2013年03月27日
『持続可能性 新たな優位を求めて(DHBR2013年4月号)』―コットンと環境問題
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 04月号 [雑誌] ダイヤモンド社 2013-03-09 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本号で勉強になったのは、「コットンは環境負荷が高い」ということ。コットンは天然繊維だから、化学繊維に比べて環境に優しいと思っていたが、実はそうではないようだ。
エスケル(※香港に拠点を置くプレミアム・コットンのシャツメーカー)はコットンのほとんどを、主に地下水源に頼る中国北西部の新疆地区から買いつけていた。同地域で伝統的に行ってきた灌漑方法は、定期的に畑に水を張る湛水である。それは、害虫や病気の温床となる非効率的なもので、大量の農薬を使う必要があった。
(ハウ・L・リー「パートナーとの連携による 持続可能なサプライチェーンの構築」)
(※ボストンにオープンしたアウトドア衣料メーカー・パタゴニアの新店舗で)スタッフの体調不良を引き起こした原因も調べてもらったところ、根本的な問題は、地下に在庫しているコットン製品から放出されたホルムアルデヒドだった。(中略)その後、主に使用している4種類の繊維について環境への影響を調査したところ、最も有害なのはコットンだと判明する。栽培時に化学薬品を大量に使っているからだ。そこで、ざっくりとだがコットンが環境に与える影響を調べてみた。
(イヴォン・シュイナード、ヴィンセント・スタンリー「40年かけて学んだ パタゴニア流企業の責任とは」)
・世界の耕作面積の約2.5%に綿が栽培されているが、1990年代には農薬使用がピークに達し、殺虫剤などは世界の使用量の20数%が綿の栽培に使われた。その後、使用量は減らされてきたが、それでも2008年の段階で、殺虫剤は15.7%も使われており、殺虫剤をはじめ落葉剤・除草剤などの農薬全体としては、6.8%を占めている(※1)。Tシャツ1枚分の綿花約200グラムに対して、約150グラムの農薬と化学肥料が使われるという(※2)。
・コットンは、コットンボール(綿花の部分)を大きくするために大量の栄養分と水を必要とする。ウズベキスタンでは、アラル海や周辺の河川から水を引くための灌漑施設を作ってきた。しかし、コットンの栽培によって、かつて世界第4位の大きさ(17,158km2。四国の面積とほぼ同じ)を誇ったアラル海は干上り、農薬で汚染された広大な塩湖と化した(※3)。
・慣行栽培の綿は、収穫が機械化されているため、収穫の前になると葉を薬品で枯れさせる(ヴェトナム戦争で甚大な健康被害をもたらした枯葉剤が使われる)。その時期の綿畑は2~3日間、立ち入り禁止となる。人の健康への悪影響が懸念されなくなったら、大型機械で綿花が刈られる。排水の環境への影響を軽減するため、排水は1所のみに集約され、排水を飲んで野鳥が死なないよう、レンジャーまで配置されている(※2)。
・全世界で毎年2万人が農薬事故で死亡し、その疾病患者数は、毎年300万人とされている。コットン農家は、農薬使用量、回数、種類(防虫、除草、殺虫、枯葉剤)が多く、農薬使用時による事故の確率もその分高いのが現状である(※3)。
・遺伝子組み換えの種や農薬にかかる費用を、栽培を始める前に農民の借金でまかなわなければならない(※1)。コットンの一大産地であるインドでは、農薬を買うために借金苦に陥り、 それが原因となって自殺したとみられる農民は6年間で10万人にもおよんでいる(※4)。
・子供たちが学校にも行けずに労働者として農業に駆り出されており、人権問題となっている。インドでは結婚にあたって、女性が持参金を用意する習慣がある。この持参金確保のため、南部の貧しいアンドラブラディシュ州などでは、少女達が学校通いを諦め、綿花栽培に関わる児童労働についている。インド全体で約40万人の児童が綿花栽培に従事、その54%が14歳未満、7~8割が女子だ。児童労働は主に、ハイブリッド種の種苗生産のための、雌花採取で行われている。木の丈が低いため、大人がなかなか従事したがらない労働だ。子どもたちは、朝の家事を終えた後、9~10時ごろまで、30℃を超える酷暑の炎天下、日没まで働きづめだ。児童には労働だけでなく、家事の負担も多い。6~9月の収穫期には、ほとんど休みのない子もいる(※2)。
・ウズベキスタンでは、中央政府の強制政策により、児童の綿花栽培が行われている。毎年9月になると全国の学校は2カ月以上も休校となり、生徒たちは中央および地方当局の命令で綿摘みを強要される。子どもたちは時に何日も休みなく1日8時間以上の労働を強いられ、収穫前に使用された化学薬品、殺虫剤、枯れ葉剤の残留物で一杯の粉塵を吸い込む。生徒が綿摘みを拒否すれば、退学処分となってしまう。学校職員に殴打されたという事例もある。ロンドンに本部を置く人権団体「環境正義財団」(EJF)によれば、綿花栽培地域フェルガナではおよそ20万の子どもが働いているという(※5)。
・綿花の染色前の脱脂、そして染色も化学染料が多用され、工場労働者の健康被害などが懸念されている。染色の後は、脱色防止のための色止め工程、柔軟材仕上げ、縮み防止の薬品処理と、服や製品の価値を高めるべく薬品処理の連続である(※2)。
従来のコットンに代わって注目されているのが、「オーガニック・コットン」と呼ばれるものである。オーガニック・コットンとは、3年間農薬や化学肥料を使わないで栽培された農地で、農薬や化学肥料を使わずに生産された綿花のことである。栽培に使われる農薬・肥料については厳格な基準が設けられており、認証機関が実地検査を行っている。そして、紡績、織布、ニット、染色加工、縫製など全ての製造工程を通じて、化学薬品による環境負荷を最小限に減らして製造されたものを、オーガニック・コットン製品と言う(※6)。
しかし、ウェブ上では製造工程で極力化学薬品を使っていないことを謳っているオーガニック・コットン製品のページが散見されたが、本号を読む限りまだまだ課題も多そうだ。エスケルやパタゴニアも、製造段階で苦労している様子がうかがえた。
さらに事態を複雑にしていたのは、オーガニック・コットンの繊維が普通の綿よりも弱く、物理的性質が違っていることだった。余分な処理を必要とし、生地生産の際に出るスクラップ(くず)率も高い。そのうえ、通常の綿に使用されるものよりも環境的に有害でかつ高価な薬品や染料が必要になる。こうしたもろもろの事情によりコストがかさみ、オーガニック・コットンの環境へのプラス効果が帳消しになっていた。
(ハウ・L・リー「パートナーとの連携による 持続可能なサプライチェーンの構築」)
オーガニック・コットンに切り替えた最初のシーズンは、農家に資金援助をする必要もあった。カリフォルニアの銀行は化学薬品を使わない農家にお金を貸してくれなかったからだ。化学薬品漬けのコットンをきれいに取り除いてから我々の綿繰りをしてくれる工場も探さなければならなかった。紡績や織り、編みなどの工場についても、同じようにしてくれるところを探さなければならなかった。
(イヴォン・シュイナード、ヴィンセント・スタンリー「40年かけて学んだ パタゴニア流企業の責任とは」)
(※1)「なぜ、オーガニック・コットン?|日本オーガニックコットン協会|JOCA」より。
(※2)「児童労働や環境問題を抱えるコットンを問う|JanJanニュース」より。
(※3)「オーガニックコットンとヘンプ|麻の総合利用研究センター」より。
(※4)「オーガニック・コットンって何?【オーガニックを着よう!】」より。
(※5)「ウズベキスタン|不買運動の呼びかけ、子どもの強制労働による綿花栽培|IPS Japan」
(※6)「オーガニックコットンとは@JOCA」より。