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【中小機構】インバウンドを呼び込むために知っておきたい基礎知識~欧州編~(セミナーメモ書き)
【城北支部国際部】「ここがポイント!”地方のインバウンド誘致”と”越境EC”」 ~現場での支援事例に基づく現状、課題、未来~(セミナーメモ書き)
【城北支部国際部セミナー】「ここがポイント!日本人が気づいていない外国人旅行者へのおもてなし」~インバウンド需要に対応する現場経営者からのメッセージ~

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2018年06月05日

【中小機構】インバウンドを呼び込むために知っておきたい基礎知識~欧州編~(セミナーメモ書き)


インバウンド旅行客

 中小企業基盤整備機構(中小機構)の虎の門セミナー「インバウンドを呼び込むために知っておきたい基礎知識~欧州編~」に参加してきた。講師は、株式会社グローバル・デイリー 欧州事業戦略室次長・近藤美伸氏と、フランスで日本の魅力を発信している著名なYouTuberのギヨーム・ジャマル氏であった。以下、セミナー内容のメモ書き。

 2017年の世界のツーリストの数は約13億2,200万人で2016年よりも約7%増加している。ツーリスト数は2020年には14億人、2030年には18億人に上ると予測されており、観光産業は順調に成長を続けている最も注目すべき産業の1つである。訪日外国人は、2008年時点では8,350,835人だったが、2013年に1,000万人を突破(10,363,904人)して以来急激に増加している。2016年には2,000万人を超え(24,039,700人)、2017年には3,000万人が見えてきた(28,691,100人)。政府は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に、訪日外国人4,000万人を達成するという目標を掲げている。

 2016年の訪日外国人2,404万人の内訳を見ると、アジア人が84%の2,010万人を占めており、欧米人・オーストラリア人はわずか12%の296万人にすぎない。これは、欧州など世界中から満遍なく観光客を誘引しているタイ(2016年の訪タイ観光客数は3,256万人)とは対照的である。ただ、逆に言えば、日本は欧米豪の潜在観光客を掘り起こすことができる可能性が高いことを示しており、政府は訪日プロモーションとして「Enjoy my Japan グローバルキャンペーン」を展開している。政府は、まずはこのキャンペーンで日本の魅力を広く知ってもらい、次に国別戦略に基づくきめ細やかなプロモーションを通じて、訪日観光につなげたい考えである。

 訪日外国人が日本に最も期待することは「日本食を食べること」である。ところが、それ以外のニーズとなると、国・地域によって差がある。中国・タイ・香港・台湾・韓国では「ショッピング」を挙げる人の割合が高いのに対し、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・オーストラリアでは「日本の歴史・伝統文化体験」を挙げる人の割合が高い(観光庁「訪日外国人消費動向調査」より)。このニーズの差は、訪日外国人の支出内訳の差にも表れている。例えば、中国人は買い物代に平均11万9千円を費やすのに対し、イギリス・オーストラリア・フランス・イタリア・ドイツ・アメリカ・オーストラリアの人々は宿泊代に多くを費やしている(約8~10万円)(日本政府観光局〔JNTO〕「訪日外客統計」より)。欧米豪の人々の休暇は長いため、日本に長期間滞在して、日本の様々な歴史・伝統文化を体験したいと思っている。

 講師によると、アメリカ市場にアプローチするにはサンフランシスコを、ヨーロッパ市場にアプローチするにはフランスをターゲットにするとよいと言う。サンフランシスコは、政治・社会動向だけでなく、広くアメリカにおける衣・食・住の流行発信地として機能しており、アメリカ市場攻略への一歩を踏み出すテスト・マーケティングを行うのにふさわしい。特に食に関しては、「次から次へと起こる食のイノベーションでニューヨークをしのぐ街」、「職のトレンドはサンフランシスコで始まる」と言われるぐらいである。フランスは、ヨーロッパにおける流行の発信地であり、フランス国内のみならず、周辺諸国への情報拡散も見込める。フランスは"A Global Ranking of Soft Power 2017"でソフト・パワー(国家が軍事力や経済力などの対外的な強制力によらず、その国の有する文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や発言力を獲得し得る力のこと)が世界第1位となっている。

 講師がフランスを専門としているため、ここからはフランスの話を中心に記述する。フランス人は、何か月、時には何年も前から日本旅行の準備をする。インターネットで新しい場所を発見するのが好きであり、まだ訪日外国人向けのHPが充実しているとは言いがたい日本のネット社会においては、必ず外国語対応している自治体のHPを重宝しているそうだ。フランス人は、メジャーな観光地に加えて、オリジナルの体験が味わえる土地を訪れたいというニーズを持っている。例えば3週間の旅行の場合、1週目は東京、2週目は大阪を訪れるが、3週目は岐阜や長野などに行く。フランス人は日本の歴史・伝統文化に対する興味・関心が強く、都市部では見ることができない伝統的な文化が豊富な地方の方が、フランス人にとって魅力的に映ることがある。

 フランス人は事前に入念な情報収集をした上で現地を訪問し、さらにそこで、現地でしか知りえない情報が手に入ることに喜びを感じる。日本の文化財は、一見すると地味だが、よく説明を聞くとすごいと思わせるものがたくさんある。フランス人はそういう文化財に触れたいと望んでいる。ところが、多くの文化財では外国語のパンフレットやガイドの整備が進んでいない。すると、拝観料を払って記念写真を撮るだけで終わってしまう。これだと滞在時間は1時間程度にすぎない。世界の文化財、例えばエジプトのピラミッド、カンボジアのアンコールワット、フランスのヴェルサイユ宮殿などが1~2日がかりで回るように設計されているのとは大違いだ。

 世界の文化財の場合、観光客は必ずその文化財の近くで宿泊することになる。前述の通り、フランス人は特定の地域に1週間ほど滞在するから、その文化財を起点として、他の文化財や食事、伝統的体験、ナイトライフなどが楽しめるように消費の流れ全体を設計することがポイントとなる。さらに広い視点に立てば、旅行とは、「旅行したいという欲求を持つ⇒旅行先を探す⇒宿泊先・アクティビティを探す⇒予約する⇒旅行する⇒旅行後に体験を共有する」という一連の消費プロセスをたどる。観光地側は、このプロセスをトータルでサポートすることが重要である。また、近年は「ツーリズム2.0」の時代と言われており、旅行中にインターネット(特にSNS)を活用することが当たり前になっている。先ほどの消費プロセスの随所に、インターネットの活用ポイントを上手に埋め込んでいくと、観光客が増加し、彼らの満足度向上にもつながる。

 以前の記事「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」で紹介したマトリクス図において、観光は「必需品でない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命(BtoCの場合)・事業(BtoBの場合)に与えるリスクが小さい」という<象限③>に該当すると考えている。この記事でも書いた通り、<象限③>はイノベーションの世界であり、需要を新しく創り出さなければならない。イノベーターは、「自分が考えたすごいイノベーション」を普及させるために、プロモーションに多くの経営資源を投入して、半ば強引とも言える宣伝を行うことで、潜在顧客を啓蒙する(これを「エバンジェリズム(伝道)・プログラム」と呼ぶことにしよう)。

 仮に日本が観光立国を目指すならば、<象限③>に強いアメリカのイノベーティブな企業に倣う必要があるだろう。観光地側は、「この土地のここがすごいのだ」と前のめりでアピールする。そして、そのスポットを訪れた観光客に対して、「この場所には○○という歴史があり、○○という伝統が受け継がれていて、○○という文化が大切にされている」と時間をかけて説明する。

 ただし、フランス人(他の欧米人も同じだと思う)は事前にその土地やスポットのことを勉強しているので、生半可な情報ではかえって彼らを失望させてしまう恐れがある。フランス人から何を聞かれてもすぐに答えられ、さらに付加的な情報を提供できるように、量と質の両面で圧倒する。日本にはピラミッドやアンコールワット、ヴェルサイユ宮殿のような巨大な文化財が少なく、1つの文化財で丸1日~2日を過ごしてもらうことは難しいかもしれない。だが、1つの文化財でせめて半日程度の時間を過ごしてもらえるような体験は提供できるようにする。

 さらに、こうしたプロモーションは、1つの文化財だけが頑張ってもダメである。前述の通り、フランス人は同じ土地に1週間程度滞在する。その1週間の予定を、観光地側がエバンジェリズム・プログラムでフランス人の頭の中に注入する。「この土地に来たらAとBを訪れ、CとDを食べ、EとFに泊まるとよい。Aはaという点で、Bはbという点で、Cはcという点で、Dはdという点で、Eはeという点で、Fはfという点で優れている」と提案する(このリストは長ければ長いほどよい。1週間では回り切れないと感じたフランス人は、次の旅行で残りのスポットを回るためにその土地を再訪しようと思うだろう)。そして、文化財AやB、飲食店CやD、旅館EやFは、それぞれその由緒を延々とフランス人に語り、行く先々で彼らを驚かせる。このような活動は、その土地の文化財群や旅館・ホテル、飲食店、その他文化的な体験ができる各種スポットが連携して行う。

 セミナーの終盤で、「所沢の外国人観光客増を狙っているが、所沢にはフランスの技師が飛行機のことを教えに来ていたという歴史的なつながりを伝えた方がよいか?」と質問した参加者がいた。これに対して講師は、「飛行機だけに集中してはならない。他のスポットにも広げていく必要がある」と回答した。この答えが、観光地のプロモーションのあり方を示唆している。

 ただ、私は以前に「中小企業診断士が「臨在感的把握」で商店街支援をするとこうなる、という体験記」という記事で、商店街に外国人観光客を呼び寄せる方策をアメリカ的な思考で検討することの限界について書いた。エバンジェリズム・プログラムに頼るのではなく、相手の気持ちの機微を汲み取って人となりを学習しながらきめ細かくニーズに応えるという日本人のよさを活かして訪日外国人4,000万人を目指すにはどうすればよいか、今の私にはまだよく解らない。

 最後に、YouTuberのギヨーム・ジャマル氏について。ジャマル氏はパリ観光協会でWebプロモーションマネジャーを経験した後、日本の知られざるよさを紹介するYouTubeチャネル「Ichiban Japan」を開設している。チャネル登録者数は約16万人で、フランスでは有名なYouTuberである。ジャマル氏の動画は、毎週フランスの3つのTV局でも紹介されている。ジャマル氏が日本で動画を撮影してYouTubeにアップした後、フランスで開かれる日本関連のイベントにも参加して日本好きのフランス人と交流を図るなど、フランスと日本をつなぐ架け橋となっている。



2017年07月30日

【城北支部国際部】「ここがポイント!”地方のインバウンド誘致”と”越境EC”」 ~現場での支援事例に基づく現状、課題、未来~(セミナーメモ書き)


クレジットカード

 私が所属する(一社)東京都中小企業診断士協会国際部で、診断士向けにセミナーを開催した。主催者側の私が言うのもおこがましいが、正直に言って、東京協会の理論政策更新研修よりも面白かったと思う(先日受講した理論政策更新研修のひどさは「東京都の中小企業向け補助金・助成金など一覧【平成29年度】」で書いた)。セミナーで勉強になったことのメモ書き。

 【講演①】非観光地域におけるインバウンド誘致の取り組み
 (東京都中小企業診断士協会 城北支部国際部 小沢智樹会員)
 ・人口に対する外国人観光客数の比率は、フランスが134.5%で群を抜いているが、先進国の多くは大体40~50%となっている。2016年の訪日外国人旅行者数は2,403万9,000人であり、人口に対する比率は18.9%である。ドイツの人口に対する外国人観光客数の割合は42%であり、仮に日本がドイツの比率を目標にすると、訪日外国人旅行者数は5,300万人となる。現在、政府は2020年までに訪日外国人旅行者数を4,000万人に増やすという計画を立てているが、必ずしも非現実的な数字とも言えないようである。

 旅行収支の対GDP比を見ると、アメリカやドイツが1.1%となっている。2016年の日本の旅行収支は1兆3,391億円であり、GDP約537兆円に対する割合はわずか0.2%である。これを、アメリカやドイツ並みに引き上げるとすると、旅行収支は約5兆4,466億円となる。政府の目標は2020年時点で8兆円であるから、こちらはかなりストレッチした目標であると言える。

 ・政府は2014年度から「地方創生関係交付金」を設けており、2016年度は「地方創生推進交付金」(1,000億円、事業費ベース2,000億円)を実施した。本交付金の目的は、①しごと創生、②地方への人の流れ、③働き方改革、④まちづくりの4つであり、①の一環として観光に注力することとなっている。いわゆるゴールデンルートと呼ばれる東京、京都、大阪(+富士山)に加えて、地方への観光を促進するのが目的である。具体的には、地域の「稼ぐ力」向上のため、様々な連携を図りながら地域経済全体の活性化につながる観光戦略を実施する専門組織として、日本版DMO(Destination Marketing/Management Organization)を確立し、これを核とした観光地域づくりを行う。また、地場産品を戦略的に束ね、安定的な販路開拓・拡大に取り組む地域商社を核に、地場産品市場の拡大、地域経済の活性化を目指している。

 交付金の額が大きい都道府県は、上位から順番に、北海道(65億円)、長野県(37億円)、熊本県(29億円)、茨城県(28億円)である。北海道の交付金が高いのは、市町村の数が多いためだ。熊本県、茨城県の交付金が多いのは、震災復興の意味合いがあるのかもしれない(ただし、東北地方の交付金はそれほど大きくないので、震災復興という観点のみで交付金の多寡を判断することは難しい)。都道府県民1人あたりの所得に対する都道府県民1人あたりの交付金の割合を見てみると、上位から順番に、高知県(20%)、鳥取県(18%)、東京都(16%)、富山県(13%)となっている。意外なことに、地方創生と言いながら、東京都の交付金も多い。

 ・現在、観光庁には「日本版DMO候補法人登録制度」というものがある。これは観光庁を登録主体として、日本版DMOの候補となり得る法人を「登録」し、登録を行った法人、およびこれと連携して事業を行う関係団体に対して、関係省庁が連携して支援を行うことで、各地における日本版DMOの形成・確立を強力に支援する制度である。登録を目指す法人は、日本版DMO形成・確立計画(形成計画)を作成し、地方公共団体と連名で観光庁に提出する。形成計画は、科学的アプローチによる観光地域づくりを重視している。すなわち、戦略に基づいてマーケティング/マネジメントを実施し、効果をKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を用いて測定するということである。観光庁の審査を通ると、日本版DMOとして登録される。現時点で、広域連携DMO6件、地域連携DMO67件、地域DMO72件の計145件が登録されている。

 ・本講演のテーマは”非観光地”におけるインバウンド誘致である。観光地の定義は難しいが、Wikipediaの「日本の観光地一覧」によると、384市区町村が観光地に該当するそうだ。日本の市区町村は全部で1,741であるから、残りの1,357市区町村が非観光地ということになる。近年はニューツーリズムがブームになっており、エコツーリズム、スポーツツーリズム、グリーンツーリズム、メディカルツーリズムなど、様々な旅行形態が存在する。言い換えれば、地域の資源は何でも観光資源になり得る可能性を秘めている。

 講師はある自治体において、田園、大きな橋、サッカー、モニュメント、特攻機という資源に注目した。ところが、インバウンダーの約8割はアジア人(その大半は中国人)である。田園風景はアジア人にとって珍しいものではない。大きな橋に関しては、中国の方がよっぽど長けている。サッカーはアジアではあまり人気がない。モニュメントを見ても、観光客はそれに特別な価値を感じない。特攻機は、アジアでは歴史のタブーに触れてしまう。逆に、インバウンダーにとって受けがよかったのは、神社、嫁入り船、海岸線、お祭りだったそうだ。

 ・講師が非観光地でインバウンダーのニーズ調査を行った結果解ったのは、彼らは実は純粋なインバウンダーではないということであった。調査対象者の中には、もちろん欧米人もいたが、日本に住んでいる留学生や研修生が多かった。そして、彼らが本国から家族や親戚を呼び寄せているケースもあった。初めて日本を訪れる外国人を、いきなり非観光地に向かわせるのは非常にハードルが高い。そうではなく、日本に住んでいてある程度日本のことを解ってる人をまずはターゲットにする。そして、彼らの家族や親戚と一緒に来てもらうことで、徐々に観光客を増やすのが有効ではないかというのが講師の見解であった。

 なお、講師はその非観光地をPRするのに、「日本政府観光局(JNTO)」のHPを利用した。合わせて、観光案内所にチラシを配布した。HPに関して言うと、外国人向けのHPは観光地の特徴を解りやすく伝えようとシンプルにしがちであるが、外国人旅行客は事前にディープな情報を研究して訪日するケースが多いため、情報は惜しみなく出した方がよいとのことであった。

 【講演②】越境ECの現状と今後の課題について
 (越境EC総研合同会社 代表 中川泰氏)
 ・講師は越境ECのコンサルティングで数多くの企業を支援してきた方である。越境ECは今ブームになっているが、越境ECで儲かっている企業は実はほとんどないという。儲かっているのは、モールを運営するAmazon.comと、商品を運ぶ日本郵便だけだそうだ。だから、越境ECを始めようと思う方は、もう少し慎重に戦略を練った方がよい。

 講師のところに相談に来る方は、「中国で商品を売りたい。売れれば何でもよい」、「とにかくAmazon.comに出店したい」と言うケースがあまりに多いらしい。国・地域やチャネルを決める前に、何を売るか=商品を決めるのが先である。時折、「日本で売れないから海外で売りたい」という方もいるのだが、日本で売れないものは海外でも売れない。日本で売れるものがやはり海外でも売れる。だから、日本で自信を持って販売しているものを、越境ECでも扱うべきである。越境ECで売れる商品には3つの特徴がある。①差別化ポイントが解りやすい、②商品のメンテナンスがしやすい、③商品名の発音がしやすい、の3つである。

 ①については、国によって顧客が何を重視するかが異なる。「商品のスペックが全く同じだとしたら何を重視するか?」というアンケートを取ると、アメリカ人は「安い価格」、ヨーロッパ人は「エコへの配慮」、アジア人は「ブランド」(中国人にとっては「その商品を持っていると周囲に自慢できる」ことが重要)と答える。よって、ターゲット顧客ごとに訴求ポイントを上手く変えることが大切である。なお、アメリカ人について補足すると、彼らは低価格の商品ばかりをほしがっているわけではない。低価格も重要だが、スペックの高さも重要である。つまり、コストパフォーマンスを評価している。アメリカ人は、「その商品を持っていると作業が楽になる」といった利便性を重視する。③については、日本語の商品名をそのまま海外で使用すると、その国の隠語に近い発音になることがあるので要注意である。その場合は、日本と海外で商品名を使い分けるとよい。

 ・越境ECを行う場合には、SNSとの導線を意識する必要がある。マーケティング理論にはAIDMAモデルに代わるAISASモデルというものがあるが、今時の外国人(特に若者)は、欲しい商品がある時にgoogleで検索しない。SNSで友達がある商品を使っている写真を見て、それがほしいと思うと、すぐにAmazonで検索する。アメリカ人の約50%は、気になった商品は直接Amazonで検索するという調査結果もあるという。よって、例えばアメリカに越境ECで商品を売りたい場合には、まず在米日本人に商品を使ってもらって、写真をInstagramに英語でアップしてもらい、アメリカ人のフォロワーに浸透するような仕掛けを行うとよい。

 ・商品を選んだ後に、販売先の国を決める。まずは、①その商品を使う文化がある国を選ぶ必要がある。ある企業は、和包丁を越境ECで販売しようとしたが上手くいかなかった。というのも、和包丁は定期的に砥石で研ぐ必要があるが、外国人にはその研ぎ方が解らないためである。それから、②大きなモールがあって、インターネットで商品を買う文化がある国でなければならない。さらに、③郵便事情のいい国を選択するべきである。商品の運送状況を配達先までトレースしている国は、日本を含めて世界で8か国しかない(実はアメリカは入っていない)。

 インドネシアは人口が多く、ECが急成長しており、クレジットカードも普及しつつあるので、インドネシアで越境ECをしたいという人が多い。しかし、この手のマクロ指標は全くあてにならない。インドネシアは島国であり、物流事情が非常に悪いため、商品が届かないリスクが高い。よって、こういう国は除外するべきである。越境ECサイトで顧客の住所を入力させる際に、国名だけは、配達可能な国をプルダウン形式で選ばせるようにするとよい。

 ・商品、国、ターゲット顧客を決めたら、最後は販売サイトをどうするか決めなければならない。自社サイトで販売するという方法もあるが、自社サイトで成功している企業はほとんどないという。となると、モールに出店する方が成功確率が高い。ただし、テンセント(京東全球購〔JD Worldwide〕)やアリババ(天猫国際)は保証料や年会費で何百万円もかかる。これは、両社が出店企業からお金を取るモデルで成り立っているビジネスであるからだ。講師は、中国に越境ECで商品を売りたいと相談に来られる方に「予算はいくらですか?」と聞くのだが、大体500万円ぐらいという答えが返ってくる。その場合は、中国に進出するのは止めた方がよいとアドバイスするそうだ。これに対して、Amazon.comは、Amazonプライム会員(アメリカに約6,500万人)を収益源とするモデルであるため、出店企業はコストを抑えることができる。

 ・越境ECで頭を悩ますのが運賃の設定方法である。アメリカ人の約78%は、サイトに運賃が表示された瞬間に購入を諦めるというデータがある。運賃には、①送料込、②従量制、③定額制、④従価制という4つがある。①送料込は日本人には良心的に見えるものの、海外では送料が非常に安いか、商品が非常に安いかのどちらかだと思われる。よってお勧めできない。②従量制も顧客からは敬遠される傾向がある。よって、③定額制か④従価制にする。③定額制は、購買層が若い場合に有効である。④従価制は、購買層の所得が高い場合に有効である

2016年09月28日

【城北支部国際部セミナー】「ここがポイント!日本人が気づいていない外国人旅行者へのおもてなし」~インバウンド需要に対応する現場経営者からのメッセージ~


ホテル

 私が所属する(一社)東京都中小企業診断士協会・城北支部国際部では、9月24日(土)に「『ここがポイント!日本人が気づいていない外国人旅行者へのおもてなし』~インバウンド需要に対応する現場経営者からのメッセージ~」と題してセミナーを開催した。プログラムは以下の通り。今回の記事では、セミナーの内容を簡単にまとめておく。
講演①「オ・モ・テ・ナ・シは日本だけの文化じゃない、旅行者の気持ちになってみて」
講師:株式会社ファーストメモリー代表取締役 李 承妍(り しょうけん)氏

講演②「東京都北区赤羽に泊まる。その心とは。」
講師:株式会社TheBoundary代表 「HOTEL ICHINICHI」オーナー 吉柴 宏美氏
 (1)「おもてなし」が最も問われるのは、マニュアルに書いていないことが起きた時である。ある中国人旅行客が日本で約15万円の炊飯器を購入したが、帰国後に初期不良であることが判明した。炊飯器のメーカーに問い合わせると、「修理することは可能だが、海外に送ることができない」と言われた。そこで、そのメーカーの製品を取り扱っている中国の販売代理店に相談したところ、「日本で買ったものは修理できない」と断られてしまった。

 この場合、「マニュアルに書いていないことはできない」と考えるのではなく、「マニュアルに書いていないことは、別に禁止されていることではない。顧客にとって意味があるならば、積極的にやればよい」と発想を転換する必要があるだろう。そういう判断ができる人材を育成すること、また、そのような判断を許容する組織風土を醸成することが、おもてなしを提供する上で重要になる。もちろん、毎回アドホックに判断を下すわけにもいかないので、定期的に「例外事象」を検証しなければならない。例外が1回限りのことではなく、今後も頻繁に起きる可能性があるのであれば、マニュアルを改訂する。そうすることで、組織全体のサービス品質が底上げされる。

 (2)欧米の旅行客は、旅の上級者が多い。彼らは事前に日本で行きたい場所の情報を細かくリサーチしている。谷中や根津神社のことを知っている外国人もいる。また、オーストラリアやアメリカの旅行客の中には、四国・九州を自転車でツーリングする人もいる。四国・九州では東京ほど英語が通じないため、ツーリストは片言の日本語で現地の人に話しかけるのだが、それでも親切に接してくれる日本人にいたく感動するそうだ。すると、次に日本を訪れた際には、午前中は日本語教室に通い、午後は旅行を楽しみたい、といった要望が出てくる。

 欧米人に対しては、こちら側もきめ細かく情報を提供することが求められる。Airbnbを利用して訪日する欧米人には、空港からのアクセス地図、宿泊地の周辺マップ、部屋にある家電の取扱説明書を提供している。また、欧米人は、帰国後に何を体験したのかを周囲の人に語りたがる、あるいは自分が体験したことを母国で実践したがる傾向がある。とりわけ、欧米人はラーメン、寿司、卵焼きに食いつく。そこで、母国の食材で作れるようなレシピを渡すと、非常に喜ばれる。海外には「だしを取る」という風習がないため、だしの取り方もレシピに書いておく。

 (3)アジア人観光客は、事前にリサーチするものの、情報がありすぎて混乱しているケースが多い。そこで、「ガイドブックにはこう書いてあるが、現地の人(日本人)は実際にはどう思っているのか?」を教えると、彼らの旅行の助けになる。アジア人は写真をたくさん撮って、SNSで友人とシェアする傾向が強い。そのため、本来は写真撮影NGの場所であっても、交渉して特別に許可をもらうことがある(例えば、茶室の内部など)。また、彼らはSNSにアップする写真を少しでもきれいに見せいたいという欲求も持っている。「写真に写っている顔を小さくしたい」、「二の腕を細くしたい」といったニーズにも応えてあげると、旅行客の満足度が上がる。

 ところで、インバウンド需要をとらえるために、外国語に対応したHPを制作している企業は多いが、たいていは英語化で止まっている。2015年の訪日外国人を国別に見ると、1位中国(約499万人、25.3%)、2位韓国(約400万人、20.3%)、3位台湾(約368万人、18.6%)、4位香港(約152万人、7.7%)、5位アメリカ(約103万人、5.2%)である(ANA「外国人観光客数 年別・国別ランキング」より)。よって、英語対応だけでなく、中国語対応することが欠かせない。

 (4)外国人旅行客はマナーが悪いと言われることがある。しかし、多くの外国人旅行客は、日本のルールは守りたいと思っている。ただ、日本のルールをよく知らないだけである。電車の中で電話を使ったり、大声で話したりしてはいけない、レストランの予約をキャンセルする場合には事前に電話しなければならないといったルールを共有しておけば、トラブルはかなり減らせる。

 (5)吉柴宏美氏は赤羽で「ICHINICHI」というホテル・ホステルを経営している。赤羽と言えば飲み屋のイメージが強い(「せんべろ」=1,000円でベロベロに酔えるという言葉がある)。ホテルで起業するという話を周囲にしたところ、「赤羽などに人が集まるのか?」と何人にも言われたという。だが、吉柴氏は「それは赤羽が雑多な街という印象を持っている人の意見だ」と一蹴した。訪日外国人は、赤羽という街がどういうところなのかは気にしない。空港から近く、自分が行きたい場所へのアクセスがよいところに泊まりたいと考える(これは、日本人が海外旅行する時も同じはずだ)。そういう視点で赤羽を見ると、実に外国人旅行客に適した立地である。

 また、赤羽に飲み屋が多いというのもプラスに働く。宿泊客に「日本で面白かったところはどこか?」と聞くと、ラーメン屋、のんべえ横丁といった回答が返ってくる。銀座などは日本旅行の定番であるが、銀座のショップは母国にもたいてい存在するわけで、わざわざ銀座まで来る必要はない(これは私も銀座で外国人が増えるのを見ながら、薄々感じていたことである。また、ビックカメラなどで爆買いをする中国人は多いものの、そこで売っている家電の大半は中国製であり、日本で買う意味があるのかと思ってしまう)。それよりも、日本ならではの体験を外国人旅行客は求めている。飲み屋が多い赤羽は、底知れぬポテンシャルを秘めているかもしれない。

 (6)最初の顧客誘導として、最も効果的なのは海外のホテルブッキングサイトである。Expedia、Booking.com(欧州のユーザーが多い)、Agoda(アジア人のユーザーが多い)、Trip Adviserなどと契約している。ホテルブッキングサイトを活用する場合、価格は統一する必要がある。各サイトに支払うコミッションの割合が異なるからと言って、サイトごとに価格を変えると、サイト内の検索順位が下がるようなアルゴリズムになっている。

 (7)小さなホテルであるから、大手ホテルならば絶対にやらないことをするように心がけている。ある台湾人旅行客が、空気清浄機を家電量販店で買おうとしていたが、あいにく売り切れていた。どうしてもその空気清浄機がほしいのだけれども、後2日で台湾に帰らなければならない。他の家電量販店にその空気清浄機が置いてある保証はない。そこで、吉柴氏がAmazonで検索したところ、在庫があると解ったので、吉柴氏の個人アカウントで立て替え購入をした。翌日、製品が無事に届き、その台湾人旅行客は大喜びで帰国した。実は、彼らはそれまで部屋が狭いだの何だのと文句を言っていた。しかし、空気清浄機の一件があってからはがらりと態度が変わり、Agodaのレビューで星10をつけてくれたそうだ。この話は(1)に通じるところがある。

 ※勝手ながら、10月は1か月間ブログをお休みします。11月にまたお会いしましょう!
 (ブログ別館「こぼれ落ちたピース」は更新する予定です)





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