このカテゴリの記事
【フェアコンサルティング】~GST導入直前~インド税務・会計・法務の最新動向と進出のポイント(セミナーメモ書き)
【東京協会国際部セミナー】外国人従業員が活躍できるビジネス環境とは?(セミナーメモ書き)
【森・濱田松本法律事務所】インド合弁パートナー間の紛争/合弁契約上の権利行使―合弁当事者間の仲裁事例を踏まえて(セミナーメモ書き)

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Top > インド アーカイブ
2017年07月19日

【フェアコンサルティング】~GST導入直前~インド税務・会計・法務の最新動向と進出のポイント(セミナーメモ書き)


インド国旗

 主催者のご厚意で「株式会社フェアコンサルティング」の無料セミナーに参加させていただいた。セミナーで勉強になったことのメモ書き。

 Ⅰ.インド会計・税務の最新動向
 ・インドでは7月1日から「GST(Goods and Service Tax)」と呼ばれる新しい税制が導入される。これにより、中央税のうち中央物品税、医療・トイレ整備にかかる物品税、特別重要品にかかる追加物品税、追加関税・相殺関税、特別追加関税、サービス税、物品・サービスに課されていた中央サーチャージおよび目的税、州税のうち州ごとの税、中央売上税、贅沢税、購入税、入境税、遊興税、広告・宝くじ・賭博・ギャンブルにかかる税、物品・サービスに課されていた州サーチャージおよび目的税など、多くの間接税が廃止される予定である。

 ・GSTとは、原材料の製造から最終消費者に届くまでの全ての段階において課される付加価値税である(消費税と基本的な仕組みは同じ)。州内の取引については、中央税であるGSTと州税であるGSTの双方が課され、それぞれ「CGST(Central GST)」、「SGST(State GST)」と呼ばれる。インド国内において州をまたぐ取引については、CGSTと対象州のSGSTが融合され、「IGST(Integrated GST)」と呼ばれる(IGSTはCGSTとSGSTの和にほぼ等しい)。

 ・簡単な仕訳の実例で見てみよう。
 ①A社は原材料をINR150,000で州外から購入した。
 ②A社は製品をINR150,000で州内で販売した。
 ③A社は製品をINR100,000で州外で販売した。
 ④A社はコンサルティングサービス料としてINR20,000を州内で支払った。
 ⑤A社は製品を生産するための資本財をINR50,000で州内で購入した。
 CGST=6%、SGST=6%、IGST=12%と仮定する。金額は全て税抜き。

 《ケース①》
借方 金額 貸方 金額
仕入
仮払IGST・・・①-1
150,000
18,000
買掛金 168,000
 《ケース②》
借方 金額 貸方 金額
売掛金 168,000 売上
仮受CGST・・・②-1
仮受SGST・・・②-2
150,000
9,000
9,000
 《ケース③》
借方 金額 貸方 金額
売掛金 112,000 売上
仮受IGST・・・③-1
100,000
12,000
 《ケース④》
借方 金額 貸方 金額
支払報酬
仮払CGST・・・④-1
仮払SGST・・・④-2
20,000
1,200
1,200
未払金 22,400
 《ケース⑤》
借方 金額 貸方 金額
備品
仮払CGST・・・⑤-1
仮払SGST・・・⑤-2
50,000
3,000
3,000
未払金 56,000

 ○CGSTの相殺後金額=仮受CGST-仮払CGST
 =「②-1」-(「④-1」+「⑤-1」)
 =9,000-(1,200+3,000)=4,800
 ○SGSTの相殺後金額=仮受SGST-仮払SGST
 =「②-2」-(「④-2」+「⑤-2」)
 =9,000-(1,200+3,000)=4,800
 ○IGSTの相殺後金額=仮受IGST-仮払IGST
 =「③-1」-「①-1」
 =12,000-18,000=▲6,000
 ○納税額=CGSTの相殺後金額+SGSTの相殺後金額+IGSTの相殺後金額
 =4,800+4,800-6,000=3,600

 ・GSTの導入によって、自動車産業には様々な影響が出る見込みである。
 (+)現在、ディーラーはVAT以外の全ての税について仕入税額控除が認められていない。また、製造業も、原材料の仕入れに際して支払う中央売上税、入境税など、他州にかかる税額については仕入税額控除が認められていない。これらのコストは製造原価に転嫁されてきた。だが、GSTは部品メーカーから最終消費者までの州をまたぐサプライチェーン全体で仕入税額控除を認めている。その結果、製品の費用低減効果が見込まれ、需要の増加が期待できる

 (+)現在の間接税制度の下では、自動車メーカーやディーラーの広告サービスやビジネスプロモーションなどビジネス諸経費に関して支払われる間接税については、仕入税額控除が認められていない。しかし、GSTにおいては、「ビジネス上またはビジネスの促進において利用される・利用する意図において」行われるものであれば、これらの費用にかかる税額は仕入税額控除が可能となる。これは、自動車メーカーやディーラにとって管理コスト減につながる。

 (+)通常、自動車産業のTier1、Tier2は、VAT控除のために自動車メーカーの近くに工場を設立している。しかし、GSTにおいては、IGSTとSGSTの仕入税額控除を求めるのに自動車メーカーに近い場所に工場を整備する必要がなくなる。これは、自動車部品メーカーの設備投資額を減らし、運転資金増加をもたらす効果がある。

 (-)GSTでは供給行為が課税対象であるため、本支店間で車両を移動すると課税対象となり、車両が移動された日がGSTの仕入基準日となる。ビジネス上は仕入税額控除を受けられるが、納税期限の差異により、車両移動日と販売日の間で資金繰りが悪化する恐れがある。

 (-)現在は、ディーラーが顧客から受領した前受金には課税されない。しかし、GSTにおいては前受金にもGSTが課税される。これは、ディーラーの資金繰りを悪化させる。

 (-)通常、車両販売時に無料サービス券が顧客に交付されるが、GSTではサービス券発行のタイミングでGSTの納税が求められる。将来的には、無料サービスに付帯する有料サービスの提供を通じてGSTを回収することが可能であるものの、ディーラーにとっては資金繰りを大幅に悪化させることになるゆゆしき事態である。

 (-)製造業者は年末セールなど特別な機会に、ディーラーに対して値引き販売をしている。一般的に、GSTにおいては値引きは供給として位置づけられ、この値引きが特定の請求書に基づく場合のおいてのみ、値引き額が取引額からの控除として認められる(※)。

 (※)GSTにおいては、物品・サービスの「評価額」が課税対象額となる。仮に、ある企業が100万INRの製品を正当な理由なく値下げして50万INRで販売すると、政府および州にとっては税収減となってしまう。したがって、この場合は100万INRに対して課税することとなる。取引評価額には、価格に含まれない助成金、無償部品の価値、供給条件としてのロイヤルティーとライセンス料、立替費用、コミッション、発送時の梱包などの雑費、SGST・CGST・IGST以外の税や値引き、供給後のインセンティブなどが含まれる。

 Ⅱ.インド進出企業が直面する法律上の問題点
 ・インドでは賄賂を要求されることが日常茶飯事である。コンプライアンス違反を指摘されると、違反を見逃してやる代わりに賄賂をよこせと要求される。また、インドは法制度が非常に複雑であるせいもあって、何をするにも非常に時間のかかる国である。例えば、輸出入のライセンスを取得するには、通常3か月ほどかかる。また、債権回収がしばしば刑事事件に発展することがあるが、インドは警察官のレベルが総じて低く、遅々として手続きが進まない。そこで、賄賂をくれれば手続きを早くしてやる(ファーストトラック)と担当者が要求してくることがある。

 手続きを早く進めたい企業は、一度だけならと賄賂を支払いたくなるが、一旦賄賂を支払うと、インドの仲間内で「あの企業は格好のターゲットだ」という情報が回り、方々から次々と賄賂を要求されるようになる。もっと深刻な問題は、アメリカのFCPA(Foreign Corrupt Practices Act)など、域外適用がある汚職防止法に引っ掛かり、巨額の賠償金を支払わなければならなくなることである。最近の事例で言うと、丸紅がインドネシアで支払った賄賂がFCPAに抵触し、丸紅は2014年に約8,800万ドルの罰金を科されている。

 ・インドはまだ外資規制が残っている業種が多く、インドに参入する場合にはJV形式をとるのが普通である。この場合、合弁契約書の内容を附属定款に漏れなく反映させておくことが非常に重要である。インドの弁護士の中には、合弁契約書を附属定款に添付すれば十分であると言う人もいるが、やはり文言として附属定款に盛り込むべきである。これを怠ったがために、ある日本企業とインド企業のJVでは、パートナーであるインド企業が日本企業の了解を得ないまま勝手に株式を自社に発行し、日本企業の持ち株比率を下げてマジョリティからマイノリティにしてしまったという事例がある(合弁契約書上では、株式の発行に関する取り決めが明記されていたが、それが附属定款に反映されていなかったのが問題であった)。

 ・インドでは社員、特にワークマン(いわゆる工場労働者)を解雇するのが非常に難しい。「会社は自分をクビにできない」と言い張って全く仕事をしない社員もいるぐらいである。他の新興国であれば警告書を何度か出し、それでも勤務態度に改善が見られない場合は解雇できることもあるが、インドではこの手法が通用しない。

 こういう社員を辞めさせるためには、まずはどうにかして「自主退職(辞職)」に追い込むのが一番である。自主退職であれば、紛争による蒸し返しのリスクが少ない。労働者寄りと言われるインドの労働裁判所も、任意の退職まで違法とは言わない(ただし、社員が「強制的に退職させられた」と主張すると紛争になる)。とはいえ、任意で会社を辞めてもらうことになるため、退職金を上乗せするなど、通常よりもよい条件にする必要がある。次に考えられる手段が「普通解雇」である。これは会社都合による解雇であり、以下の条件を全て満たす場合に認められる。

 ①解雇の1か月以上前に予告通知するか、予告期間に相当する給与を支払うこと。
 ②勤続年数に15日分平均給与をかけた補償金を解雇時に支払うこと。
 ③政府に対して①の通知を送付すること。
 ④一番最後に雇用した者から解雇すること。
 ⑤退職金を支払うこと。
 ※大規模工場の場合は、予告期間が3か月かとなり、かつ政府の承認が必要。

 上記の手続を遵守すれば、労働裁判所は解雇を違法とすることはない。ただ、③を忘れがちであるため注意が必要である。インドの弁護士によると、③を守っているインド企業は30%ぐらいしかないそうだ。③が抜けていると、企業は裁判で100%負ける(なお、個人的な感想だが、④の条件があるので、辞めさせたい社員が一番最後に雇用された者でない場合は、解雇が難しくなるのではないかと感じた)。最後の手段が「懲戒解雇」である。懲戒解雇は、100人以上を雇用する工場に適用される産業雇用(就業規則)法に規定されている。しかし、判例はそれ以外の企業にも適用されるとしている。要件は下記の通りだが、「非行事実」の立証責任が企業側にあるため、企業側が勝つことは非常に難しいと言われている。

 【手続要件】
 ①非行事実の書面による通知
 ②聴聞の機会の付与
 ③社内調査とその結果の通知
 【実体要件】
 ①非違行為の事実
 ②処分の相当性(重大さ、過去の事例、その他軽減ないし加重要因を考慮)
 
 ・インドの裁判は判決確定までに4~5年かかるのが普通であった。しかし、ここ数年で歓迎すべき法制定・改正が相次いで実施された。
 ①商事裁判制度・・・係争額1,000万ルピーに限定されるものの、原則約1年半で終結する。ただし、仲裁合意がある場合には利用することができない。実務上は、損害賠償額を上乗せして1,000万ルピー以上にし、本制度を利用するという方法がある。
 ②インド仲裁法の改正・・・従来は仲裁期間に制限がなく、いくらでも仲裁を引き延ばすことが可能であった。これが、法改正により原則1年以内に終結することとなった。また、インド国外仲裁における暫定措置(保全処分)の利用も可能となった。
 ③インド倒産法の制定・・・10万ルピー以上のデフォルトにより申立が可能であり、原則180日以内に終結する。日本では実質的な破綻が要件となっているのに対し、インドではデフォルトで申立可能という点が異なる。よって、債務者に対して催告書を送り、○○日以内に返事がなければ裁判に持ち込むと脅しをかけることができる。なお、これまでのインドでは倒産手続きに非常に時間がかかっており、現時点で20年以上手続中である案件が1,600件ほどあると言う。

2016年12月16日

【東京協会国際部セミナー】外国人従業員が活躍できるビジネス環境とは?(セミナーメモ書き)


外国人社員

《プログラム内容》
 【講演①】「外国人従業員が活躍できるビジネス環境とは」
 講師:エンピカンデル氏(株式会社トモノカイ 留学生支援事業メンバー)

 【講演②】「料理店での外国人社員の能力発揮の手法について」
 講師:稲岡千春氏(インド料理店”マサラキッチン”オーナー)

 【グループディスカッション】
 各テーブルに外国人ゲストをお迎えし、以下のテーマについてディスカッション。
 (a)外国人が日本の中小企業で働くメリットとは?
 (b)外国人が長く働きたいと思う魅力ある中小企業とは?
 (c)中小企業が外国人の能力を発揮させるためには?
 (1)日本の外国人留学生は、2003年に10万人を突破し、2015年には20万人を超えている(ただし、このうち約5万人は日本語学校の学生であり、大学生ではない)。政府は2020年までにこの数を30万人に増やす計画を立てている。日本人留学生の8割は日本での就職を希望しているが、日本で就職する留学生の数は2007年以降1万人前後でほぼ横ばいである。企業は表向きは外国人留学生を採用すると公言しているものの、実績との間には乖離がある。

 例えば、株式会社ディスコが実施した調査によると、2015年度に外国人留学生を採用する予定があると回答した企業は54.8%であったのに対し、2015年度に実際に外国人留学生を採用した(採用予定を含む)のは34.3%にとどまる。また、ある私立大学の求人票を調査したところ、約1,500社が「留学生可」としていたが、別の調査会社を使って採用実績を調査した結果、実際に外国人留学生を採用した企業は2%しかないことが判明した。

 (2)外国人留学生の採用ミスマッチには様々な原因が考えられる。①まず、外国人留学生への要求レベルが高すぎることが挙げられる。企業が外国人留学生を採用するのは、海外事業を実施・強化するためであろう。外国人留学生には、入社後すぐに海外事業を担当してもらう。そういう外国人留学生には、チャレンジ精神があり、異文化への適応能力が高く、複数の言語を自由自在に操り、将来的には経営者としてリーダーシップを発揮してほしいと高望みをしてしまう。しかし、そんなスーパーマンみたいな外国人留学生はいない。外国人留学生と言っても、能力は語学レベルを除けば日本の大卒とそれほど変わらない。

 ②2つ目の要因として、採用プロセスが結果的に外国人留学生を排除する形になっていることがある。SPIは明らかに日本人に有利である。また、グループディスカッションで「小学校の科目に1つ新しい科目を追加するならば、どんな科目がよいか?」といったテーマを与えてしまう。日本の小学校の事情を知らない外国人留学生は議論に参加できない。外国人留学生の採用に積極的な企業は、SPIの合格点を外国人留学生に限って低く設定するといった工夫をしている。また、日本の文化的コンテクストを前提としないグループディスカッションを行うべきである。

 ③最後に、外国人留学生に最も理解されない日本の慣行が総合職という職種の存在である。ただ、なぜ部署を転々とするのか、部署を転々とした結果、将来的にどうなるのかを丁寧に説明すれば納得してくれる。もう1つ、新卒で入社した直後は雑用ばかりをさせられることも理解できない。ある中国人留学生は、3年後に中国工場の経営幹部になるという約束で入社した。ところが、入社後にやらされた仕事は、日本工場の掃除、整理整頓、お茶出しばかりだった。彼は「うちの会社は自分を経営者にする気がない」と不満だったが、会社側は日本企業が現場を非常に重視する点を強調した。彼は晴れて3年後に中国工場の総経理となったという。

 (3)稲岡千春氏がインド料理店を開いたばかりの頃は、インド人の習慣に驚くことが多かったという。例えば、インド人は熱すぎるものや冷たすぎるものは手に取らない。そのため、顧客に出す皿や料理が生温かいことがしばしばあった。また、台拭きを雑巾として使う、ごみ袋を食品保存用に使う、洗剤スプーンでお茶の量を計る、シンクでモップを洗うなどの行動も見られた。インド人は悪気があってそうしているわけではない。熱すぎるものや冷たすぎるものを手にしないのは、そういうものは歯に悪い(歯が黄色くなる)と考えているためである。それから、インド人が物を使い回すのは彼らなりの節約意識の表れである。日本では、食品衛生管理法によって、食品用に使えるものとそうでないものが分かれていることを説明して理解を得た。

 (4)インドは厳格な階級社会である。ゴミ拾い、トイレ掃除、皿洗いなどは下の階級の人がすることであり、オーナーである稲岡氏がそれをするとインド人社員からとがめられた。インド社会のもう1つの特徴として、役割が非常に細かく分かれているという点がある。インドの家には使用人が10人いることも珍しくない。彼らは掃除する場所によって分担が決まっている。飲食店でも、カレーのクック、タンドールのクックといった具合に役割が分かれる。困るのは、インドはヒンドゥー教の国であり、カレーのクックがある日突然ベジタリアンになるケースである。ベジタリアンになったカレーのクックは味見ができない。クックが味見をせずにカレーを出して、顧客から「塩が入っていないのではないか?」と指摘されたこともあった。

 人口が多いインドでは、ゴミ拾い専門の人を探せばすぐに見つかるし、カレーのクックがベジタリアンになれば、代わりに別のカレーのクックを連れてくればよいのかもしれない。だが、日本では一度に大勢の社員を採用することができない。そのため、1人で何役もこなさなければならず、オーナーも率先して掃除をしなければならない。この点を繰り返しインド人社員に説明した。今ではタンドールのクックはカレーも作るし、接客やレジ打ちもするなど、多能工化している。

 (5)(3)、(4)はインド人社員に日本のやり方を覚えてもらった例だが、逆に、インド人社員のニーズを取り入れたケースもある。インド人は仕事よりも家族を大切にする。1年に1か月ほどはインドに帰りたいと言う。日本では1か月も休みをもらったら帰る席がなくなるところだが、稲岡氏は社員の要望に応えて1か月間の休暇を認めた。ところが、中には1か月経っても帰ってこない社員がいる。話を聞くと、現地で甥っ子や姪っ子などの面倒を見るにはもっと長い休みが必要だと言う。しかし、ずるずると休暇を引き延ばすわけにもいかない。この一件があって以降、稲岡氏は、インド人社員の中で1人をリーダーに指名し、彼を通じて休暇を申請させるようにした。同じインド人のリーダーの目が黒いうちは1か月以内に帰ってくるだろうという算段である。

 外国人と一緒に働く場合、価値観の衝突は必ず起こる。異文化コミュニケーションの研究者はしばしば、弁証法的な発想によって、自分とも相手とも異なる新たな共有価値観を構築することが重要だと説く。私の前職の企業の社長もそんなことをよく言っていた。しかし、第三の道を構築するのは簡単ではない。本ブログでは何度か、アメリカ、ロシア、ドイツ、中国といった大国が二項対立的に物事を考えると書いてきたが、大国が弁証法的な態度を身につけているならば、世界はとっくの昔に平和になっているはずだ。私の前職の企業の社長も、共有価値観を作るべきと言っておきながら結局は口先だけであり、社員同士(日本人同士である)が対立してもそれを何一つ解決できず、リストラをするか社員に逃げられるかのどちらかであった。

 個人的に、双方の価値観が対立した時に最も現実的な方策は「取引」であると思う。つまり、「次回はあなたの要求を呑むから、今回は私の言い分を聞いてくれ」といった関係である。ただし、完全に平等な取引というものは存在しない(だから、世界から紛争は消えない)。稲岡氏の場合は、日本でインド料理店を開いているため、インド人社員が稲岡氏に要求するよりも、稲岡氏がインド人社員に要求することの方が多くなる。どんなに経済がグローバル化しても、その企業がどの国に存在するかは、経営を左右する重要なファクターである。仮に、稲岡氏がインドでインド料理店を開いていたら、どのようなマネジメントを行っていたかは興味深いところである。

 (6)私のグループにはアメリカ人のゲストが入ってグループディスカッションを行った。彼が「中小企業が自ら外国人を雇用するのではなく、海外の企業を上手く使った方が安く済むことがある」というユニークな視点を提示してくれたため、私のグループでは与えられたテーマとは異なる観点で議論を行った。すなわち、「中小企業が海外展開をするにあたって、海外企業をどのように自社のビジネスモデルに取り込み、活用すればよいか?」という論点である。

 このアメリカ人は、日本で美容室を多店舗展開している企業に勤めている。最近は美容室だけでなく、美容用品を中国で製造し、アメリカに輸出しているという。彼の話がいかにもアメリカ人らしいと感じたので、その話を紹介する。日本企業が海外で製造拠点を探す場合、信用調査を行い、経営者に会うのはもちろんのこと、現地の工場を必ず視察するものである。特に、5Sが徹底されているかどうかをチェックする。そして、契約を締結した後も定期的に監査を行い、5Sのチェックに始まり、製造ラインや品質、社員のモラルなどを厳しく確認する。

 このアメリカ人の企業は中国企業に製造委託しているから、さぞかし品質管理は大変なのだろうと思ったのだが、彼は「ITソリューションがあれば品質管理はできる」と豪語する。現場を見なくても、現場から適切な情報が上がってくれば遠隔地で意思決定が可能だというのは、いかにもアメリカ人らしい。情報システムで細かい製品仕様を伝えることはできるのかと尋ねると、「そういう時はポンチ絵を描いて説明する」と言う。美容用品は、たとえ欠陥があったとしても顧客の生命や身体に与える影響は小さい。つまり、品質の要求水準はそこまで高くない。だからこそ、こういうマネジメントが成立しうるのではないか?日本人が十八番とする輸送機械や産業機械などは、欠陥が文字通り命取りになるから、こういう品質管理は通用しない気がした。

2016年12月02日

【森・濱田松本法律事務所】インド合弁パートナー間の紛争/合弁契約上の権利行使―合弁当事者間の仲裁事例を踏まえて(セミナーメモ書き)


株価

 ドコモ・タタ紛争についての解説。2009年、株式会社NTTドコモはTata Sons Limited(タタ)より、Tata Teleservices Limited(TTL)の株式約2,523億円を取得した。その際、ドコモ、タタ、およびTTLの間の株主間協定において、ドコモは次のようなプット・オプション(売る権利)を設定していた。それは、「TTLが2014年3月期の会計年度において、所定の業績指標を達成できなかった場合は、ドコモはその保有するTTL株式を、取得価格の50%または公正価格のいずれか高い方でタタに売却できる」というオプションであった(※)。

 TTLは2014年3月期の会計年度において、所定の業績指標を達成できなかった。そのため、ドコモは2014年7月に、保有していたプット・オプションを行使した。業績不振に陥っていたTTLの株価は低迷していたことから、公正価格よりも取得価格の50%の方が高いとドコモは判断した。ところが、タタは取得価格の50%に相当する金額をドコモに支払わなかった。そこで、ドコモは2015年1月に入り、タタを相手方とする仲裁をロンドン仲裁裁判所(London Court of International Arbitration)に申し立てた。

 2015年2月、インド準備銀行(RBI)は、タタがドコモ保有のTTL株式を取得価格の50%にて取得することは外資規制に反すると判断した。インドには、株式の譲渡価格規制(Pricing Guideline)が存在する。具体的には、
 ・インド居住者から非居住者に株式を売却する際は基準価格”以上”
 ・インド非居住者から居住者に株式を売却する際は基準価格”以下”
でなければならない、というものである。つまり、インド居住者に有利な規制となっている。これ以外にも、インドには、インドから国外に資金が流出するのを防ぐような規制がいくつかある(ブログ別館の記事「小山洋平『インド企業法務 実践の手引』」を参照)。TTLは非上場企業であるから、非上場企業の基準価格がいくらになるのかが争点となるわけが、インドでは「Chartered Accountant(インドの公認会計士)またはSEBI Registered Merchant Bankerが国際的に受け入れられた算定方法により算定した公正な株式評価額であると証明する価格」とされている。

 2016年6月、ロンドン国際仲裁裁判所は、タタに株主間協定上の義務の不履行があったとのドコモの主張を認め、タタに対しドコモの保有するTTL全株式と引き換えに、ドコモの請求額全額にあたる約1,172百万ドル(約1,300億円)の損害賠償を命じた。これでドコモも一安心かと思いきや、翌月に入ってRBIはロンドン国際仲裁裁判所の決定に基づくタタによる支払いを認めないとの判断を下した。そこでドコモは同月、仲裁決定の執行をインドのデリー高等裁判所およびイギリスのLondon Commercial Courtに申し立てた。

 ドコモが最初にロンドン仲裁裁判所に仲裁を求めたのは、インドの裁判は非常に時間がかかるためである。1審で3~5年かかるのは当たり前で、最高裁まで行くと平気で15年ぐらいかかる。これでは話にならないため、通常は日本で裁判を起こすという選択肢が浮上する。ところが、インドの場合は、相互主義を採用している地域である旨を政府通達で宣言した国の裁判所の判決に限り、インド国内で判決を執行することを認めている。インドが相互主義を認めているのは、イギリス、カナダ、バングラデシュなどであり、実は日本とアメリカが入っていない。そのため、ドコモは日本で裁判を起こせず、ロンドン国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てたというわけだ。

 では、外国で得られた仲裁裁判の執行は担保されるのかが次の問題となるが、商業的な法律関係に起因する紛争に関する、ニューヨーク条約またはジュネーブ条約の締結国における仲裁判断は、インド国内で執行することが認められている。ただし、外国で得られた仲裁判断であっても、インドの公序良俗に反すると認められるものについては、執行されない(この点は相互主義が認められた外国の裁判所で得られた判決に関しても同様である。外国の裁判所で得られた判決であっても、インドの公序良俗に反すると認められるものについては、執行されない)。この点で恣意性が入る余地があり、タタ・ドコモ問題においても、ドコモが保有するTTL株式を取得価格の50%でタタに売却することが公序良俗に反するかどうかが争点となる。

 ドコモ・タタ紛争を防ぐ方法としては、3つ考えられる。1つ目は、タタから対価の支払いを受ける企業をインド非居住者であるドコモにするのではなく、ドコモがインド国内に保有する別企業にするというものである。つまり、インド国内で取引を完結させるということだ。2つ目は逆に、インド国外で取引を完結させるというパターンである。具体的には、タタがインド国外に保有する企業から、ドコモに対して対価を支払うようにする。そして3つ目は、株式の売却という形ではなく、損害賠償という形で解決するという方法である。

 (※)そもそもRBIは、非居住者である投資家に対して、イグジットの方法とリターンを保証するプット・オプションは、株式などの証券に対して負債と類似した性質を付与するものであり、FDIポリシーに適合した出資としての適格性を欠き、むしろECB規制(External Commercial Borrowing:対外商業借入)に従うという見解を示していた。そのため、エクイティ出資を行う非居住者がプット・オプションを保有することについては疑義が残っていた。

 ところが、2014年1月のRBI通達により、一定の条件の下にインド非居住者がプット・オプションを取得することが認められた。
 ①非居住者に一定のリターンを保証する合意は禁止する。
 ②非居住者は権利取得日から1年間は権利を保有する必要がある(ロックイン期間)。
 ③非居住者が権利行使をして会社の株式を売却する場合、売却価格の上限規制がある。非上場株式の場合、前述の基準価格と同じである(Chartered Accountant(インドの公認会計士)またはSEBI Registered Merchant Bankerが国際的に受け入れられた算定方法により算定した公正な株式評価額であると証明する価格)。




  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like