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『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案
日本企業が陥りやすい10の罠・弱点(1/2)
【現代アメリカ企業戦略論(3)】アメリカのイノベーションの過程と特徴

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


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(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

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(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
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2017年03月30日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案

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一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」で以下の図を用いてきたが、「必需品か否か?」という縦軸が非常に曖昧であるという問題意識を持っていた。必需品と言うと、普及率が高い製品・サービスを想起しがちだが、私が下図の「必需品でない」という言葉で意図していたのは、1人1台などの制約を超えて、その製品・サービスが好きな人はとことんそれを購入するということであった。この点が「必需品ではない」という言葉ではどうも上手く伝わらない。また、【象限③】の具体的企業としてマイクロソフトを入れたのも、【象限③】はイノベーションに強いアメリカの企業が多いことを示すための苦肉の策である。前述の「必需品でない」という言葉の意味からすると、MSの製品を何台も買う人はいないから、【象限③】に入れるのには無理があった。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)
 (※)世界の時価総額トップ20の企業を各象限にあてはめたもの。
製品・サービスの4分類(修正)

 そこで、上図を以下のように修正してみた。縦軸は、「人口・企業数によって需要が予測しやすいか?」である。【象限①】の日用品や食品、白物家電、【象限②】の自動車や住宅などは、人口によって需要がある程度予測できる。よほどの大食漢でもない限り1日5食も6食も食べないし、よほどの物好きでもない限り自動車を5台も6台も所有しない。以前の図では金融(保険)を【象限③】に入れていたが、生命保険を2つも3つも契約する人はいないから、【象限①】に移動させた。以前の記事でも書いた通り、【象限①】は「製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」ため、参入障壁が低く、比較的中小のプレイヤーが過当競争を繰り広げる傾向がある。近年、保険の種類は爆発的に増えており、【象限①】の特徴にも合致する。

 【象限③】から【象限①】に移動させたもう1つの例がMSである。前述のように、パソコンの需要は人口や企業数によってある程度予測がつくというのがその理由である。ただし、【象限①】では比較的中小のプレイヤーが過当競争を繰り広げるという傾向に反して、MSは未だに世界で独占的地位を占めている。MSだけは、私の頭を悩ます大いなる例外である。【象限①】の本来の特性に従えば、世界中で様々なOSが登場し、OS間の互換性を持たせるためのソフトも多数開発されるはずであるが、MSは戦略的にその道をふさぐことに成功している。

 【象限③】と【象限④】は、人口・企業数による需要予測が難しい製品・サービスである。スマートフォン、タブレットは、本体自体は人口による制約を受けるものの、スマホやタブレットのビジネスの本質はアプリにある。アプリが好きな人は次々とアプリをインストールするし、ゲームにはまった人はどんどん課金をする。スマホやタブレットのビジネスは、こうしたコアな顧客層に支えられている(この点がパソコンと異なる)。エンタメ、テレビメディア(主に娯楽関係)、映画、音楽に関しては、見たい人、聴きたい人はとことんはまり、関連製品・サービスをたくさん購入する一方で、興味のない人は全く見向きもしない。ブランド品や書籍、雑誌も同じである。証券についても、投資する人とそうでない人との間には、投資金額に雲泥の差がある。googleやfacebookを中毒のように使用する人もいれば、そういうものをほとんど使わない人もいる。

 【象限④】は、人口・企業数による需要予測が難しく、かつ、製品・サービスの欠陥が顧客・事業に与えるリスクが大きいという、最も経営が難しい象限である。以前の図ではここに軍事と航空を入れていたが、航空は人口によってある程度需要の予測がつく(飛行機が好きだからという理由で飛行機に乗りまくる人はいない)。そのため、航空は【象限②】に移動させた。代わりに、金融(預金・貸出)を【象限②】から【象限④】に移動させた。金融機関が預金と貸出によって実現する信用創造機能は、経済システムを支える根幹である。よって、ここに障害が起きると、経済全体が破綻する危険性がある。かつ、預金者は通常、持っている現金の大半を預金するし、企業は借りられる時に目一杯融資を受けようとするから、その需要は予測しづらい。

 軍事と金融(預金・貸出)は、他の業界に比べて特別な意味合いを持っている。金融(預金・貸出)は、前述の通り金融機関による信用創造機能と関連している。また、軍事は、特にアメリカにおいて顕著だが、よくも悪くもイノベーションの重要な源泉となっている。軍事上の発明が民生化されて世界中に普及した例は枚挙にいとまがない。

製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例①)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例②)

 最後の図で、【象限①】と【象限②】は機能面重視、【象限①】と【象限③】は情緒面重視と書いたが、【象限②】は情緒面を、【象限③】は機能面を全く無視しているわけではない点は誤解がないように補足しておかなければならない。本号には以下の記述があった(ようやく本号の内容に触れることができた)。特に、日本企業が強みとする【象限②】において、情緒面のウェイトを高めていくことが今後は重要となるであろう。
 日本企業のなかでも、高い国際競争力を維持している自動車産業は、このアップルと同様の特徴を持つ。日本企業がものづくりに優れているのは他の産業でも同様だが、自動車の顧客価値はカタログ仕様を超え、主観的な好みが重要である。自動車を購入する場合には、カタログだけではなく、販売店でじっくり観察し、試乗する場合が多い。
(延岡健太郎「顧客価値の暗黙化」)
 今まで私は、イノベーションを【象限③】に限り、【象限①】と【象限②】はマーケティングの世界だとしてきた。だが、これではイノベーションを狭くとらえすぎているのではないかと反省した。【象限①】や【象限②】でもイノベーションはありうる。ただし、【象限③】のイノベーションにはアメリカ企業が強いのは事実である。【象限③】は人口・企業数によって需要が規定される象限ではないため、イノベーションがヒットすれば市場は指数関数的に増加する可能性を秘めている。一方で、何がヒットするかを事前に予測することが困難であるから、イノベーターは次々とイノベーションを市場に投下しなければならない。その結果、イノベーションが小粒になる恐れがある。日本の話になるが、新規性よりも一過性の奇抜さが重視され、「なぜこんなアプリ、映画、音楽、ドラマがヒットするのか?」と首をかしげたくなるイノベーションが増えているような気がする。
 現在、加速しているように見えるイノベーションは、既存のシステムを創造的に破壊するようなものというよりも、既存のシステムの上で新しい価値を付け足せるようなイノベーションであるということが考えられる。(中略)イノベーションが加速しているといっても、手近な果実の組み合わせばかりを追求しているということを示唆している。
(清水洋「加速するイノベーションと手近な果実」)
 一方で、【象限①】や【象限②】におけるイノベーションとは、既存の製品・サービスの技術を大幅に高めたり、既存の製品・サービスに取って代わる新しい技術を生み出したり、ビジネスモデルやビジネスシステムを抜本的に再構築したりするような大がかりなものである。したがって、【象限③】のイノベーションに比べると、普及に時間がかかる。前述の論文の著者の言葉を借りれば、【象限①】や【象限②】のイノベーションに必要なのは、以下の要素となる。
 これまで経済史の研究の蓄積から、大きな経済成長をもたらすのは、ジェネラル・パーパス・テクノロジーとそれについての累積的な改良であるということが明らかになってきている。(同上)
 本号で衝撃的だったのは、一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎教授が「アントレプレナーは育成できない」と断言していることだった。
 (※これまでの自身の)経験からいって「新しい事業を起こす企業家、すなわちアントルプルヌアの育成などはできない」というのが、筆者の率直な実感である。(中略)そもそも育成なんかできないのだから、誰でも彼でも起業にチャレンジさせ、そのプロセスでアントルプルヌアに仕上げることが重要となる。
(米倉誠一郎「企業の新陳代謝とクレイジーアントルプルヌアの輩出」)
 起業家教育に携わった人物が起業家教育を否定しているのだが、個人的にはそれでも起業家教育は必要だと思う。ただし、起業家教育を通じて起業家を輩出することが目的ではない。起業家教育という既存の枠組みに収まらない型破りな起業家を生み出すのが目的である。私はこれを「教育のパラドクス」と呼んでいる。私の直観だが、教育に投資すればするほど、既存の知識体系では物事を考えない人が現れる。そして、彼らが経済や社会の成長を牽引する。実は、彼らが実際に教育を受けたか否かは問題ではない。彼らは教育を受けなくても、既存のフレームワークを打破することがある。なぜそんなことが可能なのか今の私には解らないのだが、現にビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズはMBAを受けなくても世界を変えることができた。

2017年02月12日

日本企業が陥りやすい10の罠・弱点(1/2)

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組織図

 以前の記事「『一生一事一貫(『致知』2016年2月号)』―日本人は垂直、水平、時間の3軸で他者とつながる、他」、「山本七平『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条』―日本組織の強みが弱みに転ずる時(1)(2)」でも書いたが、日本社会は全体が巨大なピラミッド構造であり、垂直、水平、時間の3軸で緊密につながっている。垂直方向のつながりを見てみると、上の階層は下の階層に単に命令するだけでなく、下の階層の人々に対して、「あなたたちの目的を達成するために私に何かできることはないか?」と「下問」する。また、下の階層も単に上の階層の指示に従うだけでなく、「もっとこうした方がよい」と「下剋上」する(通常の下剋上の意味とは異なり、ここで言う「下剋上」は上の階層の排除を目的としない。下の階層はその階層にとどまったまま「下剋上」をし、上の階層は「君がそこまで言うなら自分でやってみなさい」と権限移譲する)。

 水平方向には「コラボレーション」が見られる。欧米に比べて、日本の組織では部門・職種を超えたジョブローテーションが盛んに行われる。個人の水平的な能力開発を促すと同時に、部門間の連携を強化するのが目的である。また、日本組織は外部との連携も強い。アメリカの業界団体がロビー活動を主目的としているのに対し、日本の業界団体は、同業者の間で自社の戦略や製品・サービス、技術などについて情報交換をするのが目的である。そうした交流から、時にライバル同士が手を組むこともある。アメリカ企業は、「自社で何でもできる」という優越感から、自前主義に走る傾向が強い。一方、日本企業は「自社の資源は限られている」という認識を持っている。そこで、自社に足りないリソースを調達するために、時に異業種とも積極的に連携する。

 日本組織は時間軸も重視する。現在は過去の重層的な経験の上に成り立つ。よって、改革によって組織全体を抜本的に変えるよりも、伝統に接ぎ木をすることで漸次的に組織を進化させる方を好む。もちろん、進化によって結果的に組織が大幅に変わることはある。だが、最初から改革を目的とするのではない。無限の改善の先に大きな改革が実現されると考える。こうした日本組織の歴史重視の姿勢を知らずに、欧米流の変革マネジメントを導入すると失敗する。以上が日本組織の大まかな理想である。しかし、こうした理想が崩れると、途端に弱みが露呈する。今回の記事では、企業に限定した話になるが、日本企業が抱える10のリスクをまとめてみた。

 ①階層構造が崩れるとリンチが出現する。
 日本社会は多重階層構造である。組織が多重化していると、情報が上から下(あるいはその逆)に流れるのに時間がかかり非効率だと考えられるのが一般的である。ところが、日本の場合は、この多重階層構造を死守しなければならない。というのも、この構造が崩れて社会がフラット化した瞬間、秩序が崩壊し、リンチが出現するからである。山本七平は日本陸軍でそのような経験をしたと語っている(以前の記事「山本七平『日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条』―日本組織の強みが弱みに転ずる時(1)(2)」を参照)。

 戦中・戦後ほどの強烈な体験ではないが、私もこのリンチ構造には思い当たる節がある。私は前職で外資系コンサルティングファームの出身者と随分と仕事をした。たいていの外資系コンサルファームは組織がフラット化している。こうした企業で起きているのは、上位者による下位者(若手コンサルタント)のリンチである。具体的には、「頭が悪いんじゃないか?」、「お前は全く使えない」、「死んだ方がましだ」などと延々と罵声を浴びせ、他人が見ている前で部下が作成したパワーポイントの資料を破り捨てる。そして、連日徹夜で作業をさせ、2、3年経って部下が疲弊した頃にポイ捨てするのである(もちろん、これが全てではないが)。組織がフラット化すると、上位者が持つ権限が大きくなる。日本人はそれを暴力的に行使してしまう。

 現在、国会では憲法改正が争点となっている。国民が理解しやすい「緊急事態条項」を入れるという案が挙がっているそうだが、個人的にはこの条項は止めておいた方がよいと思う。緊急事態条項とは、要するに大規模災害などの緊急事態時には、内閣に権限を集中させ、日本全体をフラット化するというものである。だが、その後に起きるのは、おそらく内閣による地方自治体のリンチであると私は予想する。緊急事態においては迅速な意思決定が求められるものの、それでも私は日本の多重階層構造をできるだけ維持すべきだと考える。

 ②顧客に共感しすぎて顧客を誤解する
 アメリカからは、顧客のニーズをよりよく理解するための手法として、ペルソナ・マーケティングやエスノグラフィー・マーケティングなどが輸入されてきた。また、P&Gの"Livin' It"(P&Gの社員が消費者の自宅で一定期間生活をともにすることで、消費者のニーズを探るというプログラム)といった事例が紹介された。ところが、これらのことは、実は日本企業が昔からやっていたことである。日本の消費者は世界一注文が多いと言われる。その”難しい”顧客を理解するために、日本企業は顧客の声に常に耳を傾け、顧客の行動をつぶさに観察してきた。

 端的に言えば、日本企業は顧客に共感するのが上手だということである。ところが、ここで1つ警告をしておかなければならないことがある。あまりに相手に共感しすぎると、相手の本心を誤解するリスクがあるという点である。以前の記事「『組織の本音(DHBR2016年7月号)』―イノベーションにおける二項対立、他」で、フォードが開発した「エンパシー・ベリー」という、妊婦の痛みなどを疑似体験できる装置について触れた。男性が妊婦のことを理解するために開発されたものであるが、疑似体験がリアルすぎると、かえって妊婦に対する誤解を助長する恐れがあると指摘されている。日本企業も、顧客に接近するのはよいが、接近しすぎるのは問題である。

 ③顧客を思いやるあまり、顧客に対してウソをつく
 心理学には「セルフモニタリング」という用語がある。セルフモニタリングが高い人はその場の状況に応じて言動を変える傾向が強く、逆に低い人は一貫した言動をとりやすい。セルフモニタリングが高い人ほど出世しやすいことも解っている。そして、研究によれば、日本は典型的なセルフモニタリング社会なのだという。常に他者のことを思って柔軟に行動するからであろう。ただし、セルフモニタリングが高いことには問題もある。他者のことを思うあまり、他者に正しい情報を提供せず、自己を正当化する傾向が強いのである。「この情報を顧客に伝えると、顧客が不安に思うかもしれない」―こういう心理が、品質問題の隠蔽などにつながる。

 通常、他者との関係を大切にするならば、客観的な情報を誠実に伝達することを重視するはずである。ところが、日本人は他者との関係を大切にするあまり、客観的な情報を曲げてしまう。企業がそういう態度を取る可能性があることを顧客が知ると、顧客は「あの企業は何か重要な情報を隠しているのではないか?」と不安になる。それが過熱すれば、「あの企業の製品・サービスには何か欠陥があるに違いない」という疑惑に変わる。本当は何の欠陥もないのに、悪評だけが口コミによって市場に伝播する。これが「風評被害」のメカニズムである。実は、風評被害という言葉は日本にだけ存在し、英語にもロシア語にも翻訳できないそうだ。

 ④顧客のニーズはこうだと勝手に思い込む
 ②では、日本企業が顧客に接近しすぎることを問題視したが、逆に顧客との距離が遠すぎるのも問題である。以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」でも書いたが、アメリカ企業はイノベーションに強い。イノベーションとは、ニーズを先取りするものであるから、伝統的な市場調査が通用しない。そこで、イノベーターは自分自身を最初の顧客に見立て、「自分だったらこういう製品・サービスがほしい」というものを形にする。そして、「自分がこれだけほしがっているものは、世界中の人もほしがるに違いない」と考えて、イノベーションを全世界に普及させる。もちろん、大部分のイノベーションは失敗に終わるのだが、アメリカ人の中には唯一絶対の神に選ばれた人がいて、彼が神と正しい契約を結ぶことができれば、そのイノベーションは成功する。

 日本企業はアメリカ企業の真似をしようとするが、残念ながら多神教文化に生きる日本人には、一神教文化が想定するような傑出した能力を持つ人はいない。日本人は平均的に優秀であるものの、多神教の神と同じくどこか不完全な部分を抱えているというのが前提で、飛び抜けた人材はいないのである(これは、抜群にIQが高い人にアメリカ人が多く、日本人は少ないという事実が示している)。だから、アメリカ流のイノベーションを起こすのはほぼ不可能だ。日本企業は、顕在化したニーズを丁寧に拾い上げて、それを製品・サービスにきめ細かく反映させていくというマーケティングの王道を歩むしかない。間違っても、例えば練馬区の商店街で外国人向けに練馬ダイコンを売ればよいなどと直感的に判断してはいけない(以前の記事「中小企業診断士が「臨在感的把握」で商店街支援をするとこうなる、という体験記」を参照)。

 (続く)

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2017年01月23日

【現代アメリカ企業戦略論(3)】アメリカのイノベーションの過程と特徴

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アメリカ

 前回の記事「【現代アメリカ企業戦略論(2)】アメリカによる啓蒙主義の修正とイノベーション」の続き。アメリカ企業は下図の<象限③>=必需品でなく、かつ製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さいものに強いと書いた。必需品ではないがゆえに、アメリカ企業は常に需要を創造しなければならない。これはイノベーションの働きそのものである。今回はアメリカ企業がどのようにイノベーションを起こすのかについて見ていきたいと思う。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

 <象限③>においては、まだ顧客のニーズが顕在化していないため、伝統的な市場調査が役に立たない。そこで、リーダーたるイノベーターは、自分自身を第一の顧客とする。「自分はこういう製品・サービスがほしい。自分がこの製品・サービスをこれだけ心の底からほしがっているのだから、世界中の人々も同じようにこの製品・サービスを欲するはずだ」と強く信じる。そして、そのイノベーションを世界中に普及させることを、唯一絶対の神と「契約」する。その契約を誠実に履行することを、アメリカ人は「自己実現」と呼ぶ。ただし、前回の記事でも書いた通り、その契約が本当に正しいかどうかを知っているのは、神だけである。よって、正しい契約を結んだごく一部のイノベーターだけが大成功を収め、その背後には無数の屍が累積する。

 リーダーは、契約=未来の目標を達成するために、今何をすべきかという順番でアクションを検討する。つまりここでは、時間が未来⇒現在へとバックキャスティング的に流れ、現在と未来が強い因果関係で結ばれる。これはアメリカ人の大きな特徴の1つである。逆に、日本人はバックキャスティング的な発想が苦手である。日本人の中では、時間は現在⇒未来へと流れる。現在において、望ましい行動を1つ1つコツコツと積み重ねていけば、自ずと望ましい未来に到達すると信じる。現在と未来の因果関係は、アメリカ人の場合に比べるとはるかに弱い。

 <象限③>は市場規模も顧客ニーズも予測が困難である。一人で同じ製品・サービスをいくつも購入する顧客がいたりする。日本の例になるが、AKB48との握手会に参加したいがために、同じCDを1人で何十枚も購入するコアなファンがいる。こういう人がいると、市場規模の予測は難しくなる。予測困難な状況で成功の確率を上げるには、とにかく次から次へと新しいイノベーション(製品・サービス)を市場に投入して、市場の反応を見るしかない。しかも、<象限③>の製品・サービスは全方位的な競争となる。例えば、金曜日の夜にお金が余っていたら、映画を見に行くか、アーティストのコンサートに参加するか、家でバラエティのDVDを見るか、漫画を大人買いして家で読むかという選択をするだろう。これらの製品・サービスは全て競合関係にあたる。

 <象限③>では、どういうイノベーションが成功するのか、その定石を見定めるのに苦労する。ただ、いくつか基本となるポイントがあるように思える。1つ目は、繰り返しになるが、イノベーターの「好き」という思いを新製品・サービスに余すところなく反映させることである。イノベーションを勧める人がそのイノベーションを気に入っていなかったら、他の人はそのイノベーションを購入しようとは思わない。2つ目は、顧客に敢えて不自由、非効率を味わわせることである。ディズニーランドではアトラクションに乗るのに何時間も待たされる。それでも、長く待つがゆえに楽しみが倍増するという側面がある。音楽も記憶に残るのはたいていの場合サビだけだが、サビだけでは音楽として成立しない。Aメロ、Bメロがあってこそのサビである。

 3つ目は、1つ目とも関連するが、顧客価値にほとんど貢献しない箇所で、イノベーターが異常なこだわりをイノベーションに組み込むことである。Appleのスティーブ・ジョブズがコンピュータの裏側の配線の美しさにこだわったのは有名な話である。また、日本の例になるが、私が好きな「水曜どうでしょう」という北海道のローカルバラエティ番組では、藤村忠寿ディレクターが字幕のつけ方に異常なこだわりを持っている。通常の番組であれば、2~3行の字幕スーパーを一度に表示させるのだが、水曜どうでしょうの場合は1行ずつ縦書きで丁寧に字幕を表示させる。

 イノベーションは誰も見たことがなく、聞いたことがないものであるため、必ず賛否両論が巻き起こる。ここに、イノベーションをめぐる二項対立が発生する。イノベーションに多くの人が賛同する一方で、そのイノベーションに強い嫌悪感を示す人も多数現れる。だが、イノベーションにとっては、二項対立が生じた方が都合がよい。というのも、敵から攻撃されると、イノベーションの味方はより結束力を強め、イノベーションへの忠誠心を高めることになるからだ。ここで重要なのは、二項対立においては、相手を完全に打ち負かそうとはしないという点だ。相手を倒すと他者を否定することになり、自己のアイデンティティを規定するものが失われてしまう。

 興味深いことに、市場における二項対立に加えて、イノベーションを起こす組織内でも賛否両論の二項対立が生じる。マイケル・P・ファレルは、アートや社会の分野に―特に、「優れたアート」の定義に疑問が投げかけられた場合に―2人組によるブレークスルーが存在することを示した。ファレルは、2人組の仕事では「効果のある親密さ」が生まれて、共感を示しつつ建設的に批判し合うことができると説いた(”Collaborative Circles: Friendship Dynamics and Creative Work”)。企業の例で言うと、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアック、セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、ビル・ゲイツとポール・アレンといった組合せが二項対立に該当する。

Collaborative Circles: Friendship Dynamics and Creative WorkCollaborative Circles: Friendship Dynamics and Creative Work
Michael P. Farrell

University of Chicago Press 2003-11

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 イノベーションを全世界に普及させるために、多くのアメリカ企業はトップダウンのリーダーシップと分権化を組み合わせる。分権化のメリットは、トップのリーダーシップだけでは到底影響力が及ばない世界各地に対して、現地の組織がトップから移譲された権限を活用してイノベーションを広めることができる点にある。分権化された現地のスタッフは、イノベーションのエバンジェリストとして、イノベーションの普及(布教と言ってもよい)に努める。この方が、トップのリーダーシップだけに頼るよりもずっと早く目標を達成できる。それに、分権化によって、現地スタッフのモチベーションを向上させることができるというもう1つの効果もある。

 日本の組織も、伝統的に現場が強く、また、ミドルマネジャーが「ミドル・アップ・ダウン」という言葉の通り、組織内を自由に動き回る。つまり、トップよりもミドルや現場に権限が委譲されている。そういう意味では分権化が進んでいるとも言える。だが、アメリカの分権化はできるだけフラット型組織との両立を志向するのに対し、日本企業は多重階層構造を志向するという違いがある。アメリカ企業の目的はイノベーションの迅速な普及であるが、日本企業の目的は組織の安定である。多重階層構造によりポジションを多数連鎖させることで、多少愚かな人間が混じっていても、他の人間がそれをカバーし、組織を安定させる。アメリカ企業は採用段階でエバンジェリストたり得る人材を厳しく見定めるが、日本企業は大勢採用してその全員を使いこなそうとする。

 <象限③>のイノベーションの中には必需品化して<象限①>や<象限②>に移行する製品・サービスもあるが、大半のイノベーションは非常に短命である。端的に言えば、顧客がイノベーションに飽きるのである。リーダーがイノベーションを全世界に普及させるという神との契約を達成した後、企業は静かに衰退していくのみである。株主は企業に対し、新しい投資先がないのであれば自社株買いによって株価を引き上げよと注文をつける。企業の経営者も、イノベーションが全世界に普及したという最高のタイミングで、最も高値で企業を売却する。こうして、イノベーターは巨額の富を手に入れ、早々に引退してセカンドライフを送ることになる。

 先ほど、イノベーターは成功確率を上げるためにイノベーションを次から次へと市場に投入しなければならないと書いた。イノベーターの中からは、自分がお金を払ってでもいいから、自分のイノベーションを世界に広めたいと願う人が出てくる。ここで、そのようなイノベーターを束ねるプラットフォーム企業が登場する。Google PlayやApp Storeはその典型である。アプリ開発者は、GoogleやAppleにお金を払ってでも、自分の開発した革新的なアプリを世界中の人に使ってもらいたいと思っている。通常、GoogleやAppleから見てアプリ開発者は仕入先に該当するから、両社がアプリ開発者にお金を支払うはずだ。だが、プラットフォーム企業はお金の流れを逆転させている。通常の小売業なら違法なリベートとされるものが、ここでは合法化されている。

 <象限③>は、市場規模や顧客ニーズが予想しづらい領域だと書いた。ということは、普通に考えればデータ分析が難しい領域である。ところが、アメリカ企業は<象限③>にデータ分析を持ち込む。例えば、どういう映画がヒットするかを真面目にモデル化する。そして、映画がヒットするかどうかは、台本の内容や配役によってではなく、単に映画のタイトルで決まるという結論を得たりする(イアン・エアーズ『その数学が戦略を決める』〔文藝春秋、2007年〕より)。

その数学が戦略を決めるその数学が戦略を決める
イアン・エアーズ 山形 浩生

文藝春秋 2007-11-29

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 アメリカ企業は、イノベーションを全世界に普及させる段階でもデータを活用する。イノベーターのマーケティングは、これだけOne to OneマーケティングやCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)の重要性が説かれているにもかかわらず、世界を単一市場と見なして、単一の製品・サービスを提供するマス・マーケティングである。その過程で、まだ自社のイノベーションを受け入れていない顧客層は誰か、彼らがイノベーションを受け入れるためにはどのようなプロモーションを実施すればよいかなどをめぐり、詳細なデータ分析を行う。これは、イギリスが植民地支配に際して、イギリスが正義と考える自由、平等、人権、民主主義などを根づかせるために植民地の情報を緻密に収集・分析したインテリジェンスの名残であろう。

 プラットフォーム企業は、自らのプラットフォームの価値を高めるためにデータ分析を行う。消費者は、他人と同じものを使いたいという欲求と、自分だけのオリジナルのものを使いたいという相反する欲求を持っている。プラットフォーム企業はこの両方のニーズにデータ分析で応える。他人と同じものを使いたいという欲求に対しては、ランキングを作成して人気の高い製品・サービスの購入を促す。一方、自分だけのオリジナルのものを使いたいという欲求に対しては、プラットフォームに登録された膨大な製品・サービスの中からレコメンデーション機能を活用して、その人の好みに合わせたものを勧める。こうして、消費者を完全にプラットフォームの虜にする。

 ちなみに、日本は<象限②>に強い。この象限の製品・サービスは生活必需品であるから、反復購入される可能性が高く、顧客ニーズも予想しやすい。この場合、データ分析と経験を組み合わせることで予測の精度を上げることができる。ところが、日本企業はあまりデータを活用しないように感じる。売上高や利益と因果関係の深い要因を追究して、その要因に資源を集中投入するということをやらない。むしろ、「会社として善いこと」、さらには「人として善いこと」を重ねれば、自ずとよい結果が得られると信じている。1つ1つの行為は小さくても、それが何百、何千と積もれば、成功の確率は上がると考える。日本企業の5S重視はその最たる例であろう。

 不思議なことに、<象限③>で戦うアメリカ企業がデータを重視し、<象限②>で戦う日本企業がデータを軽視するという、パラドキシカルな現象が起きているのである。


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