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「社員の失敗に対して寛容になる」とはこういうことかと改めて思い知らされた一件
「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)
『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2017年06月19日

「社員の失敗に対して寛容になる」とはこういうことかと改めて思い知らされた一件

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失敗

 社員が新規事業やイノベーションに積極的に取り組むようになるためには、失敗を罰せず、失敗に対して寛容な組織文化を醸成することが重要であると言われる。個人的には、IBMの創業者であるトーマス・ワトソン・Sr.の話が好きである。ある若手マネジャーは、リスキーなベンチャーで失敗をし、1,000万ドルの損失を出してしまった。ワトソンのオフィスに呼ばれたそのマネジャーはすっかり恐れをなして辞表を出したが、ワトソンはこう言ってはねつけた。「とんでもない。教育のために1,000万ドルを使った後で、君を手放すとでも思っているのかね?」

 日本でも似たような話がある。現在GUの代表取締役である柚木治氏は、2000年代初頭にユニクロが農業に参入した時の責任者であった。ご存じの通り、ユニクロは26億円の損失を出して農業から撤退した。柚木氏は柳井正氏に責任を取りたいと申し出たところ、柳井氏は「お金を返してください」という独特の言い回しで慰留し、辞めさせるどころかGUの責任者に任命した。

 この2つの事例に比べるとはるかに損失は小さいものの、その損失に対して組織の責任者が寛容に対処したケースを最近体験したので、そのことを記しておく。私は色々な非営利組織に所属しているが、そのうちの1つの組織で起きた事例である。ある時、役員会(私も参加していた)に対して、役員ではない若手のメンバーから、「広報活動の一環として、Twitterを活用してはどうか?」という提案があった。ところが、役員会のメンバーに高齢者が多く、Twitter自体がどんなものか知らない人が多かった(このご時世にそれはそれでどうかと思うが)。そのため、その役員会では議論が進まず、次回の役員会で実際にTwitterの画面を見ながら議論することにした。

 2回目の役員会では、提案者である若手メンバーが、Twitterを活用して顧客と良好なコミュニケーションを行っている大企業のアカウントの事例をいくつか紹介し、非営利組織における活用方法を提案した。だが、それでも役員会のメンバーにはTwitterの活用イメージが具体的に湧かなかったようである。仮にこの非営利組織のアカウントを作成して、提案者である若手メンバーに運用を任せた場合、彼のツイートがこの非営利組織の見解を代表していると見なされることに抵抗感を示す役員がいた。それよりも問題になったのは、役員はTwitterを使って炎上したというニュースだけは知っているため、「炎上した時には誰が責任を取るのか?」、「そもそも、『炎上している』と認定するのは誰なのか?」などといった点であった。

 実は、役員会が開かれていた非営利組織には上位組織があり、議論を行っていた非営利組織はその上位組織の一部門でしかなかった。つまり、東京に本社がある企業において、大阪営業部が自発的に大阪営業部のTwitterアカウントを作成するようなものである。この場合、仮に大阪営業部のアカウントが炎上したら、大阪営業部の責任者が謝罪をするだけでは済まされない。当然のことながら、東京本社の経営陣が謝罪のメッセージを発表しなければならないだろう。それと同じような運用を、この非営利組織の上位組織に期待することは難しいと懸念された。

 2回目の役員会でも結論が出ず、もう一度日を改めて役員会で議論することになった。だがやはり、炎上した時などのリスクマネジメントが十分にできないという理由で、この若手メンバーからの提案は却下された。役員会の議長を務めていた非営利組織の責任者は、現場からの提案を積極的に歓迎するタイプであったため、この結末には少々がっかりしたようである。

 私は、若手メンバーが積極的に提案したという姿勢は素晴らしいと思う反面、中身を十分に詰めないまま会議にかけたのはあまりよくなかったと思う。リスクという点に関して言えば、役員会の議論では出てこなかったが、反社会的勢力のアカウントとつながってしまうというリスクが考えられる。アカウントをフォローして仲良くツイートし合っていたら、実は相手が反社会的勢力のメンバーだったという可能性がある。すると、この非営利組織は反社会的勢力と関係がある団体だという、全く意図しなかったメッセージを発してしまうことになる。

 それよりも、今回の提案の大きな問題は、計画の中身があまりにも不明確であったことだと私は思っている。提案者はこの非営利組織の知名度を上げることが目的だと説明していたが、具体的にどのセグメントに対してメッセージを送るのか?彼らに対して、この非営利組織についてどのようなイメージを形成してもらいたいのか?彼らにアプローチする手段として、なぜTwitterが最も最適だと言えるのか?仮にTwitterが最適だとして、彼らにこちらが狙っているイメージを形成してもらうために、具体的にどのようなツイートをするのか?ツイートの頻度はどのくらいが適切なのか?広報活動の成果をどのように定量的に測定するのか?フォロワー数なのか、ツイートの平均リツイート数なのか?目標とするフォロワー数を獲得するために、どのような仕掛けをするのか?などといった点が一切説明されなかった。これでは役員会を通すのは難しい。

 3回にわたって役員を拘束し、結局前向きな結論が得られなかったという点では、今回の提案は残念ながら失敗であったと言わざるを得ない。IBMやユニクロの例とは比べ物にならないが、潜在的な損失もそれなりに発生している。だが、今回の話にはまだ続きがある。

 この非営利組織では、年に1回「チャレンジ賞」という表彰を行っている。これは、その年に非営利組織の事業の発展に大きく貢献したメンバーを他薦によって選出し、年1回の総会において、責任者が大勢のメンバーの前で表彰するというものである。今年のチャレンジ賞に選ばれた人のうちの1人が、今回Twitterの活用を提案した若手メンバーであった。しかも、最も多くの他薦を受けたのだという。彼は少々困惑した表情を浮かべていたが、私は「組織が失敗に対して寛容になる」というのはこういうことなのだろうと感じた。役員会の議論は非常にタフなものである。しかし、今回のTwitterの件で懲りずに、他の若手メンバーからも積極的に提案が上がってくるとよいと思う(ただし、もう少し事前によくプランを練ってほしいという注文だけはつけておきたい)。

 (※)最近、どんどん1本の記事が長くなっているため、今回は短めにしてみた。

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2017年05月26日

「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)

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 《参考記事》
 森本あんり『反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体』―私のアメリカ企業戦略論は反知性主義で大体説明がついた、他
 【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論
 『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案

製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

製品・サービスの4分類(②各象限の具体例)

製品・サービスの4分類(③具体的な企業)

 相変わらずこのマトリクス図のことを考えているわけだが、以前の記事「『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案」で施した修正はやはり解りにくかったと反省した。マトリクスの縦軸は、「人口・企業数によって需要が予測しやすいか?」よりも、「必需品か否か?」の方がやはりシンプルである。よって、元に戻すこととした(表現は少し変えてある)。

 ここで、必需品とは何かが問題になるわけだが、個人の場合は「衣食住と健康・移動に関する製品・サービス」ととらえることができる。ここに+αで、生活の質を高めるための教育とニュースメディア、日常生活のリスクをカバーする金融(保険)を加えてもよいだろう。食品、日用品、白物家電などは、製品に多少の欠陥があっても顧客の生命が脅かされることは稀である(もちろん、ゼロとは言わない)。他方、自動車や住宅、医薬品などについては、欠陥があると顧客が死亡する危険性がある。また、社会的インフラが停止すれば、我々の生活は破綻してしまう。

 法人にとっての必需品は、「経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)の調達・活用に関する製品・サービス」である。産業機械はモノを活用する製品である。物流は企業がモノを調達するためのサービスである。IT(BtoBの基幹業務システム)は企業が情報を収集・活用するためのサービスである。先ほど挙げた以前の記事では【象限④】に金融(預金・貸出)を入れていたが、金融機関の預金・貸出機能は必要不可欠な経済的インフラであり、これが停止すると企業はたちまち潰れるため、【象限②】に移動させた。法人にとっての必需品は、いずれもその供給が停止すると事業に甚大な影響が出ることから、【象限②】に該当するものが多い。

 あってもなくてもよい=非必需品は【象限③】と【象限④】である。【象限③】にあった「金融(証券)」は次のように修正した。証券のうち、企業が資金調達のために発行する株式や債券は、企業の事業継続にとって必須であり、かつ株式や債券が思い通りに発行できなければ企業の存続が危ぶまれるため、「金融(資金調達的証券)」として【象限②】に入れた。一方で、【象限③】には「金融(投機的証券)」を入れた。これはその名の通り投機的な目的、より平たく言えばお金儲けのために行う投資のことである。こうした投資は資産に余裕がある人がやるものであり、仮に投資に失敗しても投資家が死ぬことはない(損失額の大きさにショックを受けて自殺する人はいるかもしれないが)。なお、【象限④】に軍事を入れている点は変わらない。

 3つ目の図は、2017年3月末時点での「世界時価総額ランキング」の上位20社をそれぞれの象限にあてはめたものである。同じ金融機関でも、ウェルズ・ファーゴ、中国工商銀行、バンク・オブ・アメリカは【象限②】に入れているのに対し、JPモルガン・チェースは【象限③】に入れている。JPモルガン・チェースは商業銀行部門を抱えているものの、同時に世界最大の投資銀行部門を有しており、事業の中心がどちらかと言うと後者にあるためである。サムスン電子は、【象限①】に該当する家電部門も抱えているが、収益の大半をスマートフォンが稼ぎ出しているので、【象限③】に位置づけた。なお、【象限④】に該当する企業はない。

製品・サービスの4分類(④マーケティング戦略の違い)

 上図は、各象限のマーケティング戦略の違いを簡単に表したものである。まず、アメリカが強い【象限③】から説明するが、【象限③】は以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」でも書いたように一神教的な世界である。【象限③】は必需品ではないから、需要を一から創造しなければならない。よって、伝統的な市場調査は役に立たない。そこで、カリスマ的なリーダーは、自分を世界で最初の顧客に見立て、「自分ならこれがほしい」と強く思う製品・サービスを形にする。そして、自分の信じるイノベーションを世界中に普及(布教)させることを神と契約する。イノベーターは、あらゆる顧客セグメントに対して、単一の製品・サービスを提供する。ただし、神との契約が本当に正しいかどうかは、リーダーには解らず、神のみぞ知る。

 リーダーは、自分こそが神と正しい契約を結んだイノベーターであると自負して、競合相手を激しく攻撃する。また、自分の考えたイノベーションは世界中の人々にも受け入れられるはずだと信じて、ベンチャーキャピタルや株式市場から調達した潤沢な資金を使い、世界中で半ば強引なマーケティングを行う(個人的に、”ごり押し”マーケティングと呼んでいる)。その激しい競争を勝ち抜いたわずか数社が、全世界の市場を制覇する。勝利を収めた企業が、なぜ成功することができたのかと問われれば、リーダーなどの当事者は「自分が並々ならぬ努力したからだ」と答えるだろうが、実際のところは「神に選ばれたから」というのが答えである。つまり、運がよかったということだ。だから、他社が【象限③】の企業を単純に真似をしても、成功することはできない。

 【象限③】の企業は、全世界の人々を顧客にすることを狙って”ごり押し”マーケティングを実施した結果、一部の熱狂的なファンを獲得すると同時に、強烈なアンチも生み出す。世界中の人々にイノベーションを普及させるという当初の目的からは外れてしまうが、【象限③】の企業にとってはこれでよい。一部の熱狂的なファンが貴重な収益源となる。また、アンチから攻撃されればされるほど、熱狂的なファンは企業を攻撃から守るために団結する。つまり、ブランドに対するロイヤルティが高まる。ブランド・ロイヤルティの高い一部の熱狂的なファンは、そのブランドに対する消費を惜しまない。その消費額には際限がないため、【象限③】では市場規模を正確に予測できない。日本の例になるが、AKB48がCDに握手券をつけて販売すれば、熱狂的なファンの中には同じCDを何十枚も購入する人が出てくるため、CDが何枚売れるかは全く読めない。

 【象限③】の企業の課題は、成功するかどうかが神の采配次第であり、非常にリスクが高いということである。だから、【象限③】の企業は、できるだけ自社で正社員を抱えずに、プロジェクトごとに必要な人材を外部から調達し、プロジェクトが終了すれば解散するようなやり方を好む。プロジェクトのメンバーは、企業と雇用契約ではなく、業務委託契約を結ぶ。こうしておけば、企業に不都合なことが生じた際に、すぐに契約を解消することができる。芸能事務所とタレントの関係がまさにこれである。この場合、タレントの地位が非常に不安定なものになるため、最近は日本で俳優の労働組合を作ろうという動きがあるようだ(アメリカには、芸能人やハリウッドの俳優が加入できる"SAG-AFTRA"という労働組合が存在する)。

 【象限③】におけるリスクを回避するもう1つの方法は、自社がイノベーションのプラットフォームになるということである。【象限③】では、成功を夢見て多数のイノベーターが自分のイノベーションを世界中に売り込もうとしている。すると、彼らの中には、自分がお金を払ってでもいいから、自分のイノベーションを世界に広めたいと考える人が現れ始める。プラットフォーム企業は彼らのニーズに目をつけ、イノベーターと世界中の顧客を結ぶプラットフォームを構築する。

 古典的には、出版社のビジネスモデルがこれに該当する。出版社は自社のリスクを低減するために、著者からお金を取る。一般的に考えれば、著者は出版社から見て仕入先にあたるから、出版社から著者に対してお金を支払うはずだ。だが、特に無名の著者の場合は、お金の流れが逆転する(もちろん、本が売れれば出版社は著者に印税を支払う)。AppleやGoogleはスマートフォンを販売しているが、スマートフォンの本質は通話機能ではなく、アプリのプラットフォームにある。AppleやGoogleはユーザからお金を取ると同時に、アプリの開発者からもお金を取る。プラットフォーム企業は、どの製品・サービスが売れるかどうかを気にする必要がない。とにかく世界中からたくさんのイノベーションを集めて自社のプラットフォームに乗せ、あとは世の中の流行り廃りに任せておけばよい。Amazonのマーケットプレイスもこれに似ている。

 【象限①】、【象限②】は多神教的な世界である。多神教的な世界とは、企業や顧客に様々な神が宿る世界である。また、唯一絶対の一神教の神とは異なり、多神教の神は不完全である。企業に宿る神は、自社が何者であるのか、自社の強み、コア・コンピタンスは一体何なのかを教えてくれる。ところが、神が不完全であるがゆえに、その答えもまた不完全である。企業は自社のアイデンティティを深く知るために、学習(修行)を重ねなければならない。最も効果的な方法は、自社とは異なる神を宿しているであろう顧客や企業と積極的に接することである。よく言われるように、良質な学習は、異質との出会いから生まれるからだ。

 【象限①】は、必需品であり、かつ品質に対する要求水準が高くないため、コモディティ化しやすい。コモディティ化が進むと、新興国企業が低コストを武器に参入してくる。新興国の財閥企業は、特定の顧客セグメントをターゲットとして、【象限①】に該当する様々な製品・サービスを提供する。一方で、新興国においても先進国においてもそうであるが、【象限①】は自国の雇用の受け皿となる業種が多いことから、大規模企業や外資企業の参入が規制される場合がある。そのため、世界的な企業が生まれにくい。逆に、中堅・中小企業が乱立している。3つ目の図で、【象限①】に該当する企業が【象限②】や【象限③】に比べると少ないのはそのためである。

 財閥企業は資金力を活かして多角化し、異質な製品・サービスに触れることで学習を進められる。だが、【象限①】の大部分は、特定の顧客セグメントに対し、特定の製品・サービスを提供する中堅・中小企業である。彼らが学習を行う方法としては、同じ顧客セグメントをターゲットとし、自社とは異なる製品・サービスを提供する他社との水平連携が挙げられる。ショッピングセンターや商店街はその典型例である。ショッピングセンターや商店街においては、自社単独の力ではなく、他店舗と協力して全体としていかに魅力を高めていくかを考えることが重要となる。

 【象限①】における企業の課題は、製品・サービス自体の難易度がそれほど高くないことから、自社内に多くの階層を設けることができないという点である。つまり、昇進によって社員を動機づけることが難しい。飲食店であれば、スタッフ、店長、エリアマネジャーぐらいの階層しかない。この課題をクリアするためには、まずは異分野へ進出して、水平異動の道を作るということが考えられる。それが難しい場合は、例えば商店街内で店舗を超えた人材交流を行うという手もあり得る(どれほど実現可能か自信がないが)。要するに、縦への異動で新しいことに挑戦させるのが難しければ、横への異動で新しいことに挑戦させ、動機づけを図ろうというわけである。

 【象限②】では日本企業が強い。あるカテゴリの製品・サービスを、あらゆる顧客セグメントに提供する。トヨタが「いつかはクラウン」というキャッチコピーで、世代ごとに様々な車種を揃えたのが解りやすい例である。まずこの点で、【象限②】の企業は異質との学習を達成している。

 次に、【象限②】の製品・サービスは品質要求が厳しく、自社だけで完成させることが難しいため、多くの下請・協力企業を活用することになる。自動車、建設、IT(BtoBの場合)では多重下請構造が見られる。最終メーカーと下請企業との擦り合わせもまた、異質との学習である。こういう有機的な下請構造を構築できる企業は限られるので、【象限②】では各国において複数企業による寡占が生じやすい。また、【象限③】では”ごり押し”マーケティングで競合他社を激しく攻撃するが、【象限②】においては時に競合他社との協業が起きる。自動車業界では、A社がB社にエンジンを供給するなどの関係が数多く存在する。これもまた、異質との学習と言えるであろう。

 【象限②】の課題は、異業種との接点が少ないことである。前述の通り、【象限②】の企業は既に多くの面で異質との学習を達成していることから、異業種から学ぶインセンティブが低いのかもしれない。今までは自社が得意とする製品・サービスに特化していればよかった。だが、これからは異業種とのコラボレーションが重要課題となる。トヨタはグーグルと提携して自動運転車の開発をしているし、金融機関はIT企業と提携してFintechの研究を進めている。IT業界は他の業界との協業が比較的やりやすい業界なのかもしれないが、今後は例えば自動車×建設、医療×金融といった、一見どういう点で結びつくのか解らないような業種の組み合わせでのコラボレーションを追求することが重要な課題になると考えられる。

 これで、「製品・サービスの4分類」は大分完成に近づいたと思うが、それでもまだ私の頭を悩ませる例外がいくつも存在する。まずはMicrosoft(MS)である。パソコンは、発売当初はあってもなくてもよい【象限③】の製品であったが、今や日常生活に欠かせない【象限①】の製品となった(WindowsやOfficeは頻繁にフリーズするが、ユーザの生命を脅かすわけではないため【象限①】だと言える)。通常、【象限①】では前述の通り中堅・中小企業が乱立する。だが、MSは未だに圧倒的なシェアを占めている。本来であれば、【象限③】から【象限①】に移動するにつれて、様々なOSが登場し、OS間の互換性を担保するソフトウェアも開発されてしかるべきである。しかし、MSは(EUから何度も独禁法違反で訴えられているのに、)その道を巧みに封じている。

 コカ・コーラとマクドナルドは【象限①】なのか【象限③】なのかも難しい問題である。個人的には、いずれもあってもなくてもよいものだとは思う。【象限③】に位置づけた方が、両社の特徴を説明しやすい。コカ・コーラはライバルのペプシコと市場を二分しており、お互いに相手のことを広告で激しく攻撃する。マクドナルドはショッピングセンターや商店街の中にも入っているが、「アメリカのハンバーガー文化」を世界に普及させることを目的としており、他社との連携には消極的であるように見える(その点、日本マクドナルドはよくドコモと提携したと思う)。

 だが、炭酸飲料の中でコーラだけを【象限③】として扱うのは無理があるから、やはりコカ・コーラは【象限①】に該当するのだろう。日本コカ・コーラは、コカ・コーラ以外にも、消費者にとってより必需性が高い様々なジャンルの飲料水を発売して、水平方向に拡大している。マクドナルドも、マクドナルドだけを飲食店の例外とする合理的理由が見当たらないので、【象限①】に入れるべきなのだろう。とすると、近年業績が安定しないマクドナルドが今後も持続的に成長するには、【象限①】の特徴である水平連携をいかにして実現するかが課題となるように思える。

 プラットフォーム型ビジネスは【象限③】の特徴であるが、最近は【象限①】や【象限②】でもプラットフォーム型ビジネスが見られる。一例としてはクレジットカードが挙げられる。VisaやMasterCardなどは、そのブランドを全世界に浸透させることを狙い、最初は一部のお金持ちだけが使っているものであった。また、決済システムにもさほど高度な要件は求められなかった。システムに障害が起きても誰も注目しなかった。つまり、典型的な【象限③】のサービスであった。

 だが、現在のクレジットカード会社は、高額決済をする従来の加盟店に加えて、少額決済の加盟店をどんどん増やしている。また、今や誰もがクレジットカードを所有しており、個人会員向けには、会員の収入に応じて様々なステータスが用意されている。クレジットカードは、オフラインの世界のみならずオンラインの世界においても、必要不可欠かつ高度な決済プラットフォームを提供する。システム障害は世界中の取引に影響を及ぼすため、絶対に避けなければならない。この点で、クレジットカードは、【象限③】から【象限②】に移動したサービスであると言える。

 Amazonは書籍のECからスタートしたため、私は【象限③】に位置づけたのだが、近年は食品や日用品、雑貨など製品カテゴリーを拡充して【象限①】に進出している。【象限③】で培ったプラットフォーム型ビジネスのノウハウを、【象限①】でも存分に活用している。また、Amazonはソフトウェア開発者向けにAWS(Amazon Web Service)というPaaS/IaaSのプラットフォームを開発しており、誰でもクラウド型のWebサービスを開発することができる。AWSは個人が趣味でアプリを開発するだけでのものではない。企業が基幹業務用システムとして使えるほどの十分な信頼性とセキュリティを実現している。つまり、【象限②】への進出を果たしていると言える。

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2017年03月30日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―「製品・サービスの4分類」に関する修正案

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一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」で以下の図を用いてきたが、「必需品か否か?」という縦軸が非常に曖昧であるという問題意識を持っていた。必需品と言うと、普及率が高い製品・サービスを想起しがちだが、私が下図の「必需品でない」という言葉で意図していたのは、1人1台などの制約を超えて、その製品・サービスが好きな人はとことんそれを購入するということであった。この点が「必需品ではない」という言葉ではどうも上手く伝わらない。また、【象限③】の具体的企業としてマイクロソフトを入れたのも、【象限③】はイノベーションに強いアメリカの企業が多いことを示すための苦肉の策である。前述の「必需品でない」という言葉の意味からすると、MSの製品を何台も買う人はいないから、【象限③】に入れるのには無理があった。

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(修正)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)
 (※)世界の時価総額トップ20の企業を各象限にあてはめたもの。
製品・サービスの4分類(修正)

 そこで、上図を以下のように修正してみた。縦軸は、「人口・企業数によって需要が予測しやすいか?」である。【象限①】の日用品や食品、白物家電、【象限②】の自動車や住宅などは、人口によって需要がある程度予測できる。よほどの大食漢でもない限り1日5食も6食も食べないし、よほどの物好きでもない限り自動車を5台も6台も所有しない。以前の図では金融(保険)を【象限③】に入れていたが、生命保険を2つも3つも契約する人はいないから、【象限①】に移動させた。以前の記事でも書いた通り、【象限①】は「製品・サービスの欠陥が顧客の生命・事業に与えるリスクが小さい」ため、参入障壁が低く、比較的中小のプレイヤーが過当競争を繰り広げる傾向がある。近年、保険の種類は爆発的に増えており、【象限①】の特徴にも合致する。

 【象限③】から【象限①】に移動させたもう1つの例がMSである。前述のように、パソコンの需要は人口や企業数によってある程度予測がつくというのがその理由である。ただし、【象限①】では比較的中小のプレイヤーが過当競争を繰り広げるという傾向に反して、MSは未だに世界で独占的地位を占めている。MSだけは、私の頭を悩ます大いなる例外である。【象限①】の本来の特性に従えば、世界中で様々なOSが登場し、OS間の互換性を持たせるためのソフトも多数開発されるはずであるが、MSは戦略的にその道をふさぐことに成功している。

 【象限③】と【象限④】は、人口・企業数による需要予測が難しい製品・サービスである。スマートフォン、タブレットは、本体自体は人口による制約を受けるものの、スマホやタブレットのビジネスの本質はアプリにある。アプリが好きな人は次々とアプリをインストールするし、ゲームにはまった人はどんどん課金をする。スマホやタブレットのビジネスは、こうしたコアな顧客層に支えられている(この点がパソコンと異なる)。エンタメ、テレビメディア(主に娯楽関係)、映画、音楽に関しては、見たい人、聴きたい人はとことんはまり、関連製品・サービスをたくさん購入する一方で、興味のない人は全く見向きもしない。ブランド品や書籍、雑誌も同じである。証券についても、投資する人とそうでない人との間には、投資金額に雲泥の差がある。googleやfacebookを中毒のように使用する人もいれば、そういうものをほとんど使わない人もいる。

 【象限④】は、人口・企業数による需要予測が難しく、かつ、製品・サービスの欠陥が顧客・事業に与えるリスクが大きいという、最も経営が難しい象限である。以前の図ではここに軍事と航空を入れていたが、航空は人口によってある程度需要の予測がつく(飛行機が好きだからという理由で飛行機に乗りまくる人はいない)。そのため、航空は【象限②】に移動させた。代わりに、金融(預金・貸出)を【象限②】から【象限④】に移動させた。金融機関が預金と貸出によって実現する信用創造機能は、経済システムを支える根幹である。よって、ここに障害が起きると、経済全体が破綻する危険性がある。かつ、預金者は通常、持っている現金の大半を預金するし、企業は借りられる時に目一杯融資を受けようとするから、その需要は予測しづらい。

 軍事と金融(預金・貸出)は、他の業界に比べて特別な意味合いを持っている。金融(預金・貸出)は、前述の通り金融機関による信用創造機能と関連している。また、軍事は、特にアメリカにおいて顕著だが、よくも悪くもイノベーションの重要な源泉となっている。軍事上の発明が民生化されて世界中に普及した例は枚挙にいとまがない。

製品・サービスの4分類(大まかな分類)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例①)

製品・サービスの4分類(具体的な企業)

製品・サービスの4分類(各象限の具体例②)

 最後の図で、【象限①】と【象限②】は機能面重視、【象限①】と【象限③】は情緒面重視と書いたが、【象限②】は情緒面を、【象限③】は機能面を全く無視しているわけではない点は誤解がないように補足しておかなければならない。本号には以下の記述があった(ようやく本号の内容に触れることができた)。特に、日本企業が強みとする【象限②】において、情緒面のウェイトを高めていくことが今後は重要となるであろう。
 日本企業のなかでも、高い国際競争力を維持している自動車産業は、このアップルと同様の特徴を持つ。日本企業がものづくりに優れているのは他の産業でも同様だが、自動車の顧客価値はカタログ仕様を超え、主観的な好みが重要である。自動車を購入する場合には、カタログだけではなく、販売店でじっくり観察し、試乗する場合が多い。
(延岡健太郎「顧客価値の暗黙化」)
 今まで私は、イノベーションを【象限③】に限り、【象限①】と【象限②】はマーケティングの世界だとしてきた。だが、これではイノベーションを狭くとらえすぎているのではないかと反省した。【象限①】や【象限②】でもイノベーションはありうる。ただし、【象限③】のイノベーションにはアメリカ企業が強いのは事実である。【象限③】は人口・企業数によって需要が規定される象限ではないため、イノベーションがヒットすれば市場は指数関数的に増加する可能性を秘めている。一方で、何がヒットするかを事前に予測することが困難であるから、イノベーターは次々とイノベーションを市場に投下しなければならない。その結果、イノベーションが小粒になる恐れがある。日本の話になるが、新規性よりも一過性の奇抜さが重視され、「なぜこんなアプリ、映画、音楽、ドラマがヒットするのか?」と首をかしげたくなるイノベーションが増えているような気がする。
 現在、加速しているように見えるイノベーションは、既存のシステムを創造的に破壊するようなものというよりも、既存のシステムの上で新しい価値を付け足せるようなイノベーションであるということが考えられる。(中略)イノベーションが加速しているといっても、手近な果実の組み合わせばかりを追求しているということを示唆している。
(清水洋「加速するイノベーションと手近な果実」)
 一方で、【象限①】や【象限②】におけるイノベーションとは、既存の製品・サービスの技術を大幅に高めたり、既存の製品・サービスに取って代わる新しい技術を生み出したり、ビジネスモデルやビジネスシステムを抜本的に再構築したりするような大がかりなものである。したがって、【象限③】のイノベーションに比べると、普及に時間がかかる。前述の論文の著者の言葉を借りれば、【象限①】や【象限②】のイノベーションに必要なのは、以下の要素となる。
 これまで経済史の研究の蓄積から、大きな経済成長をもたらすのは、ジェネラル・パーパス・テクノロジーとそれについての累積的な改良であるということが明らかになってきている。(同上)
 本号で衝撃的だったのは、一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎教授が「アントレプレナーは育成できない」と断言していることだった。
 (※これまでの自身の)経験からいって「新しい事業を起こす企業家、すなわちアントルプルヌアの育成などはできない」というのが、筆者の率直な実感である。(中略)そもそも育成なんかできないのだから、誰でも彼でも起業にチャレンジさせ、そのプロセスでアントルプルヌアに仕上げることが重要となる。
(米倉誠一郎「企業の新陳代謝とクレイジーアントルプルヌアの輩出」)
 起業家教育に携わった人物が起業家教育を否定しているのだが、個人的にはそれでも起業家教育は必要だと思う。ただし、起業家教育を通じて起業家を輩出することが目的ではない。起業家教育という既存の枠組みに収まらない型破りな起業家を生み出すのが目的である。私はこれを「教育のパラドクス」と呼んでいる。私の直観だが、教育に投資すればするほど、既存の知識体系では物事を考えない人が現れる。そして、彼らが経済や社会の成長を牽引する。実は、彼らが実際に教育を受けたか否かは問題ではない。彼らは教育を受けなくても、既存のフレームワークを打破することがある。なぜそんなことが可能なのか今の私には解らないのだが、現にビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズはMBAを受けなくても世界を変えることができた。


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