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「ミャンマー・エーヤワディー管区投資誘致セミナー」に行ってきた

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年06月01日

「ミャンマー・エーヤワディー管区投資誘致セミナー」に行ってきた


 日本貿易振興機構(JETRO)とグリーンフィールド経済政治研究所が主催する「ミャンマー・エーヤワディー管区投資誘致セミナー」に参加してきた。ミャンマーからは、エーヤワディー管区の地域首席大臣ウー・テイン・アウング氏をはじめ、同区の関係者が多数来日していた。



(※イワラジ川は、エーヤワディー川の旧名称)

【ミャンマー全般について】
 (1)軍事政権時代には、中国、香港、タイによる電力、石油・ガスなどインフラ関連の直接投資が多かったが、民政移管後はシンガポールによる製造業、輸送・通信業への直接投資が急増している。シンガポールの割合が高いのは、シンガポールにアジア統括拠点を置くグローバル企業が、シンガポールの子会社を通じて投資を行っているためである。

 (2)ミャンマーには、チャウピュー、ティラワ、ダウェーといった経済特区がある(ブログ別館の記事「森哲志『こんなはずじゃなかったミャンマー』他」を参照)。経済特区は、2014年に施行された経済特区法に基づいて設置されている。同法では9種の禁止事業が定められているが、それ以外の業種は基本的にオープンであり、外資比率規制もない。投資申請書の提出後、30日以内に認可の可否が決定されるなど、手続きはスピーディーである。

 経済特区以外の地域に投資する場合は、2012年に施行された外国投資法に依拠することになる。経済特区以外では、国家計画経済開発省の通達やミャンマー投資委員会の通達により、規制業種が細かく定められている。また、合弁が求められる事業については、外資は原則として80%までしか出資できない(ただし、案件により、それ以上の外資比率が認められたケースもある)。投資申請書を提出してから認可までは4~5か月かかると言われる。加えて、投資認可から投資認可書が発行されるまで、3週間から1か月かかるという。

 (3)チャウピュー経済特区は中国、ティラワ経済特区は日本、ダウェー経済特区はタイが開発に協力している。日本が支援するティラワ経済特区は2,400haにも上る広大な経済特区であり、2015年夏には400haの先行開発エリアが完成する予定とされている。

 だが、JETROの担当者から今年3月に撮影した写真を見せてもらったところ(著作権の関都合上、写真の掲載は控えさせていただく)、オープンまであと半年ぐらいだというのに、まだほとんど更地でコンクリートも敷かれておらず、一部で工場の骨組みの建設が見られる程度であった。電線などが全く見当たらず、インフラ整備がどこまで進んでいるのかも不明であった。

 (4)ミャンマーには縫製業が多数進出しているが、そのほとんどが委託加工ビジネスである。委託加工ビジネスのことを、ミャンマーではCMP Business(Cutting, Making and Packing)と呼ぶ。対価は委託加工賃(CMP Charge)であり、製品を製造し自ら販売して利益を得る形態とは異なる。CMP型で企業登記することで、原材料の輸入免税が受けられるというメリットがある(その代わり、完成品は原則として100%輸出しなければならない)。

 (5)ヤンゴン日本人商工会議所によると、2011年度の会員数は53であったが、2014年度には約4倍の221に増えた。工業部会、建設部会、流通サービス部会、運輸部会(2014年度に新設)の会員数が軒並み急増している。ただし、ミャンマーでは貿易業と金融・保険業の規制がまだ厳しいため、貿易部会、金融保険部会の会員数は微増にとどまる(なお、金融業に関しては、三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行が今年4月下旬に支店を開設した。これは、昨年10月にミャンマー政府が日本の3メガバンクなど6カ国9行に営業免許を交付したことを受けたものである)。

 (6)ミャンマーは農業大国である。第1次産業がGDPの約4割を占め、かつ就業人口の約6割が農業に従事している。しかし、2014年のGDP成長率が7.69%と非常に高く、2015年のGDP成長率も8.33%と予想されていることから、農業部門の人材が工業・産業部門に吸収され、農業部門の人材不足が進んでいる。そこで、機械化により人手不足を解消しようとしているのだが、ミャンマーで使われている農業機械の大部分は中国、インド製である。したがって、日本企業にとってはこの分野で大きなチャンスがあるかもしれない。

【エーヤワディー管区について】
 (1)エーヤワディー管区の基本データを以下に示す。
 ■首都:パテイン市
 ■首相:ウー・テイン・アウング
 ■面積:21,851平方キロメートル
 ■人口:800万人
 ■民族:バマー(ビルマ人)、カイン、ラカイン、インディアン
 ■宗教:仏教、キリスト教、イスラーム、ヒンドゥー教
 ■平均降水量:2,500ミリ
 ■地区数:6地区
 ■町の数:26町
 ■村の数:11,710村
 ■海抜:最大85フィート、最小5フィート
 ■耕地面積:3,631,287エーカー
 ■ダム数:85基

 (2)気になるのはインフラであるが、エーヤワディー管区関係者の話によると、電力については50MWの送電線を整備するという(ただし、この送電線が工場を稼働させるのに十分なのかどうかは、やや疑問が残る。工業団地の面積にもよるものの、これでは足りないのではないか?)。水については、淡水処理施設の建設が進行中である。また、ミャンマー初の港であるパテイン港は、軍事政権時に使用不能となっていたが、再度利用できるようになる予定である。これらのインフラは、2015年中に完成するとのことであった。

 (3)現在、エーヤワディー管区には、マレーシア、中国、台湾の縫製業3工場が進出している。年内には、新たに6工場が稼働する予定だという。現在、エーヤワディー管区では2つの大きなプロジェクトが進行している。1つはMyanmar Super Axisであり、石炭発電所から石油発電所への切り替えや、パテイン―ヤンゴン間の高速道路整備が計画されている。もう1つはPathein Industrial Estateであり、前述の高速道路沿いに、巨大な工業団地を建設するというものである。タイのコンサルティング会社が製作したというプロモーションビデオが上映された。

 動画では、広大な工場用土地と、工場で働く社員のための住宅地や商業施設などを完備する見通しであることがしきりにアピールされていた(ウォルマートだけ具体名が出ていたが、進出を決めたのだろうか?)。しかし、そもそもエーヤワディー管区としては、この工業団地にどんな産業をどのくらい誘致するつもりなのだろうか?それがはっきりしてなければ、どの程度のインフラを整備すればよいのか解らないはずだ。また、雇用創出の目標はどうなっているのだろうか?その目標なくして、雇用に見合った住宅の数や商業施設の種類は定められない。

 実は、エーヤワディー管区はミャンマーの中でも有数の農業地帯に属している。ミャンマーには7つの地域と7つの州があるが、エーヤワディー地域のコメの生産量は年間8,620,549MTであり、全地域・州の中でトップである。エーヤワディー管区関係者が配布した資料にも、同管区では農業・漁業が盛んであることが記されている。従来の農水産業と、新興の工業・商業とのバランスをどのように取るつもりなのかも不明であった。

 (4)参加者の中に弁理士の方がいて、「ミャンマーの知的財産法はどうなっているのか?」と質問した。この「知的財産」という概念自体がエーヤワディー管区関係者にはうまく伝わらないようで、最初は固定資産と勘違いされていた。質問者が、固定資産ではなく知的資産の話だと言うと、「知的財産については、それぞれの経済特区法の中で個別に定められている」という回答が返ってきた。もちろん、通常の法体系としてはあり得ない話である。結局、JETROの担当者が途中から間に入り、「現在は法律がなく、作成の途中である」とフォローしていた。

 セミナーには、エーヤワディー管区関係者が30名ぐらい同席しており、この質問に対して次から次へと関係者が回答したのだが、担当者が皆若いことに驚いた。ほとんどが30代で、中には20代とおぼしき人もいた。ミャンマーは非常に若い国であることを改めて思い知らされた。




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