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横山哲夫編著『キャリア開発/キャリア・カウンセリング』―今までが組織重視だったからと言っていきなり個に振り子を振り過ぎ
グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論
リチャード・モリタ『これだっ!という「目標」を見つける本』―キャリアデザインと戦略立案のアナロジー

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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。コンサルティングなどの仕事の実際の中身は守秘義務の関係で書くのが難しいため、書評が中心となっている点は何卒ご容赦あれ。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2018年06月11日

横山哲夫編著『キャリア開発/キャリア・カウンセリング』―今までが組織重視だったからと言っていきなり個に振り子を振り過ぎ


キャリア開発/キャリア・カウンセリング―実践・個人と組織の共生を目指してキャリア開発/キャリア・カウンセリング―実践・個人と組織の共生を目指して
横山 哲夫 小野田 博之 上田 敬 八巻 甲一 小川 信男 今野 能志

生産性出版 2004-11-01

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 私は左派の特徴を、①権力に対する異常なまでの敵対心、②自分の正しさを信じて疑わないこと、自説が支持されていることを根拠の薄い数字で示すこと、③他者に対して、自分と他者は同じ思考を平等に共有しているという理由で、「後は私の文章をよく読んでおけば解るはずだ」などと突き放すこと、の3つだと考えているが、本書の第1章を書いた人(敢えて誰とは言わない)はまさにこの左派の特徴にぴったりとあてはまる人物であった。最初から左派の毒まんじゅうを食らわされたので、読みながら嫌気がさしたものの、何とか最後まで読み切った。

 第1章の著者は、次のように述べて組織という権力に対する敵愾心をむき出しにしている。
 慣れ親しんだ年功序列の日本的規制の中での「個の尊重」は、最近まで(保守性の強い組織では今でも)タブー視すらされてきたのである。”せっかく寝かせつけた個、眠っている個を起こすな”と腹の中で思っている経営管理者が多かったこと、組織の中で個人が自己の内的価値に目覚めることを迷惑視する経営者が多かったこと、それらの事実を最も強く肌で感じ続けてきたのは、学者/研究者/調査者ではなく、われわれ革新を志してきた実務家である(※太字下線は筆者)。
 企業や組織の抵抗に遭いながらもキャリア開発のワークショップを長年社員向けに実施してきたという著者は、参加者からは自分の考えが支持されていることを次のように述べる。
 われわれの自己評価は次のような観察によっても支持されている。

 ・参加者の総合評価(約3,000人、5段階);推定平均値4.2(最高4.8~最低3.9)
 ・参加者中CC(※キャリアカウンセリング)実施者(のみ)の総合評価(約1,000人、5段階);推定平均値4.5(最高5.0~最低4.2)

 数字は極めて概算的であり、厳密な統計処理ではない。
 まず、「推定平均値」なるものを使っている時点で信憑性に疑問符がつく。この程度の総合評価であれば、企業がプロモーションのために「顧客満足度92%(自社調べ)」などと主張するのと変わらない。これが学術書ならば一発でアウトである。対象者は誰なのか、対象者の属性はどうなっているのか、どのように調査したのか、調査項目は何だったのかといった点を明らかにしない限り、説得力を持たない。数字を操作してまでも、自説が周囲から高く評価されていると言い切るのは、まさに左派のプロパガンダの手法と同じである。

 自説に自信を持っている左派は、往々にして周りの批判が聞こえなくなる。自分と他者は同じ思考を平等に共有しているという前提に立つ左派は、自分に対する批判などないと思っているのかもしれない。だが、実際には第三者の目からすると、疑問を投げかけたくなるような点がたくさんある。それを全てここで指摘することはできないが、1つだけ例を挙げることにしよう。本書の巻末には、第1章の著者が作成した数十の図が付録として収録されている。しかし、その図の中には、どう見ても何が言いたいのか理解できないものが含まれている。

キャリア開発

 (※)パワーポイントで書き起こすのが面倒だったので、写真でご容赦ください。

 まず、「MBO(目標管理制度)・CD(P)(キャリア開発〔プラグラム〕)をHRM(人的資源管理)/HRD(人的資源管理)の核に」というタイトルがついているにもかかわらず、MBO・CD(P)が図の中心にないことに私などは違和感を覚える。これは些末な点であるとしても、「HRM/HRD」の円周上に、「HRスタッフ」、「ライン」、「セルフ」が同列で並んでいる意味が理解できない。

 また、円の中央部に目を向けると、下半分の「目標設定⇒遂行点検⇒成果評価」はプロセス順になっているのだが、上半分の「CDM(Career Development Meeting)/CDC(Career Development Committee)」、「CI(Career Interest〔自己申告〕)/CF(Career Facilitation〔キャリア面談〕)」、「JPo(Job Posting〔社内公募〕)/CPa(Career Path〔キャリアパス〕)」、「CC(Career Counseling)/CDW(Career Design Workshop)」はCDPの諸要素を並べただけであり、MBOと対になっていない。敢えて時系列で並べるならば、キャリアカウンセリングを受けて自分のキャリア目標が明確になり、社内公募制度を利用する人が出てきたので、キャリア開発委員会で検討する、という流れになるはずだから、「CC/CDW⇒CI/CF、JPo/CPa⇒CDM/CDC」と書くべきである(これでも無理やり感は否めない)。

 第1章は、著者の昔の著書からの引用も多い(その昔の著書名を書くと著者がバレてしまうので伏せておく)。「私の主張は数十年変わっていないのだから、あとは昔の著書を読めば結構だ」とでも言わんばかりである。こうした主張の硬直性も、左派の特徴の1つである。さらに、他者との平等を説いておきながら、「君たちには私が正しい理論を教えてやる」と上から目線で他者を”啓蒙”したがるのも、左派によく見られる傾向である。

 本書では、キャリア開発のカギを握るのがMBOであるとされている(だから、先ほどの図でもCDPとMBOが対になっていた)。ただし、単に企業や組織の目標を上の階層から下の階層へとブレイクダウンしていくのではなく、それぞれの社員自らが目標を設定し、目標を「与えられるもの」から「自分のもの」にすることが重要であると指摘されている。これはまさに、MBOを提唱したピーター・ドラッカーが"Management by Objectives and Self-Control"と述べたことと合致する。ここまでは私も納得する。だが、本書では繰り返し、「MBOは人事評価制度ではない」と書かれている。確かに、ドラッカーのMBOの本質は、目標によって自己の規律を保ち、自己を動機づけることにある。では、どうやって人事評価を行うのかと言うと、本書を読み進めるにつれて、結局はMBOに頼らざるを得ないという話になり、矛盾が露呈してしまう。

 それぞれの社員にはMBOによって目標が設定される。その目標はどこから導かれるかと言えば、その社員が担っている固有の役割である。MBOが人事評価制度であることから、給与体系は必然的に役割給となる。しかし、役割給制度は非常に煩雑なものになりやすい。ブログ別館の記事「経団連事業サービス人事賃金センター『本気の「脱年功」人事賃金制度―職務給・役割給・職能給の再構築』―人事制度は論理的に設計すればするほど社員の納得感が下がる」でも書いたが、企業における各社員の役割は多種多様であり、それに難易度をつけて給与に差をつけるには、相当な論理武装をしなければならない。その結果として設計される給与体系は、論理的には正しいのかもしれないが、社員から見ると複雑な怪物のように見える。

 そもそも、役割給は本書でも書かれているように、「職種別賃金水準を米国並みに詳細に調査、公開」することが大前提である。国レベルで共有されたデータが、役割給制度の煩雑さを低減させる。それがない日本では、役割給制度は企業によってバラバラに構築され、さらにそれぞれの企業内においても、人事担当者に相当な運用の負荷をかける恐れがある。

 余談だが、以前厚生労働省の前を通りかかった時、日本年金機構の労働組合員が「今の年金制度は複雑すぎて現場の業務が大変だ。何とかせよ」と抗議デモを行っているのを見た。私は、「自分で制度を複雑にしておいて『大変だ』と騒ぐのはおかしいのではないか?」と思ったものである。これと同じような摩訶不思議な現象が、役割給を導入した企業でも発生するかもしれない。つまり、複雑な役割給制度を構築しておきながら、人事担当者(管理監督の立場にない社員であれば、人事部員であっても労働組合に入ることができる)が「今の役割給制度は複雑すぎて現場の業務が大変だ。何とかせよ」と経営陣に抗議するという珍現象である。

 私は、本書の最大の問題点は、「個の尊重」を前面に出しすぎるあまり、「周囲の眼」という視点が欠けていることにあると思う。キャリア開発にあたっては自分の価値観やアイデンティティーを理解することが重要であるが、これは自分1人でできることではない。他者から自分がどのように見えているのかを知ることが、自己理解を深める上で決定的に不可欠である。

 さらに、「周囲からどんな仕事を期待されているか?」を認識するというステップがごっそりと抜けている。キャリア研究の第一人者であるエドガー・シャインは、キャリア開発のセルフワーク用の著書を3冊発表しているが、そのうちの1冊は、丸々「自分の職務と役割を見つめ直し、組織から何を期待されているか?」を分析するという内容に費やされている。翻って本書では、ドラッカーのMBOがアブラハム・マズローの欲求5段階説と結びついて、個人が立てる目標は「自分がやりたいこと」でなければならないとされている。しかし、ドラッカーは、「自分は何をしたいか?」が重要だと述べたことはない。「自分は何をなすべきか?」と問うて成果を定義しなければならないと主張している。つまり、周囲からの要求を汲み取ることをドラッカーは重視している。

キャリア・サバイバル―職務と役割の戦略的プラニング (Career Anchors and Career Survival)キャリア・サバイバル―職務と役割の戦略的プラニング (Career Anchors and Career Survival)
エドガー・H. シャイン Edgar H. Schein

白桃書房 2003-06-01

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 もちろん、私も組織からの要求に100%従えとは言わない。本ブログでは繰り返し山本七平の用法に従って「下剋上」という言葉を使ってきた。これは、上司からの命令に対して、部下が唯々諾々と従うのではなく、部下が「こうすればもっと上手くいく」、「もっとこういうことをした方がよいと思う」などと提案することである。提案を受けた上司は、「よし解った、君がそこまで言うなら、君の言う通りにしてみよう。君に権限を与えるから君の裁量に任せる。成功すれば君の手柄だ。失敗しても責任は自分が取る」と言い切る。これが日本組織における望ましい上下関係のあり方である(最近、上の階層を絶対視するような上下関係が問題になっているのは残念だ)。

 部下は上司を打ち倒そうとしているのではない。部下の立場に立ったまま、上司の仕事に介入する。これが、山本七平の言う「下剋上」である。部下が上司を打ち負かす、下の階層が上の階層に取って代わるような下剋上は、歴史のごく一時期に見られたにすぎない。この「下剋上」が存在する限りにおいて、以前の記事「【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)」で書いたような、サントリーの「企業の方向性と個人のキャリアのうち、後者を少し優先させる企業がよい企業である」という言葉を私は容認することができる。

 よい「下剋上」をするには、まず企業や組織を取り巻く環境がどうなっているのか、今後どのように変化しそうか、それに伴って自分の役割や職務はどのように変わりそうかを客観的に分析する。その上で、環境変化の本質に目を向け、本当は今後どのような仕事が新たに必要となるか、翻って自分の強みや嗜好・価値観は何か、新たな仕事の中で自分ができそうなこと、自分がやりたいことは何かを主観的に考える。これこそまさに、キャリア開発そのものである。

 実は、キャリア開発が仕事の次元の中で完結する分にはまだ楽である。先ほど書いた「他者の眼」には、家族も含まれる。我々は、企業や組織からの期待を背負うと同時に、家族からの期待も背負っている。その家族の問題が絡むと、キャリア開発の難易度はぐっと上がる。この点については、本書では最後の方に少しだけ書かれている程度であり、物足りなさを感じた。キャリアカウンセラーは、相談者に子育てや介護などの問題が生じた場合、相談者が本当に大切にしたいことをじっくりとあぶり出す必要がある。その上で、仕事と子育て・介護のうち、優先したいことと犠牲にしてもよいことを1つずつ丁寧に整理していく。さらに、相談者が優先したいことを実現するにあたって周囲からの支援が必要な場合には、その支援を取りつける。

 非常に単純な例だが、子育てを優先し業務量を減らしたいという女性社員がいる一方で、もっと挑戦的な仕事をしたいという若手社員がいる場合には、その女性社員の仕事の一部を若手社員と共有するように上司と調整する。介護を優先し業務量を減らしたいというミドル社員が複数いる場合には、その業務をまとめてアウトソーシングするように部門長に働きかける。キャリアカウンセリングは相談室の中で完結するのではない。これからのカウンセラーには、個人の課題を組織の課題へと昇華させ、その課題を解決するために密室を飛び出して、組織内を渡り歩き、様々なキーマンに積極的に働きかけるというコンサルタントの役割が求められるだろう。


2018年04月04日

グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論


ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術
グロービス・マネジメント・インスティテュート

東洋経済新報社 2001-05-18

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 キャリア開発や組織文化の研究で知られるエドガー・シャインは、キャリア開発のステップを大きく3つに分けている。まずは自分の価値観を知ることである。シャインは個人の中核的な価値観のことを「キャリア・アンカー(※アンカー=碇)」と呼ぶ。次に、自分が所属する部門や企業、業界の変化をとらえ、外部環境からどのような役割を期待されているのか、あるいは今後期待されることになりそうかを認識する。そして最後に、自分の価値観を活かしながら周囲からの期待に応える自分とはどのような存在なのかを想像し、キャリアビジョンを描く、というものである。

 だが、日本のキャリア開発の本を読むと、往々にしてこの3つのステップがバラバラになっている。ブログ別館の記事「沼波正太郎『40歳からのキャリア戦略―図解 あなたの「不安」を展望に変える!』―「転職は危険」と言っておきながら転職を勧めている」で紹介した書籍もそうであった。本書も、まずは市場ニーズ(人材ニーズ)を分析し、次に現在のスキルや価値観を棚卸しするところまではよいのだが、キャリアビジョンを描く段階になると、それまで検討した内容が一切無視されて、「自分がやりたいこと」が優先されている。そして、自分が達成したい中長期的な目標(10~20年後)を明確に掲げ、そこから逆算してキャリア目標を段階的に設定している。

 この方法は、マーケティングの言葉を借りればプロダクトアウト的な発想であり、マーケットインの視点が欠けている。本書には次のような記述があり、営業がこれまでの「売り込み」から「CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)」重視へと変化しているとある。それなのに、キャリア開発の方は相変わらず自分優先の売り込み型でよいのだろうか?
 筆者自身が最近トライした例を挙げると、いわゆる営業で「売り込む」方法から「顧客が必要としている情報を顧客の目の前に置く」「サービス内容で満足してもらいリピートを狙う」という方法に変えたことがあった。(中略)この時の業績はと言えば、その1年間の売上は前年度に対して20%以上伸びている。
 それから、中長期的な目標からバックキャスティング的に短期の目標を導くというのも、一般的なキャリア開発の流れとは異なっている。これだけ環境変化が激しい時代であるから、中長期的な目標を明確に定めても、すぐに無意味になることが多い。それなのに、当初の明確な目標を持ち続けると、キャリアが硬直的になり、かえって健全なキャリア開発が阻害されるというのが現在の通説である。中長期のキャリアビジョンは大まかなレベルで持っていれば十分であり、後は環境変化に合わせて柔軟にビジョンの内容を変えていくのがよいとされている。

 本書が出版されたのは2001年である。2001年には私はまだ大学生であったが、当時はコンサルティングファームブームのようなものがあって、今で言う「意識高い系」の学生は皆コンサルティングファームへの就職を目指していた。学生を対象としたロジカルシンキングのセミナーも多かったし、そこで学んだ内容を活かして、論理的思考力を高めるための勉強会を開いたりもしていた。そういう時代背景もあってか、本書に登場する若手ビジネスパーソンはほぼ全員と言ってよいほど、コンサルティングファームへの転職を検討している。

 そして、コンサルティングファームで要求される能力を、①思考力、②コミュニケーション力、③企業という仕組みを理解していること、④フットワークの4つと定義し、転職希望者がこれらの能力をどの程度身につけているかを分析する事例が登場する(ただ、別の箇所では、①理解力・洞察力、②論理思考能力、③創造的思考力、④感受性、成熟さ、謙虚さ、⑤ロジカルコミュニケーション力という5つが挙げられており、内容に矛盾を感じた)。問題は、この4つの能力がコンサルティング業界の枠を超えて、あたかもどの業界にも通用するものであるかのように扱われていること、さらには経営者に求められる能力と共通のものであるかのように書かれていることである。言うまでもなく、業界によって求められる能力は違うし、仮に経営コンサルタントとして優れていたとしても企業経営が上手であるとは限らない(私は前職のベンチャー企業でそのことを嫌というほど体感した。詳しくは「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」を参照)。

 ただ、本書が目指した能力の汎用化は1つのヒントになった。企業における仕事は、大きく分けるとタスク志向と人間関係志向の2種類になる。「タスク志向―人間関係志向」という軸を一方に取り、もう1つの軸として「マクロ視点―ミクロ視点」という軸を加えてマトリクスを作ると、①構想力、②問題解決力、③組織を動かす力、④コミュニケーション力という4つの力が導かれる。この4つに「業界特有の知識」を加えた5つの能力・知識は、どの業界でもほぼ共通であろう。

企業に共通して求められる4つの能力

等級別の能力レベル(例)

 そして、5つの能力・知識に関して、等級ごとに要求レベルを定義する。その等級と役職を結びつければ、職能資格制度ができ上がる。以前の記事「DHBR2018年2月号『課題設定の力』―「それは本当の課題なのか?」、「それは解決するに値する課題なのか?」、他」では、一般社員とマネジャーでは求められる能力の種類が違っており、一般社員として優れていてもマネジャーとして優れているかどうかは解らないから、マネジャーとしての潜在能力を一般社員のうちに測定してはどうかと複雑なことを考えていた。だが、上記のフレームワークを使えば、一般職もマネジャー職も同じ能力で評価され、両者の間の能力に一定の連続性が保たれる。また、一般の職能資格制度によく見られるような、企画力、実行力、折衝力、現状認識力、判断力などといった抽象的な能力に比べると、前述の5つの能力・知識は導出の根拠も明確である。

 人事考課においては、まず期初の目標設定の面談で、当期の業績目標と、5つの能力・知識と紐づいた行動目標を設定する。期末になると、業績目標と行動目標がどの程度達成できたかを上司が評価する。その際、5つの知識・能力に収まらないが特筆すべき能力や成果については、所見として記録に残しておく。1次評価、2次評価を経て、経営陣と人事部による最終評価では、それぞれの社員の業績と能力・知識の評価が確定し、等級も定まる。

 この等級は、後継者育成計画を作成する際の重要な基礎情報となる。例えば、ある部門の部長の後継者を育成しなければならないとしよう。その部門の部長は等級8以上だとする。すると、人事部は人事データベースから等級8以上の社員をすぐに引っ張り出すことができる。彼らが次期部長候補の人材プールを形成する。この点で、5つの能力・知識は「管理するための能力」と言える。その人材プールの中で、誰をその部門の部長にするかは、人事部と経営陣が議論して決める。5つの能力・知識レベルでは皆同じレベルであるから、最終的に適性を判断する材料となるのは、上司が評価のたびに蓄積してきた所見になろう。そういう意味では、初見に係れた能力は「議論のための能力」と呼ぶことができる。所見に書かれた情報と、その部長職をめぐる特有の事情を考慮して、最終的に誰を新しい部長にするかを決定する。

 ここで、キャリアコンサルティングについても触れなければならない。改正職業能力開発促進法により、企業は社員に対して、キャリアコンサルティングの場を与えることが義務づけられた。キャリアコンサルティングにおいては、まさに本書に書かれているような面談が展開されるわけだが、本書の内容に反して、そして、人事部が「管理するための能力」で社員を管理するのに反して、社員の能力を型にはめないことが大切だと思う。企業は画一的な管理を望むのに対し、社員個人は自分らしいキャリア、他人とは違う人生を望むものである。キャリアコンサルティングでは、社員の多様な能力を棚卸しすることがポイントとなる。現在はキャリアコンサルティングと人事評価は別の制度として運用されている企業がほとんどだが、もし将来的に両者を連携させるならば、キャリアコンサルティングで判明した多様な能力は人事評価シートの所見の欄にある「議論のための能力」の内容を膨らまし、後継者育成計画にも影響を与えるだろう。

 キャリアコンサルティングで社員から寄せられる要望は、大きく分けて3つだと思う。1つ目は、「自分のキャリアパスを知りたい」というものである。社員からこう聞かれたキャリアコンサルタントは、人事部と連携して後継者育成計画を参照し、当該社員をどのポストに向けてどんなプランで育成しようとしているのかを伝えるとよい。2つ目は、「自分はあの部門で(こういう役職に就いて)こういう仕事をしたい」と願い出るケースである。この場合は、キャリアコンサルタントから人事部に対して情報をフィードバックし、前述の人材プールに当該社員を加えることを検討する。その際は、「管理のための能力」と「議論のための能力」の両方を考慮する。

 3つ目は「自分の能力や知見を活かして全く新しい仕事をやりたい」というものである。こういう声が多くの社員から同時に聞かれる場合というのは、経営陣が認識していない市場ニーズや組織能力に社員の方が気づいているのかもしれない。したがって、社員の創発的な学習を通じた新しい戦略を構築するチャンスであると言える。キャリアコンサルティングを通じて情報が充実した人事データベースの「議論のための能力」をつぶさに分析すれば、思わぬ強みや機会の発見につながる可能性がある(以前の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」、「DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)」を参照)。


2012年12月06日

リチャード・モリタ『これだっ!という「目標」を見つける本』―キャリアデザインと戦略立案のアナロジー


【ダイジェスト版マイ・ゴール】これだっ!という「目標」を見つける本【ダイジェスト版マイ・ゴール】これだっ!という「目標」を見つける本
リチャード・H・モリタ ケン・シェルトン

イーハトーヴフロンティア 2007-01-10

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 キャリア論が専門の神戸大学・金井壽宏教授は、社員にとって仕事の方向性を表す「キャリア」と、組織にとって事業の方向性を表す「戦略」とを同じ次元で捉えている。
 節目だけデザインすればいいものの代表格が、分析レベルが個人から組織にあがっていくが、会社全体としては、「経営戦略」である。どこを活動の舞台とし、どこに自社のコア・コンピタンス(中核となる独自の強み)を築き、そのためにどのように傾斜的な資源配分をおこなうかを決めることが、経営戦略を立てることだ。(中略)先の個人レベルのシャインの問い(※心理学者のエドガー・シャインは、(1)自分は何が得意か、(2)自分は一体何をやりたいのか、(3)どのようなことをやっている自分なら、意味を感じ、社会に役立っていると実感できるのか、という3つの問いを通じて、自己イメージのチェックを勧めている)を、組織レベルに翻案してみよう。

 (1)わが社は他のどこよりもうまくできることはないか。
 (2)わが社は、どこでどのような事業を営みたいのか。
 (3)その背後にある事業観や理念、そこで事業することの社会的な意味や価値はどこにあるのか。
(金井壽宏著『働くひとのためのキャリア・デザイン』)
働くひとのためのキャリア・デザイン (PHP新書)働くひとのためのキャリア・デザイン (PHP新書)
金井 壽宏

PHP研究所 2002-01

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 私もこの考え方に賛成である。実際、戦略構築のアプローチとキャリアデザインは、金井氏も指摘しているようによく似ている。端的に言えば、そのプロセスは、外部環境と内部環境の分析を通じて、組織や個人の進むべき道を導き出すというものである(キャリアデザインの場合、外部環境とは個人が所属する部署・会社、およびその会社が属する業界を、内部環境とはその人自身の経験や性格、価値観を指す)。

 リチャード・モリタ氏は『これだっ!という「目標」を見つける本』の中で、自分に合った目標を設定するためには、幼少期の記憶にまで遡って、実に深い自己認識=生活史を持たなければならないと主張している(昨日の記事「リチャード・モリタ『これだっ!という「目標」を見つける本』―成功者は昔のことを驚くほどよく覚えている」を参照)。つまり、キャリアデザインにおける内部環境分析の時間軸が非常に長いのが特徴である。

 キャリアと戦略が同じ次元で捉えられるとすれば、戦略立案における内部環境分析も、同じく長い時間軸を持つ必要があるだろう。言い換えれば、社史をじっくりと振り返るべきなのである。しかし、現実問題としては、せいぜいここ数年の財務体質や組織能力を分析するのが精一杯である。スピードを求める経営陣に対して、「御社の社史を見直しましょう」などと言おうものなら、「何を悠長なことを言っているのだ」と一喝されるに違いない。

 では、経営陣が求めるスピードで一気呵成に構築した戦略が、社員の腹落ちするものになっているかというと、やや疑問である。苦労して作り上げた生活史から導かれた目標が「これだ!」と思えるのは、もはや目標と自分が同化しているからである。だとすれば、社員が納得する戦略とは、企業が綿々と紡いできた社史というタペストリーの延長線上にあり、戦略と社員がもはや同化しているものでなければならないはずである。

 社史は組織の文化を表す。創業者の理念や武勇伝、成長期にあった輝かしいエピソードと、それとは反対に一時は会社を倒産寸前にまで追い込んだ辛い失敗の数々、それらの出来事に携わった歴代の社員の思いと、先輩社員たちが導き出した無数の教訓。こうした様々な要素を丹念に読み解いていくと、その企業がどういう文化を持っているのかが解る。この企業文化を、戦略構築の重要なファクターにすることはできないだろうか?

 実際のところ、戦略と文化の関係性に着目した研究は存在する。ヘンリー・ミンツバーグは著書『戦略サファリ』の中で、企業戦略に関する膨大な研究を類型化し、10のスクール(学派)の1つとして「カルチャー・スクール」を挙げている。ただし、残念なことに、カルチャー・スクールに属する研究者の大部分は、「文化は組織の足を引っ張るもの、変革の邪魔になるもの」という前提に立っている。文化が戦略に及ぼす肯定的な影響力を取り上げているのは、スウェーデンの研究者など少数派にとどまるようだ。企業文化と戦略の間にダイナミックな関係性を描くことができたならば、マイケル・ポーターなどとは異なる面白い戦略観が導き出せそうに思える。

戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック (Best solution)戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック (Best solution)
ヘンリー ミンツバーグ ジョセフ ランペル ブルース アルストランド Henry Mintzberg

東洋経済新報社 1999-10

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