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【海外】インドネシアビジネス最新情報―パンチャシラの精神で統一に向かうインドネシア
インドネシア・マレーシア・ベトナムにおける人材採用&人事労務最新動向
「中国・インドネシア・タイ」のビジネスリスクについて(セミナーより)

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2017年08月23日

【海外】インドネシアビジネス最新情報―パンチャシラの精神で統一に向かうインドネシア


インドネシア国旗

 インドネシアの最新情報について、様々な人から聞いた話のまとめ。

 ・インドネシアには「パンチャシラ」という建国5原則があり、憲法より上に位置づけられている。5原則とは、①唯一神の信仰、②公正で文化的な人道主義、③インドネシアの統一、④合議制と代議制における英知に導かれた民主主義、⑤全インドネシア国民に対する社会的公正、である。なお、①唯一神の信仰とは、同じイスラーム圏であるマレーシアのようにイスラームを国教としているわけではなく、国民は誰しもどれか1つの宗教を持つべきであるとの意味である。2017年より、6月1日がパンチャシラの日に制定された。近年、パンチャシラの精神が薄れてきているとの危惧から、パンチャシラの精神をもう一度強化しようというものである。

 ・インドネシアを理解するキーワードとして、上記の①パンチャシラ(Pancasila)の他に、②多様性の中の統一(Bhineka Tunggal Ika)、③ムシャワラ(Musyawarah、話し合いの意)、④ムファカット(Mufakat、全会一致の意)がある。これらの言葉はインドネシアの会社法、労働法など様々な法律に登場する。例えば、会社法においては、株主総会の決議は、全会一致の精神が望ましくムシャワラによって採択されるべきだと規定されている。全会一致ができなかった場合には、過半数の決議が有効となる。また、労働法においても、会社と労働組合が締結する労働協約に関しては、ムシャワラで合意に達するべきだと定められている。

 ・インドネシアは過去石油の輸出国であったが、現在は石油の純輸入国に転じている。また、中国経済の減速の影響もあって、インドネシアの輸出額は2012年以降減少傾向にある。そのため、政府は鉱物の輸入を制限するなどの策を打った。にもかかわらず、2013~2015年の貿易収支は赤字であり、これがGDP成長率の鈍化に影響を与えている。2016年のインフレ率は3.02%、GDP成長率は5.0%であるが、肌感覚ではデフレ、マイナス成長のように感じられる。ユドヨノ政権が絶頂だった2011年は、GDP成長率が6.5%であり、7%も夢ではないと言われていたが、今やその目標は遠のいてしまっている。

 ・インドネシアの二輪車市場、四輪車市場における日本企業のシェアはそれぞれ99%、95%であり、圧倒的に日本企業が強い。ただ、二輪車の年間販売台数はユドヨノ政権が絶頂だった2011年に800万台を超えて以降減少傾向にあり、2016年には590万台にまで落ち込んでいる。四輪車の年間販売台数は2012年に初めて100万台を超えた。インドネシアの1人あたりGDPは3,570ドル(2016年)であるが、一般に1人あたりGDPが3,500ドルを超えると二輪車から四輪車への移行が進むと言われている。ところが、2013年以降の四輪車の販売台数は横ばいであり、政府が目標とする150万台の達成にはまだまだ時間がかかりそうである。

 ・外資企業の投資要件は、最低資本金額25億ルピア(約2,000万円)、資産規模100億ルピア(約8,000万円)とされている。インドネシアは、外資企業の中でも大企業を誘致したいと考えている。インドネシアの外国投資政策は、景気が悪くなると外資比率が上がり、景気がよくなると外資比率が下がるという解りやすい特徴がある。ただし、最後の砦と言われているのが小売業であり、よほどインドネシアの経済が悪化しない限り、外資には開放されないだろうと言われる。

 ・インドネシアでは毎年約220万人の新規労働者が労働市場に参入してくる。これをカバーするためにはGDP成長率が6%以上必要とされるものの、2013年以降GDP成長率は6%を下回っている。ということは、失業率が悪化しているはずだが、失業率は2013年以降ずっと5%台で推移している。ただし、この統計にはからくりがあって、政府は週に働いた時間が1時間未満の者を失業者と定義している。これを、週に働いた時間が35時間未満の者を失業者と定義して統計を取り直すと、2010年以降の失業率はずっと35%前後という高い水準になる。

 ・インドネシアのフォーマルセクターの構成は次の通りである。税務番号取得者は2,750万人(21%)、そのうち納税者は1,020万人(8%)、社会保険加入者は3,860万人(30%)、労働組合加入者は170万人(1%)、35時間以上就労している者は8,700万人(66%)である。逆に言えば、税務番号を持たないインフォーマルセクターが70%以上存在する。ただし、政府は貧困さえなければインフォーマルセクターを容認する考えを示している。政府が恐れているのは、インフォーマルセクターの貧困化にオイル価格の上昇が重なって、政府への批判が高まることである。

 ・インドネシア労働法の第46条は、人事に関する業務に外国人が就くことを禁じている。これは労働法の最大の欠点である。政令では、階級、役職、勤続年数、学歴、能力などに応じた賃金テーブルの作成が義務づけられているが、外国人はこの作業を実施できない。また、社長、取締役であっても、外国人が人事関連の業務を行うことはできないと認識されている。人材育成は企業にとって重要な課題であるにもかかわらず、インドネシア人に任せるしかないという問題がある。とはいえ、インドネシア人に人材育成の能力が十分にあるとは必ずしも言えない。

 ・インドネシアの最低賃金は、2000年以降地域別、事業分野別に定められてきたものの、近年は特に複雑化しており、地域、事業分野ごとの整合性をとるのが困難になっている。そこで、2016年に方針転換し、原則として賃金上昇率をインフレ率+経済成長率(2017年の場合、3.07+5.18=8.25%)で定めることとした。しかし、この足し算にどのような意味があるのかは不明である。また、これはあくまでも原則であり、実際には地域、事業分野ごとに労働組合と交渉しなければならない。本来、最低賃金は1月1日に発表しなければならないのに、ブカシ市内では3月に、カラワン県では6月に発表がずれ込んだというケースもある。

 ・一般ワーカーの月給を見ると、ASEAN新興国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)の賃金が急上昇しているため、インドネシアの賃金も未だに競争力がある。労働集約型である縫製業もまだまだインドネシアでは盛んである。製造マネジャー、営業マネジャーの月給を見ると、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンでは、2011年に比べて2016年の方が月給が下がっている(フィリピンの営業マネジャーのみ例外)。一方、カンボジア、ラオス、ミャンマーでは、製造マネジャー、営業マネジャーの人材不足によって賃金が高騰しており、月給ベースでは先の5か国とあまり変わらない状況になっている。

 ・インドネシアでは、物品を輸入した段階で前払い法人税が発生する。期末に法人税額が確定した結果、予納額を下回った場合、日本であれば喜んで還付請求をするところだが、インドネシアの場合は還付請求をすると必ず税務調査を受けることになる。この税務調査が非常に厳しく、例えばインドネシア子会社が日本の親会社に支払っているロイヤリティーが利益移転だとして否認される(※1)、為替差損が利益の過小評価だと見なされる(ルピアは弱い通貨なのでこのリスクが高い)、機械装置の減価償却期間が8年から16年に変更される(※2)、旅費交通費や接待交際費などが否認される、といったケースが報告されている。

 (※1)ロイヤリティーは、概ね3%を超えると否認される傾向がある。通常、ロイヤルティーは付加価値額に対してかかるものだが、インドネシアの税務局は売上高をベースに見ている。よって、売上高の3%を超えるロイヤリティーは否認される可能性が高い。最近は、パテントの裏づけがあっても否認されるケースが増えている。
 (※2)日本の減価償却は数百種類存在するのに対し、インドネシアにはグループ1からグループ4までの4種類しかなく、多くの場合はグループ3の16年が適用される。

 確定額が予納額を上回った場合は、確定額と予納額の差額を納めれば終わりというわけではない。翌年は、前年の確定額と予納額の差額の12分の1を毎月前納しなければならない。結果的に、前年の法人税と同じ額を前払いすることになる。確定した法人税額が予納額を下回れば、還付申請はできるが税務調査を受けなければならない。したがって、インドネシアではいかにして毎年利益を確保し続けるかが非常に重要な課題となる。

 ・過去のスハルト政権は非常に国民思いであり、石油の輸出と対外債務で政府の財源を賄おうとした。ところが、スハルト政権が倒れた後、ルピアが暴落したため、国の作り方が間違っていたという反省が生まれた。政府にとってきれいな収入とは税収しかないということで、現在のインドネシアの国家歳入の85%以上は税収が占めている。ここにきて、ジョコ大統領がシンガポールを意識して、法人税率を現行の25%からシンガポール並みの17%に引き下げる方針を打ち出している。ということは、今後ますます税務調査が厳しくなる可能性がある。

 ・労務問題に関しては、労使間で日頃から密にコミュニケーションが取れている企業ではさほど問題は生じない。ソニーのインドネシア子会社は、現地社員から「牛乳を1本つけてほしい」という要望を受けたが、本社はこれを否認した上、インドネシアでのビジネスを諦めてしまった。もっと労使間で意思疎通が取れていれば、こんな事態にはならなかったであろう。労使間の関係が良好な企業では、労働組合が結成されることは少ない。万が一、労働組合、しかも上部組織とつながりのある労働組合が結成された場合には、会社と労働組合に労働局を交えて、いかにしてストライキを回避するか議論する必要がある。労使問題が起きた場合、経営者側が悪いケースが7割である。悪い社員を育ててしまった企業側の責任であると思った方がよい。

2016年06月27日

インドネシア・マレーシア・ベトナムにおける人材採用&人事労務最新動向


インドネシアのガルーダ

 (※)写真はインドネシアの「ガルーダ」。ガルーダはインド神話に登場する伝説上の鳥で、ヴィシュヌ神の乗り物と言われる。インドネシアの国章にも用いられている。国章に描かれるガルーダは、翼の羽毛を左右それぞれに17枚、尾の羽毛を8枚、尾の着け根の羽毛を19枚、首の羽毛を45枚有する。これは、独立宣言をした1945年8月17日の数字を表している。インドネシアはイスラームの国であるのに、ヒンドゥー教の神話に登場する動物を国章に採用しているところが、いかにも多様性を重んじる国らしいところである。

 日本アセアンセンターが主催する「ASEANにおける人材採用&人事労務最新動向セミナー」に参加してきたので、その内容のメモ書き。私は午後のインドネシア、マレーシア、ベトナムの部に参加した。講師はいずれも株式会社パソナの現地駐在員の方であった。パソナは日本企業のアジア進出を人材面でサポートしたり、アジアに進出した日本企業に対して人材派遣や人材紹介を行ったりしている。そのためか、会社設立やビザの取得といった手続き面や、現地人材の職種別・役職別賃金の推移については詳しかった反面、規制のグレーゾーンへの対処方法や現地人材の具体的なマネジメント方法にはあまり強くない印象を受けた(あくまで主観)。

 【Ⅰ.インドネシア】
 (1)製造業のスタッフレベルの賃金は最低賃金に近いが、それ以外の職種・役職は賃金が高騰している。転職者はだいたい、前職の給与の+20%を希望するケースが多い。ただ、最低賃金そのものも急上昇しており、ジャカルタの2016年の最低賃金は310万ルピア(約2万5千円)で、4年前の2倍となっている。海外で事業を行う上で通訳は不可欠な存在だが、通訳の給与も高騰している。これは、フリーランスの通訳が集団で賃金交渉をしている影響であり、日本語検定1級レベルの通訳を1,500万ルピア(約12万円)以下で採用するのは難しい。そこで、資格はなくても日本語ができる人材を正社員として採用すると、人件費を抑えることができる。

 (2)日本企業がインドネシアで大学生を採用する場合、日本語が可能で、かつエンジニアが専門であるなど、特殊な知識・能力を持つ人材を求めることが多い。しかし、インドネシアは大学の卒業時期がバラバラであり、進路窓口の支援にも限界があるため、優秀な大学生を採用することは難しい。製造分野の技術職に関して言えば、大学卒でなく日本で言う高専レベルでも優秀な人材がおり、日本企業の中には直接高専に赴いて青田買いをしているところもある。

 (3)インドネシアでは、人事のポジションに外国人を就けることができない。また、いわゆる「3:1ルール」というものがあり、外国人を1人採用したら、インドネシア人を3人以上採用しなければならない。2015年に「10:1ルール」、つまり、外国人1人に対してインドネシア人10人以上の雇用を義務づける動きがあったが、これはさすがに外資企業の強い反発で見送られた(インドネシアで働く外国人はインドネシア語の語学能力を必須にするという方針も撤回された)。

 (4)インドネシアには「THR(Tunjangan Hari Raya)」というボーナスがある。これは、各宗教の最大の祝祭日に、その信徒に与えられるボーナスであり、各宗教の祝祭日の7日前までに支給しなければならない。従来、THRの受給資格があるのは勤続3か月以上の社員であったが、2016年労働大臣規則第6号により勤続1か月以上の社員にまで対象が広げられた。THRの金額は勤続期間に応じて決まり、勤続12か月以上の者は一律賃金の1か月分である。従来は正社員のみが対象であったが、新大臣規則により、雇用関係にある全ての社員に対して支給することが義務となった。つまり、期間を限定した契約社員も支給対象となる。

 (5)インドネシアの就労ビザを取得するためには、大卒が絶対条件であり、かつ、3年以上の職歴が必須である。外国人がインドネシアに来る以上は、インドネシア人に移転可能な技術や知識を持っているべきだという考え方が根底にある。ただし、最近では高卒でも1社で10~15年程度の勤務経験があると、就労ビザが下りるケースがあるという。こればかりは、「申請してみないと解らない」というのがパソナ担当者の本音である。

 【Ⅱ.マレーシア】
 (1)マレーシアは人口が約3,000万人と少なく、外国人労働者への依存度が高い。マレーシアの労働人口は約1,200万人だが、そのうち約208万人が外国人労働者である。非合法労働者も含めると約400万人とも言われる。主な内訳は以下の通り。

 -インドネシア:約82万人(⇒製造業に従事)
 -ネパール:約43万人(⇒製造業に従事)
 -バングラデシュ:約27万人(⇒建設業に従事)
 -ミャンマー:約14万人(⇒レストラン・サービス業に従事)

 マレーシア政府は2020年までに先進国入りするという目標を掲げており、労働集約型から高付加価値型の産業への転換を図っている。ところが、多くの企業は技能も賃金も低い外国人労働者に依存し、工場の生産性を向上させるための投資を怠っていると政府は認識している。そのため、外国人労働者を半分にして投資を促進するとともに、社会保障を拡充して女性・高齢者を活用し、不足する労働力を補うという方針を打ち出した。しかし、政府は外国人労働者の新規受け入れを凍結したかと思ったら、企業からの反発を受けて凍結を解除したりと、方針を二転三転させており、現場では混乱が生じている。

 マレーシアはイスラームの国であり、労働は身分が低い人がすることだと考えられている。主に製造・建設業で働く外国人労働者を締め出せば、代わりにマレーシア人がその仕事をしなければならない。すると、優秀なマレーシア人は国外に流出する恐れがある。この点について政府は、中華系が国外に出ていくことはむしろ歓迎している。マレーシアはブミプトラ政策と呼ばれるマレー系優遇策をとっており、理想は人口の100%をマレー系にすることである。ただし、優秀なマレー系人材をどうやって製造・建設業に定着させるかが今後の課題となるだろう。

 (2)パソナによれば、マレーシアの人材マーケットは以下の通りである。

 -マレー系(67%)=事務系、技術エンジニア職に多い。営業は苦手であり皆無。また、業界によってはマレー系優遇の規制がある(物流など)。
 -中華系(24%)=営業、販売、経理、マネジメント層に多い。数字に強く、パソナでは最も問い合わせが多い。マレー系よりも10%前後給与が高い。
 -インド系(7%)=営業、テクニカル職に多い。

 求人案件は、営業と経理で全体の50%を超える。上記の通り、これらに強いのは中華系である。しかし、中華系は24%しかおらず、少ないパイを皆で奪い合っているのが現状である。

 (3)マレーシアはTPPに参加したことで、TPPが要求する社会保障対策を実現する必要に迫られている。具体的には、「労働者の能力開発機関の設立」、「労務に関する情報の共有と透明性の維持」を実施しなければならない。これらは、従来マレーシアが締結したFTAにはなかった項目である。また、現在マレーシアでは7名以上で労働組合を結成する自由が認められているものの、政府への登録義務があること、また使用者の承認が必要であることから、事実上組合活動の自由は存在しない。この点も、TPPを受けて改善しなければならないポイントである。

 (4)マレーシアの労働法は独特である。1955年雇用法が日本の労働基準法に相当するが、同法は西(半島)マレーシアにおいて、月額賃金2,000リンギ(約5万2千円)以下の労働者、もしくは賃金にかかわらず肉体労働に従事する労働者に適用される。それ以外の場合、全ての雇用条件は従業員と雇用主の個別の合意(雇用契約書)で決まる。したがって、仮に休日なし、毎日の労働時間は9:00~21:00、時間外手当なし、といった無茶苦茶な内容であっても、従業員と雇用主の双方が合意すれば雇用契約として立派に成立する。

 【Ⅲ.ベトナム】
 (1)ベトナムに進出している主な日本企業の数は、ハノイが631社、ホーチミンが804社、ダナンが94社である(2016年3月時点)。ダナンはベトナム中部の都市だが、ベトナム最大のIT企業であるFPTが存在し、2020年までに1万人体制を目指している。これを受けて、日本からもIT企業がダナンへ進出するケースが増えている。ただし、ベトナム中部には日本語学科のある大学が少ないため、日本語ができるベトナム人を採用することは難しい。

 (2)日本からベトナムへの大型投資案件は2012年で一服した。代わりに、近年は韓国・台湾からの大型投資が増えている。特にサムスンの投資はすさまじく、ベトナムのGDPの7%はサムスンが生み出していると言われる。サムスンは今後、ホーチミンに白物家電の工場を建設する計画があるという。ただ、サムスンに限らず韓国企業は、一度に大量に採用をして、社員同士を激しく競争させ、生き残る人だけ残ればよいという考え方で経営をする。そういうスタンスがどこまでベトナム人に受け入れられるかは不明である。

 ハノイには約8,000人、ホーチミンには約7,000人の日本人がいるが、韓国人はその10倍いるらしい。それだけ韓国人が働いている企業も多いわけで、パソナの担当者によると、日本企業の中では、彼らと営業のやり取りができる韓国人へのニーズが高まっているという。

 (3)ベトナムでは、2013年5月施行のベトナム改正労働法(2012年6月18日付No.10/2012/QH13)において、初めて「労働者派遣制度」が認められた同一の派遣労働者を連続して派遣できるのは12か月までであり、12か月を超えて就労させる場合は正社員契約に切り替える必要がある。ただし、法律が施行される前から、工場に対する労働者派遣は行われていたのが実態のようだ。派遣会社はローカル企業であるため、派遣社員の質や派遣会社のマネジメントに問題があるケースも少なくないという。パソナは2015年8月31日付で労働派遣ライセンスを取得した。同社は工場のワーカーではなく、ホワイトカラーの派遣に特化している。

 (4)ベトナムも他のアジア諸国と同じく、ジョブホッピングの傾向が強い。ベトナムの雇用契約では、まず試用期間(2か月程度)を設け、その後有期雇用契約(12~36か月)を2回結ぶ。2回目の有期雇用契約が終了すると無期雇用契約に切り替えるというのが一般的である。そのため、有期雇用契約の更新のタイミングで転職するケースが多い。優秀な社員とは、有期雇用契約を経ずにいきなり無期雇用契約を結びたいところだが、現実にはなかなか難しい。

 ベトナム人は家族的な経営を好む傾向がある。社員食堂を充実させたり、運動会、誕生日会、社員旅行などを行ったりすると、社員のロイヤリティが高まる。また、社員だけでなく、社員の家族も大切にしているというメッセージを発信することが大切である。

2016年06月10日

「中国・インドネシア・タイ」のビジネスリスクについて(セミナーより)


中華人民共和国

 (※)中国の国旗。5つの星のうち、一番大きい星は中国共産党を、残りの4つは労働者、農民、小資産階級、愛国的資本家を意味しているそうだ。

 1日で中国、インドネシア、タイの3か国のビジネスリスクに関するセミナーに参加してきた(お腹いっぱい)。以下セミナー内容のメモ書き(本当はベトナムのセミナーにも参加したので4か国なのだが、長くなりすぎるので今回の記事からは省略)。

 【1.中国】
 (1)中国人による不正の事例は枚挙にいとまがないが、中国に派遣された日本人の総経理(=社長)が不正に手を染めていることがあるので要注意である。

 ・中国子会社A社は、中国人社員に対して会社のお金を貸し付けており、日本人総経理もそれを承認していた。本来、中国の法律では、このような金融行為は禁じられている。A社は、現金を「その他未収金」に振り替えることで、貸付を可能にしていた。中国では金利がまだ高いため、現金をそのまま銀行に預けていれば、利息収入が得られる。ところが、社員に貸付をすることで、利息収入の機会が失われる。したがって、日本人総経理の行為は背任行為である。

 ・中国子会社B社は、日本人総経理が承知の上で、簿外取引を行っていた。具体的には、発票(日本の領収書に相当。後述)を不要とする企業と現金で取引を行い、裏金を蓄えていた。簿外現金は、別会社の担当者に対する裏リベートに回された。簿外取引による売上未計上は脱税行為であり、税務調査による罰金や滞納金を追徴される可能性がある。また、B社に不満を持つ社員が密告したり、B社を脅迫したりするというリスクが生じる。

 ・中国子会社C社の日本人総経理は、経理に詳しくなかったこともあり、あらゆる支出を会社の経費で落としてした。その中には、ゴルフ会員権、ヨットクラブ会員権などがあり、個人的に購入したネックレスなども含まれていた。さらに、発票のない経費も計上していた。経理担当者は、日本人総経理の言いなりであった。C社のように発票の扱いが甘い企業は、偽の発票をつかまされる危険性がある。発票のない経費や偽の発票は、税務署による処罰の対象となる

 (2)発票(ファーピャオ)とは、中国における製品の売買、サービスの提供・受け取りなどの経営活動に関する証明書であり、経費の認定や増値税(日本の消費税に相当)の申告時に必須とされる。日本の領収書に相当するが、日本の領収書はプリンタで打ち出したものでも手書きでも何でもよいのに対し、発票は専用ソフトウェアが作成したデータを、政府指定のプリンタで印刷しなければならない。専用ソフトウェアはネットワークでつながっており、税務局は中国全土で行われているあらゆる取引を把握している

 日本のマイナンバー制度導入で、今までのように所得を過少申告することができなくなることに戦々恐々としている人がいるみたいだが、中国の発票制度は日本とは比べ物にならないほど厳しいと感じた。中国では、発票がなければ損金として認められない。ただし、この制度を逆手にとり、損金を膨らませたい経営者心理につけ込んで、偽物の発票を販売するあくどい業者がいるようだ。税務局は、発票が正規のものかを確認できるサイトを用意している(例えば、上海市の場合は、https://www.tax.sh.gov.cn/wsbs/WSBSptFpCx_loginsNewl.jsp)。

 (3)日本では、株式会社における取締役などの役員を除き、公務員や、みなし公務員が関与する贈収賄のみが処罰の対象となっている。一方、中国では、民間企業や社員間の贈収賄についても処罰の対象となる(反不正当競争法8条)。簿外で相手企業または個人にリベートを贈ること、相手企業または個人からリベートを受け取ることは贈収賄に該当する。値引きや仲介人に対する手数料については、必ず事実通りに記帳しなければならない。贈賄の立件基準は20万元、収賄の立件基準は5千元とされているが、これ以下でも立件されることがある。習近平政権が反腐敗運動に力を入れていることもあり、贈収賄には気をつけた方がよい。

 (4)中国セミナーでは、AOSリーガルテック株式会社による「フォレンジック調査」のソリューションについても紹介があった。フォレンジックとは、本来は法医学、科学捜査の意味である。現在では、事件関係者のPCなどに残されたデータを復元・解析して、事件の真相究明に役立てる手法を指す。同社は、Nuixという、オーストラリア企業の正規パートナーである。

 Nuixは、パナマ文書を解析したことで知られる(WEDGE INFINITY「パナマ文書をリークした不正調査ツール 国家間での情報戦争でも活用」〔2016年4月21日〕を参照)。また、東芝の粉飾決算事件でも、メール魔と呼ばれた田中久雄社長(当時)の復元にNuixが用いられた。デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社などが行った第三者委員会の報告書には、データの復元・解析にNuixを採用したことが書かれている(東芝「第三者委員会調査報告書<要約版>」〔2015年7月20日〕を参照)。

 【2.インドネシア】
 (1)日本の場合、株式譲渡は一般的に取締役会の決議事項であるが、インドネシアの場合は社員などへの通知、債権者保護手続き、および公告も必要となる。株式譲渡によって親会社が変わる場合、社員には新しい親会社の下で働くのを断る権利があるとされるためだ。また、親会社が変わると、債務の返済能力にも影響が出るとの考えから、債権者保護手続きも要求される。また、スキームによっては、取締役会による株式譲渡の計画や、コミサリス会の承認も求められる。コミサリスとは、日本の監査役のような存在である。ただし、日本の監査役よりも権限が大きく、例えば取締役に重大な違反がある場合は、取締役に代わって任務を遂行できる。

 (2)1994年には、いわゆる「外資15年ルール」というものができた。これは、外資100%の企業は、設立15年を経過した時点で、株式の一部をインドネシア企業またはインドネシア人に譲渡しなければならないという、外資企業からするととんでもないルールであった。苦肉の策として、一旦インドネシア企業/人に株式を譲渡した後、すぐに買い戻すという方法が考えられたが、インドネシア政府は長らく通達によってこれを禁じていた。ただし、あまりに外資企業からの反発が強かったため、通達は2013年に廃止された。なお、2013年の新会社法施行以降に投資承認を受けた企業は、外資15年ルールの適用対象外である

 (3)インドネシアでは、海外からの借り入れを行う際には、借入先の格付けを取得する義務がある。つまり、日本企業のインドネシア子会社が、日本の銀行から借り入れをする場合、その銀行の格付けが必要となる。これも外資企業からの批判が多いものの、今のところルールは維持されている。ただし、親会社からの借り入れに関しては、格付けは不要という例外がある

 (4)インドネシアセミナーの講師は弁護士だったのだが、インドネシア(とベトナム)では、現地の地方裁判所で訴訟をしない方がよいとのことだった。インドネシアでは、裁判官も汚職に手を染めている。最高裁判所の長官が汚職で逮捕されるような国である。裁判が終わった後、裁判官から原告の携帯にショートメールが入り(それだけでも大問題なのだが)、"How much is it?"と尋ねてきた、という話もあるらしい。インドネシアでビジネスローに強い弁護士事務所は、汚職に巻き込まれたくないため、裁判を引き受けてくれない傾向がある。そのため、インドネシア企業と取引する場合には、仲裁地としてシンガポールなどを選択するとよい

 【3.タイ】
 (1)タイでは、製造業は100%外資による参入が可能であるのに対し、サービス業は49%に制限されている。ただ、法律上、サービス業の明確な定義はない。実務では、サービス業は非常に広くとらえられており、機械装置の設置、修理、保全、アフターサービス、リース、賃貸は全てサービス業とされる。49%だと過半数が握れないと思われるだろうが、実はここに1つからくりがある。外国人事業法が定める49%とは、株式の数のことであり、議決権の数ではない

 例えば、日本企業が株式数の49%を、タイ企業が株式数の51%を保有するタイの現地子会社があったとする。ここで、日本側の株式を「1株2議決権」、タイ側の株式を「1株1議決権」(または、日本側の株式を「1株1議決権」、タイ側の株式を「2株1議決権(1株0.5議決権)」)とすれば、日本企業は議決権ベースで過半数を握ることができる。この抜け穴は実際に結構使われており、今のところ摘発事例もないという。ただし、タイ政府は外国人事業法を改正する方向で動いているようだ(2015年に改正予定だったが、外資企業の反対で延期された)。

 (2)これはタイに限った話ではないが、現地パートナー企業と合弁会社を設立する場合、「解除できない」、「別れられない」契約を結ぶのは最悪である。赤字が何年続いたら合弁を解消するなどの基準を契約で明確にするべきだ。その際、競業避止条項や秘密保持条項も盛り込んでおく。また、解消時の株式の売却/取得価格の決定方法にも触れる必要がある。日本人はよく、契約書の条文で紛争が解決できなかった場合は「両者協議の上決定する」などと書いてしまう。しかし、これでは「協議しても決まらなかった場合」にどうすべきかが解らない

 なお、日本では出資比率が3分の2以上であれば、株主総会の特別決議を単独で実施できるが、タイ、インドネシア、インド、ベトナムでは、3分の2以上ではなく4分の3以上が要件となっている。この点にも注意されたい(以前の記事「『中小企業のための海外リスクマネジメントガイドブック』(経済産業省)の補足」を参照)。




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