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DHBR2018年4月号『その戦略は有効か』―前職のベンチャー企業の戦略が有効でなかった7つの理由
【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2018年03月28日

DHBR2018年4月号『その戦略は有効か』―前職のベンチャー企業の戦略が有効でなかった7つの理由


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 4 月号 [雑誌] (その戦略は有効か 転換点を見極める)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 4 月号 [雑誌] (その戦略は有効か 転換点を見極める)

ダイヤモンド社 2018-03-10

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 「戦略転換点」の見極め方については、インテルのCEOであるアンドリュー・グローブの著書『パラノイアだけが生き残る―時代の転換点をきみはどう見極め、乗り切るのか』(日経BP社、2017年)の方が詳しいので、そちらの内容を記載しておく。

パラノイアだけが生き残る 時代の転換点をきみはどう見極め、乗り切るのかパラノイアだけが生き残る 時代の転換点をきみはどう見極め、乗り切るのか
アンドリュー・S・グローブ 小澤 隆生

日経BP社 2017-09-14

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 ①「主要なライバル企業」、「自社の重要な補完企業」の入れ替わりがあるか、自問する。
 まず、次のような問いを発してみる。「主要なライバル企業の入れ替わりがありそうか?」。普通、自社のライバル企業の名はすぐ答えられるものだが、その答えが明快でなくなったり、以前はどうでもよかったような競争相手が出てきたりする場合には、注意を払わなければならない。重要視するライバルの序列が変わる時は、何か重大なことが進行している兆候であることが多い。また、「今まで大切な補完企業と見なしてきた相手が入れ替わろうとしていないか?」ととも問うべきである。かつて自社にとって一番大切な企業だったのに今は違うとしたら、産業内の力関係に変化が起きている兆候なのかもしれない。

 ②変化を素早く察知する人材”カサンドラ”の声を聞く。
 カサンドラは「トロイの陥落」を予言した女司祭のことである。社内には、彼女のように、迫り来る変化にいち早く気づき、警告を発する人々がいる。こうした人たちは中間管理職で、営業職であることが多い。彼らは近づきつつある変化について、経営陣より多くのことを察知している。社外で動き回り、現実世界の風を肌で感じているからだ。カサンドラは向こうからやって来て、心配事を伝えてくれる。その時は彼らの話に耳を貸し、理解するよう最善を尽くすべきだ。

 ③新技術の登場時には「初期バージョンの罠」に注意し、重要度を慎重に見極める。
 新しく出てきたものは、たいていは評判通りではない。とはいえ、注視を怠るべきではない。例えば、ウィンドウズの初期バージョンは長い間二流とされていたが、その後ウィンドウズは周知の通り業界全体を大きく変える力となった。こうしたことがあるから、初期バージョンの質だけを見て、その重要度を早計に判断してはいけない。

 ④あらゆる関係者を集めてディスカッションする。
 ある変化が戦略転換点なのかを見極めるために重要なことは、広く意見を集めてディベートすることである。その際、色々なレベルの幹部が議論に参加させる。また、顧客、協力会社といった社外の人々も巻き込むべきだ。あらゆる関係者の知恵を総動員することが大切である。

 ⑤常に「恐怖感」を持って事に当たる。
 経営幹部の最も重要な役割は、社員が夢中になって市場での勝利を目指せるような環境を作ることである。「恐れ」という感情は、そのような情熱を生み出し、維持する上で重要な役割を担っている。敗北を恐れることは、強い動機になる。では、どうすれば社員の心に敗北への恐怖感を培うことができるのか?それには、まず経営陣が恐れを感じることだ。いつか経営環境の何かが変わり、競争のルールも変わってしまうかもしれないと経営陣が恐れていれば、社員もやがて共感するようになる。そうすれば警戒心を持ち、常にシグナルに注意を払うはずである。

 せっかく戦略転換点に気づいても、新しく立てた戦略が有効でなければ成功することはできない。私の前職は、企業向けの教育研修と組織・人事コンサルティングを提供するベンチャー企業であったが、約10年前にはちょうど、「自律型人材」というキーワードが流行し、キャリア開発の重要性が高まりつつある頃であった。前職の企業はこの変化を先取りして、新入社員、若手社員、ミドル、シニアという全世代に対応したキャリア研修を提供するという戦略を選択した。当時、キャリア研修を実施していたのは一部の大企業のみであったから、この戦略は新しい市場を切り開くイノベーションであった(当時の推定市場規模については、以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第30回)】ターゲット市場がニッチすぎて見込み顧客を発見できない」を参照)。

 本来、経営資源に限りのあるベンチャー企業は、既に需要がある程度存在する市場において、競合他社との差別化によって市場への参入を図るというマーケティング戦略を取るのが安全策である。前職の企業の中にも、管理職向けのマネジメント研修や、営業職向けの営業研修など、競合他社は多いが多くの企業で実施されている研修を提供するべきだという声があった。ただ、そうは言っても、世の中にはイノベーションから成功したベンチャー企業も存在するから、私も前職の企業のイノベーションを完全には否定しない。しかし、百歩譲って前職の企業のイノベーションを認めるとしても、それでもやはりその戦略には7つの欠陥があったと思う。

 《参考記事》
 【ベンチャー失敗の教訓(全50回)】記事一覧

 ①キャリア研修の導入は、顧客企業にとって+αの負担となるのに、それを上回るメリットを提示することができなかった。
 前職の企業だけでなく、当時の研修会社が考えていたキャリア研修は、一般的な集合研修とは異なり、集合研修の後に、それぞれの受講者と個別にキャリアコンサルティング(キャリアカウンセリング)を実施することとなっていた。ただでさえ新しい研修を導入することは人事部にとって負担であるのに(人事部というのは保守的な部門で、一度決めた研修体系をなかなか変えようとしないものである)、受講者と研修会社との間でキャリアコンサルティングを設定するという手間が増える。それに、いくらキャリアコンサルティングが個人的なものとはいえ、企業としてお金を払ってやってもらっている以上、キャリアコンサルティングの結果がどうであったか研修会社から報告を受けなければならない。その結果、何かしらの問題が見つかれば、人事部全体で議論したり、場合によっては経営陣にまで報告したりする必要も出てくるだろう。

 以前の記事「DHBR2018年3月号『顧客の習慣のつくり方』―「商店街に通う」という習慣を作るためにはどうすればよいか?、他」でも書いたが、イノベーションを受け入れてもらうには、顧客の習慣を変えなければならない。その際、顧客の行動を簡便化するように働きかけることが肝要である。簡単な例だが、電子メールが普及したのは、電話よりコミュニケーションが楽になったからである。仮に、イノベーションが顧客にとって新しい行動を要求する場合には、顧客が負担するコストを上回るメリットを提供しなければならない。またしても簡単な例だが、facebookはユーザが日常の一コマをわざわざWeb上にアップするという一手間がかかる。それでもfacebookが世界中に広がったのは、友人と広くつながることで日常生活の楽しみが増えるからだ。

 前職の企業は、キャリア研修の導入による効果を明確に示すことができなかった。「社員のモチベーションが上がる」、「組織が活性化される」、「自社に対するロイヤルティが上がる」といった、定性的で抽象的な効果ばかりを見込み顧客に訴求していた。仮に、「○○名に対してキャリアコンサルティングを実施すると、平均的に○○名の潜在的な転職希望者が見つかり、彼らのリテンションによって○○万円の中途採用コストが節約できる」、「平均的に○○名が現在の職場と自分の能力にギャップを抱いていることが判明し、人事異動を通じた適材適所を実現することで、組織の生産性が○○%上昇する」などといった定量的な効果を示すことができれば、もっと人事部の関心を引きつけることができたのではないかと思う。

 ②自分で開発したキャリア研修のことを自社が愛していなかった。
 以前の記事「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」でも書いたように、イノベーションとは、イノベーターが「自分がこれだけほしがっている製品・サービスなのだから、世界中の人も同じようにほしがるに違いない」と考えているものである。つまり、イノベーターは自分が創り出したイノベーションを心から愛していなければならない。だが、前職の企業では、社長が本当にキャリア研修を愛しているのか最後までよく解らなかった。

 仮に、社長がキャリア研修に強い思い入れを抱いているのであれば、まずは自社の社員を顧客に見立てて、社内でキャリア研修を実施してもよさそうなものであった。だが、私の在籍中にキャリア研修を受講する機会はなかった。当然、キャリアコンサルティングも実施されなかった。そもそも、半期に1度の人事考課ですらまともに行われていない企業であったから、キャリアコンサルティングが行われることを期待することはできなかった。前職の企業の社長は、大手コンサルティングファームでパートナーまで上り詰めた人である。だが、往々にしてコンサルタントという人種は、顧客企業に提案する施策を自分ではやらない(やれない)ものである(だから、コンサルタントが独立起業しても成功するとは限らない)。その悪癖が出てしまったと考えられる。

 ③競合他社の分析ができていなかった。
 これは自社のマーケティングを兼務していた私の反省点である。キャリア研修はイノベーションであったが、既にいくつかの競合他社が存在していた。私はもっと人脈を活用して、競合他社がどんな営業資料を用いて見込み顧客に提案をしているのかを調査するべきであった。そして、競合他社との差別化ポイントを明確にして、プロモーションに反映する必要があった。

 また、営業担当者とも連携して、競合他社の情報収集に努めるべきであった。営業担当者には、もし失注したら、「なぜ失注したのか?競合他社のどの点がよかったのか?」を聞くように強く念を押せばよかった。営業担当者は時々、「価格が折り合わなかった」と報告してきたが、こういう場合はたいてい、価格を下げたとしても受注できないものである。価格を持ち出すのは方便で、見込み顧客の本音は必ず別のところにある。「あの会社のキャリア研修はこの点が全然ダメだ」と心の奥底で思っている。その本音を引き出すよう、営業担当者をプッシュすればよかった。それが足りなかったので、ある営業担当者が、「我が社の研修テキストはA4ヨコだが、競合他社はA4タテである。だから、我が社のテキストもA4タテにするべきだ」と強弁して、社内の講師にテキストのレイアウトを変更させているのを見た時には呆れるしかなかった。

 ④成果をモニタリングする中間指標も、撤退基準も設定されていなかった。
 前職の企業では、大まかに「HPでコラムを読んでもらう⇒無料セミナーに参加してもらう⇒セミナー参加者にアプローチして商談化する⇒価格交渉する⇒受注する」というマーケティング/営業プロセスを想定していた。だが、HPのコラムの目標PV数も、無料セミナーの参加者数も、商談の件数も、受注の件数も(!)目標が設定されていなかった。目標を設定していないので、データも収集していない。よって、HPのコラムを読んだ人が無料セミナーに参加する割合、無料セミナーに参加した人に営業担当者がアプローチして商談化に至る割合、商談から価格交渉に至る割合、価格交渉から受注に至る割合も不明であった。だから、目標受注件数を設定した場合に、逆算して何件の価格交渉案件が必要か、何件の商談が必要か、何名の無料セミナー参加者が必要か、どのくらいのHPのコラムのPV数が必要なのかも明らかにすることができなかった。

 中間指標の不在も大きな問題だが、それ以上に私が問題視しているのは撤退基準がなかったことである。イノベーションはリスクが大きいため、思うように利益が出ず、損失が続くことがある。仮に損失が続いた場合、どれくらいの損失なら耐えられるのか、いくら以上/何年以上赤字を出したら撤退するのかという撤退基準をが必要である。そうでないと、いつまでもイノベーションにだらだらと投資し続けることになる。特に日本人は、「努力すれば必ず成功する」という価値観を強く信じている節があるので、イノベーションの失敗に見切りをつけるのが下手である。

 キャリア研修も長く赤字が続いていたが、撤退基準がなかったために、ずるずると開発や営業活動を続けてしまった。あだとなったのは、社長の資金である。社長は前に所属していた大手コンサルティングファームでパートナーになった時にストックオプションを獲得しており、その行使によって相当の資産を持っていたらしい。キャリア研修が大幅な赤字を出して期末に債務超過状態になるたびに、社長が自分の資金を注入して債務超過を解消するということを何年も続けていた。クレイトン・クリステンセンは著書『破壊的イノベーション』の中で、ホンダのスーパーカブがアメリカで成功したのは、資金が不足しており退路が絶たれていたからだと書いていたが、前職の企業はそれとは全く正反対のことをやってしまったわけだ。

 ⑤プロモーションへの投資が不足していた。
 これもマーケティング担当の私の反省点である。以前の記事「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」でも書いたように、イノベーションは新しい需要を喚起するために、時に強引で押しつけがましいプロモーションを行わなければならない。しかも、大々的に、集中して行う必要がある。それが前職の企業ではできなかった。私がやったことと言えば、自力で自社HPのSEO対策をすることと、無料セミナーを企画して細々と続けることでしかなかった。私に与えられた予算はたった月7万円であり、それは全て自社HPの運用・保守に消えていた。

 「モチベーション・マネジメント」を人事部に広めた株式会社リンク・アンド・モチベーションの小笹芳央氏は、耳慣れないそのコンセプトを売り込むプロモーションが上手だったと思う。『モチベーション・マネジメント』という著書を出し、ビジネス誌や人事の専門誌に頻繁に登場してその重要性を説いて回った。他方、私の前職の企業では、社長はキャリア開発とは関係の薄い本の執筆に忙しく、また、リスクヘッジをするためなのか、キャリア研修以外にも、メンタリング研修、ダイバーシティ・マネジメント研修、リーダーシップ研修など、様々な研修に手を伸ばしていた。そのため、資源が分散してしまい、キャリア研修に資金を集中投下することができなかった。

 リンク・アンド・モチベーションがモチベーション・マネジメントを提唱した時は2000年代前半であったため、まだインターネット広告が発達しておらず、雑誌中心のプロモーションになっていたと思われる。だが、私が前職の企業にいた約10年前には、インターネット広告が随分と発達していた。私は、月20万円の予算があれば、リスティング広告などを駆使してもっとまともなプロモーションができたはずだと後悔している。少なくとも、ほとんど自前で更新ができる自社HPの運用・保守に月7万円も払うくらいならば、Web制作会社と交渉してその金額を下げ、リスティング広告用の資金を捻出するぐらいのことはやるべきだった。

 ⑥戦略を実行するための経営資源(特に人材)が不足していた。
 「日本企業には戦略がない」と言ったのはアメリカのマイケル・ポーターであるが、以前ある人が「日本企業は戦略があったとしても兵站がない」と言ったのを記憶している。兵站とは、戦争において後方に位置し、前線の部隊のために必要な物資を送り届ける機能のことである。経営に置き換えると、戦略の実行に必要な経営資源(人・モノ・カネ・情報・知識)を、適切な品質を維持しつつ、必要なタイミングで、必要な量だけ供給することと言える。日本の歴史を振り返ると、戦闘では必要な物資を現地調達するのが原則であったがゆえに、兵站という概念が発達しなかった。その弊害が露呈したのが、太平洋戦争におけるインパール作戦であった。兵站軽視の傾向は、現在の日本企業にも見られる。私の前職の企業もそうであった。

 私の前職の企業は、社員数1,000人以上の企業をターゲットとすると決めていた。これは、前述の通り、キャリア研修を実施しているのが一部の大企業に限られていたからだという事情がある。ただ、社員数が1,000人の場合、10年に1度キャリア研修を受講するとすれば、毎年の対象者は100人となる。人事部は同じ研修は同時に開催したいと考えるため、仮に1クラス15名とすると、7名の講師が必要である。社員数が増えれば、当然のことながら必要な講師数はもっと増える。ところが、私の前職の企業には自前の講師が4人しかいなかった。そのため、人事部からは「御社には研修のデリバリ能力がない」と判断されて失注するケースもあった。これは明らかにビジネスモデル、ビジネスプロセスの設計ミスである。

 ⑦社員の「できない」という批判を経営陣が「できる」に変えようとしなかった。
 イノベーションに成功した企業の経営者のインタビューを読んでいると、「社員は全員反対した。だから、成功すると確信した」といった発言を目にすることがある。無論、社員が全員反対した通りに失敗したイノベーションもあるだろうから、あくまでも結果論だと言ってしまえばそれまでである。だが、イノベーションを成功させるためには、誰よりもそのイノベーションの可能性を信じている経営者が、社内の壁を1つずつクリアしていく努力が必要であることは間違いない。

 私の前職の企業では、キャリア研修が全く売れなかったので、毎週の営業会議は沈滞したムードが漂っていた。社員からは、「○○だからできない」、「○○だから売れない」という声が社長に向けられた。だが、社長はそのように主張する社員を1人ずつ粘り強く説得するのではなく、「じゃあどうすればいいの?」と聞き返すありさまであった。「どうすればいいか解らない」から現場が音を上げているのであって、そこに「どうすればいいの?」と畳みかけるのは残酷である。②とも関連するが、社長がこのイノベーションの価値を本当に信じているのか疑いたくなった。

 DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』で、GEの前CEOであるジェフリー・イメルトのインタビューが掲載されていたが、彼は変革を推進するにあたって、「最後の1人までドアを開けて説得する」姿勢を崩さなかったそうだ。これを額面通りに受け取ってよいかは議論があるだろうが、社員数約30万人の企業の経営者がそこまでやっているのに、社員数がたかだか10数名のベンチャー企業の経営者がそれをできなかったのは恥ずかしいことだと思う。

2017年12月02日

【厚生労働省】「セルフ・キャリアドック」導入ガイダンスセミナー(セミナーメモ書き)


カウンセリング

 厚生労働省が主催する「セルフ・キャリアドック導入ガイダンスセミナー」に参加してきた。以下、セミナー内容のメモ書き。

 《参考記事》
 【人材育成】能力開発はジグソーパズル、キャリア開発はレゴの組み立て
 『人材育成(DHBR2017年4月号)』―人事考課は不要かと聞かれれば「それでも必要だ」と私は答える、他
 『一橋ビジネスレビュー』2017年AUT.65巻2号『健康・医療戦略のパラダイムシフト』―抜本的改革ではなく「できるところから」着手するBCGの病院改革に共感した、他
 DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性
 『世界』2017年11月号『北朝鮮危機/誰のための働き方改革?』―「働き方改革」を「働かせ方改革」にしないための素案

 1.基調講演「セルフ・キャリアドック導入について」(慶応義塾大学名誉教授 花田光世氏)
 ・2016年4月1日に「改正職業能力開発促進法」が施行された。同法は、労働者が職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発および向上に努めることを基本理念としている。事業者は、「労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報の提供、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1項)が義務化された。ここで言う「キャリアコンサルティング」とは、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うこと」(第2条第5項)と定義されている。

 ・企業は上記の法改正に伴い、キャリアコンサルティングの内容を「セルフ・キャリアドック」という施策を通じて具体化しなければならない。セルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、またそのための企業内の仕組みのことである。

 ここで1つ注意しなければならないのは、法律ではキャリアコンサルティングを「相談に応じ、助言及び指導を行うこと」と定義しており、文字通りに読めば従来の面談型の支援が想定されるところだが、セルフ・キャリアドックではキャリアコンサルティング面談に加えて「キャリア研修」を組み合わせることが要請されているという点である。この「キャリア研修」は、法律の「相談に応じ、助言及び指導を行うこと」という文言に広く包摂されると解釈するのが適切である。キャリア研修では、従業員の仕事・人生に対する姿勢・意欲・マインド・価値観の棚卸しを行う(自己理解)とともに、現在および近い将来に、従業員が担当している、または今後担当する可能性のある仕事において、顧客や組織、上司、同僚や部下などから期待・要請されている役割を理解する(仕事理解)ことを通じて、従業員の中長期的なキャリアビジョンのデザインを支援する。

 ・最近の人事のトレンドをまとめると以下のようになる。
 ①アメリカのASTD(American Society for Training and Development)が、ATD(Association for Talent Development)へと改称した。これは、TrainingよりもDevelopmentを重視する姿勢を表している。つまり、企業が必要とするスキルの訓練から、個々人が持つ多様な力の発揮へと視点がシフトしている。

 ②GE、Google、GAPといった企業で、従来型目標管理のウェイトを抑え、自律型の個人の評価を重視する傾向が見られる。従来型の目標管理制度では、伝統的な職務分析を通じてグレーディング、レーティングを細かく設定していた。しかし、グレーディングなどを適用しやすいのは補助業務や定型業務であり、近年増加している非定型業務、判断企画業務には適用が困難である。これらの業務は同一職務同一賃金にも馴染みにくく、企業は従業員の持ち味を生かしたキャリアコンピテンシー、エンプロイヤビリティ、人間力の開発を支援するのが望ましい。これを従来のOJT(On the Job Training)に対して、OJD(On the Job Development)と呼ぶ。

 GEでは、グレーディング、レーティングを簡素化するとともに、評価を年1回の決められた期間における面談中心から、上司と部下がより頻繁に会話の機会を設ける方向へとシフトしている。日本GE株式会社人事部長である木下達夫氏は、「本人が自分自身に対してオーナーシップを持ち、上司と密に話し合いをしながら、今よりもよい自分になっていけるような仕組みにするために『目盛り』という考え方をやめようとしている」と語っている。

 個人的には、「GEが人事評価を止めた」という事実だけが独り歩きしている現状を憂慮している。面談や評価の調整が煩雑な上に、結局は公平な評価ができない人事考課制度ならいっそ廃止しようという流れに傾きつつあるのが怖い。GEの変革の本質は、部下の評価を半年~1年に1回だけの決められた時期に行うのではなく、日常業務の中で頻繁に行うことにある。したがって、これまでよりも人事評価の負荷は増える。さらに、半年~1年に1回の人事考課も残すべきだと考える。というのも、上司は部下に対して半年~1年の間に色々とフィードバックをしてきたが、結局のところ部下のよいところは何か、改善すべきところは何か、次はどんな目標を目指すべきか、日常業務を一旦離れ、じっくりと腰を据えて検討することは有効だからである。

 ③国は、2024年度末までに、キャリアコンサルタントを10万人養成する計画を示している。ちなみに、2025年は65歳完全定年制が義務化される年である。花田氏は、これは70歳までの雇用延長の始まりになると推測している。現在52歳の人は、2025年には60歳となるが、65歳完全定年制の義務化により65歳まで働くことになる。そして、彼らが65歳となる2030年には、おそらく70歳まで雇用が延長される。さらに、彼らが70歳になる2035年には、定年制が完全に廃止されるか、75歳+αまで雇用延長されると花田氏は予測している。そのため、シニアが自らのキャリアを主体的に開発することが重要である。同時に、若手・中堅の従業員も、非常に長いキャリアをデザインすることが要求される。企業には管理職が不足しており、今後は大卒非管理職がマジョリティとなる。彼らのモチベーションをいかにして上げるかも問題となる。

 私自身は、冒頭の参考記事でも書いたように、日本的な年功制の給与制度と昇進制度を今でも支持している。そして、将来の日本の人口動態を見ると、20代の若者を底辺とし、60代を頂点とする従来型のピラミッドと、40~50代のミドルを底辺とし70~80代のシニアを頂点とする新しいピラミッドが登場すると考えている。従来型の組織で昇進の見込みがなくなった社員は、新しく登場するミドル・シニア人材中心のピラミッドへと移行していく。企業は、40~50代で新しく起業する人材を支援する基金を共同で設立するとよい。また、新しいピラミッドに転職するミドル・シニア人材の当面の生活費をカバーする新しい保険制度を企業が合同で整備するのも一手である。

 ④企業に課された新たな義務のうち、「その他の援助」としては、企業が従来行ってきた各種施策を応用することが想定されている。具体的には、キャリア健診やモラルサーベイ、組織開発や職場ぐるみ訓練、OJT、360度評価やフィードバックなどである。一方、キャリアコンサルタントには、前述のキャリア研修の実施に加えて、キャリアコンサルティング面談などを通じて得られた情報を総合的に分析し、守秘義務に配慮しつつも、従業員の職業設計、能力開発にとって障害となる組織的課題を全体報告として経営陣に報告する役割が期待されている。言い換えれば、企業は従来組織的な視点から行ってきた施策を個の視点で、キャリアコンサルタントは従来個の視点から行ってきた活動を組織の視点で再編成する必要があるということである。

 私は、キャリアコンサルタントには組織的な課題を解決する以上の役割が求められるようになると考えている。冒頭の参考記事で書いた通り、今企業は内部環境アプローチによる戦略立案を必要としている。具体的には、社員の能力や価値観を十二分に活用した場合にどのような戦略があり得るのかを検討するというアプローチである。社員の能力は人事部が一応把握しているが、ややもすると効率的な処理を優先するあまり、抽象的なレベルでの把握にとどまっていることが多い。そこで、キャリアコンサルタントが社員の生の声に接することで得られるリアリティの高い情報、企業の枠組みに収まりきらない情報を丹念に拾い上げ、それらを編み込むことで新たな戦略機会を模索する。キャリアコンサルタントは戦略コンサルタントにもなるだろう。

 2.モデル企業事例発表「セルフ・キャリアドック導入の効果について」
 <サントリーホールディングス株式会社>
 (ヒューマンリソース本部キャリア開発部長兼キャリアサポート室長 斎藤誠二氏
 ヒューマンリソース本部キャリア開発部キャリアサポート室課長 光延千佳氏)
 ・創業者の「やってみなはれ」の精神を人材育成ビジョンにも反映させ、「世界で最も人材が育つ会社に」という人材育成ビジョンをイントラネットに掲載している。従業員1人1人が自らのキャリアオーナーとなるべきことを説き、1人1人の意欲こそが企業の成長エンジンであり、そのために成長の節目で企業側からの働きかけを行うことを宣言している。この人材育成ビジョンの実現に向けて、「サントリー大学」という教育研修体系を整備している。階層別研修とキャリアワークショップの2本立てである。前者は企業の環境・戦略の変化に伴って内容も変化するだろうが、後者については、やり方は変わったとしても、本質的な部分は変わらないはずである。

 ・2006年にキャリアワークショップ「プロフェッショナル」(38~49歳が対象)を試験的に開始した。その後2007年にキャリアサポート室が立ち上がり、「チャレンジ」(入社11年目)が追加された。2013年には65歳までの定年延長に伴い、「キャリアドック53」、「キャリアドック58」を新設した。この過程で、「ミドル(45~50歳G1(課長)層)」への支援が手薄であったことから、今回のセルフ・キャリアドックではこの層を対象とすることにした。ワークショップの目的は、①ミドルマネジャー自身がキャリアビジョンを描くステップを理解すること、②自部署のメンバーが多様なキャリアビジョンを描くことを支援できるよう、メンバーのキャリア開発やメンバー育成力を学ぶことの2つである。サントリーでは、年5~6回の面談が行われており、少なくとも年1回はキャリア面談を実施することとなっているが、課長層は部下のキャリア面談をどのように行えばよいのか解らないという悩みを抱えていた。そこで、目的②が追加された。

 キャリアワークショップの実施後、参加者からはメンバーとのコミュニケーションが円滑になったという声が聞かれた。部下の価値観は何なのか、中長期的にどのようなビジネスパーソンになりたいのか、という視点でメンバーと会話ができるようになった。キャリアワークショップの実施から2~3か月後に参加者のフォローアップ面談を行っているが、様々な部署でメンバーに対する自発的なキャリア開発の支援が行われていることが判明した。

 ・国内1.2万人の従業員を対象に、毎年1回モラルサーベイを実施し、時系列で結果を比較したり、全社・事業部別・子会社別に分析したりして、従業員の元気と組織の生産性の関係をウォッチしている。ただ、サーベイの結果だけを見ているわけではなく、日々の肌感覚も重視している。両者が乖離していると感じる場合には、キャリア開発部が現場に介入し、実態の解明に乗り出すことがある。また、元気がないと感じている現場は自発的にMBTIやコーチングを実施したいと申し出てくるため、キャリア開発部が実施のサポートをしている。

 ・上司の「やってみなはれ」は、部下の「見てくんなはれ」とセットである。しかし、最近は部下の「見てくんなはれ」を許容せず、全部自分でやってしまう上司が多い。そうすると、人が育つ会社にはならない。「見てくんなはれ」をもっと許容しなければならない。企業の方向性と個人のキャリアのうち、後者を少し優先させる企業がよい企業である。

 <株式会社平井料理システム>
 (代表取締役 平井利彦氏
 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任講師 宮地夕紀子氏)
 ・平井料理システムは、香川県に本社を置き、四国・中国地方に23店舗を展開する飲食店である。香川県の人口は98万人しかいないため、売上高を伸ばすためには、同じ顧客に何度も来店してもらう必要がある。ただ、同じお店では飽きられてしまうから、多業態の飲食店を展開している。売上高は約17億円である。同社は「いいオトナに、なろう。」を会社のスローガンとしている。同社の従業員のほとんどが中途採用であると同時に、協力雇用主制度に協力して犯罪歴のある人を受け入れたり、障害者を採用したりしている。一言で言えば「ヤンチャ者の集まり」である。だから、「いいオトナに、なろう。」を目標にしている。

 ・現在、マネジメント人材である店長の育成が急務となっている。女性店長が不在であり、特に女性従業員のマネジメント能力開発、キャリア形成支援、離職防止が課題である。これらの課題に取り組むために、セルフ・キャリアドックを実施した。対象は女性正社員7名(2名が現場、5名が事務)、女性パート・アルバイト10名(8名が現場、2名が事務)の計17名である。キャリアコンサルティング面談は、宮地氏にお願いした。

 ・キャリアコンサルティング面談においては、最初から「キャリア」、「成長」という言葉を使うのではなく、「今どんな仕事をしているのか?」、「いつもどんなことを考えているのか?」といった話から入っていった。すると、「子育てが終わったら長い時間働きたい、夜のシフトにも入りたい」などの意見がポツリポツリと出てくるので、そこからキャリアの話に展開させていった。相談内容には次のような傾向が見られ、それに対し宮地氏は以下のような解決策を提案した。
 -営業時間中はお客様対応が第一優先であり、教育的なやり取りは困難になっている。
 ⇒別途、営業時間外に店長・スタッフ間で振り返り・フィードバックを実施する。
 -加齢による体力の低下への不安。
 ⇒30~40代のスタッフが多いため、積極的かつ日常的な体力づくり、および健康維持・向上に向けての教育意識啓発を行う。
 -パート・アルバイトという立場ゆえ、正社員でない自分が意見を言うのははばかられる。
 ⇒多様な雇用形態の従業員を巻き込んだ各店舗/店舗横断型のプロジェクトを展開する。

 ・キャリアコンサルティング面談実施後のアンケートを見ると、多忙な業務の中でも継続的に学習し続けることの重要さに気づいた、毎日の仕事の中で自分の成長につながるチャンスの獲得に向けて頑張りたいという気持ちを持つようになった、などの声が聞かれた。また、今までは1人で悩んでそのまま退職してしまうケースが多かったが(愛媛、徳島、岡山などでは1人しかいない店舗もある)、セルフ・キャリアドック後には、「周囲に言えば解ってもらえる」という意識が従業員に芽生えた。例えば、何か困りごとがあると事務所に電話がかかってきたり、同僚の女性に連絡が入ったりする。また、女性会議も開催されている。

 ・セルフ・キャリアドックの副次効果なのかもしれないが、育児休暇を取得する男性従業員が増えた。今までに5~6人が取得している。3日~2週間程度の休暇を申請するケースが大半である。会社全体として見ても、有給休暇を取得する従業員の数が増えている。前述の通り、様々な事情を抱えた従業員が働いているため、会社の仕組みに従業員を合わせるのではなく、従業員に会社が合わせることが重要である。そのためには、従業員から声を上げてもらう必要があり、会社はそのための環境を整備しなければならない。




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