもしれない(危険ドラッグのような製品だが・・・)。

 以上、7つの戦略を見てきたが、①から⑦の順で難易度が上がる。また、繰り返しになるが、①リピート購入戦略と②市場シェア拡大戦略が既存事業の強化であるのに対し、③ウォレットシェア拡大戦略から⑦完全なるイノベーション戦略は新規事業の開発にあたる。さらに、①リピート購入戦略から④多角化戦略は、既に存在する市場シェアの拡大を目的としている点でマーケティングであるのに対し、⑤新市場開拓戦略、⑥代替品開発戦略、⑦完全なるイノベーション戦略は、新しい市場を創出するイノベーションである。これまで述べてきた観点で自社の事業機会を検討すると、非常に幅広いチャンスがあることに気づく。次は、それらの事業機会のうち、どれに着手するかを決めなければならないが、その方法については機会を改めることとしたい。


2017年06月19日

「社員の失敗に対して寛容になる」とはこういうことかと改めて思い知らされた一件


失敗

 社員が新規事業やイノベーションに積極的に取り組むようになるためには、失敗を罰せず、失敗に対して寛容な組織文化を醸成することが重要であると言われる。個人的には、IBMの創業者であるトーマス・ワトソン・Sr.の話が好きである。ある若手マネジャーは、リスキーなベンチャーで失敗をし、1,000万ドルの損失を出してしまった。ワトソンのオフィスに呼ばれたそのマネジャーはすっかり恐れをなして辞表を出したが、ワトソンはこう言ってはねつけた。「とんでもない。教育のために1,000万ドルを使った後で、君を手放すとでも思っているのかね?」

 日本でも似たような話がある。現在GUの代表取締役である柚木治氏は、2000年代初頭にユニクロが農業に参入した時の責任者であった。ご存じの通り、ユニクロは26億円の損失を出して農業から撤退した。柚木氏は柳井正氏に責任を取りたいと申し出たところ、柳井氏は「お金を返してください」という独特の言い回しで慰留し、辞めさせるどころかGUの責任者に任命した。

 この2つの事例に比べるとはるかに損失は小さいものの、その損失に対して組織の責任者が寛容に対処したケースを最近体験したので、そのことを記しておく。私は色々な非営利組織に所属しているが、そのうちの1つの組織で起きた事例である。ある時、役員会(私も参加していた)に対して、役員ではない若手のメンバーから、「広報活動の一環として、Twitterを活用してはどうか?」という提案があった。ところが、役員会のメンバーに高齢者が多く、Twitter自体がどんなものか知らない人が多かった(このご時世にそれはそれでどうかと思うが)。そのため、その役員会では議論が進まず、次回の役員会で実際にTwitterの画面を見ながら議論することにした。

 2回目の役員会では、提案者である若手メンバーが、Twitterを活用して顧客と良好なコミュニケーションを行っている大企業のアカウントの事例をいくつか紹介し、非営利組織における活用方法を提案した。だが、それでも役員会のメンバーにはTwitterの活用イメージが具体的に湧かなかったようである。仮にこの非営利組織のアカウントを作成して、提案者である若手メンバーに運用を任せた場合、彼のツイートがこの非営利組織の見解を代表していると見なされることに抵抗感を示す役員がいた。それよりも問題になったのは、役員はTwitterを使って炎上したというニュースだけは知っているため、「炎上した時には誰が責任を取るのか?」、「そもそも、『炎上している』と認定するのは誰なのか?」などといった点であった。

 実は、役員会が開かれていた非営利組織には上位組織があり、議論を行っていた非営利組織はその上位組織の一部門でしかなかった。つまり、東京に本社がある企業において、大阪営業部が自発的に大阪営業部のTwitterアカウントを作成するようなものである。この場合、仮に大阪営業部のアカウントが炎上したら、大阪営業部の責任者が謝罪をするだけでは済まされない。当然のことながら、東京本社の経営陣が謝罪のメッセージを発表しなければならないだろう。それと同じような運用を、この非営利組織の上位組織に期待することは難しいと懸念された。

 2回目の役員会でも結論が出ず、もう一度日を改めて役員会で議論することになった。だがやはり、炎上した時などのリスクマネジメントが十分にできないという理由で、この若手メンバーからの提案は却下された。役員会の議長を務めていた非営利組織の責任者は、現場からの提案を積極的に歓迎するタイプであったため、この結末には少々がっかりしたようである。

 私は、若手メンバーが積極的に提案したという姿勢は素晴らしいと思う反面、中身を十分に詰めないまま会議にかけたのはあまりよくなかったと思う。リスクという点に関して言えば、役員会の議論では出てこなかったが、反社会的勢力のアカウントとつながってしまうというリスクが考えられる。アカウントをフォローして仲良くツイートし合っていたら、実は相手が反社会的勢力のメンバーだったという可能性がある。すると、この非営利組織は反社会的勢力と関係がある団体だという、全く意図しなかったメッセージを発してしまうことになる。

 それよりも、今回の提案の大きな問題は、計画の中身があまりにも不明確であったことだと私は思っている。提案者はこの非営利組織の知名度を上げることが目的だと説明していたが、具体的にどのセグメントに対してメッセージを送るのか?彼らに対して、この非営利組織についてどのようなイメージを形成してもらいたいのか?彼らにアプローチする手段として、なぜTwitterが最も最適だと言えるのか?仮にTwitterが最適だとして、彼らにこちらが狙っているイメージを形成してもらうために、具体的にどのようなツイートをするのか?ツイートの頻度はどのくらいが適切なのか?広報活動の成果をどのように定量的に測定するのか?フォロワー数なのか、ツイートの平均リツイート数なのか?目標とするフォロワー数を獲得するために、どのような仕掛けをするのか?などといった点が一切説明されなかった。これでは役員会を通すのは難しい。

 3回にわたって役員を拘束し、結局前向きな結論が得られなかったという点では、今回の提案は残念ながら失敗であったと言わざるを得ない。IBMやユニクロの例とは比べ物にならないが、潜在的な損失もそれなりに発生している。だが、今回の話にはまだ続きがある。

 この非営利組織では、年に1回「チャレンジ賞」という表彰を行っている。これは、その年に非営利組織の事業の発展に大きく貢献したメンバーを他薦によって選出し、年1回の総会において、責任者が大勢のメンバーの前で表彰するというものである。今年のチャレンジ賞に選ばれた人のうちの1人が、今回Twitterの活用を提案した若手メンバーであった。しかも、最も多くの他薦を受けたのだという。彼は少々困惑した表情を浮かべていたが、私は「組織が失敗に対して寛容になる」というのはこういうことなのだろうと感じた。役員会の議論は非常にタフなものである。しかし、今回のTwitterの件で懲りずに、他の若手メンバーからも積極的に提案が上がってくるとよいと思う(ただし、もう少し事前によくプランを練ってほしいという注文だけはつけておきたい)。

 (※)最近、どんどん1本の記事が長くなっているため、今回は短めにしてみた。


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2017年05月26日

「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)


カテゴリー

 《参考記事》
 森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他
 【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論
 『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案

製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

製品・サービスの4分類(②各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(③具体的な企業)

 相変わらずこのマトリクス図のことを考えているわけだが、以前の記事「『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案」で施した修正はやはり解りにくかったと反省した。マトリクスの縦軸は、「人口・企業数によって需要が予測しやすいか?」よりも、「必需品か否か?」の方がやはりシンプルである。よって、元に戻すこととした(表現は少し変えてある)。

 ここで、必需品とは何かが問題になるわけだが、個人の場合は「衣食住と健康・移動に関する製品・サービス」ととらえることができる。ここに+αで、生活の質を高めるための教育とニュースメディア、日常生活のリスクをカバーする金融(保険)を加えてもよいだろう。食品、日用品、白物家電などは、製品に多少の欠陥があっても顧客の生命が脅かされることは稀である(もちろん、ゼロとは言わない)。他方、自動車や住宅、医薬品などについては、欠陥があると顧客が死亡する危険性がある。また、社会的インフラが停止すれば、我々の生活は破綻してしまう。

 法人にとっての必需品は、「経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の調達・活用に関する製品・サービス」である。産業機械はモノを活用する製品である。物流は企業がモノを調達するためのサービスである。IT(BtoBの基幹業務システム)は企業が情報を収集・活用するためのサービスである。先ほど挙げた以前の記事では【象限④】に金融(預金・貸出)を入れていたが、金融機関の預金・貸出機能は必要不可欠な経済的インフラであり、これが停止すると企業はたちまち潰れるため、【象限②】に移動させた。法人にとっての必需品は、いずれもその供給が停止すると事業に甚大な影響が出ることから、【象限②】に該当するものが多い。

 あってもなくてもよい=非必需品は【象限③】と【象限④】である。【象限③】にあった「金融(証券)」は次のように修正した。証券のうち、企業が資金調達のために発行する株式や債券は、企業の事業継続にとって必須であり、かつ株式や債券が思い通りに発行できなければ企業の存続が危ぶまれるため、「金融(資金調達的証券)」として【象限②】に入れた。一方で、【象限③】には「金融(投機的証券)」を入れた。これはその名の通り投機的な目的、より平たく言えばお金儲けのために行う投資のことである。こうした投資は資産に余裕がある人がやるものであり、仮に投資に失敗しても投資家が死ぬことはない(損失額の大きさにショックを受けて自殺する人はいるかもしれないが)。なお、【象限④】に軍事を入れている点は変わらない。

 3つ目の図は、2017年3月末時点での「世界時価総額ランキング」の上位20社をそれぞれの象限にあてはめたものである。同じ金融機関でも、ウェルズ・ファーゴ、中国工商銀行、バンク・オブ・アメリカは【象限②】に入れているのに対し、JPモルガン・チェースは【象限③】に入れている。JPモルガン・チェースは商業銀行部門を抱えているものの、同時に世界最大の投資銀行部門を有しており、事業の中心がどちらかと言うと後者にあるためである。サムスン電子は、【象限①】に該当する家電部門も抱えているが、収益の大半をスマートフォンが稼ぎ出しているので、【象限③】に位置づけた。なお、【象限④】に該当する企業はない。

製品・サービスの4分類(④マーケティング戦略の違い)

 上図は、各象限のマーケティング戦略の違いを簡単に表したものである。まず、アメリカが強い【象限③】から説明するが、【象限③】は以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」でも書いたように一神教的な世界である。【象限③】は必需品ではないから、需要を一から創造しなければならない。よって、伝統的な市場調査は役に立たない。そこで、カリスマ的なリーダーは、自分を世界で最初の顧客に見立て、「自分ならこれがほしい」と強く思う製品・サービスを形にする。そして、自分の信じるイノベーションを世界中に普及(布教)させることを神と契約する。イノベーターは、あらゆる顧客セグメントに対して、単一の製品・サービスを提供する。ただし、神との契約が本当に正しいかどうかは、リーダーには解らず、神のみぞ知る。

 リーダーは、自分こそが神と正しい契約を結んだイノベーターであると自負して、競合相手を激しく攻撃する。また、自分の考えたイノベーションは世界中の人々にも受け入れられるはずだと信じて、ベンチャーキャピタルや株式市場から調達した潤沢な資金を使い、世界中で半ば強引なマーケティングを行う(個人的に、”ごり押し”マーケティングと呼んでいる)。その激しい競争を勝ち抜いたわずか数社が、全世界の市場を制覇する。勝利を収めた企業が、なぜ成功することができたのかと問われれば、リーダーなどの当事者は「自分が並々ならぬ努力したからだ」と答えるだろうが、実際のところは「神に選ばれたから」というのが答えである。つまり、運がよかったということだ。だから、他社が【象限③】の企業を単純に真似をしても、成功することはできない。

 【象限③】の企業は、全世界の人々を顧客にすることを狙って”ごり押し”マーケティングを実施した結果、一部の熱狂的なファンを獲得すると同時に、強烈なアンチも生み出す。世界中の人々にイノベーションを普及させるという当初の目的からは外れてしまうが、【象限③】の企業にとってはこれでよい。一部の熱狂的なファンが貴重な収益源となる。また、アンチから攻撃されればされるほど、熱狂的なファンは企業を攻撃から守るために団結する。つまり、ブランドに対するロイヤルティが高まる。ブランド・ロイヤルティの高い一部の熱狂的なファンは、そのブランドに対する消費を惜しまない。その消費額には際限がないため、【象限③】では市場規模を正確に予測できない。日本の例になるが、AKB48がCDに握手券をつけて販売すれば、熱狂的なファンの中には同じCDを何十枚も購入する人が出てくるため、CDが何枚売れるかは全く読めない。

 【象限③】の企業の課題は、成功するかどうかが神の采配次第であり、非常にリスクが高いということである。だから、【象限③】の企業は、できるだけ自社で正社員を抱えずに、プロジェクトごとに必要な人材を外部から調達し、プロジェクトが終了すれば解散するようなやり方を好む。プロジェクトのメンバーは、企業と雇用契約ではなく、業務委託契約を結ぶ。こうしておけば、企業に不都合なことが生じた際に、すぐに契約を解消することができる。芸能事務所とタレントの関係がまさにこれである。この場合、タレントの地位が非常に不安定なものになるため、最近は日本で俳優の労働組合を作ろうという動きがあるようだ(アメリカには、芸能人やハリウッドの俳優が加入できる"SAG-AFTRA"という労働組合が存在する)。

 【象限③】におけるリスクを回避するもう1つの方法は、自社がイノベーションのプラットフォームになるということである。【象限③】では、成功を夢見て多数のイノベーターが自分のイノベーションを世界中に売り込もうとしている。すると、彼らの中には、自分がお金を払ってでもいいから、自分のイノベーションを世界に広めたいと考える人が現れ始める。プラットフォーム企業は彼らのニーズに目をつけ、イノベーターと世界中の顧客を結ぶプラットフォームを構築する。

 古典的には、出版社のビジネスモデルがこれに該当する。出版社は自社のリスクを低減するために、著者からお金を取る。一般的に考えれば、著者は出版社から見て仕入先にあたるから、出版社から著者に対してお金を支払うはずだ。だが、特に無名の著者の場合は、お金の流れが逆転する(もちろん、本が売れれば出版社は著者に印税を支払う)。AppleやGoogleはスマートフォンを販売しているが、スマートフォンの本質は通話機能ではなく、アプリのプラットフォームにある。AppleやGoogleはユーザからお金を取ると同時に、アプリの開発者からもお金を取る。プラットフォーム企業は、どの製品・サービスが売れるかどうかを気にする必要がない。とにかく世界中からたくさんのイノベーションを集めて自社のプラットフォームに乗せ、あとは世の中の流行り廃りに任せておけばよい。Amazonのマーケットプレイスもこれに似ている。

 【象限①】、【象限②】は多神教的な世界である。多神教的な世界とは、企業や顧客に様々な神が宿る世界である。また、唯一絶対の一神教の神とは異なり、多神教の神は不完全である。企業に宿る神は、自社が何者であるのか、自社の強み、コア・コンピタンスは一体何なのかを教えてくれる。ところが、神が不完全であるがゆえに、その答えもまた不完全である。企業は自社のアイデンティティを深く知るために、学習(修行)を重ねなければならない。最も効果的な方法は、自社とは異なる神を宿しているであろう顧客や企業と積極的に接することである。よく言われるように、良質な学習は、異質との出会いから生まれるからだ。

 【象限①】は、必需品であり、かつ品質に対する要求水準が高くないため、コモディティ化しやすい。コモディティ化が進むと、新興国企業が低コストを武器に参入してくる。新興国の財閥企業は、特定の顧客セグメントをターゲットとして、【象限①】に該当する様々な製品・サービスを提供する。一方で、新興国においても先進国においてもそうであるが、【象限①】は自国の雇用の受け皿となる業種が多いことから、大規模企業や外資企業の参入が規制される場合がある。そのため、世界的な企業が生まれにくい。逆に、中堅・中小企業が乱立している。3つ目の図で、【象限①】に該当する企業が【象限②】や【象限③】に比べると少ないのはそのためである。

 財閥企業は資金力を活かして多角化し、異質な製品・サービスに触れることで学習を進められる。だが、【象限①】の大部分は、特定の顧客セグメントに対し、特定の製品・サービスを提供する中堅・中小企業である。彼らが学習を行う方法としては、同じ顧客セグメントをターゲットとし、自社とは異なる製品・サービスを提供する他社との水平連携が挙げられる。ショッピングセンターや商店街はその典型例である。ショッピングセンターや商店街においては、自社単独の力ではなく、他店舗と協力して全体としていかに魅力を高めていくかを考えることが重要となる。

 【象限①】における企業の課題は、製品・サービス自体の難易度がそれほど高くないことから、自社内に多くの階層を設けることができないという点である。つまり、昇進によって社員を動機づけることが難しい。飲食店であれば、スタッフ、店長、エリアマネジャーぐらいの階層しかない。この課題をクリアするためには、まずは異分野へ進出して、水平異動の道を作るということが考えられる。それが難しい場合は、例えば商店街内で店舗を超えた人材交流を行うという手もあり得る(どれほど実現可能か自信がないが)。要するに、縦への異動で新しいことに挑戦させるのが難しければ、横への異動で新しいことに挑戦させ、動機づけを図ろうというわけである。

 【象限②】では日本企業が強い。あるカテゴリの製品・サービスを、あらゆる顧客セグメントに提供する。トヨタが「いつかはクラウン」というキャッチコピーで、世代ごとに様々な車種を揃えたのが解りやすい例である。まずこの点で、【象限②】の企業は異質との学習を達成している。

 次に、【象限②】の製品・サービスは品質要求が厳しく、自社だけで完成させることが難しいため、多くの下請・協力企業を活用することになる。自動車、建設、IT(BtoBの場合)では多重下請構造が見られる。最終メーカーと下請企業との擦り合わせもまた、異質との学習である。こういう有機的な下請構造を構築できる企業は限られるので、【象限②】では各国において複数企業による寡占が生じやすい。また、【象限③】では”ごり押し”マーケティングで競合他社を激しく攻撃するが、【象限②】においては時に競合他社との協業が起きる。自動車業界では、A社がB社にエンジンを供給するなどの関係が数多く存在する。これもまた、異質との学習と言えるであろう。

 【象限②】の課題は、異業種との接点が少ないことである。前述の通り、【象限②】の企業は既に多くの面で異質との学習を達成していることから、異業種から学ぶインセンティブが低いのかもしれない。今までは自社が得意とする製品・サービスに特化していればよかった。だが、これからは異業種とのコラボレーションが重要課題となる。トヨタはグーグルと提携して自動運転車の開発をしているし、金融機関はIT企業と提携してFintechの研究を進めている。IT業界は他の業界との協業が比較的やりやすい業界なのかもしれないが、今後は例えば自動車×建設、医療×金融といった、一見どういう点で結びつくのか解らないような業種の組み合わせでのコラボレーションを追求することが重要な課題になると考えられる。

 これで、「製品・サービスの4分類」は大分完成に近づいたと思うが、それでもまだ私の頭を悩ませる例外がいくつも存在する。まずはMicrosoft(MS)である。パソコンは、発売当初はあってもなくてもよい【象限③】の製品であったが、今や日常生活に欠かせない【象限①】の製品となった(WindowsやOfficeは頻繁にフリーズするが、ユーザの生命を脅かすわけではないため【象限①】だと言える)。通常、【象限①】では前述の通り中堅・中小企業が乱立する。だが、MSは未だに圧倒的なシェアを占めている。本来であれば、【象限③】から【象限①】に移動するにつれて、様々なOSが登場し、OS間の互換性を担保するソフトウェアも開発されてしかるべきである。しかし、MSは(EUから何度も独禁法違反で訴えられているのに、)その道を巧みに封じている。

 コカ・コーラとマクドナルドは【象限①】なのか【象限③】なのかも難しい問題である。個人的には、いずれもあってもなくてもよいものだとは思う。【象限③】に位置づけた方が、両社の特徴を説明しやすい。コカ・コーラはライバルのペプシコと市場を二分しており、お互いに相手のことを広告で激しく攻撃する。マクドナルドはショッピングセンターや商店街の中にも入っているが、「アメリカのハンバーガー文化」を世界に普及させることを目的としており、他社との連携には消極的であるように見える(その点、日本マクドナルドはよくドコモと提携したと思う)。

 だが、炭酸飲料の中でコーラだけを【象限③】として扱うのは無理があるから、やはりコカ・コーラは【象限①】に該当するのだろう。日本コカ・コーラは、コカ・コーラ以外にも、消費者にとってより必需性が高い様々なジャンルの飲料水を発売して、水平方向に拡大している。マクドナルドも、マクドナルドだけを飲食店の例外とする合理的理由が見当たらないので、【象限①】に入れるべきなのだろう。とすると、近年業績が安定しないマクドナルドが今後も持続的に成長するには、【象限①】の特徴である水平連携をいかにして実現するかが課題となるように思える。

 プラットフォーム型ビジネスは【象限③】の特徴であるが、最近は【象限①】や【象限②】でもプラットフォーム型ビジネスが見られる。一例としてはクレジットカードが挙げられる。VisaやMasterCardなどは、そのブランドを全世界に浸透させることを狙い、最初は一部のお金持ちだけが使っているものであった。また、決済システムにもさほど高度な要件は求められなかった。システムに障害が起きても誰も注目しなかった。つまり、典型的な【象限③】のサービスであった。

 だが、現在のクレジットカード会社は、高額決済をする従来の加盟店に加えて、少額決済の加盟店をどんどん増やしている。また、今や誰もがクレジットカードを所有しており、個人会員向けには、会員の収入に応じて様々なステータスが用意されている。クレジットカードは、オフラインの世界のみならずオンラインの世界においても、必要不可欠かつ高度な決済プラットフォームを提供する。システム障害は世界中の取引に影響を及ぼすため、絶対に避けなければならない。この点で、クレジットカードは、【象限③】から【象限②】に移動したサービスであると言える。

 Amazonは書籍のECからスタートしたため、私は【象限③】に位置づけたのだが、近年は食品や日用品、雑貨など製品カテゴリーを拡充して【象限①】に進出している。【象限③】で培ったプラットフォーム型ビジネスのノウハウを、【象限①】でも存分に活用している。また、Amazonはソフトウェア開発者向けにAWS(Amazon Web Service)というPaaS/IaaSのプラットフォームを開発しており、誰でもクラウド型のWebサービスを開発することができる。AWSは個人が趣味でアプリを開発するだけでのものではない。企業が基幹業務用システムとして使えるほどの十分な信頼性とセキュリティを実現している。つまり、【象限②】への進出を果たしていると言える。


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